・知ってる? 森林環境税の使い道(Yahoo!ニュース 2015年5月25日)

田中淳夫 | 森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴としての「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで執筆活動を展開。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、そして自然界と科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然だけではなく、人だけでもない、両者の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)など多数。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』あり。

※日本には数多くの税金が存在し、否応なく徴収されているが、森林環境税を知っているだろうか。

地方自治体が独自に課税するもので、ようするに森林を中心とする環境保全に使うための目的税だ。ただ名前は、各県によって水と緑の環境税だとか森づくり税、水源環境保全のための県民税……などいろいろとある。

2003年に高知県が初めて取り入れて、その後広い森林を抱える多くの自治体が導入に踏み切った。現在34県で導入されている。

たいてい県民税への上乗せ方式だが、一人当たり500円~1000円程度。企業も資本金額に併せて徴収される。そのままだと目的税にならないので、基金をつくって森林整備や水源涵養に関わるとする施策に支出する仕組みだ。

これによって得られる税収は、県によって2~3億円から数十億円になる。皮肉なのは、森林面積の広い自治体は人口が少ないため多額になりにくい。逆に神奈川県や兵庫県など大都市圏を抱え人口の多い自治体ほど税収は多い。ただ昨年「みえ森と緑の県民税」をスタートさせた三重県は、わりと‘’重税‘’なのか、県の人口の割には多い10億円程度を集めるそうだ。

さて、これは私の感触だが、どうも各県は集めた税金の使い道に困っているのではないか、という気がする。つまり徴収したものの、適切な使い道が見つからずに苦労している……という状況が透けているように感じるのだ。

もちろん、県の担当者に直截に尋ねても、そんなことは絶対に言わない(笑)。税収はあればあるほどよいと思っているに違いない。事実、使い切っているのだろう。

ただ、折に触れて知る使い道にイマイチ統一感がないのだ。毎年、目的も交付先もバラバラなように見える。

各地で耳にする使い道の中には、伐採時の所有者負担分まで丸ごとこの税金で補ったり、街路樹の植え替え費用になったり、森林関係のイベントや県職員の林業研修に費やしたりしている。さらに県民税なのに隣県の山林に支出したと聞いては、なんだかなあ~と思ってしまうのである。

もともと導入時に、具体的な使い道を考えているケースはレアだ。抽象的な「森林のため」という目的しか示されない。

とはいえ、さすがに野放図な使い方はできないので、いくつか条件を設けておくのが普通だ。たとえば従前の間伐や造林補助金などに上乗せするのではなく新規事業に特定したり、住民や企業の多い都市部から多く徴収するのに支出は森林の多い過疎地域になりがちな逆転構造を正すため、都市部の緑の整備や森林ボランティア団体などにも支出するよう意識されている。

これが足かせ?になって、使い道が十分に定まらないのだろうか。だが樹木の時間で存在する森林に対して、長期的な視点が感じられない支出は残念だ。

森林環境税が広がりだした際、私は反対とは言わないまでも積極的に賛成する気にはなれなかった。それなのに意外だったのは、ほとんど反対運動が起きなかったことだ。

これは明らかに増税なのだ。誰もが嫌う支出増ではないか?。

どうも「森林のため」と聞くと、多くが優しく認めてしまうのはなぜだろう。森林のため、水や地球環境のため、ときれいごとの目的を掲げると、県民は納得してくれるとしたら為政者に便利だが……。それなのに具体的な使い道にあまり興味を向けないままである。

実は、私も某県の導入時に開かれたフォーラムに呼ばれたことがあるのだが、「単発事業へのバラマキは止めてほしい」「この税で森林に貢献できる人材育成の学校か塾をつくれないか」などと意見を述べた記憶がある。長期的な視点で森林に関わる使い道を考えてほしかった。

また別の機会では、納税者に結果を見せて「こんな素晴らしい森林ができたのなら、払ってよかった」「この税金は渋々払ったのではなく、未来への投資だった」と思わせてくれといった趣旨のコメントをした。

