・ふるさと納税は日本人の崇高な「寄付精神」を破壊する(DIAMOND ONLINE 2018年9月20日)
※政府は、「ふるさと納税制度」を見直す方針を決めた。高額の返礼品を出している地方公共団体は、2019年から対象外とされる予定だ。
この措置は当然のことだ。現在の制度は、返礼金目当てで安い買い物をするのと同じものになっている。
ただし、問題は高額返礼品だけではない。
第1に、大都市の税収減が無視できない額になっている。受ける側の自治体も、不安定な税収が増えるだけで、本当の地域活性化には役立たない。
第2に寄付税制の基本に背く。本来、寄付とは、犠牲を伴う崇高な行為だ。しかし現在の仕組みは、利用者が返礼品で得をする一方で、他の住民の負担を増やす、あるいは地方公共団体のサービスを減らす結果になっている。
いいことは何もない。誠におかしな制度だ。制度の基本そのものを見直す必要がある。
過熱する返礼品競争金券を贈る自治体まで
ふるさと納税は、2008年から始まった。
この制度の検討が始まったとき、私は『週刊ダイヤモンド』の「超」整理日記で反対論を述べた。その当時は返礼品ということなど想像もしていなかったが、地方自治の精神に反するものとして反対した。
いまは、返礼品問題で、まったく正当化できないものになっている。
「ふるさと納税制度」では、一定の限度までは、「寄付金額-2000円」の全額を所得税及び住民税から控除できる。つまり、自己負担は2000円のみということになる。
後で述べるように、これは、一般の寄付税制より著しく優遇された制度だ。
言い換えれば、ふるさと納税制度とは、納税先を振り変えるだけの仕組みなのである。
それに加えて、寄付先の自治体からは「返礼品」として、牛肉や海産物、日本酒など、地場の名産品がもらえる場合が多い。「2000円の負担だけでお米やお肉、魚介類などがたくさんもらえるお得な制度」と宣伝されている場合も多い。
ついには、群馬県草津町のように、返礼品として金券を贈るところまで現れた。
納税者の立場から見れば、ほとんど犠牲もなしに豪華な返礼品を手にすることができるのだから、「制度を利用しなければ損だ」ということになる。
受け取り自治体の側からすれば、返礼品を出しても税収増になる。そして、返礼品に地元の特産物を利用すれば、地元産業の振興にもなる。返礼品を製造する地元の業者は特需に湧いていると言われる。
17年4月、総務省は豪華な返礼品を自粛するよう各自治体に通知し、ふるさと納税の返礼品は、おおむね寄付額の30%を上限とするように通達した。しかし、是正は進んでいない。
大都市の税収減は無視できない額になっている
最近では、ふるさと納税による税収減が、大都市を中心として無視できない問題になってきた。
国から地方交付税を受けていない東京都、東京23区、川崎市などの不交付団体の場合には、ふるさと納税で税収減となっても、交付税による補てんがないため、そのまま税収減になる。
日本経済新聞(2018年7月27日付)の報道によれば、全国の自治体への寄付額は計2447億円となり、初めて2000億円の大台を超えた。
総務省によれば、減収額は東京圏の1都3県で1166億円。17年度分(846億円)に比べて4割近くの増加となった。
都県別に見ると、東京都が全国最多の645億円(39%増)。神奈川県は257億円(37%増)、千葉県は132億円(36%増)、埼玉県は131億円(39%増)。
川崎市や東京都世田谷区では、控除額が40億円を超えるため、ダメージが大きい。
大都市では待機児童対策や高齢者問題などが急務だ。住民税が減ると、こうした施策への悪影響が懸念されている。
世田谷区で18年度分を区で集計したところ、減収分が41億円。「16億5000万円あれば園庭付きの認可保育園が5園でき、31億円あれば学校が1校改築できる」のだが、そうしたことが阻害されているという。
もともと地方税の原則と地方自治の原則に反する
ふるさと納税制度の問題は、返礼品にとどまるわけではない。制度そのものが大きな問題なのだ。
地方税の原則、地方自治の原則、そして寄付税制の原則の観点から、大きな問題を含んでいる。
第1に、地方税の原則について。
地方公共団体が提供する警察、消防、ゴミ処理などのサービスは、住民の生活に直接関連するものであり、地方税はそれに対応する料金的な性格を持つとされている。つまり、住民税は応益原則を基本とする税だ。
このような性格を持つ税の納付先を現住所と異なるところに移すことを認めれば、本来の納税地点で、行政サービスの「ただ乗り」を許すことになる。
その分は、他の納税者の負担が増えるか、あるいはその地方の行政サービスの水準が低下することによって調整される。だから、本来は他の納税者の同意が必要な事項だ。
一般に、税金の使い方に関して、個々の納税者は直接には指示できない。税の使い方や納税先は、個々の納税者の判断ではなく、全体の決定にゆだねられているのだ(その例外として寄付税制があるが、後で述べるように、ふるさと納税は、この原則も破っている)。
第2に、地方自治の原則について。
「すべての税を国税として徴収して、それを地方に配布する」という仕組みをとらず、地方公共団体が独自に徴収する「地方税」が存在するのは、税こそが地方自治の基盤だと考えられているからである。
