・北のミサイル潜水艦開発(デイリーNKジャパン 2014年12月17/18/21日)

※「日本企業」の影

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦の開発を進めている、との観測が浮上している。日本ではほとんど報じられていないが、韓国メディアは盛んに取り上げている。

弾道ミサイル潜水艦は核ミサイルを装備し、水中に潜んで敵国の深部をねらう。開発が事実なら、日米韓にとっては厄介な話だ。

第一報は、「ワシントン・フリー・ビーコン」なる米国のニュースサイトからもたらされた。

中国軍の動向などで、いくつもスクープを飛ばしている媒体だ。

そして、韓国の主要メディアが軍などからの情報による裏付け報道を続ける中、北朝鮮東海岸に面した咸鏡南道新浦の潜水艦工場近くで「物証」が捉えられた。

ジョンズホプキンス大学の北朝鮮分析ウェブサイト「38NORTH」が10月28日、これまで未確認だった潜水艦と、「潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の垂直発射管実験装置」と見られるとする施設の衛星写真を公開したのだ。



(上)北朝鮮の新型と見られる潜水艦(google earth)

たしかに、その潜水艦の大きさは全長67メートル、全幅6.6メートルで、これまでに北朝鮮による保有が確認されていた、いずれの潜水艦のサイズとも一致しない。米韓のメディアでは、北朝鮮が1993年から翌年にかけてロシアから「くず鉄」名目で輸入した、ゴルフ級弾道ミサイル潜水艦(98.9メートル/排水量約3000トン)を原型に開発したのでは、との見方が主流になっている。

東京・杉並の小さな会社

いずれにせよ、新型であるのは間違いなさそうだが、ゴルフ級よりも小型化されている上、「北が従来から装備していたロメオ級(76.6メートル/同約1800トン)と比べてもかなり小さく、SLBMを装備するにはサイズが足りない」とする冷静な指摘が韓国メディアの中にも見られる。

日本の防衛当局の分析はどうか。自衛隊OBの見方は、一連の情報についてかなり懐疑的だ。「開発が事実だとしても、北朝鮮がSLBMを実用化するまでにはかなりの困難を伴うでしょう。実用化できても、それでどんな戦略を実現できるのか疑問。弾道ミサイル潜水艦の強みは生存性の高さですが、北の潜水艦は騒音が大きくすぐに見つかってしまう。原潜と違って、ずっと潜ってもいられない。そうでなくとも、北の潜水艦の動向は偵察衛星で常に監視されていて、いざとなれば世界最強の対潜能力を持つ米海軍と海上自衛隊がすぐに捕まえてしまうでしょう。

またそれ以前に、潜没している潜水艦にミサイルの発射命令を伝えるには、波長が数十メートルに達するVLF(超長波)電波を送らねばならず、その送信施設は数キロから十数キロ四方の巨大施設になります。北にはこれがないので、平壌から命令を伝えることすらできません」

日本で報道が少ないのは、現場の記者たちがこうした分析に接しているからかも知れない。

しかし一連の情報の真偽を見極めるためには、日本でこそ取材・検証が可能な部分もある。北朝鮮がゴルフ級潜水艦をロシアから輸入した際、取引を仲介したのが東京都杉並区に本社を置く小さな日本企業だったからだ。

阻止に動いた日本

ロシアから北朝鮮に「くず鉄」名目で輸入され、新型潜水艦の原型になった可能性が指摘されているゴルフ級弾道ミサイル潜水艦。その取引を日本のT社(本社=東京都杉並区)が仲介していた事実は1994年当時、日本のメディアでも大きく取り上げられた。きっかけとなったのは、米国の情報当局のリークを受けた米紙の報道である。

日本企業が北朝鮮と武器取引を行うことは、ココム(対共産圏輸出統制委員会)によって強く禁じられていた。しかし、それは自国からの輸出に限られ、仲介貿易に関する規定はなかった。一方、外国同士の武器取引の仲介を行うことは、外為法が禁じている。だがそれも、潜水艦が戦闘能力を備えている場合のことで、「くず鉄」なら違反にならない。

そこで焦点となったのが、潜水艦からミサイル発射装置や動力装置が取り外されているか、ということだった。

米国から強い要請を受けた通産省(当時)は、取引に介入。「くず鉄」であることが完全に証明されるまで輸出を凍結するよう、T社とロシア側の双方から確約を取った。

宗教団体が関与か

ところが、この約束はロシア側によって一方的に反故にされる。同年5月、ゴルフ級1隻が日本側に無断で北朝鮮へ曳航されたのだ。ゴルフ級は前年12月にも1隻が運ばれており、計2隻が北朝鮮に引き渡されたことになる。

