(7)興奮度増す被告「トランプ大統領かっこいい」
《植松聖(さとし)被告に対する弁護人の質問が続く》
弁護人「(重度障害者を殺害すると)事件前、何人ぐらいの人に話したのですか」
植松被告「50人ぐらいはいたかと思います。半分以上の方に同意や、理解をしていただいたと思います」
弁護人「それは、どういう反応をみて?」
植松被告「一番笑いが取れたからです。真実から笑いが起きたと思っています」
《なぜか2~3秒に1度、しきりに目をしばたたかせる植松被告。弁護人から「大丈夫ですか」と問われると、「よろしくお願いします」と応じ、質問は続行された》
弁護人「(事件を起こした)平成28年ごろは何があったか覚えていますか」
植松被告「(イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」)ISが暴れていました。人が戦車でひかれ、プールに沈められるのを見て、恐ろしい世界があると思いました」
弁護人「そのとき、ISの被害に遭っていたのは誰ですか」
植松被告「民間人です。殺されるべきではないと思いました」
弁護人「ほかに事件当時、起きていたことで何を覚えていますか」
植松被告「ドナルド・トランプ大統領が大統領選に出ていました」
《これまでの公判でも、知人の供述調書などから、植松被告がトランプ米大統領に心酔する様子が伝えられてきた。弁護人の問いかけが終わる前に話し始める場面もあるなど、明らかに興奮した様子が伝わってくる》
弁護人「トランプ大統領をどう思いますか」
植松被告「勇気を持って真実を話していると思います。メキシコとの国境に壁をつくるというのも、いいことかどうかは分かりませんが、メキシコのマフィアはとても怖いのは事実です」
弁護人「真実を話しているというのは…」
植松被告「かっこよく生きていると思います。すべてかっこいいと思いました。かっこいいからお金持ちなのだと思います」
弁護人「そのトランプ大統領は重度障害者を殺していいと言ってますか」
植松被告「いえ、それは私が気付いた真実だと思います」
《口調に熱が帯びる。なぜか、弁護人が話の矛先を各国の指導者に向けると、持てるだけの知識を披露しているようだった》
植松被告「おかげさまでプーチン大統領から(事件について)お言葉をいただけて光栄です」
弁護人「それはどうやって…(言葉が届いたのか)」
植松被告「事件のあとで、重大な問題だと伝わったと思います」
弁護人「ほかに、世界の指導者については?」
植松被告「(フィリピンの)ドゥテルテ大統領や金正恩、みなさん立派だと思います。ドゥテルテ大統領は覚醒剤をなくすため、売人を殺してきました。金正恩さんは、若いのに国を背負っていると、事件を起こして以降、思うようになりました」
《弁護人が再び、事件に話を戻す。やりとりのなかで植松被告は当初、「10月1日」に事件を起こすつもりだったと告白する》
弁護人「なぜ10月1日だったのですか」
植松被告「新たな門出という意味があるそうです。友人から聞きました。『1001』で、門のようになっているということだからだと思います」
弁護人「実行するのが7月に早まったのはなぜですか」
植松被告「重度障害者を殺すと周囲に言ってから、時間がたっていました。日本には年間8万人の行方不明者がいると知り、いつか誰かに殺されてしまうかもしれないと思いました」
弁護人「誰かにあなたの計画が伝わる(ことで殺される)と思ったのですか?」
植松被告「そうです」
《熱っぽく質問に答える植松被告をみて、弁護人が休廷を申し出る》
裁判長「あの、被告人、暑いですか」
植松被告「(やや、照れたように)少し、暑いです」
裁判長「上(上着)は脱いでいいですからね」
《職員が傍聴人に退廷を呼びかけ、一時休廷となる。証言台の前で刑務官にぐるりと囲まれた植松被告は、上着を脱いで涼んでいるようだった》
(8)直前に1日2回都内へ 車に電車、バス、ヒッチハイクも…
《植松聖(さとし)被告への被告人質問は約30分の休廷を挟んで午後2時40分頃再開した。裁判長に促されて植松被告が証言台に座ると、弁護人は事件当日の経緯を確認していった》
