The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う- -2ページ目

The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う-

独立独歩。

37カ国を旅し、あの日、あの時、あの場所で感じた事などを徒然なるままにノンフィクションで。

Explore the world. Expand your horizon.

目を覚ますと、そこには無機質で冷たいコンクリートの天井が広がっていた。


昨日の様に突き抜ける青空が広がっていた方が気持ちが良いなと思いつつも、私は居心地の良いベッドに身体を沈めていた。背中に広がるのはやはりサハラ砂漠でなくて、ふかふかのベッドの方が心地は良い。

窓から注ぐカラッとした朝陽の光を全身に浴びながら暫く光合成をしていたくなったが、この先に待っている旅路の光景をイメージすると湧いてきたワクワクが、私をベッドから難なく引き剥がした。




そして、私はAliの車とロバを乗り継ぎ、カスバ街道の西端、アイト・ベン・ハドゥへと辿り着いた。


朝ご飯もまだ食べていなかったが、映画から飛び出てきたかの様なその光景に、私は文字通り息を飲んだ。




ワルザザートからサハラに至るカスバ街道には、先住民ベルベル人が築いた要塞村が1,000以上も残されているが、その中でも最も荘厳なのがこのアイト・ベン・ハドゥの集落である。


部族間の抗争が激しかった古の時代、ベルベル人は倉庫と要塞を兼ねたこの土造りの要塞都市を築き上げた。

侵入者はこの迷路のような町の作りで錯乱し、住民からのゲリラ攻撃をうけ、村は幾度と侵入者の血に染まったと言い伝えられているが、今、私の目の前のアイト・ベン・ハドゥは穏やかで、そして美しかった。

驚くことにまだ住民がおり、人々は村が出来た当時とあまり変わらない生活を続けている。

城壁の中にも畑があり、生活が城壁の中だけでも完結するようになっていたのには感銘を受けた。


村の最上部には武器庫があった。この土造りの武器庫はきっと、厳しい自然や侵略者と闘いながらこの村を守り続けてきたのだろうと想いを馳せながら、目下に拡がる絶景に心を奪われていた。




このまま悠久の村の時間と一体化していたかったが、Aliがそうはさせてくれなかった。



これから4,000m級のアトラス山脈を越え、マラケシュを目指すのだが、暗くなると山路が危ないのでさっさと車に乗れと言われて私はそそくさと車に戻らざるを得なかった。



アイト・ベン・ハドゥを発って直ぐに山道は始まった。
先の見えないカーブが続く道を、Aliは時速100km超で飛ばして行く。



山を登って行くと濃霧がかかっていた。


それでもAliはお構いなしに、先が見えない登坂車線であろうがカーブであろうが、前の車を追い越しまくりご機嫌で爆走していた。


対向車とかすれる距離ですれ違う度に、マラケシュでは無く、天国に近づいている気分になった。そういえば、辺り一面は濃霧に包まれていて、なんだかメルヘンな雲のなかを駆け抜けている様な錯覚を覚えた。


人生の中で間違いなく最も完璧なヘブンズドライブだったが、私はこんなところでは絶対死なないのを何と無く分かっていたのか、心は妙に穏やかだった。




こうして穏やかな気持ちで大好きなハードロックを聴き、昼食の代わりにポテトチップスを貪っていると、登坂の為にずっと上向きに傾いていた車が、下向きに傾くようになった。



下向きになって暫くすると、霧が晴れてきた。


まるで飛行機が着陸する時に雲の下に拡がる光景を覗き込むように、どんな景色が霧の向こうから眼の中に飛び込んでくるのかと、私はワクワクしながら窓の外を眺めた。


思わず窓を開けると、視界は未だはっきりしていなかったが、なんとなくマラケシュに近づいてきている臭いを何故か覚えたのが印象的だった。



こうして、私はこの旅の終着点であるマラケシュへと徐々に足を踏み入れていった。
もちろん、新たな街での出会いや出来事への期待で胸をいっぱいに膨らませながら。