「ソウタくんと、何を話していたの?」
裕太が電話を切るのを見届けると、母さんがすぐに声をかけてくる。
その顔には、まだ眉間にしわを寄せたままだ。
「うん、何か変わったことがないかって…」
母さんの機嫌を損ねないように、おそるおそる答える。
「そう」
母さんの表情は、まだ険しいままだ。
裕太は何だかドキドキして、何か言われるんじゃあないか、と身がまえてしまう。
「ソウタくん…やっぱり、行くつもりなんでしょ」
どこへ、と言われなくても、裕太にはすぐにピンときた。
腰に手を当てて、母さんは裕太の反応をつぶさに観察している。
「うん…そうなんじゃあないのかなぁ」
母さんが怒りださないか…と、やっぱり裕太はビクビクしている。
「ふーん、あの子は、賢い子だと思っていたのになぁ」
ボヤくように言うと、はぁ~とため息をつく。
「じゃ、あんたも、もちろん行くつもりなのね?」
母さんが、何事か考えているようだ。
裕太は、ひりひりとした空気を感じる。
母さんの目には、イラついた光を帯びている。
何とかうまく、逃げ出せないものか…と、ひそかに目で、逃げるタイミングを
見はからっている。
「そっ」
裕太の目が、落ち着きなくキョロキョロとしているのを、母さんはいち早く
気付いたのか…一段上に、足を乗せる。
「わかった」
「えっ」
どうわかった、と言うんだ?
無言の母さんを見て、裕太は嫌な予感にとらわれていた。