それらが多少とも取り入れられたのかどうかはここでは言及しない(笑)が、現在の各県の税金の使い方には今も違和感を抱いている。

日本の森は千差万別である。だから全国に画一的な政策を行っても、すべてが良策にはならない。しかし自治体は、国よりずっと近いところで森林を見ている。

故郷の森が今どんな状態で、どんな問題を抱えているか、何が足りないのか、何を施せばよいのかを知りやすいはずである。

しかも森林環境税は自治体の独自財源なのだから、国の方針とは一線を画して故郷の森に必要な処方箋をていねいに立てて長期的に実行できる好位置にあるのだ。故郷の森のグランドデザインを掲げて、そこに向かう原動力として使えないか。

ちなみに私も、森林環境税の納税者である。納めた税金は、払うことに満足を感じるような使い道を選んでほしい。

・三重課税? 環境を旗印に狙う大増税(Yahoo!ニュース 2015年11月30日)

田中淳夫 | 森林ジャーナリスト

※「地球温暖化対策」のためなら、乱暴な間伐にも税金を投入?

このところ、政府は森林整備に使う目的税として「森林環境税」の創設が報道されている。

与党は、来年度の税制改正大綱に盛り込むというが、実は今に始まったことではない。2年も前から林野庁が要望を出していた新税構想だ。それに与党が食指を動かしたらしい。

与党内の議論では、個人の住民税に上乗せして徴収し、それを国が市町村に分配する形式を検討中と伝えられる。金額や実施時期は未定だ。一方で使い道は、地球温暖化対策の二酸化炭素削減に、森林吸収分を含めるため森林整備に当てたいという。

ちなみに府県独自の森林環境税は、すでに広く課税されている。全国35府県が独自に導入(京都府と大阪府は来年度より予定)しているのだ。その総額は約280億円ほどになる。2003年に高知県が導入した後、次々と“参入”した結果だ。

だが、今話題になっているのは、それとは別の国税だ。つまり全国民に課税されるわけである。言い換えると、すでに府県の独自課税されているところにとっては、二重に課税しようというのだ。

いや、それどころではない。実は、環境省も新たな課税を考えているのだ。

今夏、環境省は「環境新税構想」をまとめた。

構想では、森林環境税と同じく住民税への上乗せ方式で一人1日1~2円。つまり年間365円~730円ということになる。一方、企業にも課税して、年1000億円程度を確保しようという考えだ。

こちらは里山や干潟の保全に使いたいという。里山なら森林も対象になるから、国と県の森林環境税と重なることになる。

もし、これらの新税が全部実現したら、地域によっては同一目的による三重課税になるのだ。

……なんだか、森林とか環境を持ち出せば、反対するまいと国民の足元を見ているかのようだ。

実際、各県の森林環境税が実施される過程を追いかけたことがあるが、あまり大きな反対運動は起きていない。むしろ「森林のためなら」と賛成する声が強かったと記憶している。

もちろん、森林面積が広く、林業が重要な産業となっている自治体の場合は、住民に森林を守るための増税という考え方にも理解が生まれるだろう。しかし、国税となれば、全国一律である。しかも森林面積が少なく人口の多い都会からほど多く徴収できる。

さらに肝心の使い道は、どうも不明確だ。自治体の森林環境税の税収を何に支出しているのか怪しいのだ。

'''知ってる? 森林環境税の使い道'''

国税の使い道となると、いよいよ不明確になる可能性は高い。ようするに林野庁も環境省も、単に自前の(好き放題使える)財源を持ちたいだけなのではないか。

しかも、京都議定書を締結するために、森林を整備(林野庁は、単に間伐すればよいと解釈している)したら二酸化炭素を吸収するという考え方は、科学的にかなり無理がある。そもそも伐採や搬出に消費される化石燃料だって馬鹿にならないし、むしろ乱暴な間伐で森林を荒らしているケースも少なくない。

ちなみに林野庁は、今やすべての木を伐り尽くす皆伐を推進しているのだ。そこにも森林環境税の金を注ぎ込む可能性だってある。このままだと環境を旗印に税金ではげ山づくりを進めかねないだろう。

・増税!森林環境税と森林バンクの怪しい内実(Yahoo!ニュース 2017年11月18日)

