「安倍総理が日米共同声明に存在しないTAG(物品貿易協定)という言葉を使った理由(AERA dot. 2018年10月8日)
古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催
※9月26日に行われた日米首脳会談の後、日米共同声明が発表された。
日本の新聞、テレビは、日米はFTA(自由貿易協定)ではなく、誰も聞いたことのない「物品貿易協定」(「TAG」)について交渉に入ることに合意したと報道した。
しかし、これは大誤報だった。なぜなら、「TAG」という言葉は、本物の共同声明には存在しないからだ。
こう言っても、何のことかわからないかもしれないので、詳しく解説しよう。官僚や一部の政治家にしかわからないような少し技術的な話も出て来るが、そういうことを理解する壁を乗り越えないと、官僚と安倍政権が繰り広げるレトリックに騙され続けることになる。この話を読むと、リテラシーが一段レベルアップすると思うので、最後までお付き合いいただきたい。
●「TAG」ありと「TAG」なしの二つの共同声明が存在する奇妙な話
私は、首脳会談直後から、外務省のホームページを何回も確認し続けていた。それは、なかなか日米共同声明の英文が掲載されなかったからだ。共同声明の日本語版はすぐに掲載されたが、ホームページの英語版でも、英語の共同声明が掲載されない状態が1週間以上続いた。英語版は、日本語版と違い、翻訳の必要がないから、すぐに掲載できるはずなのに、これはとてもおかしなことだ。
もちろん、在日米国大使館のホームページなどを見れば、すぐに英語版を見ることができる。私が9月28日に確認したところ、英語版も日本語版も見ることができた。
ところが、そこで大きな問題を「二つ」発見した。
一つ目は、日本政府の発表した日本語の共同声明と米国大使館が出している日本語の声明文の間に大きな違いがあることだ。しかも、それが、日本で最も関心を集めた「物品貿易協定(TAG)」に関するものなのだから、これは驚きだった。
日本政府の日本語訳には「TAG」という言葉があるのに対して、米国大使館の日本語訳にはこの言葉が存在しないのだ。何かの間違いだろうと思う人もいるだろうから、実際に該当部分を比べてみよう。
まず、外務省ホームページに掲載されている日米共同声明の日本語版だ。
この中の第3項に、
「3 日米両国は,所要の国内調整を経た後に,日米物品貿易協定(TAG)について,また,他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じるものについても,交渉を開始する。」という記載がある。
ここには明確に「日米物品貿易協定(TAG)」という言葉がある。そして、TAGと並んで「他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても」交渉すると書いてある。
この文章は非常にわかりにくく作られている。そのため、解釈には二通りの可能性が生まれる。
一つ目は、「日米物品貿易協定」(TAG)と「他の重要な分野」に関する貿易協定は別のもので、「二つの」協定のための交渉が行われるという読み方だ。一方、物品とその他の重要な分野を併せて一つの貿易協定の対象とするという解釈も可能だ。日本政府の立場は、「TAG」を独立した特別の協定であるとしているので、前者だということになる。
一方、米国大使館のホームページに掲載されている「日本語仮翻訳」を見ると、
「3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある[物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定]の交渉を開始する。」([ ]は筆者)とある。
この書き方では、開始される交渉は一つの「日米貿易協定」(物品貿易協定ではない)であり、その中で、物品とその他重要分野の二つが並立して交渉の対象になると読める。そして、この文書には「物品貿易協定」という言葉も「TAG」という言葉もない。つまり、米国政府は、「物品貿易協定」という特別な協定を想定していないということになる。これは大きな違いだ。
●日本語版共同声明は「本物」ではない 英語版だけが「正文」
米国大使館のホームページを見て、驚いたことの二つ目は、ここに掲載された日米共同声明日本語版の上部に、「*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です」という注記があることだ。
【以下、米国大使館のホームページより】
* * *
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2018年9月26日
1. 2018年9月26日にニューヨークで開催された日米首脳会談において、ドナルド・トランプ大統領と安倍晋三首相は、両国経済が合わせて世界の国内総生産(GDP)の約30%を占めることを認識し、強固で安定した、双方に利益をもたらす日米の貿易・経済関係の重要性を確認した。大統領は、互恵的な貿易の重要性、また日本や他の国々との間にある貿易赤字を削減する重要性をあらためて表明した。安倍首相は、自由かつ公正で、ルールに基づいた貿易の重要性を強調した。
2. このような背景の下、我々は、さらなる具体的手段を含めた双方に利益となるような方法で、日米間の貿易および投資を一層拡大し、自由で公平かつ開かれた世界経済の発展を実現する決意を再確認した。
3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する。
4. 米国と日本はまた、上記協定の議論が完了した後、貿易および投資に関する他の項目についても交渉を開始する。
* * *
私は、経産官僚時代に日米構造協議やガットウルグアイラウンドの交渉などをしたことがあるので、「正文」の意味はすぐにわかったが、一般の人にはなじみのない言葉だろう。ここでいう「正文」とは、条約などの外交文書の内容を正式に確定する効力を持つ文書のことだ。この注釈は、日米共同声明は、英語で作った文書が正式なものであって、日本語版はあくまでも参考資料に過ぎないということを示している。だから、わざわざ「仮翻訳」と明記し、日本語で書かれたものには「外交上の効果がない」ことを明確にしたのだ。
ところが、こんな重要なことが外務省のホームページではどこにも記載されていない。しかも、しばらくの間、英文は隠されていたため、普通の日本人は、外務省が出した日本語版が共同声明だと信じてしまったのである。
もちろん、日本語の訳と英語の正文の間に齟齬がなければそれほど目くじらを立てることはないのだが、これから説明するとおり、今回の場合は、内容に非常に大きな齟齬がある。
正文である英語版を見てみよう。
3. The United States and Japan will enter into negotiations, following the completion of necessary domestic procedures, for a United States-Japan [Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services,] that can produce early achievements.([ ]は筆者)※米ホワイトハウスのホームページより