すなわち、地方自治体が行政努力によって無駄な経費を節約し、他方で企業や住民を誘致して税収を増やし、それが当該の自治体に好循環をもたらすという効果が期待されているのだ。
住民の側では、そのような状況を見ながら、望ましい居住地を選択する。これは、「足による投票」と言われているメカニズムだ(この点は、応益原則にかかわる論点と似ているが、別のものである)。
ふるさと納税を認めれば、受益と負担のリンクが切れてしまうので、このメカニズムは働きにくくなる。だから、ふるさと納税は、地方自治の本質に反する制度なのである。
こうした制度がまかり通っているのは、地方自治とか地方分権ということが、言葉としては言われても、実際にはそれらに対して関心が払われていないことの証拠だ。
もちろん、現在の日本の税制では、多額の交付税や補助金によって、このメカニズムが減殺されている。しかも、税率をはじめとする地方税の構造について、地方公共団体の裁量はきわめて限られている。
だから、「ふるさと納税」のような仕組みを導入して「足による投票」のメカニズムをさらに減殺するとしても、実際上は大きな差異をもたらすことにはならないとの意見はあり得る。
しかし、現状で必要なことは、理念としては存在している地方自治のメカニズムを実効性のあるものに高めていくことだ。ふるさと納税のような仕組みで、地方自治の理念を破壊してしまうことではない。
受け取り自治体の財政の観点から見ても、問題がある。
ふるさと納税では、一時的には税収が増えるかもしれないが、将来もそれが続く保障は何もないからだ。したがって、これによる増収をあてにして新政策を導入したり、施設を建設したりすれば、将来、財政を圧迫しかねない要因になる。
地方が疲弊しているのであれば、税制度そのものを見直すべきだ。あるいは、地方交付税の配布基準を見直すなどの措置が必要だ。そうしたことを行なわずに、ふるさと納税のように問題のある制度に頼ろうとするのは、大きな問題だ。
寄付の崇高な精神を踏みにじる制度
もちろん、「地方を助けたい。そのために、寄付をしたい」と考える人はいる。
ただし、寄付であれば、それだけの負担をしなければならない。犠牲を伴うのが、寄付だ。
もっとも、寄付は社会的に推奨されるべき行為だから、それに対して税制上の特典が与えられている。
従来は、寄付金控除として「所得控除」方式しか認められなかった。つまり、所得金額から「寄付金額-2000円」が差し引かれる制度だった。
2011年度に寄付税制の改正があり、認定NPO法人や一定の証明を得た公益法人への寄付者の所得税については、所得控除と税額控除のどちらでも税の軽減が受けられるようになった。税額控除を選択した場合には、「寄付金額-2000円」の40%を、所得税及び住民税から控除できる。
どちらにしても、かなりの負担を伴う。
「寄付は、自己負担を伴う崇高な行為だ」という原則から、当然のことだ。
ところが、すでに述べたように、ふるさと納税制度は、利用すれば得をする制度だ。
ウェブサイトを見ると、「お得な制度。利用しなければソン。どう利用すればトクか? どの地方団体の返礼品がトクか?」といった記事が多数ある。
こうした記事を見ていると、気分が悪くなってくる。これは寄付の崇高な精神を踏みにじるものだ。日本人の精神構造を破壊する。
繰り返すが、高額返礼品だけが問題なのではない。
これまで述べてきたように、ふるさと納税制度は、いかなる観点から見ても正当化できない仕組みだ。それは、人間の欲望だけをうまく利用して、原則を踏みにじる制度である。
だから、ふるさと納税制度そのものを廃止すべきだ。
国会議員の中にも、これがおかしな制度だと考えている人は大勢いるはずだ。それにもかかわらず、選挙地盤からの反発をおそれて、批判的な発言をしない。
こうして、利用額が急増している。「悪貨が良貨を駆逐する」という以外に表現できない状態だ。
日本人は、もともとは、原則を踏みにじる制度を、よしとする人間ではなかった。
ふるさと納税制度によって日本人の崇高な精神が崩壊していくのを見るのは、誠につらいものだ。私は絶望的な気持ちになっている。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
・「アマゾン券で100億円還元」も出現。泉佐野市のふるさと納税への違和感は「金持ちほどトクする格安通販」(Business Insider Japan 2019年3月31日)

(上)「100億円還元」と銘打った大阪府泉佐野市のふるさと納税キャンペーンの告知。市に対する全国からの寄付金は急増している。
※2000円ポッキリで高級食材から家電製品まで、何でもお取り寄せできます——。うまい話には裏があるのがふつうですが、これはれっきとした国の制度である「ふるさと納税」のこと。そんなおいしい制度を利用しない手はない?そうかもしれませんが、何かおかしいと思いませんか。
ビール、高級牛肉…豪華な返礼品そろえ市税収入の1.7倍を獲得
泉佐野市のふるさと納税特設サイトに掲載された人気の返礼品。高級牛肉からトイレットペーパーまで、すべて「実質2000円」でお取り寄せできる。
「100億円還元 閉店キャンペーン!」
