・なぜ人は共産主義に騙され続けるのか(大紀元 2019年08月20日)

掛谷英紀

筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。

※なぜ人は共産主義に騙され続けるのか。ソ連が崩壊して以降も、数は少なくなったが共産主義を信奉し続ける人は存在し続けた。それがまた不思議だった。左翼はウソつきなのか、それとも単に学習能力がないのかという点が当時の関心事だった。

左翼とは何か。人はなぜ左翼になるのか。私にとって常に頭の片隅に存在し続けた謎であった。ところが、幸いにもここ2、3年の間に、その謎がかなり解けてきたのである。

今回はそのうち、欧米の左翼運動と日本の左翼運動の共通点から見える左翼像を紹介することにする。左翼運動は、人権、平和、寛容、多様性など常に美辞麗句を看板に掲げる。しかし、その運動の矛先は極めて恣意的に選ばれている。

日本の場合、左翼の人権運動は北朝鮮による拉致被害者の人権を無視する。平和運動も、中国や北朝鮮の核開発や軍拡に抗議をしない。反原発運動も、中国や韓国の原発には反対しない。これらに共通するのは、周辺諸国が日本を侵略しやすい状態を作り出す方向に運動が向いていることである。それゆえ、日本では「左翼=反日」と理解されていることが多い。日本人の目につく左翼運動にかかわる外国人は、みな反日勢力に見えるため、外国の左翼も反日的であるとの誤解を持つ保守系日本人は多い。しかし、それは間違いである。

欧米の左翼にとっての最大の敵はキリスト教的価値観に基づく西洋文明である。であるから、イスラム教などの異文化に対するトレランス(寛容)を主張しつつ、キリスト教的価値観を弾圧する。たとえば、米国の大学では学内のキリスト教徒のサークルを解散させるなどの動きがある。また、欧米のフェミニストは女性の権利を主張する一方で、イスラム系移民の性犯罪の被害を受けた女性に対しては口封じをする。

日本と欧米の左翼に共通する点は、いずれも自らの属する社会や文化を憎み、その破壊を意図していることである。その憎悪の感情は、過大な自己評価ゆえに、周囲が自分を正当に評価していないと不満を持つことから生じている場合が多い。ただし、これは全ての左翼に該当するわけではない。左翼運動は、さまざまな種類の人間の複合体である。

私は、左翼運動の構成員を次の3つに分類している。

1.中核層

自らが属する社会を憎み、それを破壊することを目指す人たち。見せかけの理想を掲げて活動を興し、その活動が社会の破壊に結びつくよう巧みに制御する。良心は無いが知的レベルは高い。

2.利権層

中核層に従うことで、活動資金や仕事(テレビ出演など)を得ることが目的の人たち。

3.浮動層

中核層が掲げた理想に共感する人たち。正義感に基づいて行動するが、いい人と思われたいという虚栄心があることも多い。知識を身に着けると、騙されたと気づいて活動から去る。



初代FBI長官のジョン・エドガー・フーヴァー氏は、左翼(コミンテルン)を「公然の(共産)党員」「非公然の党員(共産党の極秘活動に従事する人)」「フェロー・トラベラーズ(共産党の同伴者)」、「オポチュニスツ(機会主義者)」、「デュープス(騙されやすい人)」の5種類に分類している。(この分類は、江崎道朗氏の著書『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』に紹介されている。)このうちの最初の3つが中核層、利権層がオポチュニスツ、浮動層がデュープスに対応する。

正直で頭のいい人は左派にはなれないというレイモン・アロンの言葉に対応させると、中核層と利権層は不正直で頭のいい人であり、浮動層は正直で頭の悪い人である。その複合体が左翼というわけである。

保守派は左翼と違って単純な人が多い。そのため、上で述べた左翼の全貌が見えていない。左翼はみな浮動層であると勘違いして甘く見る。しかし、その認識自体が完全に左翼の術中に嵌っているのである。

左翼運動が巧みなところは、その運動において浮動層を前面に押し出すことである。中核層は基本的に表に出てこない。浮動層は善良な庶民であるから、左翼運動を叩く人は庶民の敵だとレッテルを貼れる。浮動層には悪意がないから、左翼運動の真の目的が破壊であるとの批判は濡れ衣に見える。彼らには知性も感じられないから、取るに足らない相手だと保守派も油断する。

