※過去記事だけどこれから起こることなので有用と思い、いまさらながら掲載
・韓米FTA改正、ISDS請求の乱発は制限したというが…政策主権の確保は“不十分”(ハンギョレ 2018年9月4日)
※今年3月末「原則的な妥結」が発表された韓米自由貿易協定(FTA)改正協定文の全文が3日、公開された。
政府は米国の投資企業・資本によるISDS(海外に進出した企業が、その国の急な制度の変更などによって損害を受けた場合、国を相手取り国際的な仲裁機関に訴訟を起こすことができる紛争解決手続き)請求の乱発を制限し、政府の正当な政策の主権の保護の要素を協定文に反映したと説明した。しかし、ISDSの請求要件である内国民待遇・最小待遇基準・最恵国待遇(MFN)が「(請求可能な協定違反かどうかは)正当な公共の福祉目的に基づいて差別しているかどうかを含めた全体状況にかかっている」とか、「些細な請求を根絶して防止するための効果的なメカニズムを提供する」など、“曖昧に”なっていると指摘されている。エリオットなどがサムスン物産の合併件を理由に、韓国政府を相手にすでに請求したISDS紛争は影響を受けない。
3月末の協定の妥結当時、韓国政府は「ISDS改善」を代表的な交渉の成果として掲げた。実際に改正協定文を見てみると、ISDSを盛り込んでいる「投資」チャプター(第11章)第11.3~5条(ISDS請求要件の韓米FTA協定文上、内国民待遇・最小待遇基準・最恵国待遇の違反)と関連し、大きく7つの項目にわたって変更が行われた。ISDSの乱発を抑制する条項は、▽同一な政府政策措置に対し2国間の投資保障協定(IBT)など他の投資協定を通じてISDSの手続きがすでに開始・進行された場合、韓米FTAを通じたISDS提起は不可能で▽仲裁判定部が本案前の抗弁の段階で迅速な手続きを通じて決定できる事由に「明確に法律上の理由のないISDS請求」が追加された。また、▽他の投資協定上の紛争解決手続きの条項を適用するため、韓米FTAの最恵国待遇条項を援用できないという点▽ISDS請求の際、韓米FTA違反の可能性などすべての請求の要素について、投資家の立証責任を明示し▽「設立前の投資」に対するISDS請求要件を具体的な行為(許可・免許申請など)をした場合に制限した。請求の範囲を縮小したわけだ。
政府の正当な政策の権限の保護については、「同種の状況」で米国投資資本を(韓国企業・資本に比べて)差別的に待遇したかについての判断基準に「正当な公共の福祉目的に基づいて区別しているかどうかなどを考慮する」という内容が追加された。また、投資者の期待に合致しないという単純な事実だけでは、投資に損害が発生しても、最小基準待遇の違反ではないという点を明確にした。
しかし、「正当な公共の福祉目的」の場合、内国民待遇に違反するかどうかについては、「この目的の有無を含む全体状況にかかっている」として、多少曖昧に記述されている。たとえ公共の福祉目的であっても、「全体状況によって」は、ISDSの請求もあり得るということだ。さらに、協定文の附属書は「(韓米FTA共同委員会が)投資紛争で些細な請求を根絶して防止するためのすべての潜在的改善を考慮する」と明示し、今後ISDSの手続きの改善のための追加改定の根拠を作った。つまり、今回のISDSの条項の改善は「些細な請求」を阻止する方向に焦点が当てられているだけで、韓国政府の国家政策の主権を完全に確保したわけではないことを示唆する。
特に、ドナルド・トランプ政府の米通商当局は妥結が間近になった北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で、「事実上のISDS廃棄」と国際投資者の広範囲なこれまでの権限を大幅に縮小する方向へ「NAFTA式ISDS」に対する重大な変更を図っている。そのため、韓国政府が、NAFTAのSDSモデルに基づいている韓米FTAのISDSも、廃棄に準ずる方向での追加改定交渉に乗り出すべきだと指摘されている。ソン・ギホ弁護士(民主社会のための弁護士会)は「今回、ISDSが進展した内容に改正されたが、実際には起きる可能性が低いISDS乱用の事例を主に取り上げているだけで、現在進行中のエリオットのISDS事件などを解決することは難しい」とし、「NAFTA再交渉で米国がISDSに対して根本的な変更を加えているため、韓国政府が主体的に“廃棄”などを含めた追加的なISDS改正を要求する必要がある」と話した。
ユ・ミョンヒ通商交渉室長は同日、「ISDSの条項は最近、ISDSをめぐる国際的コンセンサスの重要な中核要素を忠実に反映した」と説明した。
一方、革新の価値が認められれば、薬価から10%を優遇している韓国保健当局の「グローバル革新新薬の薬価優遇制度」は、韓米FTAに合致する方向で年内に改正案を作成することにした。健康保険審査評価院は今年3月末、韓米FTA妥結直後から同制度の施行を猶予し、改正事項を検討してきた。自動車の場合は、米国産自動車を修理するための部品交替(部品自己認証)の際、米国の安全基準を満たせば、韓国の安全基準を満たしたものと韓国自動車管理法で見做しており、年間販売量4500台(2009年基準)以下の米国車に緩和された環境(燃費・温室効果ガス)の基準を適用する「小規模制作会社」制度(2021~25年適用)の詳細な基準および緩和の割合を、韓米両国が協議して後日確定することにした。
韓米両国は3月末に原則的妥結を発表してから、これまで改正協定文文案を調整しており、米国は議会協議手続きをすでに完了して、発効に向けた自国内手続きを終えた。韓国側は近いうちに大統領の裁可・署名を経て、国会に批准同意案を提出する予定だ。両国は発効に必要な国内手続きを今年末まで完了し、国内手続き進行途中で発生する両国間の通商関連懸案は協議を通じて解決策を模索することにした。
チョ・ゲワン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
・米韓FTAのISD条項で、韓国は63の法律改正に追い込まれている(週刊プレNEWS 2013年9月13日)
※TPPに盛り込まれた「ISD条項」。この条項は、一国の主権よりも一企業の利益が優先されてしまう危険性をはらんでいる。
