その彼女とは、ただ一緒に時間を過ごすだけで良かった。だからいつもマッサージを受けて、後半は下らない話をして過ごすのが楽しかった。一緒にいて、それだけで癒されると言うか、何となく娘のような感覚も持ち合わせていて、彼女の笑顔を見て同じ時間を過ごすことで僕の気持ちはいつも穏やかになっていた。
三回目となる彼女との時間。いつものように新大久保駅からお店まで歩いて向かう。前夜に大運動会を繰り広げていたから別にやましい気持ちもなくて、単純に彼女に会いたくてお店を訪れた。120分12Kを支払い、部屋へと向かう。髪をアップにした彼女が笑顔で待っていた。
いつものようにうつ伏せて指圧を受ける。彼女の話はいつも興味深い。物事をはっきり言うタイプなのだけれど、どこか子供じみていて、それがまた僕の心を微かに震わせる。タオルを使わずに直接肌に触れる彼女の指先は少しだけ冷たく、それが程よく心地良かった。
仰向けになる。キャミの肩紐が肩から落ちており、僕はそれを直してあげた。その僕の腕を彼女は手に取り、それから僕の手のひらを自分の顔の方へ持っていき、頬に僕の手をあてがった。僕はそのままゆっくりと指先で彼女の頬をさすり、そして髪を撫でる。目を閉じ、気持ち良さそうにする彼女がひとつ吐息をこぼし、僕はそこに女を感じた。
軽く口づけると彼女は自らキャミを脱ぎ始めた。
決して大きくはない胸を片腕で隠しながら、器用に下着を自ら外す。僕はひとつ息を飲み、生まれたままの姿になった彼女を何かから守るように抱きしめた。隣の部屋からは中年男性が情けない声で女に執拗に迫っているのが聞こえている。僕の胸の中でうずくまっていた彼女がそのやり取りを聞いて小さく笑った。
潤うのに時間はいらなかった。僕は彼女を見つめ、静かにゆっくりと体を沈めてゆく。熱いものが僕自身を包み込み、あっという間に取り込まれ、そしてそこは微かに震えていた。みるみると目を潤わせる女、目を閉じることなく僕を見つめ、何かを懇願するかのようなその瞳に僕は捉えられた。
音をたてぬように、ゆっくりとしっとりと。声を圧し殺し眉間に皺を寄せるその表情に思わず口づけをしたくなり、唇を重ね合わせる。唇を離すと彼女は指先でその感触を確かめるかのように自らの唇に触れ、そして微笑む。それから再び僕の肩へと腕を回し、強く強く抱き締めてきた。
スローな時間を周囲の雑音をも取り込みながら楽しみ、抱き合いながらの長い時間を過ごす。互いの持つ肉体を確かめ合うように触れ、そして眺め、決して激しくはせず、それでも時間の経過とともに彼女自身は収縮を始め、僕は完全に包み込まれたまま白く無垢な時間を過ごす。
初めて漏らした小さな小さな声とともに、彼女は小さく小さく身を震わせた。僕はその後も愛おしく思う彼女と彼女の体を愛で、それからゆっくりと体を離した。離れようとしない彼女の頭を抱え込むように抱き締めて、しばし目を閉じ思考を現実に戻してゆく。隣の部屋では中年男性が二度目の延長の申し出を受け入れていたところだった。
タイは結ぶのが面倒だったので鞄にしまった。随分と春めいた陽気だったが、夜は寒いだろうとコートを着ていたのだが、どうやら正解だったようだ。閉店準備をしている深夜の韓国料理店を横目に、駅前までゆっくりと歩く。頭の中は彼女の言葉と表情で満たされている。女の表情。良い意味で裏切られたような、それが何だかとても心地良かった。
タクシーを捕まえる。走り出す車、流れる大久保の街並み。運転手に、仕事帰りですか?と聞かれ、適当に返事をしてから僕は僅かな時間の睡眠を貪ることにした。
Fukutt