【相模原45人殺傷被告人質問詳報】(産経新聞 2020.1.24~)
(1)幸せになる7つの秩序「安楽死、大麻、カジノ、軍隊…」 被告、早くも屈折した持論展開
《相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で平成28年7月、入所者ら45人が殺傷された事件で、殺人罪などに問われた元職員、植松聖(さとし)被告の第8回公判が24日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で始まった》
《この日は植松被告に対する初めての被告人質問。初公判で手の指をかみ切ろうとして退廷を命じられた植松被告は開廷前、長い髪をまとめて黒っぽいスーツに白いワイシャツ姿で弁護側の席に座った》
《うっすらと笑いを浮かべ、検察側の席を見つめた。周囲を6人の刑務官が囲み、法廷は被告人質問が始まる前からものものしい空気に包まれた》
《公判の主な争点は植松被告の犯行当時責任能力があったかどうか。弁護人は植松被告が障害者に対して思っていたことについて1つ1つ質問していく》
◇
弁護人「今、あなたはどこにいるか分かりますか」
植松被告「分かります」
弁護人「どこですか」
植松被告「裁判所です」
弁護人「なんの裁判ですか」
植松被告「障害者を殺傷した事件についてです」
《始まった被告人質問。弁護人の質問に対し、少し弁護人の方に顔を向けながらも、よどみなく、はっきりと答えていく》
弁護人「あなたのしたことに間違いはありませんか」
植松被告「間違いありません」
弁護人「あなたがどうして事件を起こしたのか、1つ1つ聞いていきます」
植松被告「はい」
弁護人「その前に、この裁判について、弁護側がどのような主張をしているか知っていますか」
植松被告「心神喪失、心神耗弱(こうじゃく)による無罪を主張しています」
弁護人「そのことについて、あなたはどう思いますか」
植松被告「自分は心神喪失ではないと思っています」
弁護人「どうしてですか」
植松被告「責任能力がないものは死刑にするべきだと思うからです」
弁護人「自分に責任能力があると思いますか」
植松被告「責任能力があると思っています」
《弁護側の主張する心神喪失、心神耗弱を真っ向から否定する植松被告。畳みかけるように返答していく。弁護人の質問は植松被告の「思想」に移る》
弁護人「正しい考えに基づいて行動したということですか」
植松被告「はい」
弁護人「約3年前、あなたはノートを渡してくれましたね」
植松被告「覚えています」
弁護人「何が書いてありましたか」
植松被告「より多くの人が幸せになるために7つの秩序を書きました」
弁護人「7つ、覚えていますか」
植松被告「安楽死、大麻、カジノ、軍隊、セックス、美容、環境について考えました」
弁護人「1つずつ聞いていきます。安楽死とはどういう意味ですか」
植松被告「意思疎通の取れない人間を安楽死させるべきだと思います」
弁護人「具体的には」
植松被告「名前、年齢、住所を言えない人間です」
弁護人「他のことは言える場合もですか」
植松被告「それはもっと明確な基準があると思いますが…名前や年齢が言えないことも基準になると思います」
《初めて言いよどんだ植松被告。自身の言いたいことを言うときはすらすらとはっきり答える植松被告だが、具体的な内容や背景について質問されると明確な返答ができない場面も出てくる》
弁護人「あなたは意思疎通が取れない人を何と呼んでいましたか」
植松被告「心神喪失者ということで心失者と呼んでいました」
弁護人「誰が付けたんですか」
植松被告「私です」
弁護人「誰かに教えてもらったのではなく」
植松被告「(もともと違う名前で呼んでいたが、)事件の後の精神鑑定で『傷つく人がいる』と言われたので考えました」
弁護人「意思疎通が取れない人はなぜ安楽死しなければならないのでしょう」
植松被告「無理心中、介護殺人、社会保障費、難民などで多くの問題を引き起こす元になっているからです」
弁護人「無理心中とは」
植松被告「無理心中をする人の多くは、重度障害者を抱えていて生活に耐えられず無理心中をしてしまうと聞いたからです」
《考えの中身について聞かれると独善的な主張をまくしたてる。一方、弁護側がさらに深く質問していくとたちまち返答が危うくなる》
