・種子法廃止 食料主権に重大な禍根(日本農業新聞 2018年3月30日)

※食と農の未来が危うい。稲、麦、大豆の品種開発や普及を都道府県に義務付けてきた主要農作物種子法が、今月末で廃止される。民間参入を促すためだという。来年度は全県でこれまでの供給体制を維持するが、根拠法を失えば、将来の不安は拭えない。基礎食料の種子という「公共財」がビジネスに支配されれば、食料主権を脅かすことになるだろう。

唐突な廃止劇だった。規制改革推進会議の廃止論に押されるように廃止法案が閣議決定されたのが昨年2月。2カ月後の4月には、わずか12時間の国会審議で成立した。改めて廃止の意味を問い直したい。

農業の成長産業化をうたい、生産・流通・販売の自由化を進める政権にとって、種子も例外ではない。種子法廃止の政府側の言い分はこうだ。国策で食料増産を進めた戦後とは社会状況が違う。多様な要望に対応するには民間ノウハウが必要だ。だから民間企業の参入障壁になっている種子法を廃止する。

民間の知恵や技術は大いに活用すべきだが、そもそも種子法に民間参入を阻害する規定はない。確かに一般企業が開発した稲の奨励品種はない。それは多額の費用と期間がかかり、市場性や採算が合わないという経営上の理由にすぎない。

農水省は「競争条件の同一化」を掲げ、民間参入を促すために育種素材などの「知的財産」を企業に提供するよう促す。同省は、国益を損なう知財の海外流出や多国籍企業による寡占化、種子価格の上昇などの懸念を否定。種子供給の事務経費も引き続き地方交付税交付金で措置し、全都道府県が来年度予算案で前年同程度の種子関連予算を計上しており、廃止の影響はないと説明する。

昨年11月の農水次官通達でも、都道府県の種子関連業務を直ちに取りやめることは求めていないと説明。一方で、民間事業者の参入が進むまでの間は、種子生産の知見を維持し、民間に提供する役割を担うと言及している。公的試験研究機関が種子ビジネスの「下請け」にならないか不安が募る。

ただでさえ自治体は財政難に苦しむ。条例で優良種子の安定供給を継続する県もあるが、将来、法の切れ目が予算の切れ目とならないか現場は不安を抱える。民間参入に比例して公的機関の役割が縮小し、基礎研究が衰退することを危惧する。

廃止に伴う国会の付帯決議では、主要農作物種子の生産・流通について都道府県の取り組みが後退しないよう地方交付税措置、国外流出防止、適正な価格での国内生産、特定事業者による種子独占が起きないよう求めている。こうした不安や懸念がある以上、担保する立法措置が取られてしかるべきだ。

種子を制するものは食料を制する。食料主権をないがしろにする国は、食と農の未来に責任を持たない国である。種子法廃止はそれほど重い意味を持つ。

・種苗の自家増殖 「原則禁止」へ転換 海外流出食い止め 法改正視野、例外も 農水省(日本農業新聞 2018年5月15日)

※農水省は、農家が購入した種苗から栽培して得た種や苗を次期作に使う「自家増殖」について、原則禁止する方向で検討に入った。これまでの原則容認から規定を改正し、方針を転換する。優良品種の海外流出を防ぐ狙いで、関係する種苗法の改正を視野に入れる。自家増殖の制限を強化するため、農家への影響が懸念される。これまで通り、在来種や慣行的に自家増殖してきた植物は例外的に認める方針だが、農家経営に影響が出ないよう、慎重な検討が必要だ。

自家増殖は、植物の新品種に関する国際条約(UPOV条約)や欧米の法律では原則禁じられている。新品種開発を促すために種苗会社などが独占的に種苗を利用できる権利「育成者権」を保護するためだ。

一方、日本の種苗法では自家増殖を「原則容認」し、例外的に禁止する対象作物を省令で定めてきた。その上で、同省は育成者権の保護強化に向け、禁止対象を徐々に拡大。現在は花や野菜など約350種類に上る。今後は自家増殖を「原則禁止」し、例外的に容認する方向に転換する。そのため、自家増殖禁止の品目が拡大する見通しだ。

