・技術進歩の先にある超監視社会 スーパーシティ構想は何をもたらすか(長周新聞 2019年2月21日)
※都市インフラや一般家庭の家電、各個人の健康状態データもみなインターネットにつなぎ、あらゆる行動の監視に直結する「まちづくり構想」が動き出している。今月14日の国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)では、人工知能(AI)やビッグデータを総動員し、2030年頃の未来社会を先どりする「スーパーシティ」構想実現に向けた法整備を急ぐ方針を決定した。3月にも関連法を今国会へ提出する動きを見せている。
安倍政府が具体化する「スーパーシティ」構想は昨年11月頃から片山さつき・内閣府特命担当大臣(地方創生)の下、竹中平蔵などを中心とする有識者懇談会が具体化を進めてきた。この有識者懇談会が明らかにした最終報告は「スーパーシティ」構想について「これまで日本国内において、スマートシティ(省エネを追求した環境都市)や近未来技術実証特区などの取組があった。しかし、エネルギー・交通などの個別分野での取組、個別の最先端技術の実証にとどまっていた」「“スーパーシティ”は、これらとは次元が異なり、“丸ごと未来都市を作る”ことを目指す」と明記した。さらに世界各国のとりくみが部分的実証にとどまっていることを指摘し「日本で世界に先駆けて“スーパーシティ”を実現し、世界にモデルを示す」と強調している。
今後、具体化する「スーパーシティ」の対象職種としては、
①移動(自動走行、交通量・駐車管理)
②物流(自動配送、ドローン配達)
③支払(キャッシュレス)
④行政(電子政府、ワンスオンリー化=一度行政に提出した資料は永久にデータ登録されるシステム)
⑤医療・介護(AI活用病院、遠隔診療)
⑥教育(AI活用、遠隔教育)
⑦エネルギー・水
⑧環境・ゴミ
⑨防災
⑩防犯・安全(ロボット監視)
など10項目をあげた。
そしてこのエリア選定について「住民の合意形成を促進・実現できる、ビジョンとリーダーシップを備えた首長の存在」「最新技術を実装できる企業の存在」が重要と明記した。自治体議会の合意、住民合意をへて、最終的に総理大臣が決定する順序である。今国会で提出しようとしている関連法は、このエリア内限定の規制緩和策をより早く決定・実行するための制度整備が狙いである。
有識者懇談会の最終報告は「地域限定で規制特例を設ける仕組みとしては国家戦略特区制度があるが、これには限界がある。これまでも各種の近未来技術の実証をおこなうため規制改革にとりくんできたが、規制所管省と個々に協議し、同意をとりつけなければ動かない仕組みであり、それまでに数カ月や数年を要することも少なくなかった。この限界のもとでは、丸ごと未来都市を作ろうとする“スーパーシティ”構想はできない。そこで、従来の国家戦略特区制度を基礎としつつ、より迅速・柔軟に域内独自で規制特例を設定できる法制度を新たに整備する必要がある」と主張した。
そしてこれまでの国家戦略特区の枠組み(内閣が決定する政省令で規制対象外の特例措置を規定)より踏み込み、市町村レベルの条例制定で特例措置をもうけることを可能にする方向をうち出した。この新制度になれば、企業誘致を目指す自治体間の誘致競争が激化するのは必至だ。それは企業により好条件を提示することが勝負となるため、必然的により進んだ規制緩和に駆り立てることに直結する。各都市が財政難や人口減少など困難に直面するなかで、それをさらなる規制緩和に利用し、外資などの大企業がより好条件で事業参入するための地ならしに着手している。
グーグルやアリババ AIによる都市の管理
安倍政府が先進地と見なしている都市は、グーグル系列会社があらゆるデータを管理する都市設計を進めているカナダ・トロント市や、アリババ(中国のネット通販大手)系列会社が行政と連携している中国・杭州市などである。有識者会議はドバイ(アラブ首長国連邦)、シンガポールなども視察している。
トロント市では約20年前から東部臨海地区の再開発計画を推し進めてきた。対象地域は面積が4・9㌶に及ぶオンタリオ湖に面したキーサイドという未開発地で、土地の多くは同市とオンタリオ州、カナダ政府が所有していた。公共財産であるため、開発作業は民間人を含む非営利組織であるウォーターフロント・トロント(2001年に創設)が具体化してきた。
ところが2017年秋にグーグル系列企業のサイドウォーク・ラボがウォーターフロント・トロントと提携協定を締結した。そしてグーグルは水の使用量や空気の質、住民の散歩回数や散歩経路など、あらゆるデータをサイドウォーク・ラボに集めさせ、そのデータを活用した「まちづくり」を促進した。それは建物の内外や通りに設置した無数のセンサーで絶えず動向を監視し、AIが動かす自動制御装置によって遠隔操作をおこなうというものだった。
例えば信号が常に人や自転車、車の動きを追跡し、信号のある道路を通過しようとすると、赤信号が青に変わり、暗い道を通ると電灯が点灯するという調子だ。歩行者や自動車の動きをみな把握して、すべての人がもっとも待ち時間の少ないタイミングでAIが青や赤を点滅させ、渋滞をなくす仕組みである。公共の無人シャトルバスを走らせる計画、ゴミの自動収集ロボの導入、行政が把握しているデータを活用して社会福祉事業に活用する、などさまざまな計画をおし進めた。
グーグルはこの実証実験のノウハウをもって世界の各都市に参入することを狙っており、トロントはその実験台だった。さらにグーグルはトロントの都市開発にあたって、「利益をもたらす計画をトロント市やカナダ政府が受け入れる場合しか協力しない」との条件も突きつけ、恒常的に利益を確保することも忘れなかった。
しかし人が通れば自動で電気がつき、横断歩道を渡るときすぐに信号が青に変わる…という状態は「すべて見られている」という裏返しでもあり、「個人情報の管理は一体どうなっているのか」との不安が住民や自治体関係者から噴出した。さらにグーグルが個人情報を第三者の企業に流そうとしていたことも発覚した。こうしたなかで開発計画は遅れ、開発の中枢を担っていた関係者が「プライバシー上の懸念」を理由にプロジェクトから手を引く事態にもなった。しかしすでにグーグルを中心にしたインフラ整備は進行しており、市民や地域の全情報は今もグーグル系列企業にすべて握られたままである。
ネット通販最大手のアリババグループが本社を構える中国・杭州市(人口950万人、面積は関東地方の半分程度)でも、AIによる都市管理が進んでいる。杭州市は4000台超の交通監視カメラを設置し、交通警察が交通違反を監視している。AIが監視カメラでナンバーを読みとり、違反があれば警察に自動通報(多い日で500件)し、警察が違反切符を自動車所有者に送りつける方式である。それは「高齢の母親を慌てて自家用車で病院に搬送する途中、一瞬、制限速度を上回ったため慌てて速度を落とした」というような場合でも、監視カメラが「スピード違反」ととらえていれば、問答無用で罰則対象になるシステムだ。「駐停車違反」「一旦停止違反」「信号のない横断歩道の走行」など、すぐに気がついて正せば事故にならないケースも、即座にみな厳罰対象になる制度だ。同時にそれは毎日の行動データや運転の傾向性まで蓄積される仕組みである。
もう一つは無人コンビニの展開である。アリババが開発した精算システムはテイクゴー(TakeGo)と呼ばれ、商品の識別は近距離無線タグでおこない、来店客の識別は監視カメラによる顔認識でおこなう。そのため、商品棚、イートインの椅子、テーブルなど店内はカメラだらけである。この無人コンビニで買い物をするときは、買い物客が入り口から入って商品を手に取り、精算専用の通路を通って外に出るだけだ。そうすれば自動的にアリペイ(アリババが開発したモバイル決済システム)から代金が引き落とされる仕組みだ。顔認証で個人を特定するため、これまでの無人スーパーと違い、入店時にスマートフォンをかざす作業すらないのが特徴だ。
アリババは中国の飲料メーカー最大手・ワハハと提携して、無人レジ技術を広く売り込み、数年内に2000店舗の無人スーパー開業を目指している。このシステムの導入で商品補充や管理スタッフは一人で一〇店舗担当できる。アリババは「営業コストが四分の一になる」と宣伝している。顧客データはみなアリババに蓄積されることになる。
全ての電子情報を一手に
安倍政府の目指しているまちづくりは、このトロント型と杭州型のシステムの導入だけにとどまらない。安倍政府と経団連が強力に推進している「Society5.0」のとりくみは、「移動」関連では自動運転導入をおし進め、「物流」関連ではドローン配達などを重視しているが、個人情報の監視・蓄積を重視しているのも特徴だ。「医療・介護」関連ではマイナンバー(個人番号)カードを使った健康情報の管理を目指しており、安倍政府が一五日に閣議決定した医療・介護関連法改定案には、マイナンバーカードを健康保険証として使用するための制度改定を盛り込んだ。さらに消費税引き上げと連動したキャッシュレス決済の普及(キャッシュレス決済比率40%の韓国が目標)、電子政府の推進(行政サービス100%デジタル化のエストニアが目標)、学校教育における児童の電子情報(学習履歴、成績情報、生徒指導の記録等。米国の学校がモデル)活用など、あらゆる電子情報を一元管理する動きをさまざまな分野で同時におし進めている。
この個人情報収集体制とあらゆるインフラや家電、通信機器をネットで結ぶ「スーパーシティ」が完成すれば、住民の情報はみなネット大手に筒抜けになる超監視社会が出現することになる。
インターネットや人工知能などの技術発展が生活の利便性向上で役立っているのは事実であり、そのような技術の発展や生活環境への活用を一概に全面否定することはできない。しかし都市をまるごとグーグルなどの外資に監視・支配されるような「まちづくり」を放置すれば、日本国内の都市の将来が、みな外資大手の手に握られ、それがいずれ国民監視ツールとして治安弾圧などでフル稼働する危険もはらんでいる。国会におけるまともな論議もないまま、このような安倍政府の「スーパーシティ」構想と関連法制定を野放しにしていいのか、厳密な検証が不可欠になっている。
・グーグルが計画中の未来都市「IDEA」は、徹底したデータ収集に基づいてつくられる(WIRED 2019年7月5日)
※グーグルの親会社であるアルファベット傘下のSidewalk Labsが、カナダのトロントで進めているスマートシティプロジェクトの名称が「IDEA」に決まった。公開された1,524ページに上るマスタープランには野心的かつ派手な未来の姿が描かれており、あらゆるデータを収集・解析するというアルファベットの基本哲学が根幹を支えている。一方、データの利用や管理を巡る地元の懸念は解消されておらず、計画の実現までに解決すべき課題は少なくない。
グーグルの親会社アルファベット傘下のSidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ)が、カナダのトロントで進める都市開発の詳細を明らかにした。都市の技術革新に取り組むサイドウォーク・ラボにとって、トロント南東部のウォーターフロント地区の開発は初めてのプロジェクトだ。
計画が明らかにされたのは2017年10月だが、それから1年半の間にメディアによる憶測や地元住民の反対運動など、さまざまなことが起きた。そしていよいよ、12エーカー(0.048平方キロメートル)におよぶ区画の開発計画のマスタープランが公表されたのだ。
1,524ページに上るマスタープランでは、「Quayside(キーサイド)」と呼ばれることになるエリアの野心的かつ派手な未来の姿が描かれている。サイドウォーク・ラボは13億ドル(約1,400億円)を投じる方針だ。環境に配慮し、建材は基本的にすべて木材とするほか、ごみなどの廃棄物は地下の気送管網を使って排出するという。
移動は公共交通か自転車や徒歩で、自家用車の利用は制限する。路上を行き来するのは、自律走行車(やはりアルファベット傘下のウェイモのクルマだろう)や配達ロボットになるかもしれない。屋外には頭上に傘のような覆いを取り付け、雨や強い日差しから住民を守る(トロントの夏の日差しは強烈だ)。住宅については、全体の2割は低所得者層に「手ごろな」価格帯で提供するほか、中所得者層向けの価格の家も同程度の数を用意するという。