2019年2月5日、大阪府泉佐野市がふるさと納税に関するこんな告知をウェブサイトにアップした後、全国からアクセスが殺到。市のサイトにつながりにくくなって市民への情報提供に支障が出たため、ほぼテキストのみで情報量が少ないトップページに変えるなど担当部署は対応に追われた。
泉佐野市は2017年度、全国で最も多い135億円ものふるさと納税による「寄付」を受け入れた。地場産品ではないビールや高級牛肉を含む豪華な返礼品が人気だ。
「100億円還元」は3月までの期間限定。寄付額に応じてもらえる返礼品に加え、寄付額の10~20%に当たるアマゾンギフト券も「還元」する。
キャンペーンの効果もあり、2018年度の寄付受け入れ額は前年度の3倍近い360億円ほどに伸びる見通しだという。これは市の2018年度一般会計当初予算案での市税収見込み額の1.7倍に当たる。市によると「100億円」は「アマゾンギフト券による還元額」だが、実際にはこの金額に届くことはなさそうだ。
そもそも、ふるさと納税とはどんな制度だろうか。
各地の都道府県や市町村にお金を寄付すると、寄付額から2000円を除いた額が、自分が住んでいる自治体や国に納めるべき住民税や所得税から差し引かれる制度。寄付額に応じて特産品などの「返礼品」が送られてくることが多い。事実上、「返礼品を2000円で購入する」のと変わらない。寄付額に対する返礼品の金額の比率は「還元率」と呼ばれる。ネット上では泉佐野市など還元率の高い自治体のランキングも紹介され、人気を集めている。
寄付の理由は「地域貢献」より「返礼品が魅力」

(上)総務省の資料より
ふるさと納税は2008年度にスタート。故郷だけでなく「お世話になった地域」や「これから応援したい地域」への寄付を促して「地方創生」を後押しすることなどが目的とされている。
2017年度の寄付総額は前年度比28.4%増の3653億円。勤め人なら一定の条件を満たせば、申請書を送付するだけで確定申告をしなくて済む「ワンストップ特例」を2015年度に導入した効果もあり、2014年度の9倍以上に急増した。
ふるさと納税ブームが盛り上がるとともに、各地の自治体が高額の返礼品を用意して「還元率」を高めたり、地場産品でない商品券や家電製品を返礼品にしたり、といった競争過熱が問題視されるようになった。複数の民間調査では、ふるさと納税を利用した理由を「返礼品が魅力」とする趣旨の回答が、「地域貢献」を大きく上回る。
寄付した人の所得が多いほど、本来納めるべき税金の額から寄付額に応じて差し引かれる金額の上限が増える。一般に多額の寄付をするほど高額な返礼品がもらえるため、所得が多い人ほど「実質2000円」でもらえる返礼品の上限額も上がることになる。
民間の各種ふるさと納税サイトでのおおざっぱな試算によると、「負担が2000円だけで済む寄付額の上限」は、独身の人の場合、年収300万なら2万8000円ほど、年収1000万円なら17万円ほど、年収1億円なら400万円超。節税目的で多額の寄付を繰り返す高額所得者も少なくない。こんな極端な「金持ち優遇」に対しても批判は強い。
総務省は2017・18年の2度にわたり、高額品や地元産以外の返礼品を自粛するよう要請する通知を自治体に出したが、強制力はなく、無視する自治体もあった。
「身勝手なのは総務省」。泉佐野市長は規制強化に反論
地元事業者の売り上げにつながるケースは少ないとみられるアマゾンギフト券などの返礼品について、総務省は「ふるさと納税の趣旨に反する」として問題視。2019年6月から規制を強化する方針だ。
このため政府は地方税法改正案を国会に提出。成立すれば2019年6月以降、(1)還元率は3割以下(2)返礼品は地場産品に限る、といった条件を満たす自治体だけを総務省がふるさと納税の対象に指定し、「指定外」の自治体に寄付しても制度の恩恵は受けられなくなる。
そんななかでの泉佐野市のキャンペーン開始宣言は、総務省の逆鱗に触れた。
石田真敏総務相は2月8日、次のようなコメントを発表した。
「ギフト券は、『地場産品』でもなければ、『返礼割合3割以下』でもなく、また、地域活性化にもつながりません」「制度のすき間を狙って明らかに趣旨に反する返礼品によって寄付を多額に集めようとすることは、自分のところだけが良ければ他の自治体への影響は関係がないという身勝手な考え」
その4日後、泉佐野市の千代松大耕市長もコメントを出して反論。
「各自治体がアイデアを凝らしつつ寄付獲得の努力をしていくことは地方自治の観点から大きな意義があると考えています」「肝心の地方自治体の意見も聞かず、一方的な見解でつくった条件を押し付け、強引に地方を抑えつけようとしている『身勝手』さを示しているのは総務省の方ではないでしょうか」
一歩も引かない姿勢を示した。
ただ、市は3月いっぱいで寄付受け入れをいったんストップし、6月からの新しい規制への対応を検討するという。
自治体の努力が報われない財政制度こそ問題だ
第1次安倍政権の総務相だった菅義偉官房長官(右)肝いりの政策として誕生したふるさと納税。第2次安倍政権下の2015年、「ワンストップ特例」など制度をより利用しやすくする施策が導入され、寄付総額は大きく増えている。
ふるさと納税を通じて、地場産品を地道にPRして全国での認知度アップに成功した自治体もある。被災地には返礼品がなくても寄付が集まった。
