・習近平の長期独裁を可能にする「デジタル共産主義」その驚きのしくみ これで完全なる監視国家が誕生する(ゲンダイismedia 2018年3月12日)

野口 悠紀雄

※中国の全国人民代表大会で、国家主席の任期を事実上撤廃する憲法改正案が3月11日に採決された。

習近平国家主席が任期切れを迎える2023年以降も主席にとどまり、終身で務めることも可能になる。権力集中がさらに進むことになるだろう。

この背景にあるのは、デジタル技術の活用で形成されつつある史上最強の権力基盤だ。

これを「デジタル・レーニン主義(Digitaluse Leninism)」と呼び、習政権がAIを活用して、新しい統治システムを構築するだろうとの見方がある。

これは、AIが進化するとシンギュラリティ(技術的特異点)が生じて人間を支配するというようなAI脅威論とは異質のものだ。空想上の出来事ではなく、いま現実世界で進行しつつある問題である。

監視カメラシステムと公民身分番号

AIを駆使した中国の国民監視システムの代表として、「天網」がある。街中にある監視カメラが、顔認証技術で人や車の動きを追跡・判別し、犯歴データと照合する。通行人の性別や年代、服装などを瞬時に識別できる。カメラ台数は、BBCの報道では、1億7000万台だ。

顔認証ができるサングラスを警官がかけて、犯罪者の取り締まりを行うことも開始された。人混みを眺めるだけで、視界に入った人々の顔をスキャンし、その情報をもとに、データベースに登録された容疑者を照会して特定する。

こうした監視システムを運用する基礎は、政府が運営する全国民の個人番号システムだ。

中国では、満16歳になると身分証を交付される。ICチップが内蔵されており、氏名・性別・民族・生年月日・住所、顔写真、そして18桁の「公民身分番号」が記録されている。公安部(警察を担当する中央官庁)が管理する

公民身分番号は、納税や銀行口座開設などの際に必要であり、ホテルに宿泊するときや、高速鉄道や飛行機の切符を買うときにも提示が求められる。

身分証は、2017年末から電子化(オンライン化)された。現在は限定的だが、いずれ全国に拡大される。そうなれば、政府にとってさらに強力な国民管理の手段になるだろう。

なお、中国には全国民の戸籍、経歴や賞罰などを記録し、行政が管理する「人事档案(タンアン)」という制度が、昔からあった。

思想・信条・発言内容 などの個人情報を集めたファイルで、個人一代だけでなく、祖父母の代にまでさかのぼって情報を集めてあるという。

計画経済時代には、進学や就職、昇進などに利用されていた。しかし、電子化が進んでおらず、近年は重要性が低下していると言われる。

詳細な個人情報も収集されている

政府は、これ以外にも、運転免許証やパスポートのデータなどを持っている。さらに犯罪者に関しては、より詳細なデータがある。

監視カメラの映像から犯罪者やテロリストを発見することは、こうした情報があれば可能だろう。

しかし、中国の監視制度は、もっと進んでいる。赤信号で渡ろうとする歩行者がいると、カメラが自動的に撮影を開始。撮影した顔と登録された顔を照合し、個人を特定する。後日、警察から本人に違反を確認したとの連絡が届くという。

こうしたことを行うには、カメラが写した映像で、(犯罪人ではない一般の)個人を特定することが必要であり、公民身分番号の写真より詳細な情報が必要だろう。

その実態は明らかでないが、中国政府は 、さまざまな方法で詳細な個人情報を集めていると推測される。

警察は、「標準的」な情報収集の際においても、指紋や手のひら採取、顔写真、尿およびDNAサンプルといった生体認証データ、そして音声パターンを収集する。
公安部のデータベースには、10億人以上の顔データと、4000万人のDNAサンプルが記録されているという。

そうしたデータは、公民身分番号とリンクされ、銀行口座記録や、高速鉄道や飛行機での旅行歴、そしてホテルの滞在記録などの詳細な個人情報と統合管理される可能性がある。

それだけのデータがあれば、かなり詳細に個人の行動追跡することが可能だろう。

国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によれば、民族間の対立が続く新疆ウイグル自治区では、12歳から65歳までの住民を対象に、「無料検診」という名目でDNAや血液のサンプル、指紋、虹彩、血液型などの生体データが収集された。すでに同自治区の総人口の9割に当たる約1900万人分のデータを集めたとされる。

AIは何を変えたのか

中国では、政府による情報活動は、昔からなされていた。前述した「人事档案」はその一例だ。

最近起こっていることの特徴は、AIの活用によって、合法的な方法(少なくとも、明確に非合法ではない方法)で集められる情報が多くなったことだ。

しかも、AIを利用することによって、それら大量の情報を有効に活用できるようになった。

仮に全国民の詳細データが得られても、これまでの技術では、膨大な人口が生み出す膨大なデータはさばききれなかった。社会主義経済時代には、人口すら正確に把握できず、郵便配達データで推計していたほどだ。

中国では、これまでも監視カメラが設置されていた。しかし、それらを有機的に結合した運用はできなかった。それができるようになったのだ。

フィンテックが提供する新しい金融サービスは、個人情報の収集にも役立つ。こうした情報を用いて、個人を「プロファイリング」する。これは、大量の個人データから個人像を描き出すための手法だ。

SNS等の情報を中国政府がどの程度利用しているのかは明らかでないが、すでに検閲制度「金盾」が存在することから考えて、AIが活用できるようになれば、そこから政府が個人情報を抽出することは十分に考えられる。

手紙を検閲していた時代に比べれば、比較にならないほど容易にかつ正確に、人々が通信する情報を収集できるようになっているのである。

スターリンと毛沢東の時代だが、次のような話を聞いたことがある。

モスクワ駐在の日本大使館員が、自宅のアパートのトイレにトイレットペーパーがなくなったので、「トイレットペーパーがない」とつぶやいた。次の日には、トイレットペーパートがちゃんとトイレにあった。その大使館員が北京駐在となり、同じような事態で、大声で「トイレットペーパーがない」と叫んだ。しかし、何も起こらなかったというのだ。

