・「火星は思ったより住みにくい」とする研究結果が発表。土壌成分と降り注ぐUVで微生物はあっという間に死滅 地底にはまだ存在できる可能性あり(engadget 2017年7月7日)

※NASAやESAその他宇宙機関が火星を目指す計画を立て、2015年には火星に水が存在する可能性が高まったことから、最近では火星移住計画も荒唐無稽な話ではないという感覚になりつつあります。ところが、最新のScientific Reportsに掲載された論文では、火星に土壌成分には細菌レベルでも生命が存在できないほどの毒性があると報告されました。

1970年代にNASAが実施したバイキング計画では、火星表面に過塩素酸塩で覆われる土壌があることがわかっています。当時の研究では、過塩素酸塩は微生物のエネルギー源になる可能性があり、近辺に微生命が存在する可能性があると解釈する研究者も多くいました。

しかし実際には、過塩素酸塩はロケットの固体燃料酸化剤として使われる物質でもあります。スコットランド・エディンバラ大学の研究者Jennifer Wadsworthは、この火星の土壌で実際に微生物が存在できるかを確認するために、地球上のバクテリアを過塩素酸塩に混ぜ合わせ、火星環境に近い強さの紫外線を照射してみました。

すると、ただ紫外線に晒したときの2倍の速さでバクテリアが死滅したとのこと。それではと、火星の一般的な土壌にある、酸化鉄や過酸化水素といった成分も加えて再度実験したところ、今度は過塩素酸塩のときの11倍もの速さであっという間にバクテリアが死んでしまいました。過酸化水素と言えば、要するに殺菌消毒液オキシドールの成分。これでは生命が存在する可能性どころではありません。

研究者は、この毒性を回避して微生物が存在するには、かなり地中深く潜った位置にいなければならないとしています。

なお、欧州宇宙機関ESAは、2020年にExoMarsローバーを火星に送り込むべく準備中です。ExoMarsローバーには地表から2mの深さまで掘り下げられるドリルを備えており、そこで採取した土壌サンプルに火星初の微生物を発見することが期待されています。

ちなみに、今回の実験にはポジティブな面もひとつ見つかっています。それは、これまでに火星に送り込んだ探査機や着陸機、ローバーに付着していたかもしれない地球由来のバクテリアがおそらく火星上では死滅しており、火星の汚染が広まっていないと考えられること。

・NASA、イーロン・マスクの火星移住計画を否定 ── 火星のテラフォーミングは不可能(2018年8月7日)

※NASAが支援した研究によると、火星の環境を人為的に改造すること、いわゆる「テラフォーミング」に必要な量の二酸化炭素が火星には存在しない。

これはつまり、人類が居住できるように火星をテラフォーミングすることはできないことを意味する。

火星のテラフォーミングは、イーロン・マスク氏の火星移住計画の大前提だった。

NASAが支援した研究によると、火星にはテラフォーミングを実行するために必要な量の二酸化炭素が存在しない。テラフォーミングとは、惑星の環境を人類が居住できる環境に人為的に改造すること。

この研究が正しければ、火星を人類が自由に歩き回れる環境にするというイーロン・マスク氏の計画の大前提がほぼ崩れる。

マスク氏は、火星は「修理が必要な家」のようなものと繰り返し主張してきた。最も有名なものは2015年、人気コメディアンのスティーブン・コルベア(Stephen Colbert)氏に、火星を移住可能とするための最も早い方法は、二酸化炭素でできた氷を溶かし、温室効果を生み出すために「火星の極地に熱核兵器を投下すること」だろうと語ったもの。

大気の濃度が上がれば、火星の表面に液体状の水が存在可能になるかもしれない。

火星の大気圧は地球の約0.6%。研究によると、火星は地球よりも太陽から離れているため、液体状の水を安定して存在させるのに十分なくらい温度を上げるには、地球の大気圧と同じくらいの二酸化炭素圧が必要になる。