それでも総じてみれば、ふるさと納税は本来の趣旨とかけ離れ、「お金持ちほどトクする格安カタログ通販」として利用されることが圧倒的に多い。こうした現状は、今回の規制強化後も大きく変わりそうにはない。
みずほ総合研究所の野田彰彦上席主任研究員は、寄付金額のうち2000円を超える分を納めるべき税金から差し引く際、「例えば10万円などの上限額を設けるべきです」と提言する。
一方、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、規制強化の方向性はある程度評価しつつ、「ふるさと納税のあり方だけでなく、中長期的な地方財政制度全体の改革に向けた議論をしていくべきです」と訴える。
税金を多く納めてくれる大企業やその社員がいない、もしくは少ない地方の自治体の多くが財政難に苦しみ、税収格差をならすため国が配る地方交付税交付金や、国が進める政策を実現するための補助金を頼りに財政を切り盛りしている。今の仕組みのもとでは、自治体は地方税収を増やしたり行政サービスを効率化したりといった自助努力より、「国の言うことを聞いてお金を引っ張ってくる」手段に頼りがちだ。
本来あるべき形での「競争」こそが地方創生につながる
観光振興や起業支援といったさまざまなやり方で「創意工夫して頑張った自治体」が、きちんと報われる仕組みが必要だ。
そこへ、自治体の努力次第で他の自治体に入るはずだった税金を奪い、大きく収入を増やせるふるさと納税のような制度が出現したら?財政難で背に腹は代えられず、「反則ギリギリ」の手を使ってでも寄付を増やそうとする自治体が出てくるのも無理はない。
「泉佐野市を悪者にするだけで、この議論を終わらせてはいけません。国が自治体のはしの上げ下ろしまで指図し、『少しでもはみ出したことをしたらダメ』というやり方では、地方創生など無理だからです」(矢嶋氏)
国は地方財政制度も含む「地方分権改革」に取り組んできたものの、「まだまだ不十分だ」と指摘する専門家は多い。
「地域間格差が比較的少ない消費税収を、国から地方へさらに移すなどして地方税を充実させ、国の裁量によって配分するお金を減らす。そうすることで、自治体が行政サービスを充実させるために税収を増やしたり、効率化によって支出を減らしたりといった努力がきちんと報われる仕組みにしていくべきです。人口が減っていくなかで、すべての自治体が今のままで生き残るのは難しいでしょう。創意工夫して頑張った自治体に人が集まっていけばいい。そうした本来あるべき形での自治体間の競争こそが、地方の自立を促し、地方創生につながるのではないでしょうか」(矢嶋氏)
・「ふるさと納税は間違い」 総務省元担当局長が実名告発(文春オンライン 2019年12月26日)
※制度開始から11年が経ち、5000億円規模の市場に成長したふるさと納税。一方で、過熱する「返礼品」競争を受けて、総務省は今年6月、ついに法規制を余儀なくされ、改正地方税法施行で「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品」と基準が設けられるなど騒動が続いている。
こうした混乱が起きることを危惧し、警鐘を鳴らしてきた官僚がいた。この官僚がこの度、ノンフィクション作家の森功氏の取材に対し、ふるさと納税は税制として間違っていること、そのことを「制度の生みの親」を自任する菅義偉官房長官に直言したが聞き入れられなかったことなどを詳細に証言した。
取材に応じたのは、かつて総務省内で事務次官候補と見られていた平嶋彰英氏。「ふるさと納税」をさらに広めるための寄付控除の上限倍増や、確定申告を不要にする「ワンストップ特例」などが懸案となっていた2014年から2015年にかけて、総務省自治税務局長を務めていた。15年7月の異動で自治大学校校長となり、その後は総務省に戻ることなく退官した。現在は立教大学経済学部特任教授を務めている。
平嶋氏が語る。
「菅さんには、2014年の春先からずっと『高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税は問題です。法令上の規制を導入すべきです』と説明してきました。当時総務大臣だった高市(早苗)さんにも断って、そう申し上げてきました。でも菅さんはそれどころか、(さらにふるさと納税を広めるために)控除を2倍にしろとおっしゃる」
平嶋氏は、「国民に消費税の引き上げをお願いしておきながら、逆に高額納税者の節税対策みたいな枠を広げるつもりですか?」という気持ちだったという。
「実際、それに近いことを口走ってしまいました。でも菅さんは『俺の意図に応えてくれ、本当に地元に貢献したいと寄付してくれる人を俺は何人も知ってる。(返礼品目当てで納税する)こんな奴ばかりじゃない』というばかりでした。もうこれは駄目だなと思いました」
結局、菅氏は、平嶋氏の反対を押し切って、控除上限の倍増に踏み切った。平嶋氏は今回、取材に応じた理由をこう語る。
「ふるさと納税に携わってきた役人として、何があったのか、そこだけは明らかにしておく義務があります」
12月26日発売の「週刊文春」では、平嶋氏と菅官房長官との「ふるさと納税」を巡る詳細なやり取りや、不可解な人事の裏側、また高市早苗総務大臣からかけられた言葉などについて、4pにわたって詳報している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年1月2・9日号)