いまこの話を思い出すと、「昔はなんと良かったのだろう」とつくづくと考えざるを得ない。

レイティングや監視を支持する意見も中国にはある

正確なプロファイリングには、望ましい面もある。

例えば、貧しい家庭に生まれて能力がある人は、能力を正しく評価してもらえるだろう。健康に気をつけることによって健康保険の給付金額が増えたり、優良運転で自動車保険の保険料が下がるのもよいことだ。

品行方正にしないと 信用度評価の評点が下がるので、人々は信頼を失わないように心がけるとされる。

広州市(広東省)が2017年に行った調査では、回答者の59%が監視カメラの増設が治安向上に有効だと答えている。「国に守られている安心感がある」との考えだ。

こうしたバックアップもあるので、中国政府は、全市民に向けた評価システムの導入を検討している。また、犯罪の予測も試みられている。

デジタル共産主義と究極の独裁者

他方で、もちろん問題もある。例えば 、信用度が低いと、航空券を買えないといったことがある。

良いものはますます優遇され、悪いものが滅ぼされるとしても、問題は、「良いものとは何か」という定義である。中央の権力者にとって都合の良いものが良いものとされる危険は大いにある。そうなれば、究極の全体主義国家が実現する。

先ごろアメリカに本拠を置くNGOである電子フロンティア財団(the Electronic Frontier Foundation;EFF)が発表した「The Malicious Use of AI: Forecasting, Prevention, and Mitigation(AIの悪用:予測、防止、リスク軽減)」は、AI技術の悪用に警鐘を鳴らしている。

国中に張り巡らされた監視ネットワークから収集した集めた大量のデータを、権力者が用いることがすでに可能であり、「独裁者は政権転覆を計画している者を敏速に把握し、居場所を特定し、彼らが行動を起こす前に投獄できるだろう」と述べている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、新疆ウイグル自治区における中国政府の情報収集は、問題を起こす危険のある人物を特定し、先んじて拘束するための「予測による治安維持」だとする。

中国では、政府が監視国家を志向する傾向が強いことに加え、国民の側でプライバシーの意識が弱い。

こうしたことから、習近平は、これまでどんな独裁者も持てなかった市民監視とコントロールのための強力な手段を持つ可能性がある。

歴史上始めての、国民を一人一人監視できる強力なビッグブラザー、究極の独裁者の誕生だ。これは、「デジタル共産主義」とも言える。

これは、他人事ではない。 なぜなら、中国国民だけではなく、外国の個人や企業、メディアなども、同じ方法で評価されるようになりかねないからだ。

・デジタル・レーニン主義、ビッグデータとAI活用、中国で構築進む壮大な社会管理システム(Record china 2018年5月26日)

※中国でビッグデータやAI(人工知能)を活用した社会管理システムづくりが着々と進んでいる。システムは個人や企業の信用情報などに活用される一方、ブラックリスト入りすると、航空券の購入が制限されたりする。日本や欧米の研究者は中国の壮大な取り組みを「デジタル・レーニン主義」と名付けている。

習近平政権は1期目の2014年に「社会信用システム構築計画網要」を決定。20年までに個人・企業の行政事務、商業的活動、社会的行為、司法制度の4分野を重点に全社会をカバーする信用システムの構築に着手している。

中国では個人や企業に日本のマイナンバーに似た18桁の識別番号を付与。すでに稼働している「信用中国(Credit China)」サイトでは、行政許認可と行政処罰の開示情報を対象者の氏名・名称や識別番号で検索することが可能となり、違法駐車歴も見られる。

借金不払いで強制執行を受けても返済しない人物のブラックリストも公開。債権者が裁判所に申請すれば飛行機や高速鉄道に乗れなくする措置も可能で、中国メディアによると、今年4月末時点で、裁判所による全国の信用失墜被執行者は1054万人、航空券購入制限者は累計1114万人、高速鉄道乗車券購入制限者は425万人に上る。市場監管総局によると、営業許可が取り消された企業は1848万社、経営異常企業457万社、厳重違法企業は33万社という。

顔写真、指紋などの「生体認証情報」を識別番号で個人にひも付けする「アドハー・システム」も完成。その上に住所や銀行の取引明細、職務経歴や病院での診察、納税状況などあらゆる個人データを組み合わせて一元管理する「インディアスタック・システム」もある。中国の「インターネット安全法」はネット事業者に政府への協力を義務付けており、これらの技術を駆使すれば人口14億人のどの人でも、それが誰であるか3秒以内に突き止められるデータベースづくりも可能とされる。

社会管理システムに中国政府が最も期待しているのは、国を支える経済への貢献。電子商取引などを手掛ける阿里巴巴(アリババ)集団の創始者・馬雲(ジャック・マー)会長は「旧ソ連が崩壊したのは計画経済ができなかったから」と指摘する。信頼できる正確なデータが取れず、間違った情報などを基に経済を運営してしまったとの趣旨だ。

馬氏の発言は「これからの中国は14億人のデータを使って計画経済を管理する。市場経済の見えざる手ではなく、計画経済の見える手で優位に立つ」ことを意味する。中国が目指すシステムが「デジタル・レーニン主義」と呼ばれる由縁でもある。

・中国、新車にRFIDチップを搭載 —— 全ドライバー追跡へ(BUSINESS INSIDER JAPAN 2018年1月21日)

•中国は新車にRFID(Radio Frequency IDentification)チップを搭載する計画を進めている。渋滞解消や公害防止、公共の安全が目的。
•車の所有者はチップをフロントガラスに取り付けることになる。同時に中国は国内の半導体産業の育成を図る。
•計画は2019年に本格展開され、それまでは希望者を対象に行われるとウォール・ストリート・ジャーナルは伝えた。
•中国は「監視国家」と言われる環境を作りつつある。車および顔認証テクノロジーが犯罪者の摘発以上の用途に使われることへの懸念が高まっている。

※中国はまもなく、新車の移動の追跡を始める。

2019年から中国では、新規登録された全ての車のフロントガラスにRFIDチップを取り付けることが義務化される。渋滞解消や公害防止、公共の安全がその目的。ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた。

