すると、あれ?と思いはするけれど、特に深く追求することなく、
「またここへ、帰って来られるのなら、いつでも!」
優しくカスミは素直にうなづく。
それから空気を換えようと、
「ところで…エミちゃんの家って、どんなところ?」
あくまでもさり気ない調子で、カスミが聞く。
「そうですねぇ」
そのたわいのない口調に、エラはどう答えようか…と考える。
ボンヤリと、自分の住み慣れた 今はもうすでに懐かしい家を思い浮かべると
「ここよりも、ずっとずっと田舎で、なんにもなくて…
小さな小さな村です」
そう言うと、静かにまぶたをつむる。
川に水を汲みに行ったり、洗濯をしたり…
小川のせせらぎに、足を浸したり、
森の中に花を摘みに行ったことなど、
まぶたの裏側に、その映像が浮かんでくる。
「山があって、森があって、小川の水が冷たくて、
小さな魚が泳いでいたり、小鳥とうたったり…」
エラが歌うように言うと
「へぇ~」
珍しそうに、カスミはエラの方を振り向いて
「今どき、そんなところがあるんだねぇ」
幾分羨ましそうに、ポワンとした表情を浮かべる。
「そりゃあ、そうだろう?」
シュウヘイがしたり顔で、こちらを見ている。
「世界は広いんだ。
ましてやエミちゃんは、遠い国から来てるんだ。
ボクたちが、知らないところがあっても、フシギはないだろ?」
そう言うと…初めてエラと出会った時のことを、思い出していた。
まるで未開の国から来たような(しつれい…)みょうちきりんな態度で、
電話も知らない、テレビも知らない、
ウォシュレットに驚き、悲鳴をあげて、
シャワーにも腰を抜かし、
もちろん水道の蛇口も知らず、
ガスコンロにも驚愕し、
洗濯機も、電子レンジも、
冷蔵庫さえ、知らなかったエラ…
毎日が発見で、毎日が驚きに満ちていて、
目が離せなくて、面倒でもあり、手もかかって
可愛らしくもあり、大騒ぎした日々…
いつもハラハラドキドキさせられて、
いつも笑わせてもらって、周りを笑顔にする、ちょっと不思議な女の子。
今の暮らしは当たり前だけど、ありがたいということや、素晴らしいということを
エラを通して、教えられたのだった。
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