安倍内閣の官房参与が「赤旗」に登場して消費増税批判! 「10%への税率引き上げは日本経済を破壊する」(LITERA 2018年11月18日)

※来年10月に予定されている消費税10%への引き上げ。メディアでも軽減税率やプレミアム商品券など引き上げ前提の話題ばかりで、消費税増税そのものに対する議論や批判がほとんどなされていない。
 
そんなメディアの影響もあってか、この馬鹿馬鹿しいにもほどがある増税に対し国民から大きな反発は起こっていない。今月9日から3日間にわたって実施されたNHK世論調査でも、消費税率10%への引き上げる方針について「賛成」が32%、「反対」が35%、「どちらともいえない」が27%。「ふざけるな」という声が上がっても不思議はないのに、なぜかそうはならないのだ。
 
そんななか、なんと当の安倍政権を支える現役の内閣官房参与が、「赤旗」一面に登場し「消費税10%反対」を唱えている。

「私は来年10月の消費税増税は凍結すべきだと思っています。10%への税率引き上げは日本経済を破壊するからです」

「しんぶん赤旗日曜版」(11月18日付け)で、こう断言しているのは、2012年から安倍内閣で内閣官房参与を務めている、藤井聡・京都大学大学院教授だ。藤井氏は「しんぶん赤旗日曜版」のインタビューに応じ、景気への悪影響、貧困の拡大、被災地復興への打撃といった観点から、2面に渡って消費増税の危険性を語っている。
 
実は藤井氏が消費増税反対を唱えるのはこのインタビューが初めてではない。先日刊行された著書『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)においても、〈デフレ状況にある現在の我が国において消費増税を行うことは、 国民を貧困化させ、日本を貧国化させ、そして、挙げ句に日本の「財政基盤」そのものを破壊することにつながると確信する〉と主張。増税の「凍結」、いや「減税」こそが〈日本経済に最悪の被害がもたらされることを避けるための、最善の策〉だとし、増税の凍結・減税は〈政治の力で変えられるのは、当たり前〉だと述べているのだ。
 
そもそも、安倍首相は「日本経済は11年ぶりとなる6四半期連続のプラス成長」「内需主導の力強い経済成長が実現している」などとしきりに景気回復を強調するが、一方で今年9月のJNN世論調査では84%の人がアベノミクスの景気回復について「実感ない」と答えている。だが、これは当然の話だ。藤井氏によると各世帯の年間消費額は、2014年に消費税を5%から8%に引き上げる直前が369万円だったのに、増税後は一気に下がりつづけ、2017年には335万円にまで落ち込んだのだ。つまり、〈消費増税のせいで、私達は一世帯当たり年間 34 万円分も「貧しい暮らし」を余儀なくされるようになった〉というわけだ。
 
しかも、「景気回復」との掛け声とは裏腹に、2014年の増税後からサラリーマンの給与水準も低いままで一向に回復していない。中小企業の「景況感」をはかる業況判断指数(DI)も、リーマンショックで「どん底」に落ちて以降はマイナス(景気が悪い)ながらも徐々に回復しつつあったが、2014年の増税によって改善傾向がマイナス領域でピタリと止まったまま。「消費」「賃金」「景況判断」の客観的データからも、2014年消費増税によって庶民の暮らしは大打撃を受け、依然として深刻な状態にあることがわかる。何より、日本経済全体の6割を占める「消費」の総額(実質値)は、消費増税前後で14兆円も下落。その後も消費は冷え込んだままなのだ。

安倍首相の経済ブレーンが「アベノミクスで経済上向き」の嘘を指摘

では、どうして「アベノミクスで経済が上向き」などという報道が出てくるのか。これを藤井氏は〈世界経済が好調なおかげ〉にすぎないと喝破する。実際、GDPは2014年の消費増税前から現在まで約18兆円(実質値)伸びているが、この間に輸出は約15兆円も増加。輸出の増加がなければ〈一年あたり約0.7〜0.8兆円、成長率にして実に年率平均約0.2%しか伸びなかった〉のである。また、この4年で、輸出に次いで伸びたのは「民間投資」だが、これも輸出が伸びた結果であると考えられるという。藤井氏はこう述べている。

