「見つかる」
宗太郎の腕を引っ張って、近くの木の陰に隠れる。
息をひそめて見ていると…
あの森の中から、人影が現れた。
「えっ?」
宗太郎はその人影を見て、思わず声をもらす。
「先生~!」
その人はクルリと振り返ると、宗太郎の姿を見付けた。
「先生、どうしたの?」
宗太郎はゆらりと、木の陰から出て行く。
「あぁ、古屋敷か」
その声は、確かに高梨先生だ。
先生はいつもと変わらぬ姿で、宗太郎に向かって話しかける。
「いや…実は家業を継ぐことになって、田舎に帰ることになったんだ」
ずいぶん、急な話だ。
「なんで?まさか…神林君に関係あるの?」
宗太郎はもはや、隠れることも忘れている。
「いや、それは、関係ない」
先生は、キッパリと否定するけれど…きっかけになったのは、
間違いないかもしれない。
すると、運転席の窓が開いて、女の人が顔をのぞかせる。
「この人は?」
確かに清子の言った通り…
あの人形によく似た、雰囲気の人だ…
先生はチラリと、その女性の方を見ると
「あぁ~実は、田舎で結婚することになった」
唐突にそう告げると、女の人を振り返る。
その人も、ペコリと頭を下げる。
どこか…姉さんを思わせるような女性だ。
「おめでとうございます」
その人の声が聞きたくて、宗太郎はその人の方を向く。
だが先生は、運転席をふさぐようにして立つと、
「悪いけど、もう行かなくてはならないんだ」
宗太郎をさえぎるようにして、車に乗り込む。
一瞬、あのガラスのケースに入っていた姉さんが、
よみがえったのか…と、宗太郎は錯覚した。
すぐに窓を閉めると…車はすぐに、その場を去って行った。