田中淳夫 | 森林ジャーナリスト

※このところ消費税アップに観光促進税(出国税)の導入など増税の動きが目立つが、森林環境税の創設が検討されていることをご存じだろうか。

森林整備の財源とするため、市町村民税(個人住民税)に定額を上乗せして、森林整備に充てる財源を得る構想だ。年間一人当たり数百円~1000円を徴収して数百億円の収入を見込む。

旗を振っている林野庁や林業関連団体からすれば「長年の悲願」なんだそう。ようするに税収は、ほとんど林業界に回ってくるわけだし、林野庁も自前の財源(徴収は総務省の担当だが)を持てると期待している様子。

だが、肝心の税の使い道はどうなっているのだろうか。

これを財源に市町村に「森林バンク」を設立させる構想が進んでいる。所有者が不明のほか相続手続きがされず、境界線が確定していない、経営意欲がない……などの理由で放棄状態の山林を市町村が預かり、それを意欲的な林業事業体に委託して木材生産をさせるという。なんのことはない、環境対策としての森林整備というよりは林業振興策である。

しかし、ほとんどの市町村には森林や林業の専門職員がいず、適正な運営を行えるか疑問だ。これまでも、やみくもに間伐を推進して逆に森林を傷だらけにしたり、業者の皆伐を容認しはげ山を増やしたりするケースが続発している。委託対象となりそうな“意欲的な林業事業体”が、どんな方針や技術を持っているのか十分に吟味するほか、施業内容を指導できるのだろうか。

かといって地域の事情に疎い霞が関の言いなりになって、よい森づくりができるとは到底思えない。

また山林の預かりには強制権を伴うケースも想定されるだけに、裁判沙汰も起きかねないだろう。

また森林バンクに預けられる放棄山林は、所有者が利益を見込めないと諦めたところが多いだけに、税金を注ぎ込んでも焦げつく心配がある。実は農地においても同じような目的で「農地バンク」(農地中間管理機構)が設立されたが、現在ほとんど機能していないのだ。

実は森林環境税は、すでにある。37の府県、および横浜市が導入している、森林整備のための財源として生み出した自治体の独自課税だ。しかし今検討されているのは国の税金である。名前が同じだけでなく、目的も同じ。すでに導入している自治体からすれば「二重課税」になりかねない。

(2年前に当時35だった自治体の森林環境税は2府県増えた。環境省の新税は、まだ動き出していない。)

不思議なことに一般的な増税には反発する国民も、森林など環境保全を持ち出すと理解を示しやすい傾向にある。しかし目的や効果がはっきりせず、単なるバラマキになりかねない新税には、もっと厳しい目を向けた方がよい。

・日本の林業が「丸裸」にされる法律を推進した政治家の名前(NEWSポストセブン 2018年11月10日)

※いま、この国では国民が代々受け継いできた“財産”が次々と外国に売り払われている。今年6月、安倍政権は自治体に公営事業売却を促すPFI法改正案を成立させ、「世界で最も安全で安い」といわれる日本の水道事業の民営化を促している。また、昨年2月には、これまで国がコメ、麦、大豆の3品種を保護してきた「種子法」(1952年制定)の廃止を閣議決定。国会ではわずか衆参12時間の審議で可決成立した。
 
そして、日本の森林も「丸裸」になる。
 
今年5月、林業政策を大転換する森林経営管理法が成立した(来年4月施行)。自治体が「森林所有者には森を管理する気がない」と判断すれば、たとえ所有者が反対しても業者に委託して森林を伐採できるようになり、切り出した木材の販売利益は伐採業者が優先的に得るという法律である。
 
これまで日本の林業は安い輸入材に負けていたが、自然エネルギーのバイオマス発電ブームで国産材の価格が急騰。そのうえ、戦後の拡大造林計画で全国に植えられた杉や檜が収穫期を迎えている。林業業界にとっては「宝の山」だ。
 