そして将来的には、開発エリアを350エーカー(1.4平方キロメートル)に拡大し、他社の都市開発実験プロジェクトなども巻き込んで一大スマートシティをつくり上げる計画だ。このまったく新しい都市は、「Innovative Development and Economic Acceleration(革新的開発と経済促進)」の頭文字を取って、「IDEA」という名が付けられている。
あらゆるデータの収集という基本哲学
こうした過去に例を見ない提案は、未来の都市のイメージ画像を作成するにはいいかもしれない。ただ、その根幹を支えるのは、あらゆるデータの収集というアルファベットの基本哲学だ。キーサイドには街中にセンサーが設置され、住民の行動はすべて記録に残される。公園でどのベンチに座ったか、道を横切る際にどれだけの時間がかかったかまで追跡されることになるのだ。
今回の開発計画で最も問題になっているのが、このデータ収集である。サイドウォーク・ラボは、交通渋滞や大気汚染、騒音といったものをなくし、快適な都市空間を創造していくにはデータは必要不可欠であると主張する。また、テクノロジーに詳しい都市計画の専門家たちには、より包括的なアプローチは有効だという意見に賛成する人もいる。
一方で、民間企業がどのようにして、これだけのデータを管理していくのかという懸念の声が、国内外から上がっている。しかもこの場合、その企業は売上高の大半を広告事業から得ているのだ。
マスタープランでは、政府が監督するデータ管理組織を設置し、データ利用のガイドラインを公開することが提案されている。サイドウォーク・ラボの最高経営責任者(CEO)のダニエル・ドクトロフは、これを「世界で最も厳しい都市データの管理体制」と説明する。
また、公共の場でのデータ収集については事前に同意を得ることが難しいため、すべてのデータを匿名化して、個人を特定できないように分割する。第三者へのデータの販売は絶対に行わないほか、一定の手続きを踏めば、住民などが収集されたデータを確認できるシステムを整えるという。ドクトロフは「わたしたちの提案は、カナダおよびオンタリオ州の個人情報保護法の基準をはるかに上回っていると確信しています」と語った。
解消していない地元の懸念
それでも人々の懸念は解消していない。ウォーターフロント地区の開発を監視するNPOのWaterfront Torontoは、マスタープランはサイドウォーク・ラボが独自に策定したもので、カナダ政府やオンタリオ州政府は関与していないと強調する。
Waterfront Torontoは声明で、「今回の提案が関連法を順守しているか確認するために追加の情報提出が必要となる」としたほか、IDEAの計画については「時期尚早」との見解を示した。またサイドウォーク・ラボに対し、開発コストの拠出を確約するよう求める一方で、さまざまな規制の変更の必要性も指摘する。
Waterfront Torontoの声明は、サイドウォーク・ラボに厳しい現実を突き付けている。キーサイドを実現させるには、トロント市とアルファベットの間に、今回のマスタープランと同じくらい素晴らしい協力関係を築くことが不可欠だ。
まずは必要な土地を手ごろな価格で入手し、路面電車を含む公共インフラを準備する必要がある。また、事前契約で合意したマイルストーンが達成された場合は「成果に連動した支払い」が発生する。こうした細部が、この野心的なプロジェクトの成否を左右するのだ。
サイドウォーク・ラボは今後、政府側のプロジェクトパートナーとの協議や住民への説明会などを実施していく。計画を前に進めるには、来年末までに市議会およびWaterfront Torontoから承認を得る必要がある。1,524ページのマスタープランには興奮させられるが、それが実現するのはまだ先の話だ。
・「スーパーシティ」法案 個人情報一元化進む恐れ(しんぶん赤旗 2020年3月1日)
※安倍政権が今国会での成立を目指す「スーパーシティ」法案(国家戦略特区法改定案)。人工知能(AI)やビッグデータなど最先端の技術を活用し、未来の暮らしを先行実現する「まるごと未来都市」をつくるといいます。しかし、取材を進めると深刻な問題点が見えてきました。
域内の完全キャッシュレス化やマイナンバーカードへの決済機能のひもづけ、ネットを通じた遠隔医療、ドローンによる薬の配送、地域交通の自動走行化、習熟度に応じた遠隔教育の本格的導入…。内閣府の資料に示されたスーパーシティでの取り組み案です。
政府は、スーパーシティとは、複数の先端的サービスを域内で同時に実現し、「社会的課題の解決を図る生活実装実験」だと説明しています。
やりたい放題に
住民を巻き込んだ「実験」に問題はないのでしょうか。
「大いにあります」。アジア太平洋資料センターの共同代表・内田聖子さんは強調します。なかでも、複数の主体からデータを収集し、先端的サービスの実現を支える「データ連携基盤」の整備事業がスーパーシティ構想の「核」だと指摘します。
「国や自治体、警察、病院、企業が、いまは別々に持っている情報がありますよね。例えば、納税の状態や既往症、位置・移動情報や商品の購買歴といった個人情報です。これらの情報の垣根が壊され、一元化が進む恐れが強いと思います」
法案には、基盤整備事業の実施主体となった民間企業などが、国や自治体に、それらの機関が保有するデータの提供を求めることができるという規定も盛り込まれています。
「あらゆる行動が追跡できてしまう時代です。『安全に管理するから大丈夫』と政府は言いますが、それ以前の問題として、あらゆるデータが一元的に収集されること自体を問題とすべきです。市民の側もよく議論を深めておかないと企業や権力のやりたい放題になってしまいます」(内田さん)
日本共産党の清水忠史衆院議員も「大量の個人情報と顔認証、マイナンバーとの結びつきが強化されれば、住民に対する管理・監視にもつながり、プライバシーや人権の視点から非常に問題があります」と指摘。「官民から漏えいが相次いでいる個人情報も、保護の強化こそ求められます」と話します。
総理案件で緩和
内田さんが法案に盛り込まれた、もう一つの危険な仕組みとしてあげるのが、首相のトップダウンで包括的な規制緩和を進める仕組みです。
国の選定を受けた自治体が民間企業や内閣府と「区域会議」を設け、構想の実現に必要な規制緩和などの計画案を策定。提案を受け取った首相が、関係省庁に特例措置の検討を要請したり、首相が議長を務める特区諮問会議からも勧告を行ったりします。
「『総理案件』として各省にまとめてプレッシャーをかけるわけです。計画には住民の意向を踏まえるとしていますが、それをどう保障するのかはまったく示されていません」(内田さん)
昨年6月、内閣府が大阪市で開いたスーパーシティ関連フォーラムには200社を超える企業が参加。竹中平蔵・パソナグループ会長が基調講演に立ちました。同氏は2018年10月、座長を務める政府の有識者懇談会で、スーパーシティでは「国・自治体・企業で構成するミニ独立政府」を運営主体とすべきだとする「原則」を示しています。そこでは、主権者である住民は「参画」の機会が与えられるにすぎない存在におとしめられています。
本質から目そらす幻想
自治体政策に詳しい奈良女子大学の中山徹教授の話 スーパーシティは、国際競争の中での先端技術での遅れに焦る日本の財界と政府が新たな収益源の開発を狙って推進している都市戦略です。そこでは、住民が自治能力のある市民としてではなく、企業と行政から生活を管理され、消費を引き出される対象と位置付けられています。政府は、先端技術の発達だけで人口減少や少子高齢化などの社会的課題が解決するかのように描いていますが、問題の本質から目をそらす幻想です。まずは第1次産業の振興や子育て支援など当たり前の政策を進める中で、先端技術は、市民生活に役立つよう使うべきです。

(上)スーパーシティの概念図(内閣府資料から)
・企業が地域住民を支配する?「スーパーシティ法案」の恐るべき正体(週刊エコノミストOnline 2020年6月29日)
立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
※◇なぜニュースは重要な問題を報道しないのか
日本では国民が1つのニュースや事件に目を奪われている隙に、どさくさ紛れで議論に時間が掛かる法案を通してしまったり、政治家の恥部が明るみにならないように隠蔽される事例が多々あります。この手法は日本政府の常套手段です。
東日本大震災時には、消費増税、TPP参加の議論が加速していました。
2019年の西日本豪雨の最中、重要なインフラである水道を民営化するための改正水道法が可決されていました。
新型コロナショック時、種苗法改正案や検察庁法改正案を政府が国会で成立させようとしていたのですが、柴咲コウさんなどの芸能人や影響力ある人達のSNSを使った反対運動に配慮した形で政府は先送りを余儀なくされました。
佐々木希の旦那さんでアンジャッシュ渡部さんの不倫問題が世の中を騒がせている間、親中派自民党二階幹事長の要請を受けて1-2月にかけて東京都備蓄用防護服の中国へ無償寄贈、学歴詐称、特定ベンチャー企業との癒着、特定PR会社への高額支出などたくさんのスキャンダルを抱えた小池知事は、7月の都知事選に向けて、二階幹事長という権力者の力添えを得て、自分への批判の矛先を逸らすことに成功したのかも知れません。
◇企業が住民を支配する?「スーパーシティ法案」の問題点
そうした疑いをもたれそうな案件が直近でもうひとつありました。
石田純一さんの新型コロナ感染ニュースで一色の最中、4/16にスーパーシティ法案が衆議院本会議で可決しました。
また参議院では、多くの芸能人も参加しSNSにおいて反対運動が盛り上がった検察庁法改正案を隠れ蓑にするかのように、5/27にスーパーシティ法案が可決しています。つまり、別の法案を取り上げてそれが炎上している内に、本命の法案を通過させる技とも考えられるのです。
スーパーシティとは、内閣府が20年3月に公表した構想案によりますと、
(1)「移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全の10領域のうち少なくとも5領域以上をカバーし、生活全般にまたがること」
(2)「2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現すること」
(3)「住民が参画し、住民目線でより良い未来社会の実現がなされるようネットワークを最大限に利用すること」
という3要素を満たす都市と定義されています。
簡単に申し上げれば、AIやビッグデータを活用し、自動運転やキャッシュレス、行政手続きの簡易化や遠隔医療・教育など、生活全般をスマート化する「丸ごと未来都市」のことです。
ポイントは、中央政府ではなく、ミニ独立政府がスーパーシティを管理、運営していくという事です。
注目すべきなのは、そのミニ独立政府の構成員が国家戦略特区担当大臣、市町村の首長、そして「企業及び企業のビジネスと深い関わりのある関係者」であるとされています。ですから、もしかするとスーパーシティの住民より企業利益が優先されるような管理、運営になるのではないかと危惧されているのです。
◇中国モデルを日本で導入?利便性向上の行末
既に北京、上海、杭州でスーパーシティが創造され、始動しています。米中覇権戦争の渦中にも拘らず、世界一進化している中国と日本は2019年8月30日、地方創生に関する協力を強化する覚書を交わしました。これにより、日本は最先端技術の実証実験を街全体で行うスーパーシティの整備に向け、先行する中国と連携を強化することで、実現性を高めることを狙ったのです。
「世界で一番ビジネスをしやすい環境を作る」という目的を達成するために、地域ごと、分野ごとに分けて税制優遇付き規制フリー地域を国内の随所に作るという国家戦略特別区域法が2014年12月から施行されましたが、スーパーシティ法はその国家戦略特区法の改正案なのです。
便利さが増す一方で、国や自治体、警察、病院、企業が、今は別々に所持している個人情報( 例えば、納税の状態や既往症、位置・移動情報や商品の購買歴といった個人情報 )の垣根が壊され、AIによる一元化が進みます。そしてそれにより日本が超監視社会に変化してしまうリスクが高まっているのです。更に、そのデータを中国が管理できるような仕組みになれば、日本の国家安全保障問題にまで進展してしまう事にもなり兼ねません。
スーパーシティ導入によるメリットも勿論あるでしょうから、賛否両論はありうると思います。ただ、この法案によって私達が居住する環境がどのように変化するのかを議論をし尽くしていると言えるでしょうか?そして私達はその変化によりどのようなデメリットが発生するのかを事前に認識できるのでしょうか?