参考記事「TPP参加で危険視される『ISD条項』の正体とは?」(http://wpb.shueisha.co.jp/2013/09/11/21821/)
TPPのモデルともいえる米韓FTAでは、すでに韓国でその兆候が表れつつある。立教大学経済学部長の郭洋春教授が言う。
「口火を切ったのは米系ファンドのローンスターでした。昨年6月、韓国政府にISD条項に基づいて訴訟を起こすと通知したのです」
保有する韓国外喚(がいかん)銀行の株式を売却しようとしたところ、韓国政府が承認をわざと遅らせたため、14億ユーロ(約1800億円)の損害を被ったというのが、ローンスターの主張だ。また、一連の株売却で得た利益4兆7000億ウォン(約4100億円)に対し、韓国政府が3930億ウォン(約340億円)の税金を課したことにも、ローンスターは不服を申し立てた。
「韓国で得た利益への課税を拒否するなんて、とんでもないことです。しかし、そんな主張がまかり通るのが、ISD条項の怖いところなのです」(郭教授)
課税権という一国の主権より企業の自由な営利活動が優先されるなんて、あまりにも異常だ。韓国・漢陽大学の金ジョンゴル教授もため息をつく。
「米韓FTAで韓国は間違いなく主権の一部を失ったのです。24章からなる協定文に韓国の法律や政策が触れないよう、細心の注意を払わなくてはいけなくなってしまった。韓国政府は大きな手かせ足かせを負ったのです」
こうした米国企業からの訴訟を防ぐため、韓国は大幅な法律の見直しに乗り出すはめとなった。それまでの法律や規制が外国企業から不公平で差別的と見なされたら訴訟となり、負ければ巨額の補償金支払いを迫られるからだ。
そうした動きの典型が、CO2削減のために韓国政府が導入した「低炭素車協力金制度」だ。これはCO2の排出が少ない車を買うと、最大300万ウォン(約26万円)の補助金が交付され、逆に排出量が多い車には最大で300万ウォンの負担金を課すというもの。
「ところが、この制度が米韓FTA9章の『貿易に対する技術障壁』に当たると、アメリカの自動車業界が反発したのです。アメリカ車はCO2の排出量が多い大型車が中心で、この制度下ではアメリカ車が売れなくなってしまうと危惧したのでしょう。そのため、韓国政府は2013年7月に導入する予定だったこの制度を、15年に延期せざるを得なくなってしまった。環境に配慮した韓国の公共政策が否定され、CO2削減に努力しない米自動車産業の基準が優先されてしまったのです」(金教授)
このような法律や制度の見直しが進んだ結果、韓国では実に63もの法律が改正されることになってしまった。
政府だけではない。自治体もまた地域の主権を奪われようとしている。例えば、学校給食。韓国の自治体の多くが地産地消を進めようと、学校給食に地元の食材を優先的に使う条例を定めている。韓国・京郷新聞の徐義東東京支局長が憤る。
「この条例があると、アメリカ産の食材は学校給食から排除されます。そのため、韓国政府はISD条項に触れかねないと、各自治体に地産地消の条例をやめるよう指示を出し、9割の自治体が応じてしまったのです。地域の農業振興にもつながるよい条例だっただけに、この変更は残念です」
注目すべきは、こうしたISD条項圧力によって、アメリカの要求前から、制度変更の動きが韓国内で起きているという点だ。多摩大学の金美徳教授が言う。
「米韓FTA発効を受け、韓国電力が電気料金の値上げに動こうとしたことがありました。韓国電力は自社株を保有する外国人から、『電気料金が安いから利益が上がらず、損をした』と訴えられてはまずいと、自ら値上げを検討したのです」
アメリカ企業との紛争予防的な動きは、電力以外の公共ビジネス部門にも及んでいる。
「ソウル市の地下鉄9号線で昨年4月、運賃値上げが公示されました。これは米韓FTA16条の『独占的営業行為の禁止』を受けてのことと説明されています。16条には独占事業者に反競争的行為の禁止、被差別的待遇の改善などの義務が課せられています。地下鉄9号線は運賃が安く、16条に違反しかねないと考えたのでしょう。同じように、ガスや水道、韓国版新幹線KTXの民営化論議も始まっています。でも、公共交通の料金は本来、安くあるべき。米韓FTAは企業のビジネスを優先し、庶民の暮らしや公益には冷淡なのです」(前出・エコノミスト)
企業利益のためなら、公共政策を歪(ゆが)め、一国の主権すら踏みにじるのがISD条項の正体なのだ。
・TPP参加で危険視される「ISD条項」の正体とは?(週プレNews 2013年9月11日)
※最近、TPP関連のニュースでよく耳にするのが「ISD条項」という単語だ。TPPのモデルともいわれる米韓FTA(自由貿易協定)交渉では「毒素条項」という物騒なあだ名もつけられおり、TPP反対派の根拠のひとつにもなっている。
はたして、どんな条項なのか。『TPP 黒い条約』(集英社新書)の著者のひとりで、TPPに反対する弁護士ネットワーク共同代表でもある弁護士の岩月浩二氏が解説する。
「ISD条項は、日本語に訳せば投資家と国家間の紛争解決条項。簡単に言うと、外国の投資家が投資協定や経済協定に違反した投資先の政府を国際裁判へと引きずり出せる制度です。
ただし、ISD条項そのものは新しい制度ではなくて、1959年に結ばれたドイツとパキスタンの投資協定に盛り込まれたのが最初です。その後、世界で3000件を超える投資・経済協定が結ばれていますが、ISDはその多くに採用され、現在、日本が世界約30ヵ国と結んでいる投資協定や経済連携協定でも、そのほとんどに盛り込まれています」
つまり、投資受け入れ国の政策、法規制、制度、慣例などによって外国投資家や企業が不公正な扱いを受けたり、損害を被った場合に、その投資家や企業が“相手国政府”を直接訴えることができるという条項だ。
そして企業側は、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(ICSID)による国際調停を選択することができ、その場合、相手国はこれに応じる義務がある。ICSIDの判定部は、原告(提訴した企業)・被告(訴えられた国)の選任が各1名、そして双方の合意で選任した1名の計3名による判定員からなり、上訴はできない一発勝負だ。
一見、強大な政府に対し、外国の一企業が対抗できる正当な手段のようにも思える。なぜ問題なのか?