弁護人「(やまゆり園を襲撃した)7月26日というのはどう決まったのですか」
植松被告「たまたまです」
弁護人「意味のある日ではないのですか」
植松被告「はい」
弁護人「7月にやまゆり園に行った直前、7月25日にどこに行きましたか」
植松被告「ホームセンターでハンマーと結束バンドを買いました」
弁護人「その前は」
植松被告「大した話ではありません」
《姿勢を正して弁護人の方に顔を向け、はっきりとした口調で答えていく植松被告。しかし、都合の悪い質問なのだろうか、たびたび戸惑ったような声で答える場面もあった》
弁護人「男性の友人、知人と会ったりしましたか」
植松被告「はい」
弁護人「どこで」
植松被告「河原で」
弁護人「朝昼晩では」
植松被告「夜です」
弁護人「何をしたんですか」
植松被告「大麻を吸っていました」
弁護人「その後は」
植松被告「その後…? その後は事件を起こしました」
《質問の意図が分からないような様子で答える植松被告。弁護人は、大麻を吸った後について細かく質問していく》
弁護人「河川敷へはどうやっていきましたか」
植松被告「車で行きました」
弁護人「車で家に帰ったのですか」
植松被告「帰っていません」
弁護人「どこに行こうとしたのですか」
植松被告「えー…あまり、えーっと、何て説明すればいいか。説明の仕方が分かりません」
弁護人「どこに行ったんですか」
植松被告「新宿駅に行ったりしました」
弁護人「その前にマクドナルドに行っていませんか」
植松被告「はい」
弁護人「マクドナルドで何をしていましたか」
植松被告「車を置いていきました」
弁護人「なぜですか」
植松被告「GPS(衛星利用測位システム)が付いているかと…大した意味はありません」
弁護人「そこからどうやって移動したんですか」
植松被告「ヒッチハイクで移動しました」
弁護人「どこまでですか」
植松被告「バス停まで」
弁護人「知らない人に乗せてもらったんですか」
植松被告「はい」
弁護人「そこでどうしたんですか」
植松被告「バスが来るまで待ちました」
弁護人「始発のバスに乗ったんですか」
植松被告「そうです」
弁護人「その後は」
植松被告「漫画喫茶に行って自分の考えをノートにまとめました」
弁護人「考えとは(この日の)午前中(の弁護人による被告人質問)で言ったような」
植松被告「そうです」
弁護人「その後は」
植松被告「車を取りに戻りました」
弁護人「漫画喫茶はどこですか」
植松被告「新宿です」
弁護人「車を取りに戻ったのは」
植松被告「地元の方まで戻りました」
弁護人「どこですか」
植松被告「津久井署だったと思います」
《その後、再び都内に向かう途中でホームセンターに行ったという》
弁護人「ホームセンターでどうしたんですか」
植松被告「ハンマー、結束バンド、ガムテープなどを買いました」
弁護人「1日のうち2回、東京に行った。最初は電車、2回目は車ですか」
植松被告「そうです」
弁護人「それからずっと車で移動したんですか」
植松被告「その後、タクシーに乗り換えたりしました」
弁護人「タクシーに乗った理由は」
植松被告「言うほどのことではありません」
弁護人「結局、車で神奈川県に戻ったのですか」
植松被告「そうです」
弁護人「東京に行ったり戻ってきたり。車の運転に問題はなかったのですか」
植松被告「少し乱暴だったと思います」
弁護人「事故を起こしませんでしたか」
植松被告「バンパーをぶつけました」
弁護人「ガードレールに?」
植松被告「はい」
弁護人「どこを走っていたんですか」
植松被告「中央道でした」
弁護人「その後、1人でやまゆり園へ行ったのですか」
植松被告「はい」
《事件の直前、車があるにも関わらず、ヒッチハイクをしたり、タクシーを利用したりする行動を取っていた理由は何だったのか》
(9)犯行当時は「必死」で「ベスト尽くした」 独自の恋愛論も披露
《植松聖(さとし)被告への弁護人による被告人質問は、やまゆり園を襲撃した際の話へと移っていった》