左翼運動の知性の高さは、その攻撃先の選定に見て取ることができる。例えば、日本の自然保護運動を考えよう。彼らは、ダム、堤防、防潮堤、基地建設、高速道路、リニア新幹線、地熱発電のように、日本の安全や経済にプラスになる開発行為の自然破壊は非難するが、太陽光発電、風力発電、中国の珊瑚乱獲のように、日本にとって経済的・社会的マイナスが大きい自然破壊は問題視しない。中でも、発電に関する態度の違いは、それなりに高度な知識がないとこのような見極めはできない。

さらに左翼の頭の良さは、主力は上述のような攻撃先の選択をしつつ、それ以外の勢力はある程度意見を散らしている点にも見ることができる。これにより、批判されたときに傍流の人々を引き合いに出し、批判が不当なものであると反論できるように準備している。

左翼運動は、今後もその頭脳を駆使して庶民の味方を詐称し続けるであろう。現実には、彼らは庶民に選択の自由を与えない。自分の言いなりにならないものは、弱者であっても容赦なく叩きのめす。であるから、左翼はリベラリスト(自由主義者)とは最も遠い存在である。にもかかわらず、彼らはリベラルを自称し、その称号を社会的に広く認めさせることに成功している。

左翼の欺瞞を示す最も有効な手段は、過去の共産主義国家が何をしたかを思い起こさせることである。彼らは、常に庶民(労働者)の味方であると自称したが、過去全ての事例において特権階級が庶民を虐げる社会が生まれる結果となった。おびただしい数の人命も奪われた。その歴史をできるだけ多くの人に直視させることが、共産主義の悲劇を繰り返さないために最も重要なことである。


・日本人が知らない北米左翼の恐ろしさ(大紀元 2019年08月26日)

※ソ連などを例示して共産主義の間違いを指摘すると、未だ本当の共産主義は実現されていないと反論する人がいる。しかし、これまで共産主義を目指した国は数多くあり、その企ては全て失敗した。再度挑戦するなら、過去の失敗の原因を究明して、それを修正する必要がある。ところが、そういう真摯な姿勢の左翼はいない。ソ連や東欧が失敗したら、次はベネズエラを称賛する。ベネズエラが失敗したら、それに触れないようにする。だから失敗を繰り返す。

理工系の分野で研究開発に携わる人間は、失敗すればその原因を徹底的に洗い出し、それらを修正してから次の実験を試みる。でなければ、いつまで経っても目的を達する技術は完成しない。そういう習性をもつ我々からすると、同じ失敗を何度も繰り返そうとする行動原理は全く理解できない。理工系で左翼思想に嵌る人が稀有なのはそのためだろう。

もちろん、もともと社会の破壊と自らの独裁を目指す人にとっては、過去の共産主義国の試みは成功であって失敗ではない。だから、左翼中核層は同じことを繰り返そうとする。一方、左翼浮動層は「理想の社会」を目指しているが、単に考えが足りないので、同じ失敗を繰り返す。

昔の共産主義と今の左翼は違うと反論する人もいる。しかし、特に北米の左翼運動を見ていると、人を物扱いし、人命を著しく軽視するという点で、今の左翼も過去の共産主義国指導者と本質的に同じ思想を持っていると考えざるをえない。

今年5月、米国のジョージア州で6週を過ぎた胎児の中絶を禁止する法案が、そしてアラバマ州では一切の中絶を禁止する法案が通ったことは、日本でも広く報道された。米国の保守派が極端な主張に走っているという印象を受けた人も多いだろう。しかし、その前にブルー・ステイト(Blue State, 民主党が強い州)で、逆の極端な動きがあったことを日本の大手メディアは伝えていない。それを知っていれば、このニュースは全く違ったものに見える。

妊娠中絶をどの時点まで認めるかは、国や州によって異なるが、一定の限度を設けているのが普通である。ところが、この制限の撤廃を求める左翼運動が勢いを増している。その結果、今年1月、バージニア州とニューヨーク州で出産直前までの中絶(late-term abortion)のハードルを下げる法案が提出された(後者は可決)。そこで議論になったのが、中絶手術に失敗して生きたまま出てきた場合はどうするかということである。左翼運動家たちは、その場合は殺していいということまで言い出しているのである。

