※「私は解任されました。首相代行はプーチンが務めます」。1999年8月、当時のロシア連邦首相、セルゲイ・ステパーシンの電撃解任に世界は騒然となった。初代大統領、エリツィンは無名に等しいプーチンを首相代行に抜擢し、わずか一週間後にロシア下院の賛成多数で首相に任命されたのである。
当時、彼の名は日本でもほとんど知られておらず、当時の新聞報道では陰の権力者という意味を込めて「灰色の枢機卿」と形容され、「元スパイ、陰の素顔 冷徹? 推進役? ロシアのプチン首相」という見出しをつけて報道したメディアもあった。旧ソ連崩壊後、秘密警察の国家保安委員会(KGB)を引き継ぎ、治安維持のために防諜(ぼうちょう)や犯罪対策を担った「ロシア連邦保安庁(FSB)」の長官を務めたプーチンは、こうして国際社会の表舞台に現れたのである。
https://ironna.jp/theme/894
・「21世紀最凶の殺戮者」プーチンがもたらす憎悪の世界(iRONNA 2018年?月?日)
黒井文太郎(軍事ジャーナリスト)
※プーチン大統領は今や、世界にケンカを売る「皇帝」としてロシア国民の圧倒的支持を得ている。ロシアのメディアを支配し、巧妙にロシア国民の心理を操作している。
もっとも、プーチンは2000年に大統領になった直後から、世界にケンカを売っているわけではなかった。挑戦的な姿勢を明確に示したのは、2011年のシリア紛争からだ。
それまで国際紛争の処理は米国が主導してきたが、プーチンはそのとき初めて国際社会に正面から逆らい、国連安保理のアサド政権を非難する決議案を拒否権により葬った。プーチンの欧米に対する対決姿勢は、2014年のクリミア侵攻、2015年のシリア軍事介入で決定的となり、2016年には米国大統領選にも介入、今や「世界の敵ナンバー1」と言ってもいい存在になっている。
プーチンが2000年代、対外的に割とおとなしかったのは、まだロシアの国力が1990年代のどん底時代から回復しきっていなかったからである。
プーチンは権力を手に入れた瞬間からロシア国内で強権的な支配を一貫して強化してきたが、2010年代からは世界にもその邪悪な手を本格的に広げてきた。
ただし、プーチンはその前から、ロシア国内と周辺国に対しては常に強権的なファイターだった。大統領就任直前の1999年には、大統領が重度のアルコール依存症でレームダック(死に体)状態だったエリツィン政権末期の首相として、チェチェンへの軍の派遣を主導し、第2次チェチェン紛争を仕掛けた。
チェチェンへの攻撃は、一般住民の巻き添えを一顧だにしない苛烈なもので、プーチンはそれを10年間も続けた。2008年にはグルジア(ジョージア)に部隊を差し向けて撃破し、多くの死傷者を出した。軍を直接侵攻させないまでも、2000年代を通じてウクライナで反ロシア派の追い落とし工作を続けた。
また、プーチンは大統領に就任すると、エリツィン時代に権勢を振るった新興財閥や野党指導者を、旧ソ連国家保安委員会(KGB)系諸機関の総力を挙げて追い落とし、自らの権力基盤を固めた。
まずは「メディア王」ウラジーミル・グシンスキーを2000年に逮捕。主要メディアをプーチンが支配した。2003年には石油業界大物のミハイル・ホドルコフスキーを逮捕し、シベリアの刑務所送りにした。ロシア最大の新興財閥だったボリス・ベレゾフスキーは2001年に身の危険を感じてイギリスに亡命し、反プーチン活動を続けていたが、2013年に自宅で変死を遂げた。
野党指導者でも、エリツィン政権時の第1副首相だったボリス・ネムツォフが2015年にモスクワ市内で射殺されるなど、有力者の暗殺や不審死が相次いだ。プーチン政権を批判するジャーナリストも同様で、2006年に反政府系紙「ノーバヤ・ガゼータ」の著名記者アンナ・ポリトコフスカヤが自宅アパートのエレベーター内で射殺されるなど、毎年複数人のペースで殺害されている。