弁護人「やまゆり園で何をしたかは(この日の)午前中(の弁護人による被告人質問)の通りですか」
植松被告「はい」
弁護人「自分は何をしていると考えていたんですか」
植松被告「何をしているんだ…障害者を殺傷していると分かりました」
弁護人「(措置入院して)退院して考えてきたことを今やっていると?」
植松被告「はい。必死でした」
《植松被告は「必死」という言葉を強調するように話した》
弁護人「(被害者が)しゃべれるか分かったんですか」
植松被告「しゃべれない方は雰囲気で分かることもあります」
弁護人「それは勤務経験からですか」
植松被告「はい」
弁護人「しゃべれることは重要なのですか」
植松被告「意思の疎通を図るためには必要だからです」
弁護人「しゃべれなければ」
植松被告「殺害しようと思っていました」
弁護人「しゃべれたら」
植松被告「殺害するつもりはありませんでした」
弁護人「そのために自分の目で見たり、職員に聞いたりしたんですか」
植松被告「はい」
弁護人「犯行時刻は夜でした。(被害者が)寝ていても判断できたんですか」
植松被告「しゃべれる方は数名しかいないと思っていました。しゃべれる方は顔見知りというか、分かっていました」
弁護人「知っている人がいたんですか」
植松被告「はい」
弁護人「自分の計画通りにいきましたか」
植松被告「ベストを尽くしました」
《再び強調するように話す植松被告》
弁護人「本来の計画では何人殺害するつもりだったんですか」
植松被告「許可が取れたときの場合なので…最初は470名です」
弁護人「やまゆり園へ行った時点では」
植松被告「できるだけたくさん殺害しようと思いました」
弁護人「しゃべれる人はあまりいないという話でした。しゃべれない人は殺害しようと考えたのですか」
植松被告「はい」
弁護人「他方で、全ての人を刺したわけではなく、その場から離れました。なぜですか」
植松被告「必死だったのでよく分かりません」
弁護人「こういうことをするとその後どんなことが起きると思いましたか」
植松被告「捕まると思いました」
弁護人「厳しい刑罰のことよりもやるべきだという考えだったのですか」
植松被告「その通りです」
弁護人「やまゆり園を離れた後はどうしましたか」
植松被告「津久井警察署に行きました」
弁護人「その前は」
植松被告「傷を洗ったり飲み物、タバコを買いました」
弁護人「けがをしたのですか」
植松被告「刺したときに小指をけがしました」
弁護人「コンビニのトイレで洗ったのですか」
植松被告「そうです」
《その後、津久井署に向かったという植松被告》
弁護人「自分から行ったのですか」
植松被告「はい」
弁護人「なぜ」
植松被告「自首をすることに意味があると思いました」
弁護人「どういう意味ですか」
植松被告「犯罪だと分かっているということです」
《弁護人が話題を変えることを告げると、植松被告は「お願いします」とはきはきと答えた》
弁護人「事件から時間がたちました。自分の行ったことは今でも間違っていないと思いますか」
植松被告「それは分かりません」
弁護人「(この日の)午前中に考えを話しました。その話は今も基本的に変わっていないですか」
植松被告「はい」
弁護人「(逮捕後、警察署や拘置所にいた際に考えていたことを)いくつか教えてください」
植松被告「環境に対するどのような取り組みができるか。どうすればいい社会になるのか考えました」
弁護人「結論は出ましたか」
植松被告「例えば2人っ子政策や、恋愛学があった方がいいかもと思いました」
弁護人「2人っ子政策とは」
植松被告「(世界で)人口が増えすぎているので、2人っ子政策がちょうどいいと」
《植松被告は恋愛学についても、「束縛してはいけない」「浮気をされても自分にも原因があるし、自分よりいい相手かも」などと、ここでも独自の理論を展開した》
(10)最後まで一方的な主張 賠償求める遺族「間違っている」
《植松聖被告は最近、無理心中や世界の難民問題について、自分の考えを訴える手紙を弁護人に送ったという。弁護人は、その手紙についての質問を始めた》
