電話越しに、そんなぬるい空気を感じ取ると、
これはマズイな…
カスミは直感した。
「なに?そのにやついた声は」
電話の向こうのシュウヘイは、何だかとても楽しそうで…
カスミは置いてきぼりを食らったような、何か大切なものを、トンビに油揚げをさらわれるようにして、
横からかっさらわれたような、そんな喪失感を感じた。
それは危険信号の、黄色いシグナルが点滅したように感じていたのだ。
「そんな、とんでもない未開の地から来た田舎娘なんかに…だまされたりしてないでしょうねぇ~
…いいわ!私が見定めてあげる」
カスミが一方的に、まくしたてる。
「お兄ちゃんは人がいいから、だまされやすいのよ!
なんでも、うのみにしてはダメよ」
少しボリュームが大きめの、ハキハキとした声が、受話器の向こうに響いて来る。
シュウヘイは「おっと」と受話器を握り締めたまま、ほんの少し「まいったなぁ」と思う…
カスミが来たら、また面倒くさいことになりそうだ…
シュウヘイは少し身構える。
「お兄ちゃんはね、すぐに目を付けられやすいんだから…
気を付けてよ!」
彼女の声を聴いていると、自分はいつまでも、信用されていないんだなぁ…と
シュウヘイはつくづく、そう思う。
だけど気持ちと言葉はウラハラで…
「はいはい、わかった」
素直に返事をして、余計なことを言われる前に、ソソクサと電話を切る。
一方エラは、電話のことなど、全くものともせずに、ひたすらグッスリと眠っている。
(よっぽど、疲れていたんだなぁ)
電話を切ると、シュウヘイはエラの寝顔を見下ろして、思わず微笑んだ。