こうしたプーチン批判派で、国内外で殺害された人数は30人以上に上る。今回、旧ソ連が開発した軍事用神経剤「ノビチョク」で暗殺未遂に遭った元情報機関員、セルゲイ・スクリパリのように、殺害されないまでも「攻撃」された人数を含めると、少なくとも40人以上が被害を受けている。多くのケースで犯人は不明だが、これだけプーチン批判派ばかりが襲撃されるというのは異常であり、ロシア情報機関による犯行とみていいだろう。このように、暗殺も厭わぬ反対派潰しを、プーチンは権力奪取後から一貫して続けているのだ。
そんなプーチンのメンタリティーは、まさに欺瞞と詭弁の塊だった旧ソ連共産党とKGBの遺伝だ。3月11日に公開されたプーチン賛美ドキュメンタリー映画『プーチン』で、彼は自分の祖父がレーニンとスターリンの料理人だったことを誇示しているが、つまりはレーニンやスターリンに憧憬(しょうけい)があるのだろう。また、プーチンは14歳でKGBに採用の方法を聞きに行ったという逸話があるくらい、少年時代からKGBに憧れていたことも広く知られている。
目的のためには殺人も平然と行い、平然と嘘もつく。嘘まみれの宣伝で自国民を洗脳するばかりか、嘘を拡散して世界を操ろうとする。プーチンの情報機関は、米大統領選のときにSNS(会員制交流サイト)でニセ情報を拡散して介入したことにとどまらない。イギリスのEU離脱やスペインのカタルーニャ州分離独立騒動でも大規模な扇動工作をしていたことが判明している。
また、欧米各国で移民排斥、宗教差別、極右運動を扇動し、社会の分断を図っているが、欧州の極右勢力には直接、資金投入して工作をかけていることも分かっている。これは、冷戦時代にKGBが正式な作戦として米帝国主義陰謀論やユダヤ陰謀論などを西側メディアに仕掛けたり、西側の左翼組織に極秘裏に資金を投入したりといった裏工作をしてきたことの、まさに再現である。
冷戦当時はもっぱら左翼が工作対象だったが、現在ロシア情報機関に操られているのは右翼が多い。欧州の極右などは軒並み反米で、プーチン支持者になっている。私たちがネット上で日々接している言説でも、その出所がロシア情報機関発のフェイクニュースであることが珍しくない。
※原文が偏見に満ちた偏向記事だったので(さすが朝日!)有用な部分だけ抜粋。ただしプーチンも信用するな。奴も役割を演じているに過ぎない。
・カネも通信も丸裸、ロシア「監視社会化」の恐怖 「ハイテク捜査網」がデモを心理的に圧迫(東洋経済ONLINE 2019年9月2日)
※モスクワでは9月8日の市議会議員選挙を前に、独立候補への妨害に反対する大規模デモが頻発し、緊張が高まっている。
これに先立つ8月3日、「モスクワ警察が町中の監視カメラ網を始動させる」と報じられた。AI(人工知能)による個体識別機能が搭載された監視カメラを使い、「対象者の移動ルートを完全に追跡し、自宅まで突き止める。これで扇動者たちが監視の目をかいくぐるのは不可能になる」(インターネットジャーナル「スローヴォ・イ・ジェラ」)。
首都全域で監視カメラを稼働させるのは初めてのことだという。
金や通信情報をため込む「巨大監視マシーン」
プーチン政権はAIを使って市民の監視活動を強化している。今回のモスクワ警察の動きはその一例だ。
しかし、何十万人ものデモ参加者の中から、どうやって「扇動者」と「単なる参加者」を見分けるのだろうか。
反体制運動指導者のナワリヌィ氏のような有名人なら、すぐに特定して追跡できるだろう。しかし、モスクワで拡大しているデモは、無名の組織者たちが同時発生的に起こしている。無数の参加者から、資金や動員力を持つ「恐るべき扇動者」を割り出すことが本当に可能なのか。