後半の部分が問題の個所だが、ここでは、「a United States-Japan Trade Agreement」と書いてあるので、協定は二つではなくて一つであることがわかる。そして、TradeとAgreementは大文字で書かれているので、アメリカ政府の日本語訳では「貿易協定」となっていて「物品貿易協定」とはなっていない。その後にgoodsという言葉が続くが、これは独立した位置づけにはなっておらず、as well asという接続句が示すとおり、後ろの「key areas including services」(サービスを含む他の重要な分野)と全く同じ並びの分野の一つに過ぎない。だから、アメリカ側の訳では、「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定」という表現になっていて、「物品貿易協定」だとか「TAG」などと言う言葉が出て来る余地はないのだ。
つまり、英語の正文によれば、日米が「TAG」という何か特別な新しい交渉に入るというのは明らかに間違っている。正しい理解は、物品とサービスなどを対象とする「貿易協定」の交渉が始まるということになる。つまり、これは、両国が物品・サービスなどを幅広く含む貿易協定、すなわち、実質的なFTA交渉を始めると約束したと読むのが普通の解釈だろう。
この正文(英語)を読んだ海外メディアが、「FTA」交渉入りだと報じたのは、当然のことだ。
それに対して、安倍晋三総理の発言、外務省の発表は、いずれも間違った内容を国民に伝えた。より強い言葉で言えば、「TAG」という言葉を捏造したと言っても良いだろう。
●なぜ外務省は英語版掲載を遅らせたのか なぜ掲載時点を答えないのか
さて、話はここでは終わらない。どうして、外務省は正文である英語版をホームページに掲載しないのか、非常に不審に思って、5日午後に外務省に問い合わせたところ、まず北米1課に回され、しばらく待たされた後、その話は北米2課に聞いてくれということで、北米2課に回された。数分待たされた後の回答は、共同声明英文について、「今は掲載されています」という回答だった。たった今掲載されたのか、と不審に思い、いつ掲載されたのかを質問すると、「つい最近」のことだと答えた。正確にいつなのかを教えて欲しいというと、電話には入れ替わり3人(と思われる)の課員が出たが、わからないとのことで、その理由は、掲載を「依頼」しても実際の作業をするのは別の担当部署だからということだった。そこで、いつ掲載を「依頼」したのかを聞くと、これについても答えられないとし、さらに、名前を尋ねると、全員が答えられないという回答だった。なぜ答えないのかと聞くと、そのうちの一人は、個人情報だからと答えた。いかにも不自然な回答だ。よほど後ろめたいことあるのかなという邪推を呼ぶ。
担当課からの依頼を受けてこれをホームページにアップする役割のIT広報室にも問い合わせたが、こちらは、いつ掲載したかについては、「その点については答えられない」の一点張りだった。ただし、この室員は名前を名乗った。おそらく、依頼を受けた後すぐに掲載したので、後ろめたいことがないからだろう。
逆に言えば、掲載を遅れさせたのは、担当課の北米2課または北米1課の判断によるものだと推測される。
ちなみに、共同声明の英文だけが正文であることは、北米2課も認めた。ただ、最初は、日本語文は正式なものだと言って私を丸め込もうとした後で、正文ではないはずだと言うと、それはそのとおりだと認めるという経緯だった。いずれにしても、日本政府も、英文だけが正文であるということを認めたのだ。私にとっては、これは非常に重要なことだった。なぜなら、米国大使館のホームページの記載を鵜呑みにすると、間違う可能性があるからだ。両国政府がともに認めたものでなければ、決定打にはならない。
ちなみに、これだけの問い合わせのやりとりでかかった時間は約40分。英語版がいつアップされたかということは結局わからないままだった。官僚経験30年超の私から見ると、のらりくらり、質問に答えずに逃げようという外務省の姿勢は、何か後ろめたいことがあるに違いないと思わせるに十分なものだった。
●どうしても「FTA」を認めたくない安倍総理の事情を忖度する外務省
ここまで読んで、おそらく、読者の皆さんは、一体どうして、「TAG」という言葉に日本政府はそんなにこだわるのだろうと不思議に思うかもしれない。
そこには、「FTA」という言葉に日本国内の農業関係者が強く反発するという事情が大きく影響したと考えられる。「FTA」というと、昔から、日本の農産品について非常に大きな自由化や関税引き下げ措置が要求される、と、多くの農業関係者が信じている。最近では、米韓FTAで韓国の農家が大きな痛手を被ったというイメージもあり、もし、FTA交渉開始を飲んだことを認めれば、日本の敗北だと言われ、自民党にとって、来年の統一地方選や参議院選で不利な材料になる。
そこで、「TAG」という聞いたこともない言葉を創作して、「FTA」とは異なり日本側に不利ではない「特別な」交渉を始めるというストーリーを作ったのだ。
しかし、英文を読んだ米国内の関係者は、サービスも含まれているとすぐに理解するし、関税についても、ほぼ100%に近い関税引き下げを目指すFTAだと考えるだろう。この交渉で自分の分野を取り上げてくれと言い出す政治力のある企業も、もちろん出て来る。例えば、医薬品メーカーが、日本の医療制度、薬価制度などについて、難しい注文を出して来てもおかしくない。そういうことを含め、安倍総理としては、何とかして、日本の大手メディアが「TAGは捏造。本当はFTA」と書くのを止めたかったのだろう。それを忖度した外務省は、正文が英文だけであることを隠し、齟齬が目立たないように英文掲載を遅らせたのではないだろうか。
●WTOとの関係でもFTAでなければならない
ちなみに、ある国に対して関税を下げる場合、WTOのルールでは、「最恵国待遇」と呼ばれる大原則があり、他の全ての国に対しても同じように関税を引き下げなければいけないことになっている。この原則の下では、米国に対して関税を引き下げると、他の全ての国に対しても同じように関税を引き下げなければならなくなる。それを避けるためには、WTOで特別に認められたRTA(地域貿易協定)というものを結ばなければならない。このRTAには二種類があり、一つが関税同盟、もう一つが今話題になっているFTA(自由貿易協定)である。もちろん、RTAには「TAG」などという日本が勝手に作ったものは含まれない。つまり、米国だけに関税を下げるためには、名称は何であれ、実質的にFTAと言えるような広範にわたる貿易自由化を含む協定を作る必要がある。だから、最終的にまとまる時には、「TAG」ではなく、「FTA」になっているはずだ。
●国民とマスコミを馬鹿にする政府と政権に加担する大手メディア
このように考えて来ると、読者には、また新たな疑問が湧いてくるだろう。1ページの英語を読めばすぐに気が付くにもかかわらず、また、海外メディアが「FTA」と伝えているにもかかわらず、何故、日本の大手メディアは、一斉に「FTA回避、TAG交渉で合意」という報道をしたのだろうか。明らかな誤報を全社が揃ってしたのは驚きではないか。
しかし、実は、こんなことはこれまでもたびたびあった。記者のレベルが低いことに加え、記者クラブにどっぷり浸かって、政府の大本営発表だけを聞いて、裏取りもせず垂れ流す御用広報機関に成り下がっているのが大手ディアの現状なのだ。しかも、安倍総理への忖度もいまだに蔓延している。
ちなみに、IWJは、英語版にはTAGという言葉がないということをおそらく一番早く報じている。記者クラブ制度に安住している大手メディアと違い、自力で取材するネットメディアだから、真実に迫ることができるのだ。
