・韓国がいま「外国人労働者」の受け入れでトラブル続出しているワケ
金 明中 ニッセイ基礎研究所 准主任研究員

※4月から日本では改正入管法が施行され、外国人労働者に注目が集まっている。そうした中、日本に先んじて外国人労働者に門戸を開いてきた韓国で起きていることに注目が集まっている。じつは韓国では外国人労働者の増加にともない、これまでにないトラブルが続出しており、新たな社会問題となっているのである。

もともと韓国では「外国人産業技術研修生制度」という日本と同様の「技能実習制度」がとられていたが、15年前に廃止している。代わって2004年8月に「外国人産業技術研修生制度」に外国人労働者が合法的に雇用される「雇用許可制」を導入した。じつに日本に先駆けること15年、韓国は外国人労働者に門戸を開いてきたわけだ。

雇用許可制の導入により若者から敬遠されている3K業種などに外国人労働力が供給され、労働力不足の問題が多少は解消された。しかし、外国労働者との共生にはまだまだ多くの問題が山積している。日本における改正入管法の施行は、実質的に韓国同様、外国人労働者に門戸を開くことが狙いであるが、その具体的な体制の整備はこれからだ。韓国の先行事例から日本が直面しかねない課題について見ていこう。

犯罪件数が5倍

外国人労働者に占める不法滞在者の割合は大きく減っているものの、韓国にはまだ20万人を超える不法滞在者が存在している。外国人労働者の増加とともに外国人による犯罪件数も増加しており、警察庁によれば2003年に6,144件であった外国人犯罪件数は2015年には35,443件に5倍以上に達している。

不法滞在者の推移



資料)出入国「外国人政策統計年保」

外国人犯罪件数の推移



資料)警察庁「犯罪情報管理システム」

増え続ける外国人労働者

韓国における在留外国人の数は、2016年12月末現在204.9万人で、前年に比べて8.5%増加している。在留外国人の数が200万人を超えたのは統計を集計した以降初めてで、人口に占める在留外国人の割合も2012年の2.84%から2016年には3.96%まで上昇した。

韓国における在留外国人などの推移



出所)法務部『出入国・外国人政策統計年報』各年より筆者作成。

国籍別では、中国が101.7万人(49.6%、韓国系中国人が61.7%)で最も多く、次いでベトナム(14.9万人、7.3%)、アメリカ(14.0万人、6.8%)、タイ(10.1万人、4.9%)の順になっている。性別では、男性が54.5%(111.7万人)で女性の45.5%(93.2万人)を上回っている。そして、年齢階層別(5歳刻み)では25~29歳が16.3%で最も多く、次いで30~34歳(14.5%), 20~24歳(10.6%), 35~39歳(10.2%)の順であった。

ビザ類型別には、在外同胞(F-4:372,533人、18.2%)、非専門就業(E-9:279,187人、13.6%)、訪問就業(H-2:254,950人、12.4%)、短期訪問(C-3:190,443人、9.3%)が上位4位になっている。一方、不法滞在率は、ビザ免除(B-1:56.4%)、技術研修(D-3:52.1%)、芸術興行(E-6:41.5%)、船員就業(E-10:35.8%)が高く、教授(E-1:0.2%) 、研究(E-3:0.2%) 、在外同胞(F-4:0.3%)、会話指導(E-2:0.3%)は低かった。

「外国人労働者に仕事が奪われる」

一方、統計庁の「外国人雇用調査」を用いて、就業者を国籍別にみると、韓国系中国人が44.1万人(45.8%)で最も多く、次いでベトナム人7.2万人(7.5%)、韓国系以外の中国人6.4万人(6.7%)、北米人4.5万人(4.7%)の順であった。在留資格別には、一般雇用許可制の非専門就業が26.1万人、特例雇用許可制の訪問就業が22.1万人、在外同胞が19.9万人、永住が8.8万人、結婚移民が6.2万人、専門人材が4.6万人、留学生が1.3万人となっている。

産業別には、製造業(43.6万人)、 卸小売・宿泊・飲食店業(19.0万人)、事業・個 人・公共サービス(18.7万人)、建設業(8.5 万人)が上位4位を占めている。職種別には、技能員・機械操作及び組立従事者が39.5万人(39.0%)で最も多く、次いで単純労務従事者30.5万人(31.7%)、サービス・販売従事者12.1万人(12.6%)、管理者・専門家及び関連従事者10.4万人(10.8%)の順になっている。

