・今さら聞けないISD わかりやすいISD条項資料をプレゼント 本当はみんな知らないISD
2013年12月24日
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2013/12/post-550e.html
※この間、ほとんどの弁護士が、ISD条項を知らないという事態に少し驚かされた機会があった。
マスコミはTPPを一貫して農業対その他の産業という対立構図で問題を伝えるし、国民に知られる前にISD条項の問題はすでに決着済みみたいに報じられている。
これでは何年経とうが、ISD条項の問題性を知る機会はないと言えるだろう。
TPPは、秘密保護法と同等か、それ以上に深刻な問題を提起するものなのに、ほとんど国民には実態が伝わらないまま、あまりにも密室でことが運びすぎている。
ISD条項について、これまででどうも一番わかりやすいという評判はプレイボーイ9月23日号(9月9日発売)に掲載された『ISD条項+“強欲資本主義が日本を壊す』の特集記事のようだ。
で、もう販売妨害にもならないと思うので、僕が主として取材を受けたこの記事のPDF版を次にアップしておこう。
以下のリンクからダウンロードしてくださいな。
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/files/playboyISDS.pdf
僕は、取材に対して、いつも決して大げさにも、不正確にも答えていません。
話が大げさに聞こえるとすれば、それは、密室で進んでいることが、普通に考えて、国民の立場では、ISD条項が、とんでもない代物だからです。
身近な人に教えてあげるといいのだ。
・TPPのISD条項、それは国民主権から外国投資家主権への権限委譲を明確に規定したもの。
※TPPの大きな問題のひとつである「ISD条項」
これは、投資家の私設法廷が国の法を上回る権限を持つ事を認めるものであり、国民主権から外国人投資家主権への移行であるとしたわかりやすい記事がありましたので紹介します。
(1)ISD( Investor-State Dispute Settlement )は憲法を破壊する。
(2)ISD条項は、協定に反する加盟国の制度や慣行によって外国投資家が損害を被ったときに相手国政府を国際仲裁に訴えることを認める制度だ。
多国籍企業と日本政府の間の紛争は、本来、日本の司法の管轄下にある。日本の裁判所の判断に服するのが当然だ。しかるにISD条項は、外国投資家が日本の裁判所を回避して国際仲裁に訴えることを認める。
国際仲裁の実態は、「投資家私設法廷」だ。
仲裁人は、事件ごとに専任され、裁定を下せば解散する。その場限りの私設法廷であり、仲裁人は誰にも責任を負わない。仲裁人は、グローバル市場原理主義を基本原則とする「国際経済法」に堪能なビジネスロイヤーなど一握りの人物に限られている。
国家の制度や慣行といった公的なものを裁くには、あまりにもお粗末な仕組みだ。
(3)国家間の紛争を強制的に解決する制度は基本的に存在しない。
国際司法裁判所制度では、被告とされた国家は裁判に応じるか否か、原則として自由だ。
WTOの紛争解決制度もWTO協定に反するか否かを判定するにとどまる。仮にWTO協定違反と認定されても、最終的には国家間の交渉で解決せざるを得ない仕組みだ。
(4)ISD条項は、外国投資家に対して、国家を強制的に裁判に引き出す権利を認める。しかも、具体的な損害賠償や補償を直接に命じ、裁定には、相手国の国内裁判所を通じて強制執行ができる効力が与えられている。
ISD条項は、国家を超える強力な法主体性を外国投資家に認める。
この法廷では、政府(自治体を含む)のあらゆる政策、制度、慣行が提訴の対象になる。
多国籍企業の利益を違法に侵害した、と判断されれば、莫大な賠償を命じられる。
相手国に対する威嚇訴訟も可能だ。
日本国内での法的紛争であるのに、国際法によって、日本の裁判所の関与が排除される。こうした例外は、今のところ、①外交官特権と、②日米地位協定による在日米軍内部および公務中の犯罪に限られる。
ところが、TPPによる例外は、多国籍企業が関わるあらゆる場面に適用される。極めて広範囲なものだ。
このような例外を認めることは、「すべて司法権は最高裁判所と系列の裁判所に属する」旨を規定する日本国憲法第76条第1項に反する。
(5)わが国の裁判所は、基本的人権の最後の砦たる役割を担う(違憲立法審査権など)。
一方、投資家私設法廷の基本ルールは、多国籍企業の利益を国民の生命や健康より優先する。
