ムスコを歯医者につれていった。
まだまだ抜けそうもない乳歯の後ろに永久歯が顔を出してしまったのだ。
今まで虫歯一つ無かったムスコは、歯医者初体験。
「ああ、ドキドキするよ~」
緊張して、いつもよりちょっと大人しい。
待合室で座って待っていると、常連患者らしいおじいさんが現れた。
「ボクは何年生だい?」
「・・・まだ保育園なの」
話好きなおじいさんは何かとムスコに話しかけてくるが、いつもより硬い表情のムスコは言葉少なで、待合室のテレビから眼を離そうとしない。
と、テレビに美味そうなタラバガニが映った。
「あ、カニ!」
ムスコの表情が和らぐ。最近ムスコはカニの美味さに目覚めたのだ。
(参照記事 → 「カニ鍋」 )
「おや、カニ好きかい?」
おじいさんがニコニコと話しかける。
「・・・・ん」
「ええ、この子はカニ大好きなんですよ」
気の無い様子のムスコの代わりに私が答えると、おじいさんの表情がパッと変わった。
「いやあ、そうか~。もう何年か前だったら、タラバのいいやつ安く譲ってあげられたんだけどね~」
「あら、そうなんですか」
「ああ、そこの港でもタラバがあがってたんだよ、知ってるかい?」
「いいえ、初めて知りました」
「そうだろうなあ、ほれ、見つかったらコレのもんだからさ」
お、おじいさん、「コレ」って言いながらお縄のポーズはやめてください。
「あああの、コレって・・・・?」
「いや、何ていうの?ソ連からの横流しっていうかさあ・・・・ミツリョウだな」
「え?え?え?」

「普通だったら、絶対あんな値段は無いね。それで、俺の友達はコレになって税関につれてかれちゃったんだよ。俺はそのちょっと前に手を引いてたから助かったけどな。いやあ、あの頃だったらねえ~、ははははは」
初対面の母子にやおら武勇伝を語りだすカニじいさん。
ムスコが固まっているのは、まだ見ぬ歯医者さんへの恐怖か、話題の不穏さを感じ取ったのか・・・・。
いくらうちの子がカニ好きでも、カニじいさんが現役(ソ連があった時代?)でも、そんなやばいカニを食べさせるくらいならカニかま食べさせますよ!

カニじいさんのカニ談義(じいさんは毛ガニが一番好きらしい)を聞いているうちに、ようやくムスコの順番がまわってきた。
優しげな先生が、笑顔で相手してくれる。
私が子供の頃初めて行った歯医者はおっっっっっかなかったものだが、時代が違うんだなあ。
それでも、初めての歯医者の椅子にちょっと緊張してムスコが座る。
ムスコの永久歯は、下の前歯の後ろに生えてきた。
意外とよくあることで、結局家庭で抜けることも多いので心配しなくていいよと先生は言う。少なくとも今日いきなり抜いたりはしないからねと。
「じゃあ、あ~んしてちょっと見せてくださいね。・・・・ああ・・・・ああ~・・・・結構のびてきちゃったね。確かに・・・・乳歯はまだしっかりしてるなあ」
乳歯が抜ける前に永久歯が顔を出すことはあるそうだ。目安として、永久歯が乳歯の半分の高さほど出てくるまでに乳歯が抜ければ、永久歯は自然と本来の位置に収まるらしい。
ムスコの場合、まだ半分まではいってないけれど、そろそろ抜けてほしいなあという位置まで永久歯が来ているようだ。
レントゲンをとって調べることになった。
できあがったレントゲンを見ながら、先生が説明してくれる。
「この部分が乳歯、この部分が永久歯ですね」
ちょっと感動する。上の歯も下の歯も、外からは見えないけれどすでに永久歯はしっかり準備されていて、顎の奥にぞろり並んでいる。
「そして、永久歯が出てくる頃になると、乳歯の歯の根はだんだん溶けて短く抜けやすくなってくるんです。ほら、上の歯は根が短くなっているのがわかるでしょう」
なるほど、なるほど。
「ところが、今回永久歯が出てきたこの下の歯。乳歯の根がまだまだ残ってるんです。さっきは家で抜けるかもって言いましたが、これを見る限りは当分抜けそうもない。だから、年明けうちで抜かせてください」
ムスコ、年明けに抜歯決定。

自分の顎のレントゲン写真にはしゃいでいたムスコ、またちょっと大人しくなる。
「ではお母さん、宿題があります」
歯医者で宿題?
「次に来るときは歯を抜くんだよ、最初だけ麻酔の注射でちくっとするけど後は痛くないよってことをよく言って聞かせて、納得させてあげてください」
これまでの経験上、6歳くらいの子ならまあ泣かずに歯を抜けることが多いのだけれど、それでも泣いちゃう子もいるし、子供が納得の上でってことは重要らしい。
「もう一つ。痛くない程度に毎日乳歯をゆらしてあげてください。こうして指を添えて1、2、3、4、・・・・9、10って、これを毎日10回」
「はい!えっと今みたいに10回ゆらすだけですか?それを10セットってことですか?」
「お母さん、お母さん、10セットもいりません!ただの10回で結構ですから」
それだけで抜けるとは思ってないけれど、抜きやすくはなるので、本人も先生も抜歯の苦労は減るはずだ、と。
「じゃあ、また次もよろしくね」
「はい、ありがとうございました」
先生にお礼を言って、ムスコの歯医者デビューは終わった。
保育園や小学校の近くのせいか、とても子供慣れしている先生で、ホッとした。ムスコも歯医者に悪い印象はもたなかったようだ。
ああ、でも年明け抜歯か~。
私達親子が帰る頃、別の診察台ではカニじいさんが診察を受けていた。カニ語りの時とは別人のように大人しいカニじいさんだった。

