・新型コロナの死亡率が低い日本人 すでに免疫持っているとの仮説(NEWSポストセブン 2020年4月10日)

※世界中で130万人以上が感染し、8万人以上の死者が出ている新型コロナウイルス(4月8日現在)。世界の研究者が驚くのが、日本の死亡率の低さだ。
 
3月末時点で人口10万人あたりの日本の死者数は0.04人。一方でイタリアは同17.79人、スペインは同15.64人と大きな差がある。医療ジャーナリストの鳥集徹(とりだまり・とおる)さんが説明する。

「原因については諸外国も関心を持っていますが、現状では日本はウイルス感染の有無を調べるPCR検査数が絞られているため、感染数や死亡数が過小評価されているとの指摘がある。あまり他人と直接的に接触しない、大声でしゃべらないといった行動様式や、マスクや手洗いなどの習慣が日本における感染拡大を防いでいる可能性も考えられます」
 
また、日本におけるBCG接種率の高さが重症化を抑えている可能性を指摘する声もある。さらに注目されるのが、「日本人は新型コロナの免疫を持っている」という新たな仮説だ。
 
新型コロナにはS型と感染力の強いL型があり、京都大学大学院医学研究科・医学部特定教授の上久保靖彦さんらは論文で「S型がL型よりも早く中国から伝播し、部分的な抵抗力を与えた」と発表した。

「昨年末まで日本はインフルエンザが史上最高ペースで流行していましたが、今年になってから急速に流行がストップしました。その理由を、論文では昨年末から日本にS型が流入して、インフルエンザ感染を阻害している可能性を示唆しました。
 
昨年11月から今年の1月まで中国人観光客は184万人入国していたため、S型がすでに日本の一部で“蔓延”していたということです。そのため、L型にも部分的な集団免疫を付与しているという内容でした」(医療ジャーナリスト)
 
諸外国が驚く「日本の奇跡」を維持するには、自らのリスクを正しく知り、対策を進めることが肝要だ。


・新型コロナ、日本人の低死亡率に新仮説…すでに“集団免疫”が確立されている!? 識者「入国制限の遅れが結果的に奏功か」(ZAKZAK 2020年5月11日)

※日本の新型コロナウイルス対策は「PCR検査が少ない」「自粛措置が甘い」などの批判もあり、厚労省は8日、感染の有無を調べるPCR検査や治療に向けた相談・受診の目安を見直し、公表した。

ただ、欧米諸国に比べて、日本の死者数や死亡率がケタ違いに少ないのは厳然たる事実である。

この謎について、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授と、吉備国際大学(岡山県)の高橋淳教授らの研究グループが「日本ではすでに新型コロナウイルスに対する集団免疫が確立されている」という仮説を発表して注目されている。

感染力や毒性の異なる3つの型のウイルス(S型とK型、G型)の拡散時期が重症化に影響したといい、日本は入国制限が遅れたことが結果的に奏功したというのだ。

「2週間後はニューヨークのようになる」など悲観的な予測もあった東京都、そして日本の新型コロナ感染だが、別表のように現時点ではニューヨークにもロンドンにもなっていない。中国や韓国、表にはないが台湾など東アジアが総じて欧米よりも死者数や死亡率が抑えられている。

理由を解き明かすには、新型コロナウイルスの型を押さえておく必要がある。中国の研究チームが古い「S型」と感染力の強い「L型」に分けたことは知られている。

研究プラットホームサイト「Cambridge Open Engage」で発表した京大の研究チームは、新型コロナウイルスに感染した場合、インフルエンザに感染しないという「ウイルス干渉」に着目。インフルエンザの流行カーブの分析で、通常では感知されない「S型」と「K型」の新型コロナウイルス感染の検出に成功した。「S型やK型は感知されないまま世界に拡大した。S型は昨年10~12月の時点で広がり、K型が日本に侵入したピークは今年1月13日の週」だという。やや遅れて中国・武漢発の「G型」と、上海で変異して欧米に広がったG型が拡散した。

集団感染が最初に深刻化した武漢市が封鎖されたのは1月23日。その後の各国の対応が命運を分けた。イタリアは2月1日、中国との直行便を停止。米国は同2日、14日以内に中国に滞在した外国人の入国を認めない措置を実施した。

これに対し、日本が発行済み査証(ビザ)の効力を停止し、全面的な入国制限を強化したのは3月9日だった。旧正月「春節」を含む昨年11月~今年2月末の間に184万人以上の中国人が来日したとの推計もある。

ここで集団免疫獲得に大きな役割を果たしたのがK型だった。上久保氏はこう解説する。

「日本では3月9日までの期間にK型が広がり、集団免疫を獲得することができた。一方、早い段階で入国制限を実施した欧米ではK型の流行を防いでしまった」

欧米では、中国との往来が多いイタリアなどで入国制限前にS型が広まっていたところに、感染力や毒性が強いG型が入ってきたという。

上久保氏は「S型へのTリンパ球の細胞性免疫にはウイルス感染を予防する能力がないが、K型への細胞性免疫には感染予防能力がある」とし、「S型やK型に対する抗体にはウイルスを中和し消失させる作用がなく、逆に細胞への侵入を助長する働き(ADE=抗体依存性増強)がある」と語る。

専門的な解説だが、結論として「S型に対する抗体によるADE」と、「K型へのTリンパ球細胞性免疫による感染予防が起こらなかったこと」の組み合わせで欧米では重症化が進んだという。

日本で4月に入って感染者数が急増したことについても説明がつくと上久保氏は語る。「3月20~22日の3連休などで油断した時期に欧米からG型が侵入し、4月上旬までの第2波を生んだと考えられる」

現状の日本の感染者数は減少傾向だが、課題も残る。「病院内で隔離されている患者には集団免疫が成立していないため、院内感染の懸念がある。また、高齢者や妊婦などは、K型に感染しても感染予防免疫ができにくい場合がある」

さらに「無症候性の多い新型コロナウイルス感染症では、間違ったカットオフ値(陰性と陽性を分ける境)で開発された免疫抗体キットでは正しい結果が出ない」と警鐘を鳴らす。

上久保氏は「日本の入国制限の遅れを問題視する声もあったが、結果的には早期に制限をかけず、ワクチンと同様の働きをする弱いウイルスを入れておく期間も必要だったといえる」と総括した。


・日本でコロナ死亡者が少ない理由「1月中旬に集団免疫獲得」説 (NEWSポストセブン 2020年5月21日)

※日本政府の新型コロナウイルス対策については、批判的な声も多いが、一方で死亡者が少ないのは事実である。5月19日現在で、日本で新型コロナによって死亡した人数は763人になる。

