・日本が没落した簡単な理由~投資しないから

2018-04-08

http://totb.hatenablog.com/entry/2018/04/08/220446

※日本の没落については様々な角度から説明できますが、その一つが、経済成長の原動力である投資を増やさなくなったためです。

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名目ベースでは、建設投資は一時はピークから半減し、機械設備とソフトウェアへの投資も1991年と1997年のピークを下回ったままです。

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投資が増えなかったのは、日本経済のリソース不足や銀行の貸し渋りのために「できなかった」からではなく「できるのにしなかった」から、例えるなら「食料は十二分にあるのに食べることを拒否したから」です。

2003年度以降、企業は内部資金が増加しても設備投資を増やさずに株式取得を積極化させていますが、これは日本市場を見限って海外市場に活路を求めたことの反映です。株主利益を最大化するためには合理的行動です。

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一方、政府も歴史的低金利で資金調達できるにもかかわらず、国民の圧倒的支持を背景に、公共事業を大幅に削減しました。財政健全化のための「無駄」の削減です。*1*2

日本が官民挙げて投資抑制に励んでいる間に、韓国は着々と成長を続けてきました。*3

一人当たり名目GDPで見ると、90年には日本の26%、00年は31%だったのが、16年は71%となっています。16年の一人当たり名目GDPを金額で見ると、日本の3万9000米ドルに対して、2万8000米ドルです。このように、急速に日本経済にキャッチアップしてきていることが分かります。

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1997年に日本は金融危機、韓国は通貨危機に見舞われ、新自由主義に基づく構造改革を進めた点は共通しますが、投資を増やして経済を成長させた点は異なります。この点では韓国人の方が正常(正気)です。

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日本人が総意として「(企業の)黒字を増やす/(政府の)赤字を減らす」ことを「投資して経済成長」よりも優先したことが、日本の没落の原因です*4。人体に例えるなら、スリム化のために十分に食事して健康な体を作ることを拒否して、痩せ衰えていくようなものです。*5

拒食症は「緩慢な自殺」と言われることがありますが、日本も「株主利益の最大化」や「プライマリーバランス黒字化」という強い思いがあるために、なかなか「治療」ができず、着実に衰弱死に向かっているわけです。*6

「やせたい」という強い思いがあるため、本人はなかなか治療したがりません。しかし、低栄養から様々な体の不調につながり、死に至ることもある病気ですから、治療の重要性を伝えることが必要です。*7

善悪の彼岸 (光文社古典新訳文庫)
作者: フリードリヒニーチェ,Friedrich Nietzsche,中山元
出版社/メーカー: 光文社
発売日: 2009/04/09

これまで地上で宗教的な神経症が発生したところでは、三つの危険な養生法が結びついていたことを確認できる。孤独と断食と性的な禁欲である。

付録①

日本の科学技術生産力の低下は目を覆うばかりだ。

要するに、リソースを削り現場を鍛えれば生産性が上がる、という誤った科学技術・文教政策のもとで行われた結果である。

togetter.com

付録②

香山健一の43年前のこの警告(⇩)は的中しましたが、

日本の自殺 (1976年)
作者: グループ1984年
出版社/メーカー: PHP研究所
発売日: 1976/12/20

ほとんどすべての事例において、文明の没落は社会の衰弱と内部崩壊を通じての“自殺”だったのである。没落の原因は飢饉、洪水、地震、火災などの災害や外敵の侵略にあったのではなく、その社会の内部、その社会を構成する人間の内部にこそあった。

これほどあっけなく没落した日本がローマ帝国と同列に扱われることはあり得ないでしょう。

日本が将来没落するようなことになった場合、未来の歴史家たちは、ローマになぞらえて日本を“第二ローマ帝国”と呼ぶようになるかもしれない。

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⇧「改革」が本格化してからの転落が激しいことに注目。


*1:例:新東名高速道路を片側3車線にするのは無駄なので2車線に変更。

*2:「日本経済は量的縮小が不可避なので、投資は無駄」と言う人がいますが、これは「中年になると今後は衰える一方なので、QOLを高める努力をしても無駄」と言うようなものです。量的成長が無理でも質的成長は可能なのですが、頭のいい人にとっては「将来死ぬことは確実→現時点での健康増進は無駄→現時点で不健康に→死期が早まる」が合理的行動のようです。

*3:嫌韓派の予測では、韓国経済は既に崩壊しているはずですが。

*4:合成の誤謬/倹約のパラドクス

*5:日本人が全体として精神疾患になったようなもの。

*6:「強い思い」は、ネオリベ勢力によるマインドコントロールによるものでしょう。昔の聖職者が「○○しないと神が怒って世界が破滅するぞ」と脅して庶民をコントロールしたように、今のエスタブリッシュメントも「公共事業を減らして財政再建しないと日本が破滅する」などと国民を脅しているわけです。

*7:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」より


・日本経済を成長させないための三つの仕掛け(と仕掛人)

