・2030年に世界は氷河期突入、確率は「97%」とザーコバ教授(週刊ポスト 2017年1月30日)
※「2030年、世界は氷河期に突入する」──2015年7月、この説を発表したのは、英国ノーザンブリア大学のバレンティーナ・ザーコバ教授率いる研究チームである。
同チームの研究によれば、太陽の活動は2030年代に現在の60%にまで減少し、1645年に始まった「ミニ氷河期」(マウンダー極小期)の時代に近い状況になると結論づける。この「ミニ氷河期」の説明は後述するが、その確率は「97%」と高いという。ザーコバ教授が解説する。
「太陽内部の表面に近い2つの層の電磁波の同期がずれると、太陽の活動が低下して地球の気温が下がる。この現象は2030年頃から本格的に始まると予測されているのです。
すでに太陽の活動が停滞し始めているのは間違いない。近年、欧州を襲っている寒波もこれに関連していると思われます」
モスクワ国立総合大学のヘレン・ポポヴァ博士やNASA(米航空宇宙局)の元コンサルタント、ジョン・ケイシー氏らも同意見だ。
ザーコバ教授らが「2030年氷河期」説を発表した直後の2015年10月には、NASAも「寒冷化」を裏付ける報告を発表した。人工衛星から南極氷床の高さを計測した最新の分析データによれば、南極の氷は1992年から2001年にかけて1120億トン、2003年から2008年にかけても820億トン増えていたというのである。
この結果は「南極の氷が溶け、海面上昇を引き起こして南太平洋の島々は水没する」という地球温暖化の議論をリードしてきたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測を覆すものだ。
ここ数年、夏は猛暑続きで「温暖化の影響か」と感じていた人は少なくないだろう。しかし、「これは寒冷化の影響」と語るのは理化学研究所の主任研究員・戎崎俊一氏だ。
「寒暖がどちらも極端になり、異常気象が連続するのが『ミニ氷河期』の特徴です。極端に暑い夏、極端に寒い冬を多くの人が体感しているはず。
ザーコバ教授らの発表通り、いま太陽の活動は非常に弱くなっている。私はすでに『ミニ氷河期』に入っていると見ています。昨年11月に都内で積雪があったのは、まさにその影響かもしれません」
※週刊ポスト2017年2月10日号
・2030年氷河期突入で約20億人が死亡する危険性あり(週刊ポスト 2017年1月31日)
※さっ、寒い! この冬の厳しい寒さにこたえている人も多いはず。昨年11月には観測史上初の「都内11月積雪」を記録。1月には強い寒波が日本列島を襲い、岩手県奥州市では観測史上1位タイの氷点下16.5度を記録した。
日本だけではない。ヨーロッパでも1月中旬からの厳しい寒波によって少なくとも65人以上が死亡した。全世界が寒さに震えているのだ。
2015年に英国ノーザンブリア大学のバレンティーナ・ザーコバ教授率いる研究チームの発表によれば、太陽の活動は2030年代に現在の60%にまで減少し、1645年に始まった「ミニ氷河期」(マウンダー極小期)の時代に近い状況になるという。つまり「2030年、世界は氷河期に突入する」というのだ。
いまから約400年前にもミニ氷河期があった。1645~1715年は、「マウンダー極小期」とも呼ばれ、太陽の黒点の数が著しく減少した。ザーコバ教授はいう。
「マウンダー極小期には地球の平均気温が1.5度下がりました。今回の寒冷化はその時よりももっと気温を低くさせるでしょう」