この計画では、車のナンバープレートとカラーも登録される。道路沿いに設置された読取装置がRFIDチップを検知、通行情報は公安省に送られる。

中国の渋滞は極めてひどい状況、北京では500万台の車が走行している。世界保健機関(WHO)によると、中国では2013年、交通事故で26万人以上が死亡した。

だが、2018年7月1日から希望者を対象に開始されるこの計画には、習近平主席が描くもう1つの狙いがある —— 中国国内の半導体産業の育成だ。

International Business Strategiesによると、中国は「世界の工場」となっているにもかかわらず、中国で使用される半導体の90%が輸入、もしくは中国国内にある外資系企業で製造されている。数百億ドルもの資金が、国内での半導体の研究開発のための投資資金として投入されると伝えられた。

中国のスマートフォンメーカーZTEは、アメリカが同社への半導体等の部品の販売を禁止したことにより、事実上の倒産に追い込まれた。その後、中国政府関係者は、国内半導体産業の急速な育成について何度も会議を開いたと報じられた。

だが中国は、車にコンピューターチップを搭載する最初の国ではない。カリフォルニアでは、チップを埋め込んだナンバープレートのテスト運用が始まっている。ドライバーは自動車の登録更新を自動で行うことができ、一方、警察は盗難車の追跡が可能になる。

交通規則を無視した道路横断を繰り返す歩行者やクラクションをひんぱんに鳴らすドライバーを取り締まるなか、北京の警察は、乗員の顔とナンバープレートを数ミリ秒で認識可能な顔認証メガネの使用を開始した。

AI(人工知能)を使った顔認証メガネは、乗員の顔とナンバープレートを「ブラックリスト」とリアルタイムで照合、一致したときは赤い警告サインを表示する。

社会信用システムを全土で展開したい中国において、全ての自動車が追跡され、法的あるいは社会的なさまざまなブラックリストと照合されるようになるまで、それほど時間はかからないだろう。

[原文:China wants to track every driver by putting RFID chips on car windshields]

(翻訳:Makiko Sato、編集:増田隆幸)


・インド、日本、中国……アジアで監視システムが急速に広まっている(BUSINESS INSIDER JAPAN 2018年1月23日)

•相次ぐ暴力事件の後、インドの首都圏デリーは、全ての学校教室に監視カメラを設置する予定だ。
•東部の都市コルカタでは、いくつかの学校が1月、非接触型のIDタグを使った親が子どもの現在地を追跡できるテクノロジーを導入した。
•デリーの決定を含め、アジアでは監視手段の導入が急速に進んでいる。

インドの首都圏デリーでは、相次ぐ暴力事件の後、全ての学校教室に監視カメラを設置する予定だ。アジアでは、監視手段の導入が急速に進んでいる。

BBCによると、デリー首都圏首相のアルビンド・ケジリワル氏は、監視カメラは今後3カ月で全ての公立学校に設置されるだろうと述べた。

保護者は携帯電話にリアルタイムでストリーミング配信される、教室内の様子を見ることができる。

ケジリワル首都圏首相は先週ツイッターで、学校を監視することで「全てのシステムの透明性と責任」が担保されるだろうと述べた。

また、子どもたちの安全を守るためのセキュリティー対策も講じると言う。インドでは教育現場で起きたいくつかの暴力事件が注目を集めている。

9月、デリー警察は教室で5歳の少女をレイプした疑いで、学校の警備員を逮捕した。その数日後、近くの別の学校では7歳の少年が死体で見つかった。

インド東部の都市コルカタでも1月、非接触型のIDタグを使った親が自分の子どもの現在地を追跡できるテクノロジーを導入した。

政府はその活動をモニターするため、病院に監視カメラを設置することも提案している。

こうしたインドの監視手段の広がりは「反ユートピア的」で、学校施設に監視カメラなどを設置するのは、インドを「監視国家」に向かわせるものだと批判する声もある。

アジアで広がる監視

アジアでは、監視システムが普及し始めている。

雑誌エコノミスト(Economist)によると、2004年には大阪で、 子どもの現在地を追跡するための非接触型の自動認識技術RFIDを使った監視システムが導入された。また、ドバイでは最近、同じ技術を使って子どものスクールバスの乗り降りを保護者に報告しているという。

中国では、監視システムはさらに日常生活に溶け込んでいる。

遼寧省では、保護者が息子の学校に設置されている監視カメラの映像をソーシャル・メディアで投稿、波紋を呼んでいる。

ライブストリーミング・プラットフォーム大手の奇虎360は2017年12月、人々のプライバシーに対する懸念の声から、サービスを停止した。ここでは、学校教室やレストラン、スイミングプールなど、さまざまな公的な場所に設置されている監視カメラ映像が配信されていた。

中国の北西部、新疆ウイグル自治区では顔認証による監視システムの試験運用も始まっているという。監視対象者が自宅や職場以外を出歩いていると、当局に通報が入る仕組みだ。

市民のDNAや虹彩スキャン情報も収集、生体認証データベースに登録され始めていて、地域内の全ての乗り物は強制的にGPS追跡システムの対象とされている。

[原文:India will install cameras in classrooms amid a rise of surveillance measures in Asia]

(翻訳/編集:山口佳美)


・顔認証メガネで旅行者をスキャン —— 中国、すでに7人を駅で逮捕(BUSINESS INSIDER 2018年2月9日)

•中国の警官が、顔認証メガネの使用を開始した。
•テストでは、100ミリ秒(0.1秒)で顔を認識。
•すでに7人の容疑者を逮捕、26人が旅行を禁じられた。
•中国は顔認証技術の利用を拡大している。全国民を3秒以内で認識する国家規模のデータベースの稼働に向けて動いている。

※中国の鉄道警察は河南省の州都・鄭州市の駅で顔認証メガネの使用を開始した。

グーグルグラスに似たメガネは、今年初めに公表され、すでに7人の容疑者の特定に貢献したと人民日報は報じた。

メガネはデータベースとリンクし、旅行者と容疑者を照合する。照合に実際、どれくらいの時間がかかっているかは明らかにされていない。だが、メガネを開発した LLVision TechnologyのCEO、Wu Fei氏は、テストでは1万人のデータベースから100ミリ秒(0.1秒)で顔を特定したとウォール・ストリート・ジャーナルに語った。

現在までに、交通違反から人身売買のような犯罪まで、様々な容疑者を特定している。さらに偽の身分証明書を使っていた26人が旅行を禁じされた。

中国では、鉄道での旅行には身分証明書が必須。この規則は、多くの借金を抱えた人が高速鉄道を利用することや、身分証明書を没収され、パスポート取得が何年も拒否されているチベット仏教の僧侶・尼僧などの移動を制限している。