人口100万人あたりの死者数に換算すると、スペイン587人、イタリア523人、米国268人、ドイツ96人に対して、日本はわずか6人であり、先進国のなかで圧倒的に少ない。

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」からこれまで、日本の政府の新型コロナ対策は後手に回り、悲観的に捉えられてきた。しかし、犠牲者を最小限に抑えるという最大の目的は果たしている。ただ、その理由は、実際のところよくわかっていない。
 
日本はウイルス感染の有無を調べるPCR検査数が世界のなかでも圧倒的に少なく、集中治療室(ICU)も充実していない。世界各国が不思議がるなか、「日本人はすでに集団免疫を獲得している」という新説が登場した。
 
その説は、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授らが唱えたものだ。カギとなるのは新型コロナのうち、「K型」と「G型」という2つの型だ。全国紙科学部記者はこう語る。

「簡単にいうと、日本ではまったく無自覚のうちに、1月中旬に中国発の弱毒性『K型』が流行のピークに達したということです。中国からの厳密な入国制限が3月中旬までもたついたことが幸いし、中国人観光客184万人を入国させ、国内に『K型』の感染が拡大して集団免疫を獲得したとされます。
 
一方、欧米は2月初頭から中国との直行便や中国に滞在した外国人の入国をストップしたので、国内に弱毒性の『K型』が蔓延しなかった。その後、上海で変異した感染力や毒性の強い『G型』が中国との行き来が多いイタリアなどを介して、欧米で広がったとされます。
 
日本はすでに『K型』の蔓延によって集団免疫を獲得しており、『G型』の感染が拡大しなかった。だから日本の死者数が少ないという説です」
 
これに対し、国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんは、「仮説としては非常に優れている。今後の実証実験に期待したい」と話す。


・「日本のコロナは11月以降に消滅、第3波も来ない」説の根拠(NEWSポストセブン 2020年9月28日)

※どこもかしこも人、人、人──新型コロナウイルスが蔓延して以降、全国各地で久々の賑わいとなったシルバーウイーク4連休。新規感染者数も落ち着き、安心感さえ漂っている。しかし、「第3波」が来るといわれる秋、冬はもう目前。感染再々拡大は本当に来るのか、それとも……。

日本人はすでに新型コロナウイルスを克服した──。京都大学大学院特定教授の上久保靖彦さんが、吉備国際大学教授の高橋淳さんと3月に発表した、新型コロナウイルスに関する論文が、話題となっている。その内容を要約するとこうなる。

「すでに多くの日本人は免疫を獲得しているので、新型コロナウイルスを恐れる必要はない」

「日本人は新型コロナを克服した説」の最大のポイントは「集団免疫の獲得」である。ウイルスに感染すると、体内の免疫システムが働いて「抗体」ができ、その後、同じウイルスに感染しにくくなったり、重症化を防いだりする。そうした抗体を持つ人が人口の50〜70%を占めるとウイルスが人から人へ移動できなくなり、やがて流行が終息する。それが集団免疫だ。

日本は各国と比べて新型コロナの感染者、重症者、死者が極めて少ない。「日本の奇跡」──世界からそう呼ばれる背景に集団免疫があると指摘するのが、感染症・免疫の専門家でもある前出の上久保さんだ。

「新型コロナは最初に中国で弱毒のS型が発生し、その後に弱毒のK型、強毒のG型の順に変異しました。中国人観光客の入国によって昨年12月にS型が日本に上陸し、今年1月中旬にはK型がやって来た。しかも日本は3月8日まで中国からの渡航を制限しなかったため約184万人の中国人観光客が来日し、S型とK型が日本中に広がりました。それにより、日本人は知らない間に集団免疫を獲得したのです」

弱毒のS型とK型にセットで罹ることにより、その後に流入した強毒のG型の免疫になった──という理屈である。一方、2月初頭から中国人の渡航を厳しく制限した欧米では、K型が充分に広まらなかった。

「そのため、中国・上海で変異した強毒性のG型が欧米に流入した際に防御できず、同地で重症者が激増しました。対する日本は集団免疫ができていたため、G型が流入しても被害が少なかった。私たちの試算では現在、日本人の85%以上が免疫を持っています」(上久保さん・以下同)

「上久保理論」を後押しするのが、免疫を獲得したことを示す「IgG抗体」を保有する人たちだ。

「私たちの共同研究チームが10~80代のボランティア約370人の抗体検査をしたところ、全員がIgG抗体を持っていました。ちなみにIgG抗体を持つ人でも、喉にたまたまウイルスがいればPCR検査で陽性になりますが、免疫があるため症状はほとんど出ません。最近目立つようになった無症状の感染者は、そうしたケースであると考えられます」

この秋以降、新型コロナとインフルエンザの「ダブル流行」を心配する声もある。上久保さんが説明する。

「インフルエンザに感染したら、コロナウイルスには感染しません。逆もまたしかりで、この逆相関関係を『ウイルス干渉』と呼びます。実際、昨年末に新型コロナが流入してから、インフルエンザの流行はストップしました。

しかも、人間の細胞にくっついて影響を与えるウイルスの突起(スパイク)の変異可能な数は最大12~14回で、頻度は月1回ほど。新型コロナのS型が発生したのは昨年12月なので、早ければ11月にも最後の変異を終えて、普通のコロナウイルスに戻るとみられます。それはコロナウイルスの原則的なメカニズムと考えられることなのです。新型インフルエンザが流行しない場合は、新型コロナが11月以降に消滅して、第3波が到来することはないでしょう」

新型コロナは打ち止め間近だというのだ。

「ブースター効果」で免疫を強化する
 
集団免疫のほかにも「コロナ克服」を示唆するさまざまな研究が出ている。アメリカと中国、香港の研究機関が9月に公表した共同研究では、世界各国における新型コロナ第1波と第2波の致死率を比較した。すると53か国のうち43か国で致死率が低下していた。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが説明する。

「致死率低下の理由として、第1波で免疫力が低い人が亡くなったので第2波で亡くなる人が少なくなったという『弱者刈り取り効果』や、医療体制の整備、ウイルスの変異、若い世代の感染者増などがあげられています。論文は新型コロナの状況が明らかに変化したことを示唆しています」

注目は「ウイルスが変異した」という点だ。

「現在、流行しているのは、感染力が強い新タイプのウイルスです。一般的にウイルスは“覇権争い”をすることがあり、あるウイルスが流行すると、ほかのウイルスが圧倒される。現状、新しいタイプの新型コロナウイルスが広まったことで、致死率の高さが見られた旧タイプのウイルスが減り、致死率が全体的に下がった可能性が指摘されています」(室井さん)