当時、その影響は甚大だった。欧州では英国・テムズ川やオランダの運河が凍りつき、日本でも同時期に寛永の大飢饉(1642~1643年)、延宝の飢饉(1674~1675年)、天和の飢饉(1682~1683年)、そして元禄の飢饉(1691~1695年)と、立て続けに大飢饉が起きている。
「ミニ氷河期とはいえ、本格化すれば北海道まで氷河が押し寄せ、アメリカは五大湖まで氷に覆われる。欧州も壊滅的です。穀倉地帯の大部分で収穫が不可能になり、食糧危機は必至です」(理化学研究所・戎崎俊一主任研究員)
『日本列島SOS』(小学館)の著者で、元NASA上級研究員の桜井邦朋博士はこうシミュレーションする。
「世界の穀倉地帯や漁場が変動する影響で、世界人口80億人のうち、約20億人が飢餓と病気で死亡する危険性があります。とくに日本のように食料自給率が低い国はその影響を強く受け、国家存立さえ危うくなるかもしれません。
1665年の欧州でのペスト流行も、寒さのためにネズミのエサがなくなり、人里に下りてきたため感染が広がったといわれている。食糧を巡る戦争、紛争も多発するでしょう」
広島大学大学院生物圏科学研究科の長沼毅教授がいう。
「一番怖いのはミニ氷河期がトリガーとなって、氷期に突入してしまうことです。食糧難に加えて、エネルギーが閉ざされる。さらに池や川があまねく凍るので、水不足が深刻になる。私は温暖化対策ではなく、来る氷期に備えた省エネ社会を作ることこそ急務だと思います」
「今日も寒いねぇ?」なんて笑っていられるのも、今のうちか。
※週刊ポスト2017年2月10日号
・地球温暖化はもう手遅れか?(はたまたミニ氷河期到来か)(Yahoo!ニュース 2018年8月13日)
江守正多 | 国立環境研究所地球環境研究センター副センター長
※ミニ氷河期はどうなのか
太陽活動変動の影響について簡単に見ておこう。
現在、太陽活動は弱まる傾向にあり、太陽活動が今世紀中に長期的な不活発期に入るという予測がある。300年ほど前の同様な不活発期(マウンダー極小期)に英国のテムズ川が凍ったなどの記録があることから、温暖化を打ち消して寒冷化をもたらすような「ミニ氷河期」が来ると考える人たちがいるようだ。
しかし、300年前のミニ氷河期は、世界平均ではそれほど大きな気温低下をもたらしておらず、かつ原因の一部には火山噴火の影響も含まれることから、太陽活動低下の影響は世界平均気温でせいぜい0.3℃程度と評価されている。太陽活動の影響には「宇宙線」と雲の変化等を通じた未解明の増幅効果があることも指摘されているが、300年前を参考にするならば、それらの増幅効果を含めた大きさが高々0.3℃ということになる。
また、近年、英国天文学会で太陽活動低下の予測を発表して、ミニ氷河期支持派からの期待を集めている英国ノーザンブリア大学のZharkova教授自身が、「地球温暖化を無視すべきでない。太陽活動の低下は、私たちが炭素排出を止めるための時間を稼いでくれるだけだ」と発言していることにも注目してほしい。
そうは言ったものの、太陽活動は地球の気候にとって本質的な外部条件であり、その変動は不確かなのだから、「時間稼ぎ」が本当にあるのかどうかを含め、一つのファクターとして注視しておくべきだろう。大規模な火山噴火についても同様だ。
・「温暖化なのに南極の氷が増えている」件の記事で、さすがにひどい見出し(Yahoo!ニュース 2015年11月18日)
江守正多 | 国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長
※刺激的な見出し「温暖化による理論が破綻」?