結論を言えば、技術的には可能だ。
それは、モスクワ警察の捜査力がすぐれているからではない。ロシアには市民の個体データ(顔や指紋)やお金の使い方、通信履歴をため込んだ巨大な監視マシーンが存在する。そのデータベースと照合すれば、扇動者を割り出せる。この巨大監視マシーンは、警察でも内務省でもない。国営銀行「ズベルバンク」だ。
ズベルバンクとはいったいどんな組織なのか。設立は帝政ロシア時代の1841年にさかのぼる。ロシア全国に約1万4000カ所の支店、事務所などを展開。ロシアに複数ある国営銀行の中でも、中央銀行の子会社(50%+1株をロシア中央銀行が保有)だという特徴がある。
驚くべきは預金・融資分野でのシェアの異常な高さだ。ロシア住民の約70%が同行を利用し、ロシア国内の企業約100万社(総数約450万社)が同行と取引している。個人預金の45%、個人融資の41%、法人融資の34%という圧倒的なシェアを占める。メガバンク首位の三菱UFJ銀行でも、法人取引のシェアは約8%にとどまる(東京商工リサーチ調べ)。
ズベルバンクに口座を持たない個人や法人でも、取引先や送金先の口座がズベルバンクに指定されることが多い。ズベルバンクは多くの市民や企業の資金の流れをつかみ、監視できる立場にある。
ズベルバンク頭取とプーチン氏の近しい関係
さらにズベルバンクの力を強めているのが、同行頭取とプーチン大統領の近さだ。ズベルバンクの現頭取はプーチン氏の側近の1人、ゲルマン・グレフ氏。プーチン氏と同じくサンクト・ペテルブルク市行政官を経て頭角を現し、2000年代初めのプーチン政権で経済発展相を務めた。
そのグレフ氏のもとでズベルバンクは近年、AI技術をどん欲に導入し、個人情報の収集と分析を進めてきた。2017年8月に行われたプーチン大統領との会談でグレフ氏は、「意思決定に際してAIを使うようになりました。新技術導入から8カ月で、記録的に低い延滞率を達成しています」とAI活用の実績を強調した。
プーチン大統領のほうも、「AI技術を制する者が世界の覇者になる」(2017年9月の演説)と力説するほどだ。グレフ氏のもと、ズベルバンクがAIの導入のけん引力となっているのも偶然ではないだろう。
ズベルバンクの狙う個人情報は「お金の流れ」にとどまらない。国民の生体情報や通信履歴も収集しようとしている。
冒頭のモスクワ警察の顔認証技術も、ズベルバンクが開発をサポートした。この顔認証システムは表向き、オンラインサービス利用者を認証するために導入された。
他の銀行同様、ズベルバンクは支店数を急激に減らしている。その結果、多くの利用者がオンライン口座に頼ることになるだろう。オンラインサービスを利用するには、個体識別情報(顔写真)を同行のデータベースに登録しなければならない。ATMでも、やはり顔認証データの提供が必要になる。
もはや社会インフラとなったズベルバンク
さらに2018年9月には通信子会社「ズベルモバイル」がサービスを開始した。ズベルバンクに口座があれば直接引き落としとなるなど、他の通信会社にない利便性がある。割引などの特典も豊富だ。2019年8月現在、ズベルモバイルはロシア連邦を構成する83地域中(クリミアを除く)、半数以上の45地域に展開している。ロシアのような広大な国では異例のスピードだ。
こうしてズベルバンクは市民の通信履歴データも手中に収める立場となった。他の通信会社の契約者でも、通話相手がズベルモバイル契約者であれば、その通話履歴はズベルバンクグループに蓄積されていく。
ズベルバンクはもはや、多くのロシア国民にとって「まったく使用しない」ことが難しい社会インフラとなっている。同行はすでに巨大銀行でさえない。利用者の通信履歴と個体識別情報、資金の流れを一体的に集約分析できる巨大なデータセンターなのだ。
