入社当初はコートを来て出勤していたものだが、早いものでコートもいらぬ季節になってきた。

雨のおかげジメジメしつつも、相変わらずキレキレ(約1名)な職場だった。


支配人とシフトを組むようになったサクラを心配してはいたのだが・・・。

「もうやだ!」と、最初のうちは泣きそうになっていたサクラ。

可哀想にと慰め、愚痴を聞き、その日の支配人のキレ報告を聞いてた。

だが、少しずつ悟りを開いたかのように、菩薩のような子に成長していた。


もともと仕事は出来る子だったのもあり(かなり優秀)

若くて可愛いのもあり支配人も気に入ってたのだろう。

そこまで、サクラがターゲットにされる事はなかった。


私も私で、酔ったお客様や傍若無人なお客様の扱いに慣れてたおかげもあり、支配人の扱いは心得てたので

そこまでキレられる事も少なかった。


彼は自分中心になってればまず怒らないのだ。

自分の思い通りに進めば怒らないのだ。


もう一人の夜勤ベテランの先輩もお仕事できるので、怒られる事はないだろうし、主任もお仕事できる上に大将に次ぐ古株さんなので、主任にキレる事は一度もなかった。

さて、そうなるとやはりキレポイントは大将である。


その日、いい勢いで降る雨の中出勤すると・・・バタバタと慌ただしい。

横風が強くずぶ濡れに近い状態で出勤した私のテンションは最低である。

やる気なんて出そうもないが、バタバタしてるの見たら手伝うしかない。

サクラがあっちいったりこっちいったりと走り回っている。


「おはよ。どしたの?」


「あ。ユイさんおはよーございます。ずぶ濡れですけど大丈夫ですか?」


「うん。着替えるし朝までには乾くでしょ。ほいで、どうしたん?」


「あ、実は雨漏りがひどくて・・・」


「雨漏り?だと・・・?」


「はい。横風強いとどっかから雨入ってきちゃうみたいで、お部屋からクレームが・・・」


え・・・うちのホテルそんなボロなの・・・?

最低限の雨風しのげない宿泊場って・・・どうなの?

むしろ、雨漏りする部屋とか売っていいの・・・?

って言っても築10年は経ってるだろうが、20年までは行ってないと思うのだが・・・?

なんにしても雨漏りするってかなりのレアケースじゃないですか?このご時世で。

驚きである。


「あー・・・うん。ツッコミ所満載だけど、とりあえず着替えて手伝うよ」


今まで雨降っても雨漏りする事はなかったため、かなりの衝撃だった。

着替え終えて事務所の扉を開いた時、更なる衝撃が私を襲う。


ジャバジャバジャバ・・・


と、いい勢いで降り注ぐ水。事務所の窓際の天井から出続ける水。

事務所の天井部分に蛇口でもついてるんじゃないかと言うレベルである。


いやいやいやいや・・・・


ここ1階なわけよ。

2階には客室があるわけよ。

何をどうしたら、そこから雨が漏れるのか。

わけがわからないよ。


下に置いてあるバケツなんてすぐにいっぱいである。

え?え?と思いながらも、バケツを交換する。

こんな古風な事、生まれて初めてやったよ。

アニメとかでバケツやタライ置いてるのは見た事あるけどね・・・

まさか、自分がやる事になるとは・・・思いもしなかったよね。


フロントに入り部屋状況をチェックすると満室だった。

クレームが来ても移動する部屋はないって事である。

今夜は修羅場な予感がする。

そう思いながらも、バスタオルとバケツ片手に館内の見回りに向かった。

客室だけでなく、廊下や自動販売機スペースやいたる所で水が漏れてるわけだ。

この職場オワタ。そう思ったのは言うまでもない。


4階に到着した時、微かだが支配人の声が聞こえてきた。


げ・・・いたのか。と、思いつつ声の出処を探る。

4階のツインのお部屋からのようだった。

珍しく困ったような声をあげつつ、謝罪を繰り返してる支配人。

どうやらお客様は女性のようだった。(女性のお客様には基本キレないので安心)


どうやら明日着ていくはずだった礼服が雨漏り直撃してしまったらしい。

この時間じゃもうクリーニング屋も閉まっている。

コインランドリーはあるけど、礼服を乾燥機に放り込む訳にもいかぬ。

だけど、明日着る礼服がないのも困ると言う訳だ。

そして、どうしていいかわからず支配人はオロオロしていると言った所。


見捨てたい。


見なかった事にして事務所に戻ろうか・・・。

でもな・・・お客様にこれ以上ご迷惑かけるわけにもいかぬしな・・・。

悩ましいと思ってた所で支配人が動いた。


「礼服お預かりしますので、責任もって明日の朝着れる状態でお返し致します」


え、まじで?そんな約束してしまっていいの?

ホイホイ礼服預かって大丈夫なん?

でも、もう宣言しちゃってるしー・・・何か考えあるのかな。


とりあえず、助けに行くまでもなく済んだようなので、私は見回りを続けることにした。


そういえば、大将居ないなとか思いつつ。

今日の相棒はバスタオルとバケツである。




続く。