国立国際医療研究センターの調査でも、6月5日以前は19.4%だった重症者の死亡割合が6月6日以降は10.1%に低下。特に50~69才は10.9%から1.4%に、70才以上は31.2%から20.8%と激減した。

「重症化しそうな患者に対する医療現場の対応力が向上したことも、致死率低下の一因でしょう」(血液内科医の中村幸嗣さん)

日本では、1人の感染者がうつす平均人数を示す「実効再生産数」も低い。この数値が1以下になると感染が終息に向かっていくとされ、現在の実行再生産数は、東京以外は1を下回っている(9月22日時点)。米カリフォルニア大学アーバイン校准教授で公衆衛生学を専門とするアンドリュー・ノイマーさんが言う。

「過信は禁物だが、日本の主要都市で実効再生産数が1を下回ったということは、日本は最高レベルの警戒が必要な状態ではなく、第2波のピークが過ぎたと言っていい」

アメリカのラ・ホーヤ免疫研究所が注目したのは「ヘルパーT細胞」だ。同研究所が世界的なライフサイエンス雑誌『セル』で発表した論文では、新型コロナ未感染者の血液の半数から、新型コロナを撃退する「ヘルパーT細胞」が検出された。簡単にいうと、既存のコロナウイルス、つまり普通の風邪に感染したことがある人も、新型コロナに対する免疫を獲得している可能性があるということだ。

「ほかにもBCG接種による自然免疫の増強や、実際に感染したことによる免疫の獲得などが絡み合うことで、新型コロナに感染する可能性が低下し、感染しても重症化しない割合が高まっています」(中村さん)

最近は時短営業の終了やイベント制限緩和が進み、人の動きが活発化することを懸念する声もあるが、上久保さんは「ウイルスとの共存が必要」と指摘する。

「何度も新型コロナに感染すると、免疫機能が強化される『ブースター効果』を得られます。抗体は時間とともに減少するので、一度感染しても隔離状態でいると免疫が薄れ、逆効果になります。高齢者や持病を持つなどリスクの高い人との接触には注意しつつ、普通の経済活動を再開することが、社会にとっても個人にとっても有益です」

新型コロナウイルスを正しく理解すれば、恐ろしくないのだ。


・米外交誌が「日本のコロナ対策は奇妙に成功」と大困惑する理由(PRESIDENT Online 2020年6月3日)

新型コロナへの対応における政府への批判と裏腹なのが、感染による死者の圧倒的な少なさだ。大量の死者に嘆く欧米のメディアが首をかしげている。

日本人が感染症に「強い」のか?

新型コロナ対策に対する日本政府の悪手は国内に留まらず、海外にまでその悪名を轟かせているようです。米国の外交誌フォーリン・ポリシー(電子版)は5月14日付の記事で、「日本の新型コロナへの感染拡大防止策はことごとく間違っているように思える」と指摘しています。

しかし、この記事はそのあと、こう続けます。「それなのに、死者数が欧米に比べて圧倒的に少ない“奇妙な成功(“weirdly right”)を収めた”」――。

同記事のタイトルは“Japan’s Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway”。日本の中途半端な新型コロナ対策が、なぜか機能している…というわけです。

実は、歴史的なパンデミックの一つ、1918年に発生したスペインかぜでも同様で、実に約45万人が亡くなっていますが、死亡率は他国に比べて各段に低かったとされています。

その後は「大惨事の一歩手前から成功物語へ」という5月22日付英ガーディアン紙を始め、米ウォールストリート・ジャーナルやワシントンポストなど欧米主要メディアが、原因不明ながら成功を賞賛する記事がくつも流され、WHOも「日本は成功している」と称賛。その中で政権が支持率を下げている不可解さも併せて報じられています。そんな日本の「奇妙な成功」について、フォーリン・ポリシー誌の論旨に絞ってここで考察していきます。

米国から見た日本におけるコロナ対策の問題点

同誌では、日本の対応の問題点として次の2つをあげています。

・人口比わずか0.185%しか実施されていないテスト
・強制力がない中途半端な外出自粛

日本で実施されたPCR検査は、全国で23万3千件(5月14日時点)となっています。この数字は米国全体で行われた件数のわずか2.2%にすぎません。そもそも、なぜ日本では検査数が少ないのでしょうか?

まず第1に「検査できるインフラが整っていなかったから」というのが理由に挙げられます。検査するスキルが要求され、対応可能な医療機関が限られているために検査を増やすことが物理的に難しい事情があります。

そして第2に感染拡大リスクの問題です。テストを行うには検査者の鼻の穴から綿棒を入れ、鼻や喉の奥の粘膜を摂取します。その結果、くしゃみを誘発して検査者にウイルスが感染してしまう恐れがあるのです。

さらに第3に偽陰性の問題があげられます。検査をしても精度は100%ではなく、感染していていないのに、「感染している」と診断されたり、その逆もあるのです。結果、検査を増やすことで非感染者が医療機関に押し寄せ、貴重な医療リソースを消費してしまう懸念があります。特に医療崩壊の回避は初動の対応が重要ですから、この点については特に慎重さが求められたわけです。

一時はテスト数を抑えることで、感染者数を少なく見せ「日本はオリンピック開催を確実なものにしたい意図がある」などと海外からの批判もありました。しかし、結果的にはテスト数を抑えたことが医療崩壊を阻止し、感染者への十分な医療ケアができたことで死者数を相当抑制出来たといえるのではないでしょうか。

日本が強い都市封鎖を敢行できないワケ

すでにご存知の通り、新型コロナは濃厚接触を通じて感染拡大をしていきます。
そのため、人と人とが物理的な距離を取る「ソーシャルディスタンス」が推奨され、アメリカでは「6フィート」が標語になったものです。ニューヨークでは、公園を歩くニューヨーカーに対して、空中を飛ぶドローンを通じて「ソーシャルディスタンスを保つように」と呼びかけられる事態が話題を呼びました。

米国では不要不急の外出をするものには、罰金を課すなど極めて厳しい対応をしています。その一方で、日本の外出自粛は強制力のない「お願い」ベースでしかありませんでした。また、自粛を呼びかけるレスポンスも極めて遅く、海外の報道から「対応が遅すぎる」と批判を浴びることになってしまいました。未曾有の歴史的パンデミックの佳境であることを考えると、日本の対応はあまりにも牧歌的で、ゆるい自粛の程度に海外は驚きを通り越して呆れているようです。

