・核融合炉は本当に可能か?(日経サイエンス 2010年6月号)

M. モイヤー(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

※星を輝かせている核融合を地上で緩やかに起こしてクリーンで安全かつ実質的に無尽蔵なエネルギー源にする──この長年にわたる夢の研究が近く歴史的な節目を迎えるが,実用化は不可能ではないかという疑問の声もあがっている。

点火のときが近づいている。13年と40億ドルをかけて作られた世界最大・最強のレーザー装置,米国立点火施設(NIF)の192本のレーザービームがコショウ粒ほどの燃料ペレットにエネルギーを集中する日が,1~2年内にやってくる。これらレーザーのエネルギーはすさまじい力でペレットを押しつぶし,内部の水素同位体に核融合を起こしてエネルギーを放出させる。

これまでの実験では,水素同位体を融合させるためにレーザーに注ぎ込むエネルギーのほうが,核融合反応によって生じるエネルギーをはるかに上回っていた。今度は得失が逆転する予定だ。レーザーで投入した以上のエネルギーが放出されるはずで,理論上は,この余剰エネルギーを回収して発電所を動かせる。核融合の燃料は通常の海水中に含まれているし,廃棄物は大気中への排出物も放射性廃棄物もゼロになるはずだ。核融合によって,エネルギーに対する人類の飽くなき欲求は満たされるはずだ。永遠に。

やはり世界最大級の核融合実験施設が,フランス南部カダラッシュ村の近くに140億ドルを投じて建設されている。国際熱核融合実験炉ITER(イーター)という設備で,レーザーで圧縮するのではなく,超電導磁石で作り出した磁場によって水素同位体を保持し,1億5000万℃の高温に加熱する。

こちらの実験も,投入分を上回るエネルギーを得る計画。さらに,断続的にエネルギーを生むレーザー方式とは違って,磁気閉じ込め方式ならプラズマを数十秒,うまくすれば数百秒にわたって維持できるとみられ,エネルギーを連続的に得られることになる。

これが達成されると,核融合研究の大きな節目となるだろう。しかし,この点火はほんの序の口にすぎない。

研究者の間では,核融合発電所の建設と運転は,核融合の火の玉を作り出すという物理的課題よりもずっと困難だろうという認識が広がりつつある。実用的な核融合炉を作るには,何百万度もの高温に何年間も連続して耐えられる材料が必要になる。しかも,高エネルギーの核子が常に衝突するので,通常の材料は脆くなるし放射能を帯びてしまう。さらに,一部の核融合燃料を複雑な増殖プロセスによって生産する必要もある。

テキサス大学オースティン校にある核融合研究所の所長ヘイゼルタイン(Richard D. Hazeltine)は「これまでの考え方は,『確かに難しい問題はあるが,いずれ解決はつくだろうから,まずは核融合反応そのものに集中しよう』というものだった」という。「それは間違いだったかもしれない」。




以下より転載

https://dr-seton.hatenablog.com/entry/20110514/1305359304

https://dr-seton.hatenablog.com/entry/20110515/1305462221

※史上最大の詐欺 核融合 

地球の生態系のほとんどの駆動源、太陽。その莫大なエネルギーの発生は核融合による。その意味では太陽は天然の「核融合炉」である。

核融合は核分裂炉が実用化されるとほぼ同時に研究がスタートした。

核融合は鉄より軽い(周期律表で小さい番号)物質なら起こりうる核反応である。恒星の寿命の中で末期には鉄までの核反応が生じ、宇宙の軽元素供給源となっている。その中で水素が最も核融合を起こしやすく、太陽でも核融合のほとんどは水素核融合である。

軽元素の原子核は衝突してと融合、より重い元素の原子核に変化する。これが「核融合」である。水素の場合、水素原子核(陽子)4つが融合し、ヘリウム原子核を産み出し、陽電子2つとガンマ線(とニュートリノ)を放出する。このエネルギーを利用しよう、というのだが問題がある。

通常原子核は電子を周回させ原子を構成する。原子核同士が接触する事はない。原子核を剥きだしにするには、原子から電子を剥ぎ取る必要がある。そのためには電離するまで高温にする必要があるのだ。そのためには数万℃以上の熱を加えて「プラズマ*1化」する必要がある。ところが、それだけでは済まない。原子核は正電荷を持ち、原子核同士はクーロン力*2によって反発しあうためである。原子核がクーロン力を打ち破って衝突するほどの運動エネルギーを原子核に加えてやる必要がある。また、一定の密度以上で無くては衝突確率が下がり、核融合は起きにくくなる。