このように韓国では外国人労働者が、国民生活の隅々まで入り込んでいて、すでに彼らなくして韓国経済は成り立たなくなっている。一方でかつて国内の雇用を支えてきた製造業などに多くの外国人労働者が雇用され、韓国人の低熟練労働者の雇用や賃金に負の影響をあたえている可能性も排除できないのである。

これだけ増大する外国人労働者を管理するのが「雇用許可制」であるが、トラブルの絶えないこの制度への国内の評価は二分されている。

労働力の確保に成果があったという経営側の評価がある一方で、労働界では「反人権的奴隷契約」と辛らつに批判している。労働界が最大の問題点として指摘しているのが「事業場変更の制限」である。

外国国籍の同胞(韓国人)に対する特例雇用許可制(訪問就業制)は職場の移動に制限がないものの、非専門就業ビザを受けて韓国に入ってきた一般雇用許可制による外国人労働者は職場の移動が3年以内に最大3回(延長した場合4年10ヶ月間に最大5回)に制限されている。

さらに、職場の移動は使用者の承認がある時と事業場の倒産や賃金未払いがある時など、極めて例外的な場合に制限されているため、労働界はこのような移動制限は外国人労働者の強制労働に繋がる恐れが高いと主張し、移動制限の廃止を要求している。

また韓国人と外国人労働者との間で、トラブルが絶えない背景には国内の雇用情勢がなかなか改善されないことも要因として上げられる。

国内には「外国人労働者に仕事を奪われる」、「外国人労働者が増加すると単純労働の賃金が下がる」など今後の雇用や賃金削減を懸念する声は、いまも根強く残っているのだ。

日本が直面する「悲劇的な課題」

ここまで韓国の外国人労働者の受け入れ制度である「雇用許可制」の問題点を見てきた。しかしこれだけの問題を抱える韓国の雇用許可制が、世界に比べて劣悪な制度なのかといえばそうではないのである。雇用許可制に対する海外からの評価は実は高いのだ。

ILOは2010年に雇用許可制を「アジアの先進的な移住管理システム」と高く評価し、2011年6月に国連は、腐敗防止及び剔抉(てっけつ)に対する革新性を認め、「公共行政大賞」を授与した。さらに2017年4月に世界銀行は、「雇用許可制は、情報アクセス性を容易に、アジア太平洋地域の外国人労働者の韓国での就業機会を大幅に増やした」と高く評価している。

にもかかわらず、韓国でトラブルが山積している現状は、外国人労働者の受け入れがいかに難しいかを示している。つまり外国人労働者の受け入れは、「アジアの先進的な移住管理システム」を持ってしても、なお不断の改良、改善が要求されているのだ。

日本ではこの4月から新たな在留資格制度の運用が始まり、5年間で外国人労働者約35万人の受け入れを見込んでいる。しかしその受け入れ体制はあいまいで未整備であり、議論は昨年の国会通過後に沈静化した。まだまだ国民的な議論には至ってはいない。

韓国の先行事例は、日本において入念な取り組みなしに外国人労働者の受け入れを行えば、悲劇的な課題を抱えることになることを示しているのだ。


・日本人は知らない…韓国がいま「働き方改革」でトラブル続出中のワケ(現代ismedia 2019年1月8日)

金 明中 ニッセイ基礎研究所 准主任研究員

※韓国の「働き方改革」、いきなりトラブル続出中!

日本と同様、最近韓国では「働き方改革」の風が吹いている。

韓国における働き方改革は、残業時間の短縮時間や最低賃金の引き上げ率が日本を大きく上回り、日本より速いスピードで改革が推進されているのが特徴。残業時間が減ることで業務への集中度が高まり、退社後にヨガやピラティスなどの「アフター5教室」に通う人々が増加したり、一部の大企業では雇用創出の効果も表れ始めている。

しかしながら、その急速な「働き方改革」の成果は決していいことばかりではない。

韓国中部に位置する世宗特別自治市と忠清南道地域の自動車労組は昨年10月1日に週52時間勤務制の実施により賃金が減少したとして、早急の対策を求めた。当自動車労組は賃金の減少分が補填されない限り、10月5日から総ストライキに突入すると発表。その後、労使の間で交渉が行われた。