同誌によると、「日本では国家緊急事態の宣言があっても、政府は人々に家にとどまるよう強制したり、企業に閉鎖を命じたりすることはできない。これは、第二次世界大戦後にアメリカが起草した憲法の遺産である」と、日本の都市封鎖の緩さの理由を解説しています。

日本独自の「自粛警察」が湧いて出る理由

また、同誌では外出自粛に際しての日本人の行動についても興味深く取り上げています。

日本では政府が強制力を持って、日本国民の自粛をさせられない代わりに、国民一人ひとりの健康意識と自粛要請への受容力が高かったことが勝利した側面も大きいと思います。

しかし、同時に負の側面として「自粛警察」の発生を誘いました。他県ナンバーの車を傷つけたり、営業を自粛しない店舗へ脅迫の電話を入れる等々歪んだ正義感をほうぼうで発揮、逮捕者が出たりしているのです。

諸外国から見ると、「強制されなくても素直に政府の要請に従う」日本人の生真面目さと受け取っているでしょう。しかし、我々日本人同士だと、それが「(みんな我慢しているという)空気を読みなさい」という同調圧力に後押しされているという側面もあると感じます。

海外の記者にはなかなか理解しづらいところでしょうが、日本人特有の「ムラ社会意識」の中で、「きちんと振る舞え」という同調圧力がはたらき、同調しない者には「けしからん」と問答無用のペナルティを与える自粛警察を生み出しているようです。

日本の死者数が少ないのは数字のマジック?

日本政府の対応のお粗末さを嘆く一方、「死者数が少ない」という不思議な現実はどう解釈するべきなのでしょうか?

5月28日の時点で、日本では新型コロナに直接起因する死者数は867人、これは100万人あたり6.78人に相当します。米国では合計10万442人がなくなっており、100万人あたり303.45人という数値です。「パンデミックへの対応の成功例」と見なされているドイツでさえ、8411人。100万人あたり100.39人が亡くなっているのです。

被害の大きい米国、欧州と比較すると日本の被害は抑えられていることがデータで明らかになっています。しかし、手放しに喜びの声を上げるのは早いかもしれません。この数字をアジア太平洋地域で比較すると、日本の数値は決して「断トツ優秀」とは言えないからです。

インドネシア 5.39人
韓国 5.25人
オーストラリア 4.04人
シンガポール 3.93人
マレーシア 3.55人
インド 3.28人
中国 3.22人
台湾 0.29人

このようにアジア圏内での比較となると、「日本の1人勝ち」という構図とは違った事実が見えてきます。このウイルスの戦果の分析をする上では、米国・欧州に限定せず、アジア太平洋地域まで含めて冷静に俯瞰する必要があるのではないでしょうか。


※ブログ主コメント:実は人口当たりの死者数が少ないのは日本だけでなく、東~東南アジア全域に共通することであった。これはどういうことであろうか?


・世界が注目する「死者ゼロの国ベトナム」(JB press 2020年6月2日)

※政府は7月以降、日本の「鎖国」解除、正確には入国制限緩和を「ベトナム・タイ・オーストラリア・ニュージーランド」から始める方針を発表しました。

少なくとも新型コロナウイルス関連対策に関連して「日本の奇跡」などという通念は、学術的にいってグローバルには存在しません。
 
世界で「奇跡」的に優秀なコロナウイルス対策国家として認められているのは、「ベトナム」「タイ」「オーストラリア」「ニュージーランド」の4か国なのです。
   
論より証拠でデータをお目にかけましょう。まず東アジア各国の5月末時点での新型コロナウイルス感染症による死亡者数から。
 
ちなみに日本の、しばしば上方修正される数値は5月末時点で874人、1桁大きく同じグラフに表示すると他のデータがつぶれてしまうので除いています。お話にならない不良成績であるということです。



「そんなの、人口や感染者数で全然違うでしょ?」というご意見があると思いますので、人口と新型コロナ感染者数、上記の各国と、日本の当局が発表している数字とを並べて示しておきます。



驚愕すべきはベトナムです。1億人近い人口があり、感染者数も300人以上・・・。
 
思い出してください。日本にコロナが蔓延する初期の契機となった「ダイアモンド・プリンセス号」の寄港地は横浜を出航した後、鹿児島、香港、ベトナム、台湾、沖縄・・・というルートでした。
 
同じクルーズ船の寄港地で、台湾は440人ほど、ベトナムも330人ほど。死者数も台湾は7人、ベトナムに至っては5月末まで死者0人です。
 
これに対して、日本は3桁の感染者も出している。もし「奇跡」という言葉を使うのなら、「ベトナムの奇跡」こそ驚くべきものでしょう。
 
ちなみに、グラフは東アジアで作りましたが、オーストラリアは人口2500万人で7195人の罹患、103人の死者、ニュージーランドは480万の人口で1504人の罹患、死者はたった22人です。
 
人口比で日本と比べるため、豪州は5倍、ニュージーランドを25倍してみましょう。日本の死者数約900と比較してどうですか?
 
日本の奇跡、などということは、真剣な分析には全く登場しません。

等身大で知る「日本のコロナ成績」
 
では、実際のところ日本のコロナ対策はどの程度奏功しているのでしょうか?
 
5月末時点の客観データで確認しておきましょう。端的に、人口100万人あたりの死亡者数で、各国データと比較してみます。



英国が572人、米国が318人、欧州の中で「集団免疫」政策で<死亡者数が突出して多い>などと言われるスウェーデンが442人、ドイツやオーストリアは100人、75人といった数字になります。
 
ここでオーストリアを挙げたのは、約1万6600人の罹患、668人の死者というコロナ被害の規模が、5月末時点での日本の発表している数字、約1万6700人の感染、874人の死者という規模とほぼ同一であることからです。
 
オーストリアと日本とは、感染者数と死亡者数がほぼ同一である。
 
しかし違うのは人口です。日本は1.2億人以上人口がありますがオーストリアは900万人弱しか人間がいません。
 
社会に与える被害の規模からいえば1桁違うわけで、欧州など一部のデータを選んで比較してみせれば「日本の奇跡」を演出することができるかもしれません。

しかし「全国模試」で確認すれば、本当の実力は隠すことができません。



東アジアで検討すれば、日本の人口と犠牲者数の割合は、大まかにいって韓国、フィリピンと同程度、シンガポールと比較すれば2倍近く、また全く強調されていませんが、中国よりはるかに高い値になっています。
 
それはまあ当然で、あちらはべらぼうな人口がありますから日本は分が悪くなる。でもタイや台湾と比較しても1桁成績は悪く、ベトナムに至っては0人ですから、比の値を取ることができません。
 
注目されるイスラム圏
 
では、どのような要素が注目されているのでしょうか?
 
