カスミがそんなことを考えているとは露知らず…エラは、なんとここは不思議な国なのだろう…と
目を輝かせている。
本来の目的である、早く自分の世界に戻る…ということなど、その魅力にはすっかり霞んでしまうような、
そんな気持ちになってきたのだ。
もっとこの国のことを 知りたい。
もっともっと知らないことを、見てみたい。
そんな風に思うのは、健康な若い女の子としては、もっともなことなのだ。
一方カスミは、『この子は自分の敵ではない』という結論に、簡単に至っていた。
だからといって、エラのことを、まんま認めたわけではないのだけれど…
それでも この子はきっと、悪い子ではない、
きっと何か事情があるのだ…と思い始めていた。
それでも彼女は、カスミの大好きな『お兄ちゃん』を取り巻く女性の1人であることは、
まぎれもない事実なのだ。
そうは思うものの、カスミを今でも苦しめたのは、そんなエラのことを心配して、
今までは1か月に1回か…(カスミ1人の時は、ごくたまにしか、来なかったというのに)
そんなシュウヘイが、前よりも足しげく、明らかにエラの顔を見にやって来ることだった。
「あの子のことが、気になるんでしょ?」
からかうように聞くと
「そんなこと、ないよ」
シュウヘイは笑って言うけれど、いや、違うとカスミはにらんでいる。
女の直感を侮ってはいけないよ、とカスミは思うのだ。
そうして…悔しいけれど、シュウヘイの中に、エラへの同情のような感情が芽生えていることは、
はたから見ても、明らかだったのだ。