だが、宗太郎はあくまでも余裕の表情を浮かべ、
「いや、ボクは後でもいいよ」
ニッコリと微笑むと、
「お先に、どうぞ」と右手を差し出した。
「えっ、あっ、そうか?」
神林くんは、さして宗太郎のことを疑うことなく、
「それじゃ」とポッカリと開いた穴をくぐる。
その間も、宗太郎はこの隠し扉を、しげしげと観察する。
(さっき…神林くんが触っていたのが、ロックだとすると…)
さり気なく鏡の上部に、手を触れる。
「あっ」
すぐさま、神林君に声をかけられる。
「あんまりさわると、ロックがかかってしまうよ」
ニヤリと笑って、こちらを振り向く。
ジワリ…
宗太郎の背中を、冷や汗が伝う。
「あっ、そうなんだ」
ごめん…
だがさり気なく、手探りで目指す場所を探ると、素早くバンドエイドを
貼り付けようとする。
もしかしたら、彼に見られたりはしないか…と、宗太郎は気が気ではない。
柄にもなく、指先が震え、剥離紙がうまくはがれない。
「大丈夫だよ、取って食いはしないよ」
そう声がかかると、
「ソータロー、中は広いよぉ」
楽しそうにはしゃぐ、清子の声が聞こえてきた。
一瞬、神林君の注意が、そちらに向く。
『今だ!』
宗太郎はさっと、バンドエイドをその場所に貼り付けた。