核融合を起こす*3条件は、「プラズマ温度」×「プラズマ密度」×「プラズマ閉じ込め時間」で決まり、ローソン条件と呼ばれる。その条件を満たす事が核融合実現の第一歩になるのだ。

ところが、太陽はその巨大さにより水素を高温・高密度に保ち続けているが、地上ではその手段がない。どんな物質を利用しても超高温・高密度に保つ手段など無い。
プラズマ閉じ込め手段として考えられたのが大別して二つ。

・磁気閉じ込め
・慣性閉じ込め

である。この両者の違いと問題点は後に述べるとして、この二種を利用しても、水素で核融合を起こす事は将来に渡っても不可能である。クリアすべき条件が高すぎるからだ。

そこで、まず重水素*4、三重水素*5を利用した核融合が目指すべき目標となった。重水素同士の核融合はD-D反応、重水素と三重水素の核融合はD-T反応と呼ばれる。水素同士の核融合よりは条件が厳しくなく、特に三重水素が含まれる場合、条件は大きく緩和されるため、現在の核融合研究では重水素、三重水素が利用されている。

1950年代、核融合爆弾の実現あたりから、未来のエネルギー源として核融合研究が開始された。当時の研究は全て磁気閉じ込め式であったが、閉じ込め磁気発生の構造によって幾つかの方式があり、ヘリカル式やミラー、トカマクといった方式が考えられ、特に旧ソ連で考案されたトカマク方式は現在でも核融合研究の主方式になっている。しかし、当初の目標を大きくずれ込み、核融合は実用化の目途が立っていない。

自分は60年代の生まれだが、子供時代、核融合の実用化は1980年代頃、と云われていた。つまり、10年もすれば実用化と考えられたのだ。ところが、その80年代には実用化は21世紀初頭に伸びていた。90年代には21世紀半ばになり、現在では22世紀初頭、と云われている。つまり、研究の進展と共に実用化までの期間は延びる一方なのである。

投資費用も莫大だ。初期の実験装置は、大学が自前の予算で建設できるレベルだった。日本のトカマク装置「JT60」は、日本の国家規模の予算がなければ建造・運用が不可能だった。今後建造される国際的な核融合研究装置「ITER」は多国間でなければ建設・運用・維持が困難な程になったことの表れである。現在では核融合研究には兆のケタの予算が必要なのである。

これは、核分裂反応の実用化と比較してみるとおかしさに気づく。

ウラン核分裂の発見が1938年。シカゴ大学スタジアム地下に世界最初の原子炉が出来たのが1942年。最初の商業原子炉が1956年。
一方、水素核融合の発見が1920年代。水素核融合爆弾の成功が1952年。現在に至るまで連続運転できる核融合炉は出来ていない。

いつまで経っても実用化の目途が狂いっぱなしで、開発予算も嵩む代物、核融合。
研究は未知のものを探り当てる試みだ。核融合研究自体に文句は言うまい。しかし、現在の原子力政策、原子力擁護派に「核分裂炉は核融合炉が実用化するまでの繋ぎ」とか、「核融合炉が実用化すればエネルギー問題は解決」と考えているのは、楽天的に過ぎる、と指摘すべきだろう。

環境問題は今世紀中には今後の人類の進むべき方向を定めなければならない重大事だ。勝ち目の薄い手札に自分の成り行きを任せるのは賢い態度とは云えない。核融合に期待するのはやめるべきだろう。

しかも、例え核融合が実用化したとしても、それはエネルギー源として利用できる可能性は無いのである。

*1:物質の固体、液体、気体に続く、第4態と呼ばれる
*2:電荷間に働く力
*3:反応し続ける点火状態や発生するエネルギーが投入エネルギーを上回る状態などによって異なるが
*4:陽子1つ、中性子1つからなる水素の同位体
*5:陽子1つ、中性子2つよりなる水素の放射性同位体