〈つまり、世界経済の好況という「他力」がなければ、日本経済はやはり、消費増税によって「衰退」していたのである〉
〈万一、消費増税によって内需がこれだけ弱々しい状況に至っている中で世界的な経済危機が勃発すれば、衰弱した日本経済は恐るべきダメージを被るであろう〉
 さらに藤井氏は、世界各国の経済成長率(1995〜2015年)に目を向け、〈日本の20年間成長率は断トツの最下位〉〈日本の成長率だけが「マイナス」の水準〉であるとし、〈日本はもはや、「経済大国」でないばかりか、「先進国」ですらない〉〈先進国でも発展途上国でもない、世界唯一の「衰退途上国」とでも言わざるを得ない〉と明言。こうした元凶が、バブル崩壊後の1997年に実施した消費税の3%から5%への引き上げによって「デフレ不況」に突入したためだと説明した上で、〈未だに「デフレ脱却」を果たせていない〉いまの状態で消費税を10%に引き上げることは〈確実に破壊的ダメージがもたらされる〉と警告を発するのだ。
 
その上、2014年の消費増税時は「外需の伸び」という幸運があったが、これは「アメリカ経済の好況」と「安い原油価格」があってのこと。ご存じの通り、トランプ大統領は目下、安倍首相に自動車の追加関税をちらつかせており、原油価格も上昇。つまり、〈2019年増税の外需環境は、2014年増税よりも、より深刻な被害をもたらした1997年増税時のそれに類似している〉のである。
 
しかも、今回の増税は、安倍首相肝入りの「働き方改革」による〈労働者の所得は8.5兆円縮減される〉という予測や、東京オリンピック投資が縮小に入るというタイミングとぶつかる。また、「10%」という数字の「キリの良さ」「わかりやすさ」が消費行動にブレーキをかけやすいという心的傾向もあると藤井氏は指摘。〈日本経済にもたらす破壊的ダメージは極めて深刻なものになるのは「必至」〉であり、それを回避するためにも「凍結」あるいは「減税」こそが求められるというのである。

「消費税でなく法人税を上げるべき」と主張する藤井聡・内閣官房参与

だが、こうは言っても「国の借金は1000兆円もあるのに放置していいのか」「消費税を延期ばかりしていたら国の借金で日本は破綻する」という声が必ずや上がるだろう。しかし、藤井氏はこれを〈何の根拠もない「杞憂」(無用の心配)であり、ただ単に、経済学者や増税推進派が撒き散らかした「デマ」であり「プロパガンダ」(主義の宣伝)に煽られているに過ぎぬもの〉と断言。「デマ」である根拠を挙げている。
 
そのひとつが、1997年や2014年の増税がそうであったように、デフレ不況下で消費税を増税すれば、〈経済が停滞し、かえって税収が減って、財政が悪化してしまう〉ということ。国の破綻回避を叫ぶなら、税収が減少する増税を止めたほうがいい、というのである。
 
さらに、「国の破綻」という曖昧な言葉自体が詐欺的であり、「日本政府の破綻はありえない」ということ。たとえばよく引き合いに出されるギリシャだが、ギリシャの場合は「国の借金が増えた」ことで危機に陥ったのではなく、〈経済が低迷し、失業者が増えてしまったことが「原因」で、税収が減り、借りた金が返せなくなり、「政府が破綻」〉した。ギリシャの借金は「ユーロ」だったが、日本の場合は基本的にすべて円建ての借金であり、円の通貨発行権もある。自国通貨建ての借金であるために破綻することはあり得ないのだ。また、ギリシャが破綻危機にあった際は金利が30〜40%だったというが、日本の国債の金利はいま0.1%程度。だからこそ、市場関係者が「日本政府が破綻する」などと心配している者はいない、というのだ。
 
そして、「国が破綻するから消費税」という主張に対し、藤井氏は加えて〈増税する対象として「消費税」を選ぶ必然性など何もない〉といい、消費増税とは反対に税率が下げられてきた法人税を上げるべきだと強調する。
 
当然の主張だろう。第二次安倍政権の発足以降、アベノミクスの成長戦略として法人税率はどんどん引き下げられ、法人実効税率は37%から2016年度には29.97%に減少。消費税増収分は法人税の減収の穴埋めに使われたようなものだからだ。実際、藤井氏は過去約30年に遡って現状と比較し、〈金持ちと大企業がかつて支払っていた税金を10兆円以上減らしてやり、その大半を、貧乏な世帯も含めたすべての庶民が肩代わりしてやるようになった〉〈消費増税は確実に、庶民の間の「格差」や「不平等」を拡大させた〉と指摘。法人税のほかにも、“所得税の高額所得者ほど減税の流れの見直し”や、先日、増税見送りが発表された金融所得の税率引き上げ、環境税・混雑税、土地利用是正税なども提案している。

格差が広がるなか、低所得者であるほど負担が重くなる「逆進性」の消費税を増税するのではなく、法人税や所得税の税率を見直し、不公平な税制を正すべきというのは、至極真っ当な考え方だ。だが、安倍首相はそれを実行しようとはけっしてせず、世界景気の恩恵を受けているだけの結果を「内需主導の成長」などと嘘をつき続けている。
 