そこで林野庁は売り時を逃さないために自治体に“強制伐採”の権限を持たせ、「樹齢51年以上の木を主伐(全部伐採)」という方針を打ち出した。
 
しかし、豊かな森林は治水と防災、そして沿岸漁業の源だ。伐採後は植林するルールとはいえ、山ごと主伐すれば保水能力を失って災害に弱くなる。林業学者の多くは「この法律で無秩序に林道が作られ、日本の森林が丸裸にされて豪雨被害が大きくなる」と警鐘を鳴らしている。

こんな法律を推進したのは2014年に設置された自民党森林吸収源対策プロジェクトチーム。座長は林芳正・参院議員(前文科相)、事務局長には木曽地方が地盤の後藤茂之・代議士、事務局長代理は福島選出で実家が材木店の吉野正芳・代議士(前復興相)という顔ぶれで発足した。
 
実は、森林経営管理法は国民1人あたり1000円が課せられる「森林環境税」(*注)の創設とセットで導入される。林氏と後藤氏は自民党税調の「インナー」と呼ばれる幹部で、税制改正に強い影響力を持つ政治家だ。さらに林氏が農水相(その後、文科相)に転じると、税調副会長の塩谷立・代議士が後任の座長を務めている。

【*注/森林の保全などに充てる税。2018年度の税制改革で創設されることとなり、2024年度から住民税に1000円が上乗せされる】
 
国民への新税で林道をつくり、国や自治体が私有林を業者に伐採させてもうけさせるスキームだ。
 
森林経営管理法の閣議決定前日(今年3月5日)、林業関係団体が加盟する一般社団法人・日本林業協会が都内のホテルで自民党議員との“感謝の宴”(懇話会)を開いた。
 
その様子を報じた同協会機関紙『日本林業』には、林芳正・文科相(当時)と塩谷立・自民党農林・食料戦略調査会長の写真が掲載され、〈日頃のご理解とご協力に謝意を表した〉と書かれている。

※週刊ポスト2018年11月16日号

・水道に漁業に国有林……経営の民間払い下げが広がる裏事情とその危うさ(Yahoo!ニュース 2018年12月18日)

田中淳夫 | 森林ジャーナリスト

※このところ話題に上がる水道事業の民営化。法案が可決したが、正確に言えば、経営権を民間に委託するコンセッション方式の採用であり、実はこの方式は水道だけではない。林業や漁業にも広げられている。

まず今年5月に成立した森林経営管理法は、森林所有者が経営に積極的でないとされた森林は市町村が管理権を取得して、それを民間事業体に委託するものだ。事実上、企業が伐採を含む経営を担うことになる。

12月に改正された漁業法も、これまで地元の漁業協同組合や漁業者が優先的に握っていた漁業権を企業にも開放するもの。これも、一種の民間企業への払い下げと言えるだろう。

そして来年の通常国会に提出される国有林野経営管理法改正案は、国有林を長期・大面積で民間事業体に経営を任せることを狙ったものだ。現在の案では、10年間を基本に上限を50年間、国有林を数百ヘクタール、年間数千立方メートルの伐採ができる権利を与えるというものである。森林経営とはいうものの、基本的に伐採が主軸である。

もっとも民間からの提案では、期間を30~60年、規模も4000ヘクタールから4万ヘクタール単位でないと……とされている。そして木材生産は年間25万立方メートルまで広げてほしいという要望が出ているようだ。桁が違う。

50~60年間も国有林を預かって伐採できるとなれば、ほとんど国有林の民間払い下げみたいなものだろう。

まだ法案は提出されていないので詳細なところはわからないし、そのまま国会を通過するのかどうかも言えないが、一般には「伐採権(コンセッション)の分配と同じ」と言われている。

ちなみに伐採権の企業への付与は、発展途上国の森林経営ではよく見られるもの。たとえばフィリピンでは国有林の伐採権を企業に与えたところ大規模なラワン材の切り出しが行われ、国土の森林の大半が失われ荒れる結果を招いた。(森林率は20世紀初頭の約70%が2003年には24%に)そして期限が来たからと荒れた森林は国に返されたが、その後始末に悩まされている。