ズベルバンクは顔認証技術を治安機関に提供していることも隠していない。2018年7月18日付けの大手経済紙コメルサントのインタビューで、同行のクズネツォフ取締役会副会長は次のように述べている。
「弊行には、顧客行動や取引などに関する膨大なデータがあり、各顧客の行動パターンを見ることができます。(中略)すでに、この顔認証技術を地下鉄の監視システムでテストしました。1カ月で、捜査対象の約60人の検挙につながるという目覚ましい成果を上げました。内務省機関の代表者たちにこのシステムの可能性を説明し、大いに関心をもってもらえました」
ズベルバンクの個体識別技術とビッグデータが犯罪捜査に活用される一方、モスクワのデモでも個体識別機能付き監視カメラが利用されている。ただ、デモ参加者の追跡や検挙にズベルバンクのデータがどのように使われているのかはわかっていない。
SNSでデモ参加者の個人情報がさらされる
しかし、デモ参加者への追跡に関して気になる動きがある。すでに複数のSNSブログや匿名サイトで、デモ参加者の写真や個人情報が公表され、注目を集めている。
例えば、SNSブログ「少佐殿」では「(デモ実施地区の1つである)バルビハ地区の首謀者」「こいつがいなければ何も起こらなかった」などの評価をつけて、市民の実名やアドレスを掲載している。「少佐殿」はあまたある同様のブログの一つに過ぎないが、デモ参加者らは「監視カメラのデータと個人情報データベースを照らし合わせている」と、政権の関与を疑っている。
捜査当局がズベルバンクのビッグデータを活用してデモ参加者の個人情報を突き止め、公開したという確証はない。しかし、モスクワの監視カメラ網がデモ参加者に一定の心理的圧力を与えたことは確かだ。そして、クズネツォフ氏が認めるように、この監視カメラの個体識別技術はズベルバンクが提供したものなのだ。
もちろん、ズベルバンク自体に犯罪者やデモ参加者を検挙する権限はない。しかし、ズベルバンクはAIで「疑わしい送金」を検知して、名義人の同意なく口座を閉鎖できる。
2018年の法改正によって、銀行は「詐欺の前歴のある人物が関与」「送金パターンがそれまでの履歴と大きく異なる(送金先や金額など)」などの基準で「疑わしき送金」を検知し、名義人に確認が取れない場合は口座を閉鎖できるようになった。
プーチン氏が本当に恐れているのは何か
表向きはATMを通じた詐欺やマネーロンダリング防止が目的の法改正だが、「疑わしき送金」の基準は極めてあいまいだ。この権限を乱用すれば、デモ主導者と疑われる市民の資金を凍結することもできてしまう。
ロシアのデモ弾圧と聞くと、警棒を持った治安部隊を連想する読者も多いだろう。しかしそれは弾圧の表舞台に過ぎない。実際には監視カメラ網と膨大な個人情報データベースをAIで解析するハイテク捜査網が水面下で稼働している。それはデモ参加者に対する心理的抑圧装置としても機能している。
ズベルバンクが監視の目を向けているのは、首都圏だけではない。ズベルバンクは今年7月、ロシア中部のスベルドロフスク州政府と監視カメラ網構築計画で合意した。同州の中心都市エカテリンブルクでは、5月に劇場広場での教会建設計画に反対した住民デモが注目を集めたばかりだ。
さらに、ズベルバンク利用者と取引する外国企業やズベルモバイルと契約したロシアの友人と通話する外国人も監視対象になるだろう。
それにしてもプーチン氏はなぜ、野党リーダーでも著名反体制指導者でもない一般市民をここまで広く監視するのか。そう問いかけてみれば、プーチン氏が本当に恐れているものの正体がみえる。昨年の年金の支給開始年齢引き上げで支持率は落ち、複数の地方知事選で与党候補が敗れた。
