「あ~あ」
先ほどから、善行のため息が止まらない。
「あ~あ」
中庭で、黒猫のボスがエサを食べているのを見ながら、再びため息をもらす。
最近一緒に暮らすようになった、ミツキちゃんが丸い目を見開いて、ポカンと
善行を見上げる。
あんまりじぃっと見つめるので、善行もつられてミツキちゃんを見下ろすと
「何でもないよ」
ニコリと微笑んでみせる。
それでもなお、ミツキちゃんがじぃっと彼を凝視するので、
「あっ、お腹が空いた?何か作ろうか?」
ミツキちゃんの返事も待たずに、
「よいしょ」と立ち上がった。
(こんな小さな子に、気を使われるとは…
まだまだ、ダメだなぁ)
善行はさすがに、反省する。
この子は、大人の顔色を読む子だ。
もともと母親が、日常的に子供を放ったらかしにしていて、ある日家を長い間
不在にしていたため、身体が衰弱しているところを、保護した女の子だ。
以前から、善行の家に来る白猫のシロを見に、チョコチョコ通って来ていたので…
行きがかり上、「これもご縁だ」と、善行が里親という形で、預かることにしたのだ。
定年後、一緒に悠々自適に暮らそう…と約束していた妻の和枝が、
その直前に病死したため、善行はやもめ暮らしをしている。
だが隣に住む肉屋のオバサンや、シニアオヤジーズのお陰で、
どうにかこうにか暮らしているのだ。
「まるで本物の孫とじいちゃんのようだね」
周りの人たちは、この2人を暖かい目で見守っている。
口数の少ない女の子なのだが…おそらく自分のことを、頼りにしてくれている…
そう、善行は感じていた。
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