これに対し、T社は「約束違反だ」として契約を解除。結果的に日本企業との関連性がなくなったことで、通産省も取引に介入する余地を失った。つまり、ゴルフ級はミサイル発射装置が取り外されていたかどうか、第三者が確認できないまま北朝鮮に渡ったということだ。

この一部始終は、北朝鮮がゴルフ級を入手するために巧妙に仕組まれたものであった可能性が高い。そう疑わせる理由は3つある。

第一に、北朝鮮がゴルフ級の入手に強くこだわっていたこと。「くず鉄」貿易としては、ほかに弾道ミサイルを搭載しないフォックストロット級も取引品目になっていた。しかしロシア側関係者の証言によれば、北朝鮮の担当者は「ゴルフ級がどうしても欲しい」と言って取引再開を迫ったという。

第二に、T社の素性がある。ジャーナリストの有田芳生氏(現参院議員)は『週刊文春』の同年2月3日号掲載の記事で、同社が統一教会の系列企業であることを明かしている。

記事によれば、同社の代表と3人の役職員は全員がソウルでの合同結婚式に参加した男性たちだという。ちなみに、長らく「反共」を唱えていた統一教会の文鮮明教祖は、1991年に電撃的に訪朝。金日成主席と会談し、核開発問題で孤立を深める北朝鮮のスポンサー的存在となっていた。

そして最後に、かねてからT社と取引があり、この潜水艦取引を主導した北朝鮮企業の名前である。

当時、T社代表を取材した新聞は、その名を「ポンデーサン」と書いている。これはハングルの読みを聞きとったものであり、漢字に直せば「烽台山」だ。これとよく似た名前の工場が、新型潜水艦の発見された北朝鮮の新浦に存在する。「烽台ボイラー工場」と呼ばれるその施設は、偽装した潜水艦工場であることが知られている。

では、あれから20年の時を経て、北朝鮮が日本の対岸に新型潜水艦を出現させた意味はどこにあるのか。

自衛隊と対峙

戦争前夜

北朝鮮が、新型潜水艦の原型になったと見られるゴルフ級潜水艦をロシアから初めて輸入したのは、1993年末のことだった。

実はこのとき、私は北朝鮮の首都・平壌に滞在していた。当時は、核開発問題をめぐって米国との軍事的緊張が頂点に達しており、空爆に備えた「灯火管制訓練」が抜き打ちで行われるなど、文字通り「戦争前夜」の様相を呈していた。

そのさ中で行われた危険な「武器取引」のことなど、現地にいる間は知る由もない。日本に戻ってきてからニュースを見た時にも、最初は「何かの間違いではないか」と思った。あの一触即発の状況下で、さらに米国を刺激する意図が理解できなかったからだ。

しかしいまにして思えば、あれは米国との対決に向けた強烈な意志の表れだったのだろう。

北朝鮮が、新型潜水艦を日本の対岸に配した理由は何か。

考えられるのは、やはり対米戦略である。弾道ミサイルを搭載して日本列島を迂回し、太平洋から隠密裏に米国本土をねらおうというものだ。

もっとも、それがただちに可能になるわけではない。実現するには、技術的に様々な制約がある(関連記事)。また、「米国やロシアなどすでに弾道ミサイル潜水艦を運用している国々は、護衛とおとり役を兼ねた攻撃型潜水艦を必ず随伴させている。北朝鮮
はそうした潜水艦を持っておらず、現実的な脅威になるかは疑問」(自衛隊OB)との指摘もある。

ただ、北朝鮮はこれまでも、経済的・技術的な制約をものともせず、新たな危機をつくり出してきた。それにミサイル潜水艦の太平洋進出が上手くいくか否かにかかわらず、そうした取組みが続けば、いずれ米国は神経を尖らせることになるだろう。

危機のエスカレーション

近年、朝鮮半島において最も危険なホットポイント(発火点)となってきたのは、南北が鋭く対峙する半島西側の海域だ。天安艦爆沈事件や延坪島砲撃事件は、全面戦争に発展してもおかしくない出来事だった。

こうした危険極まりない出来事は、どうして立て続けに起きるのか。背景にあるのは局地的な軍事バランスの変化と、それに影響された当事者(軍人)たちのマインドの変化だ。韓国の軍事アナリストが、次のように分析している。