わが国の裁判所を回避して投資家私設法廷に訴えることを認めるISD条項は、日本国憲法の基本的人権尊重原則を、多国籍企業の利益を最優先するものに書き換える。日本国民は、多国籍企業の利益に反しない限度での人権しか認められなくなる。人権は副次的な価値へ貶められる。
(6)国会や内閣による政策決定は、ISD条項によって、常時、多国籍企業の監視下に置かれることになる。
萎縮効果によって、国会の政策決定は、外国投資家の利益を害さないことを第一に配慮したものとなる。
ISD条項は、国会を外国投資家の監視下に置くことによって、国民主権から外国投資家主権へ、憲法を書き換える。
国民主権、基本的人権尊重、平和主義は、日本国憲法の3大原則だ。ISD条項は、これらの最初の2つを書き換えてしまう。
□岩月浩二(TPPに反対する弁護士ネットワーク共同代表)「ISD条項は憲法を破壊する 国民主権から外国投資家主権へ」
・破綻国家にたかる訴訟型「ハイエナ」ファンドのエグすぎる手口 狙われたら骨の髄までしゃぶられる(現代ismedia 2016年11月6日)
黒木 亮
※米共和党のキングメーカー
米大統領選が刻一刻と近づいているが、「米共和党のキングメーカー」の異名をとるヘッジファンドのCEOが、今年、アルゼンチン政府との世紀の金融バトルを制したことは日本ではほとんど報じられていない。
この人物は、米大手ヘッジファンド、エリオット・マネジメントの創業者兼CEOのポール・シンガー氏(72)である。

(上)ポール・シンガー
ニューヨーク生まれのユダヤ人で、ハーバード・ロースクールを卒業後、準大手投資銀行DLJ(Donaldson, Lufkin & Jenrette )の不動産部門の社内弁護士として働いたあと、30代前半で自分のヘッジファンドを旗揚げした。
Forbes誌の推定で個人資産は22億ドル(約2300億円)。息子がゲイで、同性婚法成立運動にも力を注いできた。
また共和党に対する大口献金者で、ジョージ・W・ブッシュ、ルドルフ・ジュリアーニ(元ニューヨーク市長)、ミット・ロムニーなどを支援し、ヘッジファンド業界、イスラエル、LGBT(性的少数者)などの擁護のため、強力なロビー活動も行っている。
ターゲットは破綻国家
エリオット・マネジメントは不良債権投資に強いヘッジファンドで、法廷闘争を得意としている。
ソブリン(国家)債務への投資では、破綻した国家の債務を額面の5%とか10%といった二束三文で買い、額面だけでなく金利やペナルティを含めた全額の支払いを求めて世界中の裁判所で訴訟を起こす。
そして勝訴判決をとると、債務国のタンカー、外貨資産、航空機、果ては人口衛星打ち上げ契約まで差し押さえ、投資額の10倍から数十倍のリターンを上げるのだ。
アルゼンチン政府との世紀のバトル
アルゼンチンがデフォルトしたのは2001年である。
エリオット・マネジメントは傘下のNML Capital Limited(以下NMLと略)を通じて、額面6億1700万ドルのアルゼンチン国債を額面の3割以下の価格(推定)で買い集めた。
同国政府は2005年と2010年に債権者に対して一方的な債務再編を通告し、それを受け入れた約92%の投資家の債権を7割以上カットした。
しかし、NMLはホールドアウト(交渉拒否)し、金利やペナルティを含む全額の支払いを求めて、ニューヨーク州南部連邦地裁に提訴した。
一方、故・ネストル・キルチネル大統領(在任2003~2007年)と、キルチネルの妻、クリスチーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領(在任2007~2015年)はNMLを始めとするホールドアウト債権者との交渉を断固拒否し、法廷内外で激しい争いが繰り広げられた。

(上)キルチネル・フェルナンデス夫妻
訴訟は米最高裁までもつれ込んだが、一審、二審で敗訴したアルゼンチン政府の上訴を2014年に米最高裁が棄却したことで、NMLの勝利が確定した。
この間、NMLは下級審(一、二審)の勝訴判決にもとづいて2014年にアルゼンチン海軍の練習船をガーナ沖で差し押さえたり、キルチネル・フェルナンデス夫妻が地元の建設会社社長と結託して行った汚職により6500万ドルの国家資産が米ネバダ州の123のペーパーカンパニーに隠匿されているとして、ラスベガスの連邦地裁に情報開示と差し押さえを求めて提訴したりした(相手は「パナマ文書」のモサック・フォンセカ法律事務所の現地会社だった)。