「ISD条項が生まれた当時、世界は東西冷戦の真っただ中で、特に開発途上国への投資にはリスクが伴いました。例えば、ある国に石油プラント建設で投資をしたのに、政変が起きて、プラントが一方的に国有化されてしまうといったケースもあり得たわけです。
その場合、損害賠償を求めて相手国の裁判所に訴えても、開発途上国は司法制度が不備だというのが先進国の理屈です。そこで国際仲裁での処理に道を開こうというのがISD条項の当初の考え方です。紛争の構図としても当初は、投資する先進国対投資先の開発途上国を主に想定したものでした」(岩月氏)
ところが、1990年代半ば、WTO(世界貿易機関)が成立した頃から、自由貿易至上主義が広がり始め、ISD条項の使われ方が急激に変質した。
「そのきっかけとなったのが、アメリカ、カナダ、メキシコの3ヵ国で1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)です。投資家や企業がISD条項を、相手国の制度や規制や政策、慣行などに対する異議申し立ての道具として利用するようになったのです。これによって従来の先進国対途上国という構図から、カナダ対アメリカのような、先進国間の紛争仲裁が急激に増え始めました」(岩月氏)
1994年にNAFTAが発効して以来、カナダ、アメリカ、メキシコの3ヵ国が関わったISD条項の提訴件数は、政府の資料では45件。このうち、原告となった企業の内訳はアメリカが29件と圧倒的に多く、カナダが15件、メキシコはわずかに1件で、勝訴したのはアメリカのみ。一方、アメリカ政府はこの19年間で15回訴えられているのに、一度も負けたことがない。
「国際経済法学者の中には、こうした裁定が投資家の利益を守るという意味で正当だという意見も多いようですが、ほかの国の環境規制に関わる政策や法律にまで外国の投資家が異議申し立てをして、それをその国の法律ではなく、強制的に国際法廷で仲裁するというのは、ISD条項が生まれた当初の考え方から大きく変質していると言わざるを得ません」(岩月氏)
ISD条項の「変質」を加速させているのはアメリカ。「自由な貿易の実現こそが究極の理想」と考えるアメリカにとって、自国企業の活動や利益を妨げる規制・慣行は「不当な障害」でしかない。ISD条項が危険視される理由は、そこにある。
ある日突然、日本政府が外国の投資家や企業から訴えられる。それも、日本の裁判所ではなく、たった3人の判定員が裁く「国際裁判」へと強制的に引きずり出され、もし負ければ巨額の賠償金支払いを命じられる……。TPP参加後なら十分に起こりえるシナリオだ。
・緊急潜入! TPP交渉の現場はアメリカ企業一色だった(週プレNews 2013年4月1日)
※高い支持率をバックに、ついにTPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉会合への参加を表明した安倍政権。なかでも注目されているのが、安倍首相が“聖域”と表現した、コメ、牛肉・豚肉、麦、甘味資源(砂糖)、乳製品の5品目の行方だ。
TPP参加によって、すべての農産物の関税がゼロになるという最悪の状況を想定した場合、これらの5品目はことごとく輸入品に置き換わってしまう可能性が指摘されている。そのため、安倍首相は5品目を“聖域”として、関税撤廃の例外にしようと考えているのだ。
実際に“聖域”を守れるかどうかは、あくまでTPPの交渉次第。だが、その肝心の現場が、どうも日本に不利な状況になっているらしい。NPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)事務局長の内田聖子氏が語る。
「先日、私はこの目でTPP交渉会合を見てきましたが、その実態は、安倍首相が話した内容や日本のメディアの報道とはずいぶんとかけ離れたものでした」
参加表明をしただけの日本からは、まだ誰もTPP交渉会合に参加していないはずだが……。
「以前から交流のあった、アメリカのNGO(非政府組織)のメンバーとして登録をしてもらい、TPPのステークホルダー(利害関係者)として参加しました。霧に包まれたTPP交渉の実態を自分で確かめたかったんです」
内田氏が“潜入”したのは、3月4日から13日にかけて、シンガポールで行なわれた第16回のTPP交渉会合だ。
「その日、TPP交渉会合に参加していたのは参加11ヵ国の交渉官約300人と、各国の企業や業界団体、NGOなどステークホルダーが200人から300人。多く見積もって総勢600人ほど。TPPは交渉する分野が幅広いので、参加国はそれぞれ専任の担当官を集めた交渉チームとして会合に臨みます。そこには国力の差が表れていて、例えば、アメリカが20人ほどの交渉担当官をそろえている一方で、ブルネイやベトナムは10人もいない。小国は常にハンデを負うことになります」
その現場では、どのようにして交渉が行なわれるのだろうか。
「いざ公式の交渉が始まれば、21の分野ごとに長時間にわたって話し合いが行なわれるのですが、会議室に入れるのは各国の交渉官だけ。私たちステークホルダーは入れません。TPPの交渉は完全な密室で行なわれます」
国益を大きく左右する話し合いが、秘密裏に進められているのだ。ちなみに、会期中にはステークホルダーが交渉担当官とコンタクトが取れる「ステークホルダー会議」なるものが一日だけ開かれるという。ステークホルダーとは、どんな人たちなのか。
「参加していた200人から300人のステークホルダーのうち、8割は企業あるいは企業連合の人たちで、その半数以上がアメリカの企業の関係者でした。しかも、カーギル、フェデックス、VISA、ナイキ、グーグル、フォード、GEなど巨大企業ばかり。また、アメリカの大企業約100社が加盟する『TPPを推進する米国企業連合』や米国商工会議所、米国研究製薬工業協会などの業界団体も名を連ねていましたね」...続きを読む
ほぼアメリカ一色に染められたその会場で、ステークホルダー会議は始まったという。
「ステークホルダーと交渉官を招いたレセプションの主催は在シンガポール米国商工会議所。なぜ議長国でもないアメリカの団体が?と思っていたら、冒頭のスピーチで代表のアメリカ人が『TPPで自由貿易をさらに促進すれば各国の経済発展は必ず約束されている』と得意顔で話しました」
会場では、約70の団体・企業がブースで各国の交渉担当官向けにプレゼンテーションを行なっていたのだが、やはり、そのほとんどがアメリカ企業だったという。
「各担当者が交渉官向けに『TPPが実現すればこれだけアナタの国に投資します』『安価で高品質な商品を提供します』といった具合のPR合戦。もはやそれはプレゼンというより商談会。まだ交渉は途中段階のはずなのに、アメリカ企業と各国政府の間で“TPP後”を見据えた密接な関係づくりが行なわれていたのです。その光景は、まさに『アメリカの大企業のためのTPP』といった印象。こんな場所に今さら日本が乗り込んだところでいったい何ができるのかと感じましたね」
