そもそもの発端は…新学期でもないのに、突然彼らのクラスに、
転校生がやって来たことだ。
初めは、ヘビのようにスルリと、委員長が近付いた。
「キミ…何か困ったことがあったら、言ってくれ。
いつでも相談にのるよ」
整った顔を近付けて、彼は微笑む…
大体この委員長が、その表情を浮かべると、大抵の人は、コロリと
手もなく だまされるのだ。
先生であろうと、大人であろうと、年寄りであろうと。
意図せずに、魅入られたように、彼の手の内で丸め込まれるのだ。
だから彼は、心の中で
『こんなヤツ、軽いぜ』
そう思っていたのであるが…
だがそれは、彼の慢心のせいである、と気付かされる。
キョトンとした顔で、転校生は委員長を見ると
「あ、いや、それはいいです。
どうもありがとう」
まったく眉毛1つ動かすことなく、無表情ですんなりと断った。
「えっ?」
予想外の反応に…聞き間違えか、と周りの人は耳を疑う。
委員長のキラースマイルが、引っ掛からないヤツが存在するのか?
「あっ…」
委員長は、わずかに動揺を見せると
「あっ、そう。
いつでも言って!
相談に乗るから」
かすかに声を震わせた。
「アイツ…生意気だな」
放課後、いつものように、委員長は取り巻きを呼ぶ。
「アイツ…なんなんだ?
せっかく話しかけてやった、というのに!」
プリプリしながら、彼は憤然とした口調になる。
「そうですよね」
いつもよりも荒れている、委員長のご機嫌を何とか取ろう…と、
取り巻きたちは顔を見合わせた。