核融合研究の目途が狂いっぱなしであることを説明した。そのブレイクスルーは存在するのだろうか。その期待が掛けられたのが、慣性閉じ込め式核融合である。

慣性閉じ込め方式はローソン条件のうち、閉じ込め時間を極端に削り、温度と密度(圧力)を増大させる方式だ。具体的に云うと、含重水素ペレットに周囲から高強度レーザーパルスを入射し、その照射衝撃で高圧・高温状態を発生させ条件を満たさせる、と云うもの。高密度を維持するのは短時間に生じる衝撃でペレット自身の慣性によるため、慣性閉じ込めと呼ばれる。

この方式は日本では大阪大学で研究が進められ、年々より強力なレーザーにして、短パルス化、短波長化、多本数化を進めている。アメリカではエドワード・テラーらによる研究がロスアラモス研で進められている。

こちらも当初より設備も設備投資も膨らむ一方で一向に先が見えてこない。そして、磁気閉じ込めでも慣性閉じ込めでも、エネルギー源として利用するには大問題を抱えているのである。それは、

・エネルギーの大部分が高速中性子の形で放出されてしまう
・エネルギーの取り出し手段がない
・設備投資費用が嵩みすぎる
・投資に見合う規模で建設すると巨大すぎる

という点である。その点をちょっと述べていこう

1989年、アメリカユタ州のユタ大学の研究者フライシュマン、ポンスが驚くべき発表を行った。「常温核融合」である。

方法はシンプル。重水中で電気分解を行うと陰極側パラジウム電極に重水素が蓄えられ、金属結晶格子中で核融合を引き起こす、というのである。当然、発表直後から世界中が騒然となった。なにせ、彼らが核融合に必要だ、といったのは重水とそれを入れる器。パラジウム陰極に電源のみ。大規模化の一歩を辿っていた熱核融合研究に携わる原子力工学者にとっては受け入れられる事の出来ない事だったに違いない。

冷静な反応も感情的な批判も逆巻いた常温核融合騒動当時、面白い批判があった。

「もし、パラジウム電極が熔けたり、重水が煮え立つほどに核反応が起きたなら、実験者は放射線によって即死していたはずだ」

というものであった。

なるほど、重水素の核融合、D-D反応、D-T反応は、反応時に高速中性子を放出する。エネルギーの大部分はこの高速中性子が担うのだ*1。云ってみれば、核融合炉とは、高速中性子発生装置と言い換えてもいい。とすれば、ビーカーを過熱する程度のエネルギーであっても人を即死させるエネルギーを持つ核融合を発電レベルまで巨大化した場合、その中性子量は莫大なものになる。中性子は大部分の物質を通過してしまうから遮蔽は難しい。

かつて、レーガン政権時代のアメリカが中性子爆弾の研究開発と配備に踏み切ろうとした。中性子爆弾は建物にはダメージを与えず*2生物だけを殺す、究極の非人道的兵器と云われた*3。その、中性子爆弾とはどういうものか、といえば、ほぼ純粋な水素核融合爆弾の事である。

点火以外には核融合を利用する水素爆弾は、そのエネルギーのほとんどを高速中性子で放出し、熱や爆風はほとんど生じない、と云われた。それを地上で連続的に動かすのが「核融合炉」なのだ。決して、放射能も出ない代物ではない。遮蔽する物質のほとんどを放射化(放射能を帯びさせる)してしまうのである。遮蔽しきれない分があれば、さらに危険だ。かつての「動燃臨界事故」のような事態が常に生じる。バケツ一杯のウランからの核反応でもあれほど問題になったのに、高速中性子の嵐が巻き起こるのである。

核分裂炉は燃料を冷却水で取り囲む事で中性子を減速、遮蔽している。ところが、核融合の場合、これが困難だ。プラズマを保持するためにはプラズマ容器のすぐ周囲を磁場発生コイルで囲む必要がある。プラズマとコイルまでの距離が離れていると磁場密度が低く効果的ではない。従って、容器壁は遮蔽を充分しなくてはならないが、同時に磁場密度が上がるようにしなくてはならない。

これは技術的に困難であり、よってプラズマ容器壁と磁場発生コイルも間断無き中性子照射によってどんどん劣化してしまう。これは、慣性閉じ込め式でも同じである。レーザー照射系が中性子照射に耐える可能性はほとんどない。

