・「ジオエンジニアリング」が第3次世界大戦を引き起こすかもしれない(ナゾロジー 2019年6月14日)

Point
■地球温暖化を止める方法として、地球規模で気候を操作する「ジオエンジニアリング」が研究されている
■ジオエンジニアリングには「エアロゾル」という特殊なチリを上空に巻くことで、太陽光をブロックする方法がある
■しかしエアロゾルによるチリが大気の流れで意図しない地域に流れると、国家間の紛争に繋がる潜在的な危険性がある

※地球温暖化は今も刻一刻と、その被害を増している。

すでに昨年の地球平均気温はこれまでで4番目の高さ、そして海水温度は史上最高を記録している。もはや個人が意識を変えるだけでは足りない域だ。

そこで研究者たちが考えているのが、「ジオエンジニアリング(地球工学)」という解決策である。これは端的に言えば、地球の気候を人為的に操って変化させる手法のことだ。

ところが専門家たちの間ではジオエンジニアリングが国家間の紛争を、ひいては第三次世界大戦を引き起こす可能性があるとして懸念されている。

温暖化防止策が戦争を引き起こすとは、一体どういうなのだろうか。

気候をハックする「ジオエンジニアリング」とは?

ジオエンジニアリングは人工降雨のような局所的手段ではなく、地球全体に影響を与える方法である。その手法の1つとして現在研究が進められているのが「太陽光のブロッキング」だ。

これは地表に達する太陽光を遮って、反対に熱を宇宙に逃しやすくする方法である。具体的には、「エアロゾル」と呼ばれる特殊なチリを高度20〜30kmの成層圏に散布する。

こうして上空に人工的な雲を作ることで太陽光を遮り、地表を冷やすことが可能になる。

すでに人類は地球規模で気候を操作するというSF的技術が実現するところまできているのだ。

国家間の紛争を起こす危険性も

ところがこのジオエンジニアリングを世界各国が他国に無断で行うと国際的な紛争に発展しかねないという。

カナダ・ウォータールー大学のジュアン・モレノ・クルツ氏は「太陽光ブロッキングという手法は、意図せずして他の地域に地政学的な被害をもたらす」と指摘する。

地政学とは、地理・気候的な環境がその国の政治や経済、軍事的な側面に与える影響について研究する学問のことだ。

例えば、エアロゾルを南半球に散布すると、それが海上の温度や風速に影響を与えて北半球により多くのハリケーンを生じさせる可能性がある。

さらに世界気象機関(WMO)の科学者アンドレア・フロスマン氏は「大気には壁がないので、エアロゾルによる雲が気流に乗って目標としない地域に移動することもありえる」と話す。

その結果望んでもいないのに太陽光が遮られ、植物が育たなくなり、食糧生産が困難になる地域が出てもおかしくはないのだ。そのことで食料をかけた国内紛争からその原因を作った国との戦争が勃発する。

さらにこうした現象が地球規模で起こったとすれば、行き着く先は3度目の悲劇でしかない。

ジオエンジニアリングが本当に地球温暖化に対する一番の解決法かは、まだ議論の余地がある。「国家間の戦争を引き起こすというのはあまりに大げさだ」とする向きもあるが、いずれにせよジオエンジニアリングには国際的な取り決めや厳密なルールが施行が必要だ。

地球温暖化が世界戦争の引き金まで引いてしまうことがないよう、努めなければならない。


・嘘だろ? 人工雲で太陽光を遮って温暖化を止める方法をビル・ゲイツが推進中(ナゾロジー 2019年8月16日)

Point
■ビル・ゲイツがバックアップについて、上空に人工雲を作り太陽光を遮る計画が進行中
■人工雲により太陽光を遮断するとともに反射もすることで、地球温暖化を防ぐという主張
■一方で人工雲が大気の流れにより、意図しない地域や国に気候的な混乱や被害を与える危険性もある

※ビル・ゲイツが今度は地球温暖化対策に乗り出しました。

世界中で切迫した問題である地球温暖化を止める手段として、ハーバード大学の科学者たちはジオ・エンジニアリングという方法を推し進めています。

具体的には、成層圏(地上11km〜50km)に数百万トンの人工ダストを散布して雲を作り、太陽光を遮断するというものです。

この計画の推進者でもありバックアップを務めるのが、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏。なかなかSFチックな作戦で勇気が入りますが、やはり天才にはこの大胆さが必要なのでしょうか。

実施直前で実験を中断

計画は実現可能な段階まで進んでおり、先月には最初の実験が行われる予定でした。
およそ300万ドルをかけた実験は、「スコペックス(SCoPEx:Stratospheric Controlled Perturbation Experiment=成層圏摂動制御実験)」と呼ばれています。

これは、特殊なバルーンを用いて2kgの炭酸カルシウム塵を高度19km地点まで運び、上空に散布するというもの。実験場所はニューメキシコにある砂漠上空が想定されていました。



散布により上空に長さ1.6km、直径90mのチューブ型人工雲が作り出されます。これが太陽光を反射する雲として機能し、太陽熱を宇宙空間に送り返すことで温暖化予防に繋がると言います。

その後24時間の間、バルーンに搭載されたセンサーを通して、太陽光の反射レベルや塵による周囲の大気への影響などを監視します。しかしここまで進んでいながら、スコペックスは干ばつやハリケーンなど、意図しない気候的混乱をまねく危険性があると判断され中止となってしまったそうです。

ジオ・エンジニアリングがはらむ危険とは?

ジオ・エンジニアリング技術は、1991年にフィリピンで起こったピナツボ火山の噴火に影響されて誕生しました。

噴火の際にピナツボ火山から2000万トンの二酸化硫黄が放出され、上空に化学雲を形成したのです。この雲は当時、1年以上にわたって上空を覆い、太陽光を鏡のように反射しました。

その結果、1年半にかけて平均気温が0.5度下がっています。

ところがジオ・エンジニアリングはリスクも大きく、人工雲が気候を調節している海流の循環に混乱を与えてしまう恐れがあります。

危険はそれだけに止まりません。

もし人工雲が大気流の影響で別の場所に流れていき、その地域に意図しない被害を与えてしまう可能性もあります。上空に国境はないため、他国が作った人工雲が原因で国内に影響が出てしまったら、国際紛争に発展する危険も考えられます。

果たしてゲイツ氏は、そういった政治的な側面も考慮しているのでしょうか。