これほど不利な状況下で、安倍政権は交渉をどう乗り切るつもりなのか。具体策がないままなら、“聖域”の確保は難しいだろう。
・TPP「聖域」崩壊、重要5項目で無傷の品目がゼロであることを農相が明言(BUZZAP! 2016年4月20日)

※「聖域なき関税撤廃」を前提とするTPPには参加しないはずだった自民党ですが、聖域とされた重要5項目の中で何ひとつ無傷で守り切れなかったことが明らかになりました。
熊本地震の発生にも関わらず、震災対応を優先すべきとした審議中止の提案を蹴り、「ぜひ進めてくれという首相の意向」によって開催されている衆院環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)特別委員会。この委員会で19日にTPPの「聖域」が崩壊していたことが明らかにされました。
TPPの交渉においては、政府がTPP交渉に入る前に衆参農林水産委員会は重要5項目について「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」とする決議を行っていました。
これらは関税品目では全594品目となりますが、そのうちの3割ほどに当たる170品目で関税撤廃に追い込まれ、「聖域」を浸食されていたことが2015年10月の段階で明らかになっていました。
しかし政府はおよそ7割の424品目に対して「関税を残したので国益を守った」としてきましたが、19日のTPP特別委員会で民進党の玉木雄一郎議員が「関税が残った424品目のうち、無傷の品目はいくつあるか」と質問したところ、石原伸晃TPP担当相も森山裕農相も答えられず、審議がストップ。
そして午後に再開された会議では、驚くべきことに森山裕農相は「単純に枠内税率も枠外税率も変更を加えていないものはない」として、無傷の品目がゼロであることを認めてしまいました。
政府現時点では関税品目ごとの詳細は明らかにしていませんが、「緊急輸入制限措置(セーフガード)の創設などで影響を最小限に抑えた」としつつも、関税を下げたり関税の低い特別枠を設けたりしているとのことで、今後野党側からの追求が本格化する見通し。
野党のみならず与党内からも震災対策を優先して審議中止すべしとの声の上がったTPP特別委員会、安倍首相の「強い意向」を受けて開催されましたが盛大に墓穴を掘った形となり、結局今国会でのTPP承認案と関連法案の承認・成立の断念にまで追い込まれてしまいました。
安倍首相といえば、自らが自民党総裁として戦った2012年の衆議院選挙で「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。」というマニフェストを掲げて戦ったにも関わらず、4月7日の衆院TPP特別委員会で「TPP断固反対と言ったことは1回もございません」と断言したことに多くの驚愕の声が上がりました。
4年前は「聖域なき関税撤廃」が前提であれば交渉参加にすら反対していたにも関わらず、結局のところ「聖域」の3割で関税撤廃されただけでなく、どれひとつ無傷で守り抜くことができなかったということになり、単に公約違反のみならず、TPP交渉そのものでも大敗北を喫したと言わざるを得ない状況になっています。
あくまで「『聖域なき関税撤廃』が前提でなかったからTPP交渉に参加した。ただ結果的に聖域をひとつも守り切れなかっただけなので、公約違反ではない」と言うのであっても、交渉の結果に対する相応の政治責任を取るのが筋なのではないでしょうか?
以下「さてはてメモ帳」様より転載
http://glassbead.blog.shinobi.jp/great%20reset/trans%20pacific%20partnership
・環太平洋経済連携協定(TPP)の衝撃的な物語 Dr Vernon Coleman
The Shocking Story of the Trans Pacific Partnership 20th August 2023
https://vernoncoleman.org/articles/shocking-story-trans-pacific-partnership
2005年、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、シンガポールは環太平洋パートナーシップ協定を結んだ。このパートナーシップは相互貿易協定だった。
2008年、アメリカはTPPを引き継ぐことを決定し、オバマ政権はロビイストを後援して、TPPを、健康や環境など、企業利益(つまりアメリカの企業利益)を妨げる可能性のある公益問題の公的規制を阻止するための協定に変えた。オバマは国際的な大企業と銀行家を保護し、彼に投票した愚かな人々を罰した。
オバマの救済策はペテン師たちをますます金持ちにし、貧困層や中間層をさらに貧困化させた。中産階級と貧困層の破壊は、第三世界経済の破壊が意図的な政策であるのと同じように、意図的な新自由主義政策である。
アメリカ版TPPは、政府が損害を与えた企業や投資家を訴えるのを止めることができる新しい裁判所(投資家国家紛争解決裁判所)に権力を与えた。さらに悪いことに、ISDS法廷は、公的規制によって利益が損なわれたと考える外国企業に罰金を支払うよう、政府に命じることができる。そのISDS法廷では、政府が企業にその企業が好きな金額を無制限に支払うよう命じることができる。こうして新しい裁判所は、銀行家や企業が何の罰則もなしに、その国に対して好きなことができるようにした。もし銀行や企業が、ある国の労働規制や安全規制が自社の利益を損なうかもしれないと感じたら、政府を利益損失で訴えることができた。
そのため、たとえばエクアドルの裁判所が石油会社のシェブロンに対し、公害を引き起こしたとして95億ドルの損害賠償を命じたとき、ハーグのISDS法廷はエクアドルの最高裁を覆した。さらに悪いことに、ISDSはエクアドルに対し、石油大手オクシデンタルとの共同探鉱事業を取り消したとして、18億ドルに利息を加えた罰金を科した。
このような訴訟によって、小国は定期的に破滅させられている。グローバリストにとっては少額でも、関係国にとっては巨額になることが多いのだ。
アメリカのジョン・ロバーツ[John Roberts]最高裁長官は、ISDSにはあらゆる国の法律を見直し、その国の立法府、行政府、司法府の行為を無効にする権限があると述べている。
ISDS法廷(判決を下す法廷)は3人の民間弁護士で構成され、彼らは訴訟を起こした企業の代理人弁護士でもある。3人の弁護士が訴訟を起こし、誰が勝つか決める。そして、アメリカ企業の権利をあえて侵害した国が支払うべき金額を決める。
