第10部 近代欧州史の深奥


[再度、なぜトルコなのか?]

イスラエルの中東支配に大きな鍵を握るのがトルコであるが、しかし奇妙である。オスマン帝国末期にいきなりシオニスト・ユダヤ人がトルコに登場して活躍を始めたとは思えない。それだけの活動を行うためには、その活動を支える根強い何らかの潮流が以前から作られていなければならない。オスマン帝国とシオニズム以前のユダヤ人社会の間に、いったいどんなパイプが作られていたのだろうか。

サバタイ・ゼヴィ(Sabbatai Zevi;Shabbethai(シャブタイ)、Zvi、Tzvi(ツヴィ)など様々に表記される)といっても、よほどユダヤ史を研究している人以外には、ご存知の方はほとんどいないだろう。しかしユダヤ人の間では「自称メシア」つまり「偽メシア」として有名な人物である。彼は1626年にトルコのスミマにあるユダヤ共同体の中で生まれた。若いころは神秘主義とカバラ魔術に凝ったと言われるが、やがて17世紀に英国で発生した千年王国思想に影響を受け自らを「メシア」と名乗るようになる。

なお、この英国で流行した奇妙な思想だが、新約聖書のヨハネの黙示録に出てくる「666」という偽キリストの数字から「1666年が終末の年であり、そこからキリストが支配する千年王国が始まる」という他愛の無いもので、もちろん1666には何も起きなかった。しかしその流行の周辺を眺めてみるならばとても「他愛の無い」などと言えた代物ではない。

まずオリバー・クロムウェルなどの英国清教徒が率先してこの思想を高唱した。そしてポルトガルのラビであるメナッセー・ベン・イスラエルはユダヤ人のメシア待望、「イスラエルの失われた十支族」が英国に住み着いたというデマ、十字軍以来のキリスト教徒のシオン願望、そしてこの千年王国思想を巧みに利用しながら、クロムウェルと英国議会を説得し、英国のキリスト教徒がオランダとポルトガルに住んでいたユダヤ人を受け入れるように導いた。こうして英国でキリスト教ともユダヤ教ともつかぬ奇妙なメシア思想が根付いていった。

ちなみにいうなら、後にアメリカ大陸に移りそこを「神に約束された聖なる地(=シオン)」に見立てた清教徒たちの源流はこのあたりにあるのだろう。もともとユダヤ教の影響を受けるカルヴァンの流れなのだが、米国のキリスト教は、欧州のそれとはかなり異なった様相を示していること、原住民を大量虐殺しながら自らの国土を造っていった歴史が旧約聖書の記述に類似していることなどをみても、それは最初から純然たるキリスト教とは言いがたい面を持っている。

ゼヴィの父親はオスマン帝国の英国代表部のエージェントとして働いていたのだが、元々神秘思想にかぶれたゼヴィがこの潮流に目をつけないはずはない。彼はわずか20歳のときにすでにスミマで「イスラエル王国を再建すべく神に選ばれたメシア」として名乗りを上げていたのだ。イスラエル王国を再建? そして「メシア」に成りすました彼は小アジア~東欧各地のユダヤ共同体の中で歴史的に「サバティアン」と呼ばれるようになる信奉者を増やしていく。

彼の主張の際立った特徴は反道徳主義であろう。すでにこの世にメシアが登場したからにはもはや人間から罪は消えた、ゼヴィに従う限り何をしてもそれは罪として数えられない。恐ろしい発想だがこれは何もゼヴィが発明したものではないしユダヤ教起源のものでもない。キリスト教にも仏教にも同様の傾向は存在する。しかしゼヴィの場合は際立っていた。彼は1666年にオスマン当局に弾圧されそうになるとイスラム教に改宗しアジズ・メヘメットと名乗った。それをユダヤ教徒から非難されると「イスラム教徒をユダヤ教に改宗させる方便だ」と答えたのだが、一方でオスマン帝国のスルタンに対しては「ユダヤ教徒をイスラム教徒に改宗させる」と語ってその関係を維持し、イスラム教徒の間にもそのセクトを広げた。

彼とその信奉者たちにとって奪うことや殺すことはもとより、二枚舌を用いて騙すことは何一つ罪にはあたらない。こうして彼らの間から道徳と法を規定する唯一絶対の神は消えた。ゼヴィは1676年にモンテネグロで死亡したが、「イスラエル王国を再建すべく神に選ばれたメシア」の思想的影響は強烈に東欧と小アジアのユダヤ人たちの間に根付いていったのである。ここで注意深い読者なら、このような発想が現在のシオニストのそれに瓜二つであることにハッとさせられるかもしれない。

信心深い旧来のユダヤ人の中にシオニストたちを「偽メシア」と呼ぶ人たちがいる。彼らがこのサバタイ・ゼヴィを意識しているのは明らかであり、その潮流の中にシオニズムの起源を見出しているのだろう。そしてこの堕落し果てた偽メシアのユダヤ人がこの時代にすでに英国とトルコとユダヤ社会の間をつないでいたことを忘れてはならない。彼は「イスラエル王国再建」のためにトルコを利用しようとした。ゼヴィの父親が仕えた英国がその動きを掌握していなかったはずもあるまい。19世紀末に登場する新たな「偽メシア」はこのような土台のうえに活動を開始したのである。アルメニア人虐殺を実行した「青年トルコ運動」の主力にこのサバティアン・セクトの末裔が多数含まれていた。


[偽預言者の系譜]

この極めて人間的な劣悪で危険な思想が相当な数の人間に影響を与え思考を狂わせ続けていくだろうことに疑念の余地はあるまい。東欧のユダヤ人内部でじきに新たな「メシア」が登場することになる。ヤコブ・フランク(1726-1791)である。彼はサバタイ・ゼヴィおよびダビデ王の生まれ変わりを自称し、東欧から西欧一帯のユダヤ人社会に大きな影響を与えた。当時彼らは、東欧各地で王侯貴族の庇護の元に経済と小工業生産や流通を取り仕切り、各地域の中で大きな政治的影響力を誇っていた。

