シュウヘイから、とんでもなく世間知らずで、記憶喪失の女の子が来た…というのを耳にして、
カスミは実は疑いの目を向けていた。
もしかしたら、とんでもない策士なのでは…と思っている頃、
エラもまた、先ほどから話題に上っている、カスミという女性が、どんな人なのか…と
気になっていた。
まだ見ぬ人に、それとは気づかず、ライバル意識が芽生えていた。
やはりカスミもまた、エラのことを警戒していた。
この女の子…天然のふりして、実はわかってやってるんじゃあないの?
その目的は、何なのか…
なんでよりによって、幼なじみのシュウヘイに、目を付けるなんて、どういうつもり?と…
少し挑発的な気持になっていた。
(ホント、困っちゃう!
お兄ちゃんは、お人よしだから…きっと目をつけられたんだわ!
これまでも…色んな女が、言い寄って来たのだから)
思わずため息が漏れる。
今回もきっとそうだ、とカスミは思っていた。
たとえどんな女でも、どんなことがあっても、私がお兄ちゃんを守らねば、とそう決意を固めて、
いざ、敵の待ち構える場所へと、勢い込んで向かって行った。
「お兄ちゃんをたぶらかせた…というから、どんな女なのかと思ったら…
なんだ、まだ子供じゃないのぉ」
インターフォンを鳴らして、玄関に入ってくるなり、カスミは開口一番、そう言った。
エラはというと、インターフォンなるものは、生まれて初めてだったので…
これもまた、ちょっとしたパニックだった。
まず、ピンポーンと音がして、
なになに?と思うと、すぐさま「来た来た」とシュウヘイが走って行く。
見たこともない白い箱から、いきなり見知らぬ女性の顔が現れて、
「なに?さっきから、この箱から声が聞える」
うろたえて、エラはシュウヘイの背中に隠れようとする。
インターフォン越しに、
「来たわよぉ、いるんでしょぉ?」
インターフォン越しに、女性の顔が大写しになり、こちらに話しかけるのを見て、
「こ、この箱がしゃべった!
しかも小さな女の人がいる!」
まるでユウレイにでもあったように、怖がるので…
シュウヘイはついにたまらなくなり、ゲラゲラと笑いだした。
「キミって…一体どこの国から来たの?
まるで、江戸時代のお姫様か何かかい?」
珍しいものを見るように、好奇心のこもった眼で、エラを見た。