・安倍首相は「緊急事態ギャンブル」に敗れた(アゴラ 2020年04月29日)

池田 信夫




これは反証可能な予測だが、そんなことには絶対ならない。賭けてもいい。 https://t.co/kg587kiguW

— 池田信夫 (@ikedanob) April 7, 2020


安倍首相の4月7日の緊急事態宣言は、日本では珍しく数値目標と達成時期を明確にした政策だった。彼は記者会見で次のようにのべた。


東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。

これは反証可能な予測だが、現実の東京の実績はどうだろうか。

緊急事態宣言の2週間後の21日には、東京都の累計感染者数は3307人。3週間たった27日でも4000人に満たない。つまり2週間後に東京の感染者数が1万人になるという安倍首相の予測は反証されたのだ。

ではこれが1ヶ月後の5月7日に8万人になるだろうか。東京都の感染者数の倍加時間(累計が2倍になる時間)は16日なので、このペースだと21日の約3300人が5月7日には6600人になるが、8万人には遠く及ばない。つまり1ヶ月後に8万人になるという予想も反証されることは確実である。

問題は「8割削減」だが、これも先日の記事で書いたように、4月7日の2週間後に緊急事態宣言の効果が出る前の4月12日に新規感染者数がピークアウトしており、その後も大きく下方屈折した形跡はない。緊急事態宣言を解除しても、感染爆発が起こる可能性はない。安倍首相は緊急事態宣言というギャンブルに負けたのだ。

感染拡大が抑えられているのは自粛の効果ではない

東京都の小池知事は政府に緊急事態宣言の延長を求めているが、全国の実効再生産数を求めたサイトでは、東京の実効再生産数は下から10位の0.38である。なぜ感染拡大が予想を大幅に下回っているのに、緊急事態宣言を延長するのか。

本質的な問題は医療資源だが、重症患者数も20日ごろピークアウトしており、東京都は軽症患者をホテルに移送して負担を軽減したので、これから医療が崩壊する心配はない。

最後の逃げ道は「自粛をやめたら感染爆発が起こって42万人死ぬ」という西浦モデルだが、上のようにこれにもとづく安倍首相の予言は大きく外れたので、あらためて検討する必要もない。理論とデータが合わないときは、理論を棄却するのが科学の鉄則である。

感染爆発すると思い込んでいる人の頭には、欧米の状況があると思われる。たしかに西欧のコロナ死亡率は日本の100倍以上だが、これを自粛で説明することはできない。自粛もロックダウンもしていない東アジアの死亡率も、日本と同じぐらい低いからだ。

東欧や南米も含めて低い死亡率を説明できるのは、今のところBCG仮説だけである。BCGで感染率の下がる効果ははっきりしないが、死亡率への効果は大きい。したがってこれは感染そのものより重症化を防ぐ「自然免疫」ではないかというのが、免疫学の専門家の推測である。

いずれにせよ確認できる科学的根拠による限り、現在までの日本のコロナ死亡率が低い原因は自粛のおかげではなく免疫の要因だと推定するのが合理的である。したがって5月7日以降も緊急事態宣言を延長する理由はない。


・緊急事態宣言1カ月延長なら10万円「再給付」を(JB PRESS 2020年5月2日)

舛添 要一

※中国は、4月8日に武漢の封鎖を解除し、全土で経済活動を再開している。町中に人が繰り出し、万里の長城などの観光地にも多くの人が来訪している。マスク着用など感染対策は継続しているが、「新型コロナウイルスの感染を抑え込んだ」という安堵感が伝わってくる。

中国政府は、ワクチンがまだ開発されていない以上、第二波、第三波の到来に備えなければならないとして、徹底した水際対策も継続している。同時に、中国政府は、マスクをはじめ、医薬品・医療機器の寄贈など、世界に向かって援助外交を展開している。アメリカがコロナ感染に苦しんでいる間に、したたかな外交戦略である。

トランプ大統領とクオモ知事、対立する意見

ロシアでも、10万人超と感染が爆発的に増加しており、感染者数で中国を上回ってしまった。アメリカやロシアは、初動の遅れが大きな原因となっており、そのツケが今になって回ってきている。

アメリカでは、トランプ政権が経済再開に前向きであり、それに対してニューヨーク州のクオモ知事など、現場を預かる知事たちは、感染拡大の防止のほうに重点を置いており、意見の対立が激しくなっている。国民も、二分されており、都市封鎖に反対する人々は州庁舎の前で抗議集会を開くなどしている。これに対して、クオモ知事は、「入院率が14日間連続して低下したら」、経済活動を再開するという基準を示している。

フランス、イタリア、スペイン、ドイツなどヨーロッパ諸国も、封鎖解除の段取りを次々と決めている。たとえば、フランスは、5月11日からほとんどの店を開けることができるようになる。

一方で、集団免疫論に基づいて、ほとんど規制しない方針を貫いている代表がスウェーデンとブラジルである。高齢者と基礎疾患のある人に対しては特に注意をしながら、経済や社会の活動を止めないことを基本路線としている。このような対応に対しては、感染症の専門家からは、多くの命を犠牲にする危険性があるとの批判が寄せられている。しかし、福祉大国スウェーデンも、「ブラジルのトランプ」と称されるポピュリストのボルソナロ大統領にしても、コロナで困窮する人々への対策は打っている。