どのような定義から見ても、これはゆすり以外の何ものでもなく、コーザ・ノストラが考え出したものよりも悪いとは言わないまでも、同じくらい悪いものだ。
銀行家や企業は、彼らが主張する将来の潜在的利益のために訴訟を起こすことさえできる。
これだけ聞くと、まるで奇妙なフィクションのようだ。しかし、そうではない。すべて真実なのだ。
そしてもうひとつ、この親米的な法律(その多くは秘密裏に進められている)は、消費者が口にする食品が遺伝子組み換えであるか、ホルモン剤で栽培されているか、化学薬品で処理されているか、あるいはそれ以外のものであるか、まったく知る術がないことを意味する。
この背後にいる陰謀家たちは、やりたい放題だ。そして誰もそれを止めることはできない。
これらの法律は、冷酷なまでに企業寄りのオバマ政権によって導入されたことを忘れてはならない。そして何も変わっていない。2021年、ジョー・バイデン次期大統領はフォーリン・アフェアーズに、次期大統領の「外交政策アジェンダは米国をテーブルのトップに据える」と書いた。
新自由主義者のおかげで、すべての国際法は、グレートリセットを目指す陰謀家たちに雇われた企業ロビイストたちによって作成されるようになった。
この抜粋は、ヴァーノン・コールマン著Their Terrifying Plan から引用したものです。
・韓米FTA改正、ISDS請求の乱発は制限したというが…政策主権の確保は“不十分”(ハンギョレ 2018年9月4日)
※今年3月末「原則的な妥結」が発表された韓米自由貿易協定(FTA)改正協定文の全文が3日、公開された。
政府は米国の投資企業・資本によるISDS(海外に進出した企業が、その国の急な制度の変更などによって損害を受けた場合、国を相手取り国際的な仲裁機関に訴訟を起こすことができる紛争解決手続き)請求の乱発を制限し、政府の正当な政策の主権の保護の要素を協定文に反映したと説明した。しかし、ISDSの請求要件である内国民待遇・最小待遇基準・最恵国待遇(MFN)が「(請求可能な協定違反かどうかは)正当な公共の福祉目的に基づいて差別しているかどうかを含めた全体状況にかかっている」とか、「些細な請求を根絶して防止するための効果的なメカニズムを提供する」など、“曖昧に”なっていると指摘されている。エリオットなどがサムスン物産の合併件を理由に、韓国政府を相手にすでに請求したISDS紛争は影響を受けない。
3月末の協定の妥結当時、韓国政府は「ISDS改善」を代表的な交渉の成果として掲げた。実際に改正協定文を見てみると、ISDSを盛り込んでいる「投資」チャプター(第11章)第11.3~5条(ISDS請求要件の韓米FTA協定文上、内国民待遇・最小待遇基準・最恵国待遇の違反)と関連し、大きく7つの項目にわたって変更が行われた。ISDSの乱発を抑制する条項は、▽同一な政府政策措置に対し2国間の投資保障協定(IBT)など他の投資協定を通じてISDSの手続きがすでに開始・進行された場合、韓米FTAを通じたISDS提起は不可能で▽仲裁判定部が本案前の抗弁の段階で迅速な手続きを通じて決定できる事由に「明確に法律上の理由のないISDS請求」が追加された。また、▽他の投資協定上の紛争解決手続きの条項を適用するため、韓米FTAの最恵国待遇条項を援用できないという点▽ISDS請求の際、韓米FTA違反の可能性などすべての請求の要素について、投資家の立証責任を明示し▽「設立前の投資」に対するISDS請求要件を具体的な行為(許可・免許申請など)をした場合に制限した。請求の範囲を縮小したわけだ。
政府の正当な政策の権限の保護については、「同種の状況」で米国投資資本を(韓国企業・資本に比べて)差別的に待遇したかについての判断基準に「正当な公共の福祉目的に基づいて区別しているかどうかなどを考慮する」という内容が追加された。また、投資者の期待に合致しないという単純な事実だけでは、投資に損害が発生しても、最小基準待遇の違反ではないという点を明確にした。
しかし、「正当な公共の福祉目的」の場合、内国民待遇に違反するかどうかについては、「この目的の有無を含む全体状況にかかっている」として、多少曖昧に記述されている。たとえ公共の福祉目的であっても、「全体状況によって」は、ISDSの請求もあり得るということだ。さらに、協定文の附属書は「(韓米FTA共同委員会が)投資紛争で些細な請求を根絶して防止するためのすべての潜在的改善を考慮する」と明示し、今後ISDSの手続きの改善のための追加改定の根拠を作った。つまり、今回のISDSの条項の改善は「些細な請求」を阻止する方向に焦点が当てられているだけで、韓国政府の国家政策の主権を完全に確保したわけではないことを示唆する。
特に、ドナルド・トランプ政府の米通商当局は妥結が間近になった北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で、「事実上のISDS廃棄」と国際投資者の広範囲なこれまでの権限を大幅に縮小する方向へ「NAFTA式ISDS」に対する重大な変更を図っている。そのため、韓国政府が、NAFTAのSDSモデルに基づいている韓米FTAのISDSも、廃棄に準ずる方向での追加改定交渉に乗り出すべきだと指摘されている。ソン・ギホ弁護士(民主社会のための弁護士会)は「今回、ISDSが進展した内容に改正されたが、実際には起きる可能性が低いISDS乱用の事例を主に取り上げているだけで、現在進行中のエリオットのISDS事件などを解決することは難しい」とし、「NAFTA再交渉で米国がISDSに対して根本的な変更を加えているため、韓国政府が主体的に“廃棄”などを含めた追加的なISDS改正を要求する必要がある」と話した。
ユ・ミョンヒ通商交渉室長は同日、「ISDSの条項は最近、ISDSをめぐる国際的コンセンサスの重要な中核要素を忠実に反映した」と説明した。
一方、革新の価値が認められれば、薬価から10%を優遇している韓国保健当局の「グローバル革新新薬の薬価優遇制度」は、韓米FTAに合致する方向で年内に改正案を作成することにした。健康保険審査評価院は今年3月末、韓米FTA妥結直後から同制度の施行を猶予し、改正事項を検討してきた。自動車の場合は、米国産自動車を修理するための部品交替(部品自己認証)の際、米国の安全基準を満たせば、韓国の安全基準を満たしたものと韓国自動車管理法で見做しており、年間販売量4500台(2009年基準)以下の米国車に緩和された環境(燃費・温室効果ガス)の基準を適用する「小規模制作会社」制度(2021~25年適用)の詳細な基準および緩和の割合を、韓米両国が協議して後日確定することにした。
韓米両国は3月末に原則的妥結を発表してから、これまで改正協定文文案を調整しており、米国は議会協議手続きをすでに完了して、発効に向けた自国内手続きを終えた。韓国側は近いうちに大統領の裁可・署名を経て、国会に批准同意案を提出する予定だ。両国は発効に必要な国内手続きを今年末まで完了し、国内手続き進行途中で発生する両国間の通商関連懸案は協議を通じて解決策を模索することにした。