なぜ、コンセッション方式という名の経営の民間委託が進むのだろうか。

一つは現状の経営に問題を抱えているからだ。

水道は老朽化と人口減少が進んで、遠からず赤字に陥るのは確実だ。漁業も資源の枯渇が進み水揚げ量の減少と後継者不足が激しい。つまり今のままでは立ち行かなくなるという危機感がある。何らかの改革が必要なのは間違いない。

森林経営も、経営意欲をなくした所有者が増える一方で、林業事業者は増えていない。コスト高で利益が見込めないからだ。国は木材生産量を増加させたいのだが、担い手が少ないのだ。そこで国有林を大規模に民間に開放して事業意欲をかきたてようと考えたのだろう。(現在では国有林の民間の伐採は、最長でも3年間しかできない。)国有林は私有林と違ってまとまってあるうえ、境界線の測量も終わり、林道なども整備されているから業者側からすればオイシイ物件だ。

ともあれ行き詰まった経営を、“民間の知恵”で経営すれば、コスト削減を測れると思っている。

行き詰まるとすぐに民間の知恵というのは、役所や既存組織に経営能力がないと認めたようなものだが……経営改善の方法に民営化しか思いつかないというのも知恵がない。

実はいずれも仕掛け人は同じである。官邸に設けられた「未来投資会議」である。今や政府の経済政策の多くがこの会議でとりまとめられている。経済産業省に事務局があり、議長は首相だが、会議をリードしているのは経団連の中西宏明会長や竹中平蔵・東洋大学教授のようだ。彼らの提案で、漁業も国有林も「民営化」が進められている。いかにも民営化が好きそうな面々だ。

しかし、民間企業が経営すると本当に事業は上手くいくのだろうか。

一般に役人よりも民間の方が経営が上手いと思われているが、これは勘違いだろう。なぜなら民間でも経営の失敗は山ほどあるからだ。ただ民間の場合は失敗すれば市場から退場する。だから残されるのは成功したところが目立つだけである。ある意味、進化論の「自然選択説」と同じで、現在の生物にたどり着くまでは死屍累々、絶滅種だらけだ。

だが、水道はライフラインだから失敗したら住民の居住、いや生存に関わる。森林経営も一度失敗すると回復には数十年~100年以上かかる自然資本だ。漁業資源も同じく、枯渇すると簡単にはもどらない。環境が破壊されれば、絶滅する種も出るだろう。そうなると二度と元にもどらない。死屍累々では困るのだ。

一連の法改正は、資源や事業の持続性をうたいつつ、それを担保する項目がないのがおかしなところである。理念で持続性を掲げても、具体的な事業内容はリスクだらけだ。民間が経営しようと破綻するところは破綻する。

それに民間の方が水道料金の大幅上昇や遠隔地切り捨ては行いやすい。森林や水産資源も、民間は短期的に収量を上げることには熱心になるだろうが、長期の事業継続性を視野に置いているか。加えて、公益的機能は維持できるのか。また利益の適正配分は可能なのか。

疑問だらけである。

・「100年の計」の森林管理を放棄 知らぬ間に進む戦後林政の大転換(長周新聞 2019年4月17日)

※農業や水産業に続き林業をめぐっても、国民の知らないところで戦後林政の大転換が進行している。昨年5月に国会で成立し今月から施行となった民有林対象の「森林経営管理法」と、そのための財源づくりである「森林環境税」(3月に国会で成立。今月から施行)、そして現在国会に提出中の「国有林野管理経営法案」がそれである。森林科学者やジャーナリストが、これまでの「持続可能な森林管理」を放棄し、林業を外資をはじめとする民間企業に開放するものだとして警鐘を乱打している。どんな内容なのか調べてみた。

公共性高い森林整備の役割

森林経営管理法は、安倍政府の規制改革推進会議が主導して成立させたもので、「林業の成長産業化」を掲げ、「日本では意欲の低い小規模零細な森林所有者が多く、手入れが行き届きにくくなっている」といって森林所有者に経営管理権を手放させ、市町村に経営委託する。そして市町村が森林の集約を進めたうえで、もうかる森林は民間企業に再委託し、もうからない森林は市町村で管理するというものだ。