※政府は、「ふるさと納税制度」を見直す方針を決めた。高額の返礼品を出している地方公共団体は、2019年から対象外とされる予定だ。
この措置は当然のことだ。現在の制度は、返礼金目当てで安い買い物をするのと同じものになっている。
ただし、問題は高額返礼品だけではない。
第1に、大都市の税収減が無視できない額になっている。受ける側の自治体も、不安定な税収が増えるだけで、本当の地域活性化には役立たない。
第2に寄付税制の基本に背く。本来、寄付とは、犠牲を伴う崇高な行為だ。しかし現在の仕組みは、利用者が返礼品で得をする一方で、他の住民の負担を増やす、あるいは地方公共団体のサービスを減らす結果になっている。
いいことは何もない。誠におかしな制度だ。制度の基本そのものを見直す必要がある。
過熱する返礼品競争金券を贈る自治体まで
ふるさと納税は、2008年から始まった。
この制度の検討が始まったとき、私は『週刊ダイヤモンド』の「超」整理日記で反対論を述べた。その当時は返礼品ということなど想像もしていなかったが、地方自治の精神に反するものとして反対した。
いまは、返礼品問題で、まったく正当化できないものになっている。
「ふるさと納税制度」では、一定の限度までは、「寄付金額-2000円」の全額を所得税及び住民税から控除できる。つまり、自己負担は2000円のみということになる。
後で述べるように、これは、一般の寄付税制より著しく優遇された制度だ。
言い換えれば、ふるさと納税制度とは、納税先を振り変えるだけの仕組みなのである。
それに加えて、寄付先の自治体からは「返礼品」として、牛肉や海産物、日本酒など、地場の名産品がもらえる場合が多い。「2000円の負担だけでお米やお肉、魚介類などがたくさんもらえるお得な制度」と宣伝されている場合も多い。
ついには、群馬県草津町のように、返礼品として金券を贈るところまで現れた。
納税者の立場から見れば、ほとんど犠牲もなしに豪華な返礼品を手にすることができるのだから、「制度を利用しなければ損だ」ということになる。
受け取り自治体の側からすれば、返礼品を出しても税収増になる。そして、返礼品に地元の特産物を利用すれば、地元産業の振興にもなる。返礼品を製造する地元の業者は特需に湧いていると言われる。
17年4月、総務省は豪華な返礼品を自粛するよう各自治体に通知し、ふるさと納税の返礼品は、おおむね寄付額の30%を上限とするように通達した。しかし、是正は進んでいない。
大都市の税収減は無視できない額になっている
最近では、ふるさと納税による税収減が、大都市を中心として無視できない問題になってきた。
国から地方交付税を受けていない東京都、東京23区、川崎市などの不交付団体の場合には、ふるさと納税で税収減となっても、交付税による補てんがないため、そのまま税収減になる。
日本経済新聞(2018年7月27日付)の報道によれば、全国の自治体への寄付額は計2447億円となり、初めて2000億円の大台を超えた。
総務省によれば、減収額は東京圏の1都3県で1166億円。17年度分(846億円)に比べて4割近くの増加となった。
都県別に見ると、東京都が全国最多の645億円(39%増)。神奈川県は257億円(37%増)、千葉県は132億円(36%増)、埼玉県は131億円(39%増)。
川崎市や東京都世田谷区では、控除額が40億円を超えるため、ダメージが大きい。
大都市では待機児童対策や高齢者問題などが急務だ。住民税が減ると、こうした施策への悪影響が懸念されている。
世田谷区で18年度分を区で集計したところ、減収分が41億円。「16億5000万円あれば園庭付きの認可保育園が5園でき、31億円あれば学校が1校改築できる」のだが、そうしたことが阻害されているという。
もともと地方税の原則と地方自治の原則に反する
ふるさと納税制度の問題は、返礼品にとどまるわけではない。制度そのものが大きな問題なのだ。
地方税の原則、地方自治の原則、そして寄付税制の原則の観点から、大きな問題を含んでいる。
第1に、地方税の原則について。
地方公共団体が提供する警察、消防、ゴミ処理などのサービスは、住民の生活に直接関連するものであり、地方税はそれに対応する料金的な性格を持つとされている。つまり、住民税は応益原則を基本とする税だ。
このような性格を持つ税の納付先を現住所と異なるところに移すことを認めれば、本来の納税地点で、行政サービスの「ただ乗り」を許すことになる。
その分は、他の納税者の負担が増えるか、あるいはその地方の行政サービスの水準が低下することによって調整される。だから、本来は他の納税者の同意が必要な事項だ。
一般に、税金の使い方に関して、個々の納税者は直接には指示できない。税の使い方や納税先は、個々の納税者の判断ではなく、全体の決定にゆだねられているのだ(その例外として寄付税制があるが、後で述べるように、ふるさと納税は、この原則も破っている)。
第2に、地方自治の原則について。
「すべての税を国税として徴収して、それを地方に配布する」という仕組みをとらず、地方公共団体が独自に徴収する「地方税」が存在するのは、税こそが地方自治の基盤だと考えられているからである。