今回の「TAG」捏造は、もちろん、安倍政権のやったことである。しかし、9月26日に行なわれた安倍首相の内外記者会見での日本メディアとのやり取りを見ていると、実は、日本の大手マスコミもその共犯ではないかという疑いも出てくる。
官邸ホームページの会見録によれば、日本のメディアでは、NHKと産経の2社だけが質問を許されている。そのうちの最初の質問はNHKだ。質問は二つ。まず、通商問題でTAGの先にはEPA(経済連携協定)やFTAがあるのかと聞き、次に帰国後の内閣改造人事について聞いた。安倍総理は、これに対して、「今回の、日米の物品貿易に関するTAG交渉は、これまで日本が結んできた包括的なFTAとは、全く異なるものであります」と宣言し、次に人事について、内閣改造でその土台は変えないとして、麻生副総理、菅官房長官らの留任を明言したのだ。明らかに、通商では、「FTAではなくTAGである」と書くように記者を誘導し、その他に人事で大きなニュースを与えて、一面でこれを書かざるを得なくさせ、通商のウェイトを下げようという狙いだ。さらに、NHKに続いて質問を許されたのは、産経で、質問は北朝鮮の問題だった。
この質疑の流れを見ていれば、質問は官邸側のやらせだったという疑いさえ出て来る。
この会見の結果、安倍総理の思惑通り、日米首脳会談に関する第一報は、「自動車追加関税回避、(FTAではなく)TAG交渉入り決定」ということでほぼ全社の見出しが揃った。
事実上のFTAではないかとの疑いを書く社もあったが、あくまでも「疑い」であって、そもそもTAGなど存在しないと書いた社はなかった。
●米国の調査報道と日本の御用報道機関の違い
このコラムを書く直前に、アメリカのニューヨークタイムズが、トランプ大統領の脱税疑惑のスクープを報じた。10万ページに及ぶ膨大な資料を読み解き、関係者に取材したうえでの報道だというから、その執念には驚くばかりだ。調査報道の鑑だと言ってよいだろう。
その調査報道が、日本ではほとんど姿を消してしまった。
それだけではない。日米首脳会談という重要なイベントで、最も重要な共同声明、それもわずか1ページ前後の「正文」である英語も読まず、さらに、米側発表の日本語版も読まずに、政府の発表した文章と総理の会見での言い分だけを鵜呑みにして報じる。こんなメディアを「報道機関」と呼ぶことができるのだろうか。
おそらく、私がこういう指摘をしても、大手メディアは、安倍忖度と過ちを認めないという従来の特性を発揮して、「誤報」を認めることはないだろう。
国民を欺く政府と御用報道機関を持った国民が、民主主義を守るのは本当に難しいことだ。今回の大誤報事件は、日本の民主主義の危機への警鐘として受け止めるべきではないだろうか。
※日本政府や大手マスコミによって「TAG(日米物品貿易協定)」なるものが捏造された原因が、今年(18年)5月の安倍総理の国会答弁にあったことが判明した。
TBSの「NEWS23」によると、日本政府の交渉関係者が「国会で総理が『FTAとは違う』と発言したから、FTAという言葉は使えない。それで”TAG”という言葉が作られた」とコメント。安倍総理の答弁との辻褄合わせをするために、日米で交わされた外交文書が”改ざん”され、「TAG」という架空の貿易協定が生み出されたことが浮かび上がっている。




・「TAG」は捏造の疑い 日本政府訳にのみ記載 日米共同声明 首相答弁との矛盾隠す(しんぶん赤旗 2018年10月6日)
※先月開かれた日米首脳会談で発表した共同声明で日本市場のいっそうの開放に反対する世論を欺くため、日本政府が日本語訳を捏造(ねつぞう)した疑いが出てきました。

日米首脳会談では、新たな2国間の貿易協定交渉の開始を合意しました。9月26日に発表された英語(正文)では「Trade Agreement」と貿易協定を意味する文字の頭文字は、大文字となっています。しかし、物品については、「goods」と小文字。さらに、「as well as (同様に)」と続け、「other key areas including services (サービスを含むその他重要分野)」となっています。正文には大文字でのTAG(物品貿易協定)という言葉はありません。
ところが、外務省が発表した共同声明の日本語訳(仮訳)では、「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉を開始するとし、新貿易協定があたかも物品のみの交渉であるかのような表現になっています。
安倍晋三首相は、これまでのトランプ政権との交渉を「日米FTA(自由貿易協定)交渉と位置づけられるものではなく、その予備協議でもない」(5月8日、衆院本会議)としてきました。
日本語の仮訳は、この安倍首相の発言との整合性を取るためのものとみられます。今回合意したとするTAGについても安倍首相は、「日米の物品貿易に関するTAG交渉は、これまで日本が結んできた包括的なFTAとは、全く異なるもの」(9月26日の会見)と述べました。
一方、在日米国大使館はホームページで日本語訳を掲載。当該部分は、「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とし、新たな貿易協定の協議は、物品だけでなく、サービスを含む包括的なものだとしています。
ハガティ駐日米国大使は新聞のインタビューに答え「われわれはTAGという用語を使っていない」「共同声明には物品と同様にサービスを含む主要領域となっている」(「産経」3日付)と発言しています。
ホワイトハウスが日米首脳会談の成果を受けて発表した概況報告(9月28日)には、日本との交渉を通じて、「農産物その他の製品、およびサービスを含む一連の分野について成果を追求する」と明記。交渉は来年の早い時期に開始されるとしています。
日本共産党の志位和夫委員長は、ツイッターで「(首相の発言との)矛盾を糊塗(こと)するために、翻訳まで改ざんしウソで国民を欺く。こんな卑怯(ひきょう)、卑劣なやり方はないではないか」と指摘しました。
紛れもないFTA交渉
東京大学教授・鈴木宣弘さんのコメント
日米共同声明にTAG(物品貿易協定)という言葉は存在しません。英文の共同声明には「物品とサービスを含むその他の重要な分野についての貿易協定」と書いてあります。物品だけの貿易協定などと言っていません。日本側が意図的にTAGと切り取っているだけで、日米はTAGなるものを合意していません。今まで日米FTA(自由貿易協定)交渉をやらないと説明してきたのに、やることにしてしまったから、日米FTAではないとうそをつくために、無理やり編み出した造語です。非常に悪質です。
もともと日本政府は物品とサービスを含むものがFTAだと定義してきました。今回合意したのは紛れもない日米FTAの交渉入りです。
・安倍官邸の「FTAという言葉を使うな」圧力でNHKが過剰訂正! ペンス副大統領は「FTA」とツイートしたのに(LITERA 2018年11月15日)
※アメリカとの交渉開始を合意した「新たな貿易協定」について、包括的なFTA(自由貿易協定)ではなく物品の関税引き下げに限った「TAG」(物品貿易協定)であると必死になって言い張りつづけている安倍首相。そんななか、13日、NHKである“事件”が起こった。
13日の正午過ぎからはじまった、ペンス副大統領と安倍首相による共同記者発表。NHKはこの模様を正午の『NHKニュース』の時間を延長して生中継したのだが、その後、13時台のニュースのなかで、このような訂正を出したのだ。
“正午のニュースで安倍首相とペンス副大統領の共同声明が流れた際、ペンス副大統領の同時通訳で『2国間による貿易協定』を『FTA』と表現しましたが、これは誤りでした”