2017-06-07

http://totb.hatenablog.com/entry/2017/06/07/214314

※一国の経済水準を長期的に高めていく「富国」には、公共投資と設備投資が重要な役割を果たします。逆に、ある国の経済を長期的に衰退させるのであれば、公共投資と設備投資を減らすように仕向けることが効果的です。

日本の実質公的固定資本形成は1995年度のピークからほぼ半減しています。

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企業も設備投資から有価証券投資(→M&A等)に「投資」の内容を変化させています。

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これでは日本経済が長期停滞するのは必然ですが、この背景には、過去20年間の「構造改革」で日本経済に仕掛けられた「投資させないための三点セット」
1.基礎的財政収支(プライマリー・バランス)
2.費用便益分析(B/C分析)
3.資本効率重視経営(ROE目標)

があります。以下、順に見ていきます。

ケインズは大恐慌からの脱却には「国債発行→財政支出」が有効としていましたが、

デフレ不況をいかに克服するか ケインズ1930年代評論集 (文春学藝ライブラリー)
作者: ジョン・メイナードケインズ,John Maynard Keynes,松川周二
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2013/10/16

「回復」の初期段階における主要な原動力として、租税を通じての既存所得からの単なる移転ではない、公債によって資金調達された政府支出の購買力の圧倒的な力を、私は強調したい。*1

これができないように2001年に持ち込まれたのが、当初は誰も意味を理解できなかった(意味のない?)プライマリーバランスです。

日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか
作者: 竹中平蔵,池田信夫,土居丈朗,鈴木亘
出版社/メーカー: PHP研究所
発売日: 2010/11/25

竹中 じつはプライマリーバランスという考え方は、2001年に「骨太の方針」で私が持ち込むまで、政府内にはありませんでした。だから当初、私が議論を始めても、誰も意味を理解できませんでした。

プライマリーバランスが公共投資に使える資金量を制約する第一のハードルだとすれば、資金があっても投資できないようにするための第二のハードルが、1997年に橋本龍太郎総理大臣の指示によって持ち込まれたB/C分析です。

B/Cとは便益/費用(Benifit/Cost)のことで、投資するかしないかの判断基準に用いられますが、これには主に二つの問題点(注意点)が指摘されています。

一つは、費用は比較的正確に算定できるが、便益は算定しにくいことです。例えば「普段の交通量は少ないが、大震災発生時には通行不能になった幹線道路の迂回路の役割を果たす」道路の場合、後半部の便益は定量化困難なので、定量化しやすい「普段の交通量」に基づいて「無駄な事業」と判断されてしまうバイアスが働きます。

もう一つは、将来に発生する便益を現在価値に換算するのに用いられる社会的割引率が一般的に4%とされていることです。*2

下のグラフは毎年1の便益を50年間発生させる事業の現在価値を割引率別に比較したものですが、割引率が高くなるほど現在価値は小さくなり、「無駄」と判断される可能性が高まります。

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社会的割引率が公共事業の投資判断のハードルレートとなっているわけですが、長期国債金利や名目GDP成長率がゼロ近辺まで低下している現状では、4%は高すぎると言わざるを得ません。

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現状、B/C分析は便益(の現在価値)を過小評価して公共投資を抑制する仕掛けとして作用していることになります。橋本首相の緊縮財政の仕掛けは存分に効果を上げています。

民間設備投資を減らすための仕掛けが、1997-98年の金融危機を契機に日本企業に浸透した資本効率重視経営です。その論理を集大成した2014年の経済産業省「伊藤レポート」では、

資本コストを上回るROE を、そして資本効率革命を

資本主義の根幹を成す株式会社が継続的に事業活動を行い、企業価値を生み出すための大原則は、中期的に資本コストを上回るROE を上げ続けることである。なぜなら、それが企業価値の持続的成長につながるからである。この大原則を死守できなければ資本市場から淘汰される。資本主義の要諦は労働分配率にも配慮しながら、資本効率を最大限に高めることである。個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を上回るROE を達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、それはあくまでも「最低限」であり、8%を上回ったら、また上回っている企業は、より高い水準を目指すべきである。

と、グローバル投資家を満足させるためにROE8%以上を求めています。実際、大企業のROEはバブルの後始末がほぼ完了した2003年度から急上昇して8%に迫っています。*3

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しかし、長期金利と名目成長率がほぼゼロの経済において、企業に高成長の海外経済並みの投資リターンを求めることは、
•国内投資から海外投資にシフト
•投資ではなくコストカットによって目標利益を実現*4

という歪んだ行動を誘発すると予想されます。実際、過去20年間はこの予想の通りに推移しています。*5

対外直接投資が激増し、

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利益水準を高めるために人件費が徹底的に抑制されています(→労働分配率引き下げ)。

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企業が日本経済の実情からかけ離れた高水準の投資収益率を実現しようとする限り、投資の海外流出とコストカット(→デフレ圧力)が永続するわけです(永続革命?)。この企業による緊縮(→資金余剰)が、「失われた20年」の最大の原因です。*6

