私達にはわかってた。

キヨ君が戻ってこない事も、戻ってこない方がキヨ君のためなんだとも。


だけど、諦めきれない人が一人いた。

もちろん支配人である。


「キヨは絶対戻ってくる」


その自信がどこから来るのか知りたいです。


「俺の右腕になるんだからな」


キヨ君は夢があって専門学校に行きたかったんです。


「毎日、電話してるけどでないんだよな・・・。まだ落ち込んでんのかな」


いえ、あなたが嫌われてるんです。

ってか、毎日って普通に嫌がられるレベルですよ


「こっちには戻ってきてるっぽいんだよな。洗濯物干してあったし」


家まで見に行ったの!?怖いんだけども・・・。

キヨ君逃げて、ちょー逃げて。


そんな中、キヨ君が抜けた穴を埋めるためのフロントが必要な現実がある。

キヨ君が戻ってくると信じてる支配人は次を雇おうとはなかなかしなかった。

だけど、出勤率の良かったキヨ君が抜けるとなると、シフトの穴埋めも大変である。

いくら、姉御とサクラがカバーするって言っても、ずっとカバーし続けることはムリなのだから。


ようやく重い腰を上げたのは、キヨ君が居なくなってから1ヶ月経ってからだった。

その間は、主任に注意されたせいもあるのか、飲み歩くこともせずにフロント業に勤しんでいた。

その点だけは良かったと思う。

サクラや姉御からしてみれば、地獄だったんだろうけども・・・。



ある日の夜勤明け。引き継ぎも終わり、ゴミ捨てと片付けをして帰ろって思ってた。

帰る準備をして、事務所に挨拶しに戻れば支配人が電話相手とケンカしてるじゃないか。

まぁ、それはいつもの事なんですけども・・・(業者相手とかにもすぐキレるし、客にもたまにキレる)


「いいか!テメーは一番下っ端なんだかんな!?その辺わかって来いよ!!ふざけた態度取るんじゃねーぞ!!」


新しく雇うバイトに電話してたらしいのだが、なんで雇う前からキレてんの?

不服なら雇わなければいいじゃない。

なんとも不安になったものの、キヨ君の穴埋めなら私にはあんま関係ないからいいかなって思ってた。





「夜勤清掃に入る事になりました。羽田です。よろしくお願いします」


あれ・・・?なんで、清掃・・・?

とか、思いながらも新しくできた相棒にちょっと喜ぶ私。

大将とのシフト疲れてたんだもんっ。

そして、大将はキヨ君のいなくなった穴埋めのために、るんるん気分でフロントへと戻っていった。


羽田さんは50代後半のオジサマ。

昼間との掛け持ちらしく、いつ寝てるの?とか思うレベルでシフト組まれてた。


「昼間の仕事も週5で、ここの夜勤も週5で入るって大丈夫なんですか?昼間の仕事何時までなんです?」


「9時半から17時半までですね。ここ終わったらすぐ向かう感じです」


え、それってほとんど寝る時間ないじゃない・・・大丈夫なん?


「清掃肉体労働なのに・・・そんなに働いて大丈夫なんですか?」


「いや、本当はフロント希望で電話したんですよ。夕方からのシフトで・・・」


「あー・・・ところが、なぜかってヤツですか。」


「・・・はい」


ところがなぜか、清掃に入れられた上に夜勤だったていう。

しかも、聞く所によれば・・・採用を3週間以上保留にされてたらしい。


「他探そうかと思いましたけど、夕方からのシフト入れるならって思って待ってたんですよねー」


と、苦笑い。

あ・・・これは長くないかもしれない。なんとなく予感がした。

ってか、なんでまた相手の希望と別のところにいれたん?

キヨ君の時もそうだったけど、なんで希望と違う場所にいれるん?

本当、ナゾ。


雇う前から電話で喧嘩(一方的にキレてただけ?)してたのもあり、やはりと言うかなんというか。

羽田さんへの支配人のキレ具合はすごかった。

毎日毎日よくそんなにキレれるね!?

しかも、何にキレてるのか相変わらずわかんないし。




そして、一週間後に彼は辞めていった。


辞めた後にも、羽田さんが訴えるだのなんだの騒いで、支配人とまた喧嘩していた。

おう!ぜひとも訴えて頂きたいと、働いてる人皆が思っていたんだから・・・怖い職場である。