新型コロナショック発生以降、私達は自分の生命の保全は政府や企業に委ねるのではなく、自己責任で行わなければいけない時代に突入したと自覚しなければいけません。さもなければ、私達はこの時代の変化から取り残されてしまうのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。
・帝国になったGAFA 世界で民衆蜂起 覇権の終わりの始まり(日経ビジネス 2020年1月3日)
※巨大な経済規模と影響力を手に「帝国」のごとく振る舞うGAFAへの逆風が強まる。既存秩序を揺るがす破壊的イノベーションに、世界各地の民衆が反発する。2010年代に野放図に拡大を続けた「GAFAの時代」の終わりが始まった。
カナダ・トロントを象徴するオンタリオ湖の水辺に、サイドウオーク・ラボは事務所を構える。開発から取り残された水辺にスマートシティーを建設する計画を推し進める、米グーグルの兄弟会社だ。
完成した都市の姿を市民がイメージできるよう、事務所の1階にはショールームが設けられている。出迎えてくれた説明員はプロジェクトの全体像を記した分厚い冊子をパラパラとめくりながら、「写真やイラストがふんだんに載っていて、読んでいてわくわくするのだけれど、私がぜひ見てもらいたいのはこっち」とフロアの中央へと歩みを進めた。
そこにはマンションなどが林立する未来都市のジオラマが設けられていた。ヨガ教室にカフェ、クリニックが路面に軒を連ね、その間を自動運転車が走る予定だという。インターネットで注文した商品は、自走式の台車がマンションの宅配ボックスまで配達してくれる。家庭や商業施設から出たゴミは、地中管を通って収集車に送られる……。

(上)米グーグルの兄弟会社サイドウオーク・ラボが建設を目指すスマートシティーの模型(右)と完成予想図(下)
理想の未来かディストピアか
説明員が目を輝かせて披露したのは、先進技術に支えられた理想の都市だった。
しかし、その説明に全く同調できないトロント市民がいた。
「テック企業が支配するディストピア(暗黒郷)が形づくられようとしている」──。こう訴えるのは、地元の都市計画コンサルタント、トーベン・ワイディッツ氏である。サイドウオークが2017年10月に水辺の再開発計画に名乗りを上げてから、同じ考えを持つトロント市民と一緒に反対運動を展開してきた。
ワイディッツ氏は、サイドウオークとグーグルは同一だと見なしている。
「グーグルは全米50州・地域で反トラスト法違反がないか調査を受けている。そんな会社に都市計画を任せるわけにはいかない」
特に警戒するのがスマートシティーで収集するデータの取り扱いだという。「グーグルは公共サービスに役立てるという名目で、人々の行動を様々なセンサーで把握する。それはグーグルによる市民の監視にほかならない。プルマンのような都市の再来を予感させる」というのがワイディッツ氏らの主張である。
プルマンは、19世紀後半に米国で鉄道の客車メーカーを経営するジョージ・プルマン氏が建設した企業城下町だ。イリノイ州で購入した広い土地に工場と労働者向けの住宅を建てた。
自分の名前を付けたこの地で、プルマン氏は絶対君主のように振る舞った。自分の息がかからない新聞は発行を禁止し、討論会も禁じた。労働者の精神を荒廃させるとして歓楽街もつくらなかった。検査員が各家庭を定期的に訪問して回り、部屋を清潔に保っているかを確認、不潔なら賃貸契約を打ち切ることができた……。
プルマン氏は住民が幸福に暮らせる理想郷を目指したが、その実態は資本家が労働者を監視・統制するディストピアだった。
各種センサーで住民の一挙手一投足を追跡するグーグルのスマートシティーは「21世紀のプルマン」だとワイディッツ氏は訴える。
サイドウオーク側は第三者機関にデータの管理を任せるとしている。しかし、ワイディッツ氏ら反対派の不信感は収まらない。
トロント市などが設置した再開発計画の監督機関は、高まる反対運動を受けて19年10月末、計画に制限を加えると発表した。サイドウオークは当初、再開発する土地を最終的に76万9000m2まで拡大する意向を示していたが、これを東京ドーム約1個分の4万9000m2に縮小した。第三者機関がデータを管理する構想も却下し、法律と規制に基づいてより厳格な管理下に置くことにした。
ワイディッツ氏は「勝利を収めることができた。ただしまだ第1ラウンドが終わったにすぎない。計画が最終決定するまで気を抜けない」と語る。
FBの情報流出で潮目変わる
巨大テック企業を町から締め出そうとする運動は世界に広がる。
米アマゾン・ドット・コムは19年2月、米ニューヨーク市に第2本社を設置する計画を撤回した。地元自治体から助成金や税制優遇を受けるにもかかわらず、雇用などの面で地域社会への還元が限られるとして、市民の反対運動に押された格好だ。ドイツ・ベルリンでは町の雰囲気を損なうとして、グーグルの新オフィス建設計画に対する反対運動が巻き起こった。
GAFAに代表される巨大テック企業は、いつから民衆の“嫌われ者”になったのか。
ワイディッツ氏はフェイスブックからの情報流出が発覚した18年3月に潮目が変わったと感じている。「最終的に8700万人分の個人情報が英調査会社ケンブリッジ・アナリティカに流れていたことが明らかになり、世界中が驚いた。以来、トロント市民の反対運動が勢いづいた」と言う。
16年の米大統領選でもロシアの世論工作を放置するなど、度重なるフェイスブックの失態は、グーグルを含む巨大テック企業全体への不信感へとつながった。IT関連の口コミサイトを運営する米トラストラジウスが19年4月に米国で実施したアンケート調査によれば、GAFA4社のうち信頼するに足る企業が「1社もない」と回答した比率は43%にも上る。
人々がGAFAを畏怖するのは、その圧倒的な規模や影響力が国家をも上回るようになったためでもある。

従業員数が合計100万人にすぎないGAFAの総時価総額は、世界4位の経済大国ドイツのGDP(国内総生産)にほぼ肩を並べた。将来への期待を含めたGAFAの企業価値が、人口8300万のドイツ国民が1年間に生み出す価値と同等ということだ。
DATA GAFAの規模は国家レベル
2010年代に急成長したGAFAの合計売上高は、既にサウジアラビアのGDPと同レベル。膨大な利用者数を背景とした圧倒的な収益力を生かし、技術開発とM&Aにまい進する。今後も増え続ける見込みの世界のデータ量を考えれば、成長の限界はまだ見えない。

55億人のGAFAの「国民」
国家並みの経済力を手にしたGAFAの「国土」はサイバー空間に存在する。そのサービスや製品の利用者はいわば「国民」だ。人口は延べ55億人。彼らは国境にとらわれることなくサイバー空間を自由に移動し、反グローバリズム、反移民、自由至上主義など、考えを同じくする仲間とコミュニティーを形成している。
その結びつきは時に国家への帰属意識よりも強くなり、社会の分断を引き起こす。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授のジャレド・ダイアモンド氏は「テクノロジーは世界中のつながりを維持することを可能にするが、隣人とのつながりを弱める。コミュニティーの在り方が変わる可能性がある」と指摘する。
GAFAは彼らの思想信条、趣味嗜好を誰よりもよく把握している。検索窓に質問を打ち込んだとき、スマートフォンのGPS(全地球測位システム)機能で現在地を計測したとき、商品の購入ボタンや「いいね!」をクリックしたとき……。
ありとあらゆる機会をとらえてデータを収集し、AI(人工知能)で分析する。そこから本人も気づかなかったニーズをくみ取り、ネット広告やネット通販を通じて莫大な収益を上げている。
明日の暮らしを決めるのもGAFAだ。世界中から最高の頭脳を集め、量子コンピューター、AI、自動運転など先端技術の開発をリードしている。4社が1年間に投じる研究開発費は合計675億ドル(約7兆3500億円)に達する。ロシアが勢力圏を維持・拡大するのに拠出している軍事費を上回る金額を、サイバー空間での勢力拡大に向けて投じている。
「膨張主義」に走り、グローバルな租税の枠組みを巧みに回避するなど、時に国を超える存在として振る舞っているようにも見えるGAFA。経済学者で法政大学教授の水野和夫氏はそんな巨大テック企業を帝国になぞらえる。「歴史上の帝国はフロンティアを開拓することで繁栄してきた。グローバル化が進展し、物理的に開拓できる土地がほぼなくなった現代においてGAFAが繁栄を続けられるのは、サイバー空間を新たなフロンティアとして見いだしたからだ」と分析する。
歴史上の帝国は、フロンティアの開拓で獲得した植民地などの支配地域から、事業活動の元手になる原材料や労働力などの資本を収集し、自国を発展させてきた。
例えば19世紀まで栄華を誇った大英帝国が収集した資本の一つに、インドの綿花がある。インドから輸入した綿花を原材料に機械で綿布を織り、世界に輸出することで英国は富を手にした。
覇権国として世界に君臨した「20世紀の帝国」ともいえる米国は、自国の石油メジャーを通じて産油国から思いのままに石油を輸入することで工業化を進めた。
しかし英国も米国も民衆の蜂起に直面することになる。1850年代にインドで発生したセポイの反乱は、機械で大量生産された英国製綿布の攻勢を受けて、インドの手織り産業が壊滅したことが背景にある。その後、マハトマ・ガンジーが率いた独立運動へとつながり、英国のインド支配は1947年に終わりを告げた。
米国による石油ビジネスの支配は70年代に終焉する。「資源ナショナリズム」で高揚する民衆の支持を背景に、産油国の政府が欧米石油メジャーが持つ油田などの資産の国有化や、石油輸出国機構(OPEC)の結成に踏み切り、主導権を奪取した。自分たちの資本を帝国の繁栄のために奪われてなるものかという民衆のパワーに後押しされた。
果たして歴史は繰り返すのか。国家の枠組みを超え、帝国として振る舞うGAFAに民衆が強い拒否感を示すようになってきた。
英国や米国に富をもたらした綿花や石油は、GAFAにとってデータに相当する。GAFAの繁栄のために、個人情報を奪われてなるものか──。そう考える民衆は着実に増えている。
非営利の調査機関、米センター・フォー・データ・イノベーションが2019年1月に発表した報告書では、8割の人々が「グーグルやフェイスブックによるデータの収集量を減らしてほしい」と考えていることが明らかになった。暗号技術などを駆使し、プライバシーを厳格に守るとうたうチャットサービスや検索サービスの利用者が増えているのはその証左だ。
スイスのプロトンテクノロジーズが提供するメールサービスは、プライバシー重視を掲げるサービスの一つだ。プロトンが個人情報を活用することも、第三者に提供することもないと確約している点が支持されている。
同社のアンディー・イェンCEO(最高経営責任者)は「『プロトンメール』の利用者は過去3年間に毎年2倍のペースで増えており、2000万人に達した」と話す。増加のペースを維持できれば、3年後には利用者が1億6000万人に到達する。
プロトンメールの利用者はグーグルのGメールからの移行組が6、7割を占めるという。10億人以上が使う世界最大のメールサービス、Gメールの牙城を切り崩す。野放図に拡大を続けるグーグルに大勢が「ノー」を突きつけた格好だ。
日本各地でも反対運動
テック企業への反逆は日本でも始まった。
公正取引委員会が19年4月に公表したアンケート調査では、テック企業による個人情報の収集・利用・管理に「何らかの懸念がある」とする日本の消費者は76%にも上った。多くの日本人にとってその漠然とした不信感は、19年8月に確信に変わった。
就職情報サイト、リクナビを運営するリクルートキャリアが就活生の「内定辞退率」を本人の同意なしに予想し、トヨタ自動車、三菱商事など37社に販売していたことが発覚したのだ。
就活生から集めた個人情報の分析結果を、本人の不利益になる形で売ったとして大学関係者は憤慨している。就活を支援する中央大学キャリアセンターの池田浩二副部長は、「リクルートキャリアとは縁を切った」と言う。学生向けの冊子に載せる就職情報サイトの一覧からリクナビを除外し、今後学内で開く就活イベントでリクルートキャリアに協力を求めることもない。明治大学もリクルートキャリアとの関係を見直した。
各方面で影響力を増し続けるテック企業と民衆の摩擦は激しくなる一方だ。その主な原因の一つは「破壊的イノベーション」にある。テック企業はイノベーションと称して世界各地で既存の秩序を壊し、地元住民の反発を招いている。
米大手PR会社エデルマンが19年1月に発表した調査結果によると、「技術革新が速すぎて、自分のような人にとっては物事が悪い方向へ進んでいる」と感じている人の割合は日本で36%に達する。
米国はさらに多く、48%だ。米国ではアマゾンの通販サイトに客が流れたことで小売店の大量閉鎖が進み、米ライドシェア大手ウーバーテクノロジーズに乗客を奪われたタクシー運転手の自殺が相次いでいる。各方面で破壊が進む米国社会を他山の石に、米テック企業がもたらすイノベーションへの抵抗運動が日本各地で広がる。
「安心、安全なタクシーを守ろう!」
ウーバーに出資し、日本でのライドシェア解禁を目指す東京・汐留のソフトバンクグループ本社前などでは、タクシー運転手らが定期的に街宣活動を繰り広げている。
運転免許証と自家用車さえあれば基本的に誰でも旅客輸送が可能なライドシェアが認められれば、タクシー運転手は苦境に陥る。タクシー運転手の労働組合、自交総連の菊池和彦書記長は、「ライドシェアは運転手の健康や車両の整備状況をチェックする体制がなく、安全に不安がある」と主張し、ライドシェア解禁の阻止を目指す。
「民泊、やめとくれやす」
民衆の怒りの矛先は民泊仲介の世界最大手、米エアビーアンドビーにも向かう。
京都駅から徒歩15分ほどの地区の町内会副会長を務める黒川美富子氏は、生活環境が損なわれたと実感している。外国人観光客がエアビーなどの民泊仲介アプリで近所の住宅を予約するようになったからだ。