これに対して愛媛大学名誉教授の泉英二氏(森林学)を委員長とする国民森林会議提言委員会が、「林政をこのような方向へ大転換させてよいのか」と題する提言を発表した。そのなかで泉氏は、「林業構造全体を、公共的な利益から経済性の追求に転換させるものだ。これまでの政策では、災害の防止を目的とした間伐に重点が置かれていた。しかし今後はもうけるために大量の木材を供給する主伐(皆伐)を主軸に据え、所有者から経営管理権を奪ってまで主伐しようとしている」と批判している。

森林生態学では森林の発達段階を、「林分初期(幼齢)段階」=10年生ぐらいまで、「若齢段階」=50年生ぐらいまで、「成熟段階」=150年生ぐらいまで、「老齢段階」=150年生以上、と評価する。そして若齢段階までの森林は構造が単純で、生物多様性が乏しく、土壌構造は未熟で、水源涵養機能は低い。森林生態系は時が経つほど生物多様性が豊かになり、植物と動物の遺体(落葉、落枝、死骸、糞)の質量は増え、土壌生物の活動が活発化し、そうなると土壌孔隙など土壌構造が発達して保水機能は高まる。

ところが森林経営管理法では、政府・林野庁は「日本の人工林は50年前後をもって主伐期に達した」と評価し、若齢段階で皆伐する短伐期皆伐・再造林方式を推進しようとしている。それは以上の自然法則に逆らい、災害に対して今以上に脆弱な森林をつくることにならざるをえない。また、一度にすべてを伐ってしまうと、苗木を食べ尽くすシカの被害のリスクも高まり、成林が困難になると指摘する研究者もいる。

この法律でもうかるのは、大型木材産業とバイオマス発電業者である。2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まってから、各地で伐採量にこだわる大規模な皆伐が横行し、丸裸になる山が急増しているという。

そして、この財源をひねり出すために新設されたのが森林環境税だ。2024年度から、住民税に国民一人当り一律1000円を上乗せして徴収し、それを国が都道府県と市町村に分配する。なぜ2024年かというと、その前年度に東日本大震災の復興特別税の1000円が終わるからで、追加負担をごまかすための姑息なやり方である。今年度から23年度までの自治体分配金は、国が税金で立て替える。

それに加え、国有林野法を改定する国有林野管理経営法が国会に提出されている。ジャーナリストの橋本淳司氏はこの法律を、国有林を水道民営化と同じコンセッション方式で外資に売り飛ばすものだと批判している(『世界』5月号)。

同法案は、農林水産大臣が外資を含む特定の林業経営者に、50年以内という長期間、国有林の樹木採取区に成育する樹木を伐採する権利(樹木採取権)を与える、というもの。その下敷きになったのが、未来投資戦略会議の「国有林について、民間事業者が長期・大ロットで使用収益を可能とする仕組みを整備し、コンセッションを強化する」という方針だった。

日本の商社がコンセッション契約を結んだフィリピンやインドネシアの森林で、木材を大量伐採してはげ山にした後、同国に返還したという例もある。橋本氏は、現在国内では大規模なバイオマス発電の燃料用木材チップの需要が急増しており、企業が安価な木材の大量供給を国産材に求めていること、そこにこの法律を使って、成長の早い品種を用いて短期間に伐採して回転率を上げる企業が参入する可能性があることを指摘している。

国土の7割が森林の日本

「100年の計」といわれる森林経営に、短期的利益追求主義を持ち込むことがいかに危険かは明らかである。日本の国土の67%は森林であり、先進国のなかでこれほど豊かな森林率を持つ国はまれだ。日本の林業の成り立ちは3世紀ともいわれ、長い歴史を誇っている。

だが、第二次大戦中は過伐が進み、戦後復興から高度成長期にも木材需要が拡大し続けた。この時期政府は、天然材を伐採してスギやヒノキなどの人工林にかえる拡大造林政策をとった。この人工林が成長して伐採可能になった1990年代以降、日本の木材供給量(生産量)は増大するはずだったがそうならず、60年代からの半世紀で3分の1に縮小した。原因は1961年の丸太の輸入完全自由化を手始めに、木材関連の関税を撤廃したからだ。安い外材が流入し、輸入自由化前に90%以上あった自給率が、今では36%に落ち込んでいる。