確かに、二酸化炭素の供給源として、最もアクセスしやすいのは火星極地の氷。

科学者たちは、太陽光を吸収させるために氷に粉末を散布したり、爆薬を使って二酸化炭素を大気中に解放できるとしている。

だが、極地の氷を完全に気化できたとしても、二酸化炭素圧は現状の2倍、つまり地球の1.2%にしか引き上げることはできない。

この分析は、探査機による20年間に及ぶ火星観測の末、つい最近完了した。

もう1つの選択肢は、火星の土壌を加熱し、二酸化炭素を放出すること。だがNASAはそれでも、必要な大気圧の4%しか増えないと見ている。

また、火星の地表深くにある鉱物に含まれる二酸化炭素も、液体状の水を安定的に維持するために必要な大気圧の5%にしかならない。しかも、火星全体を100メートル掘り下げなくてはならない。

「我々の研究結果は、大気中に解放して、大きな温室効果を生み出すために必要な量の二酸化炭素が火星に残っていないことを示唆している」とコロラド大学のブルース・ジャコスキー(Bruce Jakosky)氏は語った。

「加えて、火星にある二酸化炭素ガスの大半は、アクセスしにくく、容易に利用できる状態にはない。つまり、現在の技術では、火星のフォーミングは不可能」

火星に昔、水が流れていた可能性があることを示す証拠は存在する。だが、それを可能にしていた太古の大気は、太陽風や太陽光によって失われてしまった。

仮に今すぐ、太陽風や太陽光を防いだとしても、現在の大気圧が2倍になるまでだけでも、1000万年かかるだろうとの見解を同チームは示した。

また「彗星や小惑星の軌道を変え、火星にぶつける」ことでこのプロセスをスピードアップすることはできる。だが「何千個も必要となるだろう」。

つまり、同チームは“現在のテクノロジー”を使って、火星の大気を濃くする有効な手段は存在しないと指摘した。

[原文:NASA just quashed Elon Musk's plans to make Mars habitable for humans]


・火星への移住は無理だった? そこに「大気」はつくれない、という研究結果(WIRED 2018年8月10日)

※火星への人類の移住を計画しているのはイーロン・マスクだが、それは本当に実現可能なのか──。ここにきて、それは「ほぼ不可能である」ことを示す研究結果が発表された。米研究チームの論文によると、既存のテクノロジーでは火星を人間が暮らせるような大気をもった環境にすることは難しいのだという。専門家からは「まだ希望はある」との指摘もあるなか、そもそも火星に移住する意義も問われ始めている。

「火星に行きたい」という話であれば、(ある程度は)同意できる。計画としては悪くない。まずは有人宇宙船を打ち上げる。月面基地を築いて、そこで資源を採掘するためにもっと多くの宇宙船と人間を送り込む。そして本格的なドーム型の都市を建設すれば、次はいよいよ火星のテラフォーミング(惑星の地球化)だ。

火星に生命が生存できる環境をつくり出すというアイデアは、温室効果という物理現象(地球温暖化などの原因になっているものだ)に依拠している。火星の土地は凍った二酸化炭素に覆われていると考えられているが、何とかして気温を上げれば表面のドライアイスと氷が溶けて、海と濃厚な大気が創出される。大気中に十分な酸素が含まれるかはわからないが、少なくとも外を歩き回るのに宇宙服は着なくて済むようになるだろう。

そして、ボン!(この「ボン!」という効果音の間に1万年くらいの時間が経ったと考えてほしい)。ハードSFの世界では定番の「地球の植民地となった火星」が誕生するというわけだ。

火星で温暖化は起こらない?

完全に妄想の世界というわけでもない。天文学者のカール・セーガンは1971年に「惑星エンジニアリング」というアイデアを打ち出した。「現在より温暖な気候条件を作り出す」ために、火星の両極付近の氷を溶かして炭酸ガスを発生させるというのだ。

20年後の1991年、惑星科学者のクリス・マッケイは『Nature』誌に発表した論文で、火星に十分な二酸化炭素と水と窒素があれば、そこから大気を創出することは可能だと結論づけた。

その後も、火星を太陽からの有害物質を跳ね返してくれるだけの大気を備えた星につくり変えることは可能なのか、という研究は続けられてきた。そして7月末に発表されたばかりの論文が正しければ、既存のテクノロジーでは地球のような楽園を生み出すのは不可能なようだ。

この論文を書いたのは、コロラド大学で惑星科学を研究するブルース・ジャコスキーと、ノーザンアリゾナ大学のクリストファー・エドワーズだ。ジャコスキーはこう説明する。

「ある程度は純粋な二酸化炭素を集めることはできるようになっています。しかし、大半は宇宙空間に拡散してしまうでしょう。また気温の低い両極付近で固体化したり、少量は炭酸塩鉱物になる可能性もあります」