フランクは当時ポーランド領であったウクライナで生まれたといわれるが、父親はやはりサバティアンであった。当時のポーランドには数多くのサバティアンの秘密組織が存在したのである。当然だが伝統的なユダヤ教ラビたちはサバティアンを厳しく禁じ取り締まった。しかしその人間の悪徳と貪欲と狂信を一身に集めたこのメシア思想が簡単に消えて無くなるわけもない。中流クラスのユダヤ人たちの多くが徐々にこの悪魔的思考「フランキズム」に取り付かれていく。

フランクとその支持者達はポーランドの伝統的ラビたちから危険視され何度もそこを追い出されるのだが、彼らはタルムードを捨てカバラとゾハールを信奉し、そして非常に奇妙なことに、それがキリスト教の神秘思想である「三位一体」の考えと矛盾しないことを主張した。

思想的に言えば、強烈なメシア主義とともに、やはりフランキズムの反道徳主義を指摘する人が多い。サバティアンの中から出てきた以上当然のことなのだが、善と悪の概念を区別しない、あるいは都合に従ってその名目上の境目を消したり動かしたりできるのである。もちろん自ら「メシア」を名乗る者の都合である。欺くこと、破壊すること、殺すことの全てがその都合に従って「悪」から「正義」へと移項されるのだ。

彼がゼヴィの後継者であると名乗り始めてから、ちょうどこの大先輩がオスマン帝国に取り入り二枚舌の改宗を行ったのと同様に、ローマカトリックに近寄り洗礼まで受けてしまった。1759年の話である。その後、フランクに率いられるサバティアン系統の中流クラスのユダヤ人たちが続々と彼に倣った。同時にそのかなりの部分がプロテスタントにも「改宗」することになる。このようにしてキリスト教に浸透したユダヤ人たちはその中でそれぞれの宗派の伝統的精神を腐らせていくことになるのだ。なぜなら、彼らがカトリックやプロテスタントの信徒でありながら同時にフランクやゼヴィのメシア思想に従うことができたからである。彼らに道徳は無い。どこにいてもその信仰、思想、信条を変えないままにフランクの使徒たりえたのだ。

伝統的なユダヤ人たちは、現在でもそうだが、彼らを「フランキスト」と呼んで軽蔑し警戒した。しかしこの流れもまた、現在のキリスト教シオニスト、カトリック・シオニストの大流行を考える上に大きなヒントとなるだろう。これらは決して100年やそこら続いた程度の動きではないのだ。

ヤコブはその後ローマから疎んじられポーランド当局に逮捕されたりもするが、ドイツに移り住みフランクフルトを経てオッフェンバックで豪勢な生活を送った末に、娘を後継者に指名して1791年に死亡した。彼の重要なパトロンが後にロンドンとパリを支配することになるフランクフルトのロスチャイルド家でありその周辺にイエズス会のアダム・ヴァイスハウプトがいたことは説明の必要もないだろう。

彼の言動の中で注目すべきことがある。彼はカトリック教会に対しては「ユダヤ教は旧約聖書にあるヤコブでありカトリックはエソウである(旧約聖書ではヤコブは弟のエソウを騙して殺しそれを知った神はヤコブをエデンの東に追放したとされる)。いまやヤコブとエソウの仲直りのときが来ている」と語り、その一方で自分の支持者に対しては「聖書にあるヤコブのようにキリスト教徒を騙してパレスチナの地に反キリストの王国を建設するのだ」と、大先輩に習って二枚舌を弄した。パレスチナの地に反キリストの王国? まさに現代イスラエルのイメージそのものではないのか?

彼の支持者の中にはキリスト教とは逆に啓蒙思想に走り、フランス革命を支持しあるいは積極的に参加した者も多くいた。フランス革命が新興ブルジョアジーの革命でありその中にユダヤ人中産階級が多く含まれている以上当然のことといえる。ジャコブ・フランクをむしろ「ユダヤ人に啓蒙思想をもたらした人物」として、さらには「近代世俗思想とフェミニズム」そして「シオニズムをもたらした人物」として紹介する者も多い。こうして彼らはカトリック、プロテスタント、そして世俗主義のそれぞれの内部で強力なグループを作り、西欧から東欧、北欧からトルコ、そして北米大陸にいたる主要な世界の隅々にまで浸透していくこととなるのだ。

《注記:この点についてはひょっとすると、19世紀末から20世紀初期にかけて、カトリック内部で起こっていた「シヨン運動」とのつながりがあるのかもしれない。

特に啓蒙思想に流れた者達の動きは巨大である。それはアメリカ革命(独立)、フランス革命、トルコ革命、そしてロシア革命に至る近代の革命にとって原動力の一つとなっている。このような革命思想が全てある種の「世俗的メシア思想」であることに注目しなければならない。そして・・・、その「世俗的メシア思想」の中にシオニズムもまた含まれている。それは近代ユダヤ人社会の中で脈々と受け継がれるサバティアンの流れから登場して来たのである。ここでも東欧とトルコが鍵を握っているのだ。

社会主義者で左派シオニストと一般的に呼ばれるダヴィッド・ベン・グリオン、モシェ・シャレット、イツチャック・ベン・ズヴィなどがイスタンブールに住みそこで学び(ベン・グリオンはロシア国籍を捨ててオットマン帝国の国籍を得ていた)、共産主義者アレクサンダー・パルヴスが「青年トルコ革命」を援助し、ファシストであるウラジミール・ジャボチンスキーが革命運動機関紙の編集長を務めたことなど、何一つ不思議には当たらないのである。


[重層社会としての欧州]

どうしても我々は国境を元にして世界地図を垂直方向に切って考えてしまう癖が付けられている。これは日本が孤立した島国であることの影響もあるだろうが、主要にはむしろそのような学校教育の結果だろう。実際には地面にへばりつくように生きる下々の者達以外にとって、国境など存在しないのである。超国家組織とそれが伸ばす網の目は、陸続きの欧州では数百年、千数百年も昔から当たり前なのだ。