11月5日に「南極の氷は増えていたという調査結果をNASAが発表した」という報道記事を見たとき、筆者はあまり驚かなかった。
温暖化が進むと南極に降る雪の量が増えて氷が増えるというのは以前から認識されていたことだ。一方で、南極の一部(西南極)では氷の流動が速くなり、氷が減少していることが観測されている。
近年の研究では、東側の増加と西側の減少を差し引きすると正味では減少しているという研究結果が多数出ていたわけだが、東側の増加の方が上回っているという新たな推定が出てきても、まあ不思議ではないと思ったのだ。
しかし、ここ数日の間に、シンポジウムでの一般の方からのご質問などの中に「南極の氷は増えているそうだが、温暖化はどうなっているのか」というのを立て続けに何度もお聞きする機会があり、「ああ、この話は世間ではけっこう注目されているのだな」と認識した。
そうこうするうちに、Yahoo!ニュースのサイトを通じて、以下の見出しの記事が目に入った。
「温暖化による理論が破綻“南極の氷増加” 海面上昇の原因はどこに…」(11月14日産経新聞)
数日後には以下の記事を見た。
「温暖化理論を破綻させた「南極の氷増加」 科学者も困惑…海面上昇の原因はどこに…」(11月17日SANKEI EXPRESS)
見出しは一見して、筆者の認識に反する。一般的にみても刺激的な見出しだろう。
しかし、記事の中身を読んでみると、筆者の認識に反することはほとんど書いていない印象である。
特に、これらの記事が「温暖化理論」の破たんを主張するものでないことは、以下のような箇所から明確だ。
もっとも、ツバリー氏ら気候科学者たちは、今回の研究結果が温暖化の終わりを意味するものにはならないともくぎを刺す。
今回の結果は、温暖化そのものを否定するものではないが、…
14日の産経新聞の記事と17日のSANKEI EXPRESSの記事は、内容は同一のようだが、見出しが少しだけ違う点が興味深い。
14日の「温暖化による理論が破綻」は、おそらく「温暖化により南極の氷が減少して海面上昇に寄与するという理論が破綻」のつもりだろう。つまり、一見すると「温暖化理論が破綻」にみえるかもしれないが、よく読んでもらえれば、間違ったことは書いていませんよ、という意図が想像できる。(よくある笑い話で、消火器を売りに来た詐欺師が「消防署から来ました」でなく「消防署の方から来ました」と言うのに似ている)
しかし、17日の記事では「温暖化理論を破綻させた」となっている。これはほとんどの人が「人間活動により地球が温暖化しているという理論を破綻させた」と解釈する可能性が高い表現といえるだろう。つまり、この見出しは「記事の内容に反しているではないか」という批判に対して、14日の見出しよりも言い逃れが難しいものになっている。
さらに興味深いことに、この記事の内容は11月5日に既に産経ニュースの記事になっており、そのときの見出しはずっとおとなしい。
「南極の氷は増加中」NASA、定説覆す調査結果発表(11月5日産経ニュース)
海面上昇の理論は破綻したのか?
ところで、今回発表されたNASAの研究は、「温暖化により南極の氷が減少して海面上昇に寄与するという理論」を「破綻」させたといえるのだろうか。
筆者の認識では、「破綻」という表現は控えめに言っても大げさ、厳しく言えば誤報だ。
この研究は、人工衛星による南極大陸の表面高度の変化のデータから南極の氷の質量変化を推定したものだが、この衛星データをそのような精度で使うことには、この分野の他の専門家から批判があるようだ。
また、高度から質量を推定するためには密度を仮定する必要がある。ここで従来と異なる仮定(氷の増加をもたらしているのは近年の降雪の増加ではなく、1万年前に氷期が終わってから現在まで続いている降雪の増加であり、南極表層の密度は氷の密度に近い大きい値という仮定)をしたことがこの研究の一つのポイントのようなのだが、この点についても疑問を呈する専門家のコメントがある。