鉱物中に炭酸塩として含まれるぶんや、そこにクラスレートという状態で存在するわずかな二酸化炭素を加えても、状況は変わらない。ジャコスキーは「仮にすべてが大気になったとしても、温暖化を引き起こすには足りません」と話す。

大気をつくることは「ほぼ不可能」

地球の大気圧は地表では約1バールだ。火星の温度をある程度上昇させるには、それだけの量の二酸化炭素が必要になる。そこまではいかなくても、火星の大気圧が250ミリバールになるだけで、気温には大きな変化があるだろう。そして、実際に過去にはそれだけの大気が存在したと考えられている。

これまでの研究では、遠い過去には火星に液体の水があったことが明らかになっている。つまり、気温も大気圧も水が存在できる程度には高かったのだ。ジャコスキーによれば、火星に存在する二酸化炭素の割合が地球か金星と同程度であれば、その総量は固体や鉱物化したものをすべて合わせて20バール程度にはなる可能性もある。

ジャコスキーはこう続ける。「火星をめぐっては過去40年にわたり、炭酸塩の探査が合言葉になっていました。なぜなら、大気中の二酸化炭素は地中に吸収され、地殻の内部に炭酸塩として貯蔵されているはずで、それならおそらくは取り出すことが可能だからです。一方で、二酸化炭素が大気から宇宙空間に流出してしまったのであれば、回収することはできません」

米航空宇宙局(NASA)の周回探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」から送られてきたデータからは、炭酸塩の堆積地と見られる場所がたくさん見つかった。しかし、2014年から火星の周回軌道上で観測を続ける「MAVEN(Mars Atmosphere and Volatile Evolution)」の調査では、二酸化炭素が宇宙に拡散していることが確認されている。ジャコスキーはMAVENプロジェクトの主任研究員だが、火星への移住を夢見る人びとにとっては、この研究結果は残念なものだろう。

極周辺の氷の層が溶ければ、15ミリバール程度の気圧は確保できる。炭酸塩を含む鉱物の採掘ではおそらく15ミリバール以下で、特殊な方法を使っても150ミリバール以上を得ることは無理だろう。また、地中に吸収されている二酸化炭素もあるが、こちらは地下100mまで掘り進んでもせいぜい40ミリバールといったところだ。

ジャコスキーは、「40〜50ミリバール以上の大気を作り出すことはほぼ不可能だと考えています。この程度では気温への影響はまったくありません」と言う。「ほかにいくつか二酸化炭素の発生源を探し出すことはできると思いますが、それでも著しい温暖化を引き起こすだけの量には程遠いでしょう」

なるほど……。

気圧は300ミリバールあれば十分?

しかし、ジャコスキーが間違っている可能性もあるのではないか。火星への植民を提唱するマッケイは、「火星の環境を変化させるうえで鍵となるのは、二酸化炭素、窒素、水の総量です。火星にこうした物質はどれだけあるのかについては、まだ正確にはわかっていません」と指摘する。

MAVENの調査で火星にあった二酸化炭素の一部が失われたことは明らかになったが、すべてが宇宙空間に消えてしまったわけではない。つまり、マッケイは「まだ希望はある」と言うのだ。「地中にある二酸化炭素の総量はまったく不明だと言っていいでしょう。十分なデータはなく、それを知るためには実際に地下深くまで掘って地質調査を行う必要があります」

火星で驚くべき事実が次々と明らかになっているのは確かだ。7月末には液体の水の存在が確認されたという発表があった。だからこそ、ジャコスキーの論文が火星植民構想の提唱者たちを意気消沈させることはない。

航空宇宙技術者で火星の探査および植民の促進を目的とした非営利団体(NPO)「火星協会」を設立したロバート・ズブリンは、ジャコスキーの論文にある数値は「体系立てて悲観的な見方」をしていると話す。彼の理論では1バールは必要ない。300ミリバールで十分だという(エヴェレストの頂上の気圧がこの程度だ)。「気圧が200ミリバールあれば宇宙服を着る必要はありません。そして、内部の気圧が外気と同じドームを建設することができます」

ズブリンとマッケイはまた、既存の仮説を発展させれば、未来の展望は大きく変わってくると主張する。例えば、人工の温室効果ガスはどうだろう。火星にもある塩素からフロンガスを生成して散布すればいい。

もちろん、実際にどうやるのかという問題はある。また、このいわば「スーパー温室効果ガス」によって火星にわずかに残されたオゾンを破壊することは避けなければならない。さもなければ、火星には放射線に加えて、人体に有害な強烈な紫外線が降り注ぐようになるだろう。

そもそも、なぜ火星に向かうのか?