その典型的な例がローマ教会であり王族や貴族による「高貴なる血(青い血)のネットワーク」である。またローマ教会がラテン語という共通言語によってその支配の網を維持したのだが、その上に乗って近代の科学者や哲学者のネットワークが形作られた。さらにはその科学者集団の原形である錬金術師、そしてフリーメーソンの起源であろうといわれる建築家たちの動きにも国境など存在しなかった。

その国境の無い人と富と思想の流れの中にユダヤ人グループのそれがあったことは言うまでもない。15世紀末にスペインを追放されたセファラディ・ユダヤも、それ以前にハザールの滅亡によって東欧に散ったアシュケナジ・ユダヤも、常に各地の王侯貴族の下でその経済を支える同時に共同体同士で常にオープンな通路を保っていた。

国境線によって垂直に区切られた世界認識では、このような実際の欧州の姿、そして現在の世界の姿は見えてこない。さらには今まで述べたように、それぞれの超国家集団の間に相互の浸透があり、やがて一方が片方を支配するようなこともあるだろう。これは何か特別な陰謀などではない。重層社会としての欧州では至極当たり前のことに過ぎないのである。

サバタイ・ゼヴィ、ヤコブ・フランクといった、人間の持つ権力への願望と劣情と狂気を最大限に引き出す文字通りの「偽メシア」の思想は、ユダヤ人社会が昔から持っていた通路を通って一気に欧州と小アジアに広まり、それがイスラム教とキリスト教、そして世俗主義の中に根深く浸透していった。それはあたかも血管を伝わって広がった毒が体の様々な組織の中に染み込み体中の細胞を犯していくように、欧州と北米の社会をガンジガラメにしていくのである。

そしてそれは最初から「パレスチナのイスラエル王国再建」を目指すものであった。根っからの無神論者であるダヴィット・ベン・グリオンやゴルダ・メイヤなどがパレスチナを「約束の地」と語る心情に決して嘘はあるまい。彼らは、2000年前にパレスチナを追われたユダヤ人の系譜ではなく、この偽メシアの系譜に属しているのである。「パレスチナ人などはいなかった」とうそぶくメイアの姿は、まさにサバティアンとフランキストの反道徳主義をそのまま語っただけである。最も大切な同盟国アメリカの軍艦を襲撃して皆殺しにしようとしたシオニスト・イスラエルの姿、パレスチナ人に対するアパルトヘイトと虐殺の政策、そして虚構と脅しで米国人を見張り資産を巻き上げる米国シオニストの姿、アルメニア人を騙して扇動し数十万人を殺したサバティアンの子孫の姿、チェカとNKVDを主導して数百万のロシア人を虐殺したユダヤ人共産主義者の姿、さらには無数のユダヤ人同胞を未曽有の苦難に放り込み見殺しにした シオニストたちの姿、…、これらはすべてこの偽メシアの系譜に属している。

19世紀後半に盛んになった反ユダヤ主義に対する反応として生まれたシオニズムなどといった、特に左翼が好みたがる通説が、いかに上っ面だけの真相を覆い隠すたわごとに過ぎないのかは明白であろう。


[シオニズムとは?]

自ら「陰謀論者」を名乗る不思議な「反ユダヤ主義ユダヤ人」ヘンリー・メイコウは、いわゆる「ユダヤの陰謀」およびシオニズムの本体を大英帝国主義の中に見ている。当然だがその大英帝国の中枢部はロスチャイルドを筆頭とするユダヤ系資本に握られる。しかしロスチャイルドの到着以前にも、大英帝国の基礎固めの時期である16~17世紀にはオランダやポルトガルから大量のユダヤ人が英国に移り住み支配階級の間に強力なネットワークを築き上げていた。遅れてフランクフルトからやってきたロスチャイルド家はその土台なかで頭角を現した。

そしてそのロスチャイルド家がヤコブ・フランク最大のパトロンであった。英国が近代シオニズム発祥の地であったとしても何の不思議も無いのだ。大英帝国はそのスパイ網を東欧・ロシアから中東一帯に張り巡らせていたのだが、オスマン帝国内でのトルコ革命やロシア革命がユダヤ人主導の元に行われたと同時に、それらを大英帝国のスパイ網が逐一キャッチしコントロールしていたことに疑念の余地はあるまい。欧州の重層社会と水平に広がる様々なネットワークを知る者にとってはほとんど常識の部類であろう。

メイコウもその一人なのだが、敬虔で真面目なユダヤ人、正義感と道徳観に溢れたユダヤ人の中には、シオニスト(サバティアン、フランキスト)こそが反ユダヤ主義を必要としており反ユダヤ主義の源泉の一つであると見る人が多い。19世紀後半からロシアに吹き荒れたポグロムの嵐やドレフュス事件などを最も上手に利用したのがシオニストであったことは誰の目にも明白である。

あのウラジミール・ジャボチンスキーが、9百回に近いポグロムを指導しおよそ3千名のユダヤ人を虐殺したシモン・ペティルラと同盟工作を行ったことにも別に何の不思議もあるまい。彼を単なる「ユダヤ人の裏切り者」と見なすのは片手落ちであろう。彼が17世紀以来の「偽メシアの系譜」につながっていると仮定すればすべての筋が通る。この系譜は東欧を中心にしてすでに強力なネットワークを築き上げていた。彼らにとって道徳などは存在しないのだ。道徳の存在しないところに裏切りなどは無い。全てが正当な行為に過ぎないのである。現実が狂気を産み出すと同時に、狂気が現実を生み出すこともありうることを忘れてはなるまい。

そしてその「偽メシアの系譜」はパレスチナにイスラエル王国を再建することに照準を絞る。しかしそんなちっぽけな願望でこのような狂気が産みだされるのだろうか。ここでこの偽メシアの思想がキリスト教の中から生まれた千年王国の思想と合体していることを思い起こす必要があろう。彼らにとってイスラエル王国の再建は、そのまま世界の絶対的支配につながる重要なステップなのだ。馬鹿馬鹿しいと思わずにヨハネの黙示録をめくってみていただきたい。