つまり、今回発表された南極の氷の増加は、これまでの多くの(南極の氷が減っているという)研究に比べて、必ずしも精度や信頼性が勝っているわけではなく、むしろ劣っている可能性も十分にあるのだ。
こういう研究成果をもって、「従来の理論を破たんさせた」とは普通いわないだろう。
見出しの後半「海面上昇の原因はどこに…」についても、大げさな印象がある。
海面上昇の原因は、大部分が海水の熱膨張、グリーンランド氷床の減少、山岳氷河の減少だ。もし南極の氷が増えていたとしても、大勢には影響がなく、原因が皆目わからなくなるわけではない。
南極の氷が増えているとすれば、高い精度で見れば観測された海面上昇と原因の推定の間の齟齬を大きくするが、その場合にはグリーンランド氷床の効果等をこれまで過小評価していた可能性が疑われることになる。記事の中身を読めば、ちゃんとそのように書いてある。
※ブログ主コメント:恥ずかしながら、2015年にミニ氷河期説が提唱されていたことをブログ主は知りませんでした。しかし江守氏の反論の方が信頼できそうです。温暖化が進行していくという趨勢にさしたる影響はないようです。ただオカルト的には氷河期が来る方が合っているのですが。
※「2030年、世界は氷河期に突入する」──2015年7月、この説を発表したのは、英国ノーザンブリア大学のバレンティーナ・ザーコバ教授率いる研究チームである。
同チームの研究によれば、太陽の活動は2030年代に現在の60%にまで減少し、1645年に始まった「ミニ氷河期」(マウンダー極小期)の時代に近い状況になると結論づける。この「ミニ氷河期」の説明は後述するが、その確率は「97%」と高いという。ザーコバ教授が解説する。
「太陽内部の表面に近い2つの層の電磁波の同期がずれると、太陽の活動が低下して地球の気温が下がる。この現象は2030年頃から本格的に始まると予測されているのです。
すでに太陽の活動が停滞し始めているのは間違いない。近年、欧州を襲っている寒波もこれに関連していると思われます」
モスクワ国立総合大学のヘレン・ポポヴァ博士やNASA(米航空宇宙局)の元コンサルタント、ジョン・ケイシー氏らも同意見だ。
ザーコバ教授らが「2030年氷河期」説を発表した直後の2015年10月には、NASAも「寒冷化」を裏付ける報告を発表した。人工衛星から南極氷床の高さを計測した最新の分析データによれば、南極の氷は1992年から2001年にかけて1120億トン、2003年から2008年にかけても820億トン増えていたというのである。
この結果は「南極の氷が溶け、海面上昇を引き起こして南太平洋の島々は水没する」という地球温暖化の議論をリードしてきたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測を覆すものだ。
ここ数年、夏は猛暑続きで「温暖化の影響か」と感じていた人は少なくないだろう。しかし、「これは寒冷化の影響」と語るのは理化学研究所の主任研究員・戎崎俊一氏だ。
「寒暖がどちらも極端になり、異常気象が連続するのが『ミニ氷河期』の特徴です。極端に暑い夏、極端に寒い冬を多くの人が体感しているはず。
ザーコバ教授らの発表通り、いま太陽の活動は非常に弱くなっている。私はすでに『ミニ氷河期』に入っていると見ています。昨年11月に都内で積雪があったのは、まさにその影響かもしれません」
※週刊ポスト2017年2月10日号
・2030年氷河期突入で約20億人が死亡する危険性あり(週刊ポスト 2017年1月31日)
※さっ、寒い! この冬の厳しい寒さにこたえている人も多いはず。昨年11月には観測史上初の「都内11月積雪」を記録。1月には強い寒波が日本列島を襲い、岩手県奥州市では観測史上1位タイの氷点下16.5度を記録した。
日本だけではない。ヨーロッパでも1月中旬からの厳しい寒波によって少なくとも65人以上が死亡した。全世界が寒さに震えているのだ。
2015年に英国ノーザンブリア大学のバレンティーナ・ザーコバ教授率いる研究チームの発表によれば、太陽の活動は2030年代に現在の60%にまで減少し、1645年に始まった「ミニ氷河期」(マウンダー極小期)の時代に近い状況になるという。つまり「2030年、世界は氷河期に突入する」というのだ。