「あっちも民泊施設だし、こっちも民泊施設。朝、生け垣の草花に水をまいていると、外国人観光客がキャリーバッグをゴロゴロ引いて歩いている。ここはどこの国なのと思ってしまう。京都駅からの徒歩圏内はどこも同じような状況だ」と言う。
黒川氏は自宅には「やめとくれやす、この町に民泊・ゲストハウス」という大きな看板を掲げ、同じ文言のポスターを周囲にも張っている。「民泊施設の関係者から金銭を支払うから看板を撤去してほしいとお願いされたが、取り下げることはない」と徹底抗戦の構えだ。
アマゾンが地域社会に悪影響を及ぼしていると主張するのは、全日本仏教会の戸松義晴事務総長だ。問題視しているのは、アマゾンが扱う僧侶派遣サービス「お坊さん便」だ。葬儀や法事に呼ぶ僧侶を手配するサービスとしてベンチャー企業の「よりそう」が15年からアマゾンに出品している。
アマゾンを介して僧侶と遺族が直接取引することで、その間に立っていた菩提寺の仕組みが破壊されると戸松氏は懸念する。「地域住民と菩提寺が代々つながっていた関係が、その都度サービスと対価だけをやり取りする無機質なものに変質していく」と語る。高まる批判を受けて、よりそうは19年10月にアマゾンでの販売を停止した。戸松氏ら仏教界の4年越しの反対運動が功を奏した格好だ。
「世界を変える」と意気込み、フロンティアの開拓にまい進する巨大テック企業を押し戻そうと、世界各地で民衆が立ち上がる。ウーバーに対するタクシー運転手のデモは米国や香港、フランスやイタリアで頻発する。スペインではエアビーなど民泊への市民の抗議活動が激しくなり、インドの小売店の間ではアマゾンへの反発が広がる。
アマゾンは雇用に貢献していると強調し、アップルはほかの巨大テック企業と異なりプライバシーを重視していると喧伝するなどGAFAは血眼になって民衆をなだめにかかっている。しかし反GAFAの世論は収まる気配がない。
そうした民意をくむ形で、各国の政府もGAFAを脅威と見なすようになった。巨大テック企業を抑え込もうと始まった国家の反攻。その最前線、欧州へ向かった。
・米グーグル、「デジタル都市」計画を中止 新型ウイルスが影響(BBC 2020年05月8日)
※米グーグルの姉妹企業「サイドウォーク・ラブズ」は、カナダ・トロント沿岸部にデジタル都市「スマート・シティ」を構築する事業を中止した。COVID-19(新型コロナウイルスによる感染症)の世界的流行が理由という。
サイドウォーク・ラブズは数年間にわたり、トロントの工業地帯での「スマート・シティ」の構築に力を注いできた。
同社のダン・ドクトルフ最高経営責任者(CEO)は、「経済がかつてないほど不安定」になっているため、計画を取りやめたと説明した。
この計画は以前から物議を醸していたため、同社はすでに計画規模の縮小を余儀なくされていた。
トロント沿岸部をめぐっては、カナダ政府、オンタリオ州政府、トロント市が2001年、再開発計画事業を担う機関「ウォーターフロント・トロント」を設立した。
「財政的に実現不可能」
ドクトルフCEOはブログで、「世界中で、またトロントの不動産市場において、経済がかつてないほど不安定になっている。そのため、真に包括的で持続可能なコミュニティを構築するという、ウォーターフロント・トロントと共に立てた計画の中核部分を犠牲にすることなく12エーカー(約4万8500平方メートル)規模の都市を実現するのは、財政的に不可能だ」と書いた。
「この2年半の間に我々が進めてきた構想は、とりわけ手ごろな価格や持続可能性の分野における、都市が抱える大きな問題への取り組みにとって、大きな貢献になると信じている」
この構想では、自動運転車やごみ回収の画期的な方法、大気質や人々の移動に関するデータ収集のための数百ものセンサーといった、テクノロジーを駆使した都市の実現を目指していた。建物は地球に優しく、急進的な新しい方法で建設されるというものだった。
落札をめぐり疑問視する声も
一方で、サイドウォーク・ラブズがどのように契約を勝ち取ったのかについて疑問視する声もあった。
同社が当初の説明よりもはるかに大きな規模の開発を計画していることが明るみになると、計画に反対する市民によるロビー団体が、なぜ自分たちはデジタル実験の「実験用マウス」にならなければならないのかと反発した。
この計画を精査するために設置された第三者委員会の報告書は、構想の一部は「技術のための技術」であり、不要とされる可能性があると示唆した。
サイドウォーク・ラブズには、最終的に計画継続への暫定的許可が与えられたが、規模を190エーカー(約76万9000平方メートル)から12エーカーへと大幅に縮小することとなった。
また、センサーを用いて収集したいかなるデータも、共有資産にしなければならなくなった。

(上)サイドウォーク・ラブズによる「スマート・シティー」構想
サイドウォーク・ラブズの計画中止を受け、ウォーターフロント・トロントのスティーブン・ダイヤモンド会長は、「これは我々が望んでいた結果ではないが、トロントの未来のためのサイドウォーク・ラブズの構想や努力、そして同社および同社従業員による多くの貢献に対し、感謝を申し上げる」と述べた。
「キーサイド(都市計画を進めていた土地)は、トロント、そして世界中の都市が発展し、成功し続けるために対処しなければならない、手ごろな価格の住宅や移動性の向上、気候変動やそのほかの都市部における課題への革新的な解決策を模索するための、素晴らしい機会を提供する場であり続ける」
サイドウォーク・ラブズのドクトルフ氏はブログで、同社は「ロボット家具から電力のデジタル化に至るまで、あらゆることに取り組み」、新興企業への投資を継続していくと述べた。
「我々は、住宅価格をより手ごろにできる、工場で生産したマスティンバー(複数の木材を組み合わせ、強度を向上させた集成材)を使った建築に関して社内的に取り組み続ける」
※これはいいニュース!
・注目の発言集 スーパーシティ整備向け 中国と協力 片山担当大臣(NHK政治マガジン 2019年9月3日)

※片山地方創生担当大臣は、中国政府との間で地方創生に関する協力を強化する覚書を交わしたことを発表し、最先端技術の実証実験を街全体で行う「スーパーシティ」の整備に向け、先行する中国と連携を強化することで、実現に弾みをつけるねらいがあるものとみられます。
片山地方創生担当大臣は閣議のあとの記者会見で、先月30日、中国政府で経済政策を統括する国家発展改革委員会のトップ、何立峰主任と地方創生に関する日中両国の協力を強化する覚書を交わしたことを発表しました。
それによりますと、両国の担当部局の局長級でつくる「業務推進検討会議」を新設したうえで、原則として1年に1回、会合を開いて意見を交わすほか、日中合同で、地方活性化などをテーマにした催しを開催することなどを検討するとしています。
政府は、最先端技術の実証実験を街全体で行う「スーパーシティ」の整備を目指して、同様の都市開発を大規模に進める中国との連携を強化することで、実現に弾みをつけるねらいがあるものとみられます。
※ブログ主コメント:「スーパーシティの正体=デジタル共産主義」であることを暴露しています。
・スマートシティが突きつける難題…輝ける未来にはプライバシーがない?「監視資本主義の植民地化実験」か(ゲンダイismedia 2021年3月7日)
野口 悠紀雄
※ビッグデータの活用によって、都市の課題を解決し、エネルギーの効率的利用をはかる「スマートシティ」の計画が、日本でも進められている。しかし、スマートシティには、プライバシーがあるのか? また、個人情報のこうした活用は許されるのか?
グーグルによるスマートシティ計画の挫折は、さまざまな問題を突き付ける。
「輝ける」未来都市-スマートシティ
2月23日に、静岡県裾野市のトヨタ自動車東日本・東富士工場跡地に隣接する旧車両ヤードで、「Woven City」(ウーブン・シティ)の建設がスタートした。ここで、自動運転やロボット、AI技術など、さまざまな新技術を実証する。
これは、 「スマートシティ」と呼ばれる新しいコンセプトの都市だ。世界中で計画が進んでいる。日本でも、横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市などで実証実験が行われている。
スマートシティをさらに進めた「スーパーシティー」構想を実現するための国家戦略特別区域法の改正案が、2020年5月に可決し、成立した。
IoTやAI、5Gなどの技術や、ビッグデータの蓄積と活用によって、都市の課題を解決し、快適性や利便性を向上させる。エネルギーの効率的利用をはかり、省エネルギー化を実現して大気汚染問題を解決する。物流面でも、ビッグデータの活用によって効率化がなされるという。
このように素晴らしいことばかりで、「輝ける夢の未来都市」に目がくらみそうだ。
スマートシティの中核にあるのは「データ」
多くの都市は自然に形成されたが、人工的に新しい都市(計画都市)を作ろうとする試みは、歴史上、数多くなされてきた。古代ローマ時代の植民都市、サンクトペテルブルク、ブラジリア、キャンベラ、イスラマバード、等々。
スマートシティがそれらと違うのは、「データ」の概念が中核にあることだ。それを用いて、様々なことを実現する。
この具体的なイメージは、トロントのスーパーシティー構想を見るとよく分かる。グーグルの親会社であるアルファベット傘下のサイドウォーク・ラボが、トロントのウォーターフロント地区の一部を再開発するプロジェクトの構想を2017年に発表した。
ごみは地下のダストシュートを通って捨てられ、歩道には発熱の機能があるという「未来都市」だ。
あらゆるデータをサイドウォークが集め、そのデータを活用して、エネルギーや輸送などの各種システムを運用する。
データ収集のため、建物の内外や通りに、そして街中に、無数のセンサーを設置する。AIが動かす自動制御装置によって遠隔操作を行う。 IOTを利用し、様々な行動が収集される。
住民の行動はすべて記録に残される。散歩の回数や散歩経路、公園でどのベンチに座ったか、道を横切る際にかかった時間まで追跡される。
各個人の水の使用量、健康状態、位置情報の履歴も記録される。
交通渋滞や大気汚染、騒音などをなくし、快適な都市空間を創造していくには、これらのデータが不可欠だというのがサイドウォーク・ラボの主張だ。
つまり、スマートシティの基本にあるのは、そこに住む人々の詳細な行動の正確な把握だ。
これまで、グーグルやフェイスブックなどの巨大プラットフォーム企業が行なってきたことを、スマートシティの運営者が行なうことになる。
スマートシティにプライバシーはあるのか?
このように、スマートシティでは、あらゆる住民のあらゆる行動が常に監視される。
昔ある女性から聞いた話だが、夫以外の男性と夕食をしたとする。小さな町だと、翌日にはそのことを町中の人が知っている。そうした場所には住めないといった。大都市ではそんなことはない。しかし、小さな町ではそうなってしまう。
スマートシティでは、それどころではない。どんな料理か、ワインの銘柄は何か、等々まで知られてしまうだろう。
中世のドイツで、「都市の空気は人間を自由にする」と言われた。これは、農奴が都市に移り住めば自由民になれることだが、伝統的な地域社会を脱出して都市に来れば、匿名性を享受できたことでもある。
スマートシティでは、さまざまな個人情報が収集され、エネルギーの効率的利用がなされる。これは、大変素晴らしいことと思う。
しかし、それと引換えに、匿名性や個人の自由という、都市の最大の魅力は失われるのだ。
この街では、泥棒はいなくなるだろうし、痴漢もいないだろう。官僚が接待を受けても、すぐにそのことがばれてしまうだろう。
私は品行方正なので、情報を集められても全く気にならない。しかし、こうした町は窮屈だと考える人もいるだろう。
プライバシーは保護される。だが……
上で述べたのは、私の勝手な想像だ。
トロントのプロジェクトでは、もちろん、個人情報は、厳格に保護される。
公共の場でのデータ収集については事前に同意を得ることが難しいため、すべてのデータを匿名化して、個人を特定できないように分割する。第三者へのデータの販売は絶対に行なわない。また、一定の手続きを踏めば、収集されたデータを住民が確認できるシステムを作る、等々だ。
日本でも、スマートシティを運営者は、個人情報保護に最大の配慮をするだろう。そして、匿名性は保障されることになるだろう。
しかし、仮にそうしたことが実行されるとしても、それで終わりではない。
トロントのスマートシティ構想の挫折
プライバシーが侵されないにしても、「そもそも、個人情報をプラットフォーム企業や国家が利用してよいのか?」という問題がある。
SNSで情報を発信したり、インターネットで情報を検索や閲覧したり、ウエブショップで買い物をしたりすると、それは行動履歴のデータとして、サービスの提供者に蓄積されていく。
それらのデータは、AIによるプロファイリングに利用される。そして、ターゲティング広告やセールスに使われる。あるいは、新しいサービスの創出に活かされる。この過程で、プライバシーは侵されていない。
しかし、データを収集した企業がそれを利用し、収益を挙げているのは事実なのだ。これは許されるのか? EUのデータ規制が問題とするのは、まさにこの点だ
グーグルは、スマートシティを建設し運営することによって、都市生活や人間の行動について、深い知見と洞察を得ることになる。それが何に使われるかは、分からない。グーグル自身も、確たる見通しを持っていないのかもしれない。
しかし、想像もつかぬほどの大きな成果と利益がもたらされる可能性もある。それは、住民に還元されるのではなく、グーグルが独占する。
カナダでは、自分たちのデータがどう扱われるのかについて不信感を抱く人が、次第に増えてきた。人権団体は、カナダは「グーグルの実験マウスではない」と反発した。
ブラックベリーの創業者であるJim Balsillie氏は、「監視資本主義の植民地化実験」だと評した。
結局のところ、トロントのプロジェクトは、サイドウォーク・ラボが 2020年5月7日に計画を断念したことによって終わりを告げた。
個人情報や自由は本当に重要なものなのか?
