・働く女性の声を受け「無職の専業主婦」の年金半額案も検討される(週刊ポスト 2019年5月3・10日号/5月31日号)

※令和を迎え年金改悪の議論が始まっている。現在、夫の厚生年金に加入し、年金保険料を支払わずに基礎年金をもらうことができる「第3号被保険者」の妻は約870万人いる。
 
第3号については共稼ぎの妻や働く独身女性などから「保険料を負担せずに年金受給は不公平」という不満が根強くあり、政府は男女共同参画基本計画で〈第3号被保険者を縮小していく〉と閣議決定し、国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する作戦を進めている。
 
厚生年金の加入要件を広げることで仕事を持つパート妻をどんどん加入させているのはその一環だ。3年前の年金法改正で厚生年金の適用要件が大幅に緩和され、わずか1年で約37万人が新たに加入している。
 
そうして篩(ふるい)に掛けていけば、最後は純粋に無職の専業主婦が残る。厚労省や社会保険審議会では、無職の主婦から保険料を取る方法も検討してきた。

「第3号を廃止して妻に国民年金保険料を払ってもらう案、妻には基礎年金を半額だけ支給する案、夫の厚生年金保険料に妻の保険料を加算して徴収する案などがあがっている」(厚労省関係者)
 
令和の改革でいよいよ「3号廃止」へと議論が進む可能性が高い。

「専業主婦の年金半額案」 働く女性との分断はかる厚労省の思惑

「女性が輝く社会」のスローガンの下、働く女性とサラリーマンの妻(第3号被保険者)、さらにはパート勤務などの「働く主婦」と「専業主婦」を分断し、“第3号被保険者は保険料を払わずに年金をもらえる”と煽って専業主婦から年金保険料を徴収しようとしているのは国(厚労省)である。
 
これまでの年金改革の議論を辿るとよくわかる。
 
第3号被保険者の制度ができたのは、1985年の年金改革(実施は翌年)だ。それまでサラリーマンの妻(専業主婦)は国民年金に任意加入して保険料を払わなければ年金をもらえなかったが、「主婦は家事労働で貢献している」という考え方から「夫が厚生年金に加入していれば扶養家族の妻も国民年金に加入した」とみなされ、自分で保険料を払わなくても年金受給権を得るようになった。

実は、この時、サラリーマンの厚生年金保険料が2割も引き上げられた。「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。

「当時の財政検証で、第3号制度導入で将来の年金給付が増えると計算され、厚生年金の保険料率が10.6%から12.4%に引き上げられた経緯があります」
 
つまり、第3号主婦の保険料分は夫や独身サラリーマンが分担しているので、決してタダ乗りではない。ところが、年金財政が苦しくなると、厚労省はタダ乗り批判を展開していく。

「第3号廃止」の“2段ロケット”
 
厚労省は2000年、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」を設置し、〈第3号被保険者の中には自分の保険料も含めて夫の給料から天引きされていると誤解している者も少なくない〉(同検討会資料)と指摘。第3号制度の見直し方針を打ち出すと、2002年の社会保障審議会年金部会に、【1】夫の厚生年金を妻と2分割【2】第3号に保険料負担を求める【3】第3号の年金給付を減額する【4】第3号の対象者を縮小していく――という4つの改革案を提示した。
 
厚労省にとっては20年来の計画なのだ。
 
以来、第3号制度の見直し問題は5年ごとの年金制度大改革のたびに社会保障審議会などで議論され、そこから出てきたのが「被用者年金の適用拡大」方針だった。これは第3号被保険者をパート主婦と専業主婦に分け、まずはパート主婦を厚生年金に加入させて保険料を支払わせ、第3号の人数を段階的に減らしていくという政策だ。これを進めると、最後に専業主婦が残る。
 
