砂漠の国は、信じられないほど水で溢れていた。
水の捌け方を知らない大地に突如降った雨水は、排水口を求める様に彷徨い流れていた。
前からも後ろからも、時には横からも水攻めにあったが、Aliの運転する韓国車は時折悲鳴を上げながらも懸命に前に進み続けた。
そして、雨がやんだ。
まるで何事もなかったかの様に大地は本来の荒涼さを取り戻した。
先ほどまでの騒ぎが嘘の様に静かな道を、私達の車がエンジン音を轟かせながら駆け抜けて行った。
こうして私達はカスバ街道の西端の街にたどり着いた。
街の名前はワルザザート。
まるでスターウォーズの惑星都市みたいな響きと、ガイドブックにも情報のないその未知さに好奇心を掻き立てられていたが、背が低くて無機質なコンクリートビルが立ち並ぶ殺風景な街だった。
しかし、街の人々の笑顔が印象的だった。恵みの雨がもたらした一時的なものだったのかもしれないが、都市部では見られない、あどけなく屈託のない幸せそうな笑顔だった。
今夜はここで一泊し、明日はマラケシュに向けてアトラス山脈越えをする。
ディナーはAliの手配してくれたホテルで用意されていたが、空腹に負けて2人ともホテル近くの食堂に駆け込んだ。
そこで平パンと、豆のスープを食べた。スープの匂いと、雨上がりの街の匂いが混ざって絶妙なハーモニーだった。
合計20円にも満たない食事だったが、旅をして空っぽのお腹にとっては、その後のホテルのディナーより格段に美味しかった。
食事をしてエネルギーが漲ってきたが、疲れていたので部屋に戻ることにした。
そういえば、サハラ砂漠に入ってからカスバ街道を駆け抜けてここに至るまで、3日日も身体を洗っていなかった。
私は、ベットに飛び込みたい欲求をこらえ、シャワーを浴びた。
生まれ変わった気持ちで浴室を出て、ベッドに横たわった。
私は、ベットに飛び込みたい欲求をこらえ、シャワーを浴びた。
それは、最高に気持ち良い時間だった。
シャワーの水が乾燥した肌を潤し、石鹸が汗と砂埃を取り除いてくれた。
足元を見ると、身体の隅々にこびりついていたサハラの砂が一列になって排水口の方へ流れ、吸い込まれて行った。
シャワーの水が乾燥した肌を潤し、
足元を見ると、
生まれ変わった気持ちで浴室を出て、ベッドに横たわった。
サハラの上に寝るのも良かったが、やはりふかふかのベッドは王者だと確信した。
横たわってからは暫く、砦さんから世界一周旅行の逸話を聞かせてもらった。スリリングな話の数々を聞く度に、次に自分はどこに行こうかと、期待とワクワクが膨らんだ。
そうだ、今年の年末は東南アジアにしよう。
しかし、そんな膨らんだワクワクと一緒に、旅で疲れた私の意識は夢の中にグルグルと渦を巻いて吸い込まれて行った。