こうした主張を見ると、人間を物扱いする共産主義の唯物論的思想を今の左翼も受け継いでいると考えるのが妥当だろう。アラバマ州やジョージア州の動きは、こうしたブルー・ステイトの極端な動きへの反動として出てきたものなのである。

日本では文系の大学教授の左傾化が顕著だが、これは世界共通の現象である。北米も例外ではない。そうした左翼教授たちの思想の本質を垣間見ることができるエピソードを一つ紹介しよう。

ルービン・リポート(Rubin Report)という米国のインターネット番組がある。番組ホストのデイブ・ルービン(Dave Rubin)はゲイ男性で同性婚もしている。このプロフィールからすると、彼は左翼ではないかと思われるだろう。実際、この番組は開始当初、ザ・ヤング・タークス(The Young Turks)という左翼系のインターネットテレビ局で放送されていた。しかし、ルービンは左翼の欺瞞と暴力性に気づき、そこから離れて左翼を批判するようになった。彼は自らをクラシカル・リベラルと称しているが、今ではリベラルを自称する左翼たちから激しいバッシングを受けている。

昨年10月、そのルービン・リポートのゲストにオタワ大学の教授ジャニス・フィアメンゴ(Janice Fiamengo)が登場した。そこで彼女は左翼教授たちの恐ろしさを示す貴重な証言を行った。彼女はもともとフェミニストとして左翼活動に従事していた。左翼からの転向組という点で、ルービンと共通している。

番組でルービンはフィアメンゴ教授に転向のきっかけを尋ねた。彼女は2001年の9.11同時多発テロだと答えた。そのエピソードが強烈である。当時、彼女はサスカチュワン大学の教員だった。テロのニュースを見て彼女は動転していたが、周りの教授たちはいかにも嬉しそうで(barely contained sort of vaunting pleasure)、満足気だった(certainly a kind of satisfaction)というのである。実際、テロが起きてから1時間も経っていないとき、出くわした同僚は彼女の前でこう言ったそうである。「ざまあみろ(They’ve got what they deserved.)」と。

つい最近も、ザ・ヤング・タークスのコメンテータであるハサン・パイカー(Hasan Piker)が「アメリカにとって9.11は当然の報いだ(America deserved 9/11.)」と自らのネット配信動画で語ったことが話題になった。左翼中核層のこうした本音を直に聞けば、浮動層は左翼運動と訣別することができるだろう。

米国にはアンティファ(Antifa)と呼ばれる集団がある。C.R.A.C.(元レイシストしばき隊)の米国版というと分かりやすいかもしれない(アンティファの方が歴史は古く、本家である)。実際、C.R.A.C.にはアンティファを真似ている部分が多く見られる。

アンティファは保守系の人間が大学で講演会をすると聞くと、その大学のキャンパスに押しかけて妨害するなどの活動を繰り返している。最近は、活動が過激化しており、人に向かって暴力を振るうこともしばしばである。

実際、今年6月には、オレゴン州ポートランドでアンティファを取材していたフリージャーナリストのアンディ・ノー(Andy Ngo)が激しい暴力を受け、集中治療室に運ばれるほどの大けがを負う事件が起きた。ポートランドはアンティファの主要拠点の一つであり、警察も手を出せないほどの状況になっている。

左翼は、社会的弱者やマイノリティの味方であると自称する。しかし、それが欺瞞であることは昔も今も変わりない。現実には、彼らは自分の政治イデオロギーに都合のいい弱者やマイノリティしか保護しない。自分に都合の悪い弱者は容赦なく潰す。実際、自分の邪魔になる新生児は殺していいと平気で言う。9.11同時多発テロを喜ぶ。被害者のことなど全く顧みない。性的マイノリティ(ゲイのデイブ・ルービン)や人種マイノリティ(ベトナム系2世のアンディ・ノー)であっても、左翼イデオロギーに従わないものには容赦しない。

左翼運動に騙されないために必要なことは、彼らが何を言っているかではなく、何をやっているかに注目することである。弱者の味方を騙るが、現実には自分に従わない弱者には敵対する。多様性が大事だと言うが、左翼イデオロギーに従わない人間の言論は弾圧する。そうした行動に着目すれば、左翼中核層が目指すものは全てが自分の思い通りに動く独裁的な社会であることに気づくはずである。


・左翼のプロパガンダ戦略とは?(大紀元 2019年09月09日)