チョ・ゲワン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
・米韓FTAのISD条項で、韓国は63の法律改正に追い込まれている(週刊プレNEWS 2013年9月13日)
※TPPに盛り込まれた「ISD条項」。この条項は、一国の主権よりも一企業の利益が優先されてしまう危険性をはらんでいる。
参考記事「TPP参加で危険視される『ISD条項』の正体とは?」(http://wpb.shueisha.co.jp/2013/09/11/21821/)
TPPのモデルともいえる米韓FTAでは、すでに韓国でその兆候が表れつつある。立教大学経済学部長の郭洋春教授が言う。
「口火を切ったのは米系ファンドのローンスターでした。昨年6月、韓国政府にISD条項に基づいて訴訟を起こすと通知したのです」
保有する韓国外喚(がいかん)銀行の株式を売却しようとしたところ、韓国政府が承認をわざと遅らせたため、14億ユーロ(約1800億円)の損害を被ったというのが、ローンスターの主張だ。また、一連の株売却で得た利益4兆7000億ウォン(約4100億円)に対し、韓国政府が3930億ウォン(約340億円)の税金を課したことにも、ローンスターは不服を申し立てた。
「韓国で得た利益への課税を拒否するなんて、とんでもないことです。しかし、そんな主張がまかり通るのが、ISD条項の怖いところなのです」(郭教授)
課税権という一国の主権より企業の自由な営利活動が優先されるなんて、あまりにも異常だ。韓国・漢陽大学の金ジョンゴル教授もため息をつく。
「米韓FTAで韓国は間違いなく主権の一部を失ったのです。24章からなる協定文に韓国の法律や政策が触れないよう、細心の注意を払わなくてはいけなくなってしまった。韓国政府は大きな手かせ足かせを負ったのです」
こうした米国企業からの訴訟を防ぐため、韓国は大幅な法律の見直しに乗り出すはめとなった。それまでの法律や規制が外国企業から不公平で差別的と見なされたら訴訟となり、負ければ巨額の補償金支払いを迫られるからだ。
そうした動きの典型が、CO2削減のために韓国政府が導入した「低炭素車協力金制度」だ。これはCO2の排出が少ない車を買うと、最大300万ウォン(約26万円)の補助金が交付され、逆に排出量が多い車には最大で300万ウォンの負担金を課すというもの。
「ところが、この制度が米韓FTA9章の『貿易に対する技術障壁』に当たると、アメリカの自動車業界が反発したのです。アメリカ車はCO2の排出量が多い大型車が中心で、この制度下ではアメリカ車が売れなくなってしまうと危惧したのでしょう。そのため、韓国政府は2013年7月に導入する予定だったこの制度を、15年に延期せざるを得なくなってしまった。環境に配慮した韓国の公共政策が否定され、CO2削減に努力しない米自動車産業の基準が優先されてしまったのです」(金教授)
このような法律や制度の見直しが進んだ結果、韓国では実に63もの法律が改正されることになってしまった。
政府だけではない。自治体もまた地域の主権を奪われようとしている。例えば、学校給食。韓国の自治体の多くが地産地消を進めようと、学校給食に地元の食材を優先的に使う条例を定めている。韓国・京郷新聞の徐義東東京支局長が憤る。
「この条例があると、アメリカ産の食材は学校給食から排除されます。そのため、韓国政府はISD条項に触れかねないと、各自治体に地産地消の条例をやめるよう指示を出し、9割の自治体が応じてしまったのです。地域の農業振興にもつながるよい条例だっただけに、この変更は残念です」
注目すべきは、こうしたISD条項圧力によって、アメリカの要求前から、制度変更の動きが韓国内で起きているという点だ。多摩大学の金美徳教授が言う。
「米韓FTA発効を受け、韓国電力が電気料金の値上げに動こうとしたことがありました。韓国電力は自社株を保有する外国人から、『電気料金が安いから利益が上がらず、損をした』と訴えられてはまずいと、自ら値上げを検討したのです」
アメリカ企業との紛争予防的な動きは、電力以外の公共ビジネス部門にも及んでいる。
「ソウル市の地下鉄9号線で昨年4月、運賃値上げが公示されました。これは米韓FTA16条の『独占的営業行為の禁止』を受けてのことと説明されています。16条には独占事業者に反競争的行為の禁止、被差別的待遇の改善などの義務が課せられています。地下鉄9号線は運賃が安く、16条に違反しかねないと考えたのでしょう。同じように、ガスや水道、韓国版新幹線KTXの民営化論議も始まっています。でも、公共交通の料金は本来、安くあるべき。米韓FTAは企業のビジネスを優先し、庶民の暮らしや公益には冷淡なのです」(前出・エコノミスト)
企業利益のためなら、公共政策を歪(ゆが)め、一国の主権すら踏みにじるのがISD条項の正体なのだ。
・TPP参加で危険視される「ISD条項」の正体とは?(週プレNews 2013年9月11日)
※最近、TPP関連のニュースでよく耳にするのが「ISD条項」という単語だ。TPPのモデルともいわれる米韓FTA(自由貿易協定)交渉では「毒素条項」という物騒なあだ名もつけられおり、TPP反対派の根拠のひとつにもなっている。
はたして、どんな条項なのか。『TPP 黒い条約』(集英社新書)の著者のひとりで、TPPに反対する弁護士ネットワーク共同代表でもある弁護士の岩月浩二氏が解説する。
「ISD条項は、日本語に訳せば投資家と国家間の紛争解決条項。簡単に言うと、外国の投資家が投資協定や経済協定に違反した投資先の政府を国際裁判へと引きずり出せる制度です。
ただし、ISD条項そのものは新しい制度ではなくて、1959年に結ばれたドイツとパキスタンの投資協定に盛り込まれたのが最初です。その後、世界で3000件を超える投資・経済協定が結ばれていますが、ISDはその多くに採用され、現在、日本が世界約30ヵ国と結んでいる投資協定や経済連携協定でも、そのほとんどに盛り込まれています」
つまり、投資受け入れ国の政策、法規制、制度、慣例などによって外国投資家や企業が不公正な扱いを受けたり、損害を被った場合に、その投資家や企業が“相手国政府”を直接訴えることができるという条項だ。
そして企業側は、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(ICSID)による国際調停を選択することができ、その場合、相手国はこれに応じる義務がある。ICSIDの判定部は、原告(提訴した企業)・被告(訴えられた国)の選任が各1名、そして双方の合意で選任した1名の計3名による判定員からなり、上訴はできない一発勝負だ。
一見、強大な政府に対し、外国の一企業が対抗できる正当な手段のようにも思える。なぜ問題なのか?