そして、テロップで「×FTA・自由貿易協定 ○2国間による貿易協定」と打ち出したのだ。
たしかに、ペンス副大統領は共同記者発表で「bilateral trade agreement」(2国間の貿易協定)と述べており、FTAとは言っていなかったのだが、問題はこのあと。NHKはその後、過剰なまでに「TAG=物品貿易協定」を強調、安倍首相とペンス副大統領との会談の“成果”を伝えたのである。
NHKの看板ニュース番組である『ニュース7』と『ニュースウオッチ9』では、「TAG=物品貿易協定」というテロップをデカデカと打ち出し、「自由で公正かつ互恵的な貿易のために最良の方法は2国間による貿易協定だ」というペンス副大統領の発言をピックアップ。さらに、「協定の交渉中はアメリカ側は自動車など関税引き上げ措置を発動しないことを確認した」という情報を強調したのだ。
すばやい訂正報道と、これみよがしな「TAG」のアピール……。じつはこの訂正後の露骨な報道の裏には、官邸からNHKに対する圧力があったと見られている。
実際、西村康稔官房副長官は共同記者発表後、同時通訳が「FTA」と訳した問題を取り上げ、「ペンス氏はFTAとは言っていない」と発言。この発言からしても、同時通訳のミスに官邸が激怒し、NHKに強い抗議をおこなったことが伺える。
しかも、NHKが『ニュース7』と『ニュースウオッチ9』でペンス副大統領との会談の成果として強調した「協定交渉中は自動車など関税引き上げ措置を発動しない」という情報は、西村官房副長官が記者説明で明かした話だったのだ。
官房副長官がわざわざ記者に向かって同時通訳のミスにがなり立てて怒りを露わにし、恐れおののいたNHKが過剰なヨイショ報道をおこなう──。ここには、何がなんでも「FTAではなく、TAGだ」と言い張る安倍政権の強権的な姿勢が見てとれるが、しかし、これ、おかしいのは明らかに安倍政権のほうだろう。
というのも、13日のペンス副大統領の記者発表は、日米の貿易協定が「TAG」などではなく、「FTA」に過ぎないことを強調する内容だったからだ。
ペンス副大統領が安倍首相に突きつけた言葉は、こうだ。
「アメリカの製品やサービスは障壁によって日本市場で公正に競争できていない」
「貿易協定は物品だけではなく、サービスの分野も含むものになるだろう」
ペンス副大統領はtwitterで「安倍首相とFTA交渉について議論する」と
安倍首相はこれまで、トランプ大統領と合意した新たな貿易協定を、物品の関税引き下げに限定した「TAG」だとし、10月29日におこなわれた衆院本会議の代表質問でも「サービス全般の自由化や幅広いルールまで盛り込むことは想定しておらず、その意味で、これまで我が国が結んできた包括的なFTAとは異なるもの」と説明した。
だが、ペンス副大統領はこの記者発表で「サービスの障壁」を問題視し、貿易協定も「サービス分野を含む」と明言。ようするに、安倍首相が言う“サービスは盛り込んだ包括的なFTAとは違う”という説明の嘘を、安倍首相本人の前でペンス副大統領が証明してみせたのだ。無論、ペンス副大統領は「TAG」と一言も発していない。
事実、この記者発表を伝えた米・ロイターの記事も「Vice President Pence pushes Japan for bilateral free trade agreement」(ペンス副大統領が日本に二国間のFTAを要求)と見出しを立てている。
いや、それどころか、ペンス副大統領は東京に到着した12日、自身のTwitterに安倍首相と会談することを報告した際、議論する中身について安倍首相に宛てて〈negotiations for a free-trade agreement〉と記述。「FTA」だと宣言しているのである。
「FTA」だと副大統領が直々に述べているのに、「(会見では)FTAと言っていない!」とNHKに怒り狂う安倍官邸……。しかも、情けないのはNHKで、『ニュース7』と『ニュースウオッチ9』では、「TAG」ペンス副大統領の「サービスが障壁」「サービス分野を含む」という発言は一切取り上げなかったのだ。
「TAG」なる言葉は何の実態もない、国民を騙すための「言い換え語」であることがはっきりしたというのに、安倍官邸が「違う!」と喚き散らせば、それにNHKが従い、大本営発表を垂れ流す。もはや「FTAの言葉狩り」というべき状況だが、そもそも、実態は「FTA」でしかないこの貿易協定を、言葉でごまかそうとした張本人は、安倍首相なのである。
FTAをTAGと言い換えるゴマカシは安倍首相の指示だった
朝日新聞11月6日付けの記事によると、貿易協定の交渉開始で合意した9月26日の日米首脳会談の前日、安倍首相はライトハイザー米通商代表と閣僚級協議に入っていた茂木敏充経済再生相に対し、協定の呼称について、こう尋ねたという。
「3文字ではなんて呼ぶの? TPP(環太平洋経済連携協定)とかFFRとか、普通は3文字だよね」
つまり、新たな貿易協定として「FTA」とは違う「3文字」の略称を使えば、「FTAではない」と言い切れる。だから新たな3文字をつくろうと安倍首相は言い出したのだ。
そして、翌日午前、茂木経産相はさっそくライトハイザー米通商代表に「Trade Agreement on Goods」という協定名を提示。ライトハイザー米通商代表は交渉が包括的ではなく「Goods」に限定するかのような印象を与えかねないことから反対したが、茂木経産相はこれを「goods」と小文字にする妥協案を提案した上で、「その代わり日本ではTAGと呼びますからね」と宣言。ライトハイザー米通商代表も〈異を唱えなかった〉という。
何のことはない。「TAG」とはまさしく国民を欺くために安倍首相が編み出した「造語」でしかなく、アメリカ側が黙認しているだけで問題の協定の中身は「FTA」に代わりはないのだ。
ペンス副大統領が何と言おうと、言葉の印象で騙せればそれでいい──。現に安倍首相は、今月5日の参院予算委員会で野党からの追及に「『FTAの一種ではないか』との意見は承知している。3文字で簡単に言えるものということでTAGにした」と開き直り、茂木経済再生担当相は「何を言っているかがわかればいい」とまで宣った。これこそ、安倍首相の口癖である「印象操作」ではないか。
「言い換え」は安倍首相の常套手段、共謀罪、カジノ法、徴用工でも
これは安倍首相の常套手段で、いままで何度も繰り返されてきた手法だ。安倍政権による「言い換え」問題は挙げ出せばキリがない。
最たるものが、集団的自衛権行使の容認を柱にし、戦争ができるように整備する法案を、よりにもよって「平和安全法制」と呼び、たんなる「対米追従」を本来は平和学の用語である「積極的平和主義」をもち出し、意味をねじ曲げて喧伝したことだろう。
さらに、「武器輸出三原則」は「防衛装備移転三原則」に、「共謀罪」は「テロ等準備罪」に、「カジノ法」は「統合型リゾート(IR)実施法」などと言い換え、自衛隊の南スーダンPKO問題では日報にも「戦闘」と書かれていたのに、日報の存在自体をなきものにした上で「衝突」と表現。また、2016年12月に沖縄県名護市沿岸にオスプレイが大破した「墜落」事故も、「不時着」と言い張ることで問題を矮小化した。逆に、加計学園問題で「総理のご意向」と書かれた文書が出てきた際は「怪文書」と言い放ち、怪しいものだという印象操作を図った。
安倍政権はつねにそうやって国民を騙してきた。そして、公共放送のNHKをはじめ、メディアもその詭弁に乗り加担しつづけている。──「言葉の詐欺集団」である安倍政権にハンドルを握らせていることの危険性に、一体この国はいつになったら気付くのだろうか。