中国当局が顔認証にメガネを使ったのは初めてのことだが、顔認証技術は警官がすでに広く利用している。中国はまた、13億人の国民を3秒で認識するシステムを構築中だ。

こうした動きに対して、人権擁護団体は、プライバシーの侵害にあたると非難している。

「中国政府は、人々を顕微鏡の下に置くことで、“社会的な安定”を達成できると考えているようだ。だが、こうした酷い計画は政府への敵意をより強めてしまうだろう」とヒューマン・ライツ・ウォッチの中国部長、ソフィア・リチャードソン(Sophie Richardson)氏は以前、僧侶・尼僧などの監視に使われた別の顔認証技術について語っている。

「中国政府はこうした計画を即座に止めるべき。そして十分なインフォームド・コンセントなしに収集したデータをすべて破壊すべきだ」

顔認証メガネは、中国が旧正月を迎える前に導入されたようだ。旧正月の2月1日から3月12日の間に、3億8900万人が鉄道で移動すると予想されている。

・中国監視社会の実態、自由闊達な深センの「裏の顔」(DIAMOND online 2018年6月15日)

※香港特別行政区の北側に隣接する深セン市は、「中国のシリコンバレー」として、昨今世界中から熱い視線を集める新興都市だ。だが、自由闊達なイノベーションの一大拠点という輝かしい一面の裏には、治安維強化の厳しい現実があった。

深センの出入境ゲートで指紋と手の甲をスキャン

4月半ばの午前9時過ぎ、筆者は香港の繁華街・旺角から香港MRTの東鉄線に乗り、深セン市を目指した。香港の北端・東鉄線終点の羅湖駅に着いたのは午前10時。ここで下車するのは、観光目的で訪れる筆者のような、もの好きな外国人もわずかにいたが、多くは仕入れ目的の行商人だ。

車両から吐き出された乗客のほぼ全員が、越境ゲートを目指して歩く。眼下には、香港と深センの間を流れる深セン河に鉄条網が張り巡らされ、緊張感を醸し出す。境界となる細い川を渡るとそこは中国本土、空気はガラリと変わり「厳しい管理下」に置かれたことを察知する。天井にぶら下がるのは無数の監視カメラだ。いまどき日本でも監視カメラは珍しくないが、これほどの数となるといい気分はしない。

出入境ゲート(形態は空港のイミグレーションとほぼ同様)では、パスポートの提示だけでは済まされなかった。親指を除く四本の指の指紋に加えて、左右の手の甲のスキャンを要求された。指紋による認証は、2017年から深センのイミグレーションや越境ゲートで始まって全国で導入され、上海の空港でも、この4月から10本の指の指紋が取られるようになったばかりだ。

近年、中国政府は二重国籍者への取り締まりを強化していることから、生体識別を役立てるつもりなのかもしれない。とはいえ、吸い取った後の膨大な個人データは「どんな形で二次利用されるのだろうか」と不安になる。中国IT企業の成長は著しいが、その技術がこうした監視体制の強化に使われていることは間違いない。

手続きが終わり、深センでの第一歩を踏み出す。自由と法治の都市である香港から来た乗客らを待ち受けていたのは、全面真っ赤な共産党スローガンだった。習近平国家主席による新時代の「特色ある社会主義思想」の徹底を強調したものだ。

黒い制服組の公安が地下鉄内を巡回

出入境ゲートを抜けた筆者は、市街地に向かう深セン地下鉄1号線の始発駅を目指した。だが、地下鉄の乗車も簡単ではなかった。改札を過ぎると、手荷物はX線検査を通され、人間もまた金属探知ゲートをくぐる。手荷物の中にペットボトルなどの液体が確認されると、係員が取り出した上で、再度の安全確認を行う。そのセキュリティチェック体制は、まるで飛行機に搭乗するかのように厳重だ。

ちなみに上海でも、2010年に開催された上海万博と前後して、治安維持のための手荷物検査が地下鉄の全駅で導入されたが、これほど厳重なものではなかった。万博後もそのまま検査機器と検査係は残されたものの、これに応じる市民は少数で、むしろ「手持ち無沙汰な係員」が気の毒なくらいだった。

やっとの思いで地下鉄に乗ると、今度は “黒い制服組”が乗客と一緒に列車に乗り込んできた。背中には「列車安全員」とあり、扉が閉まるや、早速車内の巡回を始めた。全身黒づくめの制服なので、妙な威圧感がある。彼らはいわゆる「公安」で、2017年8月から深センで全面的に始まった治安維持のために巡回しているというのだ。

駅構内には、2人の公安に挟まれ尋問されている女性がいた。どうしたのかと見ていると、公安の1人が自分のスマートフォンを取り出し、動揺する女性に向けてシャッターを切った。身なりもごく一般的で、会社勤めとおぼしき普通の女性だが、彼女が何をしたというのだろう。深センではこんなことが公然を行われているのかと戦慄を覚えた。

中国では2015年に国家安全法が成立し、その後、毎年4月15日を「国家安全教育日」として、全国で教育強化を実施するようになった(今年から香港でもその導入が始まった)。これほどの警戒を高めるのは“治安維持月間”に重なったためなのかもしれないが、翻せば想像以上に治安が悪いのかもしれない。

隣接の香港で治安が悪化 無数の監視カメラが設置される

香港に戻り、筆者は香港屈指の繁華街・旺角の歩行者天国(西洋菜南街)を散策した。ちょうど週末だったせいで、夜の歩行者天国にはどこからともなくパフォーマーが湧き出し、それぞれに歌ったり踊ったり楽しんでいた。しかし、ここでも筆者は違和感を持った。やはり、設置されている監視カメラが多かったからだ。民衆のたわいもない自己表現の空間には、あまりにも不釣り合いなのだ。

歴史ある賑やかなホコ天も親中派と本土派の対立の舞台

学生が普通選挙を求め、中環(セントラル)を占拠した2014年の「雨傘運動」は記憶に新しいが、2016年にも市民のデモが地元警察と衝突する大規模な事件が起きている。