おそらく20世紀のイスラエル建国はその一つのステップであり、イスラエルの建国とその維持のみに絞った狭い意味のシオニズムは単なる方便に過ぎまい。シオニストの働きは世界的なものである。日本でさえすでにガンジガラメにされている。英国はもとより、フランスではサルコジのシオニスト政権がすでに誕生しており、ドイツのメルケル政権は完全にシオニストの主中にある。その流れは米国を席巻した後、確実に欧州に還流しつつあるのだ。

あのパレスチナの痩せたちっぽけな土地を確保する、あるいはせいぜい中東地域での覇権を確保する、などといった目でシオニズムとイスラエルを見ていると、とんでもない間違いを犯すことになるだろう。彼らの本体は、もし現在のイスラエルが不要になれば巨大な中東戦争を演出することでイスラエルを消滅させ、再びユダヤ人の大虐殺を引き起こすことすら厭わないだろう。彼らにとっては世界支配の意思があるのみでありすべては方便の世界なのだ。これこそ人類最大の悪夢、最大の狂気に他ならない。

 
第11部 悪魔の選民主義

[「偽メシア」の系譜と近代シオニズム]

私は17世紀トルコのサバタイ・ゼヴィ、そして19世紀ポーランド・ドイツのヤコブ・フランクという二人の「偽メシア」をご紹介した。しかし、当然だがこの二人はユダヤ=キリスト教社会に深く根を下ろす「メシア待望」を象徴しているに過ぎず、その背後には「迫害の後にユダヤ人を選民として救済するメシア」という旧約聖書以来の「復讐のメシア」待望がある。また一方でそれを取り巻くキリスト教社会には「千年王国の到来を告げる偽メシアの登場と大迫害」および「キリストの復活=選民としてのキリスト教徒の救済」を願う倒錯したキリスト教徒の「黙示録信奉」が幅広くそして根強く横たわっている。

それは、日ごろは彼らの集団的な深層意識の中に埋まりこんでいるが、それがカリスマ性を持つ人物の言動や現実的な脅威を前にした扇動によって、もはや逃れることのできぬほどに強力な集団的意識を作り上げることになる。これは決して馬鹿げた迷信として無視すべきものではなく、理性や客観性を越えて内側から有無を言わさず人間とその集団を動かす、まさに現実的な力なのだ。

「サバティアン」たちはトルコを根城とし東欧のユダヤ人たちを「選民思想」と「復讐のメシア」願望でまとめていった。そしてそれは欧州各国に広がるユダヤ人連絡網を通してたちまちのうちに広がり、各国で支配者の庇護の下で経済面での特権的地位を確保しその反動として常に非ユダヤ人民衆からの憎しみと攻撃にさらされていたユダヤ人社会の中で着実に根を下ろしていった。それは特に、16世紀から17世紀にかけて最盛期を向かえ18世紀以降衰退していくポーランド=リトアニア連合の中で最も強力な形を取っていったのである。この地域のユダヤ人たちが絶対王権と結び付いて確保していた特権的地位喪失の危機にさらされた18世紀に登場するのが「フランキスト」の動きである。「メシアの登場」によって裏付けられた「選ばれた者たち」の反道徳主義は、喪失への恐怖と非ユダヤ人に対する憎悪に囚われ特権奪回を願望する一部のユダヤ人たちの思考と行動を支配していった。

そしてそれは確実にロシア、ウクライナまでを含む東欧に広がっていったのだ。ウラジミール・ジャボチンスキー、メナヘム・ベギン、イツァーク・シャミール、ダヴィッド・ベン・グリオン、ゴルダ・メイア等々といった「イスラエル建国の祖」たちが、「左右」の違いにもかかわらず、ことごとくこの地域出身者であることに否が応でも気付かされざるを得ない。そして「メシア」ジャコブ・フランクを経済的に支えたのがフランクフルトのロスチャイルド家であり、ここでこの「選民思想=復讐のメシア待望」が「貨幣神」と出会うこととなった。

以来、ロンドンとパリの「貨幣神」は「選民思想=復讐のメシア待望」に取り付かれる者達の守護神となっていくのである。近代シオニズムがこのような歴史の中で徐々に形を取っていくことになる。単なる「選民思想=復讐のメシア願望」だけでは一部の風変わりな集団的狂気で終わるだろうが、そこに現実の世界を強力に動かし作り変えていく「貨幣神」の働きが加わることで、それは資本主義によって動かされる政治思潮の、最も先鋭化され、最も残虐で、最も堅固な動きを作っていくことになる。

そういえば、パリのロスチャイルド家に支えられたフランスの大統領サルコジがトルコ出身のユダヤ人の血を受けている。トルコが「サバティアン」の本拠地だったことを考えれば、彼とネオコン・シオニストとの関係も無理からぬところがある。またサルコジが最も信頼する人物の一人でコルシカ・マフィアのボスであるシャルル・パスカが世界ユダヤ人会議会長で大富豪であるエドガー・ブロンフマンと血縁関係を結んでいることからも、「選民の血統」と「貨幣神」との一体化は覆い隠すべくも無い。そして米国ネオコンやCIAに担ぎ出されフランスのシオニストと一体化している面ばかりではなく、その平然と裏社会を支援する政治姿勢や下劣な品格、堕落した私生活を貫く徹底した反道徳主義を見るときに、サルコジのシオニストとしてのあり方がどこに根ざしどこに向けられているのか、よくわかるはずである。

しかし問題をもう少し広い目で見るならば、現代シオニズムを考える際のポイントはもはや「血の問題」などではなく権力と経済支配への意思に貫かれる「選ばれた者」のための社会作りであると言えるだろう。そこではもはや人種的に「ユダヤ系」であるのかどうかなどは問題にもならないであろう。