(編集部)
古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催
※9月26日に行われた日米首脳会談の後、日米共同声明が発表された。
日本の新聞、テレビは、日米はFTA(自由貿易協定)ではなく、誰も聞いたことのない「物品貿易協定」(「TAG」)について交渉に入ることに合意したと報道した。
しかし、これは大誤報だった。なぜなら、「TAG」という言葉は、本物の共同声明には存在しないからだ。
こう言っても、何のことかわからないかもしれないので、詳しく解説しよう。官僚や一部の政治家にしかわからないような少し技術的な話も出て来るが、そういうことを理解する壁を乗り越えないと、官僚と安倍政権が繰り広げるレトリックに騙され続けることになる。この話を読むと、リテラシーが一段レベルアップすると思うので、最後までお付き合いいただきたい。
●「TAG」ありと「TAG」なしの二つの共同声明が存在する奇妙な話
私は、首脳会談直後から、外務省のホームページを何回も確認し続けていた。それは、なかなか日米共同声明の英文が掲載されなかったからだ。共同声明の日本語版はすぐに掲載されたが、ホームページの英語版でも、英語の共同声明が掲載されない状態が1週間以上続いた。英語版は、日本語版と違い、翻訳の必要がないから、すぐに掲載できるはずなのに、これはとてもおかしなことだ。
もちろん、在日米国大使館のホームページなどを見れば、すぐに英語版を見ることができる。私が9月28日に確認したところ、英語版も日本語版も見ることができた。
ところが、そこで大きな問題を「二つ」発見した。
一つ目は、日本政府の発表した日本語の共同声明と米国大使館が出している日本語の声明文の間に大きな違いがあることだ。しかも、それが、日本で最も関心を集めた「物品貿易協定(TAG)」に関するものなのだから、これは驚きだった。
日本政府の日本語訳には「TAG」という言葉があるのに対して、米国大使館の日本語訳にはこの言葉が存在しないのだ。何かの間違いだろうと思う人もいるだろうから、実際に該当部分を比べてみよう。
まず、外務省ホームページに掲載されている日米共同声明の日本語版だ。
この中の第3項に、
「3 日米両国は,所要の国内調整を経た後に,日米物品貿易協定(TAG)について,また,他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じるものについても,交渉を開始する。」という記載がある。
ここには明確に「日米物品貿易協定(TAG)」という言葉がある。そして、TAGと並んで「他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても」交渉すると書いてある。
この文章は非常にわかりにくく作られている。そのため、解釈には二通りの可能性が生まれる。
一つ目は、「日米物品貿易協定」(TAG)と「他の重要な分野」に関する貿易協定は別のもので、「二つの」協定のための交渉が行われるという読み方だ。一方、物品とその他の重要な分野を併せて一つの貿易協定の対象とするという解釈も可能だ。日本政府の立場は、「TAG」を独立した特別の協定であるとしているので、前者だということになる。
一方、米国大使館のホームページに掲載されている「日本語仮翻訳」を見ると、
「3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある[物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定]の交渉を開始する。」([ ]は筆者)とある。
この書き方では、開始される交渉は一つの「日米貿易協定」(物品貿易協定ではない)であり、その中で、物品とその他重要分野の二つが並立して交渉の対象になると読める。そして、この文書には「物品貿易協定」という言葉も「TAG」という言葉もない。つまり、米国政府は、「物品貿易協定」という特別な協定を想定していないということになる。これは大きな違いだ。
●日本語版共同声明は「本物」ではない 英語版だけが「正文」
米国大使館のホームページを見て、驚いたことの二つ目は、ここに掲載された日米共同声明日本語版の上部に、「*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です」という注記があることだ。
【以下、米国大使館のホームページより】
* * *
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2018年9月26日
1. 2018年9月26日にニューヨークで開催された日米首脳会談において、ドナルド・トランプ大統領と安倍晋三首相は、両国経済が合わせて世界の国内総生産(GDP)の約30%を占めることを認識し、強固で安定した、双方に利益をもたらす日米の貿易・経済関係の重要性を確認した。大統領は、互恵的な貿易の重要性、また日本や他の国々との間にある貿易赤字を削減する重要性をあらためて表明した。安倍首相は、自由かつ公正で、ルールに基づいた貿易の重要性を強調した。
2. このような背景の下、我々は、さらなる具体的手段を含めた双方に利益となるような方法で、日米間の貿易および投資を一層拡大し、自由で公平かつ開かれた世界経済の発展を実現する決意を再確認した。
3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する。
4. 米国と日本はまた、上記協定の議論が完了した後、貿易および投資に関する他の項目についても交渉を開始する。
* * *
私は、経産官僚時代に日米構造協議やガットウルグアイラウンドの交渉などをしたことがあるので、「正文」の意味はすぐにわかったが、一般の人にはなじみのない言葉だろう。ここでいう「正文」とは、条約などの外交文書の内容を正式に確定する効力を持つ文書のことだ。この注釈は、日米共同声明は、英語で作った文書が正式なものであって、日本語版はあくまでも参考資料に過ぎないということを示している。だから、わざわざ「仮翻訳」と明記し、日本語で書かれたものには「外交上の効果がない」ことを明確にしたのだ。
ところが、こんな重要なことが外務省のホームページではどこにも記載されていない。しかも、しばらくの間、英文は隠されていたため、普通の日本人は、外務省が出した日本語版が共同声明だと信じてしまったのである。
もちろん、日本語の訳と英語の正文の間に齟齬がなければそれほど目くじらを立てることはないのだが、これから説明するとおり、今回の場合は、内容に非常に大きな齟齬がある。
正文である英語版を見てみよう。
3. The United States and Japan will enter into negotiations, following the completion of necessary domestic procedures, for a United States-Japan [Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services,] that can produce early achievements.([ ]は筆者)※米ホワイトハウスのホームページより