弁護人「介護殺人とは」
植松被告「意思疎通を取れない人を守ろうとするからこそ、死について考えることができないと思います。死の価値について、考えることができないということです」
弁護人「どういう意味ですか」
植松被告「人間はいつか意思疎通が取れなくなる可能性があるから…」
《返答に詰まったのか、植松被告は「シューッ」と大きく呼吸を繰り返して発言を中断する》
植松被告「死について考えることができなくなっていると思います」
弁護人「難民というのはどういう意味ですか」
植松被告「直接の関係はありませんが、不幸を生み出すもとになっているということです」
《荒唐無稽な主張を繰り返す植松被告。弁護側による質問はこの後も続いていく》
(2)止まらない障害者への差別的発言「愛する家族であっても安楽死させるべきだ」
《意思疎通のできない重度障害者には安楽死を認めるべきである-。植松被告の差別的な主張は続く》
弁護人「重度障害者にも親、兄弟がいます。その人たちの気持ちを考えたことはありますか」
植松被告「自分の子供を守りたいという気持ちはわかりますが、受け入れることはできません。なぜなら、自分の金と時間を使って面倒を見ることができないからです。彼らの生活は国から支給される金で成り立っており、家族の金ではありません」
《弁護人の目を真っすぐと見据え、大きな声で宣言するように告げた。独演会のような被告人質問が続く》
弁護人「それでも、愛情をもって接している家族もいるんですよ」
植松被告「気持ちはわかりますが、他人の金と時間を奪っている限り、守ってはいけないと思います」
《弁護人は、再びノートの内容に触れる》
弁護人「ノートには安楽死のことが書かれていますが、安楽死を認めると世の中はどうなると思いますか」
植松被告「生き生きと働ける社会になると思います。仕事をしないから動けなくなり、ボケてしまうと思います。仕事をすることが重要です」
《ひときわ大きな声で、はきはきと答える。自分の主張を周囲に聞いてもらい、気分が高揚しているようにも見える》
弁護人「健康でも、働いていない人がいますよ」
植松被告「働けない人を守るから、働かない人が生まれるんだと思います。国から支給された金で生活するのは間違っています」
弁護人「今の日本では安楽死が認められていません。どうやって認めるんですか」
植松被告「死を考えることでよりよく生きられると思います」
弁護人「ん? 法律的に認めるということですか」
植松被告「認めていければと思っています」
《弁護人は、ここで話題を切り替えた》
弁護人「なぜ、国から支給されている金で生活するのが問題だと思うようになったんですか」
植松被告「日本が借金だらけで、財政が苦しいことを知ったからです。お金が欲しくて、世界情勢を調べるようになりました。そうしたら、テレビやインターネットで国の借金のことを知ったんです。安楽死させると、借金を減らせると思いました」
弁護人「借金が減ると世の中はどうなりますか」
植松被告「みんなが幸せに生活できます」
《弁護人は、植松被告がこうした考えに至った背景をひもとこうとしているようだ。過去の経緯を振り返り始めた》
弁護人「あなたは平成24~25年ごろからから、やまゆり園で働いていましたね。どんなことを感じましたか」
植松被告「最初は、こんな世界があるのかと驚きました」
弁護人「家族に会って話したことはありますか」
植松被告「何十回とあります。やまゆり園にはずっと入所している障害者と、数日から1週間の短期の入所者がいます。長期の人の家族はのんきなんですが、短期の人は表情が暗くて、いつもそそくさと逃げるように帰っていきました。重たい表情で疲れ切っていました。奇声を上げて暴れる障害者は、家で育てられません。それに疲れて暗い表情をしているんだと思いました」
《弁護人は再び、ノートに書かれていた安楽死について質問を重ねていく》
植松被告「安楽死には家族の同意があればいいと思っていましたが、できない人もいると思いました。本人は意思疎通が取れないので必要ありません。問題は家族の同意です。愛している家族はきっと同意できないと思います。でも、金と時間を支給されている限り、それは違うと思うんです」
弁護人「家族が愛していても死ぬべきだということですか」
植松被告「その通りです」
