The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う- -14ページ目

The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う-

独立独歩。

37カ国を旅し、あの日、あの時、あの場所で感じた事などを徒然なるままにノンフィクションで。

Explore the world. Expand your horizon.

年季の入ったベンツは、力強くアフリカの大地を駆け抜けていった。初めてのアフリカであると同時に、初めてのイスラム教国。ドライバーは私に興味がないらしく、時速120km超で爆走しながら、ラジオに合わせイスラムの教えのようなものを、それは声高らかに叫んでいた。窓の外には、今にも野生動物が駆け抜けていきそうな荒野が広がっていた。と、景色を眺めている内に突然小さな集落の中にタクシーが入り込んでいった。牛の皮が引き裂かれ、その肉塊が民家の軒先で逆さまに吊るされていた。住民が私の事を見ながら何かドライバーに叫んでいた。「私もあのように引き裂かれるのか。」と、思わない事もなかったが、結局何事もなく無事に集落を通過し、窓の外の景色はまた荒野に戻った。



しばらく走ると、荒野の中に醜いコンクリートの塊達が見えてきた。どうやら、あれがタンジェの様だ。想像していた青と白の輝けるタンジェは旧市街の方であり、フェリーを乗り違えたおかげで結局お目にかかれなかった。そして、どこだかわからない港からちょうど1時間程であっただろうか、タクシーは無事に鉄道駅へ到着した。


駅舎に入り、早速チケットカウンターに向かった。草が這い廻ったようなアラビア文字に圧倒されるも、意外と卒なく10:45発、世界一の古代迷宮都市フェズへの切符を購入し、少し時間があるので駅舎内をぶらついてみる事にした。フェリーの中もそうだったが、奇妙な事に殆ど店が空いておらず、食ベものを売る店に限っては、1つも営業していなかったおかげで、水とパン1つ買えなかった。そうこうしている内に、列車の準備が整ったので、せっせとホームに向かった。地元の人用の列車だったが、思っていたよりずっと清潔でむしろ快適なぐらいだった。適当なコンパートメントを見付け、自分の席を確保した。コンパートメントは私以外、全員モロッコ人で、目の前には父と娘、横には大学生風の女性が座っていた。


ドスンという鈍い音と共に、汽笛を鳴らしながら列車は動き始めた。
初めてのアフリカ。初めてのイスラム。まだ見ぬ景色まで自分を運んでくれる列車が前に進むにつれ、心は高鳴っていった。


フェズまでは5時間。しばらくはスラムの間を進んで行った。走って追いかけてくる少年達や、ロバに乗った老人、塩に覆われた大地等、始めてみる光景に、また自分の中で新しい1ページを開いた気分になった。その後当分、列車は荒野の中をひたすら駆けていった。

The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う-



「兎に角、お腹がすいた」。気付けば、朝起きてから今まで何も食べる事はおろか、飲んでいない。同じコンパートメント内の人も、何も飲み食いしていなかったが、唯一目の前の少女が食べていたヨーグルトがとても美味しそうだった。コンパートメント内は、私も含め、各自が各々の時間を楽しんでいるようだったが、突然、ななめ隣に座っていた女性が「ニイハオ」と挨拶してくれた。イスラム世界で女性から話しかける事はまずないと聞いていたので少し驚いたが、のっぺり顔の東洋人がよほど珍しかったのだろう。自分は日本から来ており、中国人ではない旨を説明するも、到底違いが伝わっている様子もなかった。毎度の事だが、マドリッドのホステルで会ったオーストラリア人同様、彼らから見れば日本人も中国人も一緒、というよりも、全員中国人であり、違いなどどうでもよいのだ。
これを契機に、コンパートメント内で会話が始まり、言っている事は何一つ分からなかったが、何だか楽しかった。



列車は幾つかの駅を超えていった。周りの乗客もウトウトしていたそんな時、急に痩せこけた老婆の乞食が表れた。初めは皆無視しようとするものも、余りにしつこく物々呟いていたので、一人がサッと小銭を差し出すと、スッと消えていった。ありがとうの一言を言った様子もなかったが、相互扶助を基調とするイスラム社会では、恵む事は当たり前の事であり、礼に値するものでもないのだろうか。



そして、タンジェを出発してちょうど5時間。遅れることなく、列車はフェズへと到着した。同じコンパートメントに乗り合わせた乗客に別れのあいさつをし、バックパックを背負って、私は勢いよく列車から飛び降りた。日差しはまだ強く、からっとしていた。駅の外にはどんな景色が広がっているのかとワクワクしながら、私は独り、出口に向けて進んで行った。