今プーチン氏が恐れるのは大陸間弾道ミサイルでも、ミサイル防衛網でもない。顔のない無数のデモ組織者たちによる、内部からの体制転覆なのである。
当時、彼の名は日本でもほとんど知られておらず、当時の新聞報道では陰の権力者という意味を込めて「灰色の枢機卿」と形容され、「元スパイ、陰の素顔 冷徹? 推進役? ロシアのプチン首相」という見出しをつけて報道したメディアもあった。旧ソ連崩壊後、秘密警察の国家保安委員会(KGB)を引き継ぎ、治安維持のために防諜(ぼうちょう)や犯罪対策を担った「ロシア連邦保安庁(FSB)」の長官を務めたプーチンは、こうして国際社会の表舞台に現れたのである。
https://ironna.jp/theme/894
・「21世紀最凶の殺戮者」プーチンがもたらす憎悪の世界(iRONNA 2018年?月?日)
黒井文太郎(軍事ジャーナリスト)
※プーチン大統領は今や、世界にケンカを売る「皇帝」としてロシア国民の圧倒的支持を得ている。ロシアのメディアを支配し、巧妙にロシア国民の心理を操作している。
もっとも、プーチンは2000年に大統領になった直後から、世界にケンカを売っているわけではなかった。挑戦的な姿勢を明確に示したのは、2011年のシリア紛争からだ。
それまで国際紛争の処理は米国が主導してきたが、プーチンはそのとき初めて国際社会に正面から逆らい、国連安保理のアサド政権を非難する決議案を拒否権により葬った。プーチンの欧米に対する対決姿勢は、2014年のクリミア侵攻、2015年のシリア軍事介入で決定的となり、2016年には米国大統領選にも介入、今や「世界の敵ナンバー1」と言ってもいい存在になっている。
プーチンが2000年代、対外的に割とおとなしかったのは、まだロシアの国力が1990年代のどん底時代から回復しきっていなかったからである。
プーチンは権力を手に入れた瞬間からロシア国内で強権的な支配を一貫して強化してきたが、2010年代からは世界にもその邪悪な手を本格的に広げてきた。
ただし、プーチンはその前から、ロシア国内と周辺国に対しては常に強権的なファイターだった。大統領就任直前の1999年には、大統領が重度のアルコール依存症でレームダック(死に体)状態だったエリツィン政権末期の首相として、チェチェンへの軍の派遣を主導し、第2次チェチェン紛争を仕掛けた。
チェチェンへの攻撃は、一般住民の巻き添えを一顧だにしない苛烈なもので、プーチンはそれを10年間も続けた。2008年にはグルジア(ジョージア)に部隊を差し向けて撃破し、多くの死傷者を出した。軍を直接侵攻させないまでも、2000年代を通じてウクライナで反ロシア派の追い落とし工作を続けた。
また、プーチンは大統領に就任すると、エリツィン時代に権勢を振るった新興財閥や野党指導者を、旧ソ連国家保安委員会(KGB)系諸機関の総力を挙げて追い落とし、自らの権力基盤を固めた。
まずは「メディア王」ウラジーミル・グシンスキーを2000年に逮捕。主要メディアをプーチンが支配した。2003年には石油業界大物のミハイル・ホドルコフスキーを逮捕し、シベリアの刑務所送りにした。ロシア最大の新興財閥だったボリス・ベレゾフスキーは2001年に身の危険を感じてイギリスに亡命し、反プーチン活動を続けていたが、2013年に自宅で変死を遂げた。
野党指導者でも、エリツィン政権時の第1副首相だったボリス・ネムツォフが2015年にモスクワ市内で射殺されるなど、有力者の暗殺や不審死が相次いだ。プーチン政権を批判するジャーナリストも同様で、2006年に反政府系紙「ノーバヤ・ガゼータ」の著名記者アンナ・ポリトコフスカヤが自宅アパートのエレベーター内で射殺されるなど、毎年複数人のペースで殺害されている。