同省は、今回自家増殖の原則禁止に踏み込むのは、相次ぐ日本の優良品種の海外流出を食い止めるためと説明。自家増殖による無秩序な種苗の拡散で、開発した種苗業者や研究機関がどこまで種苗が広がっているか把握できないケースも出ているという。中国への流出が問題となったブドウ品種「シャインマスカット」も流出ルートが複数あるとされる。

民間企業の品種開発を後押しする狙いもある。2015年の品種登録出願数は10年前と比べると、中国では2・5倍に伸びているが、日本は3割減。日本の民間企業は野菜や花の品種開発を盛んに行うが、1本の苗木で農家が半永久的に増殖できる果樹などへの参入は少ない。このため同省は、育成者権の保護強化で参入を促す。

仮に自家増殖を全面禁止にすれば、農業経営に打撃となりかねない。同省はこれまで、農家に自家増殖の慣行がある植物は禁止対象から外し、農業経営への影響も考慮してきた。今回の原則禁止に当たっても、一部品種は例外的に自家増殖を認める方針だ。

自家増殖の原則禁止は品種登録した品種が対象。在来種のように農家が自家採種してきたものは対象外で、これまで通り認められる。

昨年政府がまとめた知的財産推進計画では、自家増殖について「農業現場の影響に配慮し、育成者権の効力が及ぶ植物範囲を拡大する」と掲げている。
 
・種苗の自家増殖 原則禁止に懸念 政府は理解求める 参院農水委(日本農業新聞 2018年5月16日)

※参院農林水産委員会は15日、一般質疑を行った。農家による種苗の「自家増殖」を原則禁止にする政府の方針について、野党は農家経営への影響が懸念されると批判。政府は、原則禁止は国際的な流れなどとして理解を求めた。生産現場にどのような影響を与えるか、今後も丁寧な議論が求められそうだ。

農水省は、農家が購入した種苗から栽培して得た種苗を次期作に使う自家増殖は、種苗法で「原則容認」とし、例外的に禁止する作物を省令で定めている。今後は、自家増殖を「原則禁止」にし、例外的に容認する方針。種苗会社などが独占的に種苗を利用できる「育成者権」の保護へ自家増殖を原則禁じる、植物の新品種に関する国際条約(UPOV条約)との整合性を高める。

国民民主党の徳永エリ氏は「(自家増殖は)原則容認されている。なぜこれが禁止になるのか」と追及した。これに対し、同省の井上宏司食料産業局長は、UPOV条約に沿って、パブリックコメントを行うなど農家の声も把握した上で、自家増殖を例外的に禁止する植物の選定を進めてきたと説明。これまでの経緯を述べるにとどまった。

徳永氏は日本が2013年、植物の種子など遺伝資源に関する農業者の権利を保障する植物遺伝資源条約を国会承認していることも指摘。「なぜ種子開発企業のメリットとなる(UPOV)条約を優先し、農業者の権利が書いてある(食料・農業植物遺伝資源)条約をないがしろにするのか」と迫った。

井上局長は、自家増殖の禁止は新品種の開発を促し農家の利益にもつながり、食料・農業植物遺伝資源条約によって制限されるものではないとの考えを説明した。

・バイエルによるモンサント買収、米当局が週内に承認の見通し-関係者(Bloomberg 2018年5月28日)

※ドイツのバイエルは米モンサントを660億ドル(約7兆2400億円)で買収する計画について、今週中に米当局の承認を得る見込みだ。事情に詳しい関係者1人が明らかにしたもので、世界最大の種子・農薬会社誕生に向けた最後の規制上の大きなハードルが取り除かれる。

米当局は当初の合意内容では両社の統合が競争を損なうと懸念。このため両社と米司法省は懸念解消のための複雑な取り決めを目指し交渉してきた。数カ月にわたる交渉を経て、合意は29日にも発表される可能性があるという。

種子・農薬分野の合併・買収(M&A)では、米欧当局が昨年、ダウ・ケミカルとデュポンの合併と、中国化工集団(ケムチャイナ)によるスイスのシンジェンタ買収を承認。2年前に合意が発表されたバイエルによるモンサント買収も実現すれば、同分野は巨大企業3社が支配することになり、一部の農業関係者は価格上昇と選択肢の減少につながると懸念していた。

バイエルとモンサント、米司法省の担当者はいずれもコメントを控えている。

・講演 「優良種高騰を危惧」 山田元農相、種子法廃止受け/京都(毎日新聞2018年6月1日)

