「えっ?何か見なかったか?」

 その食い違いに、裕太はどうも納得出来ない。

だがジンさんは、まったく平然としている。

「びっくりしただろ?いきなり落っこちて」

ニコニコしながら、リュウに聞く。

「うん」

リュウはホッとした顔をして、ジンさんを見上げる。

「いきなり穴に落っこちて…そしたら、タツさんが落ちて来て、

 ビックリしたら、今度は、懐中電灯が見えたんだ」

元気よく答える。

(あれ?)

リュウには、何も見えていないのか?

どう見ても、リュウが嘘をついているようには見えない。

(それじゃあ、あの生き物は何だったのだろう?)

裕太は、さらに頭をかしげる。

何かヒントが欲しくて、ジンさんの方を見るが、ジンさんは

眉1つ動かさない。

(一体、どうなっているんだ?)

『あれ』を感じたのは、まさか自分だけなのか?

(あんなに、大きな音がしたのに?どういうことなんだ?)

まさか、夢だったのか?

白昼夢?

まさか!

裕太は混乱して、その場で立ち尽くす。

「そうじゃなくて…何か動物か何か、見なかった?」

どうしても、『あれ』の存在を、実証して欲しい…

リュウを相手に、はっきりと『あれ』のことを言いづらく、

曖昧な言葉で聞いてみる。

(見たよな?だって…あの音だぞ)

さらにじぃっと、リュウに注目するけれど、

「さぁ?」

求める答えは、返ってはこなかった。

 

 

 

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