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これらの三つの仕掛けがその途方もない悪影響の割りにあまり問題視されていないのは、

•国の借金累増に歯止めをかけるべき*7
•無駄な公共事業は止めるべき
•企業は高い資本効率を実現して株主を満足させるべき

がほとんどの人(政治家を含む)には「正論」に感じられるためと思われます。「地獄への道は善意で舗装されている」状況が20年間も続いているのです。

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「国を内部から崩壊させるための活動」が20年間も続いていることは、「最も活動的で、かつ、危険なメンバー*8」が国の政治上層部に潜り込んでいることを示唆します。なお、利用される「革新者」や「進歩主義者」の知識人はH大学とK大学に多いようです。

民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる
作者: 原書房編集部
出版社/メーカー: 原書房
発売日: 2003/07/07

国を内部から崩壊させるための活動は、スパイと新秩序のイデオロギーを信奉する者の秘密地下組織をつくることから始まる。この地下組織は、最も活動的で、かつ、危険なメンバーを、国の政治上層部に潜り込ませようとするのである。かれらの餌食となって利用される「革新者」や「進歩主義者」なるものは、新しいものを待つ構えだけはあるが社会生活の具体的問題の解決には不慣れな知識階級の中から、目をつけられて引き入れられることが、よくあるものだということを忘れてはならない。*9

「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉 (文春新書)
作者: 原丈人
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2017/03/17

一言で言えば、「会社は株主のもの」とする考え方(私はこれを「株主資本主義」と名付けています)そのものが、現在の経済危機の原因となっています。

株主資本主義を信じる人たちが「改革派」を称したり、「米国流の経営スタイル」が閉塞感を打開するという風潮が、いまの日本にはあります。それは結果として、日本も世界も潰してしまう――

日本を「貧国」に導いている三つの仕掛けに気付けば、日本再興に必要な政策が

•プライマリーバランス黒字化目標の放棄
•社会的割引率の引き下げ
•ROE目標の引き下げ、あるいは放棄*10

であることも分かります。華国鋒らが四人組を逮捕して10年続いた文化大革命を終わらせたように、日本もグローバル投資家の走狗の「改革派」を追放して「失われた20年」を終わらせてもらいたいものです。*11

おまけ

「移民受け入れ」もグローバル投資家の要求です。

上昇気流に乗るのは誰だ!
作者: 竹中平蔵,冨山和彦
出版社/メーカー: PHP研究所
発売日: 2015/02/21

竹中 海外の投資家と議論すると、彼らからは必ずといっていいほど「移民を受け入れない限り、日本経済は信用できない」といわれます。

彼らの要求に従い続ければ、「貧国」どころか「亡国」一直線でしょう。*12

toyokeizai.net

私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。

61人が書き残す政治家橋本龍太郎
作者: 「政治家橋本龍太郎」編集委員会
出版社/メーカー: 文藝春秋企画出版部
発売日: 2012/05


*1:「ルーズベルト大統領への公開書簡」

*2:国土交通省「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)」に基づく。

*3:グラフのROEは当期純利益/純資産(前期末・当期末平均)で計算。

*4:資産を食いつぶして配当する「蛸配当」のようなもの。

*5:投資を資金運用に置き換えれば、伊藤レポートの要求が無理筋であることは容易に理解できるでしょう。個々のファンドマネージャーが運用成績を上げようと努力しても、日本全体の投資収益率が上がるわけではありません。「結果を出せ」と無理強いすれば、ハイリスク投機や不正行為を促進してしまいます。

*6:金融危機後、企業の銀行離れが進んでいるので、ROE引き上げのためにレバレッジを高めることは選択肢から除外されています。

*7:自国通貨と中央銀行がある国の政府は原理的にデフォルトしません。日本の国債発行が過剰ではなく過少であることは低インフレ・低金利が示しています。

*8:誰でしょうね。

*9:強調は引用者。

*10:経済産業省の若手は、俗説をまとめたパワポ資料を作るのではなく、伊藤レポートを批判すべきでした。

*11:賃金下落や非正規雇用の拡大などの日本経済の「ブラック化」が橋本内閣の「六つの改革」、特に金融ビッグバンと緊縮財政の本格化から始まったことから、「改革」こそ「失われた20年」の原因であることは容易に推測できるはずです。

*12:日本の「改革派」の目標は「日本の朝鮮化」ではないかと考えられます。朝鮮が中華帝国と中華文明に従う属国だったように、日本を欧米資本と新自由主義に従う「属国」にして、自分たちは「両班」の地位に納まるつもりなのでしょう。


・日本人労働者が恐れる「卑怯な日本企業」~ヤングレポートと伊藤レポート

2018-03-19

http://totb.hatenablog.com/entry/2018/03/19/223228

※過去20数年間、政財界が進めてきた「雇用改革」が、労働者を安上がりに使い倒すことを目的としていたことはほぼ明らかで、実際、日本は労働生産性が上昇しても賃金が上昇しないために単位労働コストが大幅に低下した唯一の国となっています。