しかし、問題は、これで終わりになるほど簡単なものではあるまい。本当のところ、人々は、個人情報をそれほど重要とは考えていないのかもしれない。
中国では、街中に監視カメラがあっても、「悪いことをする人が捕まるので良いことだ」という人が多い。
これについては、新型コロナウィルスが新しい問題を提起した。接触感染アプリをプライバシーを無視した仕様にすれば、強力なものになるということだ。
いや、コロナのずっと前から、われわれは、検索サービスやメールのサービスを利用し、SNSを利用してきた。こうしたことを通じて、個人情報プラットフォーム企業に提供してきた。そのデータが、プラットフォーム企業に利用されることを知っているにもかかわらず。
スマートシティもそれと同じことだ。個人のプライバシーが侵害されることよりも、エネルギー利用の効率化のほうが重要だと考える人のほうが多いのかもしれない。
もっといえば、人間にとって、自由やプライバシーは、それほど重要なものではないのかもしれない。
人間は、実のところ、支配されることを望んでいるのかもしれない。
これこそ、ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」で提起した問題だ。
スマートシティは、この永遠の問題を、新しい形で突きつけている。
※都市インフラや一般家庭の家電、各個人の健康状態データもみなインターネットにつなぎ、あらゆる行動の監視に直結する「まちづくり構想」が動き出している。今月14日の国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)では、人工知能(AI)やビッグデータを総動員し、2030年頃の未来社会を先どりする「スーパーシティ」構想実現に向けた法整備を急ぐ方針を決定した。3月にも関連法を今国会へ提出する動きを見せている。
安倍政府が具体化する「スーパーシティ」構想は昨年11月頃から片山さつき・内閣府特命担当大臣(地方創生)の下、竹中平蔵などを中心とする有識者懇談会が具体化を進めてきた。この有識者懇談会が明らかにした最終報告は「スーパーシティ」構想について「これまで日本国内において、スマートシティ(省エネを追求した環境都市)や近未来技術実証特区などの取組があった。しかし、エネルギー・交通などの個別分野での取組、個別の最先端技術の実証にとどまっていた」「“スーパーシティ”は、これらとは次元が異なり、“丸ごと未来都市を作る”ことを目指す」と明記した。さらに世界各国のとりくみが部分的実証にとどまっていることを指摘し「日本で世界に先駆けて“スーパーシティ”を実現し、世界にモデルを示す」と強調している。
今後、具体化する「スーパーシティ」の対象職種としては、
①移動(自動走行、交通量・駐車管理)
②物流(自動配送、ドローン配達)
③支払(キャッシュレス)
④行政(電子政府、ワンスオンリー化=一度行政に提出した資料は永久にデータ登録されるシステム)
⑤医療・介護(AI活用病院、遠隔診療)
⑥教育(AI活用、遠隔教育)
⑦エネルギー・水
⑧環境・ゴミ
⑨防災
⑩防犯・安全(ロボット監視)
など10項目をあげた。
そしてこのエリア選定について「住民の合意形成を促進・実現できる、ビジョンとリーダーシップを備えた首長の存在」「最新技術を実装できる企業の存在」が重要と明記した。自治体議会の合意、住民合意をへて、最終的に総理大臣が決定する順序である。今国会で提出しようとしている関連法は、このエリア内限定の規制緩和策をより早く決定・実行するための制度整備が狙いである。
有識者懇談会の最終報告は「地域限定で規制特例を設ける仕組みとしては国家戦略特区制度があるが、これには限界がある。これまでも各種の近未来技術の実証をおこなうため規制改革にとりくんできたが、規制所管省と個々に協議し、同意をとりつけなければ動かない仕組みであり、それまでに数カ月や数年を要することも少なくなかった。この限界のもとでは、丸ごと未来都市を作ろうとする“スーパーシティ”構想はできない。そこで、従来の国家戦略特区制度を基礎としつつ、より迅速・柔軟に域内独自で規制特例を設定できる法制度を新たに整備する必要がある」と主張した。
そしてこれまでの国家戦略特区の枠組み(内閣が決定する政省令で規制対象外の特例措置を規定)より踏み込み、市町村レベルの条例制定で特例措置をもうけることを可能にする方向をうち出した。この新制度になれば、企業誘致を目指す自治体間の誘致競争が激化するのは必至だ。それは企業により好条件を提示することが勝負となるため、必然的により進んだ規制緩和に駆り立てることに直結する。各都市が財政難や人口減少など困難に直面するなかで、それをさらなる規制緩和に利用し、外資などの大企業がより好条件で事業参入するための地ならしに着手している。
グーグルやアリババ AIによる都市の管理
安倍政府が先進地と見なしている都市は、グーグル系列会社があらゆるデータを管理する都市設計を進めているカナダ・トロント市や、アリババ(中国のネット通販大手)系列会社が行政と連携している中国・杭州市などである。有識者会議はドバイ(アラブ首長国連邦)、シンガポールなども視察している。
トロント市では約20年前から東部臨海地区の再開発計画を推し進めてきた。対象地域は面積が4・9㌶に及ぶオンタリオ湖に面したキーサイドという未開発地で、土地の多くは同市とオンタリオ州、カナダ政府が所有していた。公共財産であるため、開発作業は民間人を含む非営利組織であるウォーターフロント・トロント(2001年に創設)が具体化してきた。
ところが2017年秋にグーグル系列企業のサイドウォーク・ラボがウォーターフロント・トロントと提携協定を締結した。そしてグーグルは水の使用量や空気の質、住民の散歩回数や散歩経路など、あらゆるデータをサイドウォーク・ラボに集めさせ、そのデータを活用した「まちづくり」を促進した。それは建物の内外や通りに設置した無数のセンサーで絶えず動向を監視し、AIが動かす自動制御装置によって遠隔操作をおこなうというものだった。
例えば信号が常に人や自転車、車の動きを追跡し、信号のある道路を通過しようとすると、赤信号が青に変わり、暗い道を通ると電灯が点灯するという調子だ。歩行者や自動車の動きをみな把握して、すべての人がもっとも待ち時間の少ないタイミングでAIが青や赤を点滅させ、渋滞をなくす仕組みである。公共の無人シャトルバスを走らせる計画、ゴミの自動収集ロボの導入、行政が把握しているデータを活用して社会福祉事業に活用する、などさまざまな計画をおし進めた。
グーグルはこの実証実験のノウハウをもって世界の各都市に参入することを狙っており、トロントはその実験台だった。さらにグーグルはトロントの都市開発にあたって、「利益をもたらす計画をトロント市やカナダ政府が受け入れる場合しか協力しない」との条件も突きつけ、恒常的に利益を確保することも忘れなかった。
しかし人が通れば自動で電気がつき、横断歩道を渡るときすぐに信号が青に変わる…という状態は「すべて見られている」という裏返しでもあり、「個人情報の管理は一体どうなっているのか」との不安が住民や自治体関係者から噴出した。さらにグーグルが個人情報を第三者の企業に流そうとしていたことも発覚した。こうしたなかで開発計画は遅れ、開発の中枢を担っていた関係者が「プライバシー上の懸念」を理由にプロジェクトから手を引く事態にもなった。しかしすでにグーグルを中心にしたインフラ整備は進行しており、市民や地域の全情報は今もグーグル系列企業にすべて握られたままである。
ネット通販最大手のアリババグループが本社を構える中国・杭州市(人口950万人、面積は関東地方の半分程度)でも、AIによる都市管理が進んでいる。杭州市は4000台超の交通監視カメラを設置し、交通警察が交通違反を監視している。AIが監視カメラでナンバーを読みとり、違反があれば警察に自動通報(多い日で500件)し、警察が違反切符を自動車所有者に送りつける方式である。それは「高齢の母親を慌てて自家用車で病院に搬送する途中、一瞬、制限速度を上回ったため慌てて速度を落とした」というような場合でも、監視カメラが「スピード違反」ととらえていれば、問答無用で罰則対象になるシステムだ。「駐停車違反」「一旦停止違反」「信号のない横断歩道の走行」など、すぐに気がついて正せば事故にならないケースも、即座にみな厳罰対象になる制度だ。同時にそれは毎日の行動データや運転の傾向性まで蓄積される仕組みである。
もう一つは無人コンビニの展開である。アリババが開発した精算システムはテイクゴー(TakeGo)と呼ばれ、商品の識別は近距離無線タグでおこない、来店客の識別は監視カメラによる顔認識でおこなう。そのため、商品棚、イートインの椅子、テーブルなど店内はカメラだらけである。この無人コンビニで買い物をするときは、買い物客が入り口から入って商品を手に取り、精算専用の通路を通って外に出るだけだ。そうすれば自動的にアリペイ(アリババが開発したモバイル決済システム)から代金が引き落とされる仕組みだ。顔認証で個人を特定するため、これまでの無人スーパーと違い、入店時にスマートフォンをかざす作業すらないのが特徴だ。
アリババは中国の飲料メーカー最大手・ワハハと提携して、無人レジ技術を広く売り込み、数年内に2000店舗の無人スーパー開業を目指している。このシステムの導入で商品補充や管理スタッフは一人で一〇店舗担当できる。アリババは「営業コストが四分の一になる」と宣伝している。顧客データはみなアリババに蓄積されることになる。
全ての電子情報を一手に
安倍政府の目指しているまちづくりは、このトロント型と杭州型のシステムの導入だけにとどまらない。安倍政府と経団連が強力に推進している「Society5.0」のとりくみは、「移動」関連では自動運転導入をおし進め、「物流」関連ではドローン配達などを重視しているが、個人情報の監視・蓄積を重視しているのも特徴だ。「医療・介護」関連ではマイナンバー(個人番号)カードを使った健康情報の管理を目指しており、安倍政府が一五日に閣議決定した医療・介護関連法改定案には、マイナンバーカードを健康保険証として使用するための制度改定を盛り込んだ。さらに消費税引き上げと連動したキャッシュレス決済の普及(キャッシュレス決済比率40%の韓国が目標)、電子政府の推進(行政サービス100%デジタル化のエストニアが目標)、学校教育における児童の電子情報(学習履歴、成績情報、生徒指導の記録等。米国の学校がモデル)活用など、あらゆる電子情報を一元管理する動きをさまざまな分野で同時におし進めている。
この個人情報収集体制とあらゆるインフラや家電、通信機器をネットで結ぶ「スーパーシティ」が完成すれば、住民の情報はみなネット大手に筒抜けになる超監視社会が出現することになる。
インターネットや人工知能などの技術発展が生活の利便性向上で役立っているのは事実であり、そのような技術の発展や生活環境への活用を一概に全面否定することはできない。しかし都市をまるごとグーグルなどの外資に監視・支配されるような「まちづくり」を放置すれば、日本国内の都市の将来が、みな外資大手の手に握られ、それがいずれ国民監視ツールとして治安弾圧などでフル稼働する危険もはらんでいる。国会におけるまともな論議もないまま、このような安倍政府の「スーパーシティ」構想と関連法制定を野放しにしていいのか、厳密な検証が不可欠になっている。
・グーグルが計画中の未来都市「IDEA」は、徹底したデータ収集に基づいてつくられる(WIRED 2019年7月5日)
※グーグルの親会社であるアルファベット傘下のSidewalk Labsが、カナダのトロントで進めているスマートシティプロジェクトの名称が「IDEA」に決まった。公開された1,524ページに上るマスタープランには野心的かつ派手な未来の姿が描かれており、あらゆるデータを収集・解析するというアルファベットの基本哲学が根幹を支えている。一方、データの利用や管理を巡る地元の懸念は解消されておらず、計画の実現までに解決すべき課題は少なくない。
グーグルの親会社アルファベット傘下のSidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ)が、カナダのトロントで進める都市開発の詳細を明らかにした。都市の技術革新に取り組むサイドウォーク・ラボにとって、トロント南東部のウォーターフロント地区の開発は初めてのプロジェクトだ。
計画が明らかにされたのは2017年10月だが、それから1年半の間にメディアによる憶測や地元住民の反対運動など、さまざまなことが起きた。そしていよいよ、12エーカー(0.048平方キロメートル)におよぶ区画の開発計画のマスタープランが公表されたのだ。
1,524ページに上るマスタープランでは、「Quayside(キーサイド)」と呼ばれることになるエリアの野心的かつ派手な未来の姿が描かれている。サイドウォーク・ラボは13億ドル(約1,400億円)を投じる方針だ。環境に配慮し、建材は基本的にすべて木材とするほか、ごみなどの廃棄物は地下の気送管網を使って排出するという。
