(4)脱毛告白「美は善行を生む」 引きこもり、環境問題でも持論

 《弁護人に渡したノートに関して持論を展開する植松聖(さとし)被告。韓国の俳優をテレビで見て、日本も男性は1年間訓練すべきだ、などと語った》

 植松被告「鉄は熱いうちに打てというように精神が柔軟なうちに厳しい試練を与えないといけないと思いました。簡単に心が折れなくなると思います」

 弁護人「今の日本人は弱いということですか」

 植松被告「はい。引きこもりが多いのも厳しい試練を乗り越えなかったからだと思います」

 弁護人「兵役の義務を課すと引きこもりが減るのか」

 植松被告「はい。体が健康になると精神も健康になります」

 弁護人「精神が健康じゃない人がいるように聞こえますが」

 植松被告「はい」

 弁護人「義務は日本の戦争より前のイメージか」

 植松被告「戦争より前のことは勉強不足で…」

 弁護人「韓国のイメージか」

 植松被告「そうです」

 弁護人「義務というところがポイントか」

 植松被告「そうかもしれません」

 《植松被告は弁護人の目を見て回答している。その姿を裁判員や被害関係者、傍聴人らが注視している》

 弁護人「次に男性と女性の関係についてです」

 植松被告「いろいろな欲求がありますが、性欲は間違った快感を覚えると人を傷つけます」

 弁護人「どういうことですか」

 植松被告「避妊をもっと当たり前のものにすれば。例えばコンビニでピルを買えるようにするとか」

 弁護人「今のままだと」

 植松被告「子供をつくりたくないのにできた場合、虐待を受けることがある」

 弁護人「どんな情報からそう考えたのですか」

 植松被告「ニュースを見て思いました。事件を思いついてからそう考えました」

 《思考の元はニュースやネットらしい。そこに飛躍や曲解が複雑に混ざり、独自の論が形成されているようだ》

 弁護人「次。主に女性の体形や容姿も考えたのですか」

 植松被告「女性じゃなくても人間は美しい方がいいと思います。美は善行を生むと思います」 

 弁護人「そのためには」

 植松被告「整形手術を国が負担してもいいと思いました。ただ子供は遺伝子を引き継ぐので交際前に整形の有無を報告すべきだと思います」

 弁護人「みんな整形すべきということ」

 植松被告「整形より医療脱毛の方が大切かもしれません」

 《医療脱毛の話になり、事件の約1年前に脱毛していたことを告白。『顔もきれいになって心もきれいになった』のだそうだ。また『かっこいい方がいい』と考え、ジムにもいっていたという》

 弁護人「美は善行を生むことの関係性は」

 植松被告「客観的に自分を見ることが大切だと思います」

 弁護人「7つめ。環境については」

 植松被告「深刻な環境破壊による温暖化防止のために、遺体を肥料にする森林再生計画に賛同します」

 弁護人「遺体とは」

 植松被告「人間の遺体です。捕まってから考えました」

 弁護人「人間の死体をこういうことに使うのは…人間であればよいのですか」

 植松被告「はい」

 《自らの発言に自信をにじませる植松被告。7つのテーマについて回答を終えた》

 弁護人「あなたが考えてきたことを聞いてきました。これらはいずれもやまゆり園で働き始めてから考えたことですか」

 植松被告「そうです」

 弁護人「ソースや情報など、誰かに教えを乞うことはありましたか」

 植松被告「そういうのが積み重なって、思いついたのかもしれません」

 弁護人「誰の影響とかありますか。名前はいいですから」

 植松被告「思い出すのが………」

 《植松被告は何かをいいかけたようだったが、歯切れが悪くなった。記憶を掘り起こそうとしたのだろうか。首をひねるような動作もしている。弁護側がすかさず、質問を続ける》

 弁護人「いろいろな人の話とかが積み重なったということですか」

 植松被告「はい」

 弁護人「別の時間に改めて聞きますが、私は、3年前に(あなたが)ノートを渡したと言った。3年たった今でも(考えは)変わらないですか」

 植松被告「はい」

 弁護人「少しでも何か変化はありましたか」

 植松被告「考えが深まりました。どうして、大麻を認めたほうがいいのか、どうして、安楽死を認めたほうがいいか、説明できるようになりました」

 弁護人「拘置所で考えたということですね」

 植松被告「はい」

 《ここで弁護人が、植松被告が被告人質問を続けられるかどうか、体調を気遣うように声をかける》

 弁護人「大丈夫ですか?」

 《植松被告は背筋を伸ばしはっきりと『はい』と答えた。しかし、弁護側の申し入れで裁判長が休廷を宣言。植松被告は起立して裁判長に一礼し、証言台前の席に腰を下ろした。午後は1時15分から再開される》