「ISD条項が生まれた当時、世界は東西冷戦の真っただ中で、特に開発途上国への投資にはリスクが伴いました。例えば、ある国に石油プラント建設で投資をしたのに、政変が起きて、プラントが一方的に国有化されてしまうといったケースもあり得たわけです。
その場合、損害賠償を求めて相手国の裁判所に訴えても、開発途上国は司法制度が不備だというのが先進国の理屈です。そこで国際仲裁での処理に道を開こうというのがISD条項の当初の考え方です。紛争の構図としても当初は、投資する先進国対投資先の開発途上国を主に想定したものでした」(岩月氏)
ところが、1990年代半ば、WTO(世界貿易機関)が成立した頃から、自由貿易至上主義が広がり始め、ISD条項の使われ方が急激に変質した。
「そのきっかけとなったのが、アメリカ、カナダ、メキシコの3ヵ国で1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)です。投資家や企業がISD条項を、相手国の制度や規制や政策、慣行などに対する異議申し立ての道具として利用するようになったのです。これによって従来の先進国対途上国という構図から、カナダ対アメリカのような、先進国間の紛争仲裁が急激に増え始めました」(岩月氏)
1994年にNAFTAが発効して以来、カナダ、アメリカ、メキシコの3ヵ国が関わったISD条項の提訴件数は、政府の資料では45件。このうち、原告となった企業の内訳はアメリカが29件と圧倒的に多く、カナダが15件、メキシコはわずかに1件で、勝訴したのはアメリカのみ。一方、アメリカ政府はこの19年間で15回訴えられているのに、一度も負けたことがない。
「国際経済法学者の中には、こうした裁定が投資家の利益を守るという意味で正当だという意見も多いようですが、ほかの国の環境規制に関わる政策や法律にまで外国の投資家が異議申し立てをして、それをその国の法律ではなく、強制的に国際法廷で仲裁するというのは、ISD条項が生まれた当初の考え方から大きく変質していると言わざるを得ません」(岩月氏)
ISD条項の「変質」を加速させているのはアメリカ。「自由な貿易の実現こそが究極の理想」と考えるアメリカにとって、自国企業の活動や利益を妨げる規制・慣行は「不当な障害」でしかない。ISD条項が危険視される理由は、そこにある。
ある日突然、日本政府が外国の投資家や企業から訴えられる。それも、日本の裁判所ではなく、たった3人の判定員が裁く「国際裁判」へと強制的に引きずり出され、もし負ければ巨額の賠償金支払いを命じられる……。TPP参加後なら十分に起こりえるシナリオだ。
・緊急潜入! TPP交渉の現場はアメリカ企業一色だった(週プレNews 2013年4月1日)
※高い支持率をバックに、ついにTPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉会合への参加を表明した安倍政権。なかでも注目されているのが、安倍首相が“聖域”と表現した、コメ、牛肉・豚肉、麦、甘味資源(砂糖)、乳製品の5品目の行方だ。
TPP参加によって、すべての農産物の関税がゼロになるという最悪の状況を想定した場合、これらの5品目はことごとく輸入品に置き換わってしまう可能性が指摘されている。そのため、安倍首相は5品目を“聖域”として、関税撤廃の例外にしようと考えているのだ。
実際に“聖域”を守れるかどうかは、あくまでTPPの交渉次第。だが、その肝心の現場が、どうも日本に不利な状況になっているらしい。NPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)事務局長の内田聖子氏が語る。
「先日、私はこの目でTPP交渉会合を見てきましたが、その実態は、安倍首相が話した内容や日本のメディアの報道とはずいぶんとかけ離れたものでした」
参加表明をしただけの日本からは、まだ誰もTPP交渉会合に参加していないはずだが……。
「以前から交流のあった、アメリカのNGO(非政府組織)のメンバーとして登録をしてもらい、TPPのステークホルダー(利害関係者)として参加しました。霧に包まれたTPP交渉の実態を自分で確かめたかったんです」
内田氏が“潜入”したのは、3月4日から13日にかけて、シンガポールで行なわれた第16回のTPP交渉会合だ。
「その日、TPP交渉会合に参加していたのは参加11ヵ国の交渉官約300人と、各国の企業や業界団体、NGOなどステークホルダーが200人から300人。多く見積もって総勢600人ほど。TPPは交渉する分野が幅広いので、参加国はそれぞれ専任の担当官を集めた交渉チームとして会合に臨みます。そこには国力の差が表れていて、例えば、アメリカが20人ほどの交渉担当官をそろえている一方で、ブルネイやベトナムは10人もいない。小国は常にハンデを負うことになります」
その現場では、どのようにして交渉が行なわれるのだろうか。
「いざ公式の交渉が始まれば、21の分野ごとに長時間にわたって話し合いが行なわれるのですが、会議室に入れるのは各国の交渉官だけ。私たちステークホルダーは入れません。TPPの交渉は完全な密室で行なわれます」
国益を大きく左右する話し合いが、秘密裏に進められているのだ。ちなみに、会期中にはステークホルダーが交渉担当官とコンタクトが取れる「ステークホルダー会議」なるものが一日だけ開かれるという。ステークホルダーとは、どんな人たちなのか。
「参加していた200人から300人のステークホルダーのうち、8割は企業あるいは企業連合の人たちで、その半数以上がアメリカの企業の関係者でした。しかも、カーギル、フェデックス、VISA、ナイキ、グーグル、フォード、GEなど巨大企業ばかり。また、アメリカの大企業約100社が加盟する『TPPを推進する米国企業連合』や米国商工会議所、米国研究製薬工業協会などの業界団体も名を連ねていましたね」...続きを読む
ほぼアメリカ一色に染められたその会場で、ステークホルダー会議は始まったという。
「ステークホルダーと交渉官を招いたレセプションの主催は在シンガポール米国商工会議所。なぜ議長国でもないアメリカの団体が?と思っていたら、冒頭のスピーチで代表のアメリカ人が『TPPで自由貿易をさらに促進すれば各国の経済発展は必ず約束されている』と得意顔で話しました」
会場では、約70の団体・企業がブースで各国の交渉担当官向けにプレゼンテーションを行なっていたのだが、やはり、そのほとんどがアメリカ企業だったという。
「各担当者が交渉官向けに『TPPが実現すればこれだけアナタの国に投資します』『安価で高品質な商品を提供します』といった具合のPR合戦。もはやそれはプレゼンというより商談会。まだ交渉は途中段階のはずなのに、アメリカ企業と各国政府の間で“TPP後”を見据えた密接な関係づくりが行なわれていたのです。その光景は、まさに『アメリカの大企業のためのTPP』といった印象。こんな場所に今さら日本が乗り込んだところでいったい何ができるのかと感じましたね」
これほど不利な状況下で、安倍政権は交渉をどう乗り切るつもりなのか。具体策がないままなら、“聖域”の確保は難しいだろう。
・TPP「聖域」崩壊、重要5項目で無傷の品目がゼロであることを農相が明言(BUZZAP! 2016年4月20日)

※「聖域なき関税撤廃」を前提とするTPPには参加しないはずだった自民党ですが、聖域とされた重要5項目の中で何ひとつ無傷で守り切れなかったことが明らかになりました。