世界各国の指導的大学が集まって構成されるグローバルAI倫理コンソーシアムのコロナ対策で注目される一つは「イスラム圏」です。
 
なぜか突出して感染者の多いシーア派のイラン、紛争中のイラク、また飲酒も可能でソフトムスリムなどと呼ばれることのあるトルコを例外に、多くのスンニ派イスラム諸国は軒並み感染率が低いことが確認されている。
 
そうしたスンニ派諸国、つまりサウジアラビアやオマーン、カタールなどと同じレベルに日本が現在公開している数字があります。



日本のそれは、イスラム諸国と同様、「relative success」そこそこよくやっているだけで、奇跡とかそんなものはどこにもなく、別段特記するような数字はありません。
 
むしろ、先進国で各種医療も整っているはずの日本と、様々な意味で近代化が遅れている面もあるイスラム原理主義に近い体制の諸国が同じ程度であることが注目されています。
 
周知のようにイスラムは1日5回「礼拝」します。
礼拝にあたっては身を清めることが義務づけられます。手洗い、歯磨きなどのほか、近年日本では普及著しい「ウォシュレット」用便後の洗浄を1400年前から励行していた。

「ハラールフード」も、まじない的な意味などは皆無で、端的にいえば生態学的、衛生学的な観点から必要とされる手順を戒律で定めています。
 
ユダヤ教やムスリムが豚食を禁じるのはなぜでしょうか。 
今日では一つには肝臓ジストマなど人間に感染する寄生虫の存在、また砂漠地帯では生態系の中で人間と食性が重なるため、共同体の存続にリスクとなる可能性があったから殺して食べることを禁じたのではないかと考えられています。
 
イスラムの生活習慣の中にコロナ封じ込めにプラスの要素があるとしたら、それは何か。また例外として、こともあろうにシーア派のイランで大量のコロナ犠牲者が発生しているのはどうしたことか?
 
また、単位人口当たりの犠牲者数で見れば似たようなものであるスンニ派ムスリム諸国と日本ですが、実際の死者の数を見ると大きな隔たりがあります。



新型コロナウイルスで亡くなった人の実数で確認すると、比率で言えば同様に見えるスンニ・イスラムとは比較にならないほど、日本では多くの人がコロナで亡くなっている。

一体何がこうした差異を生み出したのか?
 
地道で真摯な検討が進められており、正体不明の「ファクターX」などは登場しません。


・いまだ死者ゼロ…ベトナムのコロナ対策に「国民の93%が満足」(smart FLASH 2020年4月27日)

※中国と長い国境を接するベトナムだが、実は、現在まで死者が1人も出ていない。いったいどのような対策をとったのだろうか。
 
ベトナムは過去にSARSが流行した苦い経験を持ち、今回のコロナウイルスに対して素早い対応を見せた。
 
まず、武漢で最初の死者が出た段階で国境閉鎖や空港の使用を制限。1月半ばには関係機関や病院へ対応を指示し、早期発見と治療、隔離のための準備を始めている。

フック首相は1月30日に流行宣言を発令。この段階で、国内の患者はわずか6名だった。
 
2月にはコロナ対策のための委員会が組織され、WHOと国内700の病院をネットワークしたビデオ会議で専門知識の普及を促した。

次いで、啓蒙のためのウェブサイトと携帯電話用のアプリが作成される。公式アプリ「ベトナムの健康」は、大手通信企業「ビッテル」が6日間で完成させたもので、正しい医療情報や自己隔離の方法などを提供し、近くの病院を検索することも可能だ。

ユーザーは自分の体調を送信することで、国民の体調が、リアルタイムでデータベース化されていった。まもなくアプリで、感染者や濃厚接触者の居場所や移動状況もわかるようになる。アプリには、ベトナム国民向けだけでなく、ベトナム入国者向けも開発されている。

SNSに虚偽情報を流した人間には、罰金を支払うルールも策定し、5~6万円程度の罰金刑を課した。

こうした徹底した隔離政策の下、2月末には16名の国内患者全員が回復する。新たな患者が現れた3月には、流行第2波を宣言。3月末にパンデミックを宣言した。

4月からは国境を封鎖、海外からの飛行機は拒否し、“鎖国” 状態となる。モスクなどの宗教施設もロックダウン、集会を禁止し、社会的距離が義務化された。路線バスやタクシーは運休、鉄道の本数は制限された。4月16日から23日までは1人も新規患者が出ていない。

コロナに関する情報を国民に周知させたのが、軍隊や役人が一丸となった広報活動だった。「コロナの流行と闘うのは敵と闘うようなものだ」というスローガンの下、「ウイルスは共通の敵」というメッセージを強くアピール。世界的な手洗いダンス旋風を巻き起こしたのもベトナムだったが、もともとは政府が作成した啓蒙ビデオである。

マスクなどの生産に入るのも早く、いまではサージカルマスクや布マスクを1日に1200万枚以上作れるという。新たな流行に対応できるだけの生産体制を整え、大量の医療用品をカンボジアやラオスに寄付している。このように、早くから、医療用具の生産、空港・国境・学校の閉鎖、大胆なロックダウンを進めたことが功を奏した。一党独裁政権だからできたとの批判もあるが、とにかく政府の動きが早くて確実だったのだ。


・コロナ、体内に抗体がなくてもT細胞がウイルス撃退…アジア人の低死亡率、原因解明進む(BUSINESS JOURNAL 2020年6月25日)

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員

※厚生労働省は6月16日、新型コロナウイルスに関する初の大規模な抗体検査の結果を発表したが、東京での抗体保有率は0.1%、大阪は0.17%、宮城は0.03%だった。5月31日時点の累積感染者数を基にした感染率が、東京は0.038%、大阪0.02%、宮城0.004%であることから、実際の感染者数は報告されている人数の2.6~8.5倍に達することになり、PCR検査の陽性者数の数倍にあたる人々が感染に気づかないまま回復したことになる。
 
注目すべきは欧米に比べて抗体保有率が非常に低かったことである。大規模流行が起きた海外では、スウェーデンのストックホルム市は7.3%、英ロンドン市は17.5%、米ニューヨーク市は19.9%だった。抗体保有率が低いことは、多くの人が免疫を獲得し感染が終息に向かうという「集団免疫」の段階に達するまでの時間が長いとされることから、日本での「第2波」は諸外国に比べて大きくなるのではないかと懸念されている。