また、アルゼンチン政府が結んだ2基の人工衛星打ち上げ契約を差し押さえようとして、ロサンゼルスの連邦地裁に提訴したり、ロビイストを雇って米国とアルゼンチンで激しいロビイング活動を行ったりもした。同社が提起した訴訟や申し立ては数十に上ると見られる。
一方、アルゼンチン側は断固交渉を拒否し、法廷の内であると外であるとを問わず、債務再編に応じない債権者とのいかなる解決も禁じる「Lock Law(拘束法)」を国内で立法化したり、2度にわたる債務再編の際に発行した債券にRUFO(rghts upon future offers)条項という、債務再編よりもよい条件を他の債権者に与えることを禁じる条項を入れたりして、自らの手足を縛った。
さらにフランスやブラジルなどに働きかけて、米最高裁に意見書を出してもらい、2013年の国連総会でフェルナンデス大統領がホールドアウト債権者を非難する演説を行い、2014年には朝日新聞、フィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどにホールドアウト債権者を非難する全面広告を打ったりした。
米連邦地裁の支払い差止め命令
しかし、米連邦地裁が、アルゼンチン政府によるドル建て債券の利払いを禁止する差止め命令(インジャンクション)を出したため、同国政府は既存の債務の利払いができなくなり、2014年に再びデフォルトに追い込まれた。
ドル建て資金の移動をするには米国の銀行が送金手続きをすることが必要だが、裁判所の差止め命令によって、米国の銀行はそれができなくなったのである。
主権国家はソブリン・イミュニティ(主権免責特権)を有し、国家を超えた強制機関が存在しないため、他国や国際裁判所の判決や国際法上の原則を踏みにじることが往々にしてあるが(たとえば中国による南シナ海の埋め立て)、国際通貨である米ドルの決済国である米国は、こういう強制手段を行使できるという武器を持っている。
米ドルによる決済ができなくなり、さらにNMLなどホールドアウト債権者たちが他国でも同様の訴訟を起こし、ユーロなどによる決済も事実上できなくなったため、アルゼンチンは海外での資金調達の道を封じられ、外貨繰りの逼迫で、経済は坂道を転げ落ちるように悪化した。
その結果、昨年の大統領選挙で、フェルナンデス前大統領が支持した与党ペロン党の候補者が敗れた。
新たに大統領になった実業家出身のマウリシオ・マクリは、国際金融市場への復帰を最重要政策に掲げ、昨年末から今年2月にかけて、NML、アウレリアス・キャピタル、モントルー・パートナーズ、ダート・マネジメント、デビッドソン・ケンプナー、ブレイスブリッジ・キャピタルの6つの米ヘッジファンドなどをはじめとするホールドアウト債権者と交渉を始めた。
約2ヵ月間にわたる交渉の末、背に腹は代えられないアルゼンチン側が大幅に譲歩し、今年2月末に「15年戦争」に決着がついた。
金融情報メディアのブルームバーグによると、裁判関係書類などから、NMLが保有しているアルゼンチン債券の元本は6億1700万ドルで、これに対してアルゼンチン政府は22億8000万ドルを支払い、争いを解決した。NMLは元本の額面の3割程度で債券を取得していると推定され(これよりさらに安く買っているとする説もある)、投資額の12倍強のリターンを得ることになった。他のヘッジファンドもほぼ同様である。
「ハイエナ」ファンドの餌食になった国々
米国の訴訟型ヘッジファンドの餌食になったのは、アルゼンチンだけではない。
エリオット・マネジメントは1990年代に傘下のケンジントン・インターナショナルを通じてコンゴ共和国の債務3千万ドル程度を額面の8%で買い付け(数字はいずれも推定)、1億ドル以上の支払いを求めて英国の裁判所に提訴した。
さらにコンゴが債権者からの差し押さえを免れるために、タックスヘイブンに作った複数のペーパー・カンパニーを介在させて実態を分からなくしていた原油輸出スキームを解明し、グレンコア(世界屈指のコモディティ・トレーダー)が用船したコンゴの原油を積んだタンカーを差し押さえ、コンゴ政府と交渉の上、最終的に1億ドル以上を回収したと見られている。
エリオット・マネジメント傘下のエリオット・アソシエイツは、1995年10月にペルー政府の保証が付いたペルー国立銀行(Banco de la Nacion)向けの融資2070万ドル相当を1140万ドルで購入し、ニューヨーク州南部連邦地裁で勝訴判決をとると、米国だけでなく、英国、ドイツなど欧州数ヵ国やカナダでもペルー政府の資産差し押さえ手続きを始めた。