政府は混乱必至の軽減税率を筆頭に「プレミアム付き商品券」だの「キャッシュレス決済でポイント還元」だのと愚策ばかり打ち出しているが、一方の国民も、政府に言われるがままで「増税しかたなし」と諦めている。
 
上述の「赤旗」で藤井氏は「10%への増税は決まったことだから仕方がないと国民が容認すれば、消費税率は15%、20%へとさらに引き上げられる」とも警告。そして消費税10%への増税中止もあり得るとの見方を示し、「カギとなるのは国民世論」「この問題に党派は関係ありません」と国民世論の喚起を呼びかけている。

「やはり増税はおかしい」と、いまこそ国民が声をあげなくては、安倍政権によってほんとうに立ち直れないほどわたしたちの暮らしは破壊し尽くされてしまうだろう。


・NHKによる消費税増税推進政府広報番組

植草一秀の『知られざる真実』 2018年11月25日

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-5720.html

※NHKは11月20日夜のラジオ番組で
「消費増税まで1年 負担軽減策をどう考える」
と題する特集を放送した。

ゲストは東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏。

NHKの番組紹介は次のもの。

「消費税率の10%への引き上げまで1年を切るなかで、景気の冷え込みを防ぐための様々な対策が検討されています。もともと消費増税によって家計の負担は国民全体で年間5兆6000億円程度増えるとされていましたが、対策経費などで最終的に年間2兆2000億円程度になると見られています。消費増税にともない検討されている様々な景気冷え込み対策について専門家に聞きながらともに考えていきます。」

この内容自体が政府広報そのものである。

NHKがゲストとして招いた森信茂樹氏の経歴をNHKは正確に放送する必要がある。

1950年(昭和25年) 広島市中区出身。
1973年(昭和48年) 京都大学法学部卒業、大蔵省入省
1995年(平成7年)6月5日 大蔵省主税局税制第二課長
1997年(平成9年)7月15日 大蔵省主税局総務課長
2001年(平成13年)7月10日 財務省財務総合政策研究所次長
2005年(平成17年)7月13日 財務総合政策研究所長
2006年(平成18年)9月 中央大学大学院法務研究科特任教授
2006年(平成18年)12月 財務省退官
2007年(平成19年)4月 中央大学大学院法務研究科教授
2018年(平成30年)4月 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授

森信氏が証券局企画官であったときに私は仕事を受注しており、その後の座談会などでも同席したことがあるから、よく知っている。

きわめて能力の高い官僚であり、また優秀な学者でもある。

ただし、森信氏は保守本流の大蔵官僚=財務官僚であり、財務省の意向に沿って行動していることは間違いないと思われる。

森信氏は主税局税制二課長を経て主税局総務課長に就任しており、財務省の税務行政の中核メンバーである。

主税局総務課長は主税局長に昇格する必須ポストであり、税制変更が重要な局面では主税局長経験者が財務事務次官に就任している。

まさに財務省の税務行政を代表する人物の一人が森信氏なのである。

NHKが消費税問題で森信氏をゲストに招くのは今回だけでない。

NHKは財務省によるTAXのPR=TPR活動の一環として、森信氏を招いて消費税増税を推進する番組を制作しているのだ。

この放送は放送法第4条に抵触するものである。

放送法は次のように定めている。

第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

消費税増税の影響について財務省は軽微であるとするが、現実には影響は甚大になる。

財務省は複数税率、プレミアム商品券等に反対し、マイナンバーカード利用を拡大させようとしており、森信氏は番組でこの主張を強調した。

NHKは森信氏とは異なる見解を持つ学者による解説をも放送するべきだ。

拙著『日本を直撃する「複合崩壊」の正体』
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では、消費税増税がもたらす影響について、過去の事例を踏まえて詳述している。

2019年の日本経済にとって消費税増税問題は決定的に重要な影響を与えることになる。

また、安倍内閣はキャッシュレス決済を行える国民だけを対象に消費税減税を実施する方針を示しているが、憲法が保障する「法の下の平等」に完全に反する違憲政策である。

この方式では、2019年10月から2020年6月まで実質的に消費税率が5%に減税され、2020年7月に一気に10%に引き上げられることになる。

減税実施前に激しい消費抑制=買い控えが生じることは間違いないし、2020年7月以降は消費大氷河期が到来することになる。

一連の施策が「日本愚策博覧会」の様相を呈している。

主権者は国家がまき散らす「嘘」を見抜かなければならない。