後半の部分が問題の個所だが、ここでは、「a United States-Japan Trade Agreement」と書いてあるので、協定は二つではなくて一つであることがわかる。そして、TradeとAgreementは大文字で書かれているので、アメリカ政府の日本語訳では「貿易協定」となっていて「物品貿易協定」とはなっていない。その後にgoodsという言葉が続くが、これは独立した位置づけにはなっておらず、as well asという接続句が示すとおり、後ろの「key areas including services」(サービスを含む他の重要な分野)と全く同じ並びの分野の一つに過ぎない。だから、アメリカ側の訳では、「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定」という表現になっていて、「物品貿易協定」だとか「TAG」などと言う言葉が出て来る余地はないのだ。
つまり、英語の正文によれば、日米が「TAG」という何か特別な新しい交渉に入るというのは明らかに間違っている。正しい理解は、物品とサービスなどを対象とする「貿易協定」の交渉が始まるということになる。つまり、これは、両国が物品・サービスなどを幅広く含む貿易協定、すなわち、実質的なFTA交渉を始めると約束したと読むのが普通の解釈だろう。
この正文(英語)を読んだ海外メディアが、「FTA」交渉入りだと報じたのは、当然のことだ。
それに対して、安倍晋三総理の発言、外務省の発表は、いずれも間違った内容を国民に伝えた。より強い言葉で言えば、「TAG」という言葉を捏造したと言っても良いだろう。
●なぜ外務省は英語版掲載を遅らせたのか なぜ掲載時点を答えないのか
さて、話はここでは終わらない。どうして、外務省は正文である英語版をホームページに掲載しないのか、非常に不審に思って、5日午後に外務省に問い合わせたところ、まず北米1課に回され、しばらく待たされた後、その話は北米2課に聞いてくれということで、北米2課に回された。数分待たされた後の回答は、共同声明英文について、「今は掲載されています」という回答だった。たった今掲載されたのか、と不審に思い、いつ掲載されたのかを質問すると、「つい最近」のことだと答えた。正確にいつなのかを教えて欲しいというと、電話には入れ替わり3人(と思われる)の課員が出たが、わからないとのことで、その理由は、掲載を「依頼」しても実際の作業をするのは別の担当部署だからということだった。そこで、いつ掲載を「依頼」したのかを聞くと、これについても答えられないとし、さらに、名前を尋ねると、全員が答えられないという回答だった。なぜ答えないのかと聞くと、そのうちの一人は、個人情報だからと答えた。いかにも不自然な回答だ。よほど後ろめたいことあるのかなという邪推を呼ぶ。
担当課からの依頼を受けてこれをホームページにアップする役割のIT広報室にも問い合わせたが、こちらは、いつ掲載したかについては、「その点については答えられない」の一点張りだった。ただし、この室員は名前を名乗った。おそらく、依頼を受けた後すぐに掲載したので、後ろめたいことがないからだろう。
逆に言えば、掲載を遅れさせたのは、担当課の北米2課または北米1課の判断によるものだと推測される。
ちなみに、共同声明の英文だけが正文であることは、北米2課も認めた。ただ、最初は、日本語文は正式なものだと言って私を丸め込もうとした後で、正文ではないはずだと言うと、それはそのとおりだと認めるという経緯だった。いずれにしても、日本政府も、英文だけが正文であるということを認めたのだ。私にとっては、これは非常に重要なことだった。なぜなら、米国大使館のホームページの記載を鵜呑みにすると、間違う可能性があるからだ。両国政府がともに認めたものでなければ、決定打にはならない。
ちなみに、これだけの問い合わせのやりとりでかかった時間は約40分。英語版がいつアップされたかということは結局わからないままだった。官僚経験30年超の私から見ると、のらりくらり、質問に答えずに逃げようという外務省の姿勢は、何か後ろめたいことがあるに違いないと思わせるに十分なものだった。
●どうしても「FTA」を認めたくない安倍総理の事情を忖度する外務省
ここまで読んで、おそらく、読者の皆さんは、一体どうして、「TAG」という言葉に日本政府はそんなにこだわるのだろうと不思議に思うかもしれない。
そこには、「FTA」という言葉に日本国内の農業関係者が強く反発するという事情が大きく影響したと考えられる。「FTA」というと、昔から、日本の農産品について非常に大きな自由化や関税引き下げ措置が要求される、と、多くの農業関係者が信じている。最近では、米韓FTAで韓国の農家が大きな痛手を被ったというイメージもあり、もし、FTA交渉開始を飲んだことを認めれば、日本の敗北だと言われ、自民党にとって、来年の統一地方選や参議院選で不利な材料になる。
そこで、「TAG」という聞いたこともない言葉を創作して、「FTA」とは異なり日本側に不利ではない「特別な」交渉を始めるというストーリーを作ったのだ。
しかし、英文を読んだ米国内の関係者は、サービスも含まれているとすぐに理解するし、関税についても、ほぼ100%に近い関税引き下げを目指すFTAだと考えるだろう。この交渉で自分の分野を取り上げてくれと言い出す政治力のある企業も、もちろん出て来る。例えば、医薬品メーカーが、日本の医療制度、薬価制度などについて、難しい注文を出して来てもおかしくない。そういうことを含め、安倍総理としては、何とかして、日本の大手メディアが「TAGは捏造。本当はFTA」と書くのを止めたかったのだろう。それを忖度した外務省は、正文が英文だけであることを隠し、齟齬が目立たないように英文掲載を遅らせたのではないだろうか。
●WTOとの関係でもFTAでなければならない
ちなみに、ある国に対して関税を下げる場合、WTOのルールでは、「最恵国待遇」と呼ばれる大原則があり、他の全ての国に対しても同じように関税を引き下げなければいけないことになっている。この原則の下では、米国に対して関税を引き下げると、他の全ての国に対しても同じように関税を引き下げなければならなくなる。それを避けるためには、WTOで特別に認められたRTA(地域貿易協定)というものを結ばなければならない。このRTAには二種類があり、一つが関税同盟、もう一つが今話題になっているFTA(自由貿易協定)である。もちろん、RTAには「TAG」などという日本が勝手に作ったものは含まれない。つまり、米国だけに関税を下げるためには、名称は何であれ、実質的にFTAと言えるような広範にわたる貿易自由化を含む協定を作る必要がある。だから、最終的にまとまる時には、「TAG」ではなく、「FTA」になっているはずだ。
●国民とマスコミを馬鹿にする政府と政権に加担する大手メディア
このように考えて来ると、読者には、また新たな疑問が湧いてくるだろう。1ページの英語を読めばすぐに気が付くにもかかわらず、また、海外メディアが「FTA」と伝えているにもかかわらず、何故、日本の大手メディアは、一斉に「FTA回避、TAG交渉で合意」という報道をしたのだろうか。明らかな誤報を全社が揃ってしたのは驚きではないか。
しかし、実は、こんなことはこれまでもたびたびあった。記者のレベルが低いことに加え、記者クラブにどっぷり浸かって、政府の大本営発表だけを聞いて、裏取りもせず垂れ流す御用広報機関に成り下がっているのが大手ディアの現状なのだ。しかも、安倍総理への忖度もいまだに蔓延している。
ちなみに、IWJは、英語版にはTAGという言葉がないということをおそらく一番早く報じている。記者クラブ制度に安住している大手メディアと違い、自力で取材するネットメディアだから、真実に迫ることができるのだ。
