「まだ、あきらめることはありませんよ」

 いきなり今は誰もいない、ガランとした広間に、女性の声が響いてきた。

先ほどまでの、たくさんの野望を持った娘たちの、ムンムンとした空気は

そこにはもうなく…

閑散とした大広間には、いつの間にか黒いマントを身に着けた魔法使いが

入って来た。

 

 大臣の息子は、すぐさま腰につけた剣に手をやると、

「何者だ!どうやって、ここに入ってきた!」

ピリピリと警戒した声で叫ぶ。

 するとタガが外れたように、王子がヘラヘラと笑いながら

「この人は大丈夫だよ」と言う。

「なんだよ、怪しいじゃないか」

だが大臣の息子は、腰にかけたさやに手をかける。

「あら、失礼!

ノックすれば、よろしかったかしら?」

魔法の杖を振り回す。

そのとたん、手にかけた剣がフワッと宙に浮かびあがり、

大臣の息子の手から、すり抜けた。

魔法使いは王子に近付くと、

「お待たせして、ごめんなさいね!

 シンデレラはようやく、帰ってきますよ」

王子にささやいた。

 

 シンデレラ、と耳にすると、しおれていた王子の表情が、一気に

明るくなり、

「それは、本当か?」

いきなり飛びつかんばかりに、魔法使いの手をつかむと、

潤んだ瞳で見つめる。

「あらあら、こんなおばあさんでも…

 シンデレラとなると、手だって握るのねぇ」

笑いながら言う。

王子はあわてて、その手を離した。

 

 自分の剣を奪われた大臣の息子は…にらみつけるように

魔法使いを見ると、

「それならシンデレラは今、どこにいるんだ?」

つい詰問口調になる。

「いい加減なことを言うと…ためにならんぞ」

憎々し気に言うと

「さぁ?」

魔法使いは、肩をすくめた。

 

 


 

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