この歩行者天国は18年に及ぶ歴史があるが、一見、賑やかな“ホコ天”にも、実は「親中派」と「本土派」の対立抗争の舞台という裏の顔が存在していた。“香港独立分子”が潜在していることも、エリア一帯の監視体制を高める要因になっているといえそうだ。

もとより、深センと香港をまたぐエリアについては、博打やドラッグ、性風俗などで乱れた一面も存在する。そのため、「安全強化はむしろ歓迎」と言う声もある。しかし、国家が社会のあらゆる領域に統制を及ぼすかのような物々しい監視体制は、健全な市民社会の形成という観点からは明らかに逆行するものだ。

自由闊達な創造の空間、技術革新が進む一大拠点といわれる深センをこの目で見たいと訪れたが、目のあたりにしたのはもう一つの現実だった。習近平体制になっていまだかつてない厳しい監視社会が深センにも到来する中で、今後も新たなビジネスモデルやイノベーションは創出され続けるのだろうか。

・実は「儲かる」中国のサイバー統制——政治的安定とは別のもう一つの理由(BUSINESS INSIDER 2017年8月29日)

※「サイバーセキュリティ法」の導入に、ネット規制を回避するソフトウェアVPNの規制強化。SNSでの書き込みの実名登録化など、中国のサイバー統制が目立っている。

その一方、中国ネットサービス最大手の「アリババ」は、トランプ米大統領に100万人の雇用創出を約束……情報統制とは「非対称」にみえる地場ネット関連企業の隆盛との関係を読み説く。

「防火長城」の規制

中国ではGoogle、Facebook、Twitterなど、米国中心のネット検索大手やSNSにアクセスできない。LINE、インスタグラムも使えない。外敵の侵入を防ぐため築かれた「万里の長城」(GreatWall)をもじって、このネット情報検閲を「グレート・ファイアウォール(防火長城)」と呼ぶ。

6月1日に施行されたサイバーセキュリティ法は「サイバー主権の保護」を強調し、「ネット関連サービスは、中国基準に合致したもの」を外国企業に要求している。「社会主義的価値観」を強調しているため「情報統制」という見方が広がった。VPNへの規制強化と併せ、10月に開かれる中国共産党第19回党大会を前に、安定を揺るがす「芽」を摘み取るのが目的だろう。

しかし、狙いはそれだけではない。アリババと騰訊控股(テンセント)の2社の株価時価総額が40兆円を超え、世界の「トップ5」入りも近いというニュースを知れば、国内産業の保護育成という経済的利益こそが、隠れた狙いなのではないかと思えてくる。

Google撤退などで急成長した中国企業

規制が経済実利につながった例の一つがGoogleである。2006年に中国市場に参入した同社は一時、中国で30%を超えるシェアを獲得した。当初は、中国政府が要求した新疆、チベット、民主化運動などの情報規制をのんでいたが、アメリカで「検閲容認だ」との批判を浴びたため、2010年、中国から撤退した。

日本メディアは中国の情報統制を非難したが、その陰で急成長したのが、中国発の検索サイト「百度(バイドゥ)」と中国版Twitter「微博(ウェイボー)」、それに中国版ラインの「微信(WeChat)」などのネット企業だった。百度は、検索サイト市場ではGoogleに次いで世界2位に成長。微信は、スマホ決済など電子商取引をはじめ飛行機、鉄道の予約、流行のモバイク(乗り捨て自由のシェア自転車)使用に必需なアプリ。中国ではいまや微信なしに日常生活はできない。

Googleの例は、アメリカのネット企業が中国市場で自由に競争すれば、未熟な中国企業が成長できなくなるため、国内産業を保護、育成する狙いがあったことをうかがわせる。

スノーデン、雨傘デモの効果も

「スノーデン効果」もあった。米国家安全保障局(NSA)の元職員・エドワード・スノーデン氏は2013年6月、「NSAは中国本土も含め世界中でハッキングを行っている」と暴露。中国当局はこれを契機に米IT企業への締め付けを開始した。中国政府は企業に国産通信機器を使うように要求し、米ネットワーク機器企業の中国での受注は激減するのである。

2014年には日本のLINEが使えなくなった。同年秋、香港で民主化を要求する若者中心の「雨傘デモ」が炎上すると、インスタグラムも規制された。公式の理由説明はないが、SNSを通じ政府批判が拡大することを恐れたのは間違いない。一方、規制によって潤ったのが中国の通信機器産業。政治的風波を商機に転じたのである。

「サイバーセキュリティ法」もその要素がある。同法が外国企業に要求するのは「ネット関連で提供するサービスは、自国ではなく中国基準に合致したもの」と「中国で得たデータは、中国に置かれたサーバーで管理する必要がある」の2点。

外国企業からすれば、コスト増と情報流出のリスクがある。中国ビジネスにブレーキをかける企業もあるかもしれない。半面、規制で利益が上がるのは中国企業だ。情報規制が主たる目的のように見えるが、経済実利を狙ったしたたかさが透ける。商業資本主義に長けた「社会主義国」。

サイバー主権の論理

とはいえ規制の主要な狙いは政治にある。「共産党独裁の維持」と単純化するのは簡単だが、彼らの論理を社会構造と政治文化、歴史から分析すると、別のカオがみえるはずだ。

情報遮断の根拠は中国が主張する自国の「サイバー主権」だ。トランプ政権の登場などで、グローバル化に抗う内向きベクトルが優勢のように見える。しかしそれは幻想である。ヒト、モノ、カネが国境を越え、相互依存が深まるグローバル化は不可逆的であり、中国だけが独自の価値観を押し通すことはできない。それがネット世界である。

中国は世界第2位の経済大国に成長したが、豊かさは国民の権利意識を強め、意識の多元化は共産党の統治を揺さぶる。共産党前総書記の胡錦涛氏は「共産党は外部環境の変化と試練に対応できず、一党統治の維持は困難になる」と、危機感を露わにしたことがある。これがサイバー主権を根拠にネット規制する党の論理である。

上に政策あれば下に対策

規制はネットだけではない。共産党はこの春から中国の大企業約3000社に対し「党組織を社内に設置し、経営判断は党組織の見解を優先する」という項目を「定款」(会社の規則)に入れるよう要求した。