※北米で極端な左傾化が起きているのはなぜか疑問を持った人も多いだろう。もともと、米国は共産主義を忌み嫌う国である。そのルーツは、初期の入植者の歴史にまで遡る。

1607年ジェームズタウン、1620年プリマスに最初の入植者が到着したとき、彼らはある試みを行った。穀物の共有倉庫を作り、そこから必要なものを取り収穫したものを戻すことにしたのである。土地も共有し共同で働いた。理想の社会主義共同体と同じである(当時はその名前では呼ばれていなかったが)。

それで何が起きたかは想像に難くないだろう。働いた人間も働かない人間も取り分が同じなら、誰も働かない。入植地の食料は尽き、多くの入植者は餓死した。彼らはコミューンを放棄して私的所有を認めた。すると、すぐに豊作に恵まれ、それが感謝祭の起源になっている。この失敗の教訓を通じて、人間は自らの経済的成果に責任をもつべきだという考えが米国で定着した。

第二次世界大戦後は、マッカーシーによる赤狩り(Red Scare)があり、その後冷戦が終結するまで、米国はソ連をはじめとする共産主義陣営と対峙した。しかし、米国が常に共産主義から自由だったわけではない。ヴェノナ文書が明らかにしているように、第二次世界大戦の前から、米国中枢部には多くの共産主義スパイが入り込んでいた。

現在の米国の左傾化は、冷戦終結がきっかけになっている。ソ連の崩壊により、米国人は油断した。フランシス・フクヤマの著書「歴史の終わり」に書かれた認識がそれを物語る。しかし、歴史は終わっていなかった。左翼は、この油断の隙を利用して、学校、メディアなどに深く浸透していった。

今、米国で20歳前後から30代半ばまでの若者は、2000年頃に生まれたか少年期を過ごしていることから、ミレニアル世代と呼ばれている。彼らは、冷戦後の学校やメディアの左傾化による影響を強く受けて育っている。そのため、ミレニアル世代には、バーニー・サンダースやアレクサンドリア・オカシオ・コルテスのような、民主党の中でも社会主義者と呼ばれる極端に左寄りの政治家を熱狂的に支持する人が多い。日本では若者ほど保守政党の支持率が高いのとは正反対である。

日本は、今アメリカで起きていることを半世紀先取りしていたといえる。GHQの内部に共産主義の工作員が大量に入り込んでいたことは知られているが、彼らが左翼イデオロギーで染めた学校やメディアが、団塊の世代の左傾化を実現した。米国におけるミレニアル世代の左傾化と構造は同じである。

左翼は学校やメディア以外だけでなく、法曹界や研究機関にも入り込む。これも、日本に限ったことではなく、世界に共通して見られる現象である。前々回の<なぜ人は共産主義に騙され続けるのか>で述べた通り、左翼活動家は過大な欲求と自己評価を持つがゆえに、それを認めない社会を憎むという構図がある。そういう人には、協調性を要求される一般の仕事は務まらない。結果として、協調性があまり必要とされず、社会的地位も高く自己承認欲求が満たされるマスコミ、大学、法曹界などに集まると考えられる。これらの職業は社会的影響力も強いので、左翼イデオロギーを広めるにも好都合である。

インターネットが発達した今でこそ、大手マスコミのジャーナリスト、学校の先生や大学教授、弁護士や裁判官を無条件で信じる人は減ったが、一昔前まではこうした職業に就く人の社会的信用は高かった。左翼活動家はその信用を積極的に悪用してきた。

左翼中核層の最大の武器は、良心の呵責がないことである。その性質はサイコパスに通じるものがある(サイコパスについて、詳しくはマーサ・スタウトやロバート・ヘアなどの著作を参照されたい)。彼らには正義はあっても良心はない(なお、左翼自身は正義と良心の区別がつかないため、自分に良心がないという自覚がないことが多い)。そのため、あらゆる行為は、独善的正義の実現という目的の手段と化す。ウソをつくことも信用を裏切ることも全く厭わない。他人を傷つけることに全く躊躇がないのである。