移動は公共交通か自転車や徒歩で、自家用車の利用は制限する。路上を行き来するのは、自律走行車(やはりアルファベット傘下のウェイモのクルマだろう)や配達ロボットになるかもしれない。屋外には頭上に傘のような覆いを取り付け、雨や強い日差しから住民を守る(トロントの夏の日差しは強烈だ)。住宅については、全体の2割は低所得者層に「手ごろな」価格帯で提供するほか、中所得者層向けの価格の家も同程度の数を用意するという。
そして将来的には、開発エリアを350エーカー(1.4平方キロメートル)に拡大し、他社の都市開発実験プロジェクトなども巻き込んで一大スマートシティをつくり上げる計画だ。このまったく新しい都市は、「Innovative Development and Economic Acceleration(革新的開発と経済促進)」の頭文字を取って、「IDEA」という名が付けられている。
あらゆるデータの収集という基本哲学
こうした過去に例を見ない提案は、未来の都市のイメージ画像を作成するにはいいかもしれない。ただ、その根幹を支えるのは、あらゆるデータの収集というアルファベットの基本哲学だ。キーサイドには街中にセンサーが設置され、住民の行動はすべて記録に残される。公園でどのベンチに座ったか、道を横切る際にどれだけの時間がかかったかまで追跡されることになるのだ。
今回の開発計画で最も問題になっているのが、このデータ収集である。サイドウォーク・ラボは、交通渋滞や大気汚染、騒音といったものをなくし、快適な都市空間を創造していくにはデータは必要不可欠であると主張する。また、テクノロジーに詳しい都市計画の専門家たちには、より包括的なアプローチは有効だという意見に賛成する人もいる。
一方で、民間企業がどのようにして、これだけのデータを管理していくのかという懸念の声が、国内外から上がっている。しかもこの場合、その企業は売上高の大半を広告事業から得ているのだ。
マスタープランでは、政府が監督するデータ管理組織を設置し、データ利用のガイドラインを公開することが提案されている。サイドウォーク・ラボの最高経営責任者(CEO)のダニエル・ドクトロフは、これを「世界で最も厳しい都市データの管理体制」と説明する。
また、公共の場でのデータ収集については事前に同意を得ることが難しいため、すべてのデータを匿名化して、個人を特定できないように分割する。第三者へのデータの販売は絶対に行わないほか、一定の手続きを踏めば、住民などが収集されたデータを確認できるシステムを整えるという。ドクトロフは「わたしたちの提案は、カナダおよびオンタリオ州の個人情報保護法の基準をはるかに上回っていると確信しています」と語った。
解消していない地元の懸念
それでも人々の懸念は解消していない。ウォーターフロント地区の開発を監視するNPOのWaterfront Torontoは、マスタープランはサイドウォーク・ラボが独自に策定したもので、カナダ政府やオンタリオ州政府は関与していないと強調する。
Waterfront Torontoは声明で、「今回の提案が関連法を順守しているか確認するために追加の情報提出が必要となる」としたほか、IDEAの計画については「時期尚早」との見解を示した。またサイドウォーク・ラボに対し、開発コストの拠出を確約するよう求める一方で、さまざまな規制の変更の必要性も指摘する。
Waterfront Torontoの声明は、サイドウォーク・ラボに厳しい現実を突き付けている。キーサイドを実現させるには、トロント市とアルファベットの間に、今回のマスタープランと同じくらい素晴らしい協力関係を築くことが不可欠だ。
まずは必要な土地を手ごろな価格で入手し、路面電車を含む公共インフラを準備する必要がある。また、事前契約で合意したマイルストーンが達成された場合は「成果に連動した支払い」が発生する。こうした細部が、この野心的なプロジェクトの成否を左右するのだ。
サイドウォーク・ラボは今後、政府側のプロジェクトパートナーとの協議や住民への説明会などを実施していく。計画を前に進めるには、来年末までに市議会およびWaterfront Torontoから承認を得る必要がある。1,524ページのマスタープランには興奮させられるが、それが実現するのはまだ先の話だ。
・「スーパーシティ」法案 個人情報一元化進む恐れ(しんぶん赤旗 2020年3月1日)
※安倍政権が今国会での成立を目指す「スーパーシティ」法案(国家戦略特区法改定案)。人工知能(AI)やビッグデータなど最先端の技術を活用し、未来の暮らしを先行実現する「まるごと未来都市」をつくるといいます。しかし、取材を進めると深刻な問題点が見えてきました。
域内の完全キャッシュレス化やマイナンバーカードへの決済機能のひもづけ、ネットを通じた遠隔医療、ドローンによる薬の配送、地域交通の自動走行化、習熟度に応じた遠隔教育の本格的導入…。内閣府の資料に示されたスーパーシティでの取り組み案です。
政府は、スーパーシティとは、複数の先端的サービスを域内で同時に実現し、「社会的課題の解決を図る生活実装実験」だと説明しています。
やりたい放題に
住民を巻き込んだ「実験」に問題はないのでしょうか。
「大いにあります」。アジア太平洋資料センターの共同代表・内田聖子さんは強調します。なかでも、複数の主体からデータを収集し、先端的サービスの実現を支える「データ連携基盤」の整備事業がスーパーシティ構想の「核」だと指摘します。
「国や自治体、警察、病院、企業が、いまは別々に持っている情報がありますよね。例えば、納税の状態や既往症、位置・移動情報や商品の購買歴といった個人情報です。これらの情報の垣根が壊され、一元化が進む恐れが強いと思います」
法案には、基盤整備事業の実施主体となった民間企業などが、国や自治体に、それらの機関が保有するデータの提供を求めることができるという規定も盛り込まれています。
「あらゆる行動が追跡できてしまう時代です。『安全に管理するから大丈夫』と政府は言いますが、それ以前の問題として、あらゆるデータが一元的に収集されること自体を問題とすべきです。市民の側もよく議論を深めておかないと企業や権力のやりたい放題になってしまいます」(内田さん)
日本共産党の清水忠史衆院議員も「大量の個人情報と顔認証、マイナンバーとの結びつきが強化されれば、住民に対する管理・監視にもつながり、プライバシーや人権の視点から非常に問題があります」と指摘。「官民から漏えいが相次いでいる個人情報も、保護の強化こそ求められます」と話します。
総理案件で緩和
内田さんが法案に盛り込まれた、もう一つの危険な仕組みとしてあげるのが、首相のトップダウンで包括的な規制緩和を進める仕組みです。
国の選定を受けた自治体が民間企業や内閣府と「区域会議」を設け、構想の実現に必要な規制緩和などの計画案を策定。提案を受け取った首相が、関係省庁に特例措置の検討を要請したり、首相が議長を務める特区諮問会議からも勧告を行ったりします。
「『総理案件』として各省にまとめてプレッシャーをかけるわけです。計画には住民の意向を踏まえるとしていますが、それをどう保障するのかはまったく示されていません」(内田さん)
昨年6月、内閣府が大阪市で開いたスーパーシティ関連フォーラムには200社を超える企業が参加。竹中平蔵・パソナグループ会長が基調講演に立ちました。同氏は2018年10月、座長を務める政府の有識者懇談会で、スーパーシティでは「国・自治体・企業で構成するミニ独立政府」を運営主体とすべきだとする「原則」を示しています。そこでは、主権者である住民は「参画」の機会が与えられるにすぎない存在におとしめられています。
本質から目そらす幻想
自治体政策に詳しい奈良女子大学の中山徹教授の話 スーパーシティは、国際競争の中での先端技術での遅れに焦る日本の財界と政府が新たな収益源の開発を狙って推進している都市戦略です。そこでは、住民が自治能力のある市民としてではなく、企業と行政から生活を管理され、消費を引き出される対象と位置付けられています。政府は、先端技術の発達だけで人口減少や少子高齢化などの社会的課題が解決するかのように描いていますが、問題の本質から目をそらす幻想です。まずは第1次産業の振興や子育て支援など当たり前の政策を進める中で、先端技術は、市民生活に役立つよう使うべきです。

(上)スーパーシティの概念図(内閣府資料から)
・企業が地域住民を支配する?「スーパーシティ法案」の恐るべき正体(週刊エコノミストOnline 2020年6月29日)
立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
※◇なぜニュースは重要な問題を報道しないのか
日本では国民が1つのニュースや事件に目を奪われている隙に、どさくさ紛れで議論に時間が掛かる法案を通してしまったり、政治家の恥部が明るみにならないように隠蔽される事例が多々あります。この手法は日本政府の常套手段です。
東日本大震災時には、消費増税、TPP参加の議論が加速していました。
2019年の西日本豪雨の最中、重要なインフラである水道を民営化するための改正水道法が可決されていました。
新型コロナショック時、種苗法改正案や検察庁法改正案を政府が国会で成立させようとしていたのですが、柴咲コウさんなどの芸能人や影響力ある人達のSNSを使った反対運動に配慮した形で政府は先送りを余儀なくされました。
佐々木希の旦那さんでアンジャッシュ渡部さんの不倫問題が世の中を騒がせている間、親中派自民党二階幹事長の要請を受けて1-2月にかけて東京都備蓄用防護服の中国へ無償寄贈、学歴詐称、特定ベンチャー企業との癒着、特定PR会社への高額支出などたくさんのスキャンダルを抱えた小池知事は、7月の都知事選に向けて、二階幹事長という権力者の力添えを得て、自分への批判の矛先を逸らすことに成功したのかも知れません。
◇企業が住民を支配する?「スーパーシティ法案」の問題点
そうした疑いをもたれそうな案件が直近でもうひとつありました。
石田純一さんの新型コロナ感染ニュースで一色の最中、4/16にスーパーシティ法案が衆議院本会議で可決しました。
また参議院では、多くの芸能人も参加しSNSにおいて反対運動が盛り上がった検察庁法改正案を隠れ蓑にするかのように、5/27にスーパーシティ法案が可決しています。つまり、別の法案を取り上げてそれが炎上している内に、本命の法案を通過させる技とも考えられるのです。
スーパーシティとは、内閣府が20年3月に公表した構想案によりますと、
(1)「移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全の10領域のうち少なくとも5領域以上をカバーし、生活全般にまたがること」
(2)「2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現すること」
(3)「住民が参画し、住民目線でより良い未来社会の実現がなされるようネットワークを最大限に利用すること」
という3要素を満たす都市と定義されています。
簡単に申し上げれば、AIやビッグデータを活用し、自動運転やキャッシュレス、行政手続きの簡易化や遠隔医療・教育など、生活全般をスマート化する「丸ごと未来都市」のことです。
ポイントは、中央政府ではなく、ミニ独立政府がスーパーシティを管理、運営していくという事です。
注目すべきなのは、そのミニ独立政府の構成員が国家戦略特区担当大臣、市町村の首長、そして「企業及び企業のビジネスと深い関わりのある関係者」であるとされています。ですから、もしかするとスーパーシティの住民より企業利益が優先されるような管理、運営になるのではないかと危惧されているのです。
◇中国モデルを日本で導入?利便性向上の行末
既に北京、上海、杭州でスーパーシティが創造され、始動しています。米中覇権戦争の渦中にも拘らず、世界一進化している中国と日本は2019年8月30日、地方創生に関する協力を強化する覚書を交わしました。これにより、日本は最先端技術の実証実験を街全体で行うスーパーシティの整備に向け、先行する中国と連携を強化することで、実現性を高めることを狙ったのです。
「世界で一番ビジネスをしやすい環境を作る」という目的を達成するために、地域ごと、分野ごとに分けて税制優遇付き規制フリー地域を国内の随所に作るという国家戦略特別区域法が2014年12月から施行されましたが、スーパーシティ法はその国家戦略特区法の改正案なのです。
便利さが増す一方で、国や自治体、警察、病院、企業が、今は別々に所持している個人情報( 例えば、納税の状態や既往症、位置・移動情報や商品の購買歴といった個人情報 )の垣根が壊され、AIによる一元化が進みます。そしてそれにより日本が超監視社会に変化してしまうリスクが高まっているのです。更に、そのデータを中国が管理できるような仕組みになれば、日本の国家安全保障問題にまで進展してしまう事にもなり兼ねません。
スーパーシティ導入によるメリットも勿論あるでしょうから、賛否両論はありうると思います。ただ、この法案によって私達が居住する環境がどのように変化するのかを議論をし尽くしていると言えるでしょうか?そして私達はその変化によりどのようなデメリットが発生するのかを事前に認識できるのでしょうか?