参考までに書かせてほしいが、火星の植民化の提唱者なら、当然ながら地球温暖化を否定はしないだろう。どちらも同じ理論の元に成立しているからだ。火星へのテラフォーミングが不可能だとしても、足元の地球では確実に気候変動が進行している。それを引き起こしているのはわたしたち人類だ。

さらに蛇足だが、水の発見により、火星に生物が存在する可能性がわずかだが高まった。赤い惑星に生命が存在するとすれば、テラフォーミングのもつ意味が変わってくる。人類の植民によって既存の生物に影響が及ぶことは必至で、科学的なことに加えて倫理的な議論もなされる必要があるだろう。

そこで最後の質問だ。なぜ、火星への移住を目指すのか?

ジャコスキーはこう話す。「科学からは離れて、テラフォーミングについて根本的に問い直してみましょう。地球に住めなくなった場合に備えてバックアップとして居住可能な場所を用意しておくというのは、ばかげた議論だと思います。外的な要因も考えられますが、地球環境を破壊しているのは人類です。はるか遠くの火星を変えるより、地球というわたしたちが住むうえで素晴らしい環境を備えた惑星を守ることのほうが、よほど簡単です」

火星探査は必要だし、そのための火星基地の建設にも賛成だ。ただ、都市のような居住空間となると疑問が生じる。海や運河など本当につくれるのだろうか。深呼吸して、落ち着いて考えてみてほしい。わたしたちが知る限り、こうしたものが存在しうるのは広大な宇宙で地球だけなのだ。


・ESA、火星への往復で暴露する宇宙線量を生涯限界の6割と報告。従来予測より軽減(2018年9月21日)

※NASAや欧州宇宙機関(ESA)をはじめといくつかの宇宙機関が、近い将来の火星有人探査を目標に掲げています。しかし、初めてその赤い大地に降り立つ宇宙飛行士たちにとっては、それが命がけの任務になることは疑いようもないことです。

宇宙へ出ると、飛行士らは宇宙線と呼ばれる放射線に曝されることになります。放射線は一定量以上を被爆すれば、癌や中枢神経系障害、心血管疾患などといった病気を発症する可能性が高まります。そして、2013年にNASAが発表したデータなどでは、約1年かかる火星への往復のあいだに飛行士が浴びる放射線量が、生涯被爆許容限度を超えるかもしれないと指摘されていました。

ところが、ESAは9月19日、ExoMarsプロジェクトの火星周回探査機Trace Gas Orbiter(TGO)のデータを分析した結果、約1年ほどかかる火星への往復にともなう被曝量が、生涯許容限度の6割ほどになる可能性があることがわかったと報告しました。

つまり、火星へ行って帰ってくるぶんには少なくとも、放射線で病気などを発症するリスクが少なくて済むかもしれないということです。これが本当なら少なくとも飛行士は、宇宙線の被爆に関しては以前ほど心配せずに済みそうです。

もちろん往復の被曝量がどうであれ、火星に向かう飛行士の任務が楽になるわけではありません。生涯に被曝できる限度の6割とは言っても、ISSに滞在する飛行士に比べれば数倍にのぼる被曝量です。また火星には地球のような、宇宙線を遮る磁場や厚い大気もありません(しかも大気の主成分は二酸化炭素)。最初に赤い大地に降り立つ飛行士は、常になんらかの放射線対策が必要になるでしょう。

今回の被曝量の話は、飛行士や宇宙船にまったく宇宙線(放射線)対策をせずに火星に向かうと仮定しています。実際に飛行士が火星へ向かうまでにはいくつかの解決策が提示され、そのなかでも効果的な対策がいくつか採用されるはずです。たとえばNASAは2017年、月および火星への有人飛行を想定した耐放射線ベストを試験していました。

月や火星、さらにその先の深宇宙を目指すなら、宇宙線は避けて通れません。それでも対策をきちんと施せば、決して克服できないものでもなさそうです。