「党支配を優先する国有企業との取引には消極的になる」と言うのは、日本の大手企業の経営者である。「党の指導」と「自由な企業活動」は「水と油」の関係だ。だから矛盾が「妥協できない臨界点」に達するかもしれないと予測するのが「常識」だろう。

だが中国には昔から「上に政策あれば下に対策あり」という“非常識”がある。「上部の決定に対し、庶民は抜け道をあみだす」という意。「面従腹背」にもつながる。改革・開放政策の下で、多くの外国合弁企業が生まれたが、その中にも党組織があり、企業内では党組織の意思が優先した。ただそれはあくまで建前の話だった。

中国は、日本のような「タテ型秩序」が貫徹する社会ではない。戦乱と革命の歴史の中で、国家と政治への帰属意識は薄い。それが人々の意識を経済志向にさせ政治的無関心に誘導する。引き締めを繰り返すのは、効率的な国家運営に必要な「タテ型秩序」が根付かないからだ。

情報統制と聞けば、息苦しい監視社会を想像するかもしれない。しかし中国社会が「柳に風」の柔構造であることは覚えておいてよい。情報統制が導入されても、すぐ抜け道が編み出される。VPNへの規制強化も同じ。またイタチごっこの始まりである。


・ルール違反が続けば、飼い犬は没収! 中国で広まるペット規制と「信用スコア」(BUSINESS INSIDER JAPAN 2018年10月31日)

中国東部の山東省済南市では、責任ある犬の飼い主をランク付けする「信用スコア・システム」が導入されている。

2017年に導入されたこのシステムは、犬の飼い主に「免許」とポイントを交付し、リードなしで犬を散歩させたり、公共の場で騒ぎを起こすなどすると、減点される。
犬にリードをつけたり、そのふんを片付けたりする飼い主が増えていることから、システムの導入には効果があるようだ。

ここ数年、中国ではいくつものソーシャル・ランキング・システムが導入されている。上海では人の正直さを評価するアプリが導入されたり、自転車のシェア・プラットフォームが良い行動をした市民に見返りを与えるなどしている。

中国では2020年までに、全国民の行動を強制的に監視する社会信用システムの導入を目指している。

※犬にはリードを忘れずに。犬を吠えさせないように。ふんの後始末をするように —— 。

これらは、2017年から中国東部の山東省済南市でルール化されたものだ。Sixth Toneによると、同市では「犬の飼育に関する信用スコア・システム」を導入し、飼い主の責任を明確化している。

ここ数年、中国ではいくつものソーシャル・ランキング・システムが導入されている。上海では人の正直さを評価するアプリが導入されたり、自転車のシェア・プラットフォームが良い行動をした市民に見返りを与えるなどしている。

中でも注目すべきは、中国が国レベルの強制的なランキング・システムを導入しようとしている、ということだ。国民の行動を監視し、その「ソーシャル・クレジット(社会信用)」に基づき、彼らをランク付けする。プログラムは2020年までに完全運用される見込みで、パイロット・プログラムはすでに複数の都市で始まっている。

その仕組みとは?

済南市の犬の信用システムは、中国国内で広まっている他のランキングシステムと似ていて、人々の行動を改善しようとするものだ。

Sixth Toneによると、2017年1月にスタートしたこのプログラムは、犬の飼い主に登録を義務付け、免許とポイント(12点)を交付する。

首輪やリードなしで犬を散歩させたり、ふんの後始末をしなかったり、近所迷惑になるなどすると、減点される。一方、地元のシェルターでボランティアをするなど、良い行いをするとポイントが増える。

アメとムチ

このポイント・システムは機能しているようだ。

Sixth Toneによると、当局は8月、犬の飼い主の80%がリードを使っていると語った。同月、チャイナデイリーは、犬に噛まれたもしくは吠えられたという苦情が65%減ったと報じた。

このシステムを導入してから、1400人以上の犬の飼い主が罰金を科されたもしくはポイントを失ったという。

全ポイントを失った飼い主は犬を没収され、ペットを飼うために必要な規則に関するテストに合格しなければならない。

ある飼い主はSixth Toneの取材に対し、犬の登録時にはワクチンを接種し、マイクロチップを埋め込み、写真を撮られたという。その後、QRコード付きのタグを受け取ったという。このQRコードから、警察は飼い犬の犬種、年齢、ワクチン接種の履歴、飼い主の個人情報、免許のポイント数を知ることができる。

年間登録料に約50ドル(約5600円)を追加すれば、タグを使って犬の位置情報も分かるようになる。

また、この新たなシステムは、警察による未登録犬の回収にも役立っている。中国の法制日報は、この信用システムを賞賛し、国中で導入すべきだと呼びかけた。

中国では、さらに厳しい規制をペットの飼い主に課している都市もある。山東省青島市では、犬の飼育は1人1匹と定められていて、特定の犬種の繁殖を禁じている。

中国政府もまた、その国民を監視し、良い行動を奨励する幅広い手段を導入している。

同国では1億7000万個以上の防犯カメラと人工知能(AI)や顔認証技術を組み合わせて、その広い国土を監視し、14億とも言われる国民の行動を逐一チェックしようとしている。

[原文:Chinese dog owners are being assigned a social credit score to keep them in check — and it seems to be working]

(翻訳、編集:山口佳美)

・監視社会中国、学校に「スマート制服」導入 居眠りに警報(Forbes JAPAN 2019年1月4日)

※中国の政府系メディア「環球時報」が先日掲載した記事によると、中国南西部の貴州省と広西チワン族自治区の11の学校で、スマート制服を生徒に着用させる試みが始動した。この制服は現地のテック企業Guanyu Technologyが開発したものだ。

制服には生徒らの現在位置や行動を監視する2つのチップが埋め込まれており、教室で居眠りした場合や、許可なく校外に出た場合はアラートが作動する。

貴州省仁懐市の第11学校校長のLin Zongwuは、環球時報の取材に「学校関係者らはこの制服で、生徒の登校時刻や帰宅時刻を正確に記録し、データを親や教師たちに自動的に送信できる」と述べた。