すなわち、地方自治体が行政努力によって無駄な経費を節約し、他方で企業や住民を誘致して税収を増やし、それが当該の自治体に好循環をもたらすという効果が期待されているのだ。
住民の側では、そのような状況を見ながら、望ましい居住地を選択する。これは、「足による投票」と言われているメカニズムだ(この点は、応益原則にかかわる論点と似ているが、別のものである)。
ふるさと納税を認めれば、受益と負担のリンクが切れてしまうので、このメカニズムは働きにくくなる。だから、ふるさと納税は、地方自治の本質に反する制度なのである。
こうした制度がまかり通っているのは、地方自治とか地方分権ということが、言葉としては言われても、実際にはそれらに対して関心が払われていないことの証拠だ。
もちろん、現在の日本の税制では、多額の交付税や補助金によって、このメカニズムが減殺されている。しかも、税率をはじめとする地方税の構造について、地方公共団体の裁量はきわめて限られている。
だから、「ふるさと納税」のような仕組みを導入して「足による投票」のメカニズムをさらに減殺するとしても、実際上は大きな差異をもたらすことにはならないとの意見はあり得る。
しかし、現状で必要なことは、理念としては存在している地方自治のメカニズムを実効性のあるものに高めていくことだ。ふるさと納税のような仕組みで、地方自治の理念を破壊してしまうことではない。
受け取り自治体の財政の観点から見ても、問題がある。
ふるさと納税では、一時的には税収が増えるかもしれないが、将来もそれが続く保障は何もないからだ。したがって、これによる増収をあてにして新政策を導入したり、施設を建設したりすれば、将来、財政を圧迫しかねない要因になる。
地方が疲弊しているのであれば、税制度そのものを見直すべきだ。あるいは、地方交付税の配布基準を見直すなどの措置が必要だ。そうしたことを行なわずに、ふるさと納税のように問題のある制度に頼ろうとするのは、大きな問題だ。
寄付の崇高な精神を踏みにじる制度
もちろん、「地方を助けたい。そのために、寄付をしたい」と考える人はいる。
ただし、寄付であれば、それだけの負担をしなければならない。犠牲を伴うのが、寄付だ。
もっとも、寄付は社会的に推奨されるべき行為だから、それに対して税制上の特典が与えられている。
従来は、寄付金控除として「所得控除」方式しか認められなかった。つまり、所得金額から「寄付金額-2000円」が差し引かれる制度だった。
2011年度に寄付税制の改正があり、認定NPO法人や一定の証明を得た公益法人への寄付者の所得税については、所得控除と税額控除のどちらでも税の軽減が受けられるようになった。税額控除を選択した場合には、「寄付金額-2000円」の40%を、所得税及び住民税から控除できる。
どちらにしても、かなりの負担を伴う。
「寄付は、自己負担を伴う崇高な行為だ」という原則から、当然のことだ。
ところが、すでに述べたように、ふるさと納税制度は、利用すれば得をする制度だ。
ウェブサイトを見ると、「お得な制度。利用しなければソン。どう利用すればトクか? どの地方団体の返礼品がトクか?」といった記事が多数ある。
こうした記事を見ていると、気分が悪くなってくる。これは寄付の崇高な精神を踏みにじるものだ。日本人の精神構造を破壊する。
繰り返すが、高額返礼品だけが問題なのではない。
これまで述べてきたように、ふるさと納税制度は、いかなる観点から見ても正当化できない仕組みだ。それは、人間の欲望だけをうまく利用して、原則を踏みにじる制度である。
だから、ふるさと納税制度そのものを廃止すべきだ。
国会議員の中にも、これがおかしな制度だと考えている人は大勢いるはずだ。それにもかかわらず、選挙地盤からの反発をおそれて、批判的な発言をしない。
こうして、利用額が急増している。「悪貨が良貨を駆逐する」という以外に表現できない状態だ。
日本人は、もともとは、原則を踏みにじる制度を、よしとする人間ではなかった。
ふるさと納税制度によって日本人の崇高な精神が崩壊していくのを見るのは、誠につらいものだ。私は絶望的な気持ちになっている。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
・「アマゾン券で100億円還元」も出現。泉佐野市のふるさと納税への違和感は「金持ちほどトクする格安通販」(Business Insider Japan 2019年3月31日)

(上)「100億円還元」と銘打った大阪府泉佐野市のふるさと納税キャンペーンの告知。市に対する全国からの寄付金は急増している。
※2000円ポッキリで高級食材から家電製品まで、何でもお取り寄せできます——。うまい話には裏があるのがふつうですが、これはれっきとした国の制度である「ふるさと納税」のこと。そんなおいしい制度を利用しない手はない?そうかもしれませんが、何かおかしいと思いませんか。
ビール、高級牛肉…豪華な返礼品そろえ市税収入の1.7倍を獲得
泉佐野市のふるさと納税特設サイトに掲載された人気の返礼品。高級牛肉からトイレットペーパーまで、すべて「実質2000円」でお取り寄せできる。
「100億円還元 閉店キャンペーン!」
2019年2月5日、大阪府泉佐野市がふるさと納税に関するこんな告知をウェブサイトにアップした後、全国からアクセスが殺到。市のサイトにつながりにくくなって市民への情報提供に支障が出たため、ほぼテキストのみで情報量が少ないトップページに変えるなど担当部署は対応に追われた。