そして、核融合エネルギーを取り出す方法も決まっていない。述べたとおり、エネルギーのほとんどは中性子が担う。遮蔽と磁場を考えると難しいが、それでも生じる熱を取り出すとしよう。すると、熱効率は30%を超える事さえ不可能になる。現在の原子炉でも「発電機能付き温水製造器」と揶揄されるほどに効率が悪い。これは、原子力が水を介してしかエネルギーを取り出せないからだが*4効率が低い。それよりも核融合は発電効率の低い代物になってしまうのだ。熱機関は熱源が高温ほど効率が高い。一番良いのは熱媒を介さないことである。それなのに、核分裂も核融合も数MeVのエネルギー、つまり数億度に相当する、を水で400℃程度に下げて利用するのである。これでは、売り文句の「放射能を出さないきれいな無尽蔵のエネルギー」などではない。「放射能を量産し、有効にエネルギーを取り出せない温水発生装置」である。

現在、投入エネルギーと発生エネルギーを釣り合わせるあたりまで来ている、と云われる。しかし、中性子の形でエネルギーが生じる以上、投入エネルギーの最低でも4倍は発生させられないと、定常的に運転できない事は理解できるだろう。放出される中性子はプラズマを再加熱=核融合のため、のエネルギーにはなり得ないからだ。開発の条件がさらに厳しくなるのは間違いない。

これほど利用に耐えないような代物なのに、研究開発費だけで兆のオーダーに載っている。商用利用が可能になる場合、一基あたりの費用が幾らになるのか。現在の開発費用以上になることは間違いない。なぜなら、核融合炉は大量生産によるコスト削減が利くようなものでは無いからだ。連続的な運転に耐え、安全に配慮しなければならないことを考えたら、開発費より安くする事は無理である。

従って、さらに問題が生じる。一基あたりのコストが異様に嵩むとしたら、核融合炉は大規模なものにする必要が生じる。現在の原子炉のコストが数千億。核融合が最低でも10倍以上のコストが掛かるとしたら、発電電力は最低で10倍は無くてはならない。約1000万kw級の発電所だ。廃熱もそれ相応であり、放射化し劣化する材質も多岐に及ぶだろう。放射能源にして巨大熱源。下手をすれば周囲の自然環境さえ変えてしまう可能性さえある。そんなものをどこへ設置するつもりなのか。放射化した廃棄物をどこへ捨てるのか。急速に劣化する部品をいつ交換するのか。運用に対する疑問は膨らむ。

しかも、何かにつけて停止した場合、一気に1000万kwの発電能力が失われることになる。柏崎刈羽原発停止どころの騒ぎではない。予備を用意するとすれば、さらにコストが嵩む。

核融合は実際に運用される状況を考えると、到底利用可能なものではないのだ。開発者は実際の運用状況を無視している。

未来のエネルギーという言葉ばかりが一人歩きしている核融合は、その開発に注ぎ込まれる額を考えると、史上最大の詐欺とよぶにふさわしいものなのだ。


・核融合「発電」というおとぎ話をめぐって

倉澤 治雄

2024年8月8日

※核融合のデルファイ調査

近未来の技術革新や社会変動を予測する手法に「デルファイ法」がある。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が5年ごとに行っている「デルファイ調査」は専門家2000-5000人が参加する大規模な未来技術予測である。まず予測したいテーマについて専門家に実現時期や重要度について回答してもらう。その結果を集約して専門家にフィードバックしたうえで、再度同じ質問に答えてもらう。これを数回繰り返して予測の精度を上げていくのである。調査は1971年から5年ごとに行われ、最新の未来技術予測は2019年の第11回である。

「核融合」と「核融合発電」について見てみると、1971年の第1回調査では「連続制御が可能な実験炉が完成する」時期の予測が行われた。実現の時期は1993年と予測され、重要度は97%と高かった。

1977年の第2回調査では「レーザー方式核融合により臨界プラズマ条件が達成される」時期は1999年と予測された。また「磁場閉じ込め方式」でプラズマ温度1億度、閉じ込め時間1秒以上の「ローソン条件」が達成され、「電力を取り出すシステムが開発される」時期は2004年と予測された。