結局、減少した賃金の一部が補填されることになり、幸いにストライキまでは至らなかったものの、全国各地で労働時間短縮による賃金減少の問題をめぐる労使間の葛藤は絶えずに起きている。

また、大幅に引き上げられた最低賃金の影響(AI技術の発達やスマートフォンの普及の影響もあるのだが)もあり、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアを中心に無人店舗が増加している。韓国の大型ディスカウントストアイーマート(Emart)が運営するコンビニエンスストア「eマート24」は昨年、年末まで無人店舗を現在の9店舗から30店舗まで拡大する方針を示した。

人件費に対する負担増加を労働投入量(労働者の数や労働者の労働時間)の縮小で緩和しようとする動きであり、このような動きが拡大されるとさらに労働市場が萎縮する恐れがある。

働き方改革の核心は「週52時間勤務制」

そもそも韓国政府が実施した働き方改革の代表的な政策は「週52時間勤務制」だ。韓国政府は、残業時間を含めた1週間の労働時間の上限を従来の68時間から52時間に制限する、つまり「週52時間勤務制」を柱とする改正勤労基準法(日本の労働基準法に当たる)を7月1日に施行したのだ。

「週52時間勤務制」は、今は従業員数300人以上の企業や国家機関・公共機関のみに適用されているものの、今後適用対象は段階的に拡大され、従業員数50人以上~300人未満の事業場は2020年1月から、また従業員数5人以上~50人未満の事業場は2021年7月から適用対象に含まれることになる。違反した事業主には2年以下の懲役あるいは2000万ウォン以下の罰金が科される(施行から半年間は罰則が猶予)。

「働く時間」はこんなに変わった!

韓国ではこれまでも勤労基準法の規定による残業時間を含む1週間の最大労働時間は、52時間であった。

しかし、「法定労働時間」を超える労働、つまり「延長勤務」に「休日勤務」は含まれないと雇用労働部(日本の旧労働省に当たる)が解釈したため、労働者は1週間の法定労働時間40時間に労使協議による1週間の最大延長勤務12時間、そして休日勤務16時間を合わせた合計68時間まで働くことが許容されていた。

今回の改正により休日勤務は延長勤務に含まれ、1週間の最大労働時間は52時間に短縮されることになった。休日勤務手当は変更されず、8時間以下分に対しては50%の加算が、8時間超過分に対しては100%の加算が適用される。

また、法定労働時間の例外適用が認められていた「特別業種」は、全面廃止を主張する労働界の要求が一部反映され、26業種から5業種に縮小された。一方、18歳未満の年少者の労働時間は1週間に40時間から35時間に、そして延長勤務時間は6時間から5時間に制限されることになった。

【韓国における改正前後の一週間の労働時間の上限等】



(資料)韓国雇用労働部ホームページから筆者作成

急激な最低賃金引上げ、最低賃金は「日本超え」へ

働き方改革のもう一つのポイントは最低賃金の大幅引き上げだ。

韓国の最低賃金委員会は7月14日に2019年の最低賃金を2018年より10.9%引き上げた時給8,350ウォン(約835円)にすることを決めた。2018年の引き上げ率16.4%には至らなかったものの、2年連続の2桁台の上昇であり、2年間の引き上げ率は29.1%に達する。同期間における日本の最低賃金(全国加重平均)の引き上げ率が6.2%であることを考慮すると、韓国の引き上げ率の高さが分かる。

今後、雇用労働部の長官が公示をすれば、最低賃金の引き上げ率は来年1月から適用され、日本の最低賃金(全国加重平均)の時給874円に迫る。さらに、大多数の労働者に支給が義務付けられている週休手当(1週間の合計労働時間が15時間以上の労働者に支給する1日分の手当)を含めると、最低賃金は1万ウォン(約1000円)を超え、日本の最低賃金を上回ることになる。

【韓国における最低賃金及び対前年引上げ率の推移】



(資料)最低賃金委員会「賃金実態調査報告書」

韓国の性急な「働き方改革」の背景事情

韓国政府が残業の上限規制を大きく短縮し、最低賃金を大きく引き上げる改革を実施した理由はどこにあるだろうか。

まず、韓国政府が「週52時間勤務制」を実施した理由は、長時間労働を解消し、労働者のワーク・ライフ・バランスの改善(夕方のある暮らし)を推進するとともに、新しい雇用創出を実現するためだ。