弁護人「重度障害者の殺害と難民問題は関係があるんですか」
植松被告「重度障害者を殺害することで、難民問題は解決できるかもしれません」
弁護人「日本の重度障害者を殺すと海外の難民問題が解決するんですか」
植松被告「重度障害者は世界中で殺すべきです。日本に限らないと思います」
弁護人「世界情勢に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか」
植松被告「事件の1年前くらいからです。お金が欲しかったので、世界情勢を調べるようになりました」
《弁護人は質問を変え、再び大麻の影響に焦点を当てる》
弁護人「あなたは仕事についてどんな思いを持っていますか」
植松被告「仕事は楽しくできるようになるべきだと思っています」
弁護人「あなたはどうでした」
植松被告「今まではそれなりに…。楽しく仕事をするには大麻を認めるべきです。多幸感で楽しくなるからです」
《大麻のことに話が及ぶと、植松被告は急に冗舌になる》
植松被告「大麻についていいですか。大麻と、コカインや覚醒剤との違いを明確にすべきです。コカインや覚醒剤は重度障害者が生まれてしまいます。そもそも麻薬は、麻の薬と書くから誤解を生んでいるんです。麻薬の麻は、カタカナにしたほうがいいと思います。大麻があれば仕事の悩みを解決できます。仕事そのものの苦痛はなくなりませんが、生きる活力を持てるんです」
弁護人「あなたの中で、大麻と安楽死は関係している」
植松被告「事件直後は別の話だと思っていましたが、今は大麻ありきです。大麻がなければ安楽死を認めるのは難しいと思っています。大麻も安楽死も認めるため法律を変えるべきだと思います」
弁護人「そのためにどうしたらいいんですか」
植松被告「法律を変えるにはどうしたらいいのかは分かりません。変える方法も考えましたが、どう変えるのか分かりませんでした」
《ここで弁護人は、裁判のあり方について触れ、植松被告の意見を求める》
植松被告「2審、3審と続けるのは間違っていると思います」
弁護人「1日で終わらせたい」
植松被告「はい」
弁護人「被害者に対して考えていることはありますか」
《この質問に対し、植松被告は言いよどむ。少し首をかしげ、考えるしぐさを見せた後に答えた》
植松被告「遺族から損害賠償請求を起こされました。ですが、彼らに(国から)支給されていた金なので、支払えないと思いました。複数の家族とも、10回以上面会しましたが、文句を言う家族は精神を病んでいると思います」
弁護人「遺族に会って何を伝えたんですか」
植松被告「重度障害者はさまざまな問題を引き起こしていると伝えました」
弁護人「反応は」
植松被告「話を聞いてもらえませんでした」
弁護人「損害賠償を求める遺族は間違っていると思いますか」
植松被告「間違っている…、間違っています!」
弁護人「何が間違っていますか」
植松被告「金や時間を奪うことを考えないから、客観的な思考がなくなっていると思います。だから損害賠償請求をされたと思います。私が死刑判決を受けたとしても、両親は文句を言いません。それは仕方ないと分かっているからです」
《植松被告は自分の主張を繰り返している。弁護人はちらっと時計に目をやった》
弁護人「まだ聞きたいことがいっぱいありますが、体調は大丈夫ですか」
植松被告「大丈夫です。本当に大丈夫です」
弁護人「しっかり休んで、週末をはさんで月曜日でもいいんじゃないですか」
植松被告「そこまでしていただかなくても大丈夫です」
《弁護人は裁判長に向き直り閉廷を求める。それに対し、裁判長は難色を示す。「被告人は続けてもいいとおっしゃっているから。全体の時間の割り振りもあるので…」。弁護人は閉廷をあきらめ、休廷を求める。30分間の休廷が認められた》
《再開されたのは45分後だった。裁判長は審理を再開すると、すぐに「お待たせして申し訳ありません。今後の被告人質問について弁護人、検察官、裁判官で協議をしました。その結果、本日の被告人質問はこの程度で終了とします」と閉廷を告げた。弁護人による被告人質問は、1月27日の次回期日から再開される》