左翼の中核層 想定外のことを言い相手を怯ませる

良識的な一般人は、人が平気でウソをつけるとは想像しない。左翼中核層は一般人の想定外のことができるのを武器とする。討論番組でも、左翼は議論に勝つためなら平気で口から出まかせを言う。それで討論相手を怯ませて議論に勝ったという印象を与える。討論相手も、討論を見ている人も、そこまで自信をもって言っているのだからウソではないだろうと思い込んでしまう。しかし、後々発言内容に関する事実を精査してみると、全くの出鱈目だったという経験を私は多くしている。ただ、普通の人は後で事実を精査することをしない。そのため、左翼の発したウソが正しいと後々まで信じてしまうことになる。

左翼中核層は、社会的に自分たちのウソが信じられやすいようにするための布石も打っている。それは、全ての人は本質的に同じであるという世界観の流布である。彼らは、凶悪事件でも一貫して加害者を擁護する。犯罪者も、「たまたま置かれた環境が悪かっただけで、その本質は一般人と変わらない(サイコパスのような特殊な人間は存在しない)」と主張する。こうした世界観が世の中に広がれば広がるほど、平然とつくウソが信じられやすくなるので、プロパガンダが浸透しやすい社会環境が生まれる。

左翼プロパガンダのもう一つの大きな武器はマッチポンプ戦略である。左翼中核層の目的は社会の破壊であるが、それを実現するためには今の社会に対して多くの人々が不満を持つ必要がある。だから、人々の社会に対する不満を煽って、それを政治的原動力にする。逆に、社会の秩序が維持されつつ、人々の不満が解消するのを左翼は最も嫌う。米国で黒人の失業率を下げたトランプ大統領が、米国の左翼にますます忌み嫌われるのはそのためである。

社会に不満の種がないときは、自分で火をつけることも厭わないのが、左翼運動の怖さである。そして、その容疑を平然と他者に振り向け、自分は不満解消のために働く正義の人であるかのように演出する。そんなに簡単に人は騙されないと思うなら、10年前のことを思い起こしてほしい。消えた年金問題も、現場で実際に問題を起こしていたのは自治労の組合員たち(民主党の支持母体)である。民主党はそれを使って政府を攻撃し、政権交代を実現させた。

米国の民主党も、その戦略は酷似している。現在、米国の左翼は不法移民も積極的に国内に受け入れよと主張している。それを実行に移せば、安い労働力の流入により国内失業率が高くなるのは目に見えているが、それで社会的不満が高まるのが彼らにとっては好都合なのである。彼らの思い通りに事が運べば、高くなった失業率の責任は他に転嫁して、自分たちは失業者の保護政策を推進する正義の味方であるように振舞うだろう。

左翼のプロパガンダに騙されないために、彼らはわれわれと同じ良心を備えているとの認識を捨てる必要がある。その思い込みでできる油断の隙を彼らは突いてくる。良心の呵責がない人間は、どんな手段を使うことも躊躇しないので、その攻撃力は凄まじい。


・左翼エリートの選民思想(大紀元 2019年11月21日・12月4日)

※このコラムの初回「なぜ人は共産主義に騙され続けるのか」で、ジョン・エドガー・フーヴァー初代FBI長官が、左翼(コミンテルン)を

公然の(共産)党員
非公然の党員(党の極秘活動に従事する人)
フェロー・トラベラーズ(党の同伴者)
オポチュニスツ(機会主義者)
デュープス(騙されやすい人)

の5種類に分類していることを紹介した。このうちの最初の3つを中核層、4つ目を利権層、5つ目を浮動層と私は定義し、中核層の活動の動機は社会に対する憎しみ、利権層の動機は金、浮動層は正義(偽善)と虚栄心であると解説した。今回は、中核層についてもう少し詳しく分析したい。

中核層は公然の党員、非公然の党員、フェロー・トラベラーズよりなる。コミンテルンやコミンフォルムが消滅した今、「党員」に相当するものは無いとの反論があるかもしれない。しかし、現在も形を変えてそれは存在し続けている。公然の党員は中国共産党や朝鮮労働党などの党員である。非公然の党員は、中国関係なら孔子学院関係者、北朝鮮関係ならチュチェ思想派である。日本は孔子学院にまだ無警戒だが、諸外国ではそのプロパガンダ機関としての機能が問題視されており、オーストラリアや米国では次々閉鎖されるに至っている(詳しくはClive Hamilton著”Silent Invasion: China’s Influence in Australia”やNewt Gingrich著”Trump vs. China”を参照)。チュチェ思想派については、篠原常一郎氏がその実態について広く発信しており、韓国でも注目されている(チュチェ思想派は韓国でも広く浸透している)。