まだまだ抜けそうもない乳歯の後ろに永久歯が顔を出してしまったのだ。
今まで虫歯一つ無かったムスコは、歯医者初体験。
「ああ、ドキドキするよ~」
緊張して、いつもよりちょっと大人しい。
待合室で座って待っていると、常連患者らしいおじいさんが現れた。
「ボクは何年生だい?」
「・・・まだ保育園なの」
話好きなおじいさんは何かとムスコに話しかけてくるが、いつもより硬い表情のムスコは言葉少なで、待合室のテレビから眼を離そうとしない。
と、テレビに美味そうなタラバガニが映った。

「あ、カニ!」
ムスコの表情が和らぐ。最近ムスコはカニの美味さに目覚めたのだ。
(参照記事 → 「カニ鍋」 )
「おや、カニ好きかい?」
おじいさんがニコニコと話しかける。
「・・・・ん」
「ええ、この子はカニ大好きなんですよ」
気の無い様子のムスコの代わりに私が答えると、おじいさんの表情がパッと変わった。
「いやあ、そうか~。もう何年か前だったら、タラバのいいやつ安く譲ってあげられたんだけどね~」

「あら、そうなんですか」
「ああ、そこの港でもタラバがあがってたんだよ、知ってるかい?」
「いいえ、初めて知りました」
「そうだろうなあ、ほれ、見つかったらコレのもんだからさ」
お、おじいさん、「コレ」って言いながらお縄のポーズはやめてください。
「あああの、コレって・・・・?」

「いや、何ていうの?ソ連からの横流しっていうかさあ・・・・ミツリョウだな」
「え?え?え?」


「普通だったら、絶対あんな値段は無いね。それで、俺の友達はコレになって税関につれてかれちゃったんだよ。俺はそのちょっと前に手を引いてたから助かったけどな。いやあ、あの頃だったらねえ~、ははははは」
初対面の母子にやおら武勇伝を語りだすカニじいさん。
ムスコが固まっているのは、まだ見ぬ歯医者さんへの恐怖か、話題の不穏さを感じ取ったのか・・・・。
いくらうちの子がカニ好きでも、カニじいさんが現役(ソ連があった時代?)でも、そんなやばいカニを食べさせるくらいならカニかま食べさせますよ!


カニじいさんのカニ談義(じいさんは毛ガニが一番好きらしい)を聞いているうちに、ようやくムスコの順番がまわってきた。
優しげな先生が、笑顔で相手してくれる。
私が子供の頃初めて行った歯医者はおっっっっっかなかったものだが、時代が違うんだなあ。
それでも、初めての歯医者の椅子にちょっと緊張してムスコが座る。
ムスコの永久歯は、下の前歯の後ろに生えてきた。

意外とよくあることで、結局家庭で抜けることも多いので心配しなくていいよと先生は言う。少なくとも今日いきなり抜いたりはしないからねと。
「じゃあ、あ~んしてちょっと見せてくださいね。・・・・ああ・・・・ああ~・・・・結構のびてきちゃったね。確かに・・・・乳歯はまだしっかりしてるなあ」
乳歯が抜ける前に永久歯が顔を出すことはあるそうだ。目安として、永久歯が乳歯の半分の高さほど出てくるまでに乳歯が抜ければ、永久歯は自然と本来の位置に収まるらしい。
ムスコの場合、まだ半分まではいってないけれど、そろそろ抜けてほしいなあという位置まで永久歯が来ているようだ。
レントゲンをとって調べることになった。
できあがったレントゲンを見ながら、先生が説明してくれる。
「この部分が乳歯、この部分が永久歯ですね」
ちょっと感動する。上の歯も下の歯も、外からは見えないけれどすでに永久歯はしっかり準備されていて、顎の奥にぞろり並んでいる。
「そして、永久歯が出てくる頃になると、乳歯の歯の根はだんだん溶けて短く抜けやすくなってくるんです。ほら、上の歯は根が短くなっているのがわかるでしょう」
なるほど、なるほど。
「ところが、今回永久歯が出てきたこの下の歯。乳歯の根がまだまだ残ってるんです。さっきは家で抜けるかもって言いましたが、これを見る限りは当分抜けそうもない。だから、年明けうちで抜かせてください」
ムスコ、年明けに抜歯決定。


自分の顎のレントゲン写真にはしゃいでいたムスコ、またちょっと大人しくなる。
「ではお母さん、宿題があります」
歯医者で宿題?
「次に来るときは歯を抜くんだよ、最初だけ麻酔の注射でちくっとするけど後は痛くないよってことをよく言って聞かせて、納得させてあげてください」
これまでの経験上、6歳くらいの子ならまあ泣かずに歯を抜けることが多いのだけれど、それでも泣いちゃう子もいるし、子供が納得の上でってことは重要らしい。
「もう一つ。痛くない程度に毎日乳歯をゆらしてあげてください。こうして指を添えて1、2、3、4、・・・・9、10って、これを毎日10回」
「はい!えっと今みたいに10回ゆらすだけですか?それを10セットってことですか?」

「お母さん、お母さん、10セットもいりません!ただの10回で結構ですから」
それだけで抜けるとは思ってないけれど、抜きやすくはなるので、本人も先生も抜歯の苦労は減るはずだ、と。
「じゃあ、また次もよろしくね」
「はい、ありがとうございました」
先生にお礼を言って、ムスコの歯医者デビューは終わった。
保育園や小学校の近くのせいか、とても子供慣れしている先生で、ホッとした。ムスコも歯医者に悪い印象はもたなかったようだ。
ああ、でも年明け抜歯か~。

私達親子が帰る頃、別の診察台ではカニじいさんが診察を受けていた。カニ語りの時とは別人のように大人しいカニじいさんだった。