泉佐野市は2017年度、全国で最も多い135億円ものふるさと納税による「寄付」を受け入れた。地場産品ではないビールや高級牛肉を含む豪華な返礼品が人気だ。
「100億円還元」は3月までの期間限定。寄付額に応じてもらえる返礼品に加え、寄付額の10~20%に当たるアマゾンギフト券も「還元」する。
キャンペーンの効果もあり、2018年度の寄付受け入れ額は前年度の3倍近い360億円ほどに伸びる見通しだという。これは市の2018年度一般会計当初予算案での市税収見込み額の1.7倍に当たる。市によると「100億円」は「アマゾンギフト券による還元額」だが、実際にはこの金額に届くことはなさそうだ。
そもそも、ふるさと納税とはどんな制度だろうか。
各地の都道府県や市町村にお金を寄付すると、寄付額から2000円を除いた額が、自分が住んでいる自治体や国に納めるべき住民税や所得税から差し引かれる制度。寄付額に応じて特産品などの「返礼品」が送られてくることが多い。事実上、「返礼品を2000円で購入する」のと変わらない。寄付額に対する返礼品の金額の比率は「還元率」と呼ばれる。ネット上では泉佐野市など還元率の高い自治体のランキングも紹介され、人気を集めている。
寄付の理由は「地域貢献」より「返礼品が魅力」

(上)総務省の資料より
ふるさと納税は2008年度にスタート。故郷だけでなく「お世話になった地域」や「これから応援したい地域」への寄付を促して「地方創生」を後押しすることなどが目的とされている。
2017年度の寄付総額は前年度比28.4%増の3653億円。勤め人なら一定の条件を満たせば、申請書を送付するだけで確定申告をしなくて済む「ワンストップ特例」を2015年度に導入した効果もあり、2014年度の9倍以上に急増した。
ふるさと納税ブームが盛り上がるとともに、各地の自治体が高額の返礼品を用意して「還元率」を高めたり、地場産品でない商品券や家電製品を返礼品にしたり、といった競争過熱が問題視されるようになった。複数の民間調査では、ふるさと納税を利用した理由を「返礼品が魅力」とする趣旨の回答が、「地域貢献」を大きく上回る。
寄付した人の所得が多いほど、本来納めるべき税金の額から寄付額に応じて差し引かれる金額の上限が増える。一般に多額の寄付をするほど高額な返礼品がもらえるため、所得が多い人ほど「実質2000円」でもらえる返礼品の上限額も上がることになる。
民間の各種ふるさと納税サイトでのおおざっぱな試算によると、「負担が2000円だけで済む寄付額の上限」は、独身の人の場合、年収300万なら2万8000円ほど、年収1000万円なら17万円ほど、年収1億円なら400万円超。節税目的で多額の寄付を繰り返す高額所得者も少なくない。こんな極端な「金持ち優遇」に対しても批判は強い。
総務省は2017・18年の2度にわたり、高額品や地元産以外の返礼品を自粛するよう要請する通知を自治体に出したが、強制力はなく、無視する自治体もあった。
「身勝手なのは総務省」。泉佐野市長は規制強化に反論
地元事業者の売り上げにつながるケースは少ないとみられるアマゾンギフト券などの返礼品について、総務省は「ふるさと納税の趣旨に反する」として問題視。2019年6月から規制を強化する方針だ。
このため政府は地方税法改正案を国会に提出。成立すれば2019年6月以降、(1)還元率は3割以下(2)返礼品は地場産品に限る、といった条件を満たす自治体だけを総務省がふるさと納税の対象に指定し、「指定外」の自治体に寄付しても制度の恩恵は受けられなくなる。
そんななかでの泉佐野市のキャンペーン開始宣言は、総務省の逆鱗に触れた。
石田真敏総務相は2月8日、次のようなコメントを発表した。
「ギフト券は、『地場産品』でもなければ、『返礼割合3割以下』でもなく、また、地域活性化にもつながりません」「制度のすき間を狙って明らかに趣旨に反する返礼品によって寄付を多額に集めようとすることは、自分のところだけが良ければ他の自治体への影響は関係がないという身勝手な考え」
その4日後、泉佐野市の千代松大耕市長もコメントを出して反論。
「各自治体がアイデアを凝らしつつ寄付獲得の努力をしていくことは地方自治の観点から大きな意義があると考えています」「肝心の地方自治体の意見も聞かず、一方的な見解でつくった条件を押し付け、強引に地方を抑えつけようとしている『身勝手』さを示しているのは総務省の方ではないでしょうか」
一歩も引かない姿勢を示した。
ただ、市は3月いっぱいで寄付受け入れをいったんストップし、6月からの新しい規制への対応を検討するという。
自治体の努力が報われない財政制度こそ問題だ
第1次安倍政権の総務相だった菅義偉官房長官(右)肝いりの政策として誕生したふるさと納税。第2次安倍政権下の2015年、「ワンストップ特例」など制度をより利用しやすくする施策が導入され、寄付総額は大きく増えている。
ふるさと納税を通じて、地場産品を地道にPRして全国での認知度アップに成功した自治体もある。被災地には返礼品がなくても寄付が集まった。
それでも総じてみれば、ふるさと納税は本来の趣旨とかけ離れ、「お金持ちほどトクする格安カタログ通販」として利用されることが圧倒的に多い。こうした現状は、今回の規制強化後も大きく変わりそうにはない。