最終的に2000年9月に、ブリュッセルの裁判所から、ペルー政府がブレイディ・ボンド(債券)の支払い資金として送金した金を国際決済機関であるユーロクリアが受け取ることを禁じる命令を出させて、相手の息の根を止め、白旗を挙げたペルー政府から5845万ドルの支払いを受けた。
ザンビアではドネガル・インターナショナルという米国のヘッジファンドが、1999年にザンビア向けの融資債権(元本と金利の合計)2983万ドルを328万ドルで買い、その後の遅延金利やペナルティを含めて約5500万ドルの支払いを求めて英国の裁判所に提訴し、英国内のザンビア政府の資産を差し押さえた上で勝訴判決をとり、最終的に約1550万ドルの支払いを2007年に受けた。
(このときはBBCやザ・ガーディアン紙が反ハイエナ・ファンド・キャンペーンを展開したため、ドネガルは要求額の3分の1以下で手を打たざるを得なくなった)。
ギリシャは、2009年10月に政権交代が起きたのをきっかけに、財政赤字の虚偽申告が発覚し、国債が一挙に格下げされて、経済危機に陥ったが、ダート・マネジメント、アウレリアス・キャピタル、エリオット・アソシエイツなどのヘッジファンドが、準拠法と裁判管轄が欧米になっているギリシャ国債を額面の4割程度でかき集め、2012年にギリシャが債権額の75%程度をカットする債務再編を実行した際にホールドアウトした。
EU、IMF、ECB(欧州中央銀行)の「トロイカ」から金融支援を受けるためには、是が非でも既存の債務者との返済問題を解決しなくてはならないギリシャ政府の弱みをついて、額面と金利・ペナルティの全額を支払わせ、短期の投資で濡れ手に粟の利益を上げたのだ。
たとえばダート・マネジメントは2012年5月に3億9000万ドル程度の支払いをギリシャから受けたと報じられており、買い付け価格がこの4割だとすれば、2億3400万ユーロ(当時の為替レートで234億円程度)の儲けを上げたことになる。
ヘッジファンド、債務国、NGOの三つ巴の闘い
こうした訴訟型ヘッジファンドの活動は、グリード(貪欲さ)に対して寛容な米国資本主義においても相当極端な投資家グループであり、問題視する人々は少なくない。
一方で、債務国側にも相当問題がある。
アルゼンチンやギリシャなどは真剣に返済することを考えずに安易に借入れを増やし、そのツケを債権者に回しており、コンゴ共和国にいたっては、債権者の差し押さえを免れるために、怪しげなスキームを作って原油を輸出し、大統領の取り巻きがその代金を懐に入れている(この事実は英国の裁判で認定された)。
こうした状況に対し、ジュビリー・デット・キャンペーンやグローバル・ウィットネスといった各国のNGOが、訴訟型ヘッジファンドの強奪的投資手法や腐敗国家の汚職行為を阻止しようと運動を続けている。
日本でも昨年亡くなったNGO活動家の北沢洋子さんなどが、外国のNGOと連携し、熱心に活動を行ってきた。先進国政府も腰を上げ、2008年頃から、ベルギーや英国で訴訟型ヘッジファンドの活動を阻止する法律が作られた(米国でも立法化の動きがあるが、ヘッジファンド勢の強力なロビー活動により実現していない)。
日本ではほとんど報道されていないが、国際金融の世界では、訴訟型ヘッジファンド、腐敗国家、NGOの三つ巴の闘いが繰り広げられてきたのである。この様子は、最近刊行した『国家とハイエナ』で描いたので、ご一読頂ければ幸いである。
大統領選では反トランプの急先鋒
ポール・シンガー氏のエリオット・マネジメントであるが、最近は、ソブリン案件よりも企業案件での活動が目を引く。
直近では、ドイツの3Dプリント会社SLMソリューションズ社の株の2割強を握って、GE(米)による同社の買収を阻止し、韓国のサムスン電子に投資して、持ち株会社と事業会社の分割・特別配当支払い・米ナスダック市場への上場・社外取締役制度の導入などを求めている。
また、7%の株を握った香港の東亜銀行の増資が不公平であるとして現地の裁判所に提訴し、日立製作所の連結対象会社であるイタリアのアンサルドSTS社の株式の29%を握って、9人の取締役のうち3人を送り込んだ。日本へも触手を伸ばし、不動産や経営再建中の三光汽船に投資をしている。
ポール・シンガー氏は、まもなく投票が行われる米大統領の予備選挙では、フロリダ州選出の上院議員マルコ・ルビオを支援し、彼を支持するスーパーPAC(特別政治活動委員会)に5百万ドルを献金した。
一方、ドナルド・トランプ候補に対しては共和党内でも最も批判的で、予備選ではトランプ選出を阻止するためのPACに多額の献金をした。シンガーは、「もしトランプが大統領になれば、世界的景気後退が」起きると述べ、大統領選では誰にも投票しないだろうとしている。
