うちには喫煙室と禁煙室がある。
吸わない人からすると、部屋に染み付いてしまった匂いも気になるものだから、分けるのは当然である。
ヘビースモーカーなユイさんにはサッパリわからないけど、どんなに消臭しても吸わない人からすると臭うらしい。
そんなわけで、うちには喫煙室と禁煙室がある。
ある日禁煙室に入ったお客様からすぐに苦情が来た。
「この部屋タバコ臭い!!」
と・・・。しかし、禁煙室なのだからタバコの匂いがするわけもない。
たまに禁煙室でも喫煙しちゃうお客様はいるのだけど(極希に)そんな時は、メイクさんがすぐ気がつくので(さすがプロの掃除屋)
念入りにスチームで掃除して空気清浄機入れて匂いを消してからの売り出しである。
「そんなはずはないんだけどな」
と、言って対応に向かった支配人。
禁煙室なのでタバコの匂いがするわけないんですよと、言いに行ったんだと思うの。
その様子をフロント勢揃って監視カメラで覗き見る。
音声は聞こえないので、身振り手振りでどんなもんかなって見守るだけなのだけど・・・
ほら、また急にキレたら止めに行かないといけないしね。
廊下でキレた日には、そのフロアにお泊りの皆様にご迷惑をかける上に、ありえない恥さらしであり、二度と泊まって頂けなくなる可能性がある。
それは困る。
客足が遠のいたらだいたいフロントのせいにされるのだから、本当に困る。
しばらくは普通にやり取りしてたんだと思うの。
だけど、だんだんお互いがヒートアップしてきたようで、身振り手振りが大きくなってきている。
と言うか、微かに声が事務所まで届く。(ちなみに現場は3F、事務所は1F)
これは早急に対処せねば・・・ユイさんはサクラに目で合図を送る。
頷いたサクラはフロント横に置いてある空気清浄機(アロマつき)の準備を始めた。
ここはもう、若い女の子の笑顔と空気清浄機で、お客様にご納得していただくしかない。
その後で「勝手なことするな!!」と支配人に怒鳴られる可能性は限りなく高いが、このまま大喧嘩されるくらいならば、私たちが怒鳴られたほうがマシである。
これ以上、あそこで喧嘩されるのだけはまずい。
最初から自分達だけで対処できてれば・・・と思うのだが、しゃしゃり出るの大好きな支配人が大人しくしててくれないから困ったものである。
できれば、私たちだけではどうにもできない状況になった時に、支配人として責任者として出てきてくれるのが一番ありがたいのだが、彼の中では最初から支配人特攻がいいらしい。
解決どころか余計揉める事の方が多いのは気のせいではないはず。
「ユイさん!準備できました。行きましょう!!」
サクラからそう声がかかった所で、二人で空気清浄機を持ち3Fへ向かう。
・・・ここは年上として、私が対処しなければ。
喧嘩中の二人の間に入るのは怖いけども・・・腹をくくるのだ私!!
「お話中失礼します。空気清浄機をお持ちいたしました、こちらアロマ機能もついておりました、お客様好みのフレグランスを・・・」
とか、そんな感じで説明して納得させて部屋に戻ってもらおう。
私たちが3Fについたとき、お客様の声が響いた。
「つーか!何よりお前がくせぇんだよ!!!」
時が止まった気がした。私もサクラも3Fフロアの途中で止まってしまう。
支配人も動きを止めた。
そして、顔を見合わせる私とサクラ。
・・・・・・・ご、ごもっとも。
さっきまで考えてたセリフなんて吹っ飛んでしまった。
何より話が中断されている。
笑いそうになるのをこらえながら私は、お客様に歩み寄り言った。
「よろしければ、こちらの空気清浄機ご利用になってください。アロマもついてますので、多少ではございますが匂いもごまかせるかと思いますので。ファブリーズもフロントにお申し付けいただければお持ち致します。」
吹き出しそうになるのを、営業スマイルに変えて私は言い切った。
「支配人の臭いに関しては本当すみません」とか、言いたかったけど我慢。
「おっしゃる通りです。臭くてすみません」とか、言いたかったけど我慢。
なんとかお客様のお部屋に空気清浄機を設置し、使い方を軽く説明してから私は事務所へと戻った。
先に支配人と戻ったサクラは先に怒られてるかなとか、心配しながら階段を降りていく。
しかし、階段を降りてても、支配人の怒鳴り声は聞こえてこない。
おんやぁ?
「失礼しまーす」
事務所に戻ったそこに、支配人の姿はなかった。
「あれ、支配人は?」
「俺・・・臭いかな?って呟いて、飲み行きましたよ」
「自分の匂い気にした所まではいいけど、その後の行動で臭くなりに行くのがわからん。ま、怒られなくてよかったね」
「はい!」
飲みにいったら、しばらくは帰ってこない。
つまり平和が訪れた。
その後はそのお客様からのクレームもなく、翌朝「昨日は悪かったね。でもアイツは臭かったね」と言ってお客様は笑顔でお出かけになった。
終わりよければすべてよし。(?)
これに懲りて少しは身だしなみに気を使ってくれればいいんですけどねー。
まぁ、少し気を使っただけじゃどうにもならないレベルで臭いんですけどね。