「あっ、入った!」

 清子が目ざとく、気が付く。

「うん」

清子と宗太郎は、近くの茂みに移動して、しばらくその場で

待機している。

「ねぇ、『じいちゃん、ただいま』って言ってなかったか?」

かすかに彼の声を聞いたような、気がする。

「気のせいじゃない?」

そう言いながらも、清子のまぶたが、ピクピクと動いている。

(子供の頃から、変わってないなぁ)

清子は…ウソをつくと、マブタが痙攣するのだ。

(もっとも、本人は…気づいていないんだろうけどなぁ)

 

 シンと静まり返った、廃屋の玄関を見つめる。

雑草が手前まではびこっていて、とても人の住む家には

見えない。

「もしかして…アイツ、家出してきて、ここに住んでいるとか?」

宗太郎は頭をひねる。

「それか…ただここに来ただけ…とか?」

わざわざ、そんなことをするだろうか?

「うーん」

清子は、どちらにも返事をしない。

「だったら…答えにならないよ。

 家出してきた人が、転校してくる?

 ここに来ただけの人が…『ただいま』って言う?」

「うーん」

清子の言うことも、もっともだ。

冷静に、そう言われてしまうと…宗太郎も、返す言葉が

見つからない。

「そうかぁ~そうだよなぁ」

もう少し、情報が欲しい。

今度は思い切って、茂みから出てみる。

「あっ、ちょっと」

清子が止めようとするけれど…

生活をしている気配がないか、確かめたかったのだ。

 

「ポストは?」

「えっ、ポスト?」

「新聞受けでもいい」

玄関の扉には、新聞がたまっている様子もない。

郵便ポストらしきものもない。

どういうことなんだ?

宗太郎は、腕組みをして、考え込んだ。

 

 

 

 

 

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