1982年の第3回になると「慣性閉じ込め方式」「磁場閉じ込め方式」ともに「電力を取り出すシステムが開発される」時期は2011年以降と遠のいた。さらに1992年になると「核融合発電炉が開発される」時期は2021年以降、2001年には2031年以降、2010年には2041年以降、最新の2019年調査では2047年に遠のいた。

いつまでたっても蜃気楼を追うように先へ先へと遠のくことから、核融合発電は「永遠の30年」と揶揄される。しかも重要度は1971年の97%から63%まで下落し、もはや専門家も早期の実現を期待していない。

原子力発電の原理がウランやプルトニウムなど重い元素の「核分裂」であるのに対し、核融合発電には水素の同位体など、軽い元素の「核融合エネルギー」が使われる。実現すれば世界のエネルギー問題は解決するとの「おとぎ話」が語り継がれてきたが、現実には豆電球を灯す電気すら作られたことがない。


核融合バブル

2022年12月、米国ローレンス・リバモア研究所はレーザー核融合装置を使って、投入したエネルギーを上回る出力を実現したと発表した。メディアは「核融合発電、実用化へ一歩」(読売新聞)、「『地上の太陽』核融合発電、実用化へ一歩」(日経新聞)、「核融合、エネルギー増やせた、クリーン発電へ一歩」(朝日新聞)などと伝えた。

レーザー核融合はプラズマを「慣性」で閉じ込める方式で、ゴマ粒ほどの燃料に四方から強力なレーザー光をパルス状に集中してエネルギーを発生させる。確かに投入したエネルギーを上回る出力を得たものの、レーザー光を発生させるために100倍近い電力を消費することから、工学的エネルギー収支(ブレーク・イーブン)からは程遠い。しかも研究目的は「発電」ではなく、「熱核兵器」の開発なのである。



(上)レーザー核融合

23年10月、量子科学技術研究機構はトカマク型実験装置「JT-60SA」でファーストプラズマの生成に成功したと発表した。メディアは「核融合発電実用化へ一歩」(東京新聞)、「『地上の太陽』へ、日本独自の一歩」(毎日新聞)などと伝えた。しかし「一歩」の先にどれほどの道のりが残されているのか、伝えるメディアは皆無だった。

「JT-60SA」は「JT-60」の後継機として2007年から建設が始まった。規模はほぼ2倍に拡大された。トカマク型は磁場閉じ込め方式の一つで、「JT-60SA」はプラズマを100秒以上閉じ込めることを目標に掲げている。「JT-60」での閉じ込め時間は28.6秒だった。
核融合炉の実現には数百万度から1億度を超える高温のプラズマを長時間閉じ込める必要がある。閉じ込め方式は大別して、強力な磁石でプラズマを閉じ込める「磁場閉じ込め方式」と、狭い領域に高温・高圧で閉じ込める「慣性閉じ込め方式」がある。「磁場閉じ込め方式」には「トカマク型」「ヘリカル型」「ミラー型」などがあり、「慣性閉じ込め方式」ではレーザー核融合が主流である。

燃料となる軽い元素としては水素の同位体である重水素(D)、三重水素(T: トリチウム)、それにヘリウム3などが想定されている。最も研究されているのが重水素と三重水素の「D-T反応」である。ほかに重水素同士の「D-D反応」や重水素とヘリウム3の「D-He3反応」などが想定されている。近年、水素とホウ素の「p-B11反応」が高エネルギーの中性子を放出しない核融合反応として注目されている。

核融合発電のメリットは①燃料となる重水素がほぼ無尽蔵に存在すること、②二酸化炭素が発生しないこと、③原理的に暴走せず安全性が高いこと、④放射性廃棄物の発生がわずかであること、そして⑤核セキュリティ上の懸念が小さいことなどである。



(上)JT-60SA

最近、Microsoftのビル・ゲイツ、オープンAIのサム・アルトマン、Amazon創業者のジェフ・ベゾス、青色発光ダイオードでノーベル賞を受賞した中村修二らが核融合スタートアップに投資を始めたことから、さながら「核融合バブル」の様相を呈している。

米核融合産業協会の「グローバル核融合企業2023」によると、核融合発電を目指すスタートアップ企業の数は21年の23社から22年には33社、23年には43社に激増した。投資額は62億ドル(約9600億円)で、95%以上が民間資金である。「核融合発電」実現の時期については、43社のうち30社が2030年から35年の間と答えている。