熊本地震の発生にも関わらず、震災対応を優先すべきとした審議中止の提案を蹴り、「ぜひ進めてくれという首相の意向」によって開催されている衆院環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)特別委員会。この委員会で19日にTPPの「聖域」が崩壊していたことが明らかにされました。
TPPの交渉においては、政府がTPP交渉に入る前に衆参農林水産委員会は重要5項目について「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」とする決議を行っていました。
これらは関税品目では全594品目となりますが、そのうちの3割ほどに当たる170品目で関税撤廃に追い込まれ、「聖域」を浸食されていたことが2015年10月の段階で明らかになっていました。
しかし政府はおよそ7割の424品目に対して「関税を残したので国益を守った」としてきましたが、19日のTPP特別委員会で民進党の玉木雄一郎議員が「関税が残った424品目のうち、無傷の品目はいくつあるか」と質問したところ、石原伸晃TPP担当相も森山裕農相も答えられず、審議がストップ。
そして午後に再開された会議では、驚くべきことに森山裕農相は「単純に枠内税率も枠外税率も変更を加えていないものはない」として、無傷の品目がゼロであることを認めてしまいました。
政府現時点では関税品目ごとの詳細は明らかにしていませんが、「緊急輸入制限措置(セーフガード)の創設などで影響を最小限に抑えた」としつつも、関税を下げたり関税の低い特別枠を設けたりしているとのことで、今後野党側からの追求が本格化する見通し。
野党のみならず与党内からも震災対策を優先して審議中止すべしとの声の上がったTPP特別委員会、安倍首相の「強い意向」を受けて開催されましたが盛大に墓穴を掘った形となり、結局今国会でのTPP承認案と関連法案の承認・成立の断念にまで追い込まれてしまいました。
安倍首相といえば、自らが自民党総裁として戦った2012年の衆議院選挙で「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。」というマニフェストを掲げて戦ったにも関わらず、4月7日の衆院TPP特別委員会で「TPP断固反対と言ったことは1回もございません」と断言したことに多くの驚愕の声が上がりました。
4年前は「聖域なき関税撤廃」が前提であれば交渉参加にすら反対していたにも関わらず、結局のところ「聖域」の3割で関税撤廃されただけでなく、どれひとつ無傷で守り抜くことができなかったということになり、単に公約違反のみならず、TPP交渉そのものでも大敗北を喫したと言わざるを得ない状況になっています。
あくまで「『聖域なき関税撤廃』が前提でなかったからTPP交渉に参加した。ただ結果的に聖域をひとつも守り切れなかっただけなので、公約違反ではない」と言うのであっても、交渉の結果に対する相応の政治責任を取るのが筋なのではないでしょうか?
以下「さてはてメモ帳」様より転載
http://glassbead.blog.shinobi.jp/great%20reset/trans%20pacific%20partnership
・環太平洋経済連携協定(TPP)の衝撃的な物語 Dr Vernon Coleman
The Shocking Story of the Trans Pacific Partnership 20th August 2023
https://vernoncoleman.org/articles/shocking-story-trans-pacific-partnership
2005年、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、シンガポールは環太平洋パートナーシップ協定を結んだ。このパートナーシップは相互貿易協定だった。
2008年、アメリカはTPPを引き継ぐことを決定し、オバマ政権はロビイストを後援して、TPPを、健康や環境など、企業利益(つまりアメリカの企業利益)を妨げる可能性のある公益問題の公的規制を阻止するための協定に変えた。オバマは国際的な大企業と銀行家を保護し、彼に投票した愚かな人々を罰した。
オバマの救済策はペテン師たちをますます金持ちにし、貧困層や中間層をさらに貧困化させた。中産階級と貧困層の破壊は、第三世界経済の破壊が意図的な政策であるのと同じように、意図的な新自由主義政策である。
アメリカ版TPPは、政府が損害を与えた企業や投資家を訴えるのを止めることができる新しい裁判所(投資家国家紛争解決裁判所)に権力を与えた。さらに悪いことに、ISDS法廷は、公的規制によって利益が損なわれたと考える外国企業に罰金を支払うよう、政府に命じることができる。そのISDS法廷では、政府が企業にその企業が好きな金額を無制限に支払うよう命じることができる。こうして新しい裁判所は、銀行家や企業が何の罰則もなしに、その国に対して好きなことができるようにした。もし銀行や企業が、ある国の労働規制や安全規制が自社の利益を損なうかもしれないと感じたら、政府を利益損失で訴えることができた。
そのため、たとえばエクアドルの裁判所が石油会社のシェブロンに対し、公害を引き起こしたとして95億ドルの損害賠償を命じたとき、ハーグのISDS法廷はエクアドルの最高裁を覆した。さらに悪いことに、ISDSはエクアドルに対し、石油大手オクシデンタルとの共同探鉱事業を取り消したとして、18億ドルに利息を加えた罰金を科した。
このような訴訟によって、小国は定期的に破滅させられている。グローバリストにとっては少額でも、関係国にとっては巨額になることが多いのだ。
アメリカのジョン・ロバーツ[John Roberts]最高裁長官は、ISDSにはあらゆる国の法律を見直し、その国の立法府、行政府、司法府の行為を無効にする権限があると述べている。
ISDS法廷(判決を下す法廷)は3人の民間弁護士で構成され、彼らは訴訟を起こした企業の代理人弁護士でもある。3人の弁護士が訴訟を起こし、誰が勝つか決める。そして、アメリカ企業の権利をあえて侵害した国が支払うべき金額を決める。
どのような定義から見ても、これはゆすり以外の何ものでもなく、コーザ・ノストラが考え出したものよりも悪いとは言わないまでも、同じくらい悪いものだ。
銀行家や企業は、彼らが主張する将来の潜在的利益のために訴訟を起こすことさえできる。
これだけ聞くと、まるで奇妙なフィクションのようだ。しかし、そうではない。すべて真実なのだ。
そしてもうひとつ、この親米的な法律(その多くは秘密裏に進められている)は、消費者が口にする食品が遺伝子組み換えであるか、ホルモン剤で栽培されているか、化学薬品で処理されているか、あるいはそれ以外のものであるか、まったく知る術がないことを意味する。
この背後にいる陰謀家たちは、やりたい放題だ。そして誰もそれを止めることはできない。
これらの法律は、冷酷なまでに企業寄りのオバマ政権によって導入されたことを忘れてはならない。そして何も変わっていない。2021年、ジョー・バイデン次期大統領はフォーリン・アフェアーズに、次期大統領の「外交政策アジェンダは米国をテーブルのトップに据える」と書いた。
新自由主義者のおかげで、すべての国際法は、グレートリセットを目指す陰謀家たちに雇われた企業ロビイストたちによって作成されるようになった。
この抜粋は、ヴァーノン・コールマン著Their Terrifying Plan から引用したものです。