このように、日本を含む多くの国で、非公然の党員による工作活動は今でも活発に行われているが、その人員の絶対数は多くない。中核層で多数を占めるのは、フェロー・トラベラーズである。では、彼らはどういう人たちか。

現在、フェロー・トラベラーズを構成する主要メンバーは高学歴の新興エリート層である。彼らは大きな資産のある家庭の出身ではないが、高学歴により高収入の職を得ており、経済的には豊かである。そのため、フランスにはシャンパン社会主義者、米国にはリムジンリベラルという言葉もある。(日本ではこれに相当する言葉が無かったが、経済評論家の上念司氏は「世田谷自然左翼」の呼称を提案している。)彼らのほとんどは、学校や職場環境の影響で、グローバリストの考えを持つ。

吉松崇著「労働者の味方をやめた世界の左派政党」では、政治の対立軸をグローバリストとネイティビスト、所得再分配に熱心・冷淡(いわゆる左派と右派)の2軸に分け、既存政党が右も左もグローバリストのエリートが主導するようになった結果、国内の労働者層の味方がいなくなったと分析している。その空白を埋めるように登場したのが、米国のトランプ、英国のファラージ、フランスのルペンというわけである。実際、トランプの政策は底辺の労働者に大きく利するものとなっており、黒人の失業率は過去最低を記録している。表には出さないが、左翼エリートがトランプを憎む最大の理由はここにある。彼らは労働者階級にいい思いをさせたくないのである。

高学歴者の多くは、本音の部分で労働者階級を馬鹿にしている。彼らは低学歴者に対する差別意識を大なり小なり持っている。そのことは、ネットの匿名言論空間を観察すればよく分かるだろう。私自身も学歴エリートの一人なので、そうした空気を肌身で感じてきた。受験戦争は、勉強ができるか否かが人間の価値を決めると錯覚させる魔力を持つ。私自身、そこから抜け出せたのは30歳を過ぎた頃だった。現実には、50歳を過ぎてもそこから抜け出せていない人は多くいる。

左翼エリートは、しばしば新自由主義者を批判する。しかし、実はこの両者は高学歴エリートであり、グローバリストであり、選民思想の持ち主であるという点で共通している。両者とも、表向きには色々な理想を語るが、本音では他人を見下しており、自分さえよければいいという発想で物事を考えている。彼らはその高い地位により、社会的影響力のある発言権が与えられることが多いが、自国が破壊されたら外国に逃げるつもりでいるので、その発言内容は無責任なものであることが多い。

これまで、私はフェロー・トラベラーズを左翼中核層の一部と位置付けてきたが、これは修正する必要があると最近感じている。彼らの動機は社会に対する憎しみに近いものはあるが、見下しと言う方がより正確である。さらに、彼らには利権層や浮動層とも重なる部分がある。左翼エリート層は裕福ではあるが、いわゆる成り上がりなので、金に対する執着や虚栄心も強い。このように、彼らは左翼のどの層とも共通する部分があるので、左翼運動に一体感を持たせる意味で非常に重要な役割を果たしていると見ることができる。

以前のコラム「ビッグデータが暴く自称リベラルの正体」で、自称リベラルの白人たちが、実は黒人を見下していることを示すイェール大学の研究を紹介したが、最近、北米で左翼エリート層のもつ選民思想という裏の顔が暴かれる事例が相次いでいる。左翼政治家たちがブラックフェイスをした過去の写真が次々暴露されているのである。

ブラックフェイスとは白人が顔を黒く塗って黒人の格好をすることで、差別的であるとして左翼が普段厳しく糾弾している行為である。ところが、米国ではバージニア州のノーサム知事(民主党)、カナダではトルドー首相のブラックフェイスの写真が見つかったのである。特に、トルドー首相は複数枚の写真が見つかり、そのうちの1枚は29歳のときの写真で、若気の至りとの言い訳はできないものだった。ところが、北米でもマスコミは左翼の味方なので大きな騒ぎにはならず、トルドー首相は先月の総選挙で議席は減らしたものの大敗を免れた。これが保守派の政治家だったならば、こういう結果にはならなかっただろう。