新型コロナショック発生以降、私達は自分の生命の保全は政府や企業に委ねるのではなく、自己責任で行わなければいけない時代に突入したと自覚しなければいけません。さもなければ、私達はこの時代の変化から取り残されてしまうのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。
・帝国になったGAFA 世界で民衆蜂起 覇権の終わりの始まり(日経ビジネス 2020年1月3日)
※巨大な経済規模と影響力を手に「帝国」のごとく振る舞うGAFAへの逆風が強まる。既存秩序を揺るがす破壊的イノベーションに、世界各地の民衆が反発する。2010年代に野放図に拡大を続けた「GAFAの時代」の終わりが始まった。
カナダ・トロントを象徴するオンタリオ湖の水辺に、サイドウオーク・ラボは事務所を構える。開発から取り残された水辺にスマートシティーを建設する計画を推し進める、米グーグルの兄弟会社だ。
完成した都市の姿を市民がイメージできるよう、事務所の1階にはショールームが設けられている。出迎えてくれた説明員はプロジェクトの全体像を記した分厚い冊子をパラパラとめくりながら、「写真やイラストがふんだんに載っていて、読んでいてわくわくするのだけれど、私がぜひ見てもらいたいのはこっち」とフロアの中央へと歩みを進めた。
そこにはマンションなどが林立する未来都市のジオラマが設けられていた。ヨガ教室にカフェ、クリニックが路面に軒を連ね、その間を自動運転車が走る予定だという。インターネットで注文した商品は、自走式の台車がマンションの宅配ボックスまで配達してくれる。家庭や商業施設から出たゴミは、地中管を通って収集車に送られる……。

(上)米グーグルの兄弟会社サイドウオーク・ラボが建設を目指すスマートシティーの模型(右)と完成予想図(下)
理想の未来かディストピアか
説明員が目を輝かせて披露したのは、先進技術に支えられた理想の都市だった。
しかし、その説明に全く同調できないトロント市民がいた。
「テック企業が支配するディストピア(暗黒郷)が形づくられようとしている」──。こう訴えるのは、地元の都市計画コンサルタント、トーベン・ワイディッツ氏である。サイドウオークが2017年10月に水辺の再開発計画に名乗りを上げてから、同じ考えを持つトロント市民と一緒に反対運動を展開してきた。
ワイディッツ氏は、サイドウオークとグーグルは同一だと見なしている。
「グーグルは全米50州・地域で反トラスト法違反がないか調査を受けている。そんな会社に都市計画を任せるわけにはいかない」
特に警戒するのがスマートシティーで収集するデータの取り扱いだという。「グーグルは公共サービスに役立てるという名目で、人々の行動を様々なセンサーで把握する。それはグーグルによる市民の監視にほかならない。プルマンのような都市の再来を予感させる」というのがワイディッツ氏らの主張である。
プルマンは、19世紀後半に米国で鉄道の客車メーカーを経営するジョージ・プルマン氏が建設した企業城下町だ。イリノイ州で購入した広い土地に工場と労働者向けの住宅を建てた。
自分の名前を付けたこの地で、プルマン氏は絶対君主のように振る舞った。自分の息がかからない新聞は発行を禁止し、討論会も禁じた。労働者の精神を荒廃させるとして歓楽街もつくらなかった。検査員が各家庭を定期的に訪問して回り、部屋を清潔に保っているかを確認、不潔なら賃貸契約を打ち切ることができた……。
プルマン氏は住民が幸福に暮らせる理想郷を目指したが、その実態は資本家が労働者を監視・統制するディストピアだった。
各種センサーで住民の一挙手一投足を追跡するグーグルのスマートシティーは「21世紀のプルマン」だとワイディッツ氏は訴える。
サイドウオーク側は第三者機関にデータの管理を任せるとしている。しかし、ワイディッツ氏ら反対派の不信感は収まらない。
トロント市などが設置した再開発計画の監督機関は、高まる反対運動を受けて19年10月末、計画に制限を加えると発表した。サイドウオークは当初、再開発する土地を最終的に76万9000m2まで拡大する意向を示していたが、これを東京ドーム約1個分の4万9000m2に縮小した。第三者機関がデータを管理する構想も却下し、法律と規制に基づいてより厳格な管理下に置くことにした。
ワイディッツ氏は「勝利を収めることができた。ただしまだ第1ラウンドが終わったにすぎない。計画が最終決定するまで気を抜けない」と語る。
FBの情報流出で潮目変わる
巨大テック企業を町から締め出そうとする運動は世界に広がる。
米アマゾン・ドット・コムは19年2月、米ニューヨーク市に第2本社を設置する計画を撤回した。地元自治体から助成金や税制優遇を受けるにもかかわらず、雇用などの面で地域社会への還元が限られるとして、市民の反対運動に押された格好だ。ドイツ・ベルリンでは町の雰囲気を損なうとして、グーグルの新オフィス建設計画に対する反対運動が巻き起こった。
GAFAに代表される巨大テック企業は、いつから民衆の“嫌われ者”になったのか。
ワイディッツ氏はフェイスブックからの情報流出が発覚した18年3月に潮目が変わったと感じている。「最終的に8700万人分の個人情報が英調査会社ケンブリッジ・アナリティカに流れていたことが明らかになり、世界中が驚いた。以来、トロント市民の反対運動が勢いづいた」と言う。
16年の米大統領選でもロシアの世論工作を放置するなど、度重なるフェイスブックの失態は、グーグルを含む巨大テック企業全体への不信感へとつながった。IT関連の口コミサイトを運営する米トラストラジウスが19年4月に米国で実施したアンケート調査によれば、GAFA4社のうち信頼するに足る企業が「1社もない」と回答した比率は43%にも上る。
人々がGAFAを畏怖するのは、その圧倒的な規模や影響力が国家をも上回るようになったためでもある。

従業員数が合計100万人にすぎないGAFAの総時価総額は、世界4位の経済大国ドイツのGDP(国内総生産)にほぼ肩を並べた。将来への期待を含めたGAFAの企業価値が、人口8300万のドイツ国民が1年間に生み出す価値と同等ということだ。
DATA GAFAの規模は国家レベル
2010年代に急成長したGAFAの合計売上高は、既にサウジアラビアのGDPと同レベル。膨大な利用者数を背景とした圧倒的な収益力を生かし、技術開発とM&Aにまい進する。今後も増え続ける見込みの世界のデータ量を考えれば、成長の限界はまだ見えない。

55億人のGAFAの「国民」
国家並みの経済力を手にしたGAFAの「国土」はサイバー空間に存在する。そのサービスや製品の利用者はいわば「国民」だ。人口は延べ55億人。彼らは国境にとらわれることなくサイバー空間を自由に移動し、反グローバリズム、反移民、自由至上主義など、考えを同じくする仲間とコミュニティーを形成している。
その結びつきは時に国家への帰属意識よりも強くなり、社会の分断を引き起こす。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授のジャレド・ダイアモンド氏は「テクノロジーは世界中のつながりを維持することを可能にするが、隣人とのつながりを弱める。コミュニティーの在り方が変わる可能性がある」と指摘する。
GAFAは彼らの思想信条、趣味嗜好を誰よりもよく把握している。検索窓に質問を打ち込んだとき、スマートフォンのGPS(全地球測位システム)機能で現在地を計測したとき、商品の購入ボタンや「いいね!」をクリックしたとき……。
ありとあらゆる機会をとらえてデータを収集し、AI(人工知能)で分析する。そこから本人も気づかなかったニーズをくみ取り、ネット広告やネット通販を通じて莫大な収益を上げている。
明日の暮らしを決めるのもGAFAだ。世界中から最高の頭脳を集め、量子コンピューター、AI、自動運転など先端技術の開発をリードしている。4社が1年間に投じる研究開発費は合計675億ドル(約7兆3500億円)に達する。ロシアが勢力圏を維持・拡大するのに拠出している軍事費を上回る金額を、サイバー空間での勢力拡大に向けて投じている。
「膨張主義」に走り、グローバルな租税の枠組みを巧みに回避するなど、時に国を超える存在として振る舞っているようにも見えるGAFA。経済学者で法政大学教授の水野和夫氏はそんな巨大テック企業を帝国になぞらえる。「歴史上の帝国はフロンティアを開拓することで繁栄してきた。グローバル化が進展し、物理的に開拓できる土地がほぼなくなった現代においてGAFAが繁栄を続けられるのは、サイバー空間を新たなフロンティアとして見いだしたからだ」と分析する。
歴史上の帝国は、フロンティアの開拓で獲得した植民地などの支配地域から、事業活動の元手になる原材料や労働力などの資本を収集し、自国を発展させてきた。
例えば19世紀まで栄華を誇った大英帝国が収集した資本の一つに、インドの綿花がある。インドから輸入した綿花を原材料に機械で綿布を織り、世界に輸出することで英国は富を手にした。
覇権国として世界に君臨した「20世紀の帝国」ともいえる米国は、自国の石油メジャーを通じて産油国から思いのままに石油を輸入することで工業化を進めた。
しかし英国も米国も民衆の蜂起に直面することになる。1850年代にインドで発生したセポイの反乱は、機械で大量生産された英国製綿布の攻勢を受けて、インドの手織り産業が壊滅したことが背景にある。その後、マハトマ・ガンジーが率いた独立運動へとつながり、英国のインド支配は1947年に終わりを告げた。
米国による石油ビジネスの支配は70年代に終焉する。「資源ナショナリズム」で高揚する民衆の支持を背景に、産油国の政府が欧米石油メジャーが持つ油田などの資産の国有化や、石油輸出国機構(OPEC)の結成に踏み切り、主導権を奪取した。自分たちの資本を帝国の繁栄のために奪われてなるものかという民衆のパワーに後押しされた。
果たして歴史は繰り返すのか。国家の枠組みを超え、帝国として振る舞うGAFAに民衆が強い拒否感を示すようになってきた。
英国や米国に富をもたらした綿花や石油は、GAFAにとってデータに相当する。GAFAの繁栄のために、個人情報を奪われてなるものか──。そう考える民衆は着実に増えている。
非営利の調査機関、米センター・フォー・データ・イノベーションが2019年1月に発表した報告書では、8割の人々が「グーグルやフェイスブックによるデータの収集量を減らしてほしい」と考えていることが明らかになった。暗号技術などを駆使し、プライバシーを厳格に守るとうたうチャットサービスや検索サービスの利用者が増えているのはその証左だ。
スイスのプロトンテクノロジーズが提供するメールサービスは、プライバシー重視を掲げるサービスの一つだ。プロトンが個人情報を活用することも、第三者に提供することもないと確約している点が支持されている。
同社のアンディー・イェンCEO(最高経営責任者)は「『プロトンメール』の利用者は過去3年間に毎年2倍のペースで増えており、2000万人に達した」と話す。増加のペースを維持できれば、3年後には利用者が1億6000万人に到達する。
プロトンメールの利用者はグーグルのGメールからの移行組が6、7割を占めるという。10億人以上が使う世界最大のメールサービス、Gメールの牙城を切り崩す。野放図に拡大を続けるグーグルに大勢が「ノー」を突きつけた格好だ。
日本各地でも反対運動
テック企業への反逆は日本でも始まった。
公正取引委員会が19年4月に公表したアンケート調査では、テック企業による個人情報の収集・利用・管理に「何らかの懸念がある」とする日本の消費者は76%にも上った。多くの日本人にとってその漠然とした不信感は、19年8月に確信に変わった。
就職情報サイト、リクナビを運営するリクルートキャリアが就活生の「内定辞退率」を本人の同意なしに予想し、トヨタ自動車、三菱商事など37社に販売していたことが発覚したのだ。
就活生から集めた個人情報の分析結果を、本人の不利益になる形で売ったとして大学関係者は憤慨している。就活を支援する中央大学キャリアセンターの池田浩二副部長は、「リクルートキャリアとは縁を切った」と言う。学生向けの冊子に載せる就職情報サイトの一覧からリクナビを除外し、今後学内で開く就活イベントでリクルートキャリアに協力を求めることもない。明治大学もリクルートキャリアとの関係を見直した。
各方面で影響力を増し続けるテック企業と民衆の摩擦は激しくなる一方だ。その主な原因の一つは「破壊的イノベーション」にある。テック企業はイノベーションと称して世界各地で既存の秩序を壊し、地元住民の反発を招いている。
米大手PR会社エデルマンが19年1月に発表した調査結果によると、「技術革新が速すぎて、自分のような人にとっては物事が悪い方向へ進んでいる」と感じている人の割合は日本で36%に達する。
米国はさらに多く、48%だ。米国ではアマゾンの通販サイトに客が流れたことで小売店の大量閉鎖が進み、米ライドシェア大手ウーバーテクノロジーズに乗客を奪われたタクシー運転手の自殺が相次いでいる。各方面で破壊が進む米国社会を他山の石に、米テック企業がもたらすイノベーションへの抵抗運動が日本各地で広がる。
「安心、安全なタクシーを守ろう!」
ウーバーに出資し、日本でのライドシェア解禁を目指す東京・汐留のソフトバンクグループ本社前などでは、タクシー運転手らが定期的に街宣活動を繰り広げている。
運転免許証と自家用車さえあれば基本的に誰でも旅客輸送が可能なライドシェアが認められれば、タクシー運転手は苦境に陥る。タクシー運転手の労働組合、自交総連の菊池和彦書記長は、「ライドシェアは運転手の健康や車両の整備状況をチェックする体制がなく、安全に不安がある」と主張し、ライドシェア解禁の阻止を目指す。
「民泊、やめとくれやす」
民衆の怒りの矛先は民泊仲介の世界最大手、米エアビーアンドビーにも向かう。
京都駅から徒歩15分ほどの地区の町内会副会長を務める黒川美富子氏は、生活環境が損なわれたと実感している。外国人観光客がエアビーなどの民泊仲介アプリで近所の住宅を予約するようになったからだ。
「あっちも民泊施設だし、こっちも民泊施設。朝、生け垣の草花に水をまいていると、外国人観光客がキャリーバッグをゴロゴロ引いて歩いている。ここはどこの国なのと思ってしまう。京都駅からの徒歩圏内はどこも同じような状況だ」と言う。
黒川氏は自宅には「やめとくれやす、この町に民泊・ゲストハウス」という大きな看板を掲げ、同じ文言のポスターを周囲にも張っている。「民泊施設の関係者から金銭を支払うから看板を撤去してほしいとお願いされたが、取り下げることはない」と徹底抗戦の構えだ。
アマゾンが地域社会に悪影響を及ぼしていると主張するのは、全日本仏教会の戸松義晴事務総長だ。問題視しているのは、アマゾンが扱う僧侶派遣サービス「お坊さん便」だ。葬儀や法事に呼ぶ僧侶を手配するサービスとしてベンチャー企業の「よりそう」が15年からアマゾンに出品している。