こうしたプーチン批判派で、国内外で殺害された人数は30人以上に上る。今回、旧ソ連が開発した軍事用神経剤「ノビチョク」で暗殺未遂に遭った元情報機関員、セルゲイ・スクリパリのように、殺害されないまでも「攻撃」された人数を含めると、少なくとも40人以上が被害を受けている。多くのケースで犯人は不明だが、これだけプーチン批判派ばかりが襲撃されるというのは異常であり、ロシア情報機関による犯行とみていいだろう。このように、暗殺も厭わぬ反対派潰しを、プーチンは権力奪取後から一貫して続けているのだ。
そんなプーチンのメンタリティーは、まさに欺瞞と詭弁の塊だった旧ソ連共産党とKGBの遺伝だ。3月11日に公開されたプーチン賛美ドキュメンタリー映画『プーチン』で、彼は自分の祖父がレーニンとスターリンの料理人だったことを誇示しているが、つまりはレーニンやスターリンに憧憬(しょうけい)があるのだろう。また、プーチンは14歳でKGBに採用の方法を聞きに行ったという逸話があるくらい、少年時代からKGBに憧れていたことも広く知られている。
目的のためには殺人も平然と行い、平然と嘘もつく。嘘まみれの宣伝で自国民を洗脳するばかりか、嘘を拡散して世界を操ろうとする。プーチンの情報機関は、米大統領選のときにSNS(会員制交流サイト)でニセ情報を拡散して介入したことにとどまらない。イギリスのEU離脱やスペインのカタルーニャ州分離独立騒動でも大規模な扇動工作をしていたことが判明している。
また、欧米各国で移民排斥、宗教差別、極右運動を扇動し、社会の分断を図っているが、欧州の極右勢力には直接、資金投入して工作をかけていることも分かっている。これは、冷戦時代にKGBが正式な作戦として米帝国主義陰謀論やユダヤ陰謀論などを西側メディアに仕掛けたり、西側の左翼組織に極秘裏に資金を投入したりといった裏工作をしてきたことの、まさに再現である。
冷戦当時はもっぱら左翼が工作対象だったが、現在ロシア情報機関に操られているのは右翼が多い。欧州の極右などは軒並み反米で、プーチン支持者になっている。私たちがネット上で日々接している言説でも、その出所がロシア情報機関発のフェイクニュースであることが珍しくない。
※原文が偏見に満ちた偏向記事だったので(さすが朝日!)有用な部分だけ抜粋。ただしプーチンも信用するな。奴も役割を演じているに過ぎない。
・カネも通信も丸裸、ロシア「監視社会化」の恐怖 「ハイテク捜査網」がデモを心理的に圧迫(東洋経済ONLINE 2019年9月2日)
※モスクワでは9月8日の市議会議員選挙を前に、独立候補への妨害に反対する大規模デモが頻発し、緊張が高まっている。
これに先立つ8月3日、「モスクワ警察が町中の監視カメラ網を始動させる」と報じられた。AI(人工知能)による個体識別機能が搭載された監視カメラを使い、「対象者の移動ルートを完全に追跡し、自宅まで突き止める。これで扇動者たちが監視の目をかいくぐるのは不可能になる」(インターネットジャーナル「スローヴォ・イ・ジェラ」)。
首都全域で監視カメラを稼働させるのは初めてのことだという。
金や通信情報をため込む「巨大監視マシーン」
プーチン政権はAIを使って市民の監視活動を強化している。今回のモスクワ警察の動きはその一例だ。
しかし、何十万人ものデモ参加者の中から、どうやって「扇動者」と「単なる参加者」を見分けるのだろうか。
反体制運動指導者のナワリヌィ氏のような有名人なら、すぐに特定して追跡できるだろう。しかし、モスクワで拡大しているデモは、無名の組織者たちが同時発生的に起こしている。無数の参加者から、資金や動員力を持つ「恐るべき扇動者」を割り出すことが本当に可能なのか。
結論を言えば、技術的には可能だ。