ここで近代~現代シオニズムの持つもう一つの顔を見ておかねばならない。「イスラエル建国」に尽くしイスラエルの利権を維持し拡大しようとする「狭義のシオニスト」と表裏一体の関係にある、「広義のシオニスト」といえる者達の存在だ。欧米各国には固くイスラエルを支持しイスラエルの利益のために体を張って働く者達(ユダヤ人、非ユダヤ人に関わらず)がいる。しかし彼らはそれほどに《イスラエルを愛している》のだろうか? 確かにイスラエルの「二重国籍」を持つ者は多い。しかし彼らは決してその国に移り住もうとはしない。彼らの多くは欧米各国で支配的な階級に属する者達、銀行や企業を所有して巨額の資本を操り、メディアを所有して情報を操り、アカデミーを支配して論理を操り、法律に精通して法体系を操る者達である。

狭義の「シオニズム」がパレスチナの痩せこけた土地に固執する一部ユダヤ人の偏執狂的な運動であるにもかかわらず、広義の「シオニズム」は資本主義の別名とすら言える。それはもはや人種概念ではなく資本主義によって作られる「選民」を「新ユダヤ人」とする世界支配への願望なのだ。この二つの「シオニズム」は実に上手に結び付けられ、また使い分けられてきた。しかし「貨幣神」を奉る広義の「シオニズム」がその本体 であることに疑いの余地は無かろう。

我々は、いかにジャボチンスキーを追いベン・グリオンを追ったとしても、単に彼らの「イスラエル建国」という政治上の事件ばかりに注目するのでは、実際には何一つシオニズムに関する真実を見極めることはできまい。アメリカ合衆国がどうしていともたやすく最大のシオニスト国家となってしまったのかの理由がここにあるのだ。前回も申し上げたとおり、近代資本主義の土壌ともなった清教徒たちの集団は奇妙な終末思想に取り付かれ、彼らにとってアメリカ大陸こそが「聖なるシオン」に他ならなかったのである。そして資本主義の「祖国」イギリスと近代国家思想発祥の地フランスはともに紛れも無く近代シオニズムの「祖国」でもある。


[神は死に、悪魔が神となる]

近代シオニズムの大きな特徴としてその無神論が挙げられる。テオドル・ヘルツルを筆頭とし「イスラエル建国の祖」達の誰一人として敬虔なユダヤ教徒はいない。当然だがあの「偽メシア」どもは真っ先に彼らの神を捨てた。彼らはあらゆる道徳的基準を放棄し、自らを「選民」として支配的な地位に付かせるものであればいかなるものをも利用しいかなる嘘をも正当化する。それが彼らの「道徳」なのだ。ジャボチンスキーが言うとおりである。「聖なるシオン」を我が物にするシオニズムこそが彼らの唯一の道徳である。それ以外に道徳など存在しないのだ。

近代シオニズムに関しては、「神を捨てた」と言うよりは「神を取り替えた」と言ったほうが良いのかもしれない。彼らは強力な「貨幣神」の力に従っている。しかし貨幣そのものには善も悪もあるまい。それが選民思想と結び付くときに強力な「悪魔主義」へと変身する。貨幣を支配する者が「選民」として世界を支配するときにその「貨幣神」は巨大な悪魔へと変貌するだろう。

それは、あれこれの理屈ではなく、20世紀の歴史、特に後半に登場したネオ・リベラル経済による世界支配を一見すればすぐに理解できる話である。現在の日本を見てみるがよい。伝統的な独自の民族主義に基づく資本主義解釈はすでに破壊され、徐々にごく少数の「エリート」と大多数の「非エリート」が形成されつつある。「非エリート」たちは若者も老人も食うや食わずに追い詰められしぼりとられる。その分の富と力が《消滅》したわけも無い。単にどこかに集中しただけの話だ。

資本主義の大本山であるアメリカを見るがよい。元来からデタラメな投資に過ぎないサブプライムローンが破綻することは最初から見えていたはずだ。そしてその損失の補填は国民から搾り取った税金でおこなわれる。そしてそれがほとんど何の反対も無く当然のようにおこなわれる。対外戦争政策のたびに税金から膨大な富が軍産複合隊とそれを支える金融機関に流れてきた歴史については言うまでもあるまい。その中で殺され傷つき悲惨な生活に追いやられていくのは大多数の「非エリート」たちである。

CIAの政治謀略によってネオリベラル経済がどこよりも先に実現された中南米を見てみるがよい。中間の階層は経済破綻のたびに次々と薄くなり「エリート」と「非エリート」の2極分化が進んできた。そしてその経済を中心になって作り支えてきたのが紛れも無いユダヤ系のシオニストたちであり、そしてそれと一体化した統一教会などの犯罪者集団、反共に凝り固まるカトリック教会、そしてその背後にいるウオールストリートの富豪投資家どもなのだ。

この二重のシオニズムの構造を正しく読み取っておかねばならないだろう。この大富豪どもとその手先がヒトラーを育て、彼が欧州から一般ユダヤ人を狩りたてパレスチナの地に一部のユダヤ人を集めていったのは、それが彼らの意図する「聖なるシオン=地球全体」を目指す彼らなりの「革命」にとって欠かすことのできないステップだからである。彼らの世界観は資本主義のそれであると同時に特殊な神話の様相を帯びる。彼らは人間の弱さと愚かさと残虐さを熟知しており、人間とその集団が決して冷徹な計算や理屈だけで動きまとまるものではないことを十分に知っている。支配する側にとっても支配される側にとっても、人間にはある種の神話が必要なのだ。

あの無神論者どもが図らずも語る「約束の地」「神の約束」は伝統的なユダヤ教に背を向けて語られたものでしかない。トーラーに書かれた教えを守る敬虔なユダヤ教徒たちは「神の許しがあるまでは決してパレスチナに戻ってはならない」と信じていた。そして居住するそれぞれの国の制度と習慣に順応した生活を「良し」としていたのである。シオニストたちはまずその神を捨てた。次にパレスチナへの「帰還」という神話を徐々に根付かせていった。それは「2000年前に住んでいた場所に戻る権利がある」というものであり、あらゆる合理的な精神を超越した一つの神話体系にのっとったものである。それが本当ならばケルト人たちはイングランドを占領する権利を持ち、アメリカ原住民達はアングロサクソンをワシントンやニューヨークから追い出す権利があることになる。しかしそれはユダヤ人にだけ与えられた絶対的な権利である。彼らは「特別の民」だったのだ。いったい誰によって「選ばれた」?