=終わり
《植松聖(さとし)被告に対する弁護人の質問が続く》
弁護人「(重度障害者を殺害すると)事件前、何人ぐらいの人に話したのですか」
植松被告「50人ぐらいはいたかと思います。半分以上の方に同意や、理解をしていただいたと思います」
弁護人「それは、どういう反応をみて?」
植松被告「一番笑いが取れたからです。真実から笑いが起きたと思っています」
《なぜか2~3秒に1度、しきりに目をしばたたかせる植松被告。弁護人から「大丈夫ですか」と問われると、「よろしくお願いします」と応じ、質問は続行された》
弁護人「(事件を起こした)平成28年ごろは何があったか覚えていますか」
植松被告「(イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」)ISが暴れていました。人が戦車でひかれ、プールに沈められるのを見て、恐ろしい世界があると思いました」
弁護人「そのとき、ISの被害に遭っていたのは誰ですか」
植松被告「民間人です。殺されるべきではないと思いました」
弁護人「ほかに事件当時、起きていたことで何を覚えていますか」
植松被告「ドナルド・トランプ大統領が大統領選に出ていました」
《これまでの公判でも、知人の供述調書などから、植松被告がトランプ米大統領に心酔する様子が伝えられてきた。弁護人の問いかけが終わる前に話し始める場面もあるなど、明らかに興奮した様子が伝わってくる》
弁護人「トランプ大統領をどう思いますか」
植松被告「勇気を持って真実を話していると思います。メキシコとの国境に壁をつくるというのも、いいことかどうかは分かりませんが、メキシコのマフィアはとても怖いのは事実です」
弁護人「真実を話しているというのは…」
植松被告「かっこよく生きていると思います。すべてかっこいいと思いました。かっこいいからお金持ちなのだと思います」
弁護人「そのトランプ大統領は重度障害者を殺していいと言ってますか」
植松被告「いえ、それは私が気付いた真実だと思います」
《口調に熱が帯びる。なぜか、弁護人が話の矛先を各国の指導者に向けると、持てるだけの知識を披露しているようだった》
植松被告「おかげさまでプーチン大統領から(事件について)お言葉をいただけて光栄です」
弁護人「それはどうやって…(言葉が届いたのか)」
植松被告「事件のあとで、重大な問題だと伝わったと思います」
弁護人「ほかに、世界の指導者については?」
植松被告「(フィリピンの)ドゥテルテ大統領や金正恩、みなさん立派だと思います。ドゥテルテ大統領は覚醒剤をなくすため、売人を殺してきました。金正恩さんは、若いのに国を背負っていると、事件を起こして以降、思うようになりました」
《弁護人が再び、事件に話を戻す。やりとりのなかで植松被告は当初、「10月1日」に事件を起こすつもりだったと告白する》
弁護人「なぜ10月1日だったのですか」
植松被告「新たな門出という意味があるそうです。友人から聞きました。『1001』で、門のようになっているということだからだと思います」
弁護人「実行するのが7月に早まったのはなぜですか」
植松被告「重度障害者を殺すと周囲に言ってから、時間がたっていました。日本には年間8万人の行方不明者がいると知り、いつか誰かに殺されてしまうかもしれないと思いました」
弁護人「誰かにあなたの計画が伝わる(ことで殺される)と思ったのですか?」
植松被告「そうです」
《熱っぽく質問に答える植松被告をみて、弁護人が休廷を申し出る》
裁判長「あの、被告人、暑いですか」
植松被告「(やや、照れたように)少し、暑いです」
裁判長「上(上着)は脱いでいいですからね」
《職員が傍聴人に退廷を呼びかけ、一時休廷となる。証言台の前で刑務官にぐるりと囲まれた植松被告は、上着を脱いで涼んでいるようだった》
(8)直前に1日2回都内へ 車に電車、バス、ヒッチハイクも…
《植松聖(さとし)被告への被告人質問は約30分の休廷を挟んで午後2時40分頃再開した。裁判長に促されて植松被告が証言台に座ると、弁護人は事件当日の経緯を確認していった》