新型コロナウイルスを退治できる「T細胞」
 
一方、日本などアジア地域での新型コロナウイルスによる死亡率が、欧米地域などと比べて2桁少ないことが明らかになっているが、その謎の解明に資する研究結果が出ている。
 
米国カリフォルニア州のラホヤ免疫学研究所が新型コロナウイルス流行前(2015年から2018年)に採取した健康な人の血液を調べたところ、半数の人の血液から新型コロナウイルスを退治できる「T細胞」が検出された(6月19日付日経バイオテク記事より)。
 
人間の免疫機構はさまざまな免疫細胞が連携して働いている。大括りにすれば、自然免疫(生まれながらに身体に備わった免疫機能)と獲得免疫(病原体に感染することによって後天的に得られる免疫機能)に分かれるが、新型コロナウイルスに対処できるのは獲得免疫のほうである。獲得免疫も2種類に分かれ、「抗体という武器をつくる」B細胞と「ウイルスなどの異物を撃退する」T細胞がある。
 
治療薬やワクチンの開発などで注目されているのはB細胞のほうであるが、今回の研究結果はこれまで光が当たっていなかったT細胞に関するものである。新型コロナウイルスが出現する前から、SARSやMERSのほかに4種類のコロナウイルス(風邪の一種)が見つかっているが、半数の人たちのT細胞は、過去のコロナウイルスに感染した経験を生かして新型コロナウイルスに対応できることがわかったのである。

T細胞は特定の抗原(ウイルスのタンパク質)とのみ結合するが、抗原の化学構造に類似する物質とも誤って結合することがある(交叉反応性)。半数の人のT細胞は、新型コロナウイルスが体内に侵入すると、過去に感染した風邪のコロナウイルスの免疫記憶が呼び起こされ、新型コロナウイルスを即座に認識し、攻撃するというわけである。
 
スイス・チューリッヒの大学病院でも、新型コロナウイルスから回復した人のうち約2割(165人のうち34人)しか抗体がつくられておらず、残り8割は既存の免疫機構で新型コロナウイルスを退治したことが明らかになっている。コロナウイルスの仲間を広く認識できるT細胞は「交叉反応性メモリーT細胞」と呼ばれているが、老化やなんらかの疾病によって免疫不全の状態になっている人ではその活性が低下しており、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいようである。
 
米国とスイスの調査のサンプル数は少ないことから確定的なことはいえないものの、これらが示唆しているのは、抗体が新たにつくられなくても、既存の免疫機構で新型コロナウイルスを退治できるということである。「抗体保有率が低い」といたずらに心配する必要はないのである。
 
また、日本などアジア地域では「交叉反応性メモリーT細胞を有する人の割合が多いことから死亡率が低い」という仮説が成り立つ。このことは世界各地の人々のT細胞の免疫反応を調べることによって検証可能であり、新型コロナウイルスに対する耐性を判断する際の有力な材料となるだろう。

重症化しやすい人
 
さらに、どのような人が重症化しやすいかもわかってきている。T細胞には、司令塔の役割を果たすヘルパーT細胞とウイルスを直接攻撃するキラーT細胞がある。ヘルパーT細胞が攻撃命令を出すとキラーT細胞は猛然とウイルスに襲いかかるが、しばしば暴走することがある。そうなると本来守るべき自らの細胞をも傷つけてしまい、とても危険なことが起きる(サイトカインストーム)。
 
英オックスフォード大学は16日、「ステロイド系のデキサメタゾンが人工呼吸器が必要な患者の死亡率を35%引き下げた」と発表したが、この薬は関節炎などの炎症を抑える(体内の免疫機能を低下させる)効果を有するものである。
 
新型コロナウイルス感染者の重症化をもたらす大きな要因の一つであるサイトカインストームの起きやすさには、遺伝的な違いがある。HLA(ヒト白血球抗原)遺伝子のことであるが、慶應義塾大学や東京医科歯科大学などの研究チームは5月から、新型コロナウイルスの重症化について遺伝子レベルの解析作業を開始し、第2波の到来が予想される9月までに結論を出したいとしている。

HLAは免疫の主役である白血球の型であるが、赤血球の型と異なり、数万以上の種類が存在するといわれている。個人差の大きいHLA遺伝子がわかれば、発症後すぐにその患者が重症化しやすいかどうか判断できるようになる。高齢者の多い日本では不可欠な診断方法である。
 
このように、第2波を恐れることなく経済活動を回復させるために、PCR検査を闇雲に増やすのではなく、最近の知見に基づく「スマートな対策」を確立することに重点化すべきではないだろうか。


・アジアで感染少ない理由 たんぱく質タイプの差が一因か(朝日新聞 2020年10月1日)



(上)遺伝子のタイプと感染者数などの関係のイメージ
 
※新型コロナウイルスによる感染者数や死亡者数がアジアの国々で欧州と比べて少ないのは、血圧の調整などにかかわるたんぱく質の遺伝子タイプが関係しているかもしれない。国立国際医療研究センター研究所などのチームがそんな研究をまとめ、遺伝子医学の専門誌で発表した。

新型コロナによる人口あたりの感染者や死亡者は、台湾や韓国、中国や日本などで比較的少なく、ベルギーやスペイン、英国などで多いことが報告されている。マスクなどの衛生習慣や医療環境などの違いのほか、それぞれの地域に住む人たちの遺伝的な特徴も関係しているのではないかといわれている。

チームは気道や心臓、腎臓などにある「ACE」と呼ばれるたんぱく質の遺伝子タイプとの関係に注目した。二つあるACEのうち、「ACE2」というたんぱく質は新型コロナが細胞に感染するのにかかわっているとされるからだ。

すると、ACE2とのかかわりは特にみられなかったが、構造が似ていて血圧調整などに関係している「ACE1」というたんぱく質の遺伝子タイプと関連が見つかった。

これまで計25カ国・地域について報告された論文などをもとに約1万5千人のデータで分析したところ、ACE1の遺伝子が「I/I(アイアイ)」というタイプの人の割合が欧州では少なく、アジアでは多い。割合が多くなるほど感染者数や死亡者数が少なくなる傾向が、統計学的に認められたという。


・コロナ重症化、ネアンデルタール人由来の遺伝子が関連か OIST教授らが解明
(沖縄タイムス 2020年10月5日)
 
※沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスバンテ・ペーボ教授=写真(同大提供)=らの研究グループは、新型コロナウイルスの重症化に、旧人ネアンデルタール人由来の遺伝子が関連している可能性があることを解明した。9月30日に英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。