それは、モスクワ警察の捜査力がすぐれているからではない。ロシアには市民の個体データ(顔や指紋)やお金の使い方、通信履歴をため込んだ巨大な監視マシーンが存在する。そのデータベースと照合すれば、扇動者を割り出せる。この巨大監視マシーンは、警察でも内務省でもない。国営銀行「ズベルバンク」だ。
ズベルバンクとはいったいどんな組織なのか。設立は帝政ロシア時代の1841年にさかのぼる。ロシア全国に約1万4000カ所の支店、事務所などを展開。ロシアに複数ある国営銀行の中でも、中央銀行の子会社(50%+1株をロシア中央銀行が保有)だという特徴がある。
驚くべきは預金・融資分野でのシェアの異常な高さだ。ロシア住民の約70%が同行を利用し、ロシア国内の企業約100万社(総数約450万社)が同行と取引している。個人預金の45%、個人融資の41%、法人融資の34%という圧倒的なシェアを占める。メガバンク首位の三菱UFJ銀行でも、法人取引のシェアは約8%にとどまる(東京商工リサーチ調べ)。
ズベルバンクに口座を持たない個人や法人でも、取引先や送金先の口座がズベルバンクに指定されることが多い。ズベルバンクは多くの市民や企業の資金の流れをつかみ、監視できる立場にある。
ズベルバンク頭取とプーチン氏の近しい関係
さらにズベルバンクの力を強めているのが、同行頭取とプーチン大統領の近さだ。ズベルバンクの現頭取はプーチン氏の側近の1人、ゲルマン・グレフ氏。プーチン氏と同じくサンクト・ペテルブルク市行政官を経て頭角を現し、2000年代初めのプーチン政権で経済発展相を務めた。
そのグレフ氏のもとでズベルバンクは近年、AI技術をどん欲に導入し、個人情報の収集と分析を進めてきた。2017年8月に行われたプーチン大統領との会談でグレフ氏は、「意思決定に際してAIを使うようになりました。新技術導入から8カ月で、記録的に低い延滞率を達成しています」とAI活用の実績を強調した。
プーチン大統領のほうも、「AI技術を制する者が世界の覇者になる」(2017年9月の演説)と力説するほどだ。グレフ氏のもと、ズベルバンクがAIの導入のけん引力となっているのも偶然ではないだろう。
ズベルバンクの狙う個人情報は「お金の流れ」にとどまらない。国民の生体情報や通信履歴も収集しようとしている。
冒頭のモスクワ警察の顔認証技術も、ズベルバンクが開発をサポートした。この顔認証システムは表向き、オンラインサービス利用者を認証するために導入された。
他の銀行同様、ズベルバンクは支店数を急激に減らしている。その結果、多くの利用者がオンライン口座に頼ることになるだろう。オンラインサービスを利用するには、個体識別情報(顔写真)を同行のデータベースに登録しなければならない。ATMでも、やはり顔認証データの提供が必要になる。
もはや社会インフラとなったズベルバンク
さらに2018年9月には通信子会社「ズベルモバイル」がサービスを開始した。ズベルバンクに口座があれば直接引き落としとなるなど、他の通信会社にない利便性がある。割引などの特典も豊富だ。2019年8月現在、ズベルモバイルはロシア連邦を構成する83地域中(クリミアを除く)、半数以上の45地域に展開している。ロシアのような広大な国では異例のスピードだ。
こうしてズベルバンクは市民の通信履歴データも手中に収める立場となった。他の通信会社の契約者でも、通話相手がズベルモバイル契約者であれば、その通話履歴はズベルバンクグループに蓄積されていく。
ズベルバンクはもはや、多くのロシア国民にとって「まったく使用しない」ことが難しい社会インフラとなっている。同行はすでに巨大銀行でさえない。利用者の通信履歴と個体識別情報、資金の流れを一体的に集約分析できる巨大なデータセンターなのだ。