《植松被告は深くうなずき、ひときわ大きな声で告げた》
弁護人「ここで、あなたが安楽死を考えるに至った経緯を整理しましょう。まず、やまゆり園で24~25年ごろ働き始めましたね。そして28年2~3月ごろに措置入院をしています」
植松被告「はい。安楽死は、措置入院の前から考えていました。家族の同意がなくても安楽死をすべきだと考えるようになったのは措置入院の最中です」
弁護人「分かりました。措置入院の話はあとで聞きます」
植松被告「よろしくお願いします」
《喜々として答える植松被告。弁護人はここで、話題をナチスドイツのヒトラーに切り替える。ヒトラーはユダヤ人だけでなく、障害者も虐殺したとされる》
植松被告「ヒトラーのことは知っています。ユダヤ人の虐殺は間違っていますが、障害者の虐殺は間違っていないと思います。(ヒトラーのことは)雑誌などを拝見して知りました。間違っているのはユダヤ人を虐殺したことです」
弁護人「ヒトラーの影響はありますか」
植松被告「ありません。安楽死のことを思いついてから、ヒトラーのことを知ったからです。ユダヤ人の虐殺は有名ですが、障害者のことは知りませんでした。なので驚きましたが、障害者を虐殺するだけなら間違っていなかったと思います。ただ、虐殺した障害者の中に軽度の方が含まれていたらそれは間違っていたのかもしれませんが…」
《植松被告が現在の思想を持つに至った経緯について聞いてきた弁護人は、続いて大麻についての質問に移った》
(3)大麻は週に2~4回「楽しい心が超回復。楽しみすぎて…」
《殺人罪などに問われた元職員、植松聖(さとし)被告の被告人質問が続いている。弁護人は植松被告がノートに記したという“7つの秩序”について順に質問。話題は「大麻」に移った》
弁護人「大麻について考えたことは」
植松被告「大麻は本当に素晴らしい草です。本当に感謝しています。嗜好(しこう)品として使用、栽培を認めるべきだと思う」
弁護人「日本は大麻が禁止されている理由はわかりますか」
植松被告「病気が治ると薬が売れなくなるからだと思います。楽しい草と書いて薬になります。楽しい心が超回復につながります」
《大麻を使うと病気が治るため、医薬品が売れなくなる-。植松被告は禁止の理由をこう捉えているようだ》
弁護人「私は詳しくないですが、使用するとどうなるのですか」
植松被告「脳が膨らみます」
弁護人「どういうことですか」
植松被告「多幸感を与えるのは事実です。ビルゲイツも人生最大の経験といっています」
弁護人「ほかの薬物と比べて違うのか」
植松被告「ほかの薬物はばかにして考えなくすることで楽しむ薬です。脱法ハーブはばかになっている実感がありました」
《弁護人が脱法ハーブの使用歴を確認すると、21歳から23、24歳まで使用していたと答えた》
植松被告「最悪です。ろれつが回らなくなったり計算ができなくなったりしました。大麻を吸って治療できたと思います」
《大麻は23、24歳から事件まで吸っていたという。弁護人の確認に対し、週に2~4回、主に自宅で使用していたと説明した。“多幸感”を思い出したのか、植松被告の声に力がこもる。回答の途中、ズボンのポケットからハンカチで顔全体をぬぐった》
弁護人「いいですよ、ゆっくり話しましょう」
植松被告「はい」
《植松被告は照れ笑いのような表情を浮かべる》
弁護人「みんな使うべきだとあなたは考えるのか」
植松被告「はい」
弁護人「例えば私も」
植松被告「もったいないと思います」
弁護人「例えば裁判官や検察官も」
植松被告「その通りです」
弁護人「大麻で悪いことは」
植松被告「楽しみすぎて酒を飲みすぎてしまうくらいです」
弁護人「逮捕され3年たつ。大麻も使っていないがどうですか」
植松被告「自転車のようなもので、1度乗ったら感覚を覚えています」
弁護人「今も同じ感覚なのですか」
植松被告「そうではなくて、知っていることが大事だと思います」
弁護人「使いたいですか」
植松被告「はい」
弁護人「使えず辛いですか」
植松被告「禁断症状ではありません」
弁護人「勧めたことは」
植松被告「あります。友人や後輩や知人です。みんなで吸いたいと思っています」
弁護人「どんな感想がありましたか」
植松被告「『本当にありがとう』『こんなに変わるの』と驚かれたり感謝されたりしました」