その先にあるのが第3号制度の「廃止」である。

2015年に厚労省年金局が社会保障審議会年金部会(2015年1月21日)に提出した資料には第3号制度改革の「主な意見」としてこう書かれている。

〈総論では第3号被保険者制度をやめることについては異論がないと思うが、具体的にどうするかは難しい問題。第3号被保険者制度を廃止すると宣言した上で、被用者保険の適用拡大を最優先に進めながら、(中略)2段ロケットで3号制度を変えるというステップを踏んでいくのではないか〉
 
さらに、この日の年金部会の席上、当時の厚労省年金課長は“無職の専業主婦”への「年金半額給付」や「保険料徴収」に言及した。

「一番最後に純粋に無就業の方が残るという問題がありますが、この点については、年金分割で考えるべきとか、(年金)給付は半分にするとか、世帯の所得がたくさんある方からは保険料をいただくのも考え方ではなかろうかとか、いろんな意見があった」

「純粋に無業者の方」と、専業主婦を“無職”扱いしているのは他でもない、厚労省なのだ。また、それより前の2011年9月29日の社会保障審議会年金部会では、当時の年金課長が、第3号被保険者制度について、以下のように発言している。

「特に共働きの方、独身女性に不公平感が生じており、批判的な意見として、一定程度の給与所得がある方も含め、130万というラインも含めて、本人が保険料を負担せずに給付を受けられるのはおかしいのではないかとか、就労調整というような形での悪影響があるのではないか(中略)というような批判があるところであります」
 
ここでも厚労省が「特に共働きの方、独身女性に不公平感」「批判的な意見」などと、働く女性と専業主婦の対立を煽っていることがわかるだろう。
 
これらの発言の内容は20年前からの厚労省の提案そのものである。国民年金の満額は約78万円だから、妻の年金半減は家計から年間約40万円が奪われることになる。これは決して“過去の議論”ではない。

負担増、給付減の口実に“不公平の是正”というロジック
 
政府は2015年12月に「第3号被保険者を縮小していく方向で検討を進める」と閣議決定し、この5年間に“ロケットの1段目”にあたるパート主婦への厚生年金拡大を急速に進めてきた。
 
今年は5年に1度の年金改革(年金財政再計算)の年で、同省はパートの厚生年金加入の収入基準を現在の「月収8万8000円以上」から「6万8000円以上」へと更に拡大する方針だ。そして、その次となる5年後以降にはいよいよ第3号制度廃止への“2段ロケット”の議論が控えている。
 
今年の年金財政再計算に先立つ昨年9月14日の社会保障審議会年金部会では、民間委員から「適用拡大を進めて、第3号を縮小していく中で、その後についても時期を見て早めに議論を進めていくことも必要ではないか」という意見が出され、本丸である「無就業」(年金課長発言)の専業主婦の年金改革が促された。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。

「いまや年金財政は自転車操業状態です。だから厚労省は目先の保険料収入を増やすために第3号被保険者の主婦になんとしても年金保険料を払わせたい。そのために厚生年金加入要件をどんどん拡大してパート主婦の給料から保険料を天引きしている。最終的に残る収入のない第3号被保険者には、週刊ポストが指摘しているように、国民年金保険料を払ってもらうか、年金を半額だけ支給するといった制度変更が行なわれることは十分に考えられる」
 
サラリーマンの妻の保険料は、すでに夫や独身サラリーマンが負担している。その第3号被保険者から新たに保険料を徴収するのは“二重取り”であり、取るなら夫や独身者の保険料を大幅に減額しなければ不公平だ。しかし、そんな議論は全くない。
 
国が“不公平の是正”というロジックを使うのは、負担増、給付減の口実になる時だけだ。過去の年金部会での厚労省作成の資料(2011年9月)では、第3号の制度について、〈特に共働きの妻や独身女性に不公平感〉が生じていると説明し、縮小を進めようとしてきたことからも明らかだ。
 
正当な年金受給権を奪われかけている専業主婦とその夫こそ、世帯収入を守るために国に対して声を上げるべきではないだろうか。