いまから約400年前にもミニ氷河期があった。1645~1715年は、「マウンダー極小期」とも呼ばれ、太陽の黒点の数が著しく減少した。ザーコバ教授はいう。
「マウンダー極小期には地球の平均気温が1.5度下がりました。今回の寒冷化はその時よりももっと気温を低くさせるでしょう」
当時、その影響は甚大だった。欧州では英国・テムズ川やオランダの運河が凍りつき、日本でも同時期に寛永の大飢饉(1642~1643年)、延宝の飢饉(1674~1675年)、天和の飢饉(1682~1683年)、そして元禄の飢饉(1691~1695年)と、立て続けに大飢饉が起きている。
「ミニ氷河期とはいえ、本格化すれば北海道まで氷河が押し寄せ、アメリカは五大湖まで氷に覆われる。欧州も壊滅的です。穀倉地帯の大部分で収穫が不可能になり、食糧危機は必至です」(理化学研究所・戎崎俊一主任研究員)
『日本列島SOS』(小学館)の著者で、元NASA上級研究員の桜井邦朋博士はこうシミュレーションする。
「世界の穀倉地帯や漁場が変動する影響で、世界人口80億人のうち、約20億人が飢餓と病気で死亡する危険性があります。とくに日本のように食料自給率が低い国はその影響を強く受け、国家存立さえ危うくなるかもしれません。
1665年の欧州でのペスト流行も、寒さのためにネズミのエサがなくなり、人里に下りてきたため感染が広がったといわれている。食糧を巡る戦争、紛争も多発するでしょう」
広島大学大学院生物圏科学研究科の長沼毅教授がいう。
「一番怖いのはミニ氷河期がトリガーとなって、氷期に突入してしまうことです。食糧難に加えて、エネルギーが閉ざされる。さらに池や川があまねく凍るので、水不足が深刻になる。私は温暖化対策ではなく、来る氷期に備えた省エネ社会を作ることこそ急務だと思います」
「今日も寒いねぇ?」なんて笑っていられるのも、今のうちか。
※週刊ポスト2017年2月10日号
・地球温暖化はもう手遅れか?(はたまたミニ氷河期到来か)(Yahoo!ニュース 2018年8月13日)
江守正多 | 国立環境研究所地球環境研究センター副センター長
※ミニ氷河期はどうなのか
太陽活動変動の影響について簡単に見ておこう。
現在、太陽活動は弱まる傾向にあり、太陽活動が今世紀中に長期的な不活発期に入るという予測がある。300年ほど前の同様な不活発期(マウンダー極小期)に英国のテムズ川が凍ったなどの記録があることから、温暖化を打ち消して寒冷化をもたらすような「ミニ氷河期」が来ると考える人たちがいるようだ。
しかし、300年前のミニ氷河期は、世界平均ではそれほど大きな気温低下をもたらしておらず、かつ原因の一部には火山噴火の影響も含まれることから、太陽活動低下の影響は世界平均気温でせいぜい0.3℃程度と評価されている。太陽活動の影響には「宇宙線」と雲の変化等を通じた未解明の増幅効果があることも指摘されているが、300年前を参考にするならば、それらの増幅効果を含めた大きさが高々0.3℃ということになる。
また、近年、英国天文学会で太陽活動低下の予測を発表して、ミニ氷河期支持派からの期待を集めている英国ノーザンブリア大学のZharkova教授自身が、「地球温暖化を無視すべきでない。太陽活動の低下は、私たちが炭素排出を止めるための時間を稼いでくれるだけだ」と発言していることにも注目してほしい。
そうは言ったものの、太陽活動は地球の気候にとって本質的な外部条件であり、その変動は不確かなのだから、「時間稼ぎ」が本当にあるのかどうかを含め、一つのファクターとして注視しておくべきだろう。大規模な火山噴火についても同様だ。
・「温暖化なのに南極の氷が増えている」件の記事で、さすがにひどい見出し(Yahoo!ニュース 2015年11月18日)
江守正多 | 国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長
※刺激的な見出し「温暖化による理論が破綻」?