弁護人「大麻の良さを人に伝えたい、世間に広げたい、ゆくゆくは法律家に認めてほしいということか」
植松被告「はい」
《続けて大麻が認められている国を問われ、すらすらと答える植松被告。禁止している日本は『例外的』とし、認められている国への移住も考えたことがあったという》
弁護人「移住に向けて準備はしたのですか」
植松被告「英語がしゃべれないし、難しいと思いました」
弁護人「逆に英語を身につけられていれば行きたいと」
植松被告「はい」
弁護人「大麻を認められていえばどこでも…といったら語弊があるけど」
植松被告「どこでもいいです」
弁護人「そうですか。次にカジノについて…」
植松被告「ごめんなさい」
《時計を見ながら次のテーマに移ろうとする弁護人の言葉に、植松被告が割って入る》
植松被告「大麻の話をもう少ししてもいいですか」
弁護人「…どうぞ」
《植松被告は真剣な表情をみせる》
植松被告「安楽死を認めている国は大麻を許されている国であることが多いです」
弁護人「安楽死と大麻を認めることに関係があると」
植松被告「安楽死は人生を捨てるためのルールではなく、楽しく生きるためのルールです。大麻を吸えば楽しく生きることを考えられると思います」
弁護人「日本人も大麻を吸えば、安楽死を認める国になると」
植松被告「はい。捕まってから考えました」
弁護人「大麻についてほかに言いたいことはありますか」
植松被告「ありません。ありがとうございました」
《大麻について強いこだわりを見せた植松被告。このあとのテーマは大麻に比べ淡々と答えていた》
弁護人「カジノについてはどうですか」
植松被告「カジノが悪いのではなく、小口の借金が悪いのだと思いました」
弁護人「認めるべきだと」
植松被告「認めてもいいと思います」
弁護人「小口の借金とは」
植松被告「無限に膨らむ虚栄心に限度はないと思いました」
弁護人「次に軍隊は」
植松被告「男性は18歳から30歳の間、1年間訓練すべきだと思います」
弁護人「義務で」
植松被告「はい。韓国の俳優さんを見て気合が入っていてかっこいいと思いました」
《植松被告は大麻に続いて、カジノや軍隊についても独自の主張を続けていった》
(1)幸せになる7つの秩序「安楽死、大麻、カジノ、軍隊…」 被告、早くも屈折した持論展開
《相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で平成28年7月、入所者ら45人が殺傷された事件で、殺人罪などに問われた元職員、植松聖(さとし)被告の第8回公判が24日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で始まった》
《この日は植松被告に対する初めての被告人質問。初公判で手の指をかみ切ろうとして退廷を命じられた植松被告は開廷前、長い髪をまとめて黒っぽいスーツに白いワイシャツ姿で弁護側の席に座った》
《うっすらと笑いを浮かべ、検察側の席を見つめた。周囲を6人の刑務官が囲み、法廷は被告人質問が始まる前からものものしい空気に包まれた》
《公判の主な争点は植松被告の犯行当時責任能力があったかどうか。弁護人は植松被告が障害者に対して思っていたことについて1つ1つ質問していく》
◇
弁護人「今、あなたはどこにいるか分かりますか」
植松被告「分かります」
弁護人「どこですか」
植松被告「裁判所です」
弁護人「なんの裁判ですか」
植松被告「障害者を殺傷した事件についてです」
《始まった被告人質問。弁護人の質問に対し、少し弁護人の方に顔を向けながらも、よどみなく、はっきりと答えていく》
弁護人「あなたのしたことに間違いはありませんか」
植松被告「間違いありません」
弁護人「あなたがどうして事件を起こしたのか、1つ1つ聞いていきます」
植松被告「はい」
弁護人「その前に、この裁判について、弁護側がどのような主張をしているか知っていますか」
植松被告「心神喪失、心神耗弱(こうじゃく)による無罪を主張しています」
弁護人「そのことについて、あなたはどう思いますか」
植松被告「自分は心神喪失ではないと思っています」
弁護人「どうしてですか」
植松被告「責任能力がないものは死刑にするべきだと思うからです」
弁護人「自分に責任能力があると思いますか」