今回の「TAG」捏造は、もちろん、安倍政権のやったことである。しかし、9月26日に行なわれた安倍首相の内外記者会見での日本メディアとのやり取りを見ていると、実は、日本の大手マスコミもその共犯ではないかという疑いも出てくる。
官邸ホームページの会見録によれば、日本のメディアでは、NHKと産経の2社だけが質問を許されている。そのうちの最初の質問はNHKだ。質問は二つ。まず、通商問題でTAGの先にはEPA(経済連携協定)やFTAがあるのかと聞き、次に帰国後の内閣改造人事について聞いた。安倍総理は、これに対して、「今回の、日米の物品貿易に関するTAG交渉は、これまで日本が結んできた包括的なFTAとは、全く異なるものであります」と宣言し、次に人事について、内閣改造でその土台は変えないとして、麻生副総理、菅官房長官らの留任を明言したのだ。明らかに、通商では、「FTAではなくTAGである」と書くように記者を誘導し、その他に人事で大きなニュースを与えて、一面でこれを書かざるを得なくさせ、通商のウェイトを下げようという狙いだ。さらに、NHKに続いて質問を許されたのは、産経で、質問は北朝鮮の問題だった。
この質疑の流れを見ていれば、質問は官邸側のやらせだったという疑いさえ出て来る。
この会見の結果、安倍総理の思惑通り、日米首脳会談に関する第一報は、「自動車追加関税回避、(FTAではなく)TAG交渉入り決定」ということでほぼ全社の見出しが揃った。
事実上のFTAではないかとの疑いを書く社もあったが、あくまでも「疑い」であって、そもそもTAGなど存在しないと書いた社はなかった。
●米国の調査報道と日本の御用報道機関の違い
このコラムを書く直前に、アメリカのニューヨークタイムズが、トランプ大統領の脱税疑惑のスクープを報じた。10万ページに及ぶ膨大な資料を読み解き、関係者に取材したうえでの報道だというから、その執念には驚くばかりだ。調査報道の鑑だと言ってよいだろう。
その調査報道が、日本ではほとんど姿を消してしまった。
それだけではない。日米首脳会談という重要なイベントで、最も重要な共同声明、それもわずか1ページ前後の「正文」である英語も読まず、さらに、米側発表の日本語版も読まずに、政府の発表した文章と総理の会見での言い分だけを鵜呑みにして報じる。こんなメディアを「報道機関」と呼ぶことができるのだろうか。
おそらく、私がこういう指摘をしても、大手メディアは、安倍忖度と過ちを認めないという従来の特性を発揮して、「誤報」を認めることはないだろう。
国民を欺く政府と御用報道機関を持った国民が、民主主義を守るのは本当に難しいことだ。今回の大誤報事件は、日本の民主主義の危機への警鐘として受け止めるべきではないだろうか。
※日本政府や大手マスコミによって「TAG(日米物品貿易協定)」なるものが捏造された原因が、今年(18年)5月の安倍総理の国会答弁にあったことが判明した。
TBSの「NEWS23」によると、日本政府の交渉関係者が「国会で総理が『FTAとは違う』と発言したから、FTAという言葉は使えない。それで”TAG”という言葉が作られた」とコメント。安倍総理の答弁との辻褄合わせをするために、日米で交わされた外交文書が”改ざん”され、「TAG」という架空の貿易協定が生み出されたことが浮かび上がっている。




・「TAG」は捏造の疑い 日本政府訳にのみ記載 日米共同声明 首相答弁との矛盾隠す(しんぶん赤旗 2018年10月6日)
※先月開かれた日米首脳会談で発表した共同声明で日本市場のいっそうの開放に反対する世論を欺くため、日本政府が日本語訳を捏造(ねつぞう)した疑いが出てきました。

日米首脳会談では、新たな2国間の貿易協定交渉の開始を合意しました。9月26日に発表された英語(正文)では「Trade Agreement」と貿易協定を意味する文字の頭文字は、大文字となっています。しかし、物品については、「goods」と小文字。さらに、「as well as (同様に)」と続け、「other key areas including services (サービスを含むその他重要分野)」となっています。正文には大文字でのTAG(物品貿易協定)という言葉はありません。
ところが、外務省が発表した共同声明の日本語訳(仮訳)では、「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉を開始するとし、新貿易協定があたかも物品のみの交渉であるかのような表現になっています。
安倍晋三首相は、これまでのトランプ政権との交渉を「日米FTA(自由貿易協定)交渉と位置づけられるものではなく、その予備協議でもない」(5月8日、衆院本会議)としてきました。
日本語の仮訳は、この安倍首相の発言との整合性を取るためのものとみられます。今回合意したとするTAGについても安倍首相は、「日米の物品貿易に関するTAG交渉は、これまで日本が結んできた包括的なFTAとは、全く異なるもの」(9月26日の会見)と述べました。
一方、在日米国大使館はホームページで日本語訳を掲載。当該部分は、「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とし、新たな貿易協定の協議は、物品だけでなく、サービスを含む包括的なものだとしています。
ハガティ駐日米国大使は新聞のインタビューに答え「われわれはTAGという用語を使っていない」「共同声明には物品と同様にサービスを含む主要領域となっている」(「産経」3日付)と発言しています。
ホワイトハウスが日米首脳会談の成果を受けて発表した概況報告(9月28日)には、日本との交渉を通じて、「農産物その他の製品、およびサービスを含む一連の分野について成果を追求する」と明記。交渉は来年の早い時期に開始されるとしています。
日本共産党の志位和夫委員長は、ツイッターで「(首相の発言との)矛盾を糊塗(こと)するために、翻訳まで改ざんしウソで国民を欺く。こんな卑怯(ひきょう)、卑劣なやり方はないではないか」と指摘しました。
紛れもないFTA交渉
東京大学教授・鈴木宣弘さんのコメント
日米共同声明にTAG(物品貿易協定)という言葉は存在しません。英文の共同声明には「物品とサービスを含むその他の重要な分野についての貿易協定」と書いてあります。物品だけの貿易協定などと言っていません。日本側が意図的にTAGと切り取っているだけで、日米はTAGなるものを合意していません。今まで日米FTA(自由貿易協定)交渉をやらないと説明してきたのに、やることにしてしまったから、日米FTAではないとうそをつくために、無理やり編み出した造語です。非常に悪質です。
もともと日本政府は物品とサービスを含むものがFTAだと定義してきました。今回合意したのは紛れもない日米FTAの交渉入りです。
・安倍官邸の「FTAという言葉を使うな」圧力でNHKが過剰訂正! ペンス副大統領は「FTA」とツイートしたのに(LITERA 2018年11月15日)
※アメリカとの交渉開始を合意した「新たな貿易協定」について、包括的なFTA(自由貿易協定)ではなく物品の関税引き下げに限った「TAG」(物品貿易協定)であると必死になって言い張りつづけている安倍首相。そんななか、13日、NHKである“事件”が起こった。
13日の正午過ぎからはじまった、ペンス副大統領と安倍首相による共同記者発表。NHKはこの模様を正午の『NHKニュース』の時間を延長して生中継したのだが、その後、13時台のニュースのなかで、このような訂正を出したのだ。
“正午のニュースで安倍首相とペンス副大統領の共同声明が流れた際、ペンス副大統領の同時通訳で『2国間による貿易協定』を『FTA』と表現しましたが、これは誤りでした”