※元農相で「日本の種子を守る会」顧問の山田正彦弁護士が京都市でこのほど、4月の種子法廃止による農業の影響について講演した。同法は米、麦、大豆の在来種を国が管理し、自治体に原種・原原種の維持や優良品種の普及を義務付けていた。山田氏は「主要穀物の種子が全て民間会社に任されると、農家は安く入手していた優良品種の種子を高値で購入しなければならなくなる」と訴えた。

山田氏は2014年の世界商品種子市場で、モンサント(米国)を筆頭に海外種子メジャー上位8社の占有率が78・1%に上る状況を説明。米国内のトウモロコシと大豆の種子市場に限ると、モンサントなど2社でそれぞれ6~7割のシェアを占めるという。種子は特許を取れば大きな利益になるとされる。

日本で企業から購入した米の種子の価格は公共品種の4~10倍になっているといい、海外種子メジャーが日本市場を席巻した場合、「主要穀物の種子は自給が危うくなり、食糧安全保障の危機につながる」と指摘した。

昨年11月の農林水産省事務次官通知は種子法廃止後の都道府県の役割として、民間の参入が進むまでの間、事業者に種子の生産に関する知見を提供する役割を担うと示した。山田氏は「背景に世界の種子産業(の圧力)があるのではないか」と疑問を投げかけた。

講演は農業法人「日本豊受自然農」主催のシンポジウムで約200人が参加した。


・タネが危ない!わたしたちは「子孫を残せない野菜」を食べている。~野口のタネ店主 野口勲さん(2016年6月22日)

http://nextwisdom.org/article/1156/

※世界の人口が70億人を超え、膨大な人口を限られた資源で支えるためにさまざまな品種改良や農薬や化学肥料の開発、生産方法の開発が行われてきました。その究極とも言えるのが作物の遺伝子や種子に手を加えること。

いま世界の農家で使われているほとんどのタネが「F1」と呼ばれる一世代限りしか使えないタネ。そしてF1の中でもオシベがない「雄性不稔」と呼ばれる、生物学的には異常なタネが増えていると言います。

食糧生産の効率化のために増え続けるF1のタネ、その一方で私たちの食の安心や安全への意識は高まっています。このジレンマをどのように解決すればよいのか。著書や講演でF1種子の危険性を訴え、在来のタネを守る活動を広めている「野口のタネ」店主、野口勲さんにお話をお聞きました。

<プロフィール>

野口のタネ・野口種苗研究所代表 野口勲さん

1944年生まれ。

全国の在来種・固定種の野菜のタネを取り扱う種苗店を親子3代にわたり、埼玉県飯能市にて経営。

伝統野菜消滅の危機を感じ、固定種のインターネット通販を行うとともに、全国各地で講演を行う。

著書に「いのちの種を未来に」「タネが危ない」、共著に「固定種野菜の種と育て方」等。

野口のタネ・野口種苗研究所(http://noguchiseed.com/)


おいしさの8割はタネで決まる

現代の農業では、おなじ規格のものを大量に作ることが農家に求められています。そして、規格通りの野菜を作るためには「F1」のタネを使わなければならない。「F1(雑種第一世代)」のタネから育った野菜は、みんな同じ成育のしかたをし、型にはまったようなかたちになり、そして同じ時期に収穫できます。つまり、出荷しやすく、売りやすいということです。

一方で「在来種」や「固定種」と呼ばれる、昔から使われているタネは一粒一粒に特徴があり、多様性があり、早く育つものもあれば遅く育つものもある。葉の形を見たり、成育の状況を見ながら、大きくなったものから収穫します。一度タネをまけば長い間収穫できますが、需要に合わせてまとまった量を定期的に出荷することができないから、お金にするのは難しい。でも味も昔の野菜そのままで美味しいので家庭菜園に向いています。そして、いくら無農薬や有機肥料で育てても、味を決める8割はタネ、本当に昔ながらの美味しい野菜を食べたいなら在来種を自分で育てるしかありません。