それにしても奇妙なことだ。すでに数多くのユダヤ人たちが欧州や米国での恵まれた生活を享受していたのである。ポグロムのような迫害があったとしても、もし現実的な利益を考えるのならば、他の国ではなくわざわざすでにアラブ人たちが生活している砂漠の国に移住しようなどと、誰が考えるのか? しかも多くのユダヤ教徒たちにとってそれは神の命令への反逆に他ならない。

シオニストたちはユダヤ教からその「選民主義」と「復讐のメシア」という概念だけを抜き取って利用した。またそれは米国に渡ったプロテスタント達にとっても違和感のあるものではなかった。ヨハネの黙示録に取り付かれた彼らは反キリストの登場とキリストの復活、そして《新たなエルサレム》を信じる。その天国の住民達は《真(新)のユダヤ人》に他ならないのである。黙示録では迫害を受け被害者となったキリスト教徒たちが復讐を神に願うシーンが描かれる。「選ばれた民」が「迫害による犠牲」を経て神話的な力による「聖なる復讐」の結果を享受するというパターンが脳裏に染み込んでいるのだ。しかも最初に「救済の約束」を受けるのは「14万4千人のユダヤ人」である。

それは後に「第2バチカン公会議」を演出するバチカン内の勢力 にとっても実に自然なことであった。ジャコブ・フランクの徒たちがキリスト教各派にもぐりこんでいたことは周知の事実である。こういった「選民主義」と「復讐のメシア」にのっとった神話体系は、欧米の有力な階層の者達を引き付け抵抗感をなくし支持を取り付けるのには絶好のものであった。

こうして、この神話の登場人物となり神話を現実のものとすべく、自らその神話に取り付かれた狭義のシオニストたちがユダヤ人の中から輩出することとなった。一方で広義のシオニストたちはその神話を完成させるべくユダヤ人に対する大迫害を演じる一大役者を育成しその役を演じさせた。今回までに申し上げたとおりである。当然だが、イスラエルという国は、単に中東地域に打たれた欧米資本のクサビであるばかりではなく、膨大な量の資金洗浄の場でもあり、また米国国民から巻き上げた税金のばら撒き場所・たかり場所でもある実に都合の良い場なのだ。


[シオニズムはユダヤ民族主義ではなく]

ネオコンについて少しまとめてみよう。ネオコンは主にレーガン政権の反共政策の中で頭角を現してきたのだが、その少し前にメナヘム・ベギンが歴代の「左翼政権」に代わって指導者となった。そしてその後を継いだのがイツァーク・シャミールだった。もちろん彼らはユダヤ・ファシスト、ウラジミール・"ゼエヴ"・ジャボチンスキーの直系であった。ネオコンの一部は元左翼(トロツキスト)と言われるが、「教祖」とも見なされるレオ・シュトラウスはかつてジャボチンスキー支持者の一人でありナチスの人脈にもつながる人物である。そしてネオコン主流を形作ったポール・ウォルフォヴィッツ、ダグラス・ファイス、リチャード・パール、チャールズ・フェアバンクスなどはことごとくイスラエル「右派」との太い人脈を保ち、米国の国家機密を平然とイスラエルに流す者達だった。またダグラス・ファイスの父親ダルック・ファイスはベギンやシャミールが所属したポーランド・ベタールの一員であった。ネオコンはジャボチンスキー直系のイスラエル「右派」米国出張所と言っても言い過ぎではあるまい。

それではこのネオコン台頭以前はアメリカ合衆国の内部でシオニストが力を持っていなかったのだろうか。とんでもない! 1967年に米国の情報船USSリバティーがイスラエル空軍の爆撃に遭って危うく撃沈されそうになったときに、カンカンになって怒っていた大統領ジョンソンを1日で黙らせたのは何の勢力なのか? そもそも「イスラエル建国」前に米国内ユダヤ人たちによるパレスチナ・シオニストへの武器密輸を黙認させたのは何の勢力なのか? スターリンのソ連と共にあのデタラメなイスラエル建国を断固として支持させたのは何の勢力なのか?

米合衆国のエスタブリッシュメントたちはその始めから広義のシオニストなのである 。彼らは確かに資本を代表している。しかし資本だけではその人間としての姿が存在しない。貨幣そのものは善でも悪でもなく何の意志も持っていない。それに何らかの性格を与えるのはやはり人間なのだ。「貨幣神」は、強烈な世界支配への意思、ある「選ばれた者達の天国」を地球上に実現させようとする強烈な意思と結び付いたときに、その悪魔性を発揮するのだ。それはまさに悪魔そのものである。神はもういない。しかし悪魔はその力をますます発揮しつつある。

近代~現代シオニズムはもはやユダヤ民族主義ではない。それは「選民」による資本主義経済に基づいた世界の全面支配を目指すものであり、ユダヤのメシア思想と同時にキリスト教の千年王国思想にも根を下ろす、資本主義エリート達による「永遠の天国」実現への動きである。そしてそれは人類の大部分にとっては「永遠の地獄」の実現でしかない。「イスラエル建国」はそのための重要な布石ではあっても、現代シオニストたちの目はパレスチナのやせこけたちっぽけな土地などには向けられていないのだ。再度言うが、彼ら現代シオニストにとって「聖なるシオン」はパレスチナではない。それは《全地球》なのだ。まさに黙示録の世界である。


[暗黒の海に浮かぶ島、イスラエル]