一方、フェロー・トラベラーズの利益優先の姿勢を象徴するのが、米国のスポーツ界や映画界である。こうした業界では、しばしばスターが自ら人権派を装う。2016年、NFLのキャパニック選手が警察による黒人への暴力に抗議して、試合前の国歌斉唱で起立を拒否したことが話題になった。賛否両論はあったが、左派言論人の多くはキャパニックを支持し、彼はその後ナイキの広告にも起用された。その一方で、先月NBAヒューストン・ロケッツのモリーGMが香港の民主化運動を支持するツイートをしたところ、中国の猛反発を受けて米国内は大騒ぎになり、モリーGMと同チームのハーデン選手が謝罪するに至った。米国のメディアではNBAの中国ビジネスへの影響を懸念する声が多く取り上げられ、言論の自由を擁護したのは左派言論人ではなく保守派の政治家たちだった。

映画界でもこれと同じことが起きている。ハリウッドでは、中国の圧力でシナリオを書き換えることが常態化している。彼らは中国での興行利益のためなら、表現の自由など平気で犠牲にする。これについても、左派言論人たちは全く問題視していない。このように、左翼エリートはお金になる人権問題には積極的だが、お金を失うリスクのある人権問題は触らない。つまり、彼らにとって人権は手段であって目的ではないのである。

こうした左翼エリートの欺瞞が次々明らかになる中、なぜ彼らは安泰でいられるのか。今後もその安定した地位を守ることができるのか。

左翼エリートにとって人権は手段であって目的ではないこと、心の底ではマイノリティや非エリートを見下していることについて述べた。そうした左翼エリートの欺瞞に対して、米国のマイノリティが逆襲を始めていることを紹介したい。

米国の主要テレビ局(FOXを除く)も日本と同様に左傾化しており、連日トランプ大統領批判を繰り返している。しかし、米国の国民も徐々にテレビ局の言うことを信用しなくなっている。トランプが黒人の失業率を史上最低にまで下げたことで、彼らもメディアの欺瞞に気づき始めたのだ。最近のエマーソンによる世論調査では、黒人の有権者におけるトランプ大統領の支持率が34.5%に上昇している。2016年の大統領選において、黒人でトランプに投票した人は8%しかいなかったことを考えると、この数字は驚異的である。

では、これまで黒人の失業率が高かったにもかかわらず、なぜ黒人は民主党に投票し続けてきたのか。黒人票が民主党に集まるようになったのはジョン・F・ケネディ大統領が公民権法を進めたのがきっかけである。しかし、その後の民主党政権の政策は、必ずしも黒人を幸せにするものではなかった。

このことを論理的に指摘しているのがラリー・エルダー(Larry Elder)である。彼は1952年生まれの黒人弁護士で、長年ラジオ番組のホストを務めた経験を持つ。民主党の政策の問題は、過剰な福祉により家庭を崩壊させたことだと彼は言う。実際、1965年の段階で黒人の婚外子は25%だったが、2015年には73%に上昇している。なお、白人でもその間、婚外子は5%から25%に上昇している。これが貧困と犯罪を再生産させる原因だと彼は指摘する。オバマ前大統領も演説で引用している通り、父のいない子供は貧困に陥り犯罪に走る確率が5倍、学校で落第する確率が9倍、刑務所に入る確率が20倍高いというデータがある。

では、なぜ離婚が増えたのか。その背景にリンドン・ジョンソン大統領(民主党)が1965年に始めた「貧困との戦い」プログラムがある。これにより、シングルマザーが政府から手厚い支援が受けられるようになり、男性が家庭に対する責任を安易に放棄するようになったのだ。ラリー・エルダーは、これを「女性が政府と結婚する」ようになったと表現する。実際、夫が失業したとき、公的支援を受けるためにソーシャルワーカーから離婚を勧められたというエピソードは、今も米国人のユーチューブ動画で時々紹介されているのを目にする。

さらに言うと、手厚い福祉で貧困が減ったわけでもない。1949年の時点で米国の貧困率は34%だったが、1965年時点では17%にまで減っていた。その後、福祉のために多額の予算を使ったにもかかわらず、今に至るまで貧困率は全く減っていないのである。