だから私は家庭菜園のタネの店として在来種や固定種を売っていて、買う人もほとんど個人の方です。あくまでもタネを売る店で、育てるのはお客さんなんですね。講演会をやると7割以上の人が30代〜40代の女性ですが、質疑応答の時間になって必ず最初に受ける質問は「そんな野菜はどこで買えるんですか?」と。だから私は毎回「買えません、自分で育ててください。」と言うんです。実際、固定種の栽培は都内でやるほうが向いています。

なぜかというと日本の野菜はアブラナ科のものが多くて、かぶ、なっぱ、大根など交雑しやすいんですね。自家採種、自分でタネ取りするためには混ざりやすい野菜から隔絶した場所でやらなければならない。都内は畑がないから種採りするのがラクなんですよ、そばに同じような野菜がないから。そもそも、最近のF1野菜は花粉ができないから交雑しない、種を汚染しないのですが。タネ取りを都内の庭や畑でやるのはオススメできます。

ただ、F1野菜はいまの社会に必要なんですよ。昔は日本の8割の人がなんらかの農業をやっていました。お侍だって自分の畑を耕して野菜を育てていました。それがどんどん工業化が進み、高度成長期になると農村部に残って食べ物を育てる人が少なくなった。いまの日本では、215万軒(H27時点、農水省統計)の農家が1億2000万人の食べ物を作っているわけです。だから効率が良くないといけないし、周年栽培(1年中栽培すること)して供給しなければならない、だから社会全体の食の需要を賄うにはF1のタネが必要なんです。

ただ、そのF1の作りかたにもいろいろあって、人工授粉でやっていた時代や、アブラナ科の自家不和合性(自家受粉しない性質)を利用してやったり、自然の植物が持つ特性を活かして作られるF1に対しては、私も反対なんてしてなかったのですが。
いま、どんどん「雄性不稔」というオシベを持たない異常な株を利用して作られたタネが増えて、花粉ができない、子孫ができない、そういう野菜が増え続けていて、これが危険なのではないかと訴えている、危惧しているんです。

オシベがない、タネができない「雄性不稔」

雄性不稔を使ったF1の技術はアメリカでできたもので、それがいま世界標準になっています。もともと日本にあったF1のタネはアブラナ科の野菜から作られていました。しかしアブラナ科の野菜は海外にほとんどないんです。菜っ葉なんて食べているのは日本、韓国、中国くらい、欧米ではあまり食べないんです。

日本独特のF1技術というのが自家不和合性というもので、これを日本で採種していたときはよかったんだけど、タネ取りをする農家がいなくなって、F1の需要が増えて、それだけの量を日本で生産するにはコストが見合わなくなった。

だから父親と母親のタネの原種を渡して、採種をほとんど海外に任せるようになった。でも海外では母親を雄性不稔にして花粉のでない株をつくり、それを使ってタネを作るようになった。いま日本のタネがどんどん雄性不稔に変えられているんです。日本人の主要な食べ物である菜っ葉などが雄性不稔になって、それを日本人が食べるということ。だから私はいま危機感でいっぱいなんです。

雄性不稔の野菜かどうか、スーパーに並んでいるものを見てもわかりませんが、花を咲かせればすぐにわかります。試しに、スーパーで売っている大根やニンジン、タマネギなんかを庭に植えてみてください。やがて花が咲きますが、その花の先を虫眼鏡でよく見るとオシベがありませんから。オシベがない野菜ばかりになってるんです。つまり子孫を残せない野菜ばかりを食べてるんです、私たちは。それは危険なんじゃないのかと。でも誰もそんなこと知らないし、知ってるのはタネ屋だけだけど、タネ屋はそんなこと何も言わない。だからだれも知らないんです。

もし私が死んで、こういう固定種や在来種のタネを扱う店がなくなってしまったら、もうどこにもなくなってしまう。だから今のうちに私のところからタネを買って、自分で育てて、それを子孫に繋いでくれ、と言って回ってるんです。

誰もタネを採らなくなった

いまうちで販売しているタネも、どんどん種類が減ってきています。日本の菜っ葉は交雑しやすいので、すべてのタネを一カ所で自家採種することは難しい。例えばうちはカブのタネを採ってるんですが、カブをやると菜っ葉のタネは取れないんです。みんな交雑しておかしくなっちゃうから。菜っ葉の下がカブになってしまったり、カブの葉っぱが小松菜になっちゃったり白菜になっちゃったりするから。だからカブ以外のタネは他所から買うしかないんです。だからどんどん減ってるんです。

