The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う- -13ページ目

The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う-

独立独歩。

37カ国を旅し、あの日、あの時、あの場所で感じた事などを徒然なるままにノンフィクションで。

Explore the world. Expand your horizon.

駅舎を出たとたん、体を透き通すような強い日差しと、今までの国にはない埃っぽさを感じた。日没も近いのに暑さは容赦なく、朝から何も飲み食いしていない体に些か酷だった。早くホステルに着いて一服しようと、私は駅前を行きかう適当なタクシーに声をかけた。この街のタクシーはタンジェのベンツとは打って変わり、皆テントウムシの様な小柄なデザインだった。早速乗り込み、目的地をなんとか告げ、タクシーは出発した。が、ドライバーは行きかう人々にここぞとばかり声を掛け、同じらしき方向を目指す人をどんどん相乗りさせるので、なかなか前に進まなかったが、それはそれで賑やかで良いものだった。


ホステルに到着すると、質素な宿舎とは対照的な豪華な邸宅から、イスラムの衣装に身を包んだオーナーらしき人が現れた。
そして、私めがけ「モロッコへようこそ。君はラッキーだ。なんと、今日はラマダーン初日なのだから。」と皮肉な笑みを浮かべて諭すように言った。
これでようやくつじつまが合った。
駅でも街でも店という店が閉まっており、水一つ手に入らなかったのはこのせいだったのだ。


一瞬、不便にも感じられたが、裏を返せば、ディープなイスラム文化を体験できる絶好のチャンス。私は自分の強運に感謝していた。



日本円にして\500に満たないほどのベッド代を払い、自分のドームに向かう途中、中庭でくつろぐ2人の日本人に出会った。普段海外に居る間は、出来る限り異なる価値観に触れ、自分の世界を拡げるという決意の上、日本人とは努めて関わらない様にしていたが、何故かこの2人にはひきつけられた。1人は30歳程で世界一周中であり、既に1年7カ月を旅して過ごしていた。もうひとりは、60歳はゆうに超えるとみられるが、こんなとこまで独り旅に来る粋なお爺ちゃんだった。今日がラマダーン初日だったとは知らなかったとの笑い話も交えつつ、気さくな2人とすぐに打ち解け、日が暗くなるまで一緒に外を散策する事になった。

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兎に角、腹が空いていた。そして何より喉が渇いていた。しかし、店はどこも空いていない。ホステルのオーナーによれば、ムスリム以外の旅行者が飲食しても罪にはならないとのことだったが。しばらく歩くと、幸運にも平パンと水を売っている雑貨屋を見つけた。まさに砂漠の様に渇いた喉を潤すべく、恥ずかしながら私は迷いもせずに水を買って飲んだ。指の先までH2Oが巡っていくのが分かった。ゴクゴクと、それは勢いよく飲んだ。
店の店主も含め、通行人や周りのムスリムが恨めしそうにこちらを見ていた。
私はハッとした。

水を飲むだけで、こんなに咎められる気持ちになる事は今までなかった。とても平パンを食べる気持にもならなく、摘む程度にし、以後水を飲むのもひっそりと陰でするようにした。

そして、陽も傾いてきたころ、私達3人は城壁に囲まれた世界最大の古代迷宮都市、フェズ:エル:バリを目指して歩いて行った。誰一人行き方など知りもせず、感覚頼りで。直ぐそこにあるのに見えない何かに、私の胸は高鳴っていた。