国際プロジェクト「COVID-19ホストジェネティクスイニシアチブ」はこれまでの研究で、新型コロナウイルスの感染者3千人以上を対象に調査し、重症化に影響を与える遺伝子を特定していた。ペーボ教授らはこの遺伝子が約6万年前に交配によってネアンデルタール人から現代人の祖先に受け継がれたものだと解明した。

この遺伝子を持つ人が新型コロナウイルスに感染すると、人工呼吸器を必要とするまで重症化する可能性が、最大で約3倍に増えると説明する。日本にはネアンデルタール人の遺伝子を持つ人はほとんどいないという。

ペーボ教授は「ネアンデルタール人の遺伝的遺産が、このような結果をもたらしていることは衝撃的だ」とコメントした。共同研究者のヒューゴ・ゼバーグ教授は「年齢や疾患の有無なども重症化に影響するが、遺伝的要因の中ではこの遺伝子が最も影響が大きい」と話している。


・BCG有無でコロナ死亡率「1800倍差」の衝撃、日本や台湾で死者少ない「非常に強い相関」(AERAdot. 2020年5月23日)

※結核の予防接種「BCG」の接種の有無で、新型コロナの死亡率に大きな差が見られた。中でも、日本から広がった「日本株」という株を接種している国の死亡率が極めて低い。ウイルスと免疫の最前線に、AERA 2020年5月18日号で迫った。

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「現段階ではあくまで相関関係が見られるとしか言えませんが、だとしても非常に強い相関があるということになります」

大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授の宮坂昌之さんがそう指摘するのは、米ニューヨーク工科大学の研究者らが3月末、「BCGワクチンが新型コロナに対する防御を与えているのかもしれない」と結論づけた論文についてだ。

各国の新型コロナの感染者数や死者数の人口比と、BCGワクチンの接種状況を調べたところ、感染率や死亡率は、接種していないイタリアやベルギー、米国などで接種している国々よりも統計学的に有意に高かったとしている。

新型コロナの感染や致死率とBCGワクチン接種の関連を継続的にフォローしている宮坂さんは言う。

「人口100万人あたりの死者数でみれば、よりクリアに相関が浮かびます」

人口100万人あたりの死者数は、集団接種を行ったことがない米国が227人、イタリアが490人。過去に広く接種していたものの現在はしていないフランスは396人、スペインは553人。一方、BCGを広く接種している中国は3.2人、韓国が5.0人、日本は4.4人。台湾に至っては0.3人にとどまる(いずれも5月7日現在)。台湾とスペインでは1800倍超の差がある計算だ。



BCGワクチンの接種の有無によって死亡率にケタ違いの差が出ており、宮坂さんによると、この傾向は検査数が増えるにつれ、より明らかになってきたという。偶然の一致では片付けられない──。そう思わせるデータだ。

BCGは、結核菌を弱毒化させた生ワクチンだ。細い9本の針痕が腕に残る「はんこ注射」といえば、思い出す人も多いだろう。日本では、1943年にワクチンの結核予防効果が確認されて以降、接種が始まり、48年に結核予防接種が法制化された。現在は全ての乳幼児が接種対象だ。

ただ、集団接種を行っている国の中でも、100万人あたりの感染者数や死者数には開きがある。その背景として宮坂さんが着目するのは、BCGワクチンの「株」の種類だ。

1921年に仏パスツール研究所で開発されたBCGは、結核の予防効果が確認された後、生きた菌が各国に「株分け」された経緯がある。

「最も初期に分けられたのが日本株とソ連株です。デンマーク株はそれから10年ぐらいたってから、パスツール研究所からデンマークに供与されました」(宮坂さん)

BCG日本株とソ連株は「元株」に近い



日本株は台湾やイラクなど、ソ連株は中国など、デンマーク株は欧州各国などにそれぞれ分配されたという。株による死亡率の違いはなぜ生じるのか。カギとなっている可能性があるのが、ワクチンに含まれる「生菌数」と、「突然変異」だ。

生菌とは生きたままワクチンに含まれている菌のことで、日本株とソ連株は生菌数が他の株より多いという。突然変異について宮坂さんはこう説明する。

「人間が年をとるとがんになりやすくなるのは、細胞が分裂するにつれて遺伝子に突然変異が必ず一定の割合で起きるからです。細菌も同様で、培養期間が増えれば増えるほど突然変異が起きやすくなります」

日本株やソ連株とほかの株で結核に対する予防効果は変わらないものの、遺伝子変異によってそれぞれの株に含まれる細胞膜の成分に差異が生じているという。

「もしBCGが新型コロナに効いているのだとしたら、こうした性状の違いが寄与していることが推察されます」

※AERA 2020年5月18日号より抜粋


・新型コロナとBCGの相関関係について免疫学の宮坂先生にお伺いしました(YAHOO!ニュース 2020年4月5日)

木村正人 在英国際ジャーナリスト

※NYタイムズ紙も報道

[ロンドン発]新型コロナウイルス・パンデミックでにわかに注目を集める結核予防のため接種されるBCGワクチンのオフターゲット効果について米紙ニューヨーク・タイムズも「古いワクチンは新型コロナウイルスを止めることができるのか」という記事を掲載しました。

NYタイムズ紙は「100年前に欧州で結核の悲劇と戦うために開発されたワクチンの臨床研究が、特に医療従事者を保護する迅速な方法を見つけようとしている科学者によって進められている」と報じています。

世界で年1040万人が結核になり、140万人が死亡。しかしアメリカや欧州では結核はほとんど見られなくなり、BCGワクチンは「途上国の予防接種」とみなされるようになっています。

しかしBCGワクチンは、さまざまな原因による乳幼児の死亡を防ぎ、感染症の発生率を有意に減らすことで知られています。

現在、広範囲にBCGワクチンを接種していないイタリア、スペイン、アメリカ、フランス、イギリスの死者はすでに中国を上回りました。患者と濃厚接触するため感染して重症化するリスクが高い医師や看護師にBCGワクチンを接種させてはどうかというのがオーストラリアやオランダで一部行われている臨床研究の狙いです。

死者が少ない国はBCGを接種

免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授がBCGワクチンの接種と新型コロナウイルスによる重症化の相関関係について検討を加えたスライドと資料を送って下さいました。宮坂先生の解説に耳を傾けてみましょう。

宮坂氏「まずスライド1をご覧ください。表の左側から新型コロナウイルス感染者が多い主要国で人口100万人当たりの感染者数、死亡率(=死亡者/感染者数)、人口100万人当たりの死亡率、BCGワクチンの接種方法、各国で使用されているBCG株の種類を比べてみました」