「1980年代に入るまで、この海域は北朝鮮海軍の独り舞台だった。ソ連製の高速艇と対艦ミサイルに対抗できる装備が、韓国側になかったからだ。しかしその後の経済発展を受けて、形勢は完全に逆転した。優れた装備を持つ韓国軍は北の艦艇を何度も撃破した。その報復として、北は得意の潜水艦作戦で天安艦を沈めた。装備の変化が危機のエスカレーションを呼んでいるのだ」

金正恩第一書記は海軍の視察時に自ら搭乗するなど、潜水艦戦力を重視する姿勢を見せている。正恩氏にとって新型潜水艦は、切り札としての意味を持っているのかもしれない。

そして、それと直接対峙するのは韓国海軍だけでなく、日本の海上自衛隊でもある。新型潜水艦が本格的な活動を開始したとき、新たな「危機のエスカレーション」が生まれないとは限らないのだ。(了)

(取材・文/李策)


※デイリーNK(英語: Daily NK)とは、大韓民国の市民団体である北朝鮮民主化ネットワーク(朝鮮語版、英語版)が発行するインターネット新聞である。

「北朝鮮ニュースのハブ」を掲げており、朝鮮語版のほか、2007年(平成19年)1月からは日本語でも情報を発信している。ほかに英語版・中国語版がある。2010年(平成22年)4月より東京支局が開設され、初代支局長として高英起が就任した。2014年(平成26年)12月17日に、日本語版は「デイリーNKジャパン」としてリニューアルされた。

2009年(平成21年)から、『アメリカ中央情報局(CIA)と深い関連がある全米民主主義基金(NED)より、多額な資金が提供されている』←ここ超重要(ブログ主注)。2009年には13万ドル、2014年(平成26年)には36万ドル、2015年(平成27年)には20万ドル、2016年(平成28年)には20万ドル、2017年(平成29年)には25万ドル、 2018年(平成30年)には27万ドルが提供されている事が、全米民主主義基金の公式ウェブサイトにて公表されている。


・北朝鮮の金委員長、新型潜水艦を視察 弾道ミサイル開発を示唆か(ロイター 2019年7月23日)

※北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、新たに建造された大型潜水艦を視察し、潜水艦が備える戦術能力と兵器システムの重要性を強調した。北朝鮮国営の朝鮮中央通信社(KCNA)が23日伝えた。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発継続を示唆している可能性がある。



潜水艦は金委員長の「特別な注意」の下で建造され、日本海で運用されるという。

潜水艦が搭載している兵器システムの種類や、視察がいつ行われたのかには言及していない。

KCNAによると、金委員長は「強力な潜水艦」の建造に大きな満足を示し、「東西を海に囲まれた国では、潜水艦の運用能力は国防の重要な要素だ」と指摘。

「(北朝鮮は)潜水艦を含む海軍兵器装備の開発に多大な努力を払うことで、国防能力を発展させ続けるべきだ」と述べた。

また、同行した国防や科学関係の当局者に、潜水艦利用に関するより戦略的な計画を達成するよう指示したという。

北朝鮮は潜水艦を多数保有するが、SLBM搭載可能と判明しているのは過去に発射実験に使った1隻のみ。

アナリストは新型潜水艦の大きさを踏まえると、ミサイル搭載を目指して設計されたようだだと指摘。

全米科学者連盟(FAS)上級研究員のアンキット・パンダ氏は「巨大な潜水艦であることは明白だ。2014年以降に存在が明らかになっている既存の潜水艦よりもはるかに大きい」と指摘。

「政治的なメッセージとしてわたしが重要と考えるのは、2018年2月の軍事パレード以降で初めて、金委員長が核兵器の搭載を明確に意図する軍事システムを視察したことだ」と述べた。

「金委員長が米政府に対北政策の変更を求めて設定した年末の期限を厳粛に受け止めるべきだと不吉に暗示しているようだ」とした。

北朝鮮は2016年にSLBMの試験発射に成功している。


・北朝鮮の新造潜水艦は新たな脅威なのか(Newsweek 日本語版 2019年7月30日)



(上)新たに建造された潜水艦を視察する金正恩

※<既存の潜水艦に搭載できる弾道ミサイルは1基のみだったが、新潜水艦では4基可能に>

北朝鮮の国営朝鮮中央通信は7月23日、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長が新たに建造された潜水艦を視察したと写真付きで報じた。自身の「綿密な指導と特別な関心」の下で建造された潜水艦に、金は「大いに満足」したという。