2013年12月24日
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2013/12/post-550e.html
※この間、ほとんどの弁護士が、ISD条項を知らないという事態に少し驚かされた機会があった。
マスコミはTPPを一貫して農業対その他の産業という対立構図で問題を伝えるし、国民に知られる前にISD条項の問題はすでに決着済みみたいに報じられている。
これでは何年経とうが、ISD条項の問題性を知る機会はないと言えるだろう。
TPPは、秘密保護法と同等か、それ以上に深刻な問題を提起するものなのに、ほとんど国民には実態が伝わらないまま、あまりにも密室でことが運びすぎている。
ISD条項について、これまででどうも一番わかりやすいという評判はプレイボーイ9月23日号(9月9日発売)に掲載された『ISD条項+“強欲資本主義が日本を壊す』の特集記事のようだ。
で、もう販売妨害にもならないと思うので、僕が主として取材を受けたこの記事のPDF版を次にアップしておこう。
以下のリンクからダウンロードしてくださいな。
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/files/playboyISDS.pdf
僕は、取材に対して、いつも決して大げさにも、不正確にも答えていません。
話が大げさに聞こえるとすれば、それは、密室で進んでいることが、普通に考えて、国民の立場では、ISD条項が、とんでもない代物だからです。
身近な人に教えてあげるといいのだ。
・TPPのISD条項、それは国民主権から外国投資家主権への権限委譲を明確に規定したもの。
※TPPの大きな問題のひとつである「ISD条項」
これは、投資家の私設法廷が国の法を上回る権限を持つ事を認めるものであり、国民主権から外国人投資家主権への移行であるとしたわかりやすい記事がありましたので紹介します。
(1)ISD( Investor-State Dispute Settlement )は憲法を破壊する。
(2)ISD条項は、協定に反する加盟国の制度や慣行によって外国投資家が損害を被ったときに相手国政府を国際仲裁に訴えることを認める制度だ。
多国籍企業と日本政府の間の紛争は、本来、日本の司法の管轄下にある。日本の裁判所の判断に服するのが当然だ。しかるにISD条項は、外国投資家が日本の裁判所を回避して国際仲裁に訴えることを認める。
国際仲裁の実態は、「投資家私設法廷」だ。
仲裁人は、事件ごとに専任され、裁定を下せば解散する。その場限りの私設法廷であり、仲裁人は誰にも責任を負わない。仲裁人は、グローバル市場原理主義を基本原則とする「国際経済法」に堪能なビジネスロイヤーなど一握りの人物に限られている。
国家の制度や慣行といった公的なものを裁くには、あまりにもお粗末な仕組みだ。
(3)国家間の紛争を強制的に解決する制度は基本的に存在しない。
国際司法裁判所制度では、被告とされた国家は裁判に応じるか否か、原則として自由だ。
WTOの紛争解決制度もWTO協定に反するか否かを判定するにとどまる。仮にWTO協定違反と認定されても、最終的には国家間の交渉で解決せざるを得ない仕組みだ。
(4)ISD条項は、外国投資家に対して、国家を強制的に裁判に引き出す権利を認める。しかも、具体的な損害賠償や補償を直接に命じ、裁定には、相手国の国内裁判所を通じて強制執行ができる効力が与えられている。
ISD条項は、国家を超える強力な法主体性を外国投資家に認める。
この法廷では、政府(自治体を含む)のあらゆる政策、制度、慣行が提訴の対象になる。
多国籍企業の利益を違法に侵害した、と判断されれば、莫大な賠償を命じられる。
相手国に対する威嚇訴訟も可能だ。
日本国内での法的紛争であるのに、国際法によって、日本の裁判所の関与が排除される。こうした例外は、今のところ、①外交官特権と、②日米地位協定による在日米軍内部および公務中の犯罪に限られる。
ところが、TPPによる例外は、多国籍企業が関わるあらゆる場面に適用される。極めて広範囲なものだ。
このような例外を認めることは、「すべて司法権は最高裁判所と系列の裁判所に属する」旨を規定する日本国憲法第76条第1項に反する。
(5)わが国の裁判所は、基本的人権の最後の砦たる役割を担う(違憲立法審査権など)。
一方、投資家私設法廷の基本ルールは、多国籍企業の利益を国民の生命や健康より優先する。