2017年時点における韓国の年間労働時間は2024時間で、日本の1710時間を大きく上回り、データが利用できるOECD加盟国の中で韓国より労働時間が長いのはメキシコ(2,257時間)のみだ。 

【OECD34ヵ国における1年間の労働時間】



(注)トルコを除く(資料)OECD Data (Hours Worked: Average annual hours actually worked)

深刻すぎる若者たちの「就職難」

韓国政府が残業の上限規制を行ったもう一つの理由は、若者を中心とする就職難を解決するためだ。

韓国では労働需給のミスマッチと雇用創出の不振で若者の雇用状況が改善されておらず、2017年時点の若者(20~29歳)の失業率は9.8%に達している。平均失業率3.7%に比べると約2.6倍も高い水準だ。韓国政府は労働時間を短縮することによって、その分新たな雇用が創出されると期待し、「週52時間勤務制」を思い切って実施した。

では、なぜ韓国では若者の労働需給のミスマッチが発生し、若者の失業率が高いだろうか。

その理由としては、大学進学率が高いことと大企業と中小企業の処遇水準に大きな格差が発生していること、そして就業浪人が多いことなどが挙げられる。

韓国における大学進学率は2017年現在68.9%で日本の54.8%(2017年度)を大きく上回っている。つまり、日本は卒業後に専門学校(16.2%)と大学(54.8%)に分かれて進学していることに比べて、韓国は専門学校が少ないことなどが理由で大学進学率が高く、卒業後にミスマッチが発生している。

韓国では大企業と中小企業の間に処遇水準が大きく異なるので、若者は就職浪人をしてまで大企業に就職しようとしている(韓国では応募者の能力を重視しているので、日本のように就職市場で新卒者が既卒者より有利になっていない)。

このように大企業と中小企業の間に処遇水準が大きく異なる理由としては、韓国経済が大企業に大きく依存している点が挙げられる。

例えば、韓国の関税庁が発表した「2017年企業貿易活動統計」によると、輸出の中で大企業が占める割合は66.3%で、中小企業の17.6%と中堅企業の16.0%を大きく上回った。全企業に占める割合が0.9%に過ぎない大企業が韓国の輸出の7割弱を占めているのだ。

また、文在寅大統領は、大統領選挙の際に2016年時点で6,030ウォン(約603円)である最低賃金(時給)を、2020年までに1万ウォン(約1000円)まで引き上げることを公約として発表した。文在寅大統領が最低賃金の目標値を1万ウォン(約1000円)に設定した理由は、韓国における最低賃金の水準が一般労働者の賃金の35.7%に過ぎず、OECD平均50%を大きく下回っていたので、最低賃金を1万ウォン(約1000円)まで引き上げて、OECD平均に合わせるためだ。

但し、その実現のためには2020年までに毎年16%以上最低賃金を引き上げる必要があり、今回の引き上げ率10.9%では2020年までに最低賃金1万ウォンを達成することは難しい。これに関連して文在寅大統領は7月16日に2020年までに最低賃金を1万円(約1000円)まで引き上げる公約は守ることができなくなったと謝罪した。

「夕方のある暮らし」のせいで賃金が減った人たち

「週52時間勤務制」の実施は、労働者の「夕方のある暮らし」を可能にするものの、その代わりに労働者の賃金総額は減ることになる。特に、基本給が低く設定されており、残業により生活水準を維持する製造業で働く労働者が受ける影響は大きいだろう。

国会予算政策処は今年の3月13日に「延長勤労時間の制限が賃金及び雇用に及ぼす効果」を発表し、「週52時間勤務制」が適用され、労働者の残業時間が減少すると、1ヶ月の給料は平均37.7万ウォン減少すると推計した。雇用形態別には非正規職の減少額が40.3万ウォンと正規職の37.3万ウォンを上回った。

「働き方改革」で生活が苦しいのは正社員より非正規

非正規職の減少額が正規職より多い理由としては、非正規職の残業時間が正規職より長いことを挙げている。

収入が減少した労働者が収入を増やすために、勤務後に副業などをすると、韓国政府が目指している「夕方のある暮らし」は難しくなる。

また、新規採用に対する企業の負担も大きく増加することになる。韓国経済研究院は「週52時間勤務」の実施により、26.6万人の労働力不足が発生し、その結果、新規採用などの企業負担は年12兆ウォンまで増加すると推計した。