植松被告「責任能力があると思っています」
《弁護側の主張する心神喪失、心神耗弱を真っ向から否定する植松被告。畳みかけるように返答していく。弁護人の質問は植松被告の「思想」に移る》
弁護人「正しい考えに基づいて行動したということですか」
植松被告「はい」
弁護人「約3年前、あなたはノートを渡してくれましたね」
植松被告「覚えています」
弁護人「何が書いてありましたか」
植松被告「より多くの人が幸せになるために7つの秩序を書きました」
弁護人「7つ、覚えていますか」
植松被告「安楽死、大麻、カジノ、軍隊、セックス、美容、環境について考えました」
弁護人「1つずつ聞いていきます。安楽死とはどういう意味ですか」
植松被告「意思疎通の取れない人間を安楽死させるべきだと思います」
弁護人「具体的には」
植松被告「名前、年齢、住所を言えない人間です」
弁護人「他のことは言える場合もですか」
植松被告「それはもっと明確な基準があると思いますが…名前や年齢が言えないことも基準になると思います」
《初めて言いよどんだ植松被告。自身の言いたいことを言うときはすらすらとはっきり答える植松被告だが、具体的な内容や背景について質問されると明確な返答ができない場面も出てくる》
弁護人「あなたは意思疎通が取れない人を何と呼んでいましたか」
植松被告「心神喪失者ということで心失者と呼んでいました」
弁護人「誰が付けたんですか」
植松被告「私です」
弁護人「誰かに教えてもらったのではなく」
植松被告「(もともと違う名前で呼んでいたが、)事件の後の精神鑑定で『傷つく人がいる』と言われたので考えました」
弁護人「意思疎通が取れない人はなぜ安楽死しなければならないのでしょう」
植松被告「無理心中、介護殺人、社会保障費、難民などで多くの問題を引き起こす元になっているからです」
弁護人「無理心中とは」
植松被告「無理心中をする人の多くは、重度障害者を抱えていて生活に耐えられず無理心中をしてしまうと聞いたからです」
《考えの中身について聞かれると独善的な主張をまくしたてる。一方、弁護側がさらに深く質問していくとたちまち返答が危うくなる》
弁護人「介護殺人とは」
植松被告「意思疎通を取れない人を守ろうとするからこそ、死について考えることができないと思います。死の価値について、考えることができないということです」
弁護人「どういう意味ですか」
植松被告「人間はいつか意思疎通が取れなくなる可能性があるから…」
《返答に詰まったのか、植松被告は「シューッ」と大きく呼吸を繰り返して発言を中断する》
植松被告「死について考えることができなくなっていると思います」
弁護人「難民というのはどういう意味ですか」
植松被告「直接の関係はありませんが、不幸を生み出すもとになっているということです」
《荒唐無稽な主張を繰り返す植松被告。弁護側による質問はこの後も続いていく》
(2)止まらない障害者への差別的発言「愛する家族であっても安楽死させるべきだ」
《意思疎通のできない重度障害者には安楽死を認めるべきである-。植松被告の差別的な主張は続く》
弁護人「重度障害者にも親、兄弟がいます。その人たちの気持ちを考えたことはありますか」
植松被告「自分の子供を守りたいという気持ちはわかりますが、受け入れることはできません。なぜなら、自分の金と時間を使って面倒を見ることができないからです。彼らの生活は国から支給される金で成り立っており、家族の金ではありません」
《弁護人の目を真っすぐと見据え、大きな声で宣言するように告げた。独演会のような被告人質問が続く》
弁護人「それでも、愛情をもって接している家族もいるんですよ」
植松被告「気持ちはわかりますが、他人の金と時間を奪っている限り、守ってはいけないと思います」
《弁護人は、再びノートの内容に触れる》
弁護人「ノートには安楽死のことが書かれていますが、安楽死を認めると世の中はどうなると思いますか」
植松被告「生き生きと働ける社会になると思います。仕事をしないから動けなくなり、ボケてしまうと思います。仕事をすることが重要です」
《ひときわ大きな声で、はきはきと答える。自分の主張を周囲に聞いてもらい、気分が高揚しているようにも見える》
弁護人「健康でも、働いていない人がいますよ」