わが国の裁判所を回避して投資家私設法廷に訴えることを認めるISD条項は、日本国憲法の基本的人権尊重原則を、多国籍企業の利益を最優先するものに書き換える。日本国民は、多国籍企業の利益に反しない限度での人権しか認められなくなる。人権は副次的な価値へ貶められる。
(6)国会や内閣による政策決定は、ISD条項によって、常時、多国籍企業の監視下に置かれることになる。
萎縮効果によって、国会の政策決定は、外国投資家の利益を害さないことを第一に配慮したものとなる。
ISD条項は、国会を外国投資家の監視下に置くことによって、国民主権から外国投資家主権へ、憲法を書き換える。
国民主権、基本的人権尊重、平和主義は、日本国憲法の3大原則だ。ISD条項は、これらの最初の2つを書き換えてしまう。
□岩月浩二(TPPに反対する弁護士ネットワーク共同代表)「ISD条項は憲法を破壊する 国民主権から外国投資家主権へ」
・破綻国家にたかる訴訟型「ハイエナ」ファンドのエグすぎる手口 狙われたら骨の髄までしゃぶられる(現代ismedia 2016年11月6日)
黒木 亮
※米共和党のキングメーカー
米大統領選が刻一刻と近づいているが、「米共和党のキングメーカー」の異名をとるヘッジファンドのCEOが、今年、アルゼンチン政府との世紀の金融バトルを制したことは日本ではほとんど報じられていない。
この人物は、米大手ヘッジファンド、エリオット・マネジメントの創業者兼CEOのポール・シンガー氏(72)である。

(上)ポール・シンガー
ニューヨーク生まれのユダヤ人で、ハーバード・ロースクールを卒業後、準大手投資銀行DLJ(Donaldson, Lufkin & Jenrette )の不動産部門の社内弁護士として働いたあと、30代前半で自分のヘッジファンドを旗揚げした。
Forbes誌の推定で個人資産は22億ドル(約2300億円)。息子がゲイで、同性婚法成立運動にも力を注いできた。
また共和党に対する大口献金者で、ジョージ・W・ブッシュ、ルドルフ・ジュリアーニ(元ニューヨーク市長)、ミット・ロムニーなどを支援し、ヘッジファンド業界、イスラエル、LGBT(性的少数者)などの擁護のため、強力なロビー活動も行っている。
ターゲットは破綻国家
エリオット・マネジメントは不良債権投資に強いヘッジファンドで、法廷闘争を得意としている。
ソブリン(国家)債務への投資では、破綻した国家の債務を額面の5%とか10%といった二束三文で買い、額面だけでなく金利やペナルティを含めた全額の支払いを求めて世界中の裁判所で訴訟を起こす。
そして勝訴判決をとると、債務国のタンカー、外貨資産、航空機、果ては人口衛星打ち上げ契約まで差し押さえ、投資額の10倍から数十倍のリターンを上げるのだ。
アルゼンチン政府との世紀のバトル
アルゼンチンがデフォルトしたのは2001年である。
エリオット・マネジメントは傘下のNML Capital Limited(以下NMLと略)を通じて、額面6億1700万ドルのアルゼンチン国債を額面の3割以下の価格(推定)で買い集めた。
同国政府は2005年と2010年に債権者に対して一方的な債務再編を通告し、それを受け入れた約92%の投資家の債権を7割以上カットした。
しかし、NMLはホールドアウト(交渉拒否)し、金利やペナルティを含む全額の支払いを求めて、ニューヨーク州南部連邦地裁に提訴した。
一方、故・ネストル・キルチネル大統領(在任2003~2007年)と、キルチネルの妻、クリスチーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領(在任2007~2015年)はNMLを始めとするホールドアウト債権者との交渉を断固拒否し、法廷内外で激しい争いが繰り広げられた。

(上)キルチネル・フェルナンデス夫妻
訴訟は米最高裁までもつれ込んだが、一審、二審で敗訴したアルゼンチン政府の上訴を2014年に米最高裁が棄却したことで、NMLの勝利が確定した。
この間、NMLは下級審(一、二審)の勝訴判決にもとづいて2014年にアルゼンチン海軍の練習船をガーナ沖で差し押さえたり、キルチネル・フェルナンデス夫妻が地元の建設会社社長と結託して行った汚職により6500万ドルの国家資産が米ネバダ州の123のペーパーカンパニーに隠匿されているとして、ラスベガスの連邦地裁に情報開示と差し押さえを求めて提訴したりした(相手は「パナマ文書」のモサック・フォンセカ法律事務所の現地会社だった)。