(5)欲しいものは「お金」 急に笑い出しこらえる場面も

 《休憩を挟んで植松聖(さとし)被告に対する被告人質問が再開される。裁判員が入廷する前は、午前と同じように6人の刑務官が立ったままで座っている植松被告を囲み、目を光らせた。裁判員らが入廷すると、植松被告は証言台の前に進み、質問が再開された》

 弁護人「午前中はあなたの考えを聞いてきました。これからは今回の件で行動しようと思った理由を聞いていきます。どうしてあなたがやる必要があったんですか」

 植松被告「自分が気付いたからです」

 弁護人「ほかの人ではなく、あなたがやらなければいけない理由は」

 植松被告「(そのことに)気が付いたからです」

 《弁護人から再三動機について質問をされるが、植松被告は「自分が殺さなければいけないと気付いた」と一貫して主張した》

 弁護人「いつ気が付きましたか」

 植松被告「措置入院中です」

 弁護人「入院前は考えていなかった?」

 植松被告「自分の独断でやろうとは考えていませんでした」

 弁護人「あなたは何かほしいものがありましたか」

 植松被告「お金です」

 弁護人「お金を得るためには何をすればいいですか」

 植松被告「人の役に立つか、人を殺すかです」

 《植松被告はまたも独自の論理を展開し始める》

 弁護人「殺すとはどういう意味ですか」

 植松被告「詐欺をしたり、覚醒剤を売ったり、安い賃金で働かせたりすることです」

 弁護人「犯罪をするということ?」

 植松被告「そうです」

 弁護人「安い賃金で働かせるというのはどういう意味ですか」

 植松被告「正当な報酬ではないということ。搾取するということです」

 《一度答えた後、弁護人の再質問を遮るように性急に言葉を重ねる植松被告。自分の主張を少しでも分かってもらおうと必死な様子だ。答えを終えた後は、弁護人も次の質問を考えるように少し黙った。植松被告は次の質問が待ちきれないように弁護人をじっと見つめた》