そして、テロップで「×FTA・自由貿易協定 ○2国間による貿易協定」と打ち出したのだ。
たしかに、ペンス副大統領は共同記者発表で「bilateral trade agreement」(2国間の貿易協定)と述べており、FTAとは言っていなかったのだが、問題はこのあと。NHKはその後、過剰なまでに「TAG=物品貿易協定」を強調、安倍首相とペンス副大統領との会談の“成果”を伝えたのである。
NHKの看板ニュース番組である『ニュース7』と『ニュースウオッチ9』では、「TAG=物品貿易協定」というテロップをデカデカと打ち出し、「自由で公正かつ互恵的な貿易のために最良の方法は2国間による貿易協定だ」というペンス副大統領の発言をピックアップ。さらに、「協定の交渉中はアメリカ側は自動車など関税引き上げ措置を発動しないことを確認した」という情報を強調したのだ。
すばやい訂正報道と、これみよがしな「TAG」のアピール……。じつはこの訂正後の露骨な報道の裏には、官邸からNHKに対する圧力があったと見られている。
実際、西村康稔官房副長官は共同記者発表後、同時通訳が「FTA」と訳した問題を取り上げ、「ペンス氏はFTAとは言っていない」と発言。この発言からしても、同時通訳のミスに官邸が激怒し、NHKに強い抗議をおこなったことが伺える。
しかも、NHKが『ニュース7』と『ニュースウオッチ9』でペンス副大統領との会談の成果として強調した「協定交渉中は自動車など関税引き上げ措置を発動しない」という情報は、西村官房副長官が記者説明で明かした話だったのだ。
官房副長官がわざわざ記者に向かって同時通訳のミスにがなり立てて怒りを露わにし、恐れおののいたNHKが過剰なヨイショ報道をおこなう──。ここには、何がなんでも「FTAではなく、TAGだ」と言い張る安倍政権の強権的な姿勢が見てとれるが、しかし、これ、おかしいのは明らかに安倍政権のほうだろう。
というのも、13日のペンス副大統領の記者発表は、日米の貿易協定が「TAG」などではなく、「FTA」に過ぎないことを強調する内容だったからだ。
ペンス副大統領が安倍首相に突きつけた言葉は、こうだ。
「アメリカの製品やサービスは障壁によって日本市場で公正に競争できていない」
「貿易協定は物品だけではなく、サービスの分野も含むものになるだろう」
ペンス副大統領はtwitterで「安倍首相とFTA交渉について議論する」と
安倍首相はこれまで、トランプ大統領と合意した新たな貿易協定を、物品の関税引き下げに限定した「TAG」だとし、10月29日におこなわれた衆院本会議の代表質問でも「サービス全般の自由化や幅広いルールまで盛り込むことは想定しておらず、その意味で、これまで我が国が結んできた包括的なFTAとは異なるもの」と説明した。
だが、ペンス副大統領はこの記者発表で「サービスの障壁」を問題視し、貿易協定も「サービス分野を含む」と明言。ようするに、安倍首相が言う“サービスは盛り込んだ包括的なFTAとは違う”という説明の嘘を、安倍首相本人の前でペンス副大統領が証明してみせたのだ。無論、ペンス副大統領は「TAG」と一言も発していない。
事実、この記者発表を伝えた米・ロイターの記事も「Vice President Pence pushes Japan for bilateral free trade agreement」(ペンス副大統領が日本に二国間のFTAを要求)と見出しを立てている。
いや、それどころか、ペンス副大統領は東京に到着した12日、自身のTwitterに安倍首相と会談することを報告した際、議論する中身について安倍首相に宛てて〈negotiations for a free-trade agreement〉と記述。「FTA」だと宣言しているのである。
「FTA」だと副大統領が直々に述べているのに、「(会見では)FTAと言っていない!」とNHKに怒り狂う安倍官邸……。しかも、情けないのはNHKで、『ニュース7』と『ニュースウオッチ9』では、「TAG」ペンス副大統領の「サービスが障壁」「サービス分野を含む」という発言は一切取り上げなかったのだ。
「TAG」なる言葉は何の実態もない、国民を騙すための「言い換え語」であることがはっきりしたというのに、安倍官邸が「違う!」と喚き散らせば、それにNHKが従い、大本営発表を垂れ流す。もはや「FTAの言葉狩り」というべき状況だが、そもそも、実態は「FTA」でしかないこの貿易協定を、言葉でごまかそうとした張本人は、安倍首相なのである。
FTAをTAGと言い換えるゴマカシは安倍首相の指示だった
朝日新聞11月6日付けの記事によると、貿易協定の交渉開始で合意した9月26日の日米首脳会談の前日、安倍首相はライトハイザー米通商代表と閣僚級協議に入っていた茂木敏充経済再生相に対し、協定の呼称について、こう尋ねたという。
「3文字ではなんて呼ぶの? TPP(環太平洋経済連携協定)とかFFRとか、普通は3文字だよね」
つまり、新たな貿易協定として「FTA」とは違う「3文字」の略称を使えば、「FTAではない」と言い切れる。だから新たな3文字をつくろうと安倍首相は言い出したのだ。
そして、翌日午前、茂木経産相はさっそくライトハイザー米通商代表に「Trade Agreement on Goods」という協定名を提示。ライトハイザー米通商代表は交渉が包括的ではなく「Goods」に限定するかのような印象を与えかねないことから反対したが、茂木経産相はこれを「goods」と小文字にする妥協案を提案した上で、「その代わり日本ではTAGと呼びますからね」と宣言。ライトハイザー米通商代表も〈異を唱えなかった〉という。
何のことはない。「TAG」とはまさしく国民を欺くために安倍首相が編み出した「造語」でしかなく、アメリカ側が黙認しているだけで問題の協定の中身は「FTA」に代わりはないのだ。
ペンス副大統領が何と言おうと、言葉の印象で騙せればそれでいい──。現に安倍首相は、今月5日の参院予算委員会で野党からの追及に「『FTAの一種ではないか』との意見は承知している。3文字で簡単に言えるものということでTAGにした」と開き直り、茂木経済再生担当相は「何を言っているかがわかればいい」とまで宣った。これこそ、安倍首相の口癖である「印象操作」ではないか。
「言い換え」は安倍首相の常套手段、共謀罪、カジノ法、徴用工でも
これは安倍首相の常套手段で、いままで何度も繰り返されてきた手法だ。安倍政権による「言い換え」問題は挙げ出せばキリがない。
最たるものが、集団的自衛権行使の容認を柱にし、戦争ができるように整備する法案を、よりにもよって「平和安全法制」と呼び、たんなる「対米追従」を本来は平和学の用語である「積極的平和主義」をもち出し、意味をねじ曲げて喧伝したことだろう。
さらに、「武器輸出三原則」は「防衛装備移転三原則」に、「共謀罪」は「テロ等準備罪」に、「カジノ法」は「統合型リゾート(IR)実施法」などと言い換え、自衛隊の南スーダンPKO問題では日報にも「戦闘」と書かれていたのに、日報の存在自体をなきものにした上で「衝突」と表現。また、2016年12月に沖縄県名護市沿岸にオスプレイが大破した「墜落」事故も、「不時着」と言い張ることで問題を矮小化した。逆に、加計学園問題で「総理のご意向」と書かれた文書が出てきた際は「怪文書」と言い放ち、怪しいものだという印象操作を図った。
安倍政権はつねにそうやって国民を騙してきた。そして、公共放送のNHKをはじめ、メディアもその詭弁に乗り加担しつづけている。──「言葉の詐欺集団」である安倍政権にハンドルを握らせていることの危険性に、一体この国はいつになったら気付くのだろうか。
(編集部)