弁護人「(やまゆり園を襲撃した)7月26日というのはどう決まったのですか」
植松被告「たまたまです」
弁護人「意味のある日ではないのですか」
植松被告「はい」
弁護人「7月にやまゆり園に行った直前、7月25日にどこに行きましたか」
植松被告「ホームセンターでハンマーと結束バンドを買いました」
弁護人「その前は」
植松被告「大した話ではありません」
《姿勢を正して弁護人の方に顔を向け、はっきりとした口調で答えていく植松被告。しかし、都合の悪い質問なのだろうか、たびたび戸惑ったような声で答える場面もあった》
弁護人「男性の友人、知人と会ったりしましたか」
植松被告「はい」
弁護人「どこで」
植松被告「河原で」
弁護人「朝昼晩では」
植松被告「夜です」
弁護人「何をしたんですか」
植松被告「大麻を吸っていました」
弁護人「その後は」
植松被告「その後…? その後は事件を起こしました」
《質問の意図が分からないような様子で答える植松被告。弁護人は、大麻を吸った後について細かく質問していく》
弁護人「河川敷へはどうやっていきましたか」
植松被告「車で行きました」
弁護人「車で家に帰ったのですか」
植松被告「帰っていません」
弁護人「どこに行こうとしたのですか」
植松被告「えー…あまり、えーっと、何て説明すればいいか。説明の仕方が分かりません」
弁護人「どこに行ったんですか」
植松被告「新宿駅に行ったりしました」
弁護人「その前にマクドナルドに行っていませんか」
植松被告「はい」
弁護人「マクドナルドで何をしていましたか」
植松被告「車を置いていきました」
弁護人「なぜですか」
植松被告「GPS(衛星利用測位システム)が付いているかと…大した意味はありません」
弁護人「そこからどうやって移動したんですか」
植松被告「ヒッチハイクで移動しました」
弁護人「どこまでですか」
植松被告「バス停まで」
弁護人「知らない人に乗せてもらったんですか」
植松被告「はい」
弁護人「そこでどうしたんですか」
植松被告「バスが来るまで待ちました」
弁護人「始発のバスに乗ったんですか」
植松被告「そうです」
弁護人「その後は」
植松被告「漫画喫茶に行って自分の考えをノートにまとめました」
弁護人「考えとは(この日の)午前中(の弁護人による被告人質問)で言ったような」
植松被告「そうです」
弁護人「その後は」
植松被告「車を取りに戻りました」
弁護人「漫画喫茶はどこですか」
植松被告「新宿です」
弁護人「車を取りに戻ったのは」
植松被告「地元の方まで戻りました」
弁護人「どこですか」
植松被告「津久井署だったと思います」
《その後、再び都内に向かう途中でホームセンターに行ったという》
弁護人「ホームセンターでどうしたんですか」
植松被告「ハンマー、結束バンド、ガムテープなどを買いました」
弁護人「1日のうち2回、東京に行った。最初は電車、2回目は車ですか」
植松被告「そうです」
弁護人「それからずっと車で移動したんですか」
植松被告「その後、タクシーに乗り換えたりしました」
弁護人「タクシーに乗った理由は」
植松被告「言うほどのことではありません」
弁護人「結局、車で神奈川県に戻ったのですか」
植松被告「そうです」
弁護人「東京に行ったり戻ってきたり。車の運転に問題はなかったのですか」
植松被告「少し乱暴だったと思います」
弁護人「事故を起こしませんでしたか」
植松被告「バンパーをぶつけました」
弁護人「ガードレールに?」
植松被告「はい」
弁護人「どこを走っていたんですか」
植松被告「中央道でした」
弁護人「その後、1人でやまゆり園へ行ったのですか」
植松被告「はい」
《事件の直前、車があるにも関わらず、ヒッチハイクをしたり、タクシーを利用したりする行動を取っていた理由は何だったのか》
(9)犯行当時は「必死」で「ベスト尽くした」 独自の恋愛論も披露
《植松聖(さとし)被告への弁護人による被告人質問は、やまゆり園を襲撃した際の話へと移っていった》