一方、国内の人工林の多くが間伐されないまま放置されている。お互いもたれあうようにして立つヒョロ長い木の集団は、根系の支持力も弱く、強風や冠雪で一気に共倒れを起こすし、豪雨時には表層崩壊を起こしやすい。また、密集した人工林は非常に暗く、下層植生がきわめて乏しいため、雨水による土壌の浸食を招きやすい。それが、台風や集中豪雨のたびに大規模災害を引き起こす要因の一つになっている。

森林科学者の藤森隆郎氏(元農林省林業試験場勤務)は、日本の自然を生かした第一次産業を軽視することは、日本社会の持続可能性を根底から危うくすると指摘している(築地書館『林業がつくる日本の森林』)。

健全な森林は、それぞれの地域の気象緩和、水資源の保全、土壌保全、生物多様性の保全といった、国土保全に不可欠な機能を持っている。また木材は、光合成によって水と二酸化炭素をもとに生産し続けることができるし、木材は長期にわたって炭素を貯蔵し続け、使用後は燃焼や腐朽などによって二酸化炭素と水に還元される。この木材を、森林生態系の持続性を損なわない範囲でできるだけ多く生産し、有効に利用するなら、人間社会に利益をもたらす。

林業先進国ドイツでは、林業は国の安全保障に欠かせないとして、林業従事者に所得補償や補助金を出し、林業の振興に努めているという。それとは対照的に、民間企業の利益を優先し、森林の国土保全、水源涵養機能は壊れるにまかせるという日本政府に、厳しい批判の声が巻き起こっている。

・林業振興の金が都市にばらまかれる不可解(Yahoo!ニュース 2019年4月25日)

田中淳夫 | 森林ジャーナリスト

※今年度より森林環境譲与税が始まる。知っているだろうか?

この税金をごく簡単に説明すると、2024年度から徴税される森林環境税を財源として自治体に配分する、いわば交付金だ。ただし今年度譲与されるのは、譲与税特別会計から借り入れたもの(借り入れた分は、24年度以降の森林環境税で償還していくことになる)。21年度までに約200億円、24年度まで約300億円……と増やしていって、33年度以降は約600億円になる予定。

森林環境税は個人から1人あたり年間1000円を課し、市町村が個人住民税と併せて徴収する。個人住民税の納税義務者は全国で約6200万人である。

ちなみに使い道は林業振興と森林環境の健全化のため、という縛りがある。

ともあれスタートしてしまったのだから、中身をチェックしてみた。

まず重要なのは、各自治体への配分される金額である。

森林環境譲与税は、利用する市町村と都道府県に配分する。ただし譲与比率は、都道府県が2割(徐々に減らされ33年度には1割になる)、市町村に8割となっている。

では、市町村へ配分する金額はどのように決めるのか。配分は、50%が「私有林人工林面積」、20%が「林業就業者数」、30%が「人口」の比率になっていて、それを各自治体の各数値に応じて当てはめていく。なお私有林人工林面積は、各自治体の林野率により補正が行われる。

最も多いのは横浜市

まだ正確な配分金額は発表になっていないが、 桃山学院大学の吉弘憲介准教授が「自治体総研」2019年2月号に試算を発表していたので、それを紹介させていただく。

もっとも金額が大きかったのは、なんと横浜市。9~21年度は約1億4068万円だそうである。続いて静岡県浜松市が約1億2,000万円。その後は大阪市、和歌山県田辺市、静岡市……と続く。

横浜市って、そんなに森林が多かったっけ……と思ったのだか、実は横浜市の人口は約372万人。ここで稼いでいるのだ。人工林も林業就業者もほとんどゼロである。そしてそれは大阪市も同じだ。

静岡県の浜松市と静岡市は、合併したこともあってかなり広い林業地域を抱えているが、政令指定都市だけに人口も多い。つまり上位で林業地帯の自治体といえるのは4位の田辺市と9位の岐阜県郡上市ぐらいなのだ。