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企業の労働者の扱いは「一銭五厘」を想起させますが、日本軍が人命軽視になったのも「合理的」だったからということです。

米軍が恐れた「卑怯な日本軍」 帝国陸軍戦法マニュアルのすべて (文春文庫 い 95-1)
作者: 一ノ瀬俊也
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2015/10/09

戦局悪化の中で、「対米戦法」は当初の火力戦法から夜間斬り込み戦法へと転換していった。それはもちろん米軍の圧倒的火力という現実に強制された結果であった。

この兵士を一個の「地雷」視する発想は、1945年1月に台湾軍司令部の市川なる参謀が「敵の長所を封じ短所に乗ずる為、在来の慣用戦法より蝉脱して必勝不敗の戦法を案出訓練する」ために作ったマニュアル『対米軍戦闘必勝虎の巻』にも見いだせる。

結局この戦法は人間の地雷を各所に埋めてあると思えば間違いはない。[中略]全員特攻隊の精神を以て敢闘すべきであって[後略]*1

日本軍はアメリカ軍に比べて「鉄量」では圧倒的に劣るものの、兵士の数ではそれほどの差はありません。経済学的に表現すると、資本に比べて労働が相対的に豊富だったため、労働集約的な戦法が合理的になったわけです。

現代の日本企業も、生産力を増強する機械・設備とコンピュータソフトウェアへの投資の抑制を続けているため、アメリカとの差は拡大する一方です。

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日本企業がその代わりに投入を増やしているのが女の労働力です。

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「資本から労働」への転換は1997年の金融危機後に顕著になり、資本装備率*2を低下させる一方で、女と退職者と外国人を戦争末期のように「動員」することで、利益率を高度成長期の水準にまで向上させています。

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しかし、生産年齢人口が減少し続ける以上、この戦略が遅かれ早かれ行き詰ることは自明です。*3

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なぜ日本企業がこのような非合理的な戦略を取ったのかですが、その主因と考えられるのが資本コストです。

1985年にアメリカの大統領諮問委員会が発表した報告書"Global Competition-The New Reality-"(通称「ヤング・レポート」)では、アメリカ企業の競争力低下の一因として高い資本コストが挙げられていました。技術力があっても高い資本コストのために積極投資が妨げられれば、競争力が低下して当然です。

The commission investigated the reasons for the low level of U.S. investment by asking for testimony from a wide range of economists. To our great surprise, they were in agreement. The consensus of their opinion was that high capital costs are a competitive disadvantage for American firms. In fact, compared with Japanese costs, American capital costs are at least twice as high. This disparity in costs hurts the ability of U.S. firms to compete. In fact, studies have concluded that lower capital costs—not technological supremacy—were the prime factor behind the Japanese incursion into the U.S. semiconductor industry. *4

ヤングレポートは低い資本コストが日本企業の強い競争力の一因と分析していたわけですが、経済産業省の「伊藤レポート」では、高い資本コストを上回るROEを求めています。

個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を上回るROE を達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、それはあくまでも「最低限」であり、8%を上回ったら、また上回っている企業は、より高い水準を目指すべきである。

株主は、内部留保が資本コストを上回るパフォーマンスをあげることを「期待」しているのである。内部留保とは「期待」の象徴であり、その使い方は期待を満たすか裏切るかの、経営者の経営能力を試すリトマス試験紙なのである。

閣議決定された「未来投資戦略」でも、ROAの引き上げを求めています。

大企業(TOPIX500)のROA について、2025 年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す。

大企業が高いROEやROAを目指していることは、下のグラフからも見て取れます。

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高い資本コストを上回るためには、省力化投資によって労働を資本に代替するのではなく、その逆の低賃金労働力依存が合理的になります。

日本の政財界はグローバル投資家(株主)の「期待」を満たすために、

•資本コストを高めて設備投資を抑制する(→対外直接投資は激増→空洞化)
•低賃金労働力として女・退職者・外国人を動員する(→総人件費抑制)
•配当金を激増させる

などを「日本再興」「日本を取り戻す」と称して推進しているわけです。そこには人口減少社会において国民の生活水準を維持・向上させるという観念はありません。

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アメリカは日本に「高い資本コストを上回るROEを目指す」という(経済学的に正しい)新たなルール=グローバルスタンダードを受容させることで、労使一丸となってアメリカ企業を脅かしていた日本企業を、グローバル投資家の利益最大化のために日本人労働者を酷使する代理人へと改造することに成功したのです。

幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕
作者: ロナルド・ドーア
出版社/メーカー: 藤原書店
発売日: 2014/11/22

官庁、大企業が社費で、毎年、新社員の一番優秀な人を幾人か、ときどきはヨーロッパだが主として米国へ、MBAや経済学・政治学の修士・博士号をとりに送られた人が大勢いた。

その「洗脳世代」の人たちが、いよいよ八十年代に課長・局長レベルになり、日本社会のアメリカ化に大いに貢献できるようになったというわけだ。

株主の「日本を変えろ」の要求に唯唯諾諾と応じているうちに、「株主栄えて国滅ぶ」ことになっているでしょう。人口動態を考慮すると、今度の敗戦(オウンゴール)から立ち直ることは難しそうです。