日本でも核融合ベンチャーの起業が相次いでいる。「京都フュージョニアリング」はプラズマを加熱するジャイロトロンなど炉工学関連プラント機器の開発を事業の中核に据える。資金調達の累計額は137億4000万円である。大阪大学発のベンチャーである「エクスフュージョン(EX-Fusion)」はD-T反応を使ったレーザー核融合発電を目指し、23年7月には18億円の資金を調達した。ヘリカル方式を選択した「ヘリカルフュージョン(Helical Fusion)」は23年4月、シードラウンドで8億円を調達した。


膨らむ費用は泥沼化

日本政府は鳴り物入りで23年4月、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」なるものを策定した。また24年3月には業界団体の「フュージョンエネルギー産業協議会(J-FUSION)」が設立された。
核融合炉の建設には莫大な費用が掛かることから国際協力も進む。日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加し、フランスで建設が進む「国際核融合実験炉計画(ITER)」である。50メガワットのエネルギーを投入して500メガワットのエネルギーを取り出すことを目標としている。
しかし費用は当初予定の50億ユーロから、66億、130億、200億と膨らみ、最新の見積もりでは250億ユーロ(4兆2000億円)に達するという。日本は最低でも9.1%を負担することになる。運転開始(ファースト・プラズマ)の時期は当初計画の2020年から2034年へと延期された。しかも実験炉と言いながら、発電は想定されていない。



(上)ITER核融合炉

研究者の間からはITERの実現可能性について疑問を呈する声が出はじめた。初代原子力規制委員長で原子力学会会長などを歴任した田中俊一氏もその一人である。プラズマ物理や材料科学など、基礎研究の重要性は認めながらも、核融合発電については「絶対にできない技術です。そもそも安定的なプラズマなどできません」と手厳しい。
最も研究されているD-T反応では14MeV(メガエレクトロンボルト)という超高エネルギーの中性子が発生する。トカマク型は発生する中性子のエネルギーを熱エネルギーに変えて発電する仕組みだが、田中元委員長は高エネルギーの中性子が真空容器に衝突すると材料が激しく損傷すると指摘する。

「中性子が鉄と反応してヘリウムガスを出します。金属材料にガスが溜まれば脆くなります。計画では真空容器を2,3年に1回取り換えることになっていますが、そんなことができるわけがありません。私は加速器を使った研究をしてきましたが、14MeVの中性子から熱を取り出すことなど絶対にできません」

繰り返すが核融合の基礎研究は積極的に進めるべきである。材料科学などで思わぬ成果が生まれる可能性はある。しかし「発電が可能」とのおとぎ話はそろそろ終わりにしなければならない。さもないと「永遠の30年」がこれからも延々と続き、泥沼にはまるように資金をつぎ込むことになるだろう。

理論的可能性と実現可能性の間には埋められない溝が存在することを認識しなければならないと私は思う。

倉澤 治雄
千葉県生まれ、開成高校卒。1977年東京大学教養学部基礎科学科卒、79年フランス国立ボルドー大学大学院修了(物理化学専攻)、80年日本テレビ入社。原発問題、宇宙開発、環境、地下鉄サリン事件、司法、警察、国際問題などを担当。経済部長、政治部長、解説主幹を歴任。科学技術振興機構中国総合研究センター副センター長など。著書は「原子力船『むつ』虚構の航跡」(現代書館)「福島原発事故に至る原子力開発史」(中央大学出版部)、「原発ゴミはどこへ行く」(リベルタ出版)、「原発爆発」(高文研)、「テレビジャーナリズムの作法」(花伝社)、「徹底討論 犯罪報道と人権」(現代書館)「中国、科学技術覇権への野望」(中公新書ラクレ)「新型コロナワクチン 不都合な真実』(高文研)「宇宙の地政学」(ちくま新書)など。


※ブログ主感想:人類は巨額の開発資金のかかる(しかも成功の見込みのない)核融合発電には見切りをつけ、それに費やされるであろう莫大な資源と資金を、天然の核融合炉である太陽のエネルギーをもっと有効活用する(ダイソン球のような)方法および、自然エネルギーの有効な(巨大なバッテリーのような)貯蓄方法を探った方がはるかに現実的であろう。