植松被告「働けない人を守るから、働かない人が生まれるんだと思います。国から支給された金で生活するのは間違っています」
弁護人「今の日本では安楽死が認められていません。どうやって認めるんですか」
植松被告「死を考えることでよりよく生きられると思います」
弁護人「ん? 法律的に認めるということですか」
植松被告「認めていければと思っています」
《弁護人は、ここで話題を切り替えた》
弁護人「なぜ、国から支給されている金で生活するのが問題だと思うようになったんですか」
植松被告「日本が借金だらけで、財政が苦しいことを知ったからです。お金が欲しくて、世界情勢を調べるようになりました。そうしたら、テレビやインターネットで国の借金のことを知ったんです。安楽死させると、借金を減らせると思いました」
弁護人「借金が減ると世の中はどうなりますか」
植松被告「みんなが幸せに生活できます」
《弁護人は、植松被告がこうした考えに至った背景をひもとこうとしているようだ。過去の経緯を振り返り始めた》
弁護人「あなたは平成24~25年ごろからから、やまゆり園で働いていましたね。どんなことを感じましたか」
植松被告「最初は、こんな世界があるのかと驚きました」
弁護人「家族に会って話したことはありますか」
植松被告「何十回とあります。やまゆり園にはずっと入所している障害者と、数日から1週間の短期の入所者がいます。長期の人の家族はのんきなんですが、短期の人は表情が暗くて、いつもそそくさと逃げるように帰っていきました。重たい表情で疲れ切っていました。奇声を上げて暴れる障害者は、家で育てられません。それに疲れて暗い表情をしているんだと思いました」
《弁護人は再び、ノートに書かれていた安楽死について質問を重ねていく》
植松被告「安楽死には家族の同意があればいいと思っていましたが、できない人もいると思いました。本人は意思疎通が取れないので必要ありません。問題は家族の同意です。愛している家族はきっと同意できないと思います。でも、金と時間を支給されている限り、それは違うと思うんです」
弁護人「家族が愛していても死ぬべきだということですか」
植松被告「その通りです」
《植松被告は深くうなずき、ひときわ大きな声で告げた》
弁護人「ここで、あなたが安楽死を考えるに至った経緯を整理しましょう。まず、やまゆり園で24~25年ごろ働き始めましたね。そして28年2~3月ごろに措置入院をしています」
植松被告「はい。安楽死は、措置入院の前から考えていました。家族の同意がなくても安楽死をすべきだと考えるようになったのは措置入院の最中です」
弁護人「分かりました。措置入院の話はあとで聞きます」
植松被告「よろしくお願いします」
《喜々として答える植松被告。弁護人はここで、話題をナチスドイツのヒトラーに切り替える。ヒトラーはユダヤ人だけでなく、障害者も虐殺したとされる》
植松被告「ヒトラーのことは知っています。ユダヤ人の虐殺は間違っていますが、障害者の虐殺は間違っていないと思います。(ヒトラーのことは)雑誌などを拝見して知りました。間違っているのはユダヤ人を虐殺したことです」
弁護人「ヒトラーの影響はありますか」
植松被告「ありません。安楽死のことを思いついてから、ヒトラーのことを知ったからです。ユダヤ人の虐殺は有名ですが、障害者のことは知りませんでした。なので驚きましたが、障害者を虐殺するだけなら間違っていなかったと思います。ただ、虐殺した障害者の中に軽度の方が含まれていたらそれは間違っていたのかもしれませんが…」
《植松被告が現在の思想を持つに至った経緯について聞いてきた弁護人は、続いて大麻についての質問に移った》
(3)大麻は週に2~4回「楽しい心が超回復。楽しみすぎて…」
《殺人罪などに問われた元職員、植松聖(さとし)被告の被告人質問が続いている。弁護人は植松被告がノートに記したという“7つの秩序”について順に質問。話題は「大麻」に移った》
弁護人「大麻について考えたことは」
植松被告「大麻は本当に素晴らしい草です。本当に感謝しています。嗜好(しこう)品として使用、栽培を認めるべきだと思う」
弁護人「日本は大麻が禁止されている理由はわかりますか」
植松被告「病気が治ると薬が売れなくなるからだと思います。楽しい草と書いて薬になります。楽しい心が超回復につながります」