ズベルバンクは顔認証技術を治安機関に提供していることも隠していない。2018年7月18日付けの大手経済紙コメルサントのインタビューで、同行のクズネツォフ取締役会副会長は次のように述べている。
「弊行には、顧客行動や取引などに関する膨大なデータがあり、各顧客の行動パターンを見ることができます。(中略)すでに、この顔認証技術を地下鉄の監視システムでテストしました。1カ月で、捜査対象の約60人の検挙につながるという目覚ましい成果を上げました。内務省機関の代表者たちにこのシステムの可能性を説明し、大いに関心をもってもらえました」
ズベルバンクの個体識別技術とビッグデータが犯罪捜査に活用される一方、モスクワのデモでも個体識別機能付き監視カメラが利用されている。ただ、デモ参加者の追跡や検挙にズベルバンクのデータがどのように使われているのかはわかっていない。
SNSでデモ参加者の個人情報がさらされる
しかし、デモ参加者への追跡に関して気になる動きがある。すでに複数のSNSブログや匿名サイトで、デモ参加者の写真や個人情報が公表され、注目を集めている。
例えば、SNSブログ「少佐殿」では「(デモ実施地区の1つである)バルビハ地区の首謀者」「こいつがいなければ何も起こらなかった」などの評価をつけて、市民の実名やアドレスを掲載している。「少佐殿」はあまたある同様のブログの一つに過ぎないが、デモ参加者らは「監視カメラのデータと個人情報データベースを照らし合わせている」と、政権の関与を疑っている。
捜査当局がズベルバンクのビッグデータを活用してデモ参加者の個人情報を突き止め、公開したという確証はない。しかし、モスクワの監視カメラ網がデモ参加者に一定の心理的圧力を与えたことは確かだ。そして、クズネツォフ氏が認めるように、この監視カメラの個体識別技術はズベルバンクが提供したものなのだ。
もちろん、ズベルバンク自体に犯罪者やデモ参加者を検挙する権限はない。しかし、ズベルバンクはAIで「疑わしい送金」を検知して、名義人の同意なく口座を閉鎖できる。
2018年の法改正によって、銀行は「詐欺の前歴のある人物が関与」「送金パターンがそれまでの履歴と大きく異なる(送金先や金額など)」などの基準で「疑わしき送金」を検知し、名義人に確認が取れない場合は口座を閉鎖できるようになった。
プーチン氏が本当に恐れているのは何か
表向きはATMを通じた詐欺やマネーロンダリング防止が目的の法改正だが、「疑わしき送金」の基準は極めてあいまいだ。この権限を乱用すれば、デモ主導者と疑われる市民の資金を凍結することもできてしまう。
ロシアのデモ弾圧と聞くと、警棒を持った治安部隊を連想する読者も多いだろう。しかしそれは弾圧の表舞台に過ぎない。実際には監視カメラ網と膨大な個人情報データベースをAIで解析するハイテク捜査網が水面下で稼働している。それはデモ参加者に対する心理的抑圧装置としても機能している。
ズベルバンクが監視の目を向けているのは、首都圏だけではない。ズベルバンクは今年7月、ロシア中部のスベルドロフスク州政府と監視カメラ網構築計画で合意した。同州の中心都市エカテリンブルクでは、5月に劇場広場での教会建設計画に反対した住民デモが注目を集めたばかりだ。
さらに、ズベルバンク利用者と取引する外国企業やズベルモバイルと契約したロシアの友人と通話する外国人も監視対象になるだろう。
それにしてもプーチン氏はなぜ、野党リーダーでも著名反体制指導者でもない一般市民をここまで広く監視するのか。そう問いかけてみれば、プーチン氏が本当に恐れているものの正体がみえる。昨年の年金の支給開始年齢引き上げで支持率は落ち、複数の地方知事選で与党候補が敗れた。
今プーチン氏が恐れるのは大陸間弾道ミサイルでも、ミサイル防衛網でもない。顔のない無数のデモ組織者たちによる、内部からの体制転覆なのである。