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*1:この箇所は『虎の巻』からの引用。

*2:人員1人当たり有形固定資産(土地と建設仮勘定を除く)

*3:だから政財界は外国人労働者(現代の朝鮮人徴用工)を増やそうとしている。

*4:強調は引用者。


・都議選の雑感~民意で多元的社会から全体主義社会に移行する日本

2017-07-02

http://totb.hatenablog.com/entry/2017/07/02/232951

※東京都議会議員選挙で都民ファーストの会が圧勝し、自由民主党は惨敗ということなので、1990年代からの政治と社会について考察(妄想)してみます。*1

大衆社会の政治 (現代社会科学叢書)
作者: ウィリアム・コーンハウザー,辻村明
出版社/メーカー: 東京創元社
発売日: 1961/09

コーンハウザーは

•エリートへの接近可能性(非エリートのエリート入り)
•非エリートの操作可能性 (エリートによる非エリート操作)

の二点から、社会を

•共同体社会:低低
•大衆社会:高高
•多元的社会:高低
•全体主義社会:低高

の四つの類型に分類しました。近代化以前の共同体社会が、近代化によって他の三つの社会に移行します。

コーンハウザーは、自由民主主義が安定するのは、多元的社会だとした。企業、労働組合、教会など、自律的な社会集団が多元的に存在し、個人が複数の集団に所属している社会では、人々は画一化されにくい。

多元的な社会集団を欠いている場合には、「原子化された個人*2」はむきだしの状態で社会にさらされ、孤立感と疎外感を味わい、精神的に不安定になるため、エリートの操作を受けやすくなる。また、中間集団がないと、大衆の政治参加も無制約で混乱したものとなるので、民主政治は脆弱性を帯びることになる。*3

ファシズムと共産主義には多くの相違があるが、人間生活に対する全体的な支配をもくろむ運動という点では共通しており、全体主義といわれる。そこでは自律的な中間集団の存在は許されない。

中間集団とつながった(癒着した?)族議員たちによる「古い自民党」政治が実現していたのが多元的社会になります。

「○○族」を既得権者の抵抗勢力として攻撃したのがネオリベラルの小泉首相です。2005年の郵政選挙は、多元的社会を目指していた党内の勢力を一掃する一種の自己クーデターと言えます。

国政レベルでは「新しい自民党」の支配が確立したものの、地方政治では「古い自民党」の残存勢力が無視できません。そこで、残存勢力の掃討役を買って出たのが「改革派(実体はネオリベ)」の首長・地方政党です。自民党の国政に不満を持つ国民が地方選挙において「改革派」を勝たせる→地方の古い自民党が弱体化する→中央の新しい自民党の地方支配が広がる→全国ネオリベ化、という展開です。大阪の維新、東京の都民ファーストの会は、ネオリベラル革命の実現のために地方の「古い自民党」を掃討するネオ自民党の別働隊になります。

ファシズムや共産主義とは多くの相違があるものの、規制緩和や補助金カットによって自律的な中間集団を撲滅しようとするネオリベ改革派が目指しているのも、一種の全体主義社会と言えそうです。*4

反自民党を掲げて政権を奪取した日本新党*5と民主党も、既得権益批判・規制緩和志向など、本質はネオリベラル革命政党です。ケインズは『一般理論』に「既得権益よりも考え方(idea)が危険」と書きましたが、「改革」すればするほど事態が悪化していくことは、「日本新党的な考え方*6」が日本の経済社会を破壊してきたことを示しています。「日本新党的なもの」は一部の利益のために社会の秩序を破壊するいわばがん細胞のようなものであり、既に政界全体に転移しています。

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(⇧1970~80年代の輝かしい成果を1990年代以降の「改革」で完全に破壊。「古い自民党」をぶっ壊すことは日本をぶっ壊すことでした。「改革」とは「官から民へ」をスローガンに掲げた日本版大躍進政策&文化大革命です。)

1990年代以降、日本の政官財学は権力分散・合議的な体制からトップが強い権限を持つ体制に「改革」しましたが、民主集中制になっただけのようにも見えます。

日本の改革がモデルにしたアメリカには、トランプ大統領が苦戦していることに示されるように、トップを牽制する制度・慣習・文化が存在します。巨額報酬が批判される企業のCEOも、業績を上げられなければお払い箱です。

成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学
作者: ロバート・H・フランク,月沢李歌子
出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社

業績が悪かった場合の企業の対応も速くなっている。こんにち、役員は厳しく評価され、望まれた結果を出さなければただちにお払い箱になる。・・・・・・S&P500社のCEOのうち、2012年に退任したCEOの平均在任期間は、2000年に退任したCEOよりも短くなっている。

このような制度・慣習・文化が存在しない日本に「強いトップ」の仕組みを導入すれば、エリートがノーメンクラトゥーラとなっても何の不思議もありません。*7

動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)
作者: ジョージオーウェル,George Orwell,川端康雄
出版社/メーカー: 岩波書店
発売日: 2009/07/16

