「ほら!今のうちに早く!」
ユラリと影が揺れて、ユー子さんの姿が、手鏡に映し出される。
「これでも、くらえ!」
ユー子さんの手が、鏡の中から、ニュンと跳び出してきて、
落ちていた石を、ガブに向かって投げつける。
「うわっ!」
すきを突かれたせいか、両耳を押さえていたガブの額に、
角のような突起物が突き出てくる。
「えっ?」
ガブ…あの男の子じゃあないの?
「ほら、アキちゃん、早く!」
ユー子さんの手が、アキをグィッと引っ張る。
「えっ?」
いきなり、とんでもない強い力で、グィッと中に引き
ずり込まれる感覚があって…
ドン!とアキはどこかに、投げ出された。
一瞬アキは、何が起きたのかわからなかった。
さっきまでの喧騒(けんそう)は、いつの間にか消えて…
シンと静まり返った空間に、アキは放り出されていることに
気が付いた。
「ユー子さん?」
もちろん、その姿はどこにも見えない。
その代わり、さっきまでいた小さな部屋が見えなくなっていた。
そうしてアキの握りしめている手鏡に、確かにまだ、光の余韻を
残している。
「助かったぁ~」
ほぉっと、アキがため息をつくと、
「ユー子さん、ありがとう」
ゆっくりと立ち上がった。