タネを採る人がいなくなったから、タネもなくなってきているんです。タネは採るものじゃなくて買うものだという時代になってしまったから。いまタネ採りの仕方を知っている農家は、80~90歳くらいの人だけ。その下の世代の50~60代の人たちはタネを採るなんて面倒くさい、それよりも買った方が安いし楽だしお金になる野菜ができると考えています。

タネを採るためには9月にタネをまいて、12月にだいたい野菜ができる。そのなかからいいものを選んでもう一度植えて、そして3〜4月に花が咲いて そのタネを採れるのが7月になる。一枚の畑をそれだけの期間占領してしまうんです。でも今の農業は同じ畑をいかに回転させて効率よくお金にするかという農業だから、半年以上ムダなことに畑を使うなんてもったいないという考えなんですね。

だから僕の話を聞いたり本を読んだ人から「種採りをしたいんですけど、どうすればよいですか? 採るのは難しいですよね?」とよく訊かれるんですが、難しいことなんてないんです。植物は人間に食べられるためじゃなくて、自分の子孫を残すために生きてるんだから、ほっとけばみんなタネになるんです。

昔は世界中の何億人という農民がみんなやってきたことなんです。それが昭和30年代後半くらいからF1のタネができて、形のいい揃いのいい市場で売れやすい野菜ができるというので農家がみんなよろこんで買って、そしてタネを自分で採ってみた。すると先祖帰りしてしまって、次の代ではめちゃくちゃなものしかできないということがわかった。そこからタネはもう採るもんじゃない、買うもんだ、ということになってしまった。昭和50年代くらいからタネ採りをする農家はなくなってしまいました。

日本のタネは外国製?

大手の種苗会社はF1か雄性不稔か自家不和合性かなんて言う必要がないから自分からは言わない。雄性不稔か自家不和合性かなんて訊いても絶対に教えてくれない。JAで売られているのもほとんどF1で、しかも古いタネです。そして、いまのF1のタネはほとんど海外採種になってしまいました。海外から入るF1のタネと国内で採る固定種のタネの値はそんなに変わらない。海外の方が安く入る場合もあります。

昔は海外の種採りメーカーも、1エーカー作らせてくれたら何でも採りますよ、ぜひ依頼してくださいと言ってたのが、いまでは5エーカー作らせてくれないと採ってやらないぞ、ということになってきて、5エーカーというと2町歩、2ヘクタールのタネというと何トンもの量になる。それが海外でできると、アメリカやイタリアなどの北半球では日本と同じように7月ころにタネが実って、それが船に乗って日本の神戸か横浜について、港の植物検疫所で菌や虫の卵が付いていないか検査されて、そのあと日本の種苗会社に入ってくるわけです。

昔の種苗法という法律では、採取年月を表示する義務があったんですが、海外採種のタネが日本に入ってくる頃には蒔き時を過ぎるので、古いタネを次のシーズンに売ることになってしまう。そこで農水省と大手種苗会社で相談をして、最終発芽試験から1年間有効という表示に法律を変えてしまった。そのために、何トンというタネが、採取から半年後に日本に入ってきて、農水省が何億もの補助金を出して作った種子貯蔵庫に保管する。

その中に入っている限り発芽率は落ちないという前提で、温度は15℃以下で湿度が30%以下、タネの保存に最適な環境を作り出す。タネは呼吸しているから、梅雨時から真夏にかけて呼吸作用が増えて体力を消耗して、夏を過ぎるころにはガクンと発芽率が落ちてしまう。ところが、湿度温度が一定のところで保管すると発芽率はそんなに落ちない、5年経っても10年経っても。農水書の決めた標準発芽率をクリアしている限り、いつでも新しいタネとして売ることできるんです。

「タネなし」を好む現代人

うちのお客さんは大きく二つのピークがあって、ひとつは70代から80代の方。会社を定年退職して、いままではスーパーで買っていた野菜はどうも美味しくないから、自分で有機栽培して、昔に食べたおいしい野菜を食べたいと思って栽培を始めたけどどうも昔の味にならない。理由を調べると、やっとタネが違うからだということに気が付いて、うちから買うようになった人たち。もう一つは30代から40代の方で、子供が生まれて、健康に育てたいという人たち。その間のお金を稼ぎたい年代の人たちは一切興味がない。