弁護人「やまゆり園で何をしたかは(この日の)午前中(の弁護人による被告人質問)の通りですか」
植松被告「はい」
弁護人「自分は何をしていると考えていたんですか」
植松被告「何をしているんだ…障害者を殺傷していると分かりました」
弁護人「(措置入院して)退院して考えてきたことを今やっていると?」
植松被告「はい。必死でした」
《植松被告は「必死」という言葉を強調するように話した》
弁護人「(被害者が)しゃべれるか分かったんですか」
植松被告「しゃべれない方は雰囲気で分かることもあります」
弁護人「それは勤務経験からですか」
植松被告「はい」
弁護人「しゃべれることは重要なのですか」
植松被告「意思の疎通を図るためには必要だからです」
弁護人「しゃべれなければ」
植松被告「殺害しようと思っていました」
弁護人「しゃべれたら」
植松被告「殺害するつもりはありませんでした」
弁護人「そのために自分の目で見たり、職員に聞いたりしたんですか」
植松被告「はい」
弁護人「犯行時刻は夜でした。(被害者が)寝ていても判断できたんですか」
植松被告「しゃべれる方は数名しかいないと思っていました。しゃべれる方は顔見知りというか、分かっていました」
弁護人「知っている人がいたんですか」
植松被告「はい」
弁護人「自分の計画通りにいきましたか」
植松被告「ベストを尽くしました」
《再び強調するように話す植松被告》
弁護人「本来の計画では何人殺害するつもりだったんですか」
植松被告「許可が取れたときの場合なので…最初は470名です」
弁護人「やまゆり園へ行った時点では」
植松被告「できるだけたくさん殺害しようと思いました」
弁護人「しゃべれる人はあまりいないという話でした。しゃべれない人は殺害しようと考えたのですか」
植松被告「はい」
弁護人「他方で、全ての人を刺したわけではなく、その場から離れました。なぜですか」
植松被告「必死だったのでよく分かりません」
弁護人「こういうことをするとその後どんなことが起きると思いましたか」
植松被告「捕まると思いました」
弁護人「厳しい刑罰のことよりもやるべきだという考えだったのですか」
植松被告「その通りです」
弁護人「やまゆり園を離れた後はどうしましたか」
植松被告「津久井警察署に行きました」
弁護人「その前は」
植松被告「傷を洗ったり飲み物、タバコを買いました」
弁護人「けがをしたのですか」
植松被告「刺したときに小指をけがしました」
弁護人「コンビニのトイレで洗ったのですか」
植松被告「そうです」
《その後、津久井署に向かったという植松被告》
弁護人「自分から行ったのですか」
植松被告「はい」
弁護人「なぜ」
植松被告「自首をすることに意味があると思いました」
弁護人「どういう意味ですか」
植松被告「犯罪だと分かっているということです」
《弁護人が話題を変えることを告げると、植松被告は「お願いします」とはきはきと答えた》
弁護人「事件から時間がたちました。自分の行ったことは今でも間違っていないと思いますか」
植松被告「それは分かりません」
弁護人「(この日の)午前中に考えを話しました。その話は今も基本的に変わっていないですか」
植松被告「はい」
弁護人「(逮捕後、警察署や拘置所にいた際に考えていたことを)いくつか教えてください」
植松被告「環境に対するどのような取り組みができるか。どうすればいい社会になるのか考えました」
弁護人「結論は出ましたか」
植松被告「例えば2人っ子政策や、恋愛学があった方がいいかもと思いました」
弁護人「2人っ子政策とは」
植松被告「(世界で)人口が増えすぎているので、2人っ子政策がちょうどいいと」
《植松被告は恋愛学についても、「束縛してはいけない」「浮気をされても自分にも原因があるし、自分よりいい相手かも」などと、ここでも独自の理論を展開した》
(10)最後まで一方的な主張 賠償求める遺族「間違っている」
《植松聖被告は最近、無理心中や世界の難民問題について、自分の考えを訴える手紙を弁護人に送ったという。弁護人は、その手紙についての質問を始めた》
弁護人「重度障害者の殺害と難民問題は関係があるんですか」