みずほ総合研究所の野田彰彦上席主任研究員は、寄付金額のうち2000円を超える分を納めるべき税金から差し引く際、「例えば10万円などの上限額を設けるべきです」と提言する。
一方、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、規制強化の方向性はある程度評価しつつ、「ふるさと納税のあり方だけでなく、中長期的な地方財政制度全体の改革に向けた議論をしていくべきです」と訴える。
税金を多く納めてくれる大企業やその社員がいない、もしくは少ない地方の自治体の多くが財政難に苦しみ、税収格差をならすため国が配る地方交付税交付金や、国が進める政策を実現するための補助金を頼りに財政を切り盛りしている。今の仕組みのもとでは、自治体は地方税収を増やしたり行政サービスを効率化したりといった自助努力より、「国の言うことを聞いてお金を引っ張ってくる」手段に頼りがちだ。
本来あるべき形での「競争」こそが地方創生につながる
観光振興や起業支援といったさまざまなやり方で「創意工夫して頑張った自治体」が、きちんと報われる仕組みが必要だ。
そこへ、自治体の努力次第で他の自治体に入るはずだった税金を奪い、大きく収入を増やせるふるさと納税のような制度が出現したら?財政難で背に腹は代えられず、「反則ギリギリ」の手を使ってでも寄付を増やそうとする自治体が出てくるのも無理はない。
「泉佐野市を悪者にするだけで、この議論を終わらせてはいけません。国が自治体のはしの上げ下ろしまで指図し、『少しでもはみ出したことをしたらダメ』というやり方では、地方創生など無理だからです」(矢嶋氏)
国は地方財政制度も含む「地方分権改革」に取り組んできたものの、「まだまだ不十分だ」と指摘する専門家は多い。
「地域間格差が比較的少ない消費税収を、国から地方へさらに移すなどして地方税を充実させ、国の裁量によって配分するお金を減らす。そうすることで、自治体が行政サービスを充実させるために税収を増やしたり、効率化によって支出を減らしたりといった努力がきちんと報われる仕組みにしていくべきです。人口が減っていくなかで、すべての自治体が今のままで生き残るのは難しいでしょう。創意工夫して頑張った自治体に人が集まっていけばいい。そうした本来あるべき形での自治体間の競争こそが、地方の自立を促し、地方創生につながるのではないでしょうか」(矢嶋氏)
・「ふるさと納税は間違い」 総務省元担当局長が実名告発(文春オンライン 2019年12月26日)
※制度開始から11年が経ち、5000億円規模の市場に成長したふるさと納税。一方で、過熱する「返礼品」競争を受けて、総務省は今年6月、ついに法規制を余儀なくされ、改正地方税法施行で「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品」と基準が設けられるなど騒動が続いている。
こうした混乱が起きることを危惧し、警鐘を鳴らしてきた官僚がいた。この官僚がこの度、ノンフィクション作家の森功氏の取材に対し、ふるさと納税は税制として間違っていること、そのことを「制度の生みの親」を自任する菅義偉官房長官に直言したが聞き入れられなかったことなどを詳細に証言した。
取材に応じたのは、かつて総務省内で事務次官候補と見られていた平嶋彰英氏。「ふるさと納税」をさらに広めるための寄付控除の上限倍増や、確定申告を不要にする「ワンストップ特例」などが懸案となっていた2014年から2015年にかけて、総務省自治税務局長を務めていた。15年7月の異動で自治大学校校長となり、その後は総務省に戻ることなく退官した。現在は立教大学経済学部特任教授を務めている。
平嶋氏が語る。
「菅さんには、2014年の春先からずっと『高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税は問題です。法令上の規制を導入すべきです』と説明してきました。当時総務大臣だった高市(早苗)さんにも断って、そう申し上げてきました。でも菅さんはそれどころか、(さらにふるさと納税を広めるために)控除を2倍にしろとおっしゃる」
平嶋氏は、「国民に消費税の引き上げをお願いしておきながら、逆に高額納税者の節税対策みたいな枠を広げるつもりですか?」という気持ちだったという。
「実際、それに近いことを口走ってしまいました。でも菅さんは『俺の意図に応えてくれ、本当に地元に貢献したいと寄付してくれる人を俺は何人も知ってる。(返礼品目当てで納税する)こんな奴ばかりじゃない』というばかりでした。もうこれは駄目だなと思いました」
結局、菅氏は、平嶋氏の反対を押し切って、控除上限の倍増に踏み切った。平嶋氏は今回、取材に応じた理由をこう語る。
「ふるさと納税に携わってきた役人として、何があったのか、そこだけは明らかにしておく義務があります」
12月26日発売の「週刊文春」では、平嶋氏と菅官房長官との「ふるさと納税」を巡る詳細なやり取りや、不可解な人事の裏側、また高市早苗総務大臣からかけられた言葉などについて、4pにわたって詳報している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年1月2・9日号)