金は新しい潜水艦を「国防上の重要な要素」と呼び、「潜水艦のような海洋兵器の開発に大きな努力を傾けることで、国防能力を確実に向上させる」必要があると強調した。

この新潜水艦について、16年に存在が確認された新浦(シンポ)C級の後継艦ではないかとの指摘もある。全米科学者連盟のフェロー、アンキット・パンダはワシントン・ポスト紙にこう語った。「アメリカの情報当局が新浦C級と呼ぶ潜水艦か、従来の新浦級の弾道ミサイル搭載艦より大型の後継艦を初めて捉えた画像だと思う。この潜水艦は新浦級よりもずっと大きい。最大4基の弾道ミサイルを搭載できる可能性がある」

「一部の推測とは違い、北朝鮮の水中核戦力プログラムが極めて現実的な存在であることが確認できた」と、パンダは付け加えた。北朝鮮が現在保有する潜水艦は、搭載可能な弾道ミサイルが1基だけ。それを考えれば、飛躍的な進歩を遂げていることは明らかだ。

ジェームズ・マーティン不拡散研究センターの上級研究員デーブ・シュメラーら専門家は、新しい潜水艦は現在の北朝鮮の潜水艦の欠点を補うため、最近になって再び活発に稼働し始めた東部・新浦の造船所で建造されたものである可能性が高いと口をそろえる。

「現在の北朝鮮(の弾道ミサイル搭載艦)は恐ろしく非効率な実験艦で、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を1発しか発射できない。もっと多くのミサイルを搭載可能な潜水艦を新たに建造することは、ごく自然な動きだ」

北朝鮮の潜水艦は老朽艦ばかり、と思っていたら痛い目に遭うかもしれない。


・北朝鮮、過去最大級の潜水艦の実力は(Newsweek 日本語版 2019年8月1日)

<弾道ミサイルの搭載が可能な大型潜水艦を建造したという北朝鮮の発表にアメリカや韓国は戦々恐々>

7月31日に短距離弾道ミサイルの発射実験を行った北朝鮮は、地上発射型の兵器のほかにも、これまでで最大規模の潜水艦を建造している可能性がある。複数のミサイルを搭載し、水中から発射できる。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は7月23日、金正恩朝鮮労働党委員長が「新たに建造した潜水艦」の視察を行ったと報道。同潜水艦は「朝鮮半島の東の作戦水域(日本海)で任務を果たす」もので、「近いうちに配備される」と伝えた。新型潜水艦について憶測が飛び交うなか、韓国国防部は7月31日、国会の委員会で非公開のブリーフィングを行った。

国会情報委員会の李恵薫委員長は記者団に対して、北朝鮮は3000トン級の潜水艦を建造したと主張しているものの、実際の規模はそれをやや下回るようだと説明。それでも、新型潜水艦は北朝鮮がこれまでに建造した中で最大規模のものであり、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を最大3基、搭載できる可能性があると語った。

老朽化が進むソ連製潜水艦の改造型か

韓国聯合ニュースによれば、同国防部はこの新型潜水艦について「(2500トン級の)シンポ型潜水艦よりもやや大きい可能性がある」と分析。北朝鮮の潜水艦部隊は、老朽化が進んでいる旧ソ連製ロメオ型(1800トン級)で構成されており、新型潜水艦はこれを改造したものである可能性があるとも指摘した。

北朝鮮は70隻あまりの潜水艦を保有していると推定されている(保有数ではアメリカを上回る可能性がある)。だがその多くは冷戦時代にソ連と中国でつくられたもので、任務に耐えられるかどうか疑問視されている。冷戦で米韓を中心とする連合に対抗し、北朝鮮を支援したソ連と中国は、冷戦終結後も同国への支援を続けてきた。

北朝鮮は、ソ連が崩壊した頃に最大10隻のゴルフ2型潜水艦(排水量2800トン超)をはじめとする装備を予備として買ったと報じられているが、これらが実際に配備されたことがあるかどうかは不明だ。2017年に撮影された衛星写真には、北朝鮮が咸鏡南道新浦の造船所で大型潜水艦を建造しているらしい様子が映っていた。韓国の野党・自由韓国党のある議員は2018年、国防筋から聞いた話として、北朝鮮がSLBM最大3基を搭載可能な新型潜水艦の開発を行っていると主張していた。

北朝鮮は2015年以降、北極星1号(KN-11)とみられるSLBMを少なくとも5発、発射している。一連の発射実験の結果はまちまちだが、2016年8月の実験では、シンポ型潜水艦から発射されたとみられる北極星1号が約500キロ飛行し、日本の防空識別圏内に落下した。

戦略国際問題研究所(米シンクタンク)のミサイル防衛プロジェクトは、北極星1号の射程距離を最大1200キロと推定している。北極星1号は、改良型の地上発射型ミサイル北極星2号(KN15)と共に「開発中」の兵器に分類されている。