レオ・シュトラウスが将来の「理想社会」を描いて見せるとき、それは哲学者(道徳律を持たない理論のコントローラー)をトップとし政治家と宗教家をその手足として、各国に備えられたメディアと暴力装置を操りながら戦争と平和の幻想を演出して「雲の下にある永遠の地獄」を維持し、それによって「雲の上の天国」を恒久的に維持する世界として現れる。彼が、ギリシャ哲学を語ってカモフラージュしているのだが、バラモンを最上級カーストとして2千年以上にわたって維持されてきたインドのカースト制をイメージしていることは明白であろう。

しかしシュトラウスは一つの大きな嘘をついている。いったい誰がその哲学者達にメシを食わせるのか? 誰が彼らに権威とその地位を与えるのか? 彼はその「神」の名を語らなかった。というよりは語ることを許されていなかったのだ。彼の思想はその弟子であるネオコンの運動の基本理念となったのだが、彼らはその「神」の名を十分に知っている。彼らはその政治代表部として「神」に仕える。それは「人間の顔を持つ資本」であり、人間の持つ魔性を最大限に引き出し具現化したものである。それは虚構そのもの、貪欲さそのもの、そして残虐性そのものである。

20世紀の後半に、一つの巨大な虚構として登場し、選ばれざりし者達(具体的にはパレスチナ人)への残虐の権化として登場し、米国国民の富を無限に吸い取る貪欲さの権化として登場したイスラエル国家は、この「人間の顔を持つ資本」が作る暗黒の海に浮かぶ「島」である。その「神」は、全地球を《聖なるシオン》と変える際に、もしこの「島」が不必要となれば、再び人種的な意味のユダヤ人に対する大虐殺を演出することによって沈めてしまうことすら厭わないだろう。そしてそれは新たな神話の最も重要なイベントとなる。永遠の地獄と永遠の天国を維持するためには強烈に人間の心を支配する神話がどうしても必要なのだ。

ウラジミール・ジャボチンスキーはその神話作りの中心人物の一人として登場した。彼自身はこころざし半ばにして死亡したがその「偽メシア」の系譜は確実に近代世界最大の虚構を築き上げていった。彼は「二重のシオニズム」が持つ一つの顔を代表していたのである。そして彼の「ユダヤ・ファシズム」がパレスチナの小さな土地ではなく世界に広がっていくときに、そのもう一つの顔がその最も獰猛な顔をむき出してくることだろう。

いや、もうすでに顔を見せ始めている。世界に憎しみと復讐心と恐怖をばら撒き、似非科学と反理性主義をばら撒き、それによって人心を支配し政治を支配し、世界の大多数の住民を地獄に閉じ込めて「選民の天国」を永遠に維持しようとするファシストの姿、まさにマイケル・レディーンの言うユニバーサル・ファシズムの姿である。

「イスラエルの源流」探索は決して過去の歴史探訪ではない。それは極めて現在的であり近未来的な問題と直結するものである。「イスラエルの源流」の暗黒はまさしく現代の暗黒であろう。そしてまた、残念ながら非エリートである大部分の我々にとって、未来の暗黒に他ならない。

(了)


・ブレジンスキーの娘がテレビ番組の中で自分たちの仕事は人びとが考えることを操ることだと口に(櫻井ジャーナル 2017年3月23日)

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※西側の有力メディアが教育と並ぶ支配層の思想コントロール装置だということは言うまでもない。最近、それをテレビの番組の中で口にした人物がいる。ミカ・ブレジンスキーだ。人びとが考えることをトランプは正確にコントロールできるとしたうえで、それは自分たちの仕事だと口にしている。自分たちは庶民の考え方を操ってきたと言っているわけだ。

ミカの父親はジミー・カーター政権で国家安全保障補佐官を務め、ソ連軍と戦わせるためにワッハーブ派やムスリム同胞団を中心とした戦闘集団を編成したズビグネフ(ズビグニュー)・ブレジンスキーである。

ブレジンスキーの祖先はポーランドの東部、現在はウクライナに含まれるブジェジャヌイの出身だと言われている。ミカの母親エミリーはチェコスロバキアの元大統領、エドバルド・ベネシュの親戚だ。ちなみに、コロンビア大学でズビグネフに教わったマデリン・オルブライトはチェコスロバキアの外交官を親に持っている。ブレジンスキー家もオルブライト家も反ソ連/ロシアという共通項もある。

1992年2月、国防総省の内部でDPGとして作成された世界制覇計画の草案はウォルフォウィッツ・ドクトリンとも呼ばれているが、その理由は作成チームの中心がポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)だったからだ。そのウォルフォウィッツはポーランド系からアメリカへ渡ったユダヤ教徒の末裔である。

ネオコンの思想はウラジミール・ジャボチンスキーの思想から強い影響を受けている。「修正主義シオニスト世界連合」は1925年に彼が創設した団体。このジャボチンスキーが生まれたオデッサは現在、ウクライナに含まれている。キエフでネオ・ナチがクーデターを成功させた直後、反クーデター派の住民が虐殺された場所だ。

シオニストとはシオニズムの信奉者を指し、シオニズムとはエルサレム神殿があったとされる「シオンの丘」へ戻ろうという運動。近代シオニズムの創設者とされているのはセオドール・ヘルツル。1896年に彼は『ユダヤ人国家』という本を出版、この年が近代シオニズムの始まった年とされている。

しかしながら、1891年にはウィリアム・ブラックストーンなる人物がアメリカで「ユダヤ人」をパレスチナに返そうという運動を展開し、ベンジャミン・ハリソン米大統領に働きかけていた。イギリス政府は1838年、エルサレムにイギリスは領事館を建設し、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査している。

1904年になると、ハルフォード・マッキンダーという地理学者が「ハートランド理論」と呼ばれる世界制覇計画を発表した。世界を3つに分け、ひとつはヨーロッパ、アジア、アフリカの「世界島」、ふたつめはイギリスや日本のような「沖合諸島」、そして最後に南北アメリカやオーストラリアのような「遠方諸島」だ。世界島の中心が「ハートランド」で、具体的にはロシアを指している。この理論はズビグネフ・ブレジンスキーの戦略に影響、21世紀に入っても生きている。