《大麻を使うと病気が治るため、医薬品が売れなくなる-。植松被告は禁止の理由をこう捉えているようだ》
弁護人「私は詳しくないですが、使用するとどうなるのですか」
植松被告「脳が膨らみます」
弁護人「どういうことですか」
植松被告「多幸感を与えるのは事実です。ビルゲイツも人生最大の経験といっています」
弁護人「ほかの薬物と比べて違うのか」
植松被告「ほかの薬物はばかにして考えなくすることで楽しむ薬です。脱法ハーブはばかになっている実感がありました」
《弁護人が脱法ハーブの使用歴を確認すると、21歳から23、24歳まで使用していたと答えた》
植松被告「最悪です。ろれつが回らなくなったり計算ができなくなったりしました。大麻を吸って治療できたと思います」
《大麻は23、24歳から事件まで吸っていたという。弁護人の確認に対し、週に2~4回、主に自宅で使用していたと説明した。“多幸感”を思い出したのか、植松被告の声に力がこもる。回答の途中、ズボンのポケットからハンカチで顔全体をぬぐった》
弁護人「いいですよ、ゆっくり話しましょう」
植松被告「はい」
《植松被告は照れ笑いのような表情を浮かべる》
弁護人「みんな使うべきだとあなたは考えるのか」
植松被告「はい」
弁護人「例えば私も」
植松被告「もったいないと思います」
弁護人「例えば裁判官や検察官も」
植松被告「その通りです」
弁護人「大麻で悪いことは」
植松被告「楽しみすぎて酒を飲みすぎてしまうくらいです」
弁護人「逮捕され3年たつ。大麻も使っていないがどうですか」
植松被告「自転車のようなもので、1度乗ったら感覚を覚えています」
弁護人「今も同じ感覚なのですか」
植松被告「そうではなくて、知っていることが大事だと思います」
弁護人「使いたいですか」
植松被告「はい」
弁護人「使えず辛いですか」
植松被告「禁断症状ではありません」
弁護人「勧めたことは」
植松被告「あります。友人や後輩や知人です。みんなで吸いたいと思っています」
弁護人「どんな感想がありましたか」
植松被告「『本当にありがとう』『こんなに変わるの』と驚かれたり感謝されたりしました」
弁護人「大麻の良さを人に伝えたい、世間に広げたい、ゆくゆくは法律家に認めてほしいということか」
植松被告「はい」
《続けて大麻が認められている国を問われ、すらすらと答える植松被告。禁止している日本は『例外的』とし、認められている国への移住も考えたことがあったという》
弁護人「移住に向けて準備はしたのですか」
植松被告「英語がしゃべれないし、難しいと思いました」
弁護人「逆に英語を身につけられていれば行きたいと」
植松被告「はい」
弁護人「大麻を認められていえばどこでも…といったら語弊があるけど」
植松被告「どこでもいいです」
弁護人「そうですか。次にカジノについて…」
植松被告「ごめんなさい」
《時計を見ながら次のテーマに移ろうとする弁護人の言葉に、植松被告が割って入る》
植松被告「大麻の話をもう少ししてもいいですか」
弁護人「…どうぞ」
《植松被告は真剣な表情をみせる》
植松被告「安楽死を認めている国は大麻を許されている国であることが多いです」
弁護人「安楽死と大麻を認めることに関係があると」
植松被告「安楽死は人生を捨てるためのルールではなく、楽しく生きるためのルールです。大麻を吸えば楽しく生きることを考えられると思います」
弁護人「日本人も大麻を吸えば、安楽死を認める国になると」
植松被告「はい。捕まってから考えました」
弁護人「大麻についてほかに言いたいことはありますか」
植松被告「ありません。ありがとうございました」
《大麻について強いこだわりを見せた植松被告。このあとのテーマは大麻に比べ淡々と答えていた》
弁護人「カジノについてはどうですか」
植松被告「カジノが悪いのではなく、小口の借金が悪いのだと思いました」
弁護人「認めるべきだと」
植松被告「認めてもいいと思います」
弁護人「小口の借金とは」
植松被告「無限に膨らむ虚栄心に限度はないと思いました」
弁護人「次に軍隊は」
植松被告「男性は18歳から30歳の間、1年間訓練すべきだと思います」
弁護人「義務で」
植松被告「はい。韓国の俳優さんを見て気合が入っていてかっこいいと思いました」
《植松被告は大麻に続いて、カジノや軍隊についても独自の主張を続けていった》