各学校は顔認証システムを用い、制服のチップを照合しており、他人の制服を着用して校内に立ち入ることはできない。違反行為を発見した場合は警報が鳴り響く。

この試みは2016年の秋から始動しており、導入する学校数は大幅に伸びたという。ただし、一部からは批判の声もあがっている。ソーシャルメディアには「これではまるで刑務所のようだ」との書き込みが掲載され、「将来的には同じ仕組みが大人にも導入されるのではないか」との見方もあがる。

環球時報はこの制服が、プライバシー侵害の懸念を引き起こすと指摘した。この制服は学校外での生徒の行動を把握することも可能だ。

Lin Zongwu校長によると、校外での行動監視は現在、行わない設定になっているが、生徒が行方不明になった場合や、学校をサボった生徒を追跡する場合に利用される可能性もある。

これは、根本的な原理としては「iPhoneを探す」機能と同じテクノロジーではあるが、薄気味悪いものであることは確かだ。

・アプリで忠誠心試す中国、「習近平思想」強化狙い人海戦術(Bloomberg 2019年4月16日)

※中国が習近平国家主席と共産党への国民の忠誠をオンラインで試している。付与されたポイントのスコアで忠誠度を測るモバイルアプリを強化するため人海戦術に打って出た。

国営の中国中央テレビ局(CCTV)は新メディア部門向けに300人を募集。その半数がアプリ「学習強国」を管理を担当する。共産党総書記でもある習主席と党の「イデオロギー・政治行動との高水準の結束」を維持し、「社会主義の中核的価値観を実践」することなどが基本的要件だとする広告をCCTVがソーシャルメディアの「微信」に持つアカウントに今月掲載した。

このアプリは、2年前に改正された憲法に盛り込まれた「習近平思想」を広めるための最新の試みだ。今年1月に配信が始まるとすぐに米アップルの国内ダウンロードチャートで1位となり、官僚や党関係者の間でもよく話題にされている。

多くの政府職員にとって、このアプリの定期的使用は義務だ。ポイントを稼ぐことで忠誠を立証するよう命じられているのだ。どれくらい頻繁にログインしているかや投稿へのコメント、あるいはクイズへの回答に応じてポイントが付与されるのだと複数の官僚が匿名を条件にブルームバーグに語った。

これまでのところこのアプリ利用の執行ルールは省庁間でかなり異なるようだ。北京にいる1人の当局者はスコアがゼロだが、上司から何のおとがめもないと話した。だが職員による定期的なアプリ利用を確実にするための特別委員会を設けている地方当局もある。国務院新聞弁公室にアプリ使用に関する義務規定についてコメントを求めファクスで問い合わせたが返答はなかった。

中国人がインターネットに夢中になっていることに着目した指導部は、携帯電話を通じた国民へのアクセスを以前から戦略として採用している。2017年にはテンセント・ホールディングス(騰訊)が設計したアプリが、ストリーミング配信された習主席の演説に最も素早く称賛を送った利用者にポイントを与えた。
  
調査会社eマーケターは、中国では18年、大人がオンライン利用に1日当たり3時間を費やしたと推計。テレビ視聴より長い時間を充てており、その71%はモバイル端末だという。

・中国が世界54カ国にAI監視技術を輸出(Newsweek日本版 2019年4月24日)

スティーブン・フェルドスタイン(米ボイシ州立大学准教授)

※<デジタル技術の進歩によって、政府が国民を監視する能力は飛躍的に向上した。監視の先頭を行く中国は国内の少数民族を弾圧し、その技術を世界中の独裁者に輸出し始めている>

米テック大手マイクロソフトは、軍事研究を行う中国の大学と提携して、政府の監視と検閲の機能を強化する人工知能(AI)システムを開発している。両者の事業提携に米上院議員2人が公に批判の声を上げているが、懸念されるのは、中国の国防科技大学がマイクロソフトに望んでいることだけではない。

私の研究が示すように、デジタル技術による政治弾圧手法の登場は、国民と国との関係に大きな影響を与えている。新技術のおかげで、政府は国民を監視、追跡、調査する前代未聞の能力を手にしている。法の支配の強い伝統を持つ民主主義国の政府でさえ、こうした新しい能力を乱用しがちだ。

不可解な制度や人権侵害が多い国では、AIシステムがより大きな被害をもたらす可能性が高い。中国はその代表的な例だ。政権幹部はAI技術を熱烈に受け入れ、新疆ウイグル自治区に世界最新の監視システムを構築、住民の日々の動きとスマートフォン使用状況を追跡している。

中国によるこれらの技術の悪用は、世界の独裁者たちにとっては格好の手本となり、開かれた民主的な社会にとっては、直接の脅威となる。中国以外の政府がこのレベルのAIによる監視を再現したという証拠はないが、中国企業は同様の基礎技術を世界中へ積極的に輸出している。

進む警察のAI依存

人工知能システムは世界のいたるところに存在し、スマートフォンやインターネット検索エンジン、デジタル音声アシスタント、ネットフリックスの映画一覧表示機能を支援する。分析するデータ量の増加、アルゴリズムの向上、高度なコンピュータチップのおかげで、AIがいかに急速に拡大しているか、気づかない人は多い。

より多くの情報が入手でき、分析が容易になるときはいつでも、政府は興味を持つ――それは独裁政権だけではない。たとえばアメリカでは1970年代に、政府の情報機関(FBI、CIA、NSAなど)が公民権運動家や政治活動家、アメリカ先住民のグループを監視し、攻撃するための広範な国内監視ネットワークを設立したことが明らかになった。

こうした問題は消え去ってはいない。今日のデジタル技術のせいで、より多くの組織がもっと深く入り込んで対象を監視することができるようになった。

たとえば、アメリカの警察は積極的にAI技術を採用している。警官がパトロールをすべき場所を決めるために、犯罪が起こりそうな場所を予測するソフトウェアを使い始めた。また犯罪捜査にも顔認識とDNA分析を使用している。

だがこうしたシステムによる分析は、データが偏っていることが多く、アフリカ系アメリカ人は他のグループより犯罪に手を染めやすいという誤った判断を下すなど、不公平な結果につながりかねない。

100万人を恣意的に拘禁

独裁政権の国では、AIシステムによる国内の統制と監視の直接的な支援が可能になる。国内治安当局が大量の情報処理をする際も強い味方だ。処理すべき情報に含まれるのは、ソーシャルメディアの投稿やテキストメッセージ、eメール、電話など。警察はこうしたシステムから明らかになった情報に基づいて、社会の動向と政権を脅かす可能性がある特定の人々を割り出すことができる。