11月5日に「南極の氷は増えていたという調査結果をNASAが発表した」という報道記事を見たとき、筆者はあまり驚かなかった。
温暖化が進むと南極に降る雪の量が増えて氷が増えるというのは以前から認識されていたことだ。一方で、南極の一部(西南極)では氷の流動が速くなり、氷が減少していることが観測されている。
近年の研究では、東側の増加と西側の減少を差し引きすると正味では減少しているという研究結果が多数出ていたわけだが、東側の増加の方が上回っているという新たな推定が出てきても、まあ不思議ではないと思ったのだ。
しかし、ここ数日の間に、シンポジウムでの一般の方からのご質問などの中に「南極の氷は増えているそうだが、温暖化はどうなっているのか」というのを立て続けに何度もお聞きする機会があり、「ああ、この話は世間ではけっこう注目されているのだな」と認識した。
そうこうするうちに、Yahoo!ニュースのサイトを通じて、以下の見出しの記事が目に入った。
「温暖化による理論が破綻“南極の氷増加” 海面上昇の原因はどこに…」(11月14日産経新聞)
数日後には以下の記事を見た。
「温暖化理論を破綻させた「南極の氷増加」 科学者も困惑…海面上昇の原因はどこに…」(11月17日SANKEI EXPRESS)
見出しは一見して、筆者の認識に反する。一般的にみても刺激的な見出しだろう。
しかし、記事の中身を読んでみると、筆者の認識に反することはほとんど書いていない印象である。
特に、これらの記事が「温暖化理論」の破たんを主張するものでないことは、以下のような箇所から明確だ。
もっとも、ツバリー氏ら気候科学者たちは、今回の研究結果が温暖化の終わりを意味するものにはならないともくぎを刺す。
今回の結果は、温暖化そのものを否定するものではないが、…
14日の産経新聞の記事と17日のSANKEI EXPRESSの記事は、内容は同一のようだが、見出しが少しだけ違う点が興味深い。
14日の「温暖化による理論が破綻」は、おそらく「温暖化により南極の氷が減少して海面上昇に寄与するという理論が破綻」のつもりだろう。つまり、一見すると「温暖化理論が破綻」にみえるかもしれないが、よく読んでもらえれば、間違ったことは書いていませんよ、という意図が想像できる。(よくある笑い話で、消火器を売りに来た詐欺師が「消防署から来ました」でなく「消防署の方から来ました」と言うのに似ている)
しかし、17日の記事では「温暖化理論を破綻させた」となっている。これはほとんどの人が「人間活動により地球が温暖化しているという理論を破綻させた」と解釈する可能性が高い表現といえるだろう。つまり、この見出しは「記事の内容に反しているではないか」という批判に対して、14日の見出しよりも言い逃れが難しいものになっている。
さらに興味深いことに、この記事の内容は11月5日に既に産経ニュースの記事になっており、そのときの見出しはずっとおとなしい。
「南極の氷は増加中」NASA、定説覆す調査結果発表(11月5日産経ニュース)
海面上昇の理論は破綻したのか?
ところで、今回発表されたNASAの研究は、「温暖化により南極の氷が減少して海面上昇に寄与するという理論」を「破綻」させたといえるのだろうか。
筆者の認識では、「破綻」という表現は控えめに言っても大げさ、厳しく言えば誤報だ。
この研究は、人工衛星による南極大陸の表面高度の変化のデータから南極の氷の質量変化を推定したものだが、この衛星データをそのような精度で使うことには、この分野の他の専門家から批判があるようだ。
また、高度から質量を推定するためには密度を仮定する必要がある。ここで従来と異なる仮定(氷の増加をもたらしているのは近年の降雪の増加ではなく、1万年前に氷期が終わってから現在まで続いている降雪の増加であり、南極表層の密度は氷の密度に近い大きい値という仮定)をしたことがこの研究の一つのポイントのようなのだが、この点についても疑問を呈する専門家のコメントがある。
つまり、今回発表された南極の氷の増加は、これまでの多くの(南極の氷が減っているという)研究に比べて、必ずしも精度や信頼性が勝っているわけではなく、むしろ劣っている可能性も十分にあるのだ。
こういう研究成果をもって、「従来の理論を破たんさせた」とは普通いわないだろう。
見出しの後半「海面上昇の原因はどこに…」についても、大げさな印象がある。
海面上昇の原因は、大部分が海水の熱膨張、グリーンランド氷床の減少、山岳氷河の減少だ。もし南極の氷が増えていたとしても、大勢には影響がなく、原因が皆目わからなくなるわけではない。
南極の氷が増えているとすれば、高い精度で見れば観測された海面上昇と原因の推定の間の齟齬を大きくするが、その場合にはグリーンランド氷床の効果等をこれまで過小評価していた可能性が疑われることになる。記事の中身を読めば、ちゃんとそのように書いてある。
※ブログ主コメント:恥ずかしながら、2015年にミニ氷河期説が提唱されていたことをブログ主は知りませんでした。しかし江守氏の反論の方が信頼できそうです。温暖化が進行していくという趨勢にさしたる影響はないようです。ただオカルト的には氷河期が来る方が合っているのですが。