こうした民主党の問題を厳しく追及して、現在注目を浴びているのがキャンディス・オーウェンズ(Candace Owens)である。彼女は1989年生まれの黒人女性で、BLEXT(Black Exit from Democratic Party, 黒人の民主党からの脱出)運動の創始者である。これに先立つ類似した運動として、2018年6月に元民主党支持者でゲイの美容師ブランドン・ストラカ(Brandon Straka)が、極左化した民主党と訣別しようと訴えかけて始まった#WalkAway運動がある。

キャンディス・オーウェンズの主張は、彼女が2017年8月に公開した「民主党の植民地から脱出する方法 (How to Escape the Democrat Plantation) 」と題した動画によくまとめられている。黒人は学校とメディアが発する偏った情報によって洗脳されており、1865年に黒人の肉体は奴隷制度から解放されたが、今はその精神が奴隷化されていると彼女は語る。だから、インターネットを使って自分で調べて自分で考える必要があると彼女は言う。この点は、日本も全く同じであると言えよう。

歴史的には民主党は一貫して人種差別的で、上述のケネディ大統領による公民権法推進は例外であることを、彼女は具体的事例を挙げながら説明する。それを列挙してみよう。

・1900年までに22人の黒人の共和党員が米国連邦議会議員になったが、民主党は1935年まで黒人の議員がいなかった(ちなみに奴隷制度を廃止したリンカーン大統領も共和党員である)。

・ホワイトハウスで最初に上映された映画は”Klansman”(白人至上主義者KKKのメンバーのこと)で、それを上映したのはウッドロー・ウィルソン大統領(民主党)であった。KKKのメンバーも、その多くは民主党員だった。

・1954年のブラウン判決で、公立学校における白人と黒人の分離教育が違憲となった。1957年にアンカーソー州リトルロック市のリトルロック・セントラル高校の人種融合教育化が決定すると、同州知事のオーヴァル・フォーバス(民主党)は州兵を学校に送って黒人学生の登校を阻止した。そこで同市の要請に応じて、アイゼンハワー大統領(共和党)が国軍を派遣して黒人学生の登校を護衛した。

・1963年に公民権運動の一環で行われたハーミングハム運動で、ブル・コナー署長(民主党)が率いるバーミングハム警察は、黒人のデモ行進に対して高圧放水と警察犬を用いて制圧した。

こうした歴史的事実は隠され、民主党が人種差別を解決したかのように米国の教科書やメディアは伝えるのである。

私が現在最も注目している黒人言論人は、ユーチューバー(チャンネル登録者35万人)のアンソニー・ブライアン・ローガン(Anthony Brian Logan)である。彼も民主党支持からの転向組で、現在はトランプ大統領を強く支持している。彼がトランプを支持している理由は、経済政策に加えて、国境の壁建設に象徴される不法移民の取り締まり強化である。

米国の民主党とそのシンパのメディアは、不法移民の取り締まりを人権問題や人種差別と結び付けて厳しく糾弾する。しかし、トランプを支持する人たちが取り締まりを求めているのは「不法」移民であって、合法的な移民を排斥しようとしているわけではない。にもかかわらず、たとえ黒人であってもトランプを支持する人に対しては人種差別主義者とレッテルを貼るのが米国の左翼である。

実は、不法移民が大量に押し寄せて最も被害に遭うのは、ヒスパニックや黒人の米国市民である。不法移民の単純労働者が増えれば、ヒスパニックや黒人に多い単純労働者の賃金が低下したり、失業が増えたりする。治安も悪化して一般市民の多くが被害を受けるが、ゲーティッド・コミュニティ(壁で守られた街)に住むエリート層には全く影響はない。むしろ、単純労働の賃金低下は経営者にとっては得になる。

左翼政治家の狙いは、福祉に頼らなければ生きていけない人の数を増やし、その票で選挙に勝つことである。だから、不法移民を大量に国内に流入させ、彼らに市民権を与えて自分たちに投票させたいのである。しかし、そうやって左翼政治家の「精神的奴隷」にされた人たちは、福祉を受ける人の数が増えていく以上、一人当たりの取り分は増えないので、個々人の生活はいつまで経っても改善しない。逆に、景気改善と不法移民流入阻止政策により、雇用が確保され福祉依存から脱却すれば、生活水準を向上させることができる。そのことに気づいた元民主党支持者が、左翼エリートに反旗を翻し始めているのである。こうした動きが今後どのくらい盛り上がるかが、来年の米国大統領選の勝敗を決する鍵になるだろう。