これを100位まで広げてみると、林業関係予算がゼロの自治体は名古屋市(8位)、川崎市(21位)、さいたま市(31位)、東京都世田谷区(63位)、大阪府堺市(84位)などだ。これらの自治体は、林業を行っていない。そんな都会に手厚い森林環境譲与税が配分されるわけだ。

これって、おかしいだろう? 森林環境、とくに苦境にある林業の建て直しに使うからという理由で増税したのに、受け取るのはほとんど都会なんて。逆に林業地と言える山村は軒並み数百万円程度。傾向として人口が少ない地域のほか、森林の多くが国有林で私有人工林の少ない東北などは金額が低い。また天然林や里山の雑木林などはカウントされないから、森林面積が広くても金額は伸びない。雑木林もそれなりの手入れは費用なのだが……。

たしかに人口の多い自治体は徴税される人も多いわけで、それなりに還元しないと不満が出るのかもしれないが、使い道が実質的に林業に限られている税金なのに、どうすればよいのか。なお公園緑地とか街路樹にも使えない。

林業ゼロの自治体の使い道

では、林業地帯を持っていない都会の自治体では、森林環境譲与税をどう使えばよいのか。大きく分けると二つある。

一つは、木材利用の促進や普及啓発。公共施設の建築に木材を使って林業を支援する(まさか外材は使わないだろう?)とか、都市の住民に林業の大切さを知ってもらうイベントに使いなさいという安直な発想である。

もう一つは、連携する地方の自治体の森林整備のために回すというもの。仲のよい山間地域の自治体に回して上げなさい、という何のために配分したのかわからない使い道。

たとえば、東京23区はいずれも林業ゼロだが、全部で約3億5000万円の金が下りてくる。その中で港区は、木材生産地の市町村と連携して木質化アドバイザーを新たに設け、開発事業者に内外装に木材活用を指導する事業に使うという。

千代田区、中央区、新宿区、中野区、板橋区は他の自治体の森林整備に当てるそうだ。ただ金額が少ない自治体では、基金を設けて次年度に繰り越すところが多そうだ。ある程度たまってから使おうというわけか。

森林林業に限定した使い道というのは意外と難しい。すでに各都道府県にある県版の森林環境税でも、使い切れずに苦慮している。長野県では森林組合の不正事件が起きたこともあり厳しく用途をチェックした結果、翌年度への繰り越し金が5億円を超えるほど膨らんでいる。

そうでなくても森林を健全にするどころか破壊しているかのような間伐・皆伐が横行している林業地に、もっと伐りなさいとお金を回すのだろうか。

新税を設ける際の説明では、間伐などの林業作業、林業人材の育成・確保、木材利用の促進、普及啓発、その他……であったが、真面目に考えれば使い道は非常に狭いし、なんでも普及啓発、あるいはその他に含めたら使い放題になる。なお都道府県の使い道については、「市町村の支援等に関する費用」とあるだけ。

知ってる? 森林環境税の使い道

とくに横浜市は、神奈川県版の「水源環境保全税」と市独自の「横浜みどり税」があるのだが、それらの使い道でも困っている。市内で使い切れずに隣接自治体に支出する有り様だ。そこに国からも下りてくるとなると、三重に課税されて三重の目的限定の財源ができたことになる。

不誠実な「見えない税金」

思うに、この税金はスタート前にほとんど破綻しているのではなかろうか。

各住民の所得を無視して住民税均等割に上乗せする課税というのは、国税として不可解だ。それが可能なら、そのうち国防費とか社会福祉費用などを名目に定額の徴税が行われかねない。しかも目的税ぽく徴収しつつも、譲与税方式で使い道は自分で考えろとばかりに市町村に渡すというのも理屈が合わない。

そして明らかに新税による増税なのに、住民税の上乗せの形で徴収して見えにくくしていることも不誠実で嫌らしさを感じる。見えなければ取りやすいとでも考えたのか。野党も「森林のためなら」とほとんど反対しなかった。

もっと真摯に税金と使途に向き合うべきだろう。