韓国政府は労働者の収入減少や企業の負担増加を緩和するために、労働者に対しては、1年間(製造業優先支援対象企業は2年間)、1ヶ月に10万~40万ウォンの支援金を、新規採用をした企業(従業員数300人以上の企業)に対しては新規採用一人当たり1ヶ月に60万ウォンの助成金を支払う方針だ。 

また、最低賃金の引き上げによる零細事業者の負担を減らすために、30人未満の労働者を雇用している事業主を対象に雇用安定資金を支援している。支援金額は労働者の労働時間と労働日数により、1ヶ月3万ウォン~13万ウォンに設定されている。韓国は来年度の最低賃金の引き上げに対する企業負担を減らすために3兆ウォン規模の雇用安定資金を支援する方針だ。本来なら企業が負担すべきお金を政策の実現のために国民の税金で賄うことは良策ではないだろう。

そして、失業者と低賃金者が増え始めた…

最低賃金の引き上げに関しては企業の反発も大きい。小商工人生存権運動連帯は8月29日にソウルの光化門(クァンファムン)広場で、最低賃金の引き上げ政策に反対する集会を開き、文在寅政権が推進する急激な最低賃金の引き上げ政策を強く批判した。食堂、コンビニ、美容室、ネットカフェなどを経営する全国で集まった自営業者は、最低賃金引き上げの速度調節と最低賃金を規模や業種別に差別適用することを要求した。

最低賃金が雇用に与える影響については専門家の意見も分かれている。韓国労働研究院(KLI)は、最低賃金の引き上げが2018年1月から3月までの雇用量と労働時間に与えた影響を推計し、雇用量に与える効果は統計的に有意ではないと発表した。また、8月2日に発表した報告書「2018年上半期の労働市場評価と下半期の雇用展望」では、「最低賃金は限界に直面した一部の部門で部分的に雇用に否定的な効果をもたらした可能性はあるものの、上半期の雇用鈍化の主な要因ではないと判断される」と主張した。

一方、韓国開発研究院(KDI)は6月4日に最低賃金と関連した報告書を発表し、「最低賃金引き上げの速度調節論」を提起した。この報告書では、最低賃金を毎年15%ずつ引き上げると、最悪の場合、2019年には9.6万人、2020年には14.4万人まで雇用が減少する恐れがあるという推計結果を出した。
 
では、実際の雇用状況はどうだろうか。参考までに、最低賃金が16.4%に引き上げられた2018年1月からの対前年同月比就業者数の増加幅を見ると、2018年1月には就業者数が対前年同月に比べて33.5万人まで増加して、2017年1月の増加数23.2万人を上回ったものの、2018年2月~6月までの対前年同月比就業者数は2017年2月~6月を大きく下回っている。

また、韓国統計庁が8月17日に発表した「2018年7月雇用動向」 によると、7月の失業率は3.7%で前年同月に比べて0.3ポイントも悪化した。7月の就業者数は、前年同月に比べて5000人が増加したものの、増加幅は、韓国経済がリーマン・ショックの影響下にあった2010年1月(10000万人が減少)以来、8年6カ月ぶりの低い水準だ。さらに、7月の就業率は61.3%で、前年同月の61.6%より0.3ポイント悪化し、失業者数は103.9万人で、前年同月に比べて8.1万人も増加した。

【対前年同月比就業者数の増減】



(資料)韓国統計庁「経済活動人口」より筆者作成

最低賃金の引き上げが、未満率(最低賃金額を下回る賃金をもらっている労働者の割合)の上昇に繋がっていることも問題だ。韓国における最低賃金の未満率は2015年の11.4%から2017年には13.3%まで上昇した。同期間における日本の未満率が1.9%から1.7%に低下したこととは対照的であり、未満率の大きさも日本を大きく上回っている。

韓国政府が家計所得を高めて経済成長を成長させる「所得主導成長」を実現させるために、果敢な政策を実施していることは分かるものの、現在の韓国の経済社会状況をみると、政策実行の速度を調整する必要性があることを感じる。韓国政府は韓国における労働市場の問題点をより幅広く洗い出しながら、働き方改革を進める必要があるだろう。