初めカスミの家に来た時には、大家さんの存在を知らなかった。
よく玄関先や、庭で見かける人…という認識で、
また いた…よく働く人だなぁ~と何となく思っていた。
いつもくるくると、朝から晩まで、コマネズミのように働き詰めだった生活から、
突然解放されて、日々の暮らしを楽しむだけのゆとりが出たせいか、
エラにも、やたらと目に付くようになったのだ。
そうして、何となく挨拶するようになり、
すると大家さんも、挨拶してくれるようになり、
どこの人かを知らないままに、何となく気になる人…そんな存在になった。
初めのうちは、このアパートの住人の部屋に遊びに来ている女の子…と勘違いされ、
まぁ、問題がなければいいか、と放任されていたのだ。
そんなある日、またいつものように、大家さんの家の前を横切ると、
自然と掃き掃除をしていた、大家さんの目にも留まる。
「あら、あなた!最近 よく見かけるわね」
挨拶をした後、大家さんが言う。
「あなた、まだ若いんだから、こんなところでブラブラしているの、もったいないわよ」
まるで大家さんは…不登校の女の子が、ここに遊びに来ている、と
思ったようだ。
エラを見かけるたびに、大家さんがそう声をかけるのが、
最近の習い性となった。
「あなた、この近所の子?よかったら、話を聞かせて」
なんだか世話好きの人らしく、エラのことを、放ってはおけないようだった。
戸惑うエラに、グイグイと積極的に来るので…大家さんと話をしているうちに、すっかりエラのことを
気に入ったようだった。