いまの人の「美味しい」は、甘くて柔らかいもの、生で食べられるもの。昔の大根なんて堅くて辛い。なぜかというと細胞のひとつ一つが緊密で均一だから。F1だと固定種で3〜4ヶ月かかるところを2ヶ月で収穫してしまう。2ヶ月で成育するということは、細胞が水ぶくれのようにフニャフニャで、その細胞を維持するために細胞壁が強くなって根が崩れるのを防ぐ。だからいまの大根を大根おろしすると水分でペチャペチャものが出てきて、おろし金の方には繊維が残って付いている。昔の大根をおろすと均質なものになります。いまの大根はすぐに煮えますが、昔の大根は時間をかけると辛みが甘味にかわる、味も全然違うんです。

いまの子供はトマトにタネがあるのも嫌がるという。タネがないものがおいしい野菜なんです。子供がよろこぶからという理由で、トマトまで雄性不稔になっています。本来植物は人間に食べられるために生きてるんじゃない、タネをつくって子孫を残すために生きている。そのタネを邪魔だというような世の中になってしまったんですね。

種を未来に残すために

最近モンサントが新たにはじめたことが、「組み替えなしで高速育種」「完全野菜」というタイトルで紹介されています。これからはこれだと、モンサントが一生懸命進めようとしているのですが、交配技術で作るということは雄性不稔で作っているのではないかと。ミトコンドリア異常で子孫をつくれない野菜を交配してできたF1の野菜を完全野菜と称して世界中にばらまこうとしているのではないかと懸念しているんです。

タネが採れないということは、タネを盗まれないということ。自社の技術を独占できるということなんです、こんなに簡単なことはない。遺伝子組み換えというのは花粉にまで遺伝子が含まれていますから技術を独占できない。誰かがタネを採ろうと思ったら取れてしまう、だからいまは特許で縛っています。でも雄性不稔にすれば、花粉そのものがなくなるから、タネが盗まれる心配はない。タネさえ持っていれば独占できる、大もうけできるわけです。

昔は世界で何億人もの農家たちがみんなタネ採りをやっていたから、タネを支配しようなんてことはできなかった。しかしタネは買うものになったら、種苗会社を吸収してどんどん大きくしてモンサントみたいな巨大企業になってタネを独占すれば世界の食糧を支配できる、つまり世界を支配できるんです。

私もよくタネ屋なのになぜ自家採種をお客さんに勧めるんですか、と聞かれるんです。タネを売って儲けるだけなら、こんな商売はしていません。自家採種して一軒だけでも自分の家族は健康に育てたいとタネを採ってくれていれば、もし世界中のタネがモンサントに独占されたり、そのタネのせいで人類が滅亡するとなったときに、日本中の家庭菜園のどこかに固定種のタネが残っていれば、その健康なタネを元にして、また増やすことができる。もう一度人類を復活させることができる。そのために固定種と在来種のタネの販売を続けているんです。

タネを残す「ノアの方舟」は機能するか?

いまビル・ゲイツなどがノルウェー国家と一緒になって「最後の審判の日のための種子」と称して、もしも人類が滅亡するような時があったらそのタネで生き抜こうという目的のためにタネの保管庫を作りました。ところがそれは、零下18度から20度で冷凍保存されたタネは1000年でも2000年でも生き続けるという学術論文に基づいて行われていて、その論文を書いたのが日本の農水省のジーンバンクです。

ジーンバンクでは1980年代に、このまま雄性不稔のF1が増えていったら日本のあちこちにある在来種が消えてしまうと危惧して、それで日本中の種子屋が協力して種を集めて保存しているんです。そこではただタネを保存しているだけじゃなくて、各県の園芸試験場や育種団体、種苗会社などに新しいタネをつくる素材として譲ることもしています。

保存庫からタネを出すとき、零下18度からいっぺんに外に出すと体内の水分が膨張してタネの細胞を殺してしまうのでゆっくり常温に戻して、それを数グラム5000円で分けてくれる。しかし、ある種苗会社から聞いたのは、筑波のジーンバンクからF1品種の菜っ葉をつくろうとして十何品種手に入れたけど、芽が出たのは一つだけだったよと。