 弁護人「お金が欲しい、だから殺したと」

 植松被告「役に立つということだと思いました」

 弁護人「あなたのしたことは、あなたの考えでは人を殺すことではなく、役に立つというカテゴリーということですか」

 植松被告「その通りです」

 《植松被告は満足したように大きくうなづいた》

 弁護人「お金は入ってきましたか」

 植松被告「入ってきていません」

 弁護人「お金は誰から入ってくるんですか」

 植松被告「そこまで考えてはいなかったです」

 弁護人「考えを持ったのは措置入院中ですか」

 植松被告「入院前から考えていましたが、どうやってお金が入るかは考えていませんでした」

 弁護人「政府にも何か求めましたよね」

 《この質問に植松被告はなぜか動揺する》

 植松被告「それは1つの提案であって…うーん…それは…提案です」

 弁護人「どんな提案ですか」

 植松被告「重度障害者を殺害したほうが良いと手紙に書かせてもらいました」

 弁護人「誰に渡したんですか」

 植松被告「衆院議長の公邸で、管理職のような方に受け取ってもらいました」

 弁護人「手紙にはどんなことを書きましたか」

 植松被告「障害者を抹殺することができます」

 弁護人「何を期待していましたか」

 植松被告「自分の中ではいいアイデアだと思っていたので伝えました」

 弁護人「許可が出ると思いましたか」

 植松被告「いや、ただ良い案だと思っただけです」

 弁護人「政府の許可は必要なんですか」

 植松被告「犯罪なので必要です」

 弁護人「手紙を渡した後、どうなりましたか」

 植松被告「措置入院になりました」

 《自らの思いを訴えて措置入院となった植松被告。考えが固まったという入院中に一体何があったのか》

 弁護人「入院中は」

 植松被告「何もない部屋に閉じ込められていました」

 弁護人「どうでしたか」

 植松被告「やばいと思いました」

 《ここで植松被告は急に笑い出した。笑いをこらえるように答えていく》

 植松被告「出られないんじゃないかと思いました」

 弁護人「うれしかった?嫌だった?」

 植松被告「仕方ないと思いました」

 弁護人「なぜですか」

 植松被告「おかしいことを書いているからです」

 弁護人「お医者さんとはどのような話を」

 植松被告「重度障害者は殺害したほうが良いと話しました」

 弁護人「反応は」

 植松被告「首をかしげていました」

 弁護人「否定されたことは」

 植松被告「されませんでした」

 弁護人「肯定は」

 植松被告「肯定されたこともありません」

 弁護人「ほかに誰かに話をしましたか」

 植松被告「看護師さんにも話しました」

 弁護人「反応はどうでしたか」

 植松被告「うーん、と首をかしげていました」

 弁護人「否定、肯定は」

 植松被告「精神病院なので重度障害者を知っているので、否定できないんだと思いました」

 弁護人「措置入院中に(事件を)決意したと言いましたが、考えが固まるできごとはありましたか」

 植松被告「国の許可はいただけませんでしたが、正しいことなのでやるべきだと思いました」

 弁護人「刃物で刺そうと思ったのですか」

 植松被告「その通りです」

 弁護人「家族の同意が得られれば安楽死させるという話もしていましたよね」

 植松被告「得ることは難しいと思いました」

 弁護人「同意が得られなくても安楽死させる決意を持ったと。同意をする人もいるかもしれませんよね。その人にも取らずに殺してしまうんですか」

 植松被告「その通りです」

 弁護人「考えが変わったように見えるのですが」

 植松被告「本質的には変わっていないと思います」

 《「考えが変わっている」という弁護人の質問を植松被告は真っ向から否定した。植松被告への被告人質問は続き、措置入院から退院した時の経緯や、特異な考えを持つに至ったきっかけについて質問が続く》


(6)日本が滅ぶ、横浜に原爆…都市伝説信じ行動決意か

 《植松聖(さとし)被告への質問は続く。弁護人は、措置入院から植松被告が退院する際の経緯に話を移していく》

 弁護人「措置入院から退院するためにしたことはありますか」

 植松被告「礼儀正しくしました」

 弁護人「ほかには」

 植松被告「安楽死させるという考えを言わなくなりました」

 弁護人「撤回、訂正しますといったことは」

 植松被告「そういうことは覚えていません」

 弁護人「そうしたらどうなりましたか」

 植松被告「1つずつ制限がなくなりました」

 弁護人「少し繰り返しになるが、あなた以外の人から事件について『こうしろ』と言われたことは」

 植松被告「ありません」

 《ここで植松被告は急に質問されていないことについて主張を始めた》

 植松被告「今は良いことをしてももうからないから、悪いことがはやっていると思います」

 弁護人「悪いことをしたほうがお金がもうかるということですか」

 植松被告「はい」

 弁護人「別のことを聞きます。興味を持っているカードはありますか」

 植松被告「あります。イルミナティーカードです」

 《イルミナティーカードはアメリカで20世紀末に発売されたカードゲームで、その図柄が「さまざまなできごとを予言している」と都市伝説になったカード。植松被告はこのカードにはまっていったという》

 弁護人「あなたはこのカードを持っていましたか」

 植松被告「インターネットやテレビで見ただけです」

 弁護人「カードにはどういうことが書いてあるのですか」

 植松被告「テレビコマーシャルに出ている俳優の足元に大金があることです」

 弁護人「どういう意味ですか」

 植松被告「お金をもらえれば何でも話すということです」

 《弁護人の質問に対し明快に答えているように見える植松被告だが、次第にかみあわなくなっていく》

 弁護人「ほかにはありましたか」

 植松被告「大切な要求をするときは拳銃を突き付けたほうが良い。あとは、日本が滅びると書いてありました」

 弁護人「いつ滅びるのですか」

 植松被告「多分、今年です。首都直下型地震の後、いろいろな問題が起きます」

 弁護人「ここは横浜ですが、横浜にも何かありますか」

 植松被告「6月7日か9月7日に、横浜に原子爆弾が落ちます」

 弁護人「カードに書いてありましたか」

 植松被告「漫画に書いてありました」

 弁護人「カードに書いてあることで実際に起きたことはありますか」

 植松被告「9・11(米同時多発テロ)、ビットコイン(暗号資産)、トランプ大統領について、そのまま書かれていました」

 弁護人「日本について書かれたことは」

 植松被告「3・11(東日本大震災)が書かれていました」

 弁護人「あなたについては書かれていましたか」

 植松被告「それは分かりません」

 弁護人「弁護人に渡したノートに5つの数字を書きましたね」

 植松被告「1、3、0、1、3という数字です」

 弁護人「どういう意味ですか」

 植松被告「意味はよく分かりませんが、聖なる数字だとうかがっております」

 弁護人「それもカードに書かれていたんですか」

 植松被告「はい」

 弁護人「誰を指すんですか」

 植松被告「それは分かりません」

 弁護人「カードを見て、どう思いましたか」

 植松被告「日本はやばい、と思いました」

 弁護人「誰かに話しましたか」

 植松被告「周りの友人です」

 弁護人「日本は滅びるからそうならないために何かしなければと思ったんですか」

 植松被告「だから社会に貢献しようと思いました」

 弁護人「事件につながる」

 植松被告「はい」

 弁護人「友人の反応はどうでしたか」

 植松被告「信じてくれる方と、信じてくれない方がいました」

 弁護人「その割合はどうですか」

 植松被告「(少し考えこんで)人生がうまくいっている、充実している人はあまり信じていなかったかもしれません」

 《「カードに影響されて事件を起こした」。弁護側の質問からはそうした事情が明かされたが、植松被告の思考回路をうかがい知ることは難しい。被告人質問はなおも続いていく》