この当時、ユダヤ教徒の大半は生活している社会へ同化、パレスチナへ移住しようという人は少なかった。社会主義の立場をとるユダヤ人もシオニズムを批判していた。ナチスが台頭してユダヤ教徒が弾圧されるようになってもパレスチナ行きを望む人は少なく、行き先として望んだ国はアメリカやオーストラリアだったようだ。

ブレジンスキー家、オルブライト家、ウォルフォウィッツ家だけでなく、ジャボチンスキーもアメリカへ渡り、そこを拠点にしてロシア/ソ連の破壊と制圧を目論んできた。有力メディアは攻撃の重要な手段だ。


・米国の世界戦略をめぐり、ネオコンとジャボチンスキー派の対立が激化している可能性 2018.04.07

https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201804070000/

※1992年2月に国防総省のDPG草案という形で作成された世界制覇プラン、いわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンからも推測できるように、ネオコンのプランには中東全域の石油資源支配も含まれている。そこでイラク、シリア、イランという自立度の高い体制を破壊しようとしたわけだ。

1991年の段階でポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はイラク、シリア、イランを殲滅すると語っていた。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官が2007年に語っている。(​3月​、​10月​)

クラークによると、2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されてから10日ほどのち、統合参謀本部で攻撃予定国のリストが存在することを知らされたともクラークは語っている。まずイラク、ついでシリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そして最後にイランの順だったという。2003年3月にイラクをアメリカ主導軍が先制攻撃した後、2011年2月にリビアへ、そして同年3月にシリアへアル・カイダ系武装集団、つまり1970年代の終盤に作られた傭兵システムを使って侵略したわけだ。

リビアとシリアを侵略した黒幕はアメリカ、イスラエル、サウジアラビアの三国同盟、イギリスとフランスのサイクス-ピコ協定コンビ、オスマン帝国の復活を夢想していたトルコ、そして天然ガスのパイプライン建設をシリアに拒否されたカタールなどだ。そのうちトルコとカタールはすでに離脱している。

リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制はNATOとアル・カイダ系武装集団が連携して2011年10月に破壊したが、シリアのバシャール・アル・アサド政権を倒すことはできなかった。シリア政府の要請でロシア軍が2015年9月30日から軍事介入、いまではアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(実態に大差はない)は壊滅状態。そこでアメリカはクルドを新たな手先にしてイラクからシリアにいたる地域に「満州国」を建設しようとしたが、トルコ軍の軍事侵攻でアメリカとクルドとの関係は微妙になっている。

アメリカ軍は勝手にシリアで基地を建設してきた。トルコ政府によると、アメリカ軍が建設した基地の数は13だが、ロシアの安全保障会議はアメリカ軍は20カ所に基地を作ったとしている。トランプ大統領は自国軍を引き上げると言っているが、アメリカ、フランス、イギリスの3カ国はシリアに展開している特殊部隊を増強中だ。トルコでの報道によると、フランスはシリアの北西部、トルコとの国境近くに5つの秘密基地を建設済み。

アメリカの場合、特殊部隊はCIAとの関係が深く、統合参謀本部の意向に関係なく侵略戦争を継続する可能性もある。CIAを創設したのはウォール街の大物たちで、トランプの仲間とは言えない。クルドを使うだけでなく、シリア侵攻の黒幕たちは新たな武装集団を編成して侵略戦争を継続しようとする可能性もある。特殊部隊の動きを見る限り、シリアから撤退するようには見えない。

マイケル・フリン元DIA局長が解任されたあとに国家安全保障補佐官に就任したH・R・マクマスター中将はデビッド・ペトレイアス大将の子分として有名。そのペトレイアスは中央軍司令官、ISAF司令官兼アフガニスタン駐留アメリカ軍司令官、CIA長官を歴任した人物で、リチャード・チェイニー元副大統領やヒラリー・クリントン元国務長官に近い。この人脈には世界的な投機家として知られているジョージ・ソロスも含まれ、議会はその影響下にある。つまりネオコンだ。

それに対し、ジョン・ボルトンはトランプ大統領と同じように、シェルドン・アデルソンの影響下にある人物。必然的にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相につながる。以前にも何度か書いたが、ネタニヤフ首相の父親、ベンシオン・ネタニヤフはニューヨークでウラジミール・ジャボチンスキーの秘書として働いている。

ジャボチンスキーは1925年に戦闘的シオニスト団体の「修正主義シオニスト世界連合」を結成した人物で、1931年にはテロ組織と言われているイルグンを組織した。そこから飛び出したアブラハム・スターンが1940年に創設した新たなテロ組織がレヒ、いわゆるスターン・ギャングだ。スターン・ギャングが作られた年にジャボチンスキーは心臓発作で死亡した。

ネオコンの思想的な支柱と言われている人物はシカゴ大学の教授だったレオ・ストラウスで、ウォルフォウィッツは同教授の下で博士号を取得している。戦略面はやはりシカゴ大学の教授だったアルバート・ウールステッターが大きな影響を及ぼした。

後にネオコンと呼ばれる集団の中核を占める人々は若い頃、ヘンリー・ジャクソン議員の事務所で訓練を受けていた。1972年の大統領選挙で戦争反対を訴えていた民主党の大統領候補、ジョージ・マクガバンを落選させるため、民主党内に反マクガバン派のCDM(民主党多数派連合)を編成している。このCDMからネオコンは生まれるが、その集団に「元トロツキスト」も多い。レオン・トロツキーの信奉者だった、あるいはそう名乗っていたということだ。投機家のジョージ・ソロスやヒラリー・クリントンもこの人脈に属している。

トランプ政権はCIAやFBIという機関と対立しているが、ボルトンはイスラエルの情報機関モサドの長官と接触していると言われている。モサドはジャボチンスキーの人脈と関係が深い。

サウジアラビアのモハメド・ビン・サルマン皇太子もアデルソンに近く、イスラエルとの同盟関係を隠そうとせず、反パレスチナを公言している。