ナポレオンが独裁者としてどんなにひどいまねをしても、四本足であるかぎりは、仲間なのだから、じぶんたちを決定的に裏切ることはないと動物たちは信じている。だからこそ、ほかの豚たちといっしょに、ナポレオンみずからが、前足に鞭をもち、二本足でのったりと歩き出す問題の場面(第十章)は、他の動物たちにとって、驚天動地の出来事なのである。*8

リベラルエリートが仲間意識を感じるのは、自国の大衆よりも外国のリベラルエリートです。これが「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」の意味するところです。

彼らは富豪同士でつながり、「コミュニティ」を築くようになっている。「彼らは国境を越えて、『トライブ(部族)』化しています。彼らは日常的に商取引をし、同じ業界の会議に参加し、海外で同じホテルに泊まっています。 ふだん会うことの少ない同胞よりも連帯感が強まりやすいのです」

グローバル・スーパーリッチ: 超格差の時代
作者: クリスティアフリーランド,Chrystia Freeland,中島由華
出版社/メーカー: 早川書房
発売日: 2013/11/22


*1:フランス国民議会におけるマクロン新党「共和国前進」大勝、社会党壊滅と似ています。フランスについては別記事で考察するかもしれません。

*2:[引用者注]新自由主義革命を起こしたサッチャーの有名な言葉"There is no such thing as society. There is living tapestry of men and women ..."

*3:[引用者注]退職した高齢者は社会集団に所属しない「原子化された個人」になりやすいため、催眠商法に騙されるように、「改革」のイメージに操作されやすくなります。一般的イメージとは逆に、これこそシルバーデモクラシーです。

*4:最近では農協がターゲット。

*5:1992年の参院選で小池百合子が政界入り。

*6:公共サービスの民営化、公的支出削減、公有財産売却などの行政のスリム化、地方分権という名の地方切り捨て・一極集中、経済では規制緩和(→寡占化)、社会面は「女の社会進出」や子育て支援などのリベラル寄り。

*7:帰化動物が天敵がいない新環境で爆発的に増えるようなもの。

*8:訳者解説より。


・緊縮病とシルバーデモクラシー

2016-10-28

http://totb.hatenablog.com/entry/2016/10/28/223916

※政府の緊縮志向に批判的な人々にとっての不愉快な真実は、世論の大勢が緊縮に賛成であることです。歳出削減を叫んだ小泉(国政)、橋下(大阪)、小池(東京)への熱狂的支持を見れば、国民の多くに「緊縮=改革=正義」という観念が染みついていることがわかります。

下は2006年6月22日の経済財政諮問会議における小泉総理大臣(当時)の発言ですが、東京オリンピック施設整備を巡る状況などからは、「歳出削減をやめてほしいという声が出てくる」気配は感じられません。

プライマリー・バランスを回復させる場合には、今までのやり方だったら、公共事業を増やさないと景気は回復してこない。それが、公共事業をマイナスにしても税収が上がってきたでしょう。長期的な目標を大事にしつつ、現実の対応はいろいろある。公共事業をマイナスにしても、消費税を上げなくても、歳出削減に取り組んで規制改革をやってきている。政府にも自民党にも、こういう発想は今までなかった。そこが大事だ。

これから情勢が変わり得るのは、歳出削減をどんどん切り詰めていけば、やめてほしいという声が出てくる。増税してもいいから必要な施策をやってくれという状況になってくるまで、歳出を徹底的にカットしなくてはいけない。そうすると消費税の増税幅も小さくなってくる。

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公共投資が本格的に削減され始めたのは1997-98年の金融危機後ですが、同時期から勤労世代の20~59歳人口が減少に転じています。2016年にはピークの1999年から13%減少しています。

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この人口動態が緊縮政策支持と関係しているように思えます。勤労世代人口が減少したために、老人の思想・観念・ideaが世論を左右するようになってきたのではないか、ということです。いわゆるシルバー・デモクラシーです。*1

一般的に老人はケチになる傾向にあります。特に、マンション改修のような「自分の死後のために金を払う」ことに強く抵抗するようです。この発想を公共政策に拡大すると、ほとんどのインフラ投資が「無駄」になります。

東京オリンピックでは「これを機会に数十年間残るレガシーを整備しよう」とされていますが、これは老人にとっては巨大な「無駄」に過ぎないわけです。

このような老人の声に従うことは、マンションが改修されずに老朽化していくように、新規インフラ整備が進まず、既存インフラも老朽化していくことを意味します。これが本当の「もったいない」なのですが。

この見方が正しいとすると絶望的にならざるを得ないのは、老人の声が相対的にますます強くなっていくことです。国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2040年には60歳以上人口が20~59歳人口を上回ると予測されています。

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シルバーデモクラシーと言うと、老人が社会保障給付など自分たちへの歳出を優先させることがイメージされるようですが、日本で進行しているのは「もったいない」精神が需要不足と資本ストックの老朽化を招いていることです。*2