植松被告「重度障害者を殺害することで、難民問題は解決できるかもしれません」
弁護人「日本の重度障害者を殺すと海外の難民問題が解決するんですか」
植松被告「重度障害者は世界中で殺すべきです。日本に限らないと思います」
弁護人「世界情勢に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか」
植松被告「事件の1年前くらいからです。お金が欲しかったので、世界情勢を調べるようになりました」
《弁護人は質問を変え、再び大麻の影響に焦点を当てる》
弁護人「あなたは仕事についてどんな思いを持っていますか」
植松被告「仕事は楽しくできるようになるべきだと思っています」
弁護人「あなたはどうでした」
植松被告「今まではそれなりに…。楽しく仕事をするには大麻を認めるべきです。多幸感で楽しくなるからです」
《大麻のことに話が及ぶと、植松被告は急に冗舌になる》
植松被告「大麻についていいですか。大麻と、コカインや覚醒剤との違いを明確にすべきです。コカインや覚醒剤は重度障害者が生まれてしまいます。そもそも麻薬は、麻の薬と書くから誤解を生んでいるんです。麻薬の麻は、カタカナにしたほうがいいと思います。大麻があれば仕事の悩みを解決できます。仕事そのものの苦痛はなくなりませんが、生きる活力を持てるんです」
弁護人「あなたの中で、大麻と安楽死は関係している」
植松被告「事件直後は別の話だと思っていましたが、今は大麻ありきです。大麻がなければ安楽死を認めるのは難しいと思っています。大麻も安楽死も認めるため法律を変えるべきだと思います」
弁護人「そのためにどうしたらいいんですか」
植松被告「法律を変えるにはどうしたらいいのかは分かりません。変える方法も考えましたが、どう変えるのか分かりませんでした」
《ここで弁護人は、裁判のあり方について触れ、植松被告の意見を求める》
植松被告「2審、3審と続けるのは間違っていると思います」
弁護人「1日で終わらせたい」
植松被告「はい」
弁護人「被害者に対して考えていることはありますか」
《この質問に対し、植松被告は言いよどむ。少し首をかしげ、考えるしぐさを見せた後に答えた》
植松被告「遺族から損害賠償請求を起こされました。ですが、彼らに(国から)支給されていた金なので、支払えないと思いました。複数の家族とも、10回以上面会しましたが、文句を言う家族は精神を病んでいると思います」
弁護人「遺族に会って何を伝えたんですか」
植松被告「重度障害者はさまざまな問題を引き起こしていると伝えました」
弁護人「反応は」
植松被告「話を聞いてもらえませんでした」
弁護人「損害賠償を求める遺族は間違っていると思いますか」
植松被告「間違っている…、間違っています!」
弁護人「何が間違っていますか」
植松被告「金や時間を奪うことを考えないから、客観的な思考がなくなっていると思います。だから損害賠償請求をされたと思います。私が死刑判決を受けたとしても、両親は文句を言いません。それは仕方ないと分かっているからです」
《植松被告は自分の主張を繰り返している。弁護人はちらっと時計に目をやった》
弁護人「まだ聞きたいことがいっぱいありますが、体調は大丈夫ですか」
植松被告「大丈夫です。本当に大丈夫です」
弁護人「しっかり休んで、週末をはさんで月曜日でもいいんじゃないですか」
植松被告「そこまでしていただかなくても大丈夫です」
《弁護人は裁判長に向き直り閉廷を求める。それに対し、裁判長は難色を示す。「被告人は続けてもいいとおっしゃっているから。全体の時間の割り振りもあるので…」。弁護人は閉廷をあきらめ、休廷を求める。30分間の休廷が認められた》
《再開されたのは45分後だった。裁判長は審理を再開すると、すぐに「お待たせして申し訳ありません。今後の被告人質問について弁護人、検察官、裁判官で協議をしました。その結果、本日の被告人質問はこの程度で終了とします」と閉廷を告げた。弁護人による被告人質問は、1月27日の次回期日から再開される》
=終わり