「100万人当たりの死亡者数が10以下の国が7カ国(赤字)あり、そのうちの6カ国が広範なBCG接種を現在行っていました(表中、赤字のyes/presentとは広範な接種が現在行われている。yes/pastとは広範な接種が過去に行われていた。noはほとんど行われていないという意味)」

「その6カ国のうち、3カ国がBCGワクチンの日本株、2カ国が旧ソ連株を使っていました」

広範なBCG接種をしない欧米

「一方、これまで広範なBCG接種をやっていなかったアメリカ、イタリアは人口100万人当たりの死亡率は高い傾向があります(アメリカは人口100万人当たりの死亡率がイタリアよりかなり低いのですが、今後もっと急激に増えるでしょう)」

「欧州諸国は、ポルトガル以外は広範なBCG接種はかなり前に止めていて、これらの国では軒並み死亡率が高い傾向があります。ただし、ノルウェーは死亡率が低めですが、この国は他の北欧諸国よりも長く広範接種を続けていたようです」

「ポルトガルは、他の欧州諸国と同じデンマーク株を使っていますが、現在も広範なBCG接種を続け、隣のスペイン(同じデンマーク株を以前は使っていたが、現在は広範なBCG接種は中止)と比べると、人口100万人当たりの死亡率はかなり低くなっています」

「以上の結果は、これまでオーストラリア南東部ブリスベン在住のコンサルタント、JUN SATO氏がブログJSatoNotesで示された解析結果を確かに裏付けるものです」

著しく生菌数が高い日本株と旧ソ連株

「スライド2は効果があると思われる日本株、旧ソ連株の由来を示していますが、両者は共通で、これもJUN SATO氏のホームページに述べられている通りでした」



「スライド3は、(筆者注・BCGワクチン研究者)戸井田一郎氏が示したBCG亜株の細胞膜構成成分比較です。これを見ると、日本株と旧ソ連株は同様であり、デンマーク株では種々の構成成分が欠けていました」



(注・コペンハーゲン株はデンマーク株、東京株は日本株とおそらく同一。)

「スライド4は、それぞれのBCG株中に含まれる生菌数と感作能力(結核に対して免疫を誘導する力)の比較データです。BCGワクチン研究者の橋本達一郎氏の論文に示されているものです。日本株と旧ソ連株は他の株に比べて著しく生菌数が高いのですが、結核菌に対する免疫応答誘導能力は他の株と大きくは変わりませんでした」



「生菌数が多いということは、これらの株中の菌が免疫刺激物質を含んでいれば、生菌数が多いほど免疫刺激能力が高くなる可能性を示します」

「スライド5は、ワクチン接種は自然免疫を刺激するとともに獲得免疫を刺激することを示していますが、BCGは自然免疫の強力な刺激物質です」



「また、獲得免疫は自然免疫が強化されると動きやすくなり、そこに特異抗原が存在すると、特異的な獲得免疫が始動しやすくなるということを考えると、BCGが自然免疫だけでなく、ウイルス抗原存在下では獲得免疫も動かした可能性があります」

相関関係の落とし穴

「スライド6では、各国のチョコレートの消費量とノーベル賞受賞者の数は一見比例することを上の図に示しています。一方、下の図は私が作ったものですが、チョコレートの消費量はその国のGDP(豊かさ)と比例することを示しています」



「上の図と合わせると、チョコレート消費量の多い国は豊かであり、おそらく教育環境も良い、もしかすると、その結果、ノーベル賞受賞者が多いのかもしれない、ということを示しています。つまり、見かけの相関には落とし穴があることがあるということです」

「スライド7は、全く相関がなさそうな二つのことが同様の変化を示すという偶然の知見を示しています。スライド6のメッセージと同じですが、このようなことを考慮すると、BCGの効果についても慎重な検討が必要だと思います」



「BCGの広範な投与を続けている国では新型コロナウイルスの人口100万人当たりの死亡率は低く、これらの国で用いられている日本株、旧ソ連株は結核に対する免疫誘導能力は同等であるものの、含まれている生菌数が非常に多いことがわかりました」

「これが単なる相関か、それとも因果関係があることなのかは、今後の検討が必要です。一つの可能性は、このことの妥当性を臨床試験で調べることですが、それには非常に長い時間がかかると思われます」

「それは新型コロナウイルスの罹患頻度は多くても1000人に2人程度であるために、1000人ずつBCG投与群、プラセボ(偽薬)投与群を作っても、エンドポイントである新型コロナウイルスの罹患率を統計的に比較するのは極めて困難であるからです」

感染を恐れる一般人が接種を受けられる状況ではない

「BCGは乳幼児用にのみ作られているもので、一度に増産がききません。従って上記のBCGによる新型コロナウイルス死亡率抑制効果が真実を反映するものであっても、日本が現在持つ有限の量のBCGのことを考えると、新型コロナウイルス予防に転用するのは無理だろうと思われます」

「今後はBCGの代わりに他のアジュバント(免疫増強物質、特に既に一般のワクチンで使われているようなアラム、MF59、AS-03など)、あるいは新規のものが同様の効果を持つか検討が必要だろうと思われます」

「是非、念頭に置いていただきたいのは、各国ではBCGが乳幼児のための貴重な生物学的資源であり、急に大量生産ができるものではないことです」

「つまり、感染を恐れる一般人が続出した場合に、どんどん接種を受けられるような状況ではないのです。当面、極めて興味ある知見ではあるものの、その臨床的検証には多くの時間が必要です」

「一方で、新型コロナウイルス感染症の動物での実験感染モデルが出来てくれば、本件は検証可能です。それまでは、興味ある相関ではあるものの、科学的には未だ十分なエビデンスがありません」

日本ワクチン学会の見解

4月3日、日本ワクチン学会は「新型コロナウイルス感染症に対するBCG ワクチンの効果に関する見解」を示しています。

(1)「新型コロナウイルスによる感染症に対してBCGワクチンが有効ではないか」という仮説は、いまだその真偽が科学的に確認されたものではなく、現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない。

(2)BCGワクチン接種の効能・効果は「結核予防」であり、新型コロナウイルス感染症の発症および重症化の予防を目的とはしていない。また、主たる対象は乳幼児であり、高齢者への接種に関わる知見は十分とは言えない。

(3)本来の適応と対象に合致しない接種が増大する結果、定期接種としての乳児へのBCGワクチンの安定供給が影響を受ける事態は避けなければならない。

(おわり)


木村正人

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。