アマゾンを介して僧侶と遺族が直接取引することで、その間に立っていた菩提寺の仕組みが破壊されると戸松氏は懸念する。「地域住民と菩提寺が代々つながっていた関係が、その都度サービスと対価だけをやり取りする無機質なものに変質していく」と語る。高まる批判を受けて、よりそうは19年10月にアマゾンでの販売を停止した。戸松氏ら仏教界の4年越しの反対運動が功を奏した格好だ。
「世界を変える」と意気込み、フロンティアの開拓にまい進する巨大テック企業を押し戻そうと、世界各地で民衆が立ち上がる。ウーバーに対するタクシー運転手のデモは米国や香港、フランスやイタリアで頻発する。スペインではエアビーなど民泊への市民の抗議活動が激しくなり、インドの小売店の間ではアマゾンへの反発が広がる。
アマゾンは雇用に貢献していると強調し、アップルはほかの巨大テック企業と異なりプライバシーを重視していると喧伝するなどGAFAは血眼になって民衆をなだめにかかっている。しかし反GAFAの世論は収まる気配がない。
そうした民意をくむ形で、各国の政府もGAFAを脅威と見なすようになった。巨大テック企業を抑え込もうと始まった国家の反攻。その最前線、欧州へ向かった。
・米グーグル、「デジタル都市」計画を中止 新型ウイルスが影響(BBC 2020年05月8日)
※米グーグルの姉妹企業「サイドウォーク・ラブズ」は、カナダ・トロント沿岸部にデジタル都市「スマート・シティ」を構築する事業を中止した。COVID-19(新型コロナウイルスによる感染症)の世界的流行が理由という。
サイドウォーク・ラブズは数年間にわたり、トロントの工業地帯での「スマート・シティ」の構築に力を注いできた。
同社のダン・ドクトルフ最高経営責任者(CEO)は、「経済がかつてないほど不安定」になっているため、計画を取りやめたと説明した。
この計画は以前から物議を醸していたため、同社はすでに計画規模の縮小を余儀なくされていた。
トロント沿岸部をめぐっては、カナダ政府、オンタリオ州政府、トロント市が2001年、再開発計画事業を担う機関「ウォーターフロント・トロント」を設立した。
「財政的に実現不可能」
ドクトルフCEOはブログで、「世界中で、またトロントの不動産市場において、経済がかつてないほど不安定になっている。そのため、真に包括的で持続可能なコミュニティを構築するという、ウォーターフロント・トロントと共に立てた計画の中核部分を犠牲にすることなく12エーカー(約4万8500平方メートル)規模の都市を実現するのは、財政的に不可能だ」と書いた。
「この2年半の間に我々が進めてきた構想は、とりわけ手ごろな価格や持続可能性の分野における、都市が抱える大きな問題への取り組みにとって、大きな貢献になると信じている」
この構想では、自動運転車やごみ回収の画期的な方法、大気質や人々の移動に関するデータ収集のための数百ものセンサーといった、テクノロジーを駆使した都市の実現を目指していた。建物は地球に優しく、急進的な新しい方法で建設されるというものだった。
落札をめぐり疑問視する声も
一方で、サイドウォーク・ラブズがどのように契約を勝ち取ったのかについて疑問視する声もあった。
同社が当初の説明よりもはるかに大きな規模の開発を計画していることが明るみになると、計画に反対する市民によるロビー団体が、なぜ自分たちはデジタル実験の「実験用マウス」にならなければならないのかと反発した。
この計画を精査するために設置された第三者委員会の報告書は、構想の一部は「技術のための技術」であり、不要とされる可能性があると示唆した。
サイドウォーク・ラブズには、最終的に計画継続への暫定的許可が与えられたが、規模を190エーカー(約76万9000平方メートル)から12エーカーへと大幅に縮小することとなった。
また、センサーを用いて収集したいかなるデータも、共有資産にしなければならなくなった。

(上)サイドウォーク・ラブズによる「スマート・シティー」構想
サイドウォーク・ラブズの計画中止を受け、ウォーターフロント・トロントのスティーブン・ダイヤモンド会長は、「これは我々が望んでいた結果ではないが、トロントの未来のためのサイドウォーク・ラブズの構想や努力、そして同社および同社従業員による多くの貢献に対し、感謝を申し上げる」と述べた。
「キーサイド(都市計画を進めていた土地)は、トロント、そして世界中の都市が発展し、成功し続けるために対処しなければならない、手ごろな価格の住宅や移動性の向上、気候変動やそのほかの都市部における課題への革新的な解決策を模索するための、素晴らしい機会を提供する場であり続ける」
サイドウォーク・ラブズのドクトルフ氏はブログで、同社は「ロボット家具から電力のデジタル化に至るまで、あらゆることに取り組み」、新興企業への投資を継続していくと述べた。
「我々は、住宅価格をより手ごろにできる、工場で生産したマスティンバー(複数の木材を組み合わせ、強度を向上させた集成材)を使った建築に関して社内的に取り組み続ける」
※これはいいニュース!
・注目の発言集 スーパーシティ整備向け 中国と協力 片山担当大臣(NHK政治マガジン 2019年9月3日)

※片山地方創生担当大臣は、中国政府との間で地方創生に関する協力を強化する覚書を交わしたことを発表し、最先端技術の実証実験を街全体で行う「スーパーシティ」の整備に向け、先行する中国と連携を強化することで、実現に弾みをつけるねらいがあるものとみられます。
片山地方創生担当大臣は閣議のあとの記者会見で、先月30日、中国政府で経済政策を統括する国家発展改革委員会のトップ、何立峰主任と地方創生に関する日中両国の協力を強化する覚書を交わしたことを発表しました。
それによりますと、両国の担当部局の局長級でつくる「業務推進検討会議」を新設したうえで、原則として1年に1回、会合を開いて意見を交わすほか、日中合同で、地方活性化などをテーマにした催しを開催することなどを検討するとしています。
政府は、最先端技術の実証実験を街全体で行う「スーパーシティ」の整備を目指して、同様の都市開発を大規模に進める中国との連携を強化することで、実現に弾みをつけるねらいがあるものとみられます。
※ブログ主コメント:「スーパーシティの正体=デジタル共産主義」であることを暴露しています。
・スマートシティが突きつける難題…輝ける未来にはプライバシーがない?「監視資本主義の植民地化実験」か(ゲンダイismedia 2021年3月7日)
野口 悠紀雄
※ビッグデータの活用によって、都市の課題を解決し、エネルギーの効率的利用をはかる「スマートシティ」の計画が、日本でも進められている。しかし、スマートシティには、プライバシーがあるのか? また、個人情報のこうした活用は許されるのか?
グーグルによるスマートシティ計画の挫折は、さまざまな問題を突き付ける。
「輝ける」未来都市-スマートシティ
2月23日に、静岡県裾野市のトヨタ自動車東日本・東富士工場跡地に隣接する旧車両ヤードで、「Woven City」(ウーブン・シティ)の建設がスタートした。ここで、自動運転やロボット、AI技術など、さまざまな新技術を実証する。
これは、 「スマートシティ」と呼ばれる新しいコンセプトの都市だ。世界中で計画が進んでいる。日本でも、横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市などで実証実験が行われている。
スマートシティをさらに進めた「スーパーシティー」構想を実現するための国家戦略特別区域法の改正案が、2020年5月に可決し、成立した。
IoTやAI、5Gなどの技術や、ビッグデータの蓄積と活用によって、都市の課題を解決し、快適性や利便性を向上させる。エネルギーの効率的利用をはかり、省エネルギー化を実現して大気汚染問題を解決する。物流面でも、ビッグデータの活用によって効率化がなされるという。
このように素晴らしいことばかりで、「輝ける夢の未来都市」に目がくらみそうだ。
スマートシティの中核にあるのは「データ」
多くの都市は自然に形成されたが、人工的に新しい都市(計画都市)を作ろうとする試みは、歴史上、数多くなされてきた。古代ローマ時代の植民都市、サンクトペテルブルク、ブラジリア、キャンベラ、イスラマバード、等々。
スマートシティがそれらと違うのは、「データ」の概念が中核にあることだ。それを用いて、様々なことを実現する。
この具体的なイメージは、トロントのスーパーシティー構想を見るとよく分かる。グーグルの親会社であるアルファベット傘下のサイドウォーク・ラボが、トロントのウォーターフロント地区の一部を再開発するプロジェクトの構想を2017年に発表した。
ごみは地下のダストシュートを通って捨てられ、歩道には発熱の機能があるという「未来都市」だ。
あらゆるデータをサイドウォークが集め、そのデータを活用して、エネルギーや輸送などの各種システムを運用する。
データ収集のため、建物の内外や通りに、そして街中に、無数のセンサーを設置する。AIが動かす自動制御装置によって遠隔操作を行う。 IOTを利用し、様々な行動が収集される。
住民の行動はすべて記録に残される。散歩の回数や散歩経路、公園でどのベンチに座ったか、道を横切る際にかかった時間まで追跡される。
各個人の水の使用量、健康状態、位置情報の履歴も記録される。
交通渋滞や大気汚染、騒音などをなくし、快適な都市空間を創造していくには、これらのデータが不可欠だというのがサイドウォーク・ラボの主張だ。
つまり、スマートシティの基本にあるのは、そこに住む人々の詳細な行動の正確な把握だ。
これまで、グーグルやフェイスブックなどの巨大プラットフォーム企業が行なってきたことを、スマートシティの運営者が行なうことになる。
スマートシティにプライバシーはあるのか?
このように、スマートシティでは、あらゆる住民のあらゆる行動が常に監視される。
昔ある女性から聞いた話だが、夫以外の男性と夕食をしたとする。小さな町だと、翌日にはそのことを町中の人が知っている。そうした場所には住めないといった。大都市ではそんなことはない。しかし、小さな町ではそうなってしまう。
スマートシティでは、それどころではない。どんな料理か、ワインの銘柄は何か、等々まで知られてしまうだろう。
中世のドイツで、「都市の空気は人間を自由にする」と言われた。これは、農奴が都市に移り住めば自由民になれることだが、伝統的な地域社会を脱出して都市に来れば、匿名性を享受できたことでもある。
スマートシティでは、さまざまな個人情報が収集され、エネルギーの効率的利用がなされる。これは、大変素晴らしいことと思う。
しかし、それと引換えに、匿名性や個人の自由という、都市の最大の魅力は失われるのだ。
この街では、泥棒はいなくなるだろうし、痴漢もいないだろう。官僚が接待を受けても、すぐにそのことがばれてしまうだろう。
私は品行方正なので、情報を集められても全く気にならない。しかし、こうした町は窮屈だと考える人もいるだろう。
プライバシーは保護される。だが……
上で述べたのは、私の勝手な想像だ。
トロントのプロジェクトでは、もちろん、個人情報は、厳格に保護される。
公共の場でのデータ収集については事前に同意を得ることが難しいため、すべてのデータを匿名化して、個人を特定できないように分割する。第三者へのデータの販売は絶対に行なわない。また、一定の手続きを踏めば、収集されたデータを住民が確認できるシステムを作る、等々だ。
日本でも、スマートシティを運営者は、個人情報保護に最大の配慮をするだろう。そして、匿名性は保障されることになるだろう。
しかし、仮にそうしたことが実行されるとしても、それで終わりではない。
トロントのスマートシティ構想の挫折
プライバシーが侵されないにしても、「そもそも、個人情報をプラットフォーム企業や国家が利用してよいのか?」という問題がある。
SNSで情報を発信したり、インターネットで情報を検索や閲覧したり、ウエブショップで買い物をしたりすると、それは行動履歴のデータとして、サービスの提供者に蓄積されていく。
それらのデータは、AIによるプロファイリングに利用される。そして、ターゲティング広告やセールスに使われる。あるいは、新しいサービスの創出に活かされる。この過程で、プライバシーは侵されていない。
しかし、データを収集した企業がそれを利用し、収益を挙げているのは事実なのだ。これは許されるのか? EUのデータ規制が問題とするのは、まさにこの点だ
グーグルは、スマートシティを建設し運営することによって、都市生活や人間の行動について、深い知見と洞察を得ることになる。それが何に使われるかは、分からない。グーグル自身も、確たる見通しを持っていないのかもしれない。
しかし、想像もつかぬほどの大きな成果と利益がもたらされる可能性もある。それは、住民に還元されるのではなく、グーグルが独占する。
カナダでは、自分たちのデータがどう扱われるのかについて不信感を抱く人が、次第に増えてきた。人権団体は、カナダは「グーグルの実験マウスではない」と反発した。
ブラックベリーの創業者であるJim Balsillie氏は、「監視資本主義の植民地化実験」だと評した。
結局のところ、トロントのプロジェクトは、サイドウォーク・ラボが 2020年5月7日に計画を断念したことによって終わりを告げた。
個人情報や自由は本当に重要なものなのか?
しかし、問題は、これで終わりになるほど簡単なものではあるまい。本当のところ、人々は、個人情報をそれほど重要とは考えていないのかもしれない。
中国では、街中に監視カメラがあっても、「悪いことをする人が捕まるので良いことだ」という人が多い。
これについては、新型コロナウィルスが新しい問題を提起した。接触感染アプリをプライバシーを無視した仕様にすれば、強力なものになるということだ。
いや、コロナのずっと前から、われわれは、検索サービスやメールのサービスを利用し、SNSを利用してきた。こうしたことを通じて、個人情報プラットフォーム企業に提供してきた。そのデータが、プラットフォーム企業に利用されることを知っているにもかかわらず。
スマートシティもそれと同じことだ。個人のプライバシーが侵害されることよりも、エネルギー利用の効率化のほうが重要だと考える人のほうが多いのかもしれない。
もっといえば、人間にとって、自由やプライバシーは、それほど重要なものではないのかもしれない。
人間は、実のところ、支配されることを望んでいるのかもしれない。
これこそ、ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」で提起した問題だ。
スマートシティは、この永遠の問題を、新しい形で突きつけている。