たとえば、中国政府は、国内の少数民族居住地域での大規模な取り締まりにAIを使用している。新疆ウイグル自治区とチベット自治区に対する監視システムは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する全体主義社会の市民に対する常時監視システムを思わせるところから「オーウェル式」と呼ばれている。

こうしたシステムには必ずDNAサンプル、Wi-Fiネットワークの監視および広範な顔認識カメラが含まれ、すべて統合データ分析プラットフォームに接続されている。米国務省によると、これらの制度を利用して中国当局は、100万人から200万人を「恣意的に拘禁」している。

世界54カ国に中国のAI監視技術が

私の調査対象は、タイ、トルコ、バングラデシュ、ケニアなど閉鎖的な独裁政権から欠陥のある民主主義政権まで、世界90カ国に及んでいる。この研究の過程でわかったのは、研究対象のうち54カ国に中国企業がAI監視技術を輸出していることだ。

多くの場合、このテクノロジーは、中国が最も力を注いでいる経済外交圏構想「一帯一路」の一部に組み込まれている。中国はこの構想のもとで道路や鉄道、エネルギーパイプライン、電気通信などの広範なネッワークに資金を提供。最終的に世界のGDPの40%を生み出し、世界の総人口の60%がこの経済圏で暮らすことを目標としている。

たとえば、中国通信機器大手ファーウェイやZTE社などの中国企業は、パキスタン、フィリピン、ケニアで、監視技術を組み込んだ「スマートシティ」を構築している。
フィリピンの先進商業地区ボニファシオ・グローバルシティでは、「犯罪の発見と交通管理のためのデータ分析機能を備えた24時間365日稼働するAIによる監視」を可能にするために、ファーウェイの高解像度インターネット接続カメラが設置された。

中国の画像・顔認識技術企業であるハイクビジョン(海康威視)やYITU(依图)、センスタイム(商湯科技)は、最先端の顔認識カメラを提供。国内監視プログラムの設立を発表したシンガポールは、国内にある街灯11万本の柱にこうした顔認識カメラを設置するという。ジンバブエは、顔認識に使用できる全国的な画像データベースを作成している。

ただし、高度な機器を販売して利益をあげることと、この技術を明確な地政学的目的で共有することとはまた別の話だ。こうした新しい能力は、世界規模の監視体制の素地を作ることになるかもしれない。政府は国民の管理や権力の維持にあたって、中国の技術への依存を深めていくだろう。だが今のところ、中国の主な動機は新技術の市場を独占し、その過程で多くの金を稼ぐことであるように思われる。

ニセ情報も作れるAI

広範囲にわたり、かつ精度の高い監視機能を提供することに加えて、AIは抑圧的な政府が利用可能な情報を操作し、不正な情報を拡散させる手助けもする。こうした活動は自動化することもできるし、特定の人やグループ、あるいは特定の個人向けのメッセージを展開することもできる。

AIはまた、非常にリアルな動画と音声の「ディープフェイク」と呼ばれる合成技術の進歩に貢献している。真実と嘘の境界を混乱させることは、選挙が接戦になったときには役に立つかもしれない。対立候補が現実とは異なることを話したり、行ったりするところを見せるニセ動画を作成できるかもしれない。

民主主義国の政策立案者は、自分たちの社会や世界中の全体主義政権の国で生きる人々に対するAIシステムのリスクについて慎重に考えるべきだ。

重要な問題は、中国のデジタル監視モデルをどの国が採用するのか、ということだ。だが、それは全体主義的な国だけではない。また売り込むのも中国の企業だけではない。マイクロソフトを含む多くの米企業――IBM、シスコ、サーモフィッシャーなどは、問題のある政府に高度な技術を提供してきた。AIの悪用は独裁国家の専売特許ではない。

・世界で監視カメラが多い都市 中国がトップ20中18を占める(NEWSポストセブン 2020年8月8日)

※英国の技術ウェブサイト「コンペリテク(Comparitech)」はこのほど、世界の都市の監視カメラ設置数ランキング20位を発表した。世界全体で最も監視カメラが多い都市は北京、2番目は上海で、それぞれ約115万台と約100万台。上位20位のうち18都市が中国だった。中国以外の都市で、ランキングに入ったのは3位のロンドンと16位のインド・ハイデラバードの2都市だけだった。

同社の調査では、監視カメラが増えても犯罪率は減らないことが分かっており、「中国政府が監視カメラを増やしているのは、国民を監視することが主な目的だ」と指摘している。

一方、監視カメラ1台当たりの市民数が最も少ないのは山西省太原市で、1台当たりでは10人で、北京の18人と比べると、ほぼ2倍となっている。次が江蘇省無錫市だった。中国では2018年には約2億5100万台の監視カメラが設置されていたが、2021年には監視カメラの総数は2倍以上の5億6700万台となる見通しだ。

中国国営の中国中央テレビ局は監視カメラの台数の増加によって、犯罪の発生率を下げることにつながると報じている。

しかし、ビデオ監視ネットワークと犯罪率の関係性について研究しているセヴェリーヌ・アルセーヌ香港中文大学助教授は香港メディアに対して、カメラの台数を増やし過ぎることについては懐疑的だ。

同氏は「ビデオ監視ネットワークがある一定の数字まで増加すると、それ以上増加しても犯罪率は減少しないことが分かっている。つまり、カメラの増加と犯罪の減少との間にはほとんど相関関係がなくなるということだ」と指摘する。

同氏は「監視カメラは公共スペースでの盗難事件や暴力事件を抑止することに効果を発揮するが、金融犯罪や脱税などの犯罪を減らすことにはまったく効果が期待できないことは明らかだ」と断言したうえで、「中国政府が監視カメラを増やす目的は反体制派や少数民族を監視するためであることが考えられる」とも主張している。

ネット上では香港市民から「上位20位に中国の都市が18も入るのは異常だ。中国が監視社会であることを物語っている。香港では国家安全維持法が施行されており、今後は我々香港人も中国の監視の対象になることは明らかだ。早く香港を脱出しなければ」との書き込みがある。