理論上は1000年でも2000年も生きてるはずですが、たかだか30年くらいでタネが死んてしまう。要するにタネの持っている生命力、代謝を止められた生命というのはそんなに長く生きるもんじゃないということです。その理論に基づいてノルウェーでやってるんだから、あれはおそらく壮大な無駄遣いになるでしょう。ホームページによると大根だけでも500種類くらい、だいたい1種類500粒くらい、うちで売ってる一袋の分量しか保存されていない。

筑波のジーンバンクでも最初の理想としては、ただ一カ所に保存するんじゃなくて10年か20年たったら筑波の畑に蒔いて、もう一度タネを更新して、また保存するという決まりでした。いまは委託先の団体がタネの更新をしているみたいですが、それがノルウェーになると氷河の下に穴を掘って保存しているタネ、たかだか一種類500粒くらいのタネを更新しようとしても外は氷の世界だし、ただただムダに保存しているだけだと思いますね。

タネを残すために、私たちにできること

一時期のEUではEU内各国で農作物の共通の価格を維持するために、国に承認されたタネしか売買や流通ができなくなり、各国の政府の審査と認可が必要になりました。イギリスだと1品種あたり70万円の認可料で、特にフランスでは勝手にタネを採って流通させたら罰せられるという状況になった。自家採種したタネを交換した罪で多くの農家が投獄されましたが、最近は緩和されたようです。その理由が、認可された新しいタネの野菜より昔の野菜の方が美味かった、流通する品種が減ることは生物多様性の上で問題であると。

フランスでは4000〜5000人規模の「ココペリ」というタネを交換する団体があり、タネを自由に売買できないので、会員制の組織を作って年会費を払って、カタログに載っているタネを会員が無料でもらえる仕組みができました。育てた野菜は流通させずに自家消費して、採ったタネをまた会に送り返す。そのようなやり方で多様性が維持されています。

このままだと世界はお金持ちや大企業の思う方向に進むだけであって、その中で私たち個人が生き延びるためには、自分でタネをまいて野菜を育てて、それを食べて、自分でタネを採って、それを自分の子供につなぐしかないと思っています。

それをやるかやらないか、それはあなたがたの問題です。うちはタネを提供するだけです。そして一度買ったタネは二度とうちから買わないでほしい、タネをちゃんと採って欲しい。あなたの土地に合ったタネを育てて欲しい。それが野口のタネの営業方針です。


・種子法廃止の次は種苗法改悪の目論見!モンサント利権の為の布石としか思えない。多国籍企業の利益代理人に占拠された政府。国賊一味の魔手から日本人の食を守り抜かなければならない!

https://kokuhiken.exblog.jp/29505142/

〇種子法廃止の次は種苗法を改悪し種苗の自家増殖を原則禁止にしようとしている。「種苗の海外流出の防止」ともっともらしい口実を付けているがモンサント利権の為としか思えない。何が「原則禁止は国際的な流れ」か。モンサント(※種子会社の象徴)がそうさせているのだろう!多国籍企業の下僕達。

〇モンサントは「F1」と呼ばれる一世代しか発芽しない種子を開発した。モンサントの種苗は特許で保護され米国などの農家は毎年モンサントから種子を購入しなければならなくなった。種苗の特許である育成者権を強化する事は如何にも国産種子の保護目的に見せているがモンサント利権を見越しての事だろう。

〇自家増殖を「原則禁止」とし在来種やこれまで慣行的に自家増殖が認められてきた植物は「例外」とするとしている。これは反発を避けながら徐々に事を進めていくいつもの手口である。あくまで「原則」は自家増殖は禁止で、そのうち「例外」を撤廃しようと目論んでいるのだろう。

〇種子法の廃止で外資が参入しやすい条件を作り、種苗法の育成者権を強化して外資が開発した種苗を保護しようという目論見だと見る。これは以前に指摘した事である。種苗法は日本人の育成者権だけを保護するのではない。外国人や外国法人のそれも保護対象である。「種苗法は日本人だけではなく原則日本に住所や居所を持つ外国人や外国法人も適用対象としている。日本に営業所を持つ外国資本なら種苗に関する特許の取得が可能という事では。例えば各都道府県が農業競争力強化支援法に基づき蓄積した種苗の知見を外資に提供し、それに基づき新開発すれば外資の特許に。」

(了)