「どこへ行くんだ」

 シュウヘイは、エラの背中めがけて、声をかける。

けれどもエラは、振り向こうとさえしない。

扉を開けて、スルリと通りの方に向かって歩きだしていた。

もっともエラ自身…行く当てがあるわけではないし、あるはずもないのだ。

だけども出来ることなら、元の世界に戻りたい。

このわけのわからない世界に、来たくて来たのではない…と、エラは強く思っていた。

 

 するとカスミは、自分が悪者のような、ひどく後味の悪い思いがして、エラを見下ろすと

「出て行くつもりは、ないくせに」と思わず言い放つ。

急にエラは勢いを失い、うなだれて

「そんなこと、ないよ…」

通りから、先ほどまでいた、シュウヘイの部屋を見上げて、エラは力なくうつむいた。

 その間に、ようやくシュウヘイはエラに追いつくと、

「ひとまず、落ち着こう」

肩を軽く触れると、部屋の方へと、エラを連れ戻そうとする。

その時ふと、その足元に視線を落とすと、真っ白な素足が、目に飛び込んできた。

「なんだ、はだしじゃあないか」

シュウヘイの声に、エラはようやく、自分の足元に気付く。

夢中だったので、頭が回らなかったのだ。

服を着替えた後、シュウヘイたちがいないのに気付いて、外に出ると…

カスミたちの会話が、耳に入ったのだ。

自分は、歓迎されていないのだ…とひどくいたたまれなくなり、夢中で部屋を飛び出した。

だけども結局は、行く当てもないので、その勢いを失ってしまう。

シュウヘイになだめすかされ、おとなしく戻って来た。

 冷たい鉄の階段を、足音をたてずに、ペタペタと上がって行く。

「足元、気を付けて…」

 エラのペースに合わせて、ゆっくりと歩き、シュウヘイは優しくその背中を押すと、階段を

一歩一歩上がった。

 

 


 

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