また、アルゼンチン政府が結んだ2基の人工衛星打ち上げ契約を差し押さえようとして、ロサンゼルスの連邦地裁に提訴したり、ロビイストを雇って米国とアルゼンチンで激しいロビイング活動を行ったりもした。同社が提起した訴訟や申し立ては数十に上ると見られる。
一方、アルゼンチン側は断固交渉を拒否し、法廷の内であると外であるとを問わず、債務再編に応じない債権者とのいかなる解決も禁じる「Lock Law(拘束法)」を国内で立法化したり、2度にわたる債務再編の際に発行した債券にRUFO(rghts upon future offers)条項という、債務再編よりもよい条件を他の債権者に与えることを禁じる条項を入れたりして、自らの手足を縛った。
さらにフランスやブラジルなどに働きかけて、米最高裁に意見書を出してもらい、2013年の国連総会でフェルナンデス大統領がホールドアウト債権者を非難する演説を行い、2014年には朝日新聞、フィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどにホールドアウト債権者を非難する全面広告を打ったりした。
米連邦地裁の支払い差止め命令
しかし、米連邦地裁が、アルゼンチン政府によるドル建て債券の利払いを禁止する差止め命令(インジャンクション)を出したため、同国政府は既存の債務の利払いができなくなり、2014年に再びデフォルトに追い込まれた。
ドル建て資金の移動をするには米国の銀行が送金手続きをすることが必要だが、裁判所の差止め命令によって、米国の銀行はそれができなくなったのである。
主権国家はソブリン・イミュニティ(主権免責特権)を有し、国家を超えた強制機関が存在しないため、他国や国際裁判所の判決や国際法上の原則を踏みにじることが往々にしてあるが(たとえば中国による南シナ海の埋め立て)、国際通貨である米ドルの決済国である米国は、こういう強制手段を行使できるという武器を持っている。
米ドルによる決済ができなくなり、さらにNMLなどホールドアウト債権者たちが他国でも同様の訴訟を起こし、ユーロなどによる決済も事実上できなくなったため、アルゼンチンは海外での資金調達の道を封じられ、外貨繰りの逼迫で、経済は坂道を転げ落ちるように悪化した。
その結果、昨年の大統領選挙で、フェルナンデス前大統領が支持した与党ペロン党の候補者が敗れた。
新たに大統領になった実業家出身のマウリシオ・マクリは、国際金融市場への復帰を最重要政策に掲げ、昨年末から今年2月にかけて、NML、アウレリアス・キャピタル、モントルー・パートナーズ、ダート・マネジメント、デビッドソン・ケンプナー、ブレイスブリッジ・キャピタルの6つの米ヘッジファンドなどをはじめとするホールドアウト債権者と交渉を始めた。
約2ヵ月間にわたる交渉の末、背に腹は代えられないアルゼンチン側が大幅に譲歩し、今年2月末に「15年戦争」に決着がついた。
金融情報メディアのブルームバーグによると、裁判関係書類などから、NMLが保有しているアルゼンチン債券の元本は6億1700万ドルで、これに対してアルゼンチン政府は22億8000万ドルを支払い、争いを解決した。NMLは元本の額面の3割程度で債券を取得していると推定され(これよりさらに安く買っているとする説もある)、投資額の12倍強のリターンを得ることになった。他のヘッジファンドもほぼ同様である。
「ハイエナ」ファンドの餌食になった国々
米国の訴訟型ヘッジファンドの餌食になったのは、アルゼンチンだけではない。
エリオット・マネジメントは1990年代に傘下のケンジントン・インターナショナルを通じてコンゴ共和国の債務3千万ドル程度を額面の8%で買い付け(数字はいずれも推定)、1億ドル以上の支払いを求めて英国の裁判所に提訴した。
さらにコンゴが債権者からの差し押さえを免れるために、タックスヘイブンに作った複数のペーパー・カンパニーを介在させて実態を分からなくしていた原油輸出スキームを解明し、グレンコア(世界屈指のコモディティ・トレーダー)が用船したコンゴの原油を積んだタンカーを差し押さえ、コンゴ政府と交渉の上、最終的に1億ドル以上を回収したと見られている。
エリオット・マネジメント傘下のエリオット・アソシエイツは、1995年10月にペルー政府の保証が付いたペルー国立銀行(Banco de la Nacion)向けの融資2070万ドル相当を1140万ドルで購入し、ニューヨーク州南部連邦地裁で勝訴判決をとると、米国だけでなく、英国、ドイツなど欧州数ヵ国やカナダでもペルー政府の資産差し押さえ手続きを始めた。