無料配布のポケットティッシュを集めたりおんぼろな服を着るような倹約生活をしていた老人が、死後に多額の金融資産を残していた、という話があります。倹約が目的化してしまったわけですが、日本経済はその拡大版のようなものです。

一時はJapan as number oneと言われた国が、こんなばかばかしいことで衰退していくのが残念です。

jp.reuters.com

日本は、富裕層の高齢化が消費低迷につながっていると見ている。相続などで、消費性向の高い若年層に資金がシフトすれば消費が活発化しようが、高齢化により「老老相続」が増加している。こうしたなか、質素な富裕高齢者が多い点も経済活動の抑制要因になっていると感じている。


・アベノミクスの目標は「日本人特権の廃止」

2017-06-21

http://totb.hatenablog.com/entry/2017/06/21/063750

※2012年11月からの景気拡大の期間がバブル景気を超え、高度成長期の「いざなぎ景気」超えの可能性も高まっています。*1

www.asahi.com

www.sankeibiz.jp

戦後の景気拡大期間の上位4つです。*2

1.2002年1月~2008年2月(73か月)
2.1965年10月~1970年7月(57か月):高度成長期
3.2012年11月~(4月時点で53か月)
4.1986年11月~1991年2月(51か月):バブル景気

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21世紀の景気拡大が長期化しているのは、拡大が内発的なものから外発的なものに変化したためです。

日本企業は1997年の秋の金融危機のショックを契機に、日本的経営から「株主資本主義」に構造転換しました。日本人が自発的に「過激な市場原理主義改革」を行ったのが日本のショック・ドクトリンの特徴です。

ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く
作者: ナオミ・クライン,幾島幸子,村上由見子
出版社/メーカー: 岩波書店
発売日: 2011/09/09

ショック・ドクトリン〈下〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く
作者: ナオミ・クライン,幾島幸子,村上由見子
出版社/メーカー: 岩波書店
発売日: 2011/09/09

ショック・ドクトリンとは、「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」のこと。アメリカ政府とグローバル企業は、戦争、津波やハリケーンなどの自然災害、政変などの危機につけこんで、あるいはそれを意識的に招いて、人びとがショックと茫然自失から覚める前に過激な経済改革を強行する……。

株主資本主義では業績が拡大しても従業員に分配しないことが「正しい経営」となります。

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金融危機の1997年度、企業の構造転換がほぼ完了した2002年度、直近の2015年度を比較すると、株主資本主義の実態が鮮明になります。

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実質賃金(事業所規模30人以上)は、1976→1996年度が年率+1.3%でしたが、1996→2016年度は同-0.6%です。

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GDPの5割強を占める家計消費の「燃料」である賃金が増えなくなったことは、船に例えると、燃料供給が止まったことに相当します。当然、エンジンは停止します。

内需に代わる推進力になったのが輸出です。日本企業の構造転換後、内需に対する輸出の比率が急上昇しています。

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エンジンが止まった「日本丸」は、外需という「風」を帆に受けて低速で進むようになったのです。海外経済の拡大期間は長いため、構造転換後の日本の景気拡大も長期化したわけです。景気拡大の長期化とは、内需の成長率低下の裏返しです。

ショック・ドクトリンに基づく1998~2002年の構造転換の前後では、政府の経済政策の目的も様変わりしています。

下村治(所得倍増計画)や田中角栄(日本列島改造論)の信念は「日本国民全員の生活を良くする」ことでしたが、

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)
作者: 下村治
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2009/01/09

忘れてはならない基本的な問題は、日本の一億二千万人の生活をどうするか、よりよい就業の機会を与えるにはどうすべきか、という点なのである。

www.sankei.com

日本国民である以上、どんな職業に就いていようが、どんな地域に住んでいようが、一定のレベルの生活を得られるようにする。それが政治なんだ。そういうことが田中先生の若き血の叫びの内容だ。

安倍総理大臣は、

日本で海外の選手が活躍し、米国で日本の選手が活躍する。もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。*3

外国人旅行者に不便な規制や障害を徹底的に洗い出し、観光立国をさらに加速してまいります。*4

既得権益の岩盤を打ち破る、ドリルの刃になるのだと、私は言ってきました。

春先には、国家戦略特区が動き出します。

向こう2年間、そこでは、いかなる既得権益といえども、私の「ドリル」から、無傷ではいられません。*5

日本を、能力にあふれる外国人が、もっと活躍しやすい場所にします。*6

「あたかもリセットボタンを押したように、日本を一変させる。」、130日程前、私はこう申し上げました。もうお分かりでしょう。明らかに日本は生まれ変わりつつあります。そして、これからも変わり続けます。・・・・・・私の改革に終わりはありません。そして、いかなる障害も、私の改革への意志を阻むことはできません。*7

高度な外国人材受け入れの拡充や永住要件の緩和、そして、東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設分野での外国人材の受け入れなど、我が国にとって必要な分野での外国人材の活用を積極的に進めていく考えであります。*8

