エラの顔を見かけると、突然

「梅ジュース、飲んだことある?」と大家さんに聞かれる。

「梅ジュース?いいえ、それ、なんですか?」

いつものごとく、のんびりとした顔で、エラは無邪気に聞くと

「飲んでみる?」

まるで孫に接するような、優しい顔で、大家さんはニコニコと微笑む。

「手伝ってくれたら…分けてあげるわよ」と言うので

「何をしたらいいですか?」

腰軽く、大家さんの後について行き、梅を洗ったり、漬けたりするお手伝いをした。

 

「これは、前に作ったやつ」

 作業が終わると、本当に大家さんの居間で、ごちそうになる。

「すごい!おいしい!」

少しばかり大げさなくらい、大きな声で感激していると、そんなエラを

大家さんは目を細めて見つめる。

「あんたは、本当にいい子だねぇ。今どき珍しいよ」

大家さんもすっかり、エラのことを、気に入ったようだ。

エラにしても、今まで継母に厳しくこき使われてきたので…

多少のことでは、へこたれたりしないのだ。

なので大家さんのことも、本当は優しいいいひと、という認識で、

すっかりなついている。

 

「もうちょっと、飲んでみる?」

「あっ、いいんですか?」

 他の店子は、こんな風に親し気にしてくれないので…

エラのことが、とても可愛く見えたのだろう…

何かにつけ、大家さんはエラを見かけると、

「みかん、持って行く?」

「これ、おすそ分け」

エラに言づけるようになった。

うまく言えば、世話好き。

悪く言うと、ただただ細かいことにうるさいおばさんだったのだけど、

エラにとっては、慣れてみれば、案外優しくて頼りになる人、と映っていた。

なのでそんな様子を見ると、カスミはひどく驚き、

「あの気難しい大家さんと、仲良くなるなんて…」

信じられない、とつぶやくのだった。

 

 


 

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