最終的に2000年9月に、ブリュッセルの裁判所から、ペルー政府がブレイディ・ボンド(債券)の支払い資金として送金した金を国際決済機関であるユーロクリアが受け取ることを禁じる命令を出させて、相手の息の根を止め、白旗を挙げたペルー政府から5845万ドルの支払いを受けた。
ザンビアではドネガル・インターナショナルという米国のヘッジファンドが、1999年にザンビア向けの融資債権(元本と金利の合計)2983万ドルを328万ドルで買い、その後の遅延金利やペナルティを含めて約5500万ドルの支払いを求めて英国の裁判所に提訴し、英国内のザンビア政府の資産を差し押さえた上で勝訴判決をとり、最終的に約1550万ドルの支払いを2007年に受けた。
(このときはBBCやザ・ガーディアン紙が反ハイエナ・ファンド・キャンペーンを展開したため、ドネガルは要求額の3分の1以下で手を打たざるを得なくなった)。
ギリシャは、2009年10月に政権交代が起きたのをきっかけに、財政赤字の虚偽申告が発覚し、国債が一挙に格下げされて、経済危機に陥ったが、ダート・マネジメント、アウレリアス・キャピタル、エリオット・アソシエイツなどのヘッジファンドが、準拠法と裁判管轄が欧米になっているギリシャ国債を額面の4割程度でかき集め、2012年にギリシャが債権額の75%程度をカットする債務再編を実行した際にホールドアウトした。
EU、IMF、ECB(欧州中央銀行)の「トロイカ」から金融支援を受けるためには、是が非でも既存の債務者との返済問題を解決しなくてはならないギリシャ政府の弱みをついて、額面と金利・ペナルティの全額を支払わせ、短期の投資で濡れ手に粟の利益を上げたのだ。
たとえばダート・マネジメントは2012年5月に3億9000万ドル程度の支払いをギリシャから受けたと報じられており、買い付け価格がこの4割だとすれば、2億3400万ユーロ(当時の為替レートで234億円程度)の儲けを上げたことになる。
ヘッジファンド、債務国、NGOの三つ巴の闘い
こうした訴訟型ヘッジファンドの活動は、グリード(貪欲さ)に対して寛容な米国資本主義においても相当極端な投資家グループであり、問題視する人々は少なくない。
一方で、債務国側にも相当問題がある。
アルゼンチンやギリシャなどは真剣に返済することを考えずに安易に借入れを増やし、そのツケを債権者に回しており、コンゴ共和国にいたっては、債権者の差し押さえを免れるために、怪しげなスキームを作って原油を輸出し、大統領の取り巻きがその代金を懐に入れている(この事実は英国の裁判で認定された)。
こうした状況に対し、ジュビリー・デット・キャンペーンやグローバル・ウィットネスといった各国のNGOが、訴訟型ヘッジファンドの強奪的投資手法や腐敗国家の汚職行為を阻止しようと運動を続けている。
日本でも昨年亡くなったNGO活動家の北沢洋子さんなどが、外国のNGOと連携し、熱心に活動を行ってきた。先進国政府も腰を上げ、2008年頃から、ベルギーや英国で訴訟型ヘッジファンドの活動を阻止する法律が作られた(米国でも立法化の動きがあるが、ヘッジファンド勢の強力なロビー活動により実現していない)。
日本ではほとんど報道されていないが、国際金融の世界では、訴訟型ヘッジファンド、腐敗国家、NGOの三つ巴の闘いが繰り広げられてきたのである。この様子は、最近刊行した『国家とハイエナ』で描いたので、ご一読頂ければ幸いである。
大統領選では反トランプの急先鋒
ポール・シンガー氏のエリオット・マネジメントであるが、最近は、ソブリン案件よりも企業案件での活動が目を引く。
直近では、ドイツの3Dプリント会社SLMソリューションズ社の株の2割強を握って、GE(米)による同社の買収を阻止し、韓国のサムスン電子に投資して、持ち株会社と事業会社の分割・特別配当支払い・米ナスダック市場への上場・社外取締役制度の導入などを求めている。
また、7%の株を握った香港の東亜銀行の増資が不公平であるとして現地の裁判所に提訴し、日立製作所の連結対象会社であるイタリアのアンサルドSTS社の株式の29%を握って、9人の取締役のうち3人を送り込んだ。日本へも触手を伸ばし、不動産や経営再建中の三光汽船に投資をしている。
ポール・シンガー氏は、まもなく投票が行われる米大統領の予備選挙では、フロリダ州選出の上院議員マルコ・ルビオを支援し、彼を支持するスーパーPAC(特別政治活動委員会)に5百万ドルを献金した。
一方、ドナルド・トランプ候補に対しては共和党内でも最も批判的で、予備選ではトランプ選出を阻止するためのPACに多額の献金をした。シンガーは、「もしトランプが大統領になれば、世界的景気後退が」起きると述べ、大統領選では誰にも投票しないだろうとしている。