など、日本国民の生活は二の次です(非・日本第一)。アベノミクスの目的が、日本国民を豊かにすることではないことは明白です。

toyokeizai.net

私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。

国家戦略特区の正体 外資に売られる日本 (集英社新書)
作者: 郭洋春
出版社/メーカー: 集英社
発売日: 2016/02/17

安倍首相のいう「世界で一番ビジネスがしやすい環境」の実像が見えてきたのではないだろうか。それは、労働基準法など整備されていなかった時代、あるいは人権意識が希薄で搾取が横行する開発途上国のような状況だ。SEZ*9は本来、途上国に設置されて効果を発揮するものだが、国家戦略特区構想は日本を途上国並みの労働環境に逆戻りさせようというものなのだ。

国にも、国民にもメリットがない。負担は国民と国民が支える国家へ、利益は企業へ。これが国家戦略特区の正体である。

安倍首相が言うところの「岩盤規制」の究極は、スポーツにおける「外国人枠」に相当します。

外国人枠 - Wikipedia

ニューイヤー駅伝では、毎年2区のインターナショナル区間で黒人選手が日本人選手をごぼう抜きするシーンが見られますが、外国人枠を撤廃すれば、7人全員黒人にしたチームが勝つことになるでしょう。

その他の競技でも、外国人枠を撤廃すればプレーのレベルは上がる代わりに日本人選手は激減することが確実ですが、これが「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」の意味するところです。これに反対する日本人選手は「既得権益に胡坐をかいた抵抗勢力」であり、安倍首相の「ドリル」によって粉砕されます。

日本人を外国人より優先する諸制度が「岩盤規制」、日本人であることが「既得権益」であり、それらを破壊して「外国人がもっと、活躍しやすい」ように「日本を一変させる」ことが安倍首相の目標ということです。

まず隗より始めよ。国立の8大学で、今後3年間の内に、1500人程度を、世界中の優秀な研究者に置き換えます。これにより、外国人教員を倍増させます。*10

トップクラスの外国人医師が日本で働けるよう、制度を見直しますし、お子さんを通わせるインターナショナルスクールも、もっとつくりやすくします。*11

外から見れば、日本人は日本列島という「租界」の中で「治外法権」に守られた存在です。日本人の特権を廃止して日本列島を外国人の手に取り戻すことが安倍首相の悲願のようです(→occupied Japan)。*12

安倍首相が日本史上最もリベラルな最高指導者であることは間違いありません。ナショナリストとは真逆のウルトラリベラリストということです。 *13

新しい国へ 美しい国へ 完全版 (文春新書 903)
作者: 安倍晋三
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2013/01/20

toyokeizai.net

保護主義の世界では、民主主義システムの政権担当者は、生活水準と中産階級が大変重要だと考えます。一方、現在の民主主義の危機は自由貿易の危機です。エリートは人々の生活水準に関心を持とうとしません。現在の民主主義は、ウルトラ・リベラルな民主主義であり、エリートが人々の生活水準の低下をもたらしているように見えます。*14

不平等が広がるにつれて、多くの人々の生活水準は下がり始めています。もし、支配者階級が生活水準の低下を促し続けるなら、民主主義は政治的にも経済的にも生き残れない。独裁国家になるのは避けられないでしょう。

おまけ

安倍首相は

実は、現在、メモリーカードなどに入っているタイプの半導体は、東芝が生産量ナンバー・ワンなんです。三重の四日市から、世界中に半導体を売っています。

「日本ではもうだめだ」なんて、評論家特有の「自虐的発想」に、呑み込まれてはいけません。

なぜ勝てたのか。その答えも、大胆な投資にありました。2000年代の10年間で2兆円余りを、四日市工場に投資しました。*15

と述べていましたが、「原子力立国計画」という国策に沿った「大胆な投資」でWestinghouseを買収したことが、東芝の命取りになりました。

www.bloomberg.co.jp


*1:一部のエコノミストが「2014年4月の消費税率引き上げ後に景気後退に陥っていた」と主張していますが、仮にそれが正しいとしても、消費税率引き上げの悪影響があまり大きくないことが重要です。金融危機を知らない子供たちは、1997年以降の日本経済の停滞の原因を同年4月の消費税率引き上げ(3%→5%)と思い込んでいるようですが、これは明らかな事実誤認で、同年秋の金融危機とそれに触発された企業のdeleveraging & restructuringが真の原因です。詳しくは関連記事をどうぞ。

*2:出所:内閣府

*3:2013年9月25日

*4:2013年12月19日

*5:2014年1月22日

*6:2014年5月1日

*7:2014年6月2日

*8:2014年6月24日

*9:[引用者注]Special Economic Zone(特別経済区)

*10:2013年5月17日

*11:2013年6月19日

*12:これが「日本を取り戻す」の真意。

*13:唐の諸制度を全面的に取り入れて属国化した新羅の金春秋が想起されます。

*14:強調は引用者。

*15:2013年5月17日