以上のような諸外国の状況を見るとき、緊急事態宣言が5月6日に期限を迎える日本については、政府の解除戦略立案に不安を禁じえないのである。私は、極めて少数派だが、一貫して「緊急事態宣言そのものに大きな意味を見いださない」という見解を維持している。

宣言解除時期の決定に不可欠の科学的・疫学的データが欠如

欧米と日本は感染状況も緊急事態の法的仕組みも異なるので、何でも欧米の真似をすればよいわけではない。

最大の問題は、感染の実態が正確に掴めていないことである。それはPCR検査が不十分だからである。アメリカでは、検査を加速化させているし、抗体検査も実施している。しかし、日本では、安倍首相が1日に2万件と言っても、まだそれは実現されていない状況だ。

毎日、各自治体が公表する感染者数も、検査数に比例しており、週末には検査申し込み件数が減るので、感染者数も減っている。検査数と感染者数を同時に発表しなければ意味がないのに、マスコミも感染者数を伝えるのみである。感染者数を減らそうと思えば、検査数を絞ればよいだけの話である。

クオモ知事のように、入院率という指標にするとか、実効再生数、つまり、一人の患者が何人に感染させたかの数字を継続して見ていけばよいのだが、日本の専門家会議はこの発表を途中で止めている。

この数字は、西浦教授の数理モデルに基づいているが、複数の研究者によるモデルを競合させるべきであり、4月29日の日本経済新聞は、西浦モデルにのみ依拠する危険性を指摘している。西浦教授自身もそのことを認めており、複数の提案を求める努力をしなかった安倍首相や加藤厚労大臣の責任は重い。もし、西浦理論が間違っていれば、それに依拠した対応策も間違うということだからである。

緊急事態宣言を解除するかどうかについて、その判断基準となる科学的・疫学的データが欠如している。この状態で、どのようにして安倍首相は解除か延期かを決めるのだろうか。そもそも、専門家会議が正確に感染実態を掴んでいるのだろうか。

日本のコロナ感染が今のような状態になったのには、専門家会議の判断や対応ミスが大きく響いている。専門家会議の意見のみに依拠して政府が対応策を決めるのは危険である。

専門家会議のミスは、クラスター潰しにのみ専念し、市中感染の蔓延に手を拱いていたことにある。PCR検査に懐疑的で、意図的に検査数を減らしてきたのである。

欧州の都市封鎖はほぼ6週間、日本の緊急事態宣言「2カ月」は長すぎないか

その一方で、院内感染対策には十分な配慮をせず、この点について国民に訴えかけることもなかった。PCR検査をすれば患者が病院に殺到して医療崩壊が起こるという主張のみであったが、現実に起こっているのは、院内感染によって医療が崩壊している事態である。東京上野の永寿総合病院や都立墨東病院はその典型例だ。

マスクなどの防護具が圧倒的に不足しており、今でも入手困難で医療従事者からは悲鳴があがっている。日本政府の怠慢は厳しく批判されねばならない。台湾や韓国はマスクの問題は解決済みである。アベノマスクすら、まだ1割の世帯にも届いていない惨状だ。

アメリカと同様に、わが国でも、各地の知事さんたちは、緊急事態宣言の延期を求めているが、それは当然である。早期の解除で感染者が増えれば責任問題になるからである。しかし、感染防止とともに、崩壊しつつある経済にも配慮が必要である。

全国で非常事態宣言を1カ月延長するという決定になりそうであるが、そうすると丸2カ月間、外出や営業が自粛されることになる。ヨーロッパ諸国の例を見ても、ほぼ6週間というのが都市封鎖の平均的期間であるので、少し長すぎるのではないか。感染者や死者の数から見ると、日本はヨーロッパよりも圧倒的に少ない。

まだ届かない10万円、このままでは国民が日干しに

欧州での新型コロナウイルスの感染者・死者を見てみると、スペインが24万・2.4万人、イタリアが20.4万・2.7万人、フランスが17万・2.3万人、イギリスが16.6万・2.6万人、ドイツが16万・0.6万人となっている。まさに爆発的に感染が拡大したので、厳しい都市封鎖をして抑え込むしかなかったのである。何とかピークアウトし、やっと段階的に解除するところまで到達している。

そして、各国とも休業補償など、困窮する人々や業界に対して手厚い保護をしている。欧州は、アメリカと違って、積極的な財政支援など、「大きな政府」の伝統がある。

これに対して、日本は1.4万・437人であり、状況は全く異なる。「放置すれば感染者85万人、死者42万人」という西浦教授の数理モデルは、日本の実情を反映しているものなのか。国に応じて様々な変数への考慮が必要な中で、万国に共通した数理モデルを構築することが可能なのかどうか。人との接触を8割絶てという指示も、日常生活を維持するために働き続けなくてはならない人々のことを考えると非現実的である。

8割という「脅し」が効いたのか、休日の繁華街への人出がその程度減っているところが多いというのは驚くべきことであるが、政策は科学に基づいて立案されるべきであり、「脅迫」に頼ることがあってはならない。

しかしながら、緊急事態宣言の延期も科学に基づかない形で決まる可能性がある。もし、1カ月延長するというのなら、第2回目の10万円の現金支給を同時に決めなければ、生きていけない人々が続出するであろう。第1回目の支給もまだ開始されておらず、これでは日本国民は直射日光